2015/12/15 のログ
ヘレボルス > 「月だ。満ち欠けが、多少なりとも身体に出るんだと。
 僕のせめてもの魔性だ」

然したる問題もなさそうに言って、ヴァイルの足元で蛙が潰れるのを無感動に見ていた。
足元を小さな生き物たちが通り過ぎてゆくのを見過ごしながら、先ほどイモリを踏み掛けた靴底を確かめた。

「ただでさえ汚ねえ道で、これ以上靴を汚したかないね。
 それに、僕は人間のツラがあった方が好みだ」

汚れのないことを認めて、足を下ろす。

「魔法使いってのは羨ましいね。
 そーやって人の姿変えて、好き勝手遊べるんだもんな」

ヴァイル > 「楽しそうに見えるか?」

薄ら笑いのままそう短く返事をする。
弱い者いじめにも飽きたのか、それ以上生き物たちをいたぶる様子は見せない。

「なんでも人間というのは満足に養育もできないのに
 まぐわっては薄汚い道端に産み落としているらしいな。
 《夜歩く者》に言わせればそっちのほうがよほど贅沢な遊びだ……」

穴を穿った蛙の死骸を適当に振り払って捨てると、
こつこつとヒールを鳴らしながらヘレボルスへとゆっくり歩み寄っていく。

「互いに暇そうだな。
 何かおれの退屈を紛らわせてみろよ」

一回りほど小さな背丈の少年が、ヘレボルスの顔を覗き込むように見上げた。

ヘレボルス > 「見えない。
 お前、よっぽど物好きそうだし」

目を伏せる。

「育てるつもりもないんだろ。
 少なくとも僕はそうだ」

歩み寄ってきたヴァイルを見下ろす。
唇を結んで、しばらくその顔をじっと見ていた。

「退屈を紛らわせろって?我侭な坊ちゃんだな。
 僕はお前のシュミなんか知りやしないぜ」

言うが早いか――右手が長剣を抜く。
ヴァイルの右の脇腹から肩口目がけて、掬い上げる一閃。
寸止めや威嚇ではなく、斬るための動き。

ヴァイル > 「なんだわかったか。
 ……たぶんおまえで遊ぶほうが楽しいよ、灰かぶり」


ヘレボルスの視界から一瞬ヴァイルが消える。
刃のかすめた髪がちりと数本宙を舞う。

「その遠慮のなさ、嫌いじゃない」

ヘレボルスの足元、ほとんど寝転がるように身を沈めた体勢。
極めて低い体勢から、ヘレボルスの脚をすくう蹴り。
命中し体勢を崩すなら、さらにもう一撃を腹へ加えるだろう。

ヘレボルス > 「お前こそ、僕を愉しませてみろよ」

ぶれのない切っ先が風を切る。
腕を引き、次の一撃へ繋げようとしたところで足を掬われる。

無様に身体が浮いたように見えた一瞬。
陰の落ちたヘレボルスの顔――その碧眼が、ヴァイルを確かに見ていた。

受け身を取るよりも早く、腹への一撃。
鎧の板金を撃つ音が響き、地面を転げて即座に立ち上がる。
おえ、と品のない声でえずいた。

「本当に魔族なんだな、お前……馬鹿力しやがって。
 ――把握した」

笑う。相手と似たり寄ったりの尖った歯が覗く。
低い位置から踏み込み、ヴァイルの懐へ。
その腹へ向けて、長剣の突きを繰り出す。
刀身が一瞬ばちりと光るや否や、刃先が紫電の茨を纏った。

ヴァイル > 「この程度で驚いてもらっては困る。
 今のはただの小手調べだ」

低い姿勢からの真っ直ぐな突き。
カウンターを取り叩き潰すのは容易い。だが紫の雷光を認め、目つきを変える。

「ほぉ。普通に斬ったり突いたりするよりはいいと思うぜ」

短く息を吐いて跳び上がる。かすめた紫電が微かな痛みをもたらす。
跳んだそのままでは隙だらけだが、さらに路地を挟む家屋、その窓枠の突起を指で掴む。
そこを手がかりにして水平に身体を振り、ヘレボルスの首を刈り取らんばかりの大振りな蹴りを放つ。
ぶん、と風を切る音。
まともに受ければ悪くて首の骨が折れ、良くて昏倒だ。

ヘレボルス > 雷光は詠唱を伴わず、また途切れることもない。
振るわれた長剣は、変わらず紫色の光を放ち続ける。

「そんなこったろうと思った。
 油断してらんねーって意味だよ」

紫電がヴァイルを掠めるが、ダメージには至らない。
突きもまたヘレボルスにとっては様子見だったと見えて、退くのは早かった。
地を踏んで足を止め、跳躍したヴァイルの足先から顎を引く。

背を反らして蹴りを回避し、素早く身を起こす。
自身も壁を蹴って飛び、ヴァイルの身体が宙にある隙に、胴を狙った袈裟斬りを放つ。

ヴァイル > 蹴りのスキを突かれた。
優れた身の捌きを見せたヴァイルだが、宙にあってはさすがに満足な回避行動は取れない。
体勢を立て直すのが間に合わず、袈裟斬りを受ける。

「……!」

切り傷よりもむしろ、傷口を伝う稲妻に顔をしかめる。
着地し、さらに飛び退り、刃の届く距離からはどうにか逃れた。
深手には至らないが、切り裂かれた胴からは朱が飛び散る。

“人間のような戦い方”では――これが限界かもしれない。

「……思いの外いい動きだ。なかなかおもしろかったぞ。
 まだやるか?」

傷を負っているというのに、余裕ありげに目を細めて笑う。
僅かに身にまとう気配が変わる。
ゆら、ゆらと柳のように華奢なヴァイルの身体が揺れ始める。まるで無防備な動きだ。

ヘレボルス > ヴァイルの散らした血が、ばたばたと地面を汚す。
ヘレボルスも、たった一撃を見舞わせたきりで感動するほど初心ではなかった。
猫のような着地に、鎧が武骨な音を立てる。

片膝を落とした姿勢で、ヴァイルを真っ直ぐに見据える。
鋭い眼差しは、平素の弛緩したそれではなく、いかにも剣戟によってのみ生きる傭兵を思わせた。

「中折れしたようなこと言ってんじゃねーぞ、種無し。
 この程度で紛れるほどの退屈でもねえんだろーが?」

相手の言葉に不敵に笑む。
その顔は、決して油断から表れるものではなかった。
魔族が発する気配の変化を察知して、それでも尚。

立ち上がり、長剣を構え直す。
ひゅん、とひとたび切っ先が風を切って、魔力の雷光が淡い残像を残した。

先ほど腹に食らった一撃の余韻を唾に絡めて吐き捨て、短く鋭い息を吐く。
再び地を蹴る。薄暗い路地に、横薙ぎの刃が煌めく。

ヴァイル > 「一番楽しい時に終わらせるのもいいかと思ってな。
 ……きっとこれからつまらなくなるぞ、このじゃれ合いは」

口に空いた手を宛てがい、咳き込むような笑い声を漏らす。

しかし刃の白光を前にして、ぴたりと笑うことと揺れることを止める。
果敢なる一撃がヴァイルをえぐる寸前。
きん、と硬質なものどうしがぶつかる音。
いつのまにかヴァイルの手に現れていた小振りな紅の剣が――ヘレボルスの剣戟を受け止めた。

「《血の刃》――《夜歩く者》の伝統的な闘法だ」

鍔迫り合いのまま、紅の剣がゆるやかに溶けるように形を崩す。
それは《夜歩く者》の流血の変じたものだった。
再び液状となったそれは、ヘレボルスの剣を伝い、
腕を目指し、荒縄の如く縛り付けようとする!

ヘレボルス > 「…………、だろうな。
 僕に魔族の搦め手を突くほどの力があればよかったが。
 何よりこのままでは――僕の気が晴れないんでね」

言って、飛び込んだヴァイルの間合い。
深紅の剣が、長剣を受け止める。
自分の攻撃を受け止める手段など、相手にはいくらでも存在することを予期してはいた。

間近で向き合う顔。
拮抗する鍔迫り合いの最中の、ヴァイルからの静かな声はヘレボルスを苛立たせた。
歯を噛み締めて笑う口の端が、わずかに強張って歪む。

「余裕綽々の声しやがって……、!」

がくん、と身体が揺れる。
意志を持ったかのような流血が、剣を伝って自らの腕へ伸びる。
拘束するほどの圧力を持つそれに腕を取られて、ヘレボルスの動きが止まる。
剣を取り落とすまいと柄を握り直し、踏み止まった。

「悪趣味」

一言嗤って、縛られた左手の指先が辛うじて血の縄に触れる。
ヴァイルへ届かせんとするべく――果たして足掻きとして適うかは判然としないが――血を伝わせるように、紫電を発する。

ヴァイル > ヘレボルスの腕を剣ごと縛る血を伝い、紫電は確かにヴァイルへと届き、表情を強張らせる。
変幻自在の《夜歩く者》にとって切断や刺突はさほどの損傷にならないが、熱や稲妻であれば話は違う。
だがヴァイルはそれを耐え凌ぎ、腕を拘束する血の力を、
骨を歪めんばかりに強める――激痛で心を挫くために。

「どうしたその貌は。おれを誘っているのか。
 おまえに苛立ったり憤ったりするような、上等なことができるほどの心があるのか?
 なあ、灰かぶりよ」

高らかにあざ笑うヴァイルの血の縄はヘレボルスの腕を生き物のごとくに這い、
首へと至り、その尖らせた先端が首筋の皮膚を弄ぶように軽く突く。

ヘレボルスの両の手首を掴む。
すでにヴァイルの手には剣の形はなかった。
石膏像に紅い宝石を嵌め込んだような相貌が、ヘレボルスの息のかかりそうなほどに近づく。

「おまえの手妻はもう終わりか。
 ……さて、どうされたい」

楽しげに囁くように尋ねる。

ヘレボルス > 締め上げられた腕が軋む。
喉の奥から、か、と吐きこぼすような声が漏れたが、悲鳴にはならなかった。
両足が地面をきつく踏み、振り解こうとするも腕はびくともしない。
肌を突く血液の棘から逃れるように首を傾ぎながら、ヴァイルを見据えて尚も笑った。

「は。僕は僕以外のものが嫌いなだけだ。
 理屈などない」

手首を掴まれる。剣も、掌から発する雷撃も封じられた。
間近で向き合った少年の額に、ごつりと鈍い音を立てて自らの額を触れさせる。

「誘っているように見えるのか?
 なら僕は、よほどお前の愛人向きだな」

嘯いて、額を放す。
端正なつくりの口をばくりと開き、獣めいてヴァイルの鼻に咬み付こうとする。
手首を掴まれた格好のまま、もはや相手を押し倒さんとする勢いだった。

ヴァイル > 「躾が足りていないね」

歯が、ヴァイルに届く寸前で咬みあわされる。
ヘレボルスの首へ回った血液が、がっちりとそれを宙に固定していた。

「おまえのそのささくれだった尊さを台無しにする。
 それがおれの役目さ」

陶然とした表情と声。
抱きつくように身を寄せ、鎧の上から愛おしむように腰を撫でる。
血の拘束がその時緩み、代わりにヘレボルスに甘く波打つような感覚が押し寄せる。
被服が肌に溶け、四肢が縮み、ふさふさの体毛が生え始め、両足で立つ事が難しくなる。

「やはり愛でるなら犬だ」

紅い瞳が妖しく揺れる。
ヴァイルから離れることがかなわなければ――
その腕に収まるような大きさへと変わってしまうだろう。

ヘレボルス > がつんと鈍い音がして、噛み合わせた歯を食い縛ったままヴァイルを睨む。

「足りるどころか……、躾を受けたことは一度もないね」

眼光は依然として鋭さを保っていたが、透き通るような肌理を台無しにするほどに荒れた額には、脂汗が滲んでいた。
もがいて背を反らし、湧き上がる痺れに肩を跳ねさせる。
可能な限り背けた顔から、あ、と掠れた声を漏らした。

「………………!」

波打つ痺れと柔らかな毛皮が齎す掻痒感に抗った末、がくりと力なく折れた膝がやがて縮み上がって地から離れる――

――やがてヘレボルスと同じ、輝く白金色の毛並みをした犬の姿に変じきって、ヴァイルの腕の中で激しく身じろぐ。
何らかの言葉を発そうと開閉を繰り返す口から、荒っぽい息遣いと涎の滴が零れた。

ヴァイル > 「ならおれが躾をしてやらないとな」

すっかりと変貌してしまったヘレボルスの姿に表情をほころばせる。
その笑顔に、人の姿であったころのヘレボルスへと向けていた嘲弄の類は感じ取れない。
身じろいで暴れる白金の犬を、正面から胸で視界を覆うようにして抱きしめる。
痛みを与えるほど強くはないが、逃れることを許さない程度にはしっかりと。
その体勢で地べたに腰を下ろす。

「そう怯えるな。痛かったり苦しいことは、なにもしやしないさ。
 ……そのほうが、いやだろ?」

なだめるような優しげな声。
輝く毛並みにそって手を動かし、耳の後ろや尾の付け根を撫でる。
犬の喜ぶ触れ方をよく知っている者の手つきだった。

ヘレボルス > 牙を剥いてヴァイルを見据える顔は、元のヘレボルスそのままの表情をしていた。
前肢をヴァイルの胸に突いて身体を引き剥がそうとするが、当然のように逃げることは叶わなかった。
小さな犬の身体で激しく動いたことで、急激に疲弊した心臓の拍動がヴァイルの腕にも響く。

犬ならではの短い息遣いをしながら、彼からの言葉に口を噤む。
ヴァイルの『退屈を紛らせろ』という求めと、ヘレボルス自身の『自分を愉しませろ』という要求。
それらに観念したかのように顔を逸らし、呼吸を整えようとする。

ヴァイルの手が肌に伸びて、身体が強張る。
驚いて震わせた身体は、ヴァイルから逃れることはなかった。
手が身体の上を滑るたび、ふす、と息を吐いて目を細める。
腰を下ろしている相手の太腿の上に足を突き、その腹を嗅ぎ回る。
先ほど自分が斬り付けたあとの、血の痕を鼻先がなぞった。

ヴァイル > もがく犬の様をも愛おしむような眼差しを、ヴァイルは向ける。
手当をした素振りもないのに出血はとうに止まっており、
服の上からではわからないが傷は完全にふさがっていた。

「そうだ。それでいい。
 牙を剥いて吠えてばかりでは疲れるよ、灰かぶり」

おとなしくなった白金の犬に、抱く力を少し緩める。
穏やかな表情を浮かべたヴァイルの姿は、傍から見れば邪気なく犬を愛でる少年でしかない。
暖かく柔らかい毛並みを楽しむように、顔を埋めてゆるやかな手つきで撫で続ける。
時折脚の付け根やら腹やらを悪戯するように軽く揉んだり、
首や背に啄むような親愛の口づけを落としたりしながら。

ヘレボルス > 血の匂いを嗅ぐヘレボルスの鼻が、一瞬止まる。
そこにもはや新たな血を噴き出す傷のないことを、嗅覚が察知したのだった。
ヴァイルの手が自分を害することはないと知って、些か人間めいた仕草で諦めたように首を振る。
尻尾が知らずとぱたぱたと振れていた。

犬の姿であっても、その身体は雌雄を共に備えていた。
口付けを落とされると、鋭敏になった嗅覚でヴァイルの匂いを探して彼の首筋へ鼻先を埋める。
元のヘレボルスの、快楽を貪る性質そのままに、乞うようにヴァイルの頬を舐める。

心地良さを煽られるまま、焦れるような息を吐いた。

ヴァイル > 「素直だね」

あやすようにぽんぽんとヘレボルスの頭に手を乗せる。
犬の見せる素振りが艶めいた色を帯び始めたことを悟ると、小さく頷く。
抱いたまま、指が毛皮の奥、両脚の間へと忍び入る。
そこに秘されている、鞘に収められた膨らみを指先でくすぐった。

「いいよ、気持ちよくなって、おれの手の中で……」

ヘレボルスの晒す無防備な姿を、咎める気配もない慈愛の感じられる声。
きゅうと、手に収まるほどのそれを軽く握ってやる。

ヘレボルス > 人間であれば減らず口を叩くところで、代わりにわふ、と小さく鳴く。
ヴァイルの腕に擦り寄り、雌のように身体を摺り寄せたと見るや、雄のように浮足立って身体を震わせた。

股座に滑り込んで探る相手の指に、小さな性器を擦り付ける。
ヴァイルの手の中で次第に充血し始めるのに併せて、後ろの孔もまた発情した雌の如く、ふくりと柔く膨らみを帯びてゆく。

相手の腕に、圧し掛かるように抱き付く。
組み敷く雌も、受け入れる雄もないままに、ヴァイルの指の隙間を膣と見立てて腰を擦り付けた。

ヴァイル > 腕は変わらずヘレボルスを抱き続ける。
ただ撫でることしかしなかったころと様子にほとんど変化なく、ごく自然なことを行うように。
まるで幼子に対するように、発情を受け容れ、手が慣れたように獣の局部を捏ね、慰める。
その欲の鎮まるまで――

……

そうしてしばらくの後、一連の行為が終わると
またな、と小さく耳元で囁いてそっと犬の身体を解放し――
路地をすみやかに去ってしまう。
ヴァイルも、ヴァイルのいたぶっていた小さな生き物もおらず、
路地にただヘレボルスのみが残される。

ヴァイルの与えた変化の呪いは、しばらく経てばなくなり、
元の姿を取り戻すことだろう。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地裏」からヴァイルさんが去りました。
ヘレボルス > ヴァイルただひとりに縋るように、犬さながらの体勢で腰を振る。
熱を含んだ陰茎の先が次第に潤み、息んだ瞬間に相手の手のひらの上へ精を吐き出す。
切れ切れに、脈動に合わせて何度も。

――獣の長い射精を終えると、目を伏せてヴァイルの腕へくたりと凭れ掛かる。
人の身体よりもずっと優しく横たえられて、片目で去りゆくヴァイルを見上げる。
打ち捨てられた野良犬のように、そのまま目を閉じた。

そうして呪いが解ける頃――
路地裏に人の姿はなく、ただ静寂と、交わりの痕だけが残る。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地裏」からヘレボルスさんが去りました。