2022/05/07 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にタマモさんが現れました。
タマモ > 王都マグメール、貧民地区。
王国にある三つの地区の中で、最も治安の悪い地区だ。
とは言え、少女にとっては、どの地区も変わらない。
その地区それぞれの、楽しみと危険があるのだから。
…まぁ、少女自身が、ここで起こる危険の元凶の場合もあるのだが。

もっとも、本日みたいに、屋根の上を伝い、移動している場合。
少女が危険の元凶、となる場合が多いだろうか。

たんっ、と屋根を蹴り、次の屋根に跳び移る。
いつものように、下に向けられた視線は、表通りから裏通り、色んな路地へと向けられていた。
もちろん、少女にとって、面白そうな場所、楽しめそうな相手、それらを探るもの。
何も無ければ無いで、帰り掛けに、何か美味しいものでも買って帰ろう。
そんな事も、頭の片隅に考えながら。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にセルウィさんが現れました。
セルウィ > 貧民街の片隅で、少し小走りで道を進む少女の姿。
蒼銀の髪を靡かせて、少し仄暗い路地の中では、その紅の瞳の輝きがクッキリと浮かんでいる。

彼女がこの貧民街の路地を駆けているのは何てことは無い、依頼からの帰り道。
危険を避ける彼女は主にその平民街で宿をとるが、それでも道すがら貧民街は避けられない。
故に、依頼帰りの際にはこうして小走りで、人目の付かない路地を早めに駆けていく。

何よりここ最近は食い扶持が増えたこともあり、依頼を受ける頻度も増えた。
こうして貧民街を通り抜ける少女の姿を見かけることも増えていた。

タマモ > ぴくん、耳が揺れる。
その動きは、変わった音を聞き取った時。
そして…面白そうな何かを、見付けた時に、揺れる。

「おや、あれは…」

そう、最近、何度か見掛けていた少女。
そして、そんな少女の姿は…人気も疎らな、路地の中。
それを確かめれば、自然と、笑みが浮かぶ。

少女の動きを瞳で追い、より人気の無い場所に。
そこを狙えば、たんっ、と屋根を蹴り、夜空に舞い上がる。

その着地先は、もちろん…少女の正面。
さて、どんな反応を見せてくれるだろう?
そして、どんな事をしてみようか?
そんな事を、楽しみ考えながら。

セルウィ > 「わひゃぁっ!?」

駆けていた少女の目の前に現れた小柄な…それでも、少女からすれば少し見上げる程の人影。
はらりと着地の慣性で揺れる、その耳が少し特徴的で、視線が向かう。

少女は当然、突然現れたその姿にまず声を上げて驚いた。
思わず、駆けていた足も止めて飛びのくほどに。

「え、えと…あ、あなたは…?」

それから数瞬、改めてその姿を見返して…驚きの落ち着かぬまま問いかける。
こんな場所で急に自身の目の前に現れて、果たして何か己に用事でもあるのだろうか、と。

タマモ > 目の前に着地をすれば、当然だが、驚く少女。
上がる声に、うんうんと頷きながらも。
すぐに、その視線を少女へと向ける。

うん、改めて、こうして見ると、可愛らしい女子だ。
上から下へと視線を向け、それを確かめるように。
そんな事をしていれば、当然掛かる声に、ぴくり、と反応し、耳が、尻尾が揺れる。

「お、おぉ、そうじゃった…」

こほん、その言葉に、一つ咳払いをすれば。

「お主のような可愛らしい女子が、こんな場所で一人で居るものではない、とな?
その注意を、言いに来たついでに…
………どうなるか、教えようと思うてのぅ?」

とりあえず、名乗りは後回し。
聞きたいだろう、ここに来た、その理由を伝えるのだ。
純粋に、少女を心配しての言葉、のように聞こえるも。
後の言葉、それが理解出来れば、そうでは無い事に気付けるだろう。

セルウィ > まず初めに感じたのは、背筋に走る仄かな寒気。
目の前の相手はどこか異国然として装いであるが、麗しい少女に見える。
しかして、其処から感じるものは、どこか恐ろしい。

小柄ながらも豊満な己の肢体を、観察されている、仄かな感触。

「親切心…ってこと…?
……それとも――」

そしてそれは、続くように咳払いの後にかけられた言葉で確信に変わる。

確かに、このような場所は一人で来るような場所ではない。
このような危険な場所では、何が起こっても可笑しくなければ、襲われても不思議ではない。
そして、その上で”教えよう”と言うのであれば、意味することは一つ。

最大限の警戒を向けながら、紅の瞳が相手を射抜く。
いつでも、何をされても対応できるように身構えながら。

タマモ > あ、やっぱり気付いた。
己の言葉、それに対する、少女の雰囲気の変化。
心の中で、そう呟きながら。
視線を少女の体から外し、その瞳へと向ける。

「ふむ…それとも?」

続き、少女へとそう問う。
ゆっくりと、ゆっくりと、少女へと歩み。
そして、ふと、その視線を、意味あり気に少女の背後へと向ける。
当然、ここに来ていたのは己一人。
しかし、そんな偽りの行動に、少女が引っ掛かり、背後に注意を向けたならば。

その隙を狙い、次の瞬間、己の姿は少女の目の前。
接近が叶った場合、一瞬感じるのは、ほんの僅かな違和感。
それは、少女が己の領域へと引き込まれた事であるが。

もし、気付いて隙も出さなかったら?
まぁ、その時は、適当に誤魔化そう。

セルウィ > ゆらり、ゆらりと、少しずつ距離が詰められる。
足を半歩、後ろにずらして身を引いて…逃走と反撃の構えを取る。

相手の実力、そしてその明確な意図が分からぬ今、下手な戦闘は悪手だろう。
少女はそのように考えて、警戒を抱いたままに、己の安全を最優先に考える。

「……っ!」

故に、その意味ありげな視線でも誘導ですら、警戒の対象になる。
それが罠であるとしても、少女はその視線の先を追ってしまうのだ。

顔をほんの少しだけ後ろに背けて、その背後を確認する。
その刹那、少女の目の前に接敵するのを感じながらも、その時には既に手遅れ。

ほんのわずかな違和と共に、恐らくは少女の警戒と奮闘は無為に終わる。

タマモ > 近付いてみれば、なかなかの警戒っぷり。
まぁ、この状況で、警戒するなって言う方がおかしいか。
しかし…偽りの、援軍を見遣るような動きに、少女は簡単に引っ掛かった。

「うむ、若さゆえの…じゃろうな?」

触れられる距離、そこで、少女へと伝える言葉。
それと同時に、己の仕掛けは発動する。
もし、この現場を見ている者が居たのならば。
己が近付いた途端、その場から、己と少女、二人の姿が消えてしまうのを目撃する事だろう。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からタマモさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からセルウィさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にシャノンさんが現れました。
シャノン > 貧民地区、娼館街の裏手、昼下がり。

朽ちかけた屋根を渡る風に、ほのかな雨の匂いがする。
どこからかせしめてきた真っ赤な果実を足許に置き、
くん、と鼻先を揺らした、次の瞬間。

小さな銀色の猫は音も無く、銀髪の少女に姿を変えていた。

ショートパンツの裾からにょきりと伸びる脚を投げ出し、
屋根の上から良く動く金色の瞳でもって、眼下の街を眺めながら。
先刻、ここまで咥えて持ってきた真っ赤な林檎を、左手で持ち上げ、掲げて首を傾げ、

「……うー、ん。
 これ、美味しいのかなあ?」

香りが良いと思ったから、何となく、掻っ攫ってきてしまったが。
ここまで来て、じっくり眺めてみれば―――毒々しいまでに紅いのが気にかかる。
それになんだか、ひどく硬い感触だった。

「――――――ま、いっか」

しゃくん。

じっと考え込む質でも無いから、そのひと言で思考は中断。
小気味良い音を立てて、とにもかくにも、ひとかじり。
しゃくしゃくと咀嚼して、呑み込んで―――また、首を傾げた。

「………あんまり、好みの味じゃないかも」

仔猫に林檎を掻っ攫われた誰かさんが聞いていたら、怒髪天を突きそうな感想が零れる。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にクレイさんが現れました。
クレイ >  
 クアァと欠伸をしながら裏手に腰を下ろすのはどうみても傭兵風の男。彼がここにいる理由は用心棒。
 治安の問題もありキャストを守る為にいつもは用心棒を雇っているのだが、いつもの人が捕まらなかったという。それで日銭稼ぎにやってきたのがこいつ。
 どこかでリンゴを返せ泥棒猫! とかいう叫び声が聞こえるも。

「取られたのかそりゃ災難だったな」

 と独り言のように虚空に返す。
 用心棒の仕事など普段はあまりしないのだが、この辺りは小さい時に食事を恵んでもらったりと色々と助けてもらった地区でもあった為見捨てられず受けた次第。
 だが上から音がすれば。

「……確認しないわけにはいかないか」

 用心棒という役割上、屋根の上という普通あまり音がしない場所から音がすれば確認しないわけにもいかず。
 足に強化術をかけてジャンプ力を上げると。屋根の上までフワリとジャンプ。

「……なーにやってんだこんな場所で。いやまぁ、意外とありなのか安全って意味じゃ」

 上にいたのは1人の少女。林檎を食べている姿を見て少し首を傾げるも。少し離れたところから話しかけていた。

シャノン > 泥棒猫――――――この界隈ではあまりにも、耳慣れた言い回しだった。
ストレートに、他人のものを掻っ攫う猫、という意味でも使われるが、
どちらかといえばもうひとつの、比喩的な意味で使われることのほうが多そうな。

いずれにしても、まんまと林檎をせしめてかじりついているこの少女が、
その怒声に怯えることは、無い。
それよりも、きれいに歯型のついてしまった果実を睨み、
更に食べすすめるべきかどうか、そちらのほうが問題だった。

――――――そこへ、現れた一人の男。
知らないヒトだとは思うが、もしかするとどこかですれ違ったことくらい、
一度か二度はある、かもしれない。
ただ、そのとき、こちらが人間のかたちであったかどうかは不明だが。

きょん、とまるく目を瞠り、相手の姿を視界におさめ、ぱしぱしと数度瞬きをして。
それからおもむろに、手にしていた林檎を差し出しながら、

「なぁに、おにーさんもおなか減ってんの?
 これ、あげよっか。あたしのおやつなんだけど」

相手のほうへ向けた、真っ赤な果実に鮮やかな歯型。
そもそも盗品であることにも、食べかけであることにも、悪びれる様子は、やはり、無い。

クレイ >  
「いらねぇよ、てか、態々こんな屋根の上で食べるくらいって事はどっかから盗んできたんだろ。良いからくっとけ」

 いらんいらんとシッシッと腕を動かす。
 自分も物を盗んで隠れて食べていた記憶がある為それとダブッて見えたのであった。

「それにしても、よくこんな場所まで登ってきたな。しかも音もなく、上に来るまで気が付かなかったぞ俺」

 まさか相手が猫が変身した姿であるとは思わず。人間のまま上がってきた物だとばかり思いこんでいた。
 それならば確実に気が付いていたはずだが、自分は感知出来ていなかったのだから驚いているという構図。

「しばらくこの辺借りていいか。下でボーッとしてるのもつかれてよ。気分転換したい気分なんだ。居場所はいわねぇから」

そういうと屋根の端の方に腰を下ろして眼下の町を見下ろす構図。これでも用心棒としては働けるのだから問題はあるまいという考え。

シャノン > 「あ、そう?」

とくべつ美味しいものとも思わなかったが、いらないというならあげない。
あっさり頷き、しゃくん、とまたひと口。
かじって、もごもご口を動かしながら。

「盗んだ、なんてひとぎき悪いなあ。
 落ちてたの、拾ってきただけだよぅん…… あむ」

またひと口、しゃくっ。
慣れてきたら、うん、まあ、そう悪くもない味か、などと頭の片隅で。
近づいてくる男の顔を、泥棒猫とは思えない呑気さで見上げて。

「おにーさんこそ、今、ひょいってひとっ跳びしてきたじゃん?
 あたしほどじゃないだろーけど、けっこ、身軽だと思うよん」

てゆか、屋根の上はまあ、公共物だと思っているので。
相手が居座るのは勝手だし、と、軽く頷いて了承の意を示す。
しゃくっ、しゃくっ――――――林檎は見る間に、芯だけのやせ細った姿に変わり、

「てゆーか、おにーさんってさ。
 ここの下とかで、ボーっとしてるのがお仕事なわけ?」

そもそもこの下って何なのか、少女は知らない。
ただ少しばかり、香水の香りが鼻につくなぁ、という程度だ。

クレイ > 「そんな綺麗なのが落ちてるかよ」

 どんな嘘だと笑って返す。
 身軽だと言われればニッと笑って。

「おうともすげぇだろ。なんてな、魔法でジャンプ力上げただけ。種としかけだらけだ俺は」

 とケラケラ笑った。魔法なのだから褒められる事なんて何一つとしてない。
 シャクシャクという音を背景に店を見張っていたら話しかけられる。
 ボーッとするのが仕事かと聞かれれば苦笑い。

「半分正解だな。正確にいうならこの下の店に何かがあったら俺が動くのが仕事。何もなければボーッとしてるだけでお金がもらえるボロい仕事さ。まぁ俺みたいな超強い剣士が受ける仕事じゃねぇけど」

 なんて自慢気に語る。実際問題、本当に日銭程度の金額で本来なら受けないような仕事だった。

「そういう訳だから下の店困らせるような事はなしで頼むな。後飯が欲しいなら隣の区画のパン屋に行くといい。あっちなら雑用すればパンの耳くらいなら分けてもらえるかもしれない」

 盗みをしていた可能性があるからとりあえず下には迷惑かけるなよというついでに食事にありつけるかもしれない場所を紹介。 そこも世話になっていた場所だ。

シャノン > 「落ちてたよ、ころんって」

より正確にいうならば、猫が鼻先でチョンとやったら、かごから落ちた、
そこをすかさず咥えて逃げた、というのが顛末。
いろいろと省略したのは罪悪感からではなく、単に面倒を省いただけだ。
種と仕掛け、魔法、を使うらしい相手の顔を、興味深げに見つめながら、

「ふぅん、おにーさん、けっこ、器用なんだねえ。
 剣士さん?って、魔法、得意じゃないもんだと思ってた。
 おにーさん、両方イケるひとなんだ」

へぇえ、なんて感嘆の声を洩らす少女の表情は、やはり、呑気で屈託ない。
そのわりには暇そうな仕事を引き受けているんだなあ、などと、不躾な疑問も浮かぶが。

「下がなんのお店なのか知らないけど、心配しなくても、
 食べ終わったらよそに行くよ。
 ――――――んんん……パンのみみ、かあ」

それは美味しいのだろうか、猫の味覚的な意味で。
ほんの少し、気難しげに眉をひそめてみたが、長くは続かない。
すっかり芯だけになった林檎を、ぺろ、とひと舐めしてから、
空いた右手を傍らへつき、ひょい、と腰を浮かせて立ち上がった。

「ま、いーや、情報ありがと。
 今度おなか減ったら、ちょっと覗いてみるね」

クレイ > 「強化魔法だけな」

 と言って答える。
 それからお礼を言われればん、なんて言いながら手を軽く上げる。
 しかしそれから。少し考えて。

「あぁいや待て」

 帰ろうとしていた少女を一旦止めて。

「下の店知らないって……マジかお前」

 見た目的にそういった知識がないほど子供というわけでもない。
 じゃあカマトトぶってる? そうも見えない。となるとマジで知らないという事。

「あー、あれだ。とりあえずこの辺りに来る奴ってのは大体が誰かと……性的な事をやり来ている奴らだ」

 知らないとはいえそっち方面の知識はあるだろう。だからそういう表現をする。
 大人として不用意に巻き込まれる被害を出したくないというのは信条だ。

「だから、なんか妙に甘い言葉とか、お金がどうとかって奴には近寄らない方が良いぞ」

 立ち上がってどこかへ行こうとしていた様子を見てそれだけは伝えておいた方が良いと思ってそう口にした。

シャノン > ぱんぱん、お尻を軽く叩いて埃を払い、そろそろ移動しようかと。
けれど相手が呼び止めるなら、とくに警戒もせず動きを止める。
まるい瞳がまっすぐに、相手の顔を見つめ返して。

「知らないよ、だってあたし、このへんの仔ってわけじゃないもん。
 ――――――んん?」

なんだか言いにくそうだから、いったい何なのか。
すこしばかり警戒し始めたところで、種明かしがきた。
一拍おいて、少女は破顔し―――おっけー、なんて、笑い交じりに。

「あー、あー、わかった、そーゆーことね。
 うんうん、まあ、気をつけるよう。
 おやつくれるっていうひとに、うっかりついてったりしませぇん」

気をつける、の方向性が、まるで子供。
顔を赤らめるでもない、あっけらかんとした言動が、
ちゃんと相手の言葉を理解したのか、疑念を抱かせるかもしれないが。

ともあれ、少女はにっこり笑って、じゃあねと明るく手を振った。
ひょん、ひょん、弾むような足取りで屋根を向こう側へ―――そうして。

相手の視界から消え失せる、と同時、その姿は再び銀色の仔猫に変わる。
音も立てずにどこかへ消えた、銀色の毛玉の行く先は、まだ、誰にもわからない。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からシャノンさんが去りました。
クレイ > 「ホントにわかってんのかお前」

 なんて少し苦笑いを返す。
 だがまぁ心配する以上の事はこちらにはできず、去っていく少女に対して手を振って見送るしかない。

「……いきなり音が消えたな。すげぇ技術。どっかの盗賊か誰かか?」

 そういう所でそういう専門で教育をされたとかそういう輩か?
 うーんわからなん。しばらく考えていたが、まぁ気にしないでいいかと見送って自分は仕事の続き。
 無事に引き継ぎまで何事もなく終えたとのことだった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からクレイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  ――道端に女が落ちていた。

 それはつい先ほどのこと。ここいらを通りかかったらローグらしき荒々し気な女性たちに絡まれ。
 一見すれば大柄でもなくどちらかと云えば華奢な体格のヒーラーは端的に云えばカツアゲに遭った。
 数人相手で不利は多分にあったが、中身は特攻型のゴリラである。大人しく巻き上げられてやる性分ではなく、真っ向から応戦したが一人を殴り飛ばしたところで背後に潜んでいた一人に会心の一撃を食らって口惜しいかな昏倒してしまい。
 有り金をかっぱらわれてそのまま路地に棄てられ、今に至る。

「…………………」

 後頭部に大きなたんこぶをこさえてうつ伏せに気絶中。不幸中の幸いは女性相手にやられたので殴られて金品を奪われる以上のことはされずに済んだということだろうか。
 しかしそれも、こんなところでいつまでも寝ていたら保証の限りではない。

 意識不明なのをいいことにかっさらわれて売り飛ばされるか、その場で襲われるかしてもおかしくはない。

 ギリギリの無事、という微妙な状態。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にユージンさんが現れました。
ユージン > 「……………あ、終わった?」

 ぞろぞろと荒くれ者どもが出ていくのを見計らって、曲がり角の向こうに身を潜めていた青年がひょいと顔を出す。後頭部で雑に結われたぼさぼさの黒髪は手入れなんてまともにしてはいないのだろう。顎にはぽつぽつと無造作に散らばる無精髭。冴えない、見窄らしい、薄汚い、そんな印象の漂う男だった。よくよく見れば顔立ちそのものは整っているように見えなくもない……が、あまりにもやる気ねえ装いがその数少ない美点を見事に台無しにしていたのである。

「…………さて、と」

 周囲の様子を用心深く窺う。荒くれ者たちは既に遠ざかっていったようだ。
 慎重に倒れている女の様子を遠巻きに見守り、ゆっくりとした足取りで歩み寄っていく……。
 彼女のすぐ傍らにまで辿り着けば、そのまま屈み込んで手慣れた素振りで女のポケットに躊躇なく手を突っ込んだ。
 あまりにも淀みない、流れるような所作である。

「んん……?」

 ごそごそ。中身を漁る。……生憎手応えはなかった。

「クソッ! 小銭一枚残ってやがらねえ! シケてやがんな!!」

 たんこぶを頭に生やした娘を他所に、男は立ち上がると苛立たしげに舌打ちをして地団駄を踏んだ。

ティアフェル > 「…………」

 小銭一枚見逃されずに、ありったけ持ってかれて静かに昏倒中。
 いい稼ぎになったと浮かれてさっさと立ち去るローグと残された女に――ハイエナな青年までやってきた。

 不運のフルコースである。
 完全に意識はないもので、傍らに屈んだ彼が自由に空のポッケを漁る。
 収穫なし。
 全ポッケは空っぽだしウエストバッグも貴重品は全て抜かれている。
 本人にしか価値のないスタッフは転がっていたが、使用者限定品の為持ってっても無意味であるので、残されていたけれど、薄暗い物陰に潜んでいたので多分目にはつかない。

「………っ…」
 
 ごそごそと衣服を探られて、さすがに微かな反応を見せる女。
 もともとそう深い意識の喪失ではなかったらしく、軽い脳震盪の後、薄く覚醒しかけていた。
 そんなところで地団太を傍で踏まれるものでその振動でぼんやりと覚醒し。
 そして、苛立ちを吐き棄てる科白に、ぼやけた意識が薄っすらと昏倒直前につながっていく。
 ――そこで、襲ったローグの一味と彼を認識し。

 がっ、と徐に伸びた手がその足首を掴んでいこうとし。
 低ぅい、どすの利いた声が掠れ気味にこう発した。

「殺すぞ……てめえ……」

ユージン > 「やれやれ……。とんだ時間のムダだったわ……」

 それからバッグをひっくり返したりして中身を確かめた挙げ句、何の成果もないと判断する男。 
 転がっている杖? 生憎足腰は至って健康だ。杖の世話になんぞ当分なるものか。

「マジでシケてやがる。
 ……シケてるって言葉はまさにこのために存在するんじゃねえかってくらいシケてるわー」 

 はァあ~、とクソデカ溜息を溢しながら肩を竦めて頭を振る。
 素寒貧の行き倒れに価値はない。屍姦とかやっちゃう? ……冗談じゃねえ、おれはノーマル嗜好だ。
 どんなに良い女だろうと、死体とヤるだなんてマジ勘弁。
 そんな訳で、クールにそそくさとこの場を去ろうとするのだが……そうは問屋が卸さなかった。

「……あァん?」

 不意に足首に絡みつく違和感。
 見下ろせば、がっちりと手が掴んでいた。
 なんだこれは。

「ぎゃあああああああああ!! 死体が! 死体がッ!!」

 目をかっぴらいて叫ぶ。こんな恐怖は久方ぶりだ。
 地獄の底から響くような、低い恫喝の声に血相を変えて狼狽する。
 
「くそう! 踏んだり蹴ったりだ! 牝オークと3日も閉じ込められた次はゾンビに絡まれるとか!
 ええい、離せ! ゾンビと心中するなんてまっぴらごめんだ!
 さっさと大人しく黄泉の国に帰れ! いいかお前! ここは生者の世界なんですゥ!!」

ティアフェル >  追い打ちの追剥ぎが空振りしている。
 ――が、んなこと知ったこっちゃなかったので。
 あの連中の仲間か何かが、まだなんか残ってないか確認しに来やがったと帰結したもので。
 ぶち殺す勢いのぎらついた眼光。盛大にぶん殴られて微かに滴る血を額から伝わせ。
 怨霊かなにかのように彼の足を引っ掴んでは。

「うるせえ……頭に響く……――せい!」

 迷惑そうにアンデットと誤認して大騒ぎする彼に唸っては、両手でその両足首をぐぐ!と掴んでぐいっと引き寄せ引き倒そうと全力を籠め。

 もしも首尾よく運んだのなら、ずるりと身を起こしてはそちらへ馬乗りに圧し掛かろう。
 で、射殺ろさんばかりの血走った双眸を薄暗い街灯に閃かせながら。

「……よくもやってくれたわねえぇぇ? 一人でのこのこいらっしゃ~い?
 総てのうっ憤ぶつけてくれるわ、覚悟しやがれ!!」

 さっきまで寝てたとは思えない勢い。怒りでリミッター外れ気味のゴリラがそこに。

ユージン > 「いや、待て…… てめえ、生きてるな!
 この野郎、ビビらせやがって! ゾンビかと思ったじゃねえか!」

 そうと分かれば怖くはない。いや、やっぱり怖いわ。
 頭から血ィ流してるし、ついでに目付き超怖ッ……!
 表面上は威勢よく居直ろうが、実際はやっぱり怖気づいていた。
 そんな訳で、ゾンビもどき女からの猛烈な力技にたまらず引きずり倒される。

「ごばッ……!!」

 そのまま顔から突っ伏すように倒れ込み、地べたと熱いヴェーゼをかます。
 
「ぐ、ぐおおおおお……!!」

 鼻のあたりを押さえながら悶絶している間に、気付けば馬乗りにのしかかられる格好。

(……なんてこった。このゴリラ女、おれを直接の下手人どもと勘違いしてやがる!)

 たまらず、顔面を庇うように両腕を掲げる。鼻の奥に熱い鉄錆の匂いが満ちる。
 鼻を押さえていた手には熱くヌルついた感触がこびりついている。
 きっと鼻血とかも出ているんだろう。まさか、牝オークの次は女ゴリラに殺されかけてしまうのか。

「……ちょ、待て! 待てってば!
 すこし冷静に考えてみなよ、ゴリラのお嬢さん……!!あんたをボコった連中が、こんなにひ弱な訳ねえだろ!!
 自慢じゃねえが、おれは野良犬一匹満足にやっつけられねえ華奢な男だぜ!」

 とっさに知恵を巡らせ、のたまうのは至って正論……ではあるが。
 それが果たして怒り心頭の相手にうまく伝わるものか。ましてや必死さの余りに余計なことまで口走っているのだ。

ティアフェル > 「わたしのどこが野郎に見えるって云うのよ?!
 重ね重ね失礼な奴ね! 心のままにしばき倒してくれるー!」

 怒りのポイントがずれた。
 見た目よりももやし感が強い青年だったので、手負いとはいえ女ゴリラの敵ではなかったらしい。
 全力を賭さずとも引き倒せたかもしれないが、上手く馬乗り達成しては。
 文字通りマウントを奪取して勢いに乗ります。

「だから、あの連中の飼い犬かなにかではなくて?
 わたしはそう踏んだな! ああいう暴力女は必ずか弱い顔だけはいい……いい、よね? 良さげ? いい、かな?素材は?――まあいい、とにかくそんな感じの三下引き連れちゃってるのが定説よッ!
 八つ当たりの路地にようこそ!よく来た!どっからボコろう!」

 ゴリラはマジでゴリラだった。ボス猿の風格を余すところなく発揮し、地元では幼少のみぎり、張っていたガキ大将の身分を携えて仰向け状態にしたヤサい彼の胸倉をつかんでがっくんがっくん揺さぶり。

ユージン > 「ぐええ……!!」

 その腕っぷしはマジで野郎じみてるじゃねえか。
 そう突っ込みかけた言葉を口に出さずに済んだのは幸運だったのだろうか。
 何せ言葉が引っ込んだのは暴力のおかげなのだ。

「おいおい八つ当たりは生産的とは言えないな、ゴリラ!
 それは新たな悲しみしか生まない、実におろかしい行為だ!
 その蛮行によって悲しみ、苦しむヤツがいるんだぞ! 主におれだが!」

 馬乗りモードから容赦なく揺さぶられる合間に、器用にも一息で長台詞を吐き出した。
 顔だけは良さげ。そう言われて、即座に拳の甲で鼻血を拭う。そのあと再び揺さぶられる。

「ぐおおおお……!! 脳がッ…… 脳がいてえ!! マジやめろぉ!!」

 がっくんがっくんされながら、割りと本気で苦痛に呻く。
 とは言え、傍から見れば実に緊張感に欠ける光景であっただろう。

「……いいかげんにしろ! ちょっと待て! 待ってください!」

 相手を制すべく、慌てて突き出す手。
 それが相手を制したかどうかは知らない。知らないが、一秒でも隙を作れたならばそれを好機とばかりに再び宣う。

「おれは、あくまで死体から追い剥ぎしようと思ってノコノコやってきた新たな犠牲者だ!
 だってしょうがないじゃん、あんなムキムキが大勢居たらおれの出る幕ないしぃ……。
 だってよ、ゴリラをボコるくらい強い連中だぜ。
 ……そしたらもう、おこぼれもらった後にあんたを埋葬してやるくらいしかすることないじゃんよ……」

ティアフェル >  ちょっと腕っぷしの強い女の子(笑)で押し通す気の図々しい当人。
 実際本物の男性を押し倒して馬乗りになってついでに暴力に訴えているのだから、人類のほとんどが鼻で嗤うだろうが。
 お構いなしにがくがく揺さぶってぐいぐいと締め上げていく。全く色気のない方面に。

「それがなんじゃーい!
 憂さ晴らしは正しいストレス発散法です! あんたの悲しみをわたしの喜びに錬成させてやる!
 このチンピラの飼い犬めー!」

 カツアゲに遭った恨みをここで晴らして、そしてこいつの口から奴らの身元を吐かせてアジトとか潰してやる!とそこまで息巻いて取り敢えず血祭開始、と彼の頭を懇切丁寧に攪拌させる。

「痛くしてんのよッ、わたしの憤怒と悲哀を存分に受けよ!
 ――っ、な、なによ……今さら云い訳なんか――……………は……?」

 ついつい勢い絞め落としてしまいそうになっていたが、その前に制止する手。
 何事かいい募る声に思わず耳を傾けると、掴んでいた手を緩めてきょとん、と目を瞬いて。

「つーことは……現状これはミイラ取りがミイラ……?
 ていうか、一部というか大半嘘ね。埋葬とかするほど善人面してません!
 わたしがボコられてるところを楽しく拝見そののちに残った小銭でもありゃラッキー。
 そしてご遺体は犬の餌でサヨウナラ!そんなとこでしょうよ、えぇ?」

 緩めた手は完全に離さず、ぐい、と胸倉をつかんで引き寄せ至近距離でガンくれてすごんだ。

ユージン > 「……ああ、くそ……」

 たくさん揺さぶられて頭がくらくらしてきた。
 少し霞む視界で、それでも自分をシェイクし続けるゴリラを恨めしげに睨める。
 完全に自業自得案件であったが、彼の極めてご都合主義的な思考をしたがる脳味噌は、その事実をうまい具合に捻じ曲げ編集していた。
 そうだ! 自分は完璧に被害者のガワである!
 まあ、そうやって自己都合で脚色しても今眼の前で荒ぶり続ける彼女にはまったく関係のない話なのだが。
 甘くなかったね。

「……ああもう、それじゃあ手早く済ませてくれよ。 おれのことは気が済むまで好きなだけ殴れ!
 言っとくがおれは金なんか持ってねえからな! 一攫千金狙って潜ったダンジョンには何もなくて!
 居合わせた女オークに持ち込みの食料たっぷり食われて収支はマイナスだ!
 そんな素寒貧でもなきゃ、死体漁りなんてするもんかい!」

 逆ギレして居直りながら一息に叫んで、そのまま観念したように両腕から力を抜く。
 もうどうにでもしてくれ、と言わんばかりの脱力した格好で、胸ぐら捕まれぐにゃぐにゃされる。

「……無縁墓地にもってきゃ、一応身元不明の貧乏人の死体でもすみっコのほうに埋めてくれンだぜ。
 ああでもその前に脱がして古着屋に持ってけば小遣いくらいには…… いや、なんでもないです。
 野良犬の餌? めっそうもない。めっそうもないからこっち見ないで超こわい」

 犬だって食わねえよ。
 そう言いたくなるのを必死でこらえながら、こちらにガンくれてくる視線からは目線を逸らす。
 泳ぐ。横方向に目が泳ぐ。猛烈にバタフライとかしちゃっている。

ティアフェル >  いい感じにぐったりしてきた様子。
 よし、抵抗する気力はそろそろ枯渇してきたな。
 しめしめと判断すると、ここから搾り上げて仲間のヤサを洗い浚い吐かせてやる、と素直におしゃべりしてくれなかったら拷問コースに一直線のご予定でしたが。

「いい覚悟ね。思ったより根性あるじゃないの。
 それでは適度にボコりまして、意識がある内に連中のプロフィールなんかを根こそぎ……
 いや、無一文感マシマシなんで、見て分かりますけどね、そこは。
 あと、何ですかその世にもみじめな愚痴は。同情をお求めで?」

 そんな話聞いてねえし、と首を傾けるようにして見下ろし。
 すっかり観念して脱力した様子に、そう素直だと一方的なリンチになっちゃうじゃない、と一方的なリンチの最中で戯けな思考。

「そんな親切心はみなぎってなさ気ですけどね。
 ………やだもう、うっかり切り落として差し上げたくなるようなこと云わないでヨ?」

 無縁仏として埋葬してくれるほど親切そうには見えなかったが。
 それでも取り敢えず、あの連中の仲間ではなさそうだと判断しては、ようやく手を離し。

「――ねえ、あんた大体見てた、んでしょ? なら、ちょっと教えてくれない?
 場合に依っちゃあ、淋しい懐を多少温めてあげる。ご周知の通り手持ちはないけど、ついてきたら払ってあげるわ」

 思考を切り替え、乗っかってた体勢から降りて壁に背を預けるようにして立ち、拾い上げたスタッフを負った瘤に翳し、詠唱のの傷を癒していき、回復を遂げると息をつき。
 それから片手を差し出して引き倒した彼を引き起こそうと。

ユージン > 「……おまえも腹を空かせた牝オークにメシをたかられることがあったらきっと今のおれの気持ちがわかるよ。
 いつかそんなシチュエーションが来るといいな。むしろ来い。おれと同じように草とか土の調理法を模索とかすればいいんだ」

 見下されながらも、フン……と小さく鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
 暴力で話が終わるなら、それはそれで気楽だ。
 痛いのは嫌いだが、人間というものは必要以上に相手を痛めつける行為には忌避感を持つもの。
 稀にそのリミッターがぶっとんだ奴もいるが、此度の彼女が殴り甲斐のない人間を甚振るのに早々に飽きてくれるのを願うばかり。
 さあ、いつでもばっち来い。そう言わんばかりに覚悟を決めようとした……が。

「……殴られるのはまだしも、ちょん切られるのはちょっとなあ」

 固まりかけていた覚悟のボルテージが一気に萎れた。
 それを切断されてしまったならば、人生の楽しみの3割くらいは吹き飛んでしまう気がする。
 辺り構わず立ち小便もできないような身体にされるだなんて、たまったもんじゃあない。

「……ごほん。そうだな、何を聞きたい?」

 緩みかけの覚悟にそっと流し込まれる憐憫、あるいは打算めいた誘い。
 一も二もなくそれに飛びつくのは、クズ特有の自己保身精神ゆえか。
 しかしそもそも此処で意地を張る理由なんてまったくない。そもそも何の義理もないのだ。
 差し出された手を取る。女ゴリラの細腕で引き起こされる身体はもやしの割にはそこそこ筋肉の重みを帯びていた。
 ……が、彼女の腕力がゴリラそのものであれば、やっぱり紙のように軽やかだったかもしれない。

「……連中絡みのことなら、知ってることはなんだって言うぜ。
 おれからしたら何の関わりも……いや、寧ろ恨みつらみしかないしな。おまけに小遣いまでくれるかも知れねえってんなら」

 ……ことわる理由なんてねえだろ?

 そう、言葉に出すこと無く、視線のみで物語りつつ立ち上がる男は不敵にニヤリと笑った。
 先までの貧弱ぶりを見ていなかったならば、何かやらかしそうな雰囲気はあったかも知れない。
 今となっては台無し、手遅れであったが。

ティアフェル > 「その戦闘能力で、有り飯たかられるだけで済んだ幸運に感謝すべきよ?
 ダンジョン舐め過ぎだから。わざわざ命棄てにお出かけしてるもんでしょう。自業自得なんだからね」

 ソロができるだけの実力があるようには思えずに、腕組みして険しい顔で。
 こっちもこっちで冒険に出ては度々死にかける立場なもので、最低限共感はするが同情はできない。
 無駄に殴って自分の拳を痛めるのもバカらしい。腹は立つが、怒りをぶつける対象ではなかったらしいと認識すると。

「っふ……シェンヤンの後宮に就職できるかもだけどね」

 去勢覚悟の男子なんてそれくらいしかいないだろう。そもそもその彼らとてどこまで自らで志願した者か知れたものでもない。
 
「話が早くて助かるわ。――それでは前払い…って訳でもないけど、それは責任取って治しておくわね」

 早々と話に乗って来た様子に目を細めては、鼻血を噴出させた原因の女。
 交渉の前段階としてまずは、と引き起こした彼の赤くなって血の滲んだ鼻先にスタッフの先を翳し、短詠唱で淡い光を生み出し、痛みと毛細血管の破損を回復させていこうと。

「わたしさあ、急に後ろからがつんとやられたから、そいつの顔とか見てないのよね。
 ぜひお礼をしなきゃいけないから、どんな奴だったか特徴とか教えてよ。
 もしも絵が達者ならお願いしたいけど、人相を教えてくれるだけでもいいわ。
 あとはどっちの方に行ったかと……何かヒントになるようなこと話してるの聞いてたら教えてちょうだい。――ちなみに、適当な情報を売って、って肚なら〝お礼〟はきっちりさせていただくので。嘘は云わないでね?」

 スタッフを手に壁に背を預けながら腕組みし、最後はにっこりと親しげにさえ感じられそうな笑みを湛えなから小首を傾げて。