2016/08/11 のログ
アナスタシア > 聖女、などでは無い。
こんな醜い感情に容易く支配される己は、やはり彼らの云う通り、
悪魔憑きなのかも知れない、とさえ思う。
一体何が愉快なのか、己の醜悪な様を目にし、耳にして、何故、
彼女は此れほど愉快そうに笑うのだろう。

素晴らしい、だなんてとんでもない。
そう反駁したくて、声にならず頭を振った己へと、武器を打ち捨てた彼女の腕が迫る。
今はもう、唯の修道女などでは無いと解っている彼女の抱擁を、
避けようと思えば幾らでも出来た筈なのに―――捕まって、しまった。
強張り震える身体を、彼女の懐へ。柔らかな感触は何処か、遠い昔に、
泣きじゃくる幼い己を抱き締めてくれた、若き日の母親に似ていた。

「……わ、たく、し……わたくし、…――――」

勿論、頬を伝う涙にも癒しの効果はある。
彼女が傷を負っているならたちどころに消え、疲労は回復し、
或いは軽やかな高揚感すら覚えるかも知れない。
対して己が感じるのは、ベルベットの唇が肌に触れる、艶めかしくも悍ましいような感覚。
―――本能が、頭の片隅で警鐘を鳴らした。

「……わ、た…くし、…わたくしは、――――

 わたくし、に、愛される、資格は、もう、……だって、みんな、もう…

 わたくしを、愛してくれる、ひとは、もう、みんな……燃えて、しまった、もの…、


 ―――― やめ、て…離して、……離して、下さ……。

 わた、くしに、もう、……誰も、触れな…で、……」

期待したくはない、もう、期待して失い、傷つきたくはない。
臆病な小娘の心は頑なに、温もりを拒もうともがいていた。
ぎこちなく身を捩り、彼女の腕を振り解こうと、―――すればするほど、抱き竦める力が強くなるような錯覚。
赤味の薄らいだ瞳が涙に濡れる儘、初めて、彼女を怯えたように見つめて揺らいだ。

ご案内:「王都マグメール貧民地区 裏路地」からアナスタシアさんが去りました。
セリオン > 女は、幾度も人を嬲った女は、人の心の動きを知っている。
愛される資格は無い、などという者は、本心では愛を望んでいる者ばかりだと。
真に愛を望まないなら、ただ愛されたくないと拒めば良い。
期待しながら、それを求めないことで心の安定を保ちたいと――そういう者ばかり、資格を口にする。

「放しません――貴女を犯します」

だから女は、逃げ道を用意してやる。
夜の疲れも眠気も、少女の涙に癒されて、血が沸き立つような昂揚に蹴立てられて。
女は、抱き留めた少女の体を路地裏の地面――否。

「貴女が望もうが、望むまいが、私は貴女を犯す――貴女を愛する。
 貴女が愛に飢えて、愛する者なくては生きられぬようになるまで乱してあげましょう。
 ねえ……悪魔憑きと謗られ、罵られた貴女が、悪魔のように淫らに泣き喘いだら――
 きっと不思議なことに、誰もが貴女を愛したくなると思いますよ?」

少女の背は、人の肉体に触れるだろう。
少女を罵りながらその血で命を繋いだ、醜い男の体が、少女の背に下敷きにされる。
路地裏の、地面か石畳か、堅い感触に比べれば体を痛めないが、それ以上に悍ましい寝床である。
女の手は、力強い。
凶器に成り得る手だ。人を殴り殺せる手だ。
事実、幾つもの命を奪って来たのだろう。
そういう手が、少女の修道衣を掴み、首元から、縦に引き裂こうとする。
体の前面を覆う布を、引き裂き、開き、その下の肌を探し求めるように――

「それに私は――貴女を傷つけてみたくて、仕方がないのですよ」

そう言いながら、女は、少女の喉元へ口付け、軽く歯を押し当てた。
これが獣の牙ならば、忽ちに血の飛沫が上がるだろう、薄く柔らかい部位への口付けに――くすくすと笑声の振動が、女の舌から喉へと伝う。

セリオン > 【中断】
ご案内:「王都マグメール貧民地区 裏路地」からセリオンさんが去りました。