2017/08/16 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にオズワルドさんが現れました。
オズワルド > 夜ともなれば、途端に勢いを増すのが此の界隈だ。
呼び込みの声やら、娼婦の嬌声やら、喧嘩の声に野犬の遠吠え。
唯、一歩騒々しい路地を入れば、明かりも仄かな静寂の暗闇と言うのもきっちりと存在する。
人目を忍ぶ逢引きやら、額を突き合せての悪巧みには持って来いだろう。

「分ぁかった、分かったから引っ張るなって。」

そんな路地裏の一角が、俄かにさわさわと沸き立つのは、スラムの台所を任される主婦達の所為だ。
何やら騒動が起きたらしく、ああでもない、こうでもないと其の鼻面をくっ付けんばかりに話し合って居る所、
こっちだよ、と大柄な赤毛の主婦に腕を取られて引き摺る様に連れて来られた、長躯の医師風貌。

オズワルド > 娼婦の一人が風邪を引いたと呼ばれてくれば、路地の角を曲がった所で、丁度良い所に、と有無を言わさず連れて来られたのだ。
序でに偶には遊んだらどうだと酒臭い女衒の吐息を漸く逃れて、煙草に火を点けた矢先の事だ。
お陰で一本無駄にしたと、唯でさえ愛想の無い顔に、益々眉根が寄って居て。

「おい、何が何だ。きっちり説明してから同行の可否を取るのが筋ってもんだろ。」

細い銀の縁を指の関節で不機嫌そうに持ち上げれば、文句の一つが早くも飛び出て。
だが、其処は此の貧民地区に日々を暮らす、最強とも謳われる主婦達だ。文句に怯む所か、よくぞ聞いてくれたと喋る喋る――

「…ちょっと待て。兎に角、せめて、一人ずつ話してくれ。」

一言ずつ区切って、顔の前に掌を見せてやれば、漸く囀り――と呼べるかどうかは兎も角、彼女達も落ち着いて。
お互いに目配せをし合っては、漸く一人が口火を切った。

「…ぁん?幽霊?」

大仰に顔を顰めて見せては、呆れた様に口をぱかんと開けて。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にマリー・テレーズさんが現れました。
マリー・テレーズ > 「はい、たくさんありますから並んでくださいね。どうぞ、暖かいうちに食べて」

今日も今日とてその日の食べ物にも事欠く人々のため、炊き出しにやってきた厳格で知られる女子修道院長マリー・テレーズ。その柔らかな笑みは聖女のようで…実際彼女はそれ以外のことは知らないのだから、当然と言えば当然である。

「さて、食事はこれで足りるわよね…あと他にお困りの方はいらっしゃるかしら?」

食事を配り終え、そろそろ修道院に戻ろうと思い後片付けを始める。他では貧民街特有の賑わいを見せている様子で、もう彼女の役目も終わったかのように見えた。

「では皆さん、また明日も来ますからね」

そう優しく微笑むと物乞いたちは濁った眼差しを彼女に向ける。だがそれが決して尊敬を意味しているとは限らないのだが、幸か不幸かマリーは人の悪意にはあまりにも鈍感だった。

「…あら?」

どこかで騒ぐような声がする―いや、乱痴気騒ぎはいつものことだがどこか勝手が違うような…マリーはふと不安を覚えて周囲を見回した―

オズワルド > 「あ――…、と。」

表通りの光が届かぬ路地裏で、主婦達が鬩ぎ合っている。
幽霊よりよっぽど怖いと内心思ったが、口には出さぬ程度の懸命さ位は此の医師風貌も持ち合わせていて。

「頭痛がして来たから、帰るわ。」

お待ちよと、とがっちり腕を掴まれれば選択権も何も無い。
要するに彼女達の視線の先にある小さな廃屋で夕刻、
彼女達の子供の一人が見知らぬ人影を見た気がすると言うのだ。
確かめに行くのも女達では余りに心許無いとしていた所、此の男が捕まったと言う訳で。

「勘弁してくれ…どうせ、見間違いか何かだろう。」

何とか解放される手立てが無い物かと視線を巡らせた所だ。
周囲を見渡す視線と丁度克ち合って。
其の視線の行き先を何と無しに追っていた主婦の一人が佇む姿に気付いて声を上げる。おや、ありゃ院長様じゃないか、と。
炊き出しに来る姿を見覚えていたらしい彼女は、修道女姿の女性を見付けると数歩歩みを寄せて。
――院長様、どうかお知恵をお貸し下さいな。此の先の廃屋に幽霊が出るんですよう、と声を上げる。

マリー・テレーズ > 言い知れぬ不安を抱えたまま騒ぎのする方に向かったマリーは、突然女に突拍子もないことを訴えられ思わず硬直してしまう。

「幽霊、ですって?」

幽霊―そんなことを言われても、と彼女は困惑する。マリーはただの人間だ。それに彼女自身、今まで幽霊の存在は単なる民間伝承だと思っていた。なにせ修道院の外の世界をまったく知らないのだから、噂話の類にも無縁だった。

「落ち着いてください。死者は必ず神のもとへと召されるのですよ…幽霊だなんて、きっと見間違いですよ。そんなに心配でしたら廃屋を私と見に行きましょう、きっと、なんでもありませんから」

そう諭すが女だけで廃屋に行くのもどうしたものかと頭を抱えそうになった時、長身の男の姿を認めた。

「あ、あの…そこの紳士の方。この女性とはお知り合いですか?」

知り合いなら幽霊なんていないから、と説得できるかもしれないと思いつつ声を掛けてみた―