2021/04/29 のログ
■シェラグ > 娼館街の空き地は、夕暮れから忙しくなる。屋台が立ち並ぶのだ。
気に入った相手へのプレゼントや衣装、今夜の小道具…腹ごしらえの食事処ですら。
とはいえ、一番の人気は媚薬だ。 値段もピンキリ、種類も用途も千差万別…もちろん効果も。
「ウチのはほんものですよー。 どうぞ一度使っていってください。
わたしの毛色を見てもらえればわかると思います。 あまり王都じゃ見かけない代物で、
一度使えば効果が実感できます。 ミレーに良く効くんです」
今日は娼婦相手の診察はなかった。 故に、媚薬売りに精を出している。
女神が授けてくれるのは、このメスめいた肉体だけではない。 叡智もだ。
もちろん、そのほとんどは淫蕩なものではある。 例えば媚薬のつくち方とか。
産めよ増やせよということなのだろう。
行き交う人々に声をかけながら、身振り手振りでアピールしてみせる。
客は敏感だ。 一夜の楽しみを、よりお得に楽しもうとする。
”珍しい薬”であるとか、”朝まで戦える!”とか、そんな文句は
客も聞き飽きているのでセールスだって頑張らないといけない。
張り上げた声にどこか甘えるような、媚びるような色香が乗ってしまうため、
「媚薬じゃなくてお姉ちゃんを買わせろ」という客も来たりするが、そこはそれ。
うまくいなしてごまかして、手頃な薬を掴ませて帰らせる。
■シェラグ > 「北方系のミレーによく効きますよー。
値段はそれなりですけど効果は保証付きですよー…」
あれだけいた人ごみは、それぞれの娼館に吸い込まれていったり、
そのへんに立ってる相手と手早く話を済ませて連れ立ってどこかにいったり…。
気がつけば、通りを歩く人はだいぶ落ち着いていた。
人が動くタイミングには”波”がある。 第一波は終わったということなのだろう。
そうであれば、自分がやることは一つ。
屋台の中から取り出した乳鉢と乳棒で、媚薬の調合である。
料理をやる屋台なんかでも、客の目の前で料理を作っているところを見せて興味を引いたりする。
…といっても、自分で媚薬を舐めるわけにもいかないし、そんなことになったら商売どころではない。
作りたての媚薬を、一回分程度の小さな瓶に移し替えていく。
”お試し用”というやつだ。 自分の作る薬は、ただでさえ材料費がかかるので、
まずは一回使ってもらおうという考えで始めたのだけれど、そこそこ効果を発揮している…はず。
ご案内:「貧民地区 娼館街」に黒須さんが現れました。
■黒須 > (仕事が終わり、褒美として今夜も女を相手にしようと思いやってきた。)
「さてと…今夜はどうするか…」
(あまり詳しくない為に娼館に入店するにもどこがいいのか決められなかった。
ひとまず客引きに軽く話をしてから入ろうとしたが、一件の店に目が入る。
媚薬を売る店だ、しかも、そこで作っているのは。)
「よぉ…シェラグじゃねぇか…」
(見覚えのある顔に声をかけた。
サングラスを少しずらして見せる素顔。
いつもなら鋭い目線がそこにはあるが、今日は少し柔らか目だ。)
「…売れてねぇみてぇだな?」
(ちらりと店の様子や調合している様子から見て売上状態を察した。
貧民地区で多くの店を相手してきた長年の勘だ。)
■シェラグ > 「あっ、黒須さん、どうもー」
乳鉢を抱えてゴリゴリやっているところに声をかけられて顔を上げる。
見知った相手だ。 あまり気負うことだってないだろう。
「そうですねえ、まあ…ぼちぼちです。
ちょうど人がはけたところなので、第二波に向けて準備してたところですよ」
見てみてー、と屋台に並べた媚薬を指差して見せる。
「ところで黒須さんはどうされたんです? 今夜のお相手でも買いに来られたんですか?」
乳鉢の中身を瓶に注いで作業は一段落。 作業道具をしまって立ち上がる。
質問をしたあとに、ちょっと苦笑い。 この辺に来る用事なんて、一つしかない。
■黒須 > 「ほぅ…こいつが媚薬か…」
(並べられた薬を見る。
媚薬を見るのは初めてであり、飲んだことも味も知らない。
まぁ、自分に限ってそういったものは必要ないし、それに、飲んでしまえば恐らく後が悲惨だろう。)
「あぁ、お察しの通りだ。
しかし、娼館なんざあまり行ったことが無いからな、どこに行けばいいのやらって迷っていたら…このとおりさ」
(自分が相手をするのは主に通りを歩く女性だ。
店の人間はマニュアル、その通りの行いをやっておしまい、正しく人形相手にすることだ。
そんなものでは興奮もすぐに萎えてしまう。)
「しかし…こいつは面白そうだな…。なぁ、1本くれねぇか?」
■シェラグ > 「飲む、塗る、焚く…。 色々用意できてますよ。効果はてきめん!
こういう言い方は陳腐かもしれませんけど、魔族にすら効くと思います。
といっても、もとはわたしの部族のものですからね、ミレーによく効くと思います。
実際に購入してくれた人からは評判です!」
物珍しそうに眺める相手に、一つづつ示して説明。
自分のお手製の製品だ、解説ぐらいお手の物だ。
「えっ、行ったことないんですか?! この辺ぐらいでお会いするから、
てっきり通い慣れているか、買い慣れてるものかと…。
あっ、はーい!よろこんで! どんなタイプが良いですか?
自分が飲む、相手が飲む、部屋に焚く、塗る…。 方法も効果も色々ありますよ。
タフさを強化するものとか、感じやすくなるとか、発情を催すとか」
相手の言葉に驚く半分、買うと言われてしまうと大慌てで販売の準備。
きちんと効果を全部説明しながら、相手に小首をかしげてみせた。
■黒須 > 「はぁ…普通の薬と何ら変わんねぇんだな?」
(初の購入である媚薬、様々な方法で使用できるとのことであり、さらに興味をそそられた。)
「とりあえず…塗るタイプで。
種類は、感じやすくする物で」
(選んだタイプの媚薬を注文し来るのを待つ)
「…次の波を待つってことは…んじゃ、今夜は無料ってことか?」
(サングラスを外しにやりと笑いかける。
その言葉と表情からすれば、察せれる内容だが、その判断はシェラグ次第だ。)
()
■シェラグ > 「そうですよー。 媚薬っていっても”薬”ですからね。
効果が出るまでに少しかかるのも普通の薬と一緒です。
たまに『飲めば速攻効く!』とかうたう媚薬ありますけど、
ウソですからね、あれ。 …魔族の作ったものならわかりませんけど」
答えながら適切な薬を確認して、いくつかピックアップする。
3点ほど揃えてから袋に入れた。
「うん、塗るタイプで感じやすくするやつ…。この辺ですね。
今夜ですか? うーん…そうですね、うん。
いいですよ。 その代わりですけどー…」
逡巡する仕草を見せてから、媚薬を指差して相手にウインクした。
「色々使っていただけるんなら、ですけど」
■黒須 > 「お安い御用さ。
ま?使いすぎて狂わねぇようにな?」
(しばらく店裏で人の波が収まるのを待ち、終われば店仕舞いと共にそのまま宿へと向かう。
そこで行われる乱交、買ったばかりの媚薬を使い更に熱を増していった。
翌朝、日が当たる頃には既に部屋は大惨事となっていたが、その先は2人だけの話だった…。)
ご案内:「貧民地区 娼館街」からシェラグさんが去りました。
ご案内:「貧民地区 娼館街」から黒須さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にスピカ=キャスタルさんが現れました。
■スピカ=キャスタル > なんてことの無い昼下がり。
雑然と鬱屈、少しの熱気をまぜこぜにしたようないつもの貧民地区の一幕。
曰く付きの物も扱われていると噂の古書店から(容姿的には少女と呼んでもおかしくはない)女性が気だるげに姿を現す。
「まったく、噂に反して中々にガッカリさせられるラインナップだったね。大概が古いだけで価値の無い書物と出来の悪い模造品じゃないか。」
と、不貞腐れた表情の彼女はヤレヤレと手を振る。
手ぶらで出てきたと言うことはお眼鏡に適う物は無かったということだろう。
「まぁ、実際は幾つか【真】に近い物もあったがボクの欲している内容のものじゃ無かったし。さて、予想以上に暇ができてしまったな。これからどうしたものか。」
時刻的には昼食には遅く夕食には早いといった頃合だろうか。
平民地区に暮らす彼女からすると普段はあまり立ち寄らない貧民地区、数奇な出会いのひとつでも無いものかとあてもなくふらつく事にしたようだ。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にアダガさんが現れました。
■アダガ > 『なんだと手前!?』
依頼の報酬の取り分を巡って口論をしていた俺は、突如として丸太のような腕の主に体を掴まれ、そのまま投げ飛ばされる。
小柄で軽い俺の身体は宙を飛び、女性の目の前の木箱へと激突する。
「いててて……あいつ、どこに行った。」
俺を投げ飛ばした相手は既にどこかに去って行く様だ。
追いかけたいところだが、背中に走る激痛がそれを許さない。
「あ、あんた…。 悪かったな。
どこも怪我はないか?」
痛む背中を労わりながら起き上がると、隣の女性にまずは詫びることにした。
女性は獣のような耳が生えており、獣人かミレー族のように思えた。
それ以外にもどことなく不思議な雰囲気を漂わせている。
■スピカ=キャスタル > スピカの前に突然墜落してきた(様に見えた)小柄な少年。
激突した背を擦りながら謝罪を投げかけて来た。
その方向を見ても口論の相手と思わしき相手は既に影もなく少しの逡巡の後少年に対しこう切り出す。
「何があったかは特に聞かないけど中々の不運に恵まれたようだね?」
すっと歩み寄ると少年の背に手を翳し。
「ー生命の雫、癒しと清浄の慰めを此処にー」
そうスピカが口ずさむと淡い光が辺りに零れ少年の背の痛みは和らいで行くだろう。
「余計な世話だったなら済まないね。お節介を焼かせてもらったよ?大事無いかい?」
そう尋ねる彼女の尻尾はどこか愉快げに揺れていた。
幸か不幸かはさておき、今日の話し相手はこうして見つかったのだから。
■アダガ > 「まあな。 でもこんなのこの辺だと普通らしいぜ。」
俺は平然と答えていたが、悔しくもあったらしく、気づけば唇を噛み締めていた。
「あんた、魔法使いなのか。」
俺の背中に女性の手が触れると、短い呪文と共に痛みが消えていく。
驚きのあまり、口がポカンと開いてしまう。
「あんたが治癒してくれたおかげでな。
それよりあんた、このエリアの住人ってわけじゃないよな?
ここは女性一人でうろつくような場所じゃないぜ。」
痛みもひいたことだし、最低限散らかった木箱の残骸を片付けながら話す。
尻尾は左右に揺れている。
どうやら何か楽しいことでもあったようだ。
■スピカ=キャスタル > 「そうかい。確かに所々に教養の無さそうなガラの悪い連中は居たね、まぁ。富裕地区でも全く見ないってワケでもないけど。」
話が聞こえていたのだろう。舌打ちと共に路地裏へ消えて行く男を見送り。
「魔法使い。なんて大層なモンでもないさ。ボクは魔法も使えるってだけの一般人さ。」
問に対し雑な謙遜を返し自分を案じるような相手の態度にやんわりと笑みを返す。
「そうだね、住まいは平民地区だよ。たまたま寄りたい所があって足を運んだのさ。けど心配は無用だよ、自分の身くらいならどうとでも守れるさ。流石に何人も相手にするのは手間だからさっさと逃げるけどね。」
木箱の残骸を片付け始めた少年を軽く手伝ってる間彼女の視線は見た目より達観した態度の少年を興味ありげに追っていた。
■アダガ > 「そういうこと。 だから簡単に投げ飛ばされる俺が弱いのが悪いんだよな。
もっと強ければこんなことにはならないんだ。」
片づけを終えた俺は、怒りで右手を強く握りしめていた。
オークの血を持ちながら非力な自分が恨めしい。
「そうなのか。 王都は進んでるんだな。」
魔法を使える一般人と言われ、俺は頭の中がくるくる回りだした。
魔法なんてギルドの冒険者でも使える奴は限られてるはずだ。
向けられた笑みに反応することもできなかった。
…そして、なんとなくだが彼女の興味は俺に向けられている様な気がする。
これが俺の自信過剰ならとっても恥ずかしいが、彼女の瞳がそう言っているように見える。
「助けてくれたお礼もあるし、自己紹介させてもらうぜ。
俺はアダガ。 見た目では分からないだろうけどハーフオークだ。
最近王都に引っ越してきて、冒険者をしている。
他に知りたいこととかあるか?」
■スピカ=キャスタル > 「ふむふむ。非力な事と弱い事に因果関係はないよ?やり方次第では自分の倍あるような大男でも投げ飛ばすことはできるさ。」
と、傍目から見ても分かりやすく悔しがってる様子に意味ありげな返答を返す。
「あー。言い方を間違えたかな?魔法の才能があっても魔法使いを生業にしないボクみたいな変わり者も居るって話さ。」
頭に?を浮かべる相手に苦笑し言葉を言い換える。
「これはご丁寧にありがとう。
ボクはスピカ=キャスタル。気軽にスピカと呼んでくれていいよ。
一応ずっとこの街の平民地区でいわゆるなんでも屋をしてる。こんなナリだけど一応人間だよ。周りと比べると多少普通じゃないけどね。
越してきたばかりなら気苦労も多いだろう。困った事があれば声を掛けてくれてもいいよ。
ボクが聞きたいことか…もし差し支えなければ冒険者の日常でも聞いてみたいかな。同じく民間から依頼を受けてはいるがボクは冒険者では無いからね。興味はあるさ。」
人間だと言いつつも尻尾を揺らすその様は間違いなくミレー族や獣人の類に見えることだろう。
■アダガ > 「それって投げ技のことだろ?
俺も訓練はしてるけど、まだ実践レベルではないんだよな。」
ひょっとしたら、別の方法を言っているのかもしれないが。
気が付けば反射的に虚空相手に投げるような仕草を真似していた。
「随分ともったいないことしてるんだな。
俺ならそれで生計立ててるところだけどな。」
口元に手を宛て、彼女の顔を覗きこんでいた。
不思議な雰囲気の相手だが、なんだか気さくでおまけに愛想がいい。
街にはこんな可愛い人も居るのかと少しときめいてしまう。
「冒険者の日常って言っても俺は駆け出しだから面白い話はないぞ。
見ての通りの腕前だからドラゴン退治みたいな大仕事はできないし、
やってることと言えば簡単な護衛や雑用くらいか。
スピカこそ、どんな仕事をしてるんだ?
なんでも屋って範囲が凄く広そうだけど。
…まあ、話も長くなりそうだしどこか場所を変えて話さないか。
魔法のお礼に奢るよ。 何か食べたいものはないか?」
スピカの気持ちは尻尾を見ればわかるようだ。
俺は彼女の反応を図る目安として活用することにした。
■スピカ=キャスタル > 「どうだろう。ボクも実戦で使える様な技術があるわけじゃないからね。あくまで知識として知ってるって程度さ。」
アダガの投げ真似を見て自分も相手を受け流すような仕草を見せる。
「魔法ねぇ、適性は人それぞれだけど簡単な物くらいなら練習次第で誰でも使えるハズだけどね。良かったら少し手解きしようかい?」
簡単に言ってみせる彼女。どうやら彼女の魔法に対する認識は学院で教えられる様なお堅いものでは無いようだ。
「そんなに大層な話を望んじゃいないさ。ボクも依頼としてなら冒険者に助っ人を頼まれて賊退治やダンジョン探索はした事があるからね。本業の人の話に少し興味があるだけさ。」
そして少し考え。
「奢ってくれるってのは有難いけど駆け出しの冒険者の懐事情は知っているつもりさ。逆に話し相手になってくれるお礼にボクに奢らせてよ。丁度予定が潰れて暇だったのさ。」
そう言い笑う。
彼女の頭の中には富裕地区の高級店から平民地区の小洒落た人気店といった候補が幾つか浮かんでいた。
■アダガ > 「俺も知識なら知ってるんだぜ?
でも意外とすぐ実践ってのは難しいぞ。
スピカくらいなら俺と大きさもそんなに変わらないし、今でもできそうだけどな。」
それでも俺よりは向こうの方が大きい。
その辺を広げるとちょっと嫌なので同じくらいにするが。
「出来るのか?
そりゃあ明りとか付けれたらめちゃくちゃ重宝するけどさ。
そうなると、いよいよ俺の方が何かお礼しないといけなくなるな。
何かして欲しいこととかあるか?」
俺は思わず声が弾んでいた。
人間の血も混じっているだけに多分簡単な魔法なら使えるだろう。
勿論、タダで教わるつもりはない。
これは故郷で教わって来たことの一つだ。
「本業って言っても俺は始めてすぐなんだって。
まだダンジョンも入ったことないぞ。
まあ、スピカがそれでいいのなら良いんだけどよ。
そうだな、出来たらあまり高級な店は止めた方が良くないか?
俺みたいな小汚いの連れてだとスピカが恥かくだろうし。」
笑顔の似合うスピカに連れられ、近くの店へと向かうことになった。
都での生活も向こうの方が長いのだろう。
案内された店は宿の中に設けられた酒場と言った感じだ。
ここなら酔いつぶれてもそのまま泊っていけるって感じだろうか。
■スピカ=キャスタル > 「まぁ、ぶっつけで試して残念ながら死にましたじゃ悔やんでも悔やみきれないからねー。練習相手にって依頼ならいつでも付き合うけどね。」
心中ではボクを投げられるなら皆伝なんじゃないかなー等と思ったりしたのだが初対面で彼女の内なる力に気付けるのは看破系の魔眼でも持っていないと容易くは無いため敢えて口に出すこともないだろう。
「して欲しいことかー。それじゃあ何かあった時にボクからの依頼を受けてくれると嬉しいかな。多少顔は広いと思ってるけど込み入った相談ができる友人は居ないものでね。」
と。握手を求めるように華奢な腕を差し出すのだった。
「まぁ、容姿云々なんて気にしないさ。ボクもこのナリじゃ入店拒否なんて珍しい事じゃ無いからね。」
そう言い耳と尻尾を軽く撫でる。
「やぁ店主、2人でテーブル席だ。それと一部屋頼むよ。」
店に着くなりカウンターで仕込みをしていた店主に金貨の入った小袋を投げ渡し適当な席に着く。日は既に傾き夕刻だったが店内が客で賑わい出すのはもう少し後の事だろう。
早々と部屋まで手配させる彼女はこの後歩いて平民地区の自宅まで帰るのが面倒になった様子だった。
■アダガ > 「あんたをか? 止めてくれよ。 流石にあんたを気軽に投げ飛ばしはしたくないぜ。」
俺は彼女が妙に自身に溢れていることに気づいていたが、それが何なのかは分からなかった。
だから笑いながらお断りしておいた。
「俺もこっちに来てからまともに話す相手は初めてだ。
これから宜しくな。」
差し出された手を掴み、固く握手する。
触れた感じが柔らかくて、少しだが意識してしまう。
「容姿よりも服装がな。
この辺じゃドレスコードとかもあるんだろう?」
入った店はスピカの行き付けなのだろう。
店主もなんだか慣れた様子で袋を受け取っていた。
「スピカは酒とか強いのか?」
テーブルの上に置かれたメニューや、店の壁に書かれた商品名を見ながら訪ねた。
正直、聞き覚えのない酒だの食べ物の名前が多くて半分しか分からなかった。
…なんてことは言いにくいだけに、分かってるような顔をするが。
■スピカ=キャスタル > 「まぁそうだね。やれなくはないけど荒事は得意なわけでも好きなわけでも無いからね。」
特に追求する意味も興味も無いためこの話題は適当に切り上げ。
「宜しくね。何か困り事があったら遠慮無くなんでも屋【蒼月花】へ。と言っても店があるわけじゃないんだけどその分フットワークは軽いつもりだよ。」
こちらも人に触れるのは久しいため何処か満足気な表情を浮かべる。
「ドレスコードかぁ。堅苦しいのは嫌いだしお高い店でもラフな所しか行かないけどね。」
するりとネクタイを緩め完全にオフに切り替えたようだ。
「お酒、別に強くも弱くもって感じだね。潰れる程呑むことは基本的にはしないし。」
メニューも見ず適当な料理とド定番なエールを頼み好きな物を頼むと良いよ。と視線で投げ掛ける。
変わった物のない当たり障りのない注文ではあったのでメニューを知らずに真似して頼むのは容易いだろう。
まだ見ぬ知らない料理を頼むというのも一興ではあるのだが。
■アダガ > 「店構えてないってことは用事がある時は家に行けばいいのか?
良かったら家の場所だけでも教えてくれよ。
用事がある時はそこに向かうから。」
スピカの手は女性らしく弾力を感じた。
荒事を普段しないと言うのも本当だろう。
お互い、相手の手を振れて喜んでいると言うのもなんだか少し恥ずかしい。
顔が熱くなりそうだ。
「気があうな。 俺なんて街に来て日もないからこういうとこは慣れなくてさ。」
スピカが気楽に過ごせる空気を出してくれたので甘えることにした。
始めてあった相手だが、肩肘張らずに過ごせそうだ。
「その辺も俺と同じだな。
ま、潰れたら俺が部屋まで送ってやるよ。
ん~、じゃあ肉だな。
肉を食おう。」
スピカの視線に言われるまま、俺は目に付いた焼き豚肉の塊を頼んだ。
それにエールで俺の方はもう満足だ。
後は野菜の盛り合わせを頼めばそれらしくなるだろう。
「肉なんて久しぶりにたらふく食えるぜ。
ありがとな。」
それも焼き豚の塊だ。
俺に尻尾があればスピカ並みに揺れていたか。
■スピカ=キャスタル > 「そうだね。不在だったらポストに書置きでも残してくれたらこっちから出向くし。」
そう言い自宅の番地が書かれた紙切れを差し出す。
「ボクもこの街に来た当初はそんな感じだったよ。そのうち慣れるさ。」
運ばれてきたエールをぐいっと1口煽り料理に手をつける。
表に出やすい体質のようでアルコールによりうっすらと桜色に染まった頬で料理を頬張る姿はどこか小動物的な可愛げがあった。
「駆け出し冒険者が薄給というのは知ってたけど食に困る程なんだね。思った以上に苦労がありそう。」
肉に目を輝かせる様を見て少し不憫に思いつつも続けていけば通り一片の冒険者並に装備や懐事情も成長していくんだろうなとアダガの少し先の未来を想像するのだった。
■アダガ > 「書置きか~。俺、字が汚いんだけど読めるかな。」
差し出された紙をすぐに懐へと入れた。
こんなにあっさりと信用してくれて嬉しい半分、余計な心配も浮かんだ。
「へ~。 ちなみにスピカはこっちに来てどれくらいなんだ?」
スピカより少し遅れてエールに口を付ける。
懐の都合でこっちに来てから酒を飲むのも久しぶりだ。
それはともかく、スピカは酔い具合も見た目に出やすい性質のようだった。
奢ってもらっていることだし、万が一でも飲みすぎるような止めれるように注意してみることに。
「まあな。 今は装備の代金を溜めてるってのもあるんだけど。
今使ってる剣は正直切れ味も悪いし脆そうでな。
普段は貧民地区の空き家とかで寝泊まりしてるぜ。
…て、こんな話面白くないよな?」
肉を頬張りながら、身の上話を始めてみるも女性に聞かせるような話でもない気がする。
はたしてスピカの反応はどうだろう。
俺は彼女の顔と尻尾に視線を向けた。