2018/04/05 のログ
■シスター・マルレーン > 「この場所では、物騒でもないならお仕事なんてできませんよ。
……マリー、でいいですよ。」
全くもう、と小さく呟いて。
怯えるでもなく、周囲を気にするでもなく。堂々とした立ち振る舞いはきっと戦う能力があるから。
「そういう………。 なるほど、分かりました。
でも、それならばそれで、バレたら面倒なことになるじゃないですか。
危険なことはしてはダメですよ?」
なんて、膝を折ったままに鼻をつん、とつついてやって、ふっふふー、と楽し気に笑う。
「素直に謝れたから、よしとしましょう。
……ここが教会でなくなったのは、ずいぶん前からだったんです、ね。」
■スナ > 鼻を指で突かれれば、スナはそれを避けも払いもせず、頬を緩めて笑顔を作ってシスターへと向けてみせる。
とはいえその笑顔は子供のそれではない。人を食ったような、仏頂面に張り付けたような、そんな笑み。
「ククッ。嘘はつけない体質での。
俺がそのゴロツキと因縁持ったのもせいぜい2週間前くらいじゃし、そもそも俺がこの街に来たのもそう前ではないからの。
いつからここがボロになっとったかは俺はよぅ知らんよ。お前さん、あるいはお前さんの職場の方が詳しいんじゃないかね?」
言いつつ、スナは目の前の建物を見上げる。
貧民街を往く時、建物に興味を惹かれることは稀だ。これが元教会だとついさっき気付いた、というのは本当の話。
どれほど朽ちているかはピンと来ないが……治安のレベルから察するに、元からあまりいい物件ではあるまい。
「んー、マリーよ。もしかしてここを神所として再建するつもりなんかぇ? もしかしてお前さんひとりで?
だとしたら大した所業じゃが……ずいぶん無謀にも感じるのぅ」
言葉の端々に古臭い口調を混ぜつつ、スナは淡々と述べる。
真面目な文言を吐きつつも、その視線はマリーの顔から徐々に下がり、首筋や胸へと移りつつあるが。
■シスター・マルレーン > 「………詳しくはないんですけどね。」
短く苦笑しながら、少しだけ絞るような声。
同じ神を信じる者として。その仲間の状況どころか、いつ滅んだのかすら分からぬ。
………少しだけ唇を噛む。
「…ん、そうですよ。 再建と言っても、私がこの場所に留まれるわけではありませんが。
この場所を正しく教会として取り戻すことを仰せつかっていますからね。
………ふっふっふ、こう見えて、冒険者としても経験豊かなんですよ?
こう、崩れた建物を立て直したり、橋を直したり、屋根の雨漏りを直したり、
開墾したり、城壁を補修したり………。」
……言いながら、冒険者って何、って思い始めた。 遠い目をする。
…じろじろ見られても、相手のことを少年だと思っているのか、気にしていない。
柔らかそうな、女性らしい身体のライン。この場を無防備で歩いていたら、まあ危険であろう。
■スナ > 柔らかそうな、女性らしい身体のライン。目の前にあるが、無闇に触ることなどできない。
無防備であればこのカオスにみちた貧民街において1時間と待たずに辱められるだろうが、この女性、無防備とは程遠い。
冒険者を自称しているが、なるほどその言葉に偽りはないのだろう。
「ククッ……なるほどなるほど。この国の神職というのは生半可な仕事じゃないんじゃの。
坊主っつーのは寺に籠もってお祈りするだけが仕事だと思いこんでおったよ。
それにしたってまぁ……ずいぶんとガテン系な仕事ばかりじゃな。大工に任せるほうが早いっつーか。
そんなんじゃ、無駄に筋肉もついちまうんじゃないかぇ?」
とはいえ、やる前から諦めるほどスナはヘタレてない。
饒舌に語りつつ、さりげない仕草で目の前のマルレーンの腕へと両手を伸ばした。
修道服の上から、彼女の腕を……まずは下腕、すぐに二の腕へと……いやらしく指を波打たせながら、揉むように触ろうとする。
■シスター・マルレーン > 「いやー、……私達だけなんじゃないですかね。
いつになく戦闘訓練が激しいなあと思ったら冒険者として人々を救ってこいとか言われるなんて思ってもみませんでしたし。
私も一つの町から一生出ないのかなーなんて思っていたのが、もう何個渡り歩いたか。」
とほほー、と肩を落としてぼやく彼女。
………? ん、と腕を優しく揉まれながら、苦笑する。
「………そうですね、そこそこついてしまってますけど、別にいいんですよ。
ほら、人助けは弱くてはできませんからね?」
えへん、と笑顔になって、くすぐったいですよ、なんて苦笑しながら、その手を伸ばしてわしわしと頭を撫でる。
子ども扱いのままだった。
■スナ > やはりというか何というか。厚手の布で繕われたシスター服の上からでは、女体の柔らかさはイマイチわからない。
無遠慮に二の腕を触ってみても相変わらず平然としているのは子供扱いが続いているからか。セクハラは失敗といえよう。
いつかその厚い布の下をみてやるかんな……と心の中で低く強く叫びつつ、スナもまた人当たりのよい笑みを貼り付けたまま。
頭を撫でられれば撫でられるがままに、落ち着き払った口調を保って語らう。
「大変なんじゃの、神職というもんは。いかに鍛えておるとはいえ、女ひとりをこんな治安の悪い場所に送り込むとはの。
俺なんかにゃ真似できんよ……ククッ。厄介事は避けるなり押し付けるなりして安穏と生きていたいタイプじゃからの。
そこまでマリーを強くする『神様』とはいったい、どんな奴なのかねぇ……クククッ」
揉んでいた腕から手を離し、ふぅ、と一息つくような仕草を見せると。
「ここで会うたのもなにかの縁じゃ、中の掃除で俺に手伝えることがあったら、手を貸してやってもええぞい。
なんだかんだ言って一人では大変じゃろう。それにまぁ……俺の残したゴミや落書き、まだあるかもしれんしな」
いいつつ、スナはマルレーンの返答を聞くよりも先に、ゆったりとした足取りで廃教会の入り口へと向かい始める。
■シスター・マルレーン > 悪戯をしに来た子供扱いのままであるから、触られても気にならぬ。
むしろ、悪戯盛りの孤児の方が大変だ。何度尻を全力で叩かれたか知れぬ。
「………痛いところをつきますね。
理想を語れば、どこまでも理想はありますけれど。
なかなか、そうは上手くいかないですよね。」
苦笑を浮かべながら、ぺろ、と舌を出して笑う。
上手くいかないけれど、だからと言って諦めることは最初から考えていないような、そんな笑顔。
「……あ、いや、いいんですよ。 大丈夫ですから。
ほら、ここはさっきの人たちが戻ってくるかもしれませんしね。」
危ないですから、なんて後ろをおいかけて教会の中へ。
壊れた窓枠は取り外され、ゴミは捨てられ。
思ったよりも綺麗な空間が室内に広がっている。
教会に残されたソファが二つ並んでベッドになっているのは、何に利用されていたかは良く分かろうというもの。
■スナ > 「チンピラどもが戻ってくるかもって? カカッ……そう言われて、女子をひとりにして帰れるわけもなかろ。
大丈夫じゃ。お前さんほどの腕前があるかどうかは知らんが、俺も一応は冒険者の端くれじゃよ。
この街で燻っとる飲んだくれの1人や10人、野の獣ほどにも難儀せんであしらえるわ。
それに、こんなチビでも男が付き添いにいるほうが、魔除けくらいにはなるじゃろ」
屋内に踏み入りつつ、ひょうひょうとした口調でそう言ってのける。
中を見ればなるほど、すでにあらかた片付いている。少なくとも数日前こっそりお邪魔したときの雑然とした有様ではない。
マルレーンの言う通り、片付けはよほどに手慣れているのだろう。
実際スナが手伝う余地はもうないのだろうが、スナが教会の中に入った理由は別にある。
マルレーンの目の前で、一切の予兆も音も無く、スナのシルエットがにわかに移ろい変わる。
くせっ毛の跳ねていた銀の頭頂に、獣の耳が1対そそり立つ。やや丸みを帯びたそれは狐の耳に似ている。
そして彼の背後からは、シャツの裾とズボンのウェストを押し分け、獣の尻尾がするりと伸びて地に垂れた。
いずれも髪とおなじ銀毛を帯びている。尻尾はぴくりと断続的に跳ね上がり、骨が中に通っていることを感じさせる。
人目につかない場所に入ったことで、自らの獣相を隠す幻術をあえて解いたのだ。
これまでの会話で、マリーの寄る辺とする『神』のことはよくわからなかった。
しかし、この国において国教とされているのは『ノーシス主教』であり、その教えのもとではミレー族の立場は低い。
獣の相を帯びている者=ミレー族という等式は必ずしも成り立たないが、間違われることは多い。
果たして、このシスター・マルレーンはスナの本性たる姿をみてどのような反応を見せるか。それを見てみたかった。
「おうおう、よぅ片付いとるのぅ。これならすぐにでも客を招けるかものー?」
自らの変身が解けたことをまったく気にする様子もなく、スナは内部を見た感想を漏らす。
■シスター・マルレーン > 「そ、それはそうですけれど……え、冒険者なんですか!?
いやまあ、……そりゃあ、安全かもしれませんし、有難いことですけれど。
……本当ですか?」
でもまあ、単なる子供がそんなウソをつくはずも無し。
それならば、この場所でのんびりと武器も持たずに堂々としているのも頷ける。
半信半疑のままに後ろをついて歩いて、……ひゃ、っと声を出して立ち止まった。
「………………。」
少し黙って、木の棍を握り締める。握ったままに………数秒、沈黙が流れた。
少しだけ吐息をついて、息を吸い込んで。
「………お客の前に、ちゃんとした司祭様をお招きしないと。
まだまだ、これからですよ。
………それに、教会の人の中には確かに信者の人をお客って言う人もいるかもしれませんけど、それって普通に傷つきますからね!
そうやって考えてない人だって中にはいるんです。 中には!」
もー! と明るめのツッコミを入れながら、そのままのんびりと歩いて今度は彼女が背中を見せながら、んしょ、とソファーを引っ張って片付け始める。
本来の姿に思うところは、いろいろある。
何より先に思ったのは、妖魔の類が姿を現したか、というものであったが………
であれば、自分を前に歩かせるだろう。 先ほどまで、すっかり子供だと思い込んでいたのだから。
獣の相を隠していたのも、事情を鑑みれば理解できる。
それを、自身への信頼と受け取った。
受け取り方はあくまでも、希望的なもの。
女は度胸。腹をくくるのも早ければ、思い切りも早い。
あえてこちらも背中を見せることで、一つの解答とする。
■スナ > 背後から、ひゃっ、という可愛らしい声が聞こえる。目の前の少年に突然獣耳が生えれば、そりゃ驚くだろう。
彼女に勘付かれないようこっそりと、クク、と喉を鳴らし、唇の端を吊り上げてみるスナだったが。
「…………………………」
その後、何もなかったかのように会話を再開するシスターの反応に、スナは思わず唇を尖らせた。
嫌悪にせよ興味にせよ、せめて何らかの反応が欲しかった、というのがその時の本心ではあるが。
ちらと後ろを振り向けば、マルレーンもまた己に背を向け、さっそく片付け作業を始めている。
その所作が、己を信頼するゆえなのか、もしかすると嫌悪に目を背けつつお世辞を述べ続けているだけなのか。
スナにはすぐには判断できなかったが……これだけはわかる。この女性は、とびぬけに優しい人間であると。
「……そうか、そうじゃったの。教会に来るのは『お客』じゃのーて『信者』じゃったの。すまんすまん。
俺ぁ生まれてこのかた宗教に肩入れしたことがなくての、あまり詳しくなかった。
ここが神所として機能するには『司祭』という者が必要なんじゃな。なるほどのぅ。
……っと、手伝うぞ」
スナは柔和な笑みを浮かべながら、マルレーンの引っ張るソファの対面へと機敏に駆け、移動を手伝おうとする。
浮浪者の体臭が染み付いたその家具を、苦い顔ひとつ見せずに持ち上げるスナ。見た目以上には筋力はあるようだ。
「……マリーは頑張り屋じゃの。
お前さんはまだ司祭ではないのだろうが、説教の1つや2つはできるのじゃろ?
俺になにか教えておくれ。お前さんの信ずる……お前さんをそこまで優しくする『神様』の話をの」
スナの顔に浮かんだ笑みは、セクハラ爺の下卑た笑みではない。心からシスターを尊敬し、同時に興味を抱いた顔。
宗教に興味が湧いたというのも事実。彼女が見ている世界を、自分も聞き、体験してみたいと思っていた。
■シスター・マルレーン > 「……ん。ありがとうございます。 本当に力も強いんですね。
…魔法ですか? その、ええと。」
ソファをごとん、と前向きに置けば、汗をぐいっと拭いながら………改めて尋ねる。
その、これです。と両手を頭の上に置いて、ぴこぴこ、と耳の仕草。
聞いていい物かどうか考えつつ。一応………。一拍置いて落ち着いたし。
「………あー、えー、っと。
ここの国教と同じですよ。 ですから、そういったお話はちゃんとした司祭様に聞くといいと思います。
………私は、こうやって外で働くことが最初から決まっていましたから。
戦う術やこういう力仕事の方法はたくさん教わったんですけどねー。
真っ当な話、できるかわからないんです。
だから、いつか冒険が終わったらちゃんと勉強もしなきゃな、って思ってるんですけど。」
あはは、と苦笑をしながら頬を書いて、恥ずかしそうに視線を逸らす。
ホント、孤児を集めてそういった育成はどうかと思うんですよね、なんてぼやきも一つ二つ。
「ですから、………ごめんなさい。
うう、やっぱり本は読むべきでした。」
恥ずかしい、と頬を抑えて項垂れる。
良く知らないからこそ、少女のような夢想のまま。
■スナ > 「これかい? んー、この耳や尻尾は俺の身体そのものじゃな。
隠していたのは……まぁ、魔法みたいなもんじゃ。幻術というて、人の見るもの聞くものを誤魔化す業さね」
おずおずと質問してくれたマリーに、あえて種明かしをする。知ったからといって効かなくなるわけでもない。
ソファを移動し終えたスナは、その手指で部屋の隅の方を意味ありげに指す。
するとその指の先、半ば朽ちた壁の表面に1つ、2つ……やがて数十輪の椿の花が生まれ、開き、視界を朱に染める。
遠方に咲かせたにしてはやけに早く、2人の元へと花の香りも漂ってくる。埃や、家具に染み付いた体臭を中和していく。
……しかし、スナが掲げた指を下ろせば、満開に咲いていた花は霧のごとく消え失せ、芳香もなくなる。
「ま、誤魔化すことしかできん。大したことない業じゃよ」
妖怪であること、妖術を使ったこと、それで多くの人を騙してきたことはあえて口にしない。最低限だけのカミングアウト。
実のところ、スナは恐れを抱いていた。この女性に嫌われるのは、今はあまりよろしくないな、と。
どうしても脳内で打算が働いてしまうこと、それで中途半端に己の能力を見せたり隠したりすること。
そんな己の行動に、ちょっぴりだが自己嫌悪さえ覚え始めていたり。この女性は嫌いになれないが、やはり調子が狂っている。
「まっとうな話、か。いいんじゃよ、そういうのは。マリー。
俺はお前さんの話を聴きたいのさ。お前さんが神様とやらをどう思っとるかとか、こんな仕事をどう感じているかとか。
あるいは……俺みたいなクソ怪しい奴、ほんとはどう思ってるのか、とか。
信心ってぇのは、勉学じゃなくて、感覚じゃろ? 本で学べることは、誰から聴いても同じ、そうは思わんか」
先程まで多弁で流暢だった口調が若干詰まり気味になりつつ。
スナはそれでもニコニコと柔らかい笑みでシスターを眺めながら、そう諭した。
■シスター・マルレーン > 「………なるほど、そうだったんですね……?」
はて、と首をその指の方に向ければ。 思わず口元に手を当てて、びっくりした表情を分かりやすく向ける。
「……え、あ、本当に? 綺麗な………。
…! ぁ、そうですよね、流石に。
しかし、凄い術ですね。 私、すっかり本物だと思って……」
一瞬綺麗な花と素敵な香りに、目が輝いてしまったのは言うまでも無く。
喜色をはっきりと浮かべて、素直に感心を見せる。
……こっそりと、今、この教会の方向性が決まる。 今度お花を買ってこよう。
「………私の、話ですか。」
目を1回2回、瞬かせながら。その言葉に少しだけ戸惑うように視線を上に向け。
「いろいろと思うことはありますよ。
この国の状況を見て、この教会を見て。この教会の惨状を誰も知らない体制を見て。
そりゃあ、ぼやきたくなることは山ほどありますよ。
この仕事、教会がやっていることをアピールするために修道服のままやれって言うんですよ?
ああ、もう、何かこう、えいやーって投げ捨てたくなりますよね。」
なんて、秘密ですよ? なんて笑いながら呟いて。
「……まあ、できないんですよ。えいやー、って投げ捨てること。
なんででしょうねぇ。 面倒だなーって朝起きると思うんですけど、でも、きっと見られているって思えればがんばれる、というか。
…私には他に寄る辺も無いですし、投げ捨てちゃったらどうなっちゃうか怖いんでしょうかねぇ。」
拳をきゅっと握って、元気元気、とアピールしつつ。
……ふふふ、と口元を抑えて。
「なんですか、怪しいって自分で言っちゃって。 あれですか、耳と尻尾出したのワザとですか?
そりゃびっくりしましたけど、でも、私が単なる近所の子供だと思ってる時に、いくらでも何かするならできました、よね?
……それに、この街で全然怪しくなーい、って人、今まで出会ったこと無いんですけどね。」
なんて、ぺろ、と舌を出して悪戯っぽく笑う。 今度こそ、秘密ですよ? なんて。
■スナ > 誘いに乗り、ぼつぼつと愚痴をこぼし始めたマルレーンの語りを、スナはその大きな獣耳で静かに聴く。
「……ククッ、なるほど、そうかぇ。
こうして掃除に来とるのも、わざわざ暑苦しい修道服で作業しとるのも、すべて上に言われたからと。
それでも見られてると思えば頑張れると。見られる……それは『神様』にか? 上司にか? 街の住人にか?」
投げ出したい、でも投げ出せない。笑いながらそう語るシスターを眺めながら、スナはそう問を掛ける。
が、答えを待つ間を設けず、軽く首を振って。
「いや、きっとどれでも一緒なんじゃろな。規則、規範、善行、奉仕。そういったもんは他者との関係の中にしかありえん。
自らを『見つめる者』の中に己を置き、そういったもので己を鍛え上げるのが宗教、信仰というものなんじゃろうな。
この教会の掃除もお前さんにとっては修行の1つであると。俺にはそう見えたし、それでいいんじゃろ、とも思う。
……じゃが」
刹那、スナの表情から笑みの色が引き、むっつりとした仏頂面に変わる。
「お前さんの信仰心の篤さのほどは俺なんかにゃ伺い知れないし、きっと『投げ出す』ようなことはせんのじゃろ。
でもな、たまには『お前を見つめる者』の視線から隠れる余裕もあってええと思うぞ。
上司にも、大衆にも、神様にも見られないような場所を見つけるんじゃ。あるかどうかはさておき、な。
見られていてはできないことをする、そういう自由だって人間にはあるじゃろ。そういうのは『投げ出す』とは言うまい。
そういう余裕がないと、お前さん、いつかきっとそういった視線の中で潰れてしまうぞ。
………ククッ、すまないね、なんか説教臭くなってしもうたな」
マルレーンの独白から、スナは『現状への窮屈さ』を見出した。そして、己の意見を忌憚なく述べる。
穏当な言葉を選んだつもりだが、言わんとすることはとどのつまり『神への背信』の教唆。
この意見をシスターはどう受け取るか。
「……ククッ、そうかね、この街に『怪しくない』やつなんていないってか。そいつは面白い意見だ。
神職はそういう『怪しい』やつを品行方正に矯正することしか頭にない連中だと思いこんでおったよ。
考えを改めねばな。マリー、お前さんはやはり面白い考え方の女子だ。うむうむ、優しい子だ……」
自らの『怪しい奴』発言をやんわり否定されれば、スナの顔に再び屈託のない笑顔が戻る。
■シスター・マルレーン > 「……そうそう、それです! そういう感じです!
うーん、本当に長年冒険者やってるんですね………」
自分の言いたいことを的確に表現してくれる、それにぽんぽんと手を打ってはしゃぐように喜ぶシスター。
ええ、ええ、修行の一つ……だったのかなぁ、あの開墾作業。
疑問を抱くな私。がんばれ私。
「………ぅ。
まあ、そうなんでしょうかね。 …きっとそう、なんでしょうね。
身体を壊したらダメですもんねぇ。」
あはは、と苦笑交じりにその言葉を「心配」と受け取ったのか、うんうん、と頷いて。
「潰れないように強く、強くありたいものです。
世の中を変えるような大きなことは手に余ると思いますけれど、腕に抱えられる程度のことなら、なんとか?
腕が持ち上がらなくなったら、そりゃ休みますよ、私だって。」
なんて冗談めかしながら、背信にやんわりと首を横に振る。
「………そりゃそうですよ。動く薬草くれようとしたり、謎の力を送り込んでこようとしたり、お尻叩いて来たり、いきなり目の前で耳が出たり?
悪い人はいませんでしたけどね? ……ほ、褒めてもなーんにも無いですよ。ほんとに。」
優しい子、なんて言われてしまえば、照れたのかそっぽを向いて、えいや、とソファの向きを揃えて照れ隠し。
■スナ > 「そうとも、身体は大事じゃぞ。だが身体と同じくらいに、心も大事じゃ。
強いことも大事じゃが、強いだけでは折れてしまう。弾力、柔軟性、そういったモノも身につけたほうがいい。
心が折れると、身体も急速に弱っていくからの。
国取りレベルの大立ち回り演じてた奴が、十年後には引きこもりの寝たきりになってることもあった……」
廃教会の天井を見つめ、しみじみと語るスナ。意味深な過去形。
「……じゃが、ククッ……まぁ、お主は大丈夫なんじゃろの。言うまでもないことじゃったか。
きちんと意識して休息を取っているのなら、まず問題なかろ。うむうむ。
だが、もしそれでも『何かが足りない』と思うなら、休む以上のこと、躊躇せんでええと思うぞ。
幸いこの王都には娯楽が溢れておるからの。ククッ……色々とな。
よく知らないってんなら俺が案内したってもええぞ」
マルレーンがこの王都の堕落した娯楽事情にどれほど通じているかは定かではないが、とりあえず示唆してみる。
そして、ひとしきり思考を巡らせて疲れを感じたか、スナもソファーに腰を下ろして深々と尻を沈める。
「しかし……ククッ。そうかぇ、そんな変なやつが街にいるんかぇ。変な力を送り込んでくるとは、また物騒な。
俺も色々と変な奴に遭ったぞ? 恥ずかしい気分になると身体が縮む少年だとか、卑猥な道具を専門に扱う女商人とか……」
その後もしばらく、ボロ教会を清掃しつつのシスターと少年爺の語らいは続いただろう。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 廃教会」からスナさんが去りました。
■シスター・マルレーン > 「柔らかく、強い心、ですか。 ………心が、折れる。
……そうですね。 私もそちらの方が心配です。」
少しだけ表情に、身体以上に疲れは滲むかもしれない。一瞬だけ。
「………娯楽、娯楽ですか。 そうですねぇ。
……いやまあ、確かに良く知らないんですけれど。
まあ、疲れてしまって休まなければいけないとあれば、どこかには出向いてみようとは思うんですけれどもねぇ。
…………うーん。」
唸る。なんだかんだで、娯楽の場にこの服を脱いで出向くことがあまり考えつかない。
というか私、この服の替え以外持ってなくないか。
「いやまあ、怪我治してもらったりとか、助かってますけどね?
………まーた怪しい人ばかり。ほら、この街の人って変わってる人多いですよね?」
苦笑を浮かべながら、せくせくと。きっと一晩で綺麗になります。
どれだけ壊れてしまっても、きっと治せるん、です。 きっと。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 廃教会」からシスター・マルレーンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地裏」にカインさんが現れました。
■カイン > 宵の口、活気に満ち始めた貧民地区の一角。
娼館や露店の立ち並ぶ一角の路地裏の壁に寄りかかり娼館の前を行き交う人々と、
その人々への呼び込みを行う娼婦たちの様子を眺めている男の姿があった。
「今日は引っかかる割合が多い事多い事。忙しさで色々溜まってた連中が多いのかねえ」
呆れたように漏らしてまた一人娼婦に連れられ娼館に入っていく人影を見て肩を竦める。
男の仕事はその路上に立つ娼婦たちの護衛、早い話が用心棒だった。
とはいえ今のところ特に仲介に入る様な事態が起きるでもなく、
退屈な時間が過ぎるまま残った女性たちも最早片手で数えるほど。
はっきり言って手持無沙汰気味でぼんやり人波を眺めている。
■カイン > 「用心棒が必要になるような事態なんてないに越したことはないんだけどな。
出張るとそれだけ恨みを買うのも難儀なもんだ」
トラブルの解決といえば聞こえはいいが、
凡そその対処は腕力によるものになる。
となると当然、恨みを買う事もままあるのがこの稼業。
道行く人々の中でも時折男に気が付く者が居る物の、
その中でも反応するのは大体が一悶着あった相手である。
丁度視線が合った大男が苦々し気に睨みつけてくるのを手を振って追い払うようにして応じ、
そのまま去っていく後姿を見送って肩をすくめ。
「ま、そういうやつらがいるから俺の商売は成り立ってるんだから仕方ないが」
■カイン > 「おっと、仕事の方は終わったか。
終わったからと言って逆に何やるって当てもないが…
案外趣味らしい趣味がないな、我ながら」
隙を狙う連中を適当にあしらいながら、視線を道に向けていると、
合図を向けてくる護衛対象の姿に手を挙げて応じる。
晴れて自由の身、と気こそ軽くなったものの考えてみれば、
酒を飲む位しか趣味らしい趣味がない己の身。顧みて微妙な表情になり。
「何か手を出してみたほうがいいのかね、長く生きるとこの辺頓着がなくなるのが問題だな」
■カイン > 「…ま、とりあえず今ある趣味の欲求だけでも満たしておくか」
肩をすくめて息を吐き出せば客引きに混じって聞こえてくる酒宴の響き。
どこかに混ざって酒の一つ二つ飲み干せば、綺麗に眠れそうな気がした。
そのまま繁華街の街並みに身を躍らせて人混みに紛れて行くのだった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地裏」からカインさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティルニアさんが現れました。
■ティルニア > 初めて足を運んだ王都は、当たり前ながら故郷とは比べものにならないほど華やかだった。
明るい時間に到着できていたものの、見るもの全てが新鮮に思えて、あっちへふらふら、こっちへふらふら。
気がつけば日没の時刻が迫り、過ぎて。
そろそろ宿を探そうかと考え始めて荷物を漁り、ある事に気がつく。
「……うぅ」
落としたか、盗まれたか、持っていたはずの財布がどこにも見当たらない。
そして探して回るうちに道に迷い、いつの間にか治安の悪そうな場所に出てしまった。
手の中にぎゅっと握りこんでいるのは僅かな硬貨。
財布とは別にしていたなけなしのお金で泊まれる宿を探すか、食事をするか、決断を迫られている最中。
少し寂れた印象のある酒場は安宿が並ぶ通りを何往復目だったろう。
くぅと小さくお腹が鳴らすと同時、がっくりと肩を落とした。
■ティルニア > 心細さで気が遠くなりそう。
お金がないとは、こんなにも悲しいものかと天を仰いだ。
往来の真ん中でよそ見をして立ち止まっていれば当然、直後には通行人とぶつかってしまい、怒鳴られるはめになる。
ごめんなさいとすいませんを交互に繰り返しながら、何だ喧嘩かと集まりかけていた野次馬の輪を駆け抜けて。
「…ごはん!」
ご飯を食べよう。自分に言い聞かせるような小声で強く呟いた。
野宿にはそれなりに慣れているから眠くなれば安全そうな場所を探したらいい。
けれど空腹だけはいかんともしがたい、と逡巡に決着をつけて周囲を見回す。
決断は済ませたものの、握り締めたままの所持金が増えるわけもない。
このわずかな金額で一体何が食べられるだろう。今度はそんな悩みに頭が重くなる。
■ティルニア > どちらにしても往来に立ち尽くしたまま悩んでいたところで始まらない。
日中、街中をさまよい歩いたせいで喉も渇いている。
迷っているより行動を。そう考えて、一番近い酒場らしき店の入り口を潜った。
――事情を話し、所持金全額と皿洗いの手伝いという条件でそれなりの食事を取らせてもらえたのは幸運だったかもしれない。
明日からどうしようという悩みは、結局尽きないままだったけれど……。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からティルニアさんが去りました。