2016/11/12 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にヴィールさんが現れました。
ヴィール > 最近、父が家を留守にすることが多い。出かける先はヤルダバオートと執事が話しているのを耳にした。
此方としては如何でもいい。むしろ出かけやすくなって少しホッとしたくらいだった。
いつものように貧民地区をぶらついていると、ふと見かけた裏路地。
所狭しとゴミやら何やら、様々なものが無造作に置かれている。
特に臭いが漂ってくるわけではないので、生ゴミなどがあるわけではないらしかった。
大方、此処ら一帯にある店々が余分なものを置きに来てそのまま…といったところだろう。

「…………」

ため息をつく。
貧民層の生活が推し量られるような物も見えて、国民同士の生活力の差異にもどかしい心地になる。
丸々と太った貴族はこんな状況を気にも留めないのだろうな、とぼんやり思った。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にマノとロノさんが現れました。
マノとロノ > 道に散らばる無数のガラクタ。
その中に紛れるように、2人の小さな人影が身を縮め、身体を寄せ合うように座り込んでいた。
擦り切れた貫頭衣から白い脚を地べたに伸ばし、股間はこれまた白い股布で覆っているが、膨らみから男の子であると想像できよう。
冬も間近だというのに寒々しい格好である。……しかし、多少埃に汚れているとはいえ、過剰に不潔な感じは抱かないであろう。
服も下着も、肌も髪も、数日前に洗ったかのような汚れ具合。
周囲のガラクタと同じく、鼻につくような体臭は全く纏っていない。

路地に入ってくる人影を認めても、その人影2つはまったく動じる様子を見せない。
ひとりは青眼。路地への侵入者に全く気付かないかのように、薄汚れた地べたを焦点の合わない瞳で眺めている。
もうひとりは赤眼。こちらは、歩いてくる少年に対しまっすぐに視線を投げかけている。
いわゆる「ガンつけている」という感じだが、睨んでいるわけでもない。しかし、路地に入ってきた少年をしっかりと視線で追っている。
どちらも口を一文字に結び、ひとことも発しないまま。2人の白い手は、ぎゅっと固く握られている。

ヴィール > ガラクタを避けつつある程度歩いていたところで、視界の端に入ってくる二人の人影。
見間違いかと思い視線を向けてみるが、そこには確かに少年が二人いた。
何せ貧民地区だ、それだけなら特に違和感はない。
しかし、その一方が此方に視線を投げかけているのであれば、怪訝そうな表情を浮かべる。

「……よぉ。……お前ら、寒くねぇの?」

驚かせないようにそっと近づき、微かに腰を屈めるようにして話しかけた。
とはいえ相手は小柄、なおかつ座り込んでいる為か身長差があって話しにくい。
ちょっと待て、と一声かけ、とんとんとその場で数度跳ねる。
すると、二人とそう変わらぬ程にするする背が縮んだ。満足そうに頷く。

「……よし、これで少しはやりやすいよな」

マノとロノ > 他の地区ならともかく、ここ貧民地区において、見も知らぬ他人から興味を持たれることは悪い結果につながりやすい。
そんな場所に座り込んで、通行人にまっすぐ視線を向けるというのはなかなかに危うい行動といえよう。
当然、今回もこうして、裏路地へとやってきた怪しい少年の興味を引くこととなってしまった。
……とはいえ、いきなりイチャモンつけられるかとおもいきや、掛けられた言葉は己等を気遣うセリフだったが。

「んー……寒い。でも、服見つけるの面倒だから、我慢する」

答えたのは赤眼のほう。青眼の少年は、掛けられた声にもほとんど反応を見せない。
地べたに伸ばした脚は裸足。筋肉も脂肪もほとんど付いておらず、棒きれのように細い。見るからに寒々しいが、彼らに震えなどは見えない。
とはいえ、互いに互いの手を握り合い、肩を寄せ合っているさまは、少しでも互いの温もりを与え合おうとしているようにみえるだろう。

そして、自分たちに近寄ってきた少年が、目の前で軽く跳ねると、目に見えて身長が低くなる。
その様子に赤い瞳は大きく丸く見開かれ、好奇の色を帯びる。
そしてやや遅れて、自分たちの身長に合わせてくれたのだという意図を察したのか、彼らは身を起こして素早く立ち上がった。
今まで反応らしい反応を見せなかった青眼のほうも、すたっと機敏に。完全にシンクロした動きだ。

「まほう……? きみ、魔法で背を縮めたの? ……というか、この辺の人、じゃないように見える……」

性徴の感じられない声で、赤眼がそう問いかけた。

ヴィール > 幾ら自分でも、見ず知らずの人にイチャモンをつけるような真似はしない。
赤眼の少年の言葉にふぅん、と小さく鼻を鳴らして頷き、そして一切口を開かず反応を見せない青眼の少年へと視線が移った。

「変な奴だな。我慢しすぎて身体壊しても知らねーぞ」

筋肉も脂肪も見えない、まるで骨に皮を張り付けたかのような細さの裸足。
見ているだけで寒々しく感じるそれを一瞥し、また少年の顔を見た。
見比べてみれば、双子だろうか…ということくらいはわかる。
しかし、身長の伸び縮みに対して機敏に反応を示す二人を見て思わず肩を竦めた。
二人が立ち上がれば、身長はほぼ同じということが如実にわかるだろう。

「……あ、あぁ。魔法。……つっても俺はこれと、あとは簡単なものを動かす魔法くらいしか使えねぇけど」
「ん……この辺には住んでねぇからな。また別のトコだ」

マノとロノ > 「やっぱり。僕たちはこの辺でしばらく過ごしてるけど、君のこと見た記憶はない……って、ロノが言ってる」

まっすぐに目の前の相手を見つめたまま、赤眼が言う。
隣の青眼はなおも相手を直視せずにぼんやりと宙を眺めているが、赤眼に呼ばれた名前に反応したのか、こくりとうなずく仕草を見せた。

「それに、君の服も……この辺の人とは違う。綺麗な身なり。どうして、こんな危ないとこに来たの?」

自分たちもまた貧民街暮らしにしては十分清潔な身なりをしているが、それを棚に上げて、違和感を指摘する。
変なやつ、と呼ばれたことに少なからずや反発しているのかもしれない。表情はどちらも喜怒哀楽が薄く、ボケッとしたままだが。

「魔法。あまり他の人の魔法は見たことないし、背たけを変える魔法ははじめて見た。
 ……僕たちも、魔法……っぽいのは少し使えるよ。ものを動かしたりも。
 身体を暖めたりもできるから、冬もそんなに辛くない。背をすぐに伸ばしたり縮めたり、はできないけどね」

言いながら、赤眼は目の前の少年を頭の頂から足先まで何度も視線を往復させ、彼の背丈を興味深げに観察している。

ヴィール > 「ロノ?…って、そっちの?」

頷く仕草を見せた青眼の少年の方に視線を向ける。
気持ちを共有しているのだろうか、と。何とも不思議な眼差しで二人を見ていた。

「んー……まぁ、この辺に比べればそうか。…大したことじゃねーよ。この辺に友達が多いから、たまに遊びに来てるだけだ」

まさか先程の発言に反発されているなんて思いやしない。表情は変わらないように見えるから尚更だった。
そもそも、粗野な口調は生まれつきだ。

「……まぁ、物を動かしたり何だりって方が普通の魔法だな。これはちょっと特殊」
「そっか。なら、心配するだけ野暮だったかな」

興味深げに見られれば、居心地悪そうに身じろぎする。

「一応、自己紹介しとくか。……ヴィールって呼んでくれれば良い」

マノとロノ > 「そう、こっちはロノ。僕はマノ。そして君はヴィール。よろしくね」

互いに握ったままの手を軽く振って隣の人物を小突きながら、赤眼が名乗る。
やはり青眼は口を開かないが、目の前の人物に軽く会釈を見せるときは2人とも揃った動きで頭を下げた。

「友だちがいるんだ。いいなぁ。
 ……僕たちには友だちがまだいない。友だちがいたとしても、どういう遊びをするのかもわかんない。
 僕にはロノが、ロノには僕がいるから、それでしばらくはいいかなって思ってるけど……」

ぎゅ、と2人を結ぶ手と手の握りが強くなるのが見える。血管が透けて見えそうなほどに色素の薄い腕に、骨が浮かぶ。

「ヴィールは、この辺の友だちと、どういう遊びをするの?
 魔法を使って遊ぶの? それとも……その……わるいことをしたりするの?」

表情はまったく崩さず、仏頂面のままで、目の前の少年に率直に問う。

ヴィール > 「よろしく。……ロノに、マノか。名前もよく似てる」

違いといえば瞳の色くらいか。
一礼に頷き、此方も浅く頭を下げた。

「……友だちか。遊ぶことはもちろんするし、一緒にいると安心できる。一人いるだけでも嬉しいよな」

手の握りが強くなるのを見、瞳を細めた。
率直に問われれば、一部の意味を分かりかねて首を傾ぐ。

「わるいこと……って、なんだ? まぁ、魔法使って遊んだりとか、くだらねぇ話をしたりとか。色々だけどな」

マノとロノ > 「一緒にいると安心……かぁ。じゃあ、僕とロノも友だち、なのかな」

瞳の色以外は似通った、いや、まったくと言っていいほどに同一の見た目をした2人の少年。
手を握りあったまま、互いに首をひねって軽く互いの顔を見、そしてまたヴィールのほうへと向き直る。
……男同士でいつも手を握り合い、似た装いをし、身を寄せて路地裏に座り込む。友だち以上の関係であることは想像に難くないだろう。

「魔法を使って遊んだりもするんだね。楽しそう。
 ……ええと、たぶん、少し無礼な質問……だったのかな。だとしたらごめんね、ヴィール。でもね……」

相手が質問に首をかしげる様子を見ると、マノの赤眼は一瞬伏せられて地を舐め、逡巡を見せたのち再びヴィールの顔を真っ直ぐに見つめ直す。

「この辺で、わるいこと……人の持ち物を盗んだり、殴りつけたり、あと……いろんなことをする人。
 そういう人ってだいたい、何人かで一緒に行動してそういうことしてるから。
 それに、僕たちに前に「友だちになろう」って言った人も、ついていったらそういう嫌なことをしてきた。遊んだりせずに。
 ……ちょっと、疑っちゃったの。ごめんね、ヴィール」

感情も抑揚も薄い、しかしながらよく通る声で、そう訴えるマノ。

「一緒にいるだけで安心、いいね。そういうのが、ほんとの友だちなんだね」

ヴィール > 全く同一の見た目をした少年が二人。
顔を見合わせる仕草の息もピッタリで、似た装いをして、二人身を寄せ合う様は友達にはとても見えず。

「あれ、……兄弟かと思ってたけど。違うのか、お前ら」

首を傾ぐ。しかし、無礼な質問という言葉にかぶりを振って緩い否定。

「違ぇよ。いまいち、わるいことってのがどういうことかわからなかっただけだ」
「……なるほどな。……特にこの辺はそういう奴ら多いからな。気をつけろよ、下手についてっちゃダメだからな」

注意喚起。
場所は此処では無いが、自分も経験が無いわけではないから言える。
それから一息ついて、二人の顔を見直して。

「嫌なこと、か。……例えばどんなことだ?」

マノとロノ > 兄弟とは違うのか、という問いには今度はマノのほうが軽く首をかしげる。

「んー、僕とロノは兄弟だよ。どっちが兄で弟かってのは分からないけど。一緒の所で、ほぼ同時に作られたから。
 兄弟だし、友だち。……んー、もしかして、兄弟は友だちって呼ばないのかな?」

再び、何度も互いをチラチラと見合うマノとロノ。薄暗い路地裏にあって、色鮮やかな赤と青の瞳は妙に鮮やかに輝き、鮮烈な対比を見せる。
……見る人が見れば、その瞳にどこか人工的な雰囲気さえも感じるかもしれない。

「嫌なこと、例えば。今言った、殴られたりとか盗まれたりとか、以外だよね? うーん……。
 ……どうだったかな、ロノ」

嫌なこと、について具体的に問うてくる相手。貧民街における窃盗・暴行以外の「嫌なこと」。
……思い出したくもない事柄が闇の中にいくらでも潜んでいそうな話だが、しかし。
マノはその質問に抗議するそぶり、嫌悪感さえも見せず、これまでのやりとりと違わぬ口調で、隣の兄弟に問うた。
ロノは相変わらず口を噤んだまま。しかし、数秒後に、マノの身体がびくりと大きく震えた。

「………うん。ロノは覚えてる。思い出してくれた。
 ええとね、僕たちより…いや、ここに来たときのヴィールよりもひとまわりでかい男の人にね。友だちになろうって言われたんだけど。
 ついて行ったら、どこかの家の地下室に引っ張っていかれて、硬いベッドに仰向けに寝かされたの。
 そして、手足をなんか鉄っぽいもので繋がれて動けなくされて。
 上に、その男の人が乗っかってきて、身体を舐められたりして……」

凌辱の経験を、マノの色素の薄い口と舌がよどみなく紡ぐ。まるで伝え聞いた他人事のように。
さすがに恥辱的な内容を口にしている自覚はあるのか、二人とも徐々に頬が赤らみはじめ、呼吸が荒くなる様子を見せる。
しかし、それ以外はあくまで淡々と。常人であれば口にするのも憚られるような話を、マノは叙述し続けていた。

ヴィール > マノの話を聞き、今度はこちらが首を傾ぐ番だった。

「作られた? ……いや、兄弟はあまり友達とは言わないんじゃねーか。友達ってのはこう、血の繋がりのない他人同士…とか」

じわりと二人から感じる人工的な雰囲気。
心の中に小さな推測が一つ浮かんで、大きくなっていく。先程からの口ぶり、二人の様子といい、あながち間違ってもいないような。

そして、覚えているというロノの記憶を、マノの口伝いに聞く。
耳を傾けている内、徐々に赤らみ始める頰を見てキュッと唇を引き結んだ。思わず両手を伸ばし、マノの肩に手をかけて止めようとする。

「……わ、わかった。もういい、大体わかった。……辛かったろーな。聞いたりして悪ぃ」

マノとロノ > 「ん、もういいの? じゃあやめるね」

仏頂面のままで淡々と衝撃的な描写を連ねるマノだったが、肩を掴まれ諭されればすぐに記憶の再生を止める。
そして、自らの肩に触れるヴィールの手に、マノの白く細い手がそっと重ねられた。
その掌は血の通っている感覚こそあるが、冷え切っていて、そして骨の芯からわずかに震えていた。

「ヴィールの手、暖かいね。
 ……んー、その時は痛くて重くてつらかったし、いまロノに思い出させたときも、その時の半分の半分くらいつらかった。
 でも、聞かれたら答えたくなるし、思い出すのをやめればすぐにつらくなくなる。だから、ヴィール、気にしないで」

白かった頬に紅を差したまま、マノはうっすらと目を細め、彼なりの笑顔を作ってみせる。
ロノはといえば、辛い記憶を引き出している最中からずっと仏頂面のままだが。

「兄弟は友だちじゃない、かぁ。まぁいいけど。僕とロノはふたりでひとりだから。呼び方は気にしないことにする。
 でも、そしたらやっぱり友だちは他人と作らなきゃいけないかぁ。どうしようかな……」

ヴィール > すぐに再生を止めるようなら、ホッと一息つく。
肩を掴んだ手にマノの手が触れる。大きさもほぼ変わらないそれは、冷え切っていて、震えているのが伝わった。
微かに眉を顰め、掌を返してその手を軽く握る。

「……半分の半分。…辛かったのは変わりないんだろ」

気にしないでと言われ、少し困った顔を浮かべた。
特に振りほどかれない限り、マノの手を握っている。
仏頂面を崩しやしないロノの方を一瞥しながら、どうやら笑顔らしい、マノの表情を見つめる。

「……なら、俺が友達になってやろうか。……二人が良ければ、の話だけどよ」

マノとロノ > 「別に、どうってことないよ。いまは辛くないから。
 辛いことはあったけど、過去のこと。楽しいこともあったけど、過去のこと。どれも全部、その時だけのこと。
 今はヴィールとお話してて楽しいから、それでいい。だから、僕たちに聞きたいことがあったら、なんでも聞いてね」

振りほどくこともせず、互いの体温を交換し合うようにヴィールに手を預けるマノ。
骨ばった手の甲にも徐々に温もりが宿っていく。

「友だち。ヴィールと僕は、ヴィールとロノも友だち。うん、いいよ。大丈夫」

先ほどと同じ、うっすらとしたはにかみの笑みを浮かべるマノ。
相変わらず口調は淡々としていて、嬉しそうには聞こえないかもしれない。

「ヴィールが、僕たちより前に友だちだった人と、どういう遊びしてたのかな。僕もロノも知りたい。教えて?」

……友だちになるという行為そのものへの興味は深々のようだが。

ヴィール > 「……そうか。……なら、俺からはもう言わない。聞きたいことは……また今度」

体温を交換し合うように、手を握る。
己の温もりをゆっくりとマノの手に移してゆきながら、顔を上げて赤い瞳を何となく見つめる。

「……ん、なら。俺らは友達、だな。………どういう遊びかっていえば…」

少し考え込む。ひとくちに遊びと言っても相手によりけりだ。
此処ら辺に住んでいる友達ならばごくごく平凡な付き合いをしている。
それ以外――少し特殊な友人も自分にはいるわけで。

「……魔法使って遊んだり、色々話して時間を潰したり。あとは……」

少し言い淀む。