2017/03/24 のログ
マティアス > そうだね、と。曖昧な笑みを以て相手の言葉に同意を示そう。
野宿と一言で言うが、此れもまた考えている以上に劣悪な状況でもあるだろう。
屋外で快適に就寝するとなると、この時期だと防寒や熱源の確保等、求めれば求める程条件がきりがなくなる。
寝床の確保で喧嘩になることだって、あるだろう。
誰もが好き好んでその場に住まうワケではない。生き足掻くことに手段を選んでいられない。

だが、それでも、だ。せめて安らかなる死を迎える自由位はあるだろう。

「うん、彼らもそうだし、他ならぬこの僕だってそうだね。だから、炙り出してみよう――と言うわけだ」

そのためにはこの仕込んだ札の陣の真ん中に移動し、儀式を行う必要がある。
移動するための手間を省く。束の間の浮遊感と夜の空に吹きすさぶ寒風に身を揺らし、至るのは古びた二階建ての住居の屋上。
平たい屋根の屋上は、意外と踏みしめてもしっかりと良くできている。
この下なら、嵐が来ても風雨を凌ぐ避難場ともなっただろう。だが、人の気配はない。ガランドウのまま。

「じゃ、一丁やってみようか。
 
 我――四方を封じ、天地を定め、威を以て束ね統べる。
 ……顕れよ。其は見えざるもの。隠れ潜みて貪るもの。淀む帳を我は打ちて払い、あるがままを此処に晒さん!」

手を放し、一歩前に進みながら両の手を顔の前で高く打ち合わせ、高らかに謡う。
限定範囲内の邪気を地脈から借り受ける魔力を札に籠めた呪力で増幅し、打ち消したうえで昇華する。
キィン、と軋むような音が響いた後にきっと、霊感に欠ける人間でも分かるだろう。鬱々と立ち込めた気配がこの区画だけ、軽くなっていることが。
初戦は一時的なものだ。空白地帯にやがて邪気が流れ込み、また同じようになる。だが、それでも分かるものがある。
邪気の澱みに紛れ、闇に潜んで人を引きずり込むナニカの気配。払っても尚凝ってあるモノの存在感。
 

エアルナ > 「ええ――あぶり出しでもなんでも。私に協力できることなら、お手伝いします、マティアスさん」
冒険者としての経験は彼ほどないかもしれないが、魔力自体はそんなにひけをとらないくらいは備えているつもりだ。
同じ、精霊の血筋の末裔としての…恩恵。

そして。展開する邪気払いの儀式、反応する気配の変化。
明らかに軽くなった空気のどこかに…潜む、よどむもの。
「…ありますね、澱んだ何かが…」
あるのか。いるのか。
小さな声で告げると、その方向と大きさを探ろうと感覚を研ぎ澄ます。
白狼の耳がピン、とたつ。

マティアス > 「ははは、僕みたいな人間に何でも、とは言うもんじゃないよ。危ないよ?
 ともあれ、では……獲物の位置の特定はお願いするよ。なに、思ったより直ぐに分かるはずだ」

多少は能力はあっても、人品の面で優れているとは言い難い。自身をそう定義する。
遠慮なく貪ることもあるし、今のように教え諭す意味で伴うこともある。
だが、お互いの共通項はある。血筋に由来する魔力。そして、何よりもそれを扱うに足る才能、センス。

「やはり、ね。――では、射貫けるかな?」

ほう、と。その言葉に頷きつつ感覚を研ぎ澄ます姿を見遣ろう。
感じ取れる気配は、二つ、否、三つあるだろう。
曇天の夜空の隙間より、僅かに差し込む月光が路地にかかれば、より顕著だろう。
際立る影と影の間を縫うように地面を這う、まるで沼のような闇の凝りが。

いわば、足を踏み入れてしまった哀れな者をつま先から貪り喰う、局所的な底なし沼。
ヒトの血肉以上に生じる嘆きや恐怖等、俗に云う負の感情を滋養として肥える魔なるもの。
地を這うそれはこの足場にしている建物の直ぐ真下、二、三軒離れた建物の間の細道を進む。

エアルナ > 「…危ないのは場所によるんじゃないですか?」
ぼそり、つぶやくのはちょっぴり揶揄まじりに。
特に夜だが、それはまぁ口にはしない。
だが人として大切なものはちゃんと持っている人だと、そう信じている。

「…動いています、ね。1…2…いえ、3つです。方角はーー」
感知する気配。邪悪といえないまでも、清浄とは程遠いモノ。
建物の上から見下ろせば、よくわかる位置にいる。
ずるずるとうごめく闇のよどみ。

「あちらとーーそちら。一番大きいものは、あそこに。
射貫いていいなら…」
指を組む、まるでその掌が弓であるかのように。
建物の間、細道を行くその闇に向け。紡いだ魔力を、放つ。

【月の光、銀の矢となり、澱みを撃てーー】

マティアス > 「もっと言うなら、時と場合によるかもしれないね?」

一瞬、明後日の方向を見てとぼけておこう。
この時期の外で盛れるほど、色狂いではない、はずだ。多少は節度はある。

「――さすがだね。僕と同じ気配の数を数えているなら、十中八九間違いはないだろう。
 勿論だとも。討滅してくれていい。闇に隠れて、人を貪るものならば遠慮なんて寧ろ生温いよ」

目を瞑りつつ、小さく頷いて魔力の働く気配と邪気の動きを脳裏に思い描く。
隠れ蓑としていた気配が失せて、右往左往する魔物はやがて下手人や獲物を探すだろう。
捕食し、副産物として生じる怨嗟を呼び水として邪気を育て、自分にとって都合のいい領域を作るために。
だからこそ、滅ぼすべき時は今である。射貫かれる気配が、啼く。

『――――!!』

貫かれた闇が軋るような悲鳴を上げ、ぞろりと起き上がる。黒い闇色の血肉と赤い目を持つ、歪なヒト型の姿を取る。
赤黒い血液を射貫かれた箇所より零しつつ、腐乱死体とも見えるそれらが自分達の気配を見つけ、走る。
3体の魔物が、自分達のいる場所へと這いあがってくる。
包囲するように前傾姿勢で立ち止まり、向ける飢餓と怨嗟に満ちた眼差しを受け止めて剣を引き抜こう。

エアルナ > 「そうかも、しれませんねーー」
追求しないでおこう、今は。あのよどみを何とかする方が、優先事項だ。

青年の頷きに、月の光を紡いで作られた銀の矢が飛ぶ。
闇と光は対であり、それだけ属性の効果も高い――さすがに一撃で倒れるほど、甘くはないようだが。
闇色のいびつな人型へと変じて、建物の外壁を這い上がり、こちらを襲うつもりなのは素人でもわかるだろう。

「来ました、ね」
ウウウ、と白狼が低くうなり牙をむく。近づけば噛み割く気なのは見るだけでわかる。
その後ろで両手に光を宿し―ー剣を抜く青年を見て。

「左右のは、私が」
少し小さめなのは、魔法でたたきます、と告げる。

マティアス > 自分もまた、余計な戯言を付け加えて引き延ばすことを今は望まない。
余裕を持って戦えるが、慢心が死を生むことを知っている。全て討ち果たす時まで、けして気は抜けない。
闇に対する存在として、光がある。しかし、光を嫌うからと言ってそれが致命的な一撃と成るには今少し足りない。

「頼んだよ。では、僕は此方を討ち滅ぼそう」

言いつつ、自分の正面に位置する魔物を見遣ろう。それも、残り二体もその牙と爪を剥き出しにして唸る。
だが、唯それを武器にするだけではない。一番強力にして確実な攻撃手段としては、間違いない。
飛び掛かってくる。その姿に向かい、下段に提げた白銀の光を纏う聖銀の刃を切り上げ、打ち払おうとしてゆく。
されど、それだけでは滅ぼせない。ギィ!と啼いて、一瞬その輪郭を揺らめかせる。
影に潜むモノが、闇に溶けないと誰が言えるか。闇と同化し、単なる物理的な打撃を無効化する――、否。

「――その判断は、間違いだ。……剣よ、撃ち祓え!」

魔力を込めた銀の刃がその輝きを増す。高められた力が、闇に溶けてあやふやになった存在をかき消してゆく。
一気呵成に斬り進めば、分断されたモノが闇色の靄に変じ、ぱっと弾けるように消失する。
残るのは、ぼたぼたとその場に落ちるタールの如き残滓だ。風と光に晒されると、すぐに消える程度のもの。

エアルナ > 「はいっーーお願い、します」
青年が剣を構える。その腕はすでに知っているし、銀の刃の威力も経験済みだ。
だから、…自分は両の掌に月光を集めて宿す。

【月光よ、わが手に宿り打ち払う刃となりてかのものを撃て】
狼が二体を威嚇し、距離を詰めさせない間に。
白金の輝きが魔力とともに編みあがり、槍の穂先のような刃の形を形成する。

そして。
気合を込めて同時に放てば、その輝きはまごうことなくーー二体の闇のよどみに突き刺さり、切り裂いていく…
かすかなうめき声を残して靄になり、風に吹かれてちりじりになっていく澱み…

見届ければ、ようやくほっと安どの息をつき。
「…これで、終わりですよね?」

マティアス > いずれも、倒し方を知っていればどうにかできるだろう。
ただ、御膳立てが出来なければこのように目に見える形で、討つことは叶うまい。
単なる獣ではなく、少なからず知性を持ち合わせている異形の存在だからこそだ。
この場に潜む魔物たちにとっての不幸とは、まさに燻り出し方と滅ぼす力を併せ持つモノと遇ったことに他ならない。
狼が前衛を張り、牽制するところに魔法を以て滅ぼされれば、残る邪気は薄れて、大気と等しくなる。

一先ずは、これで安心だろう。一瞬瞑目して怪しい気配の有無を測ったのち、安全と判断して剣を戻す。

「お疲れ様。うん、これでこの場もしばらくは安心だろう」

腰の鞘に剣を収め、労いの言葉を投げたのちに肩を竦めよう。
また、程なくこの場にも邪気が流れ込んでくるだろう。それでも、少しでも過ごしやすい場にはなる。

エアルナ > 「しばらくでも…安らげる場になれば。弱い者たちも少しは安心してすごせますよね」
根本的な解決ではないにしても、だ。
なにもしない、できない、そう嘆いているだけよりよほどよい。

「ありがとうございました、マティアスさん」
貴方のおかげです、と感謝を込めて微笑みかける。
ささやかでも、今夜の成果は心地よいーー

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からエアルナさんが去りました。
マティアス > 「まあ、少しの間ではあるけれどね」

弱いもの、か。その響きに複雑げに口元を歪めつつ、頷こう。
立ち位置や考え方故の言葉は難しい。
根本的な解決ではないが、自分の修行の一環であり、他者を餌とするものへの嫌がらせという点においては意味がある。
慈善活動でも、高貴なる者の義務でははない、実に私意に満ちた行為であるが。

「――礼の必要はないよ。これは、僕の流儀に基づいたものだからね」

ゆるりと首を振って、背を向ける。自分のこの考え方と彼女の思考のずれは今は、指摘しない。
いずれ気づくのかどうか、それはいつかどこかで直面するのかはまた別の話で――。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からマティアスさんが去りました。