2016/08/10 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区安宿」にソワカさんが現れました。
ソワカ >  扉より壁のほうが薄いとしか思えない安宿にて。
 裸にシャツ一枚だけを纏った女が宿の従業員のしかめっ面に対し硬貨を数枚握らせていた。
 曰くここはそういう目的の宿ではない云々。
 つまるところ一晩共にした人物との行為が激しすぎたせいか苦情の申し立てがあったということで。しかめっ面とは言うもののにやけ顔に限りなく近い。
 昨晩はお楽しみでしたねを素で行くような言葉かけであった。

 「すまないな。これで足りるだろうか。
  つい声が激しくなってしまってね、いや私としたことが自制の聞かない己の身を呪うばかりだよ」

 などといいつつ追っ払うと、部屋の奥へと引っ込んでいく。
 ベッドにするりと身を忍び込ませると一晩ともにした人物に声をかけた。

 「行ったようだね。起きているかい?」

 反応は今のところ見られない。
 口元を緩めると、部屋中に転がる酒瓶を見てため息を吐く。飲みすぎからの狂乱染みたからだの貪りあい。果たして相手が誰だったのかも覚えていない。かすかに頭が痛かった。

ソワカ >  よくあることだ。
 女はベッドに入るのも忍びなく思ったので、水差しを取りに窓辺へと歩み寄っていく。
 水差しから水を飲むと、ベッドへと戻っていく。
 もう一戦よりももう一眠りしたかったのだった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区安宿」からソワカさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール貧民地区 裏路地」にアナスタシアさんが現れました。
アナスタシア > 貴族の生まれであり、焼け落ちた屋敷を小さな教会に建て替えた、とは云え、
昔も今も、所謂富裕層の住む街区をホームグラウンドにしている身だが、
此の辺りへ足を踏み入れることが無い訳では無い。
孤児院へ慰問に訪れたり、奉仕活動に訪れたり。

―――然し、今宵。
暗がりにも仄白く浮かび上がる修道衣姿で裏路地に佇み、
更に深い闇の中へ紛れ込むように蹲る「誰か」に相対する己は、きっと、
聖女とは名ばかりの冷やかな面持ちを晒している。
薔薇色の唇から零れ落ちるのは、うんざりした、と云わんばかりの溜め息であり。

「――――仰りたいことは、其れだけでしょうか?」

此れまでにも、幾度と無く問われた。
幾度と無く、罵られた。
曰く、一族の生命を悪魔に捧げて、得体の知れない力を手にしたのだろう、と。
静かな怒りが瞳の色を、薄っすらと紅く染めてゆく。
其の双眸を鋭く細めて、暗がりの中から此方を見上げてくる男の、おどおどと動く小さな双眸を見据え。

「……本当に、随分と……零落れたものですね。」

かつては屋敷で、兄の家庭教師の座に収まっていた男だ。
要するに此れは、唯―――職を失い、見る影も無く凋落を極めた男の、単なる言いがかり、なのだった。

ご案内:「王都マグメール貧民地区 裏路地」にセリオンさんが現れました。
セリオン > 争い事の気配を探していた。
人を嬲ることは快楽であるが――性的行為だろうが、暴力的行為だろうが、そこに大きな差は無い。
他者の意を蹂躙する機会が有るか無いか、それが肝心なのだ。
なら、裏路地を歩くのが良い。
多少の無茶をしても、露見するまでが長いから。
そういう思惑で、女が歩いていた。

前方に探し物、争い事の雰囲気を見付けた。
二人。
その二人の内、片方が男で、片方が少女であるのを見て取った時――

「そこの方々、いけませんよ」

と、身に着けた修道服に似合いの、窘めるような言葉、穏やかな笑みと共に告げて間合いに入り込み。

「こんなところにいたら、危ないではありませんか」

心優しい修道女の微笑みと共に、腰のメイスを引き抜いて、男の顔目掛けて思い切り振り抜いた。

アナスタシア > 成る程、ちょっとした諍い、小競り合いの類から、血みどろの殺し合いに至るまで、
此の界隈ではきっと珍しくも無いだろう。
けれどきっと彼女の思惑に、初見で気づける者など居ない筈。

うら寂しい路地に響く、涼やかな声音に振り返った先。
流れるような身のこなしで現れた彼女は、一見、己と同じ――――
清らかな信仰に生きる者、と見えた。
一介の修道女が携えるには余りにも禍々しい、腰のものに気づくのは、
彼女が何の躊躇いも無く振り抜いたメイスが、男の薄汚れた顔面を直撃した後の事。

「――――、っ……!」

刹那、呼吸が止まった。

重い打撃音に続く、奇妙な静寂。
次いで、此の世のものとも思えぬ醜い悲鳴を上げ、赤黒い液体を吐き散らし乍ら
のた打ち回る男を、暫し、茫然と見つめた後。
零れ落ちんばかりに見開いた儘の双眸を、打擲の主へとぎこちなく向けて。

「……… ぁ、……」

貴女、一体、何を。
―――そう問いたかったけれど、声が出て来なかった。身体も強張った儘、身動ぎひとつ出来ず。

セリオン > 振り抜いたメイスに付着する、血と皮膚と肉の混ざった色合い。
それを女は、全く変わらぬ微笑みのままに見てから、男の衣服の裾で拭った。

「おお、見苦しい」

虫の如くにのたうつ男を見下ろし、楽しげに追い打ちの一言。
それからようやく、少女へ視線を返す。
怯えか驚愕か、此方へ向いた視線を、細められた瞼の奥に受け止めて――

「おや、丁度良い、神の徒ですか。手当てはしてあげないのですか?」

と、問うた。
手当て――血を拭うか、血を止めるために包帯でも巻くか。
顔を鈍器で潰された人間に、一介の修道女に何ができるというのか。
そう問われれば、何もできないと答える他は無かろうが。

「神の子羊が1人、痛い、痛いと苦しんでいますよ」

神の名を容易く口にする女は、さて、神の存在を信じているやら、どうやら。

アナスタシア > 彼女は美しく、微笑すら湛えたような表情の儘。
男の血で汚れたメイスを、彼自身の着衣で拭う、酷薄さすら魅惑的に映るほど。

―――そう、己の目には確かに、彼女は美しく。
足許で這いずる男は、唯、愚かしくも薄汚く見えていた。

「……… 手、当…て……、」

近づいて、跪いて確かめてみるまでも無い。
男は酷い怪我を負っており、其の怪我を負わせたのは彼女であり、
己には―――男に対して、出来ることが、ひとつだけ、有る。

けれど己は空虚な眼差しで男を見下ろし、身体の前で組み合わせた両手の指先に、
ぎゅっと力を籠めてしまう。
何もしない、何も、する気は無い、という、意思表示と云わんばかりに。

「―――其の、男は。
 羊は羊でも、ひとを陥れようとする、怠惰で薄汚れた黒い羊です。
 わたくしは其処まで、慈悲深くはなれません」

最初の衝撃は、既に遣り過ごしている。
残るのは冷やかな、凍りつくような、嫌悪の情ばかりだった。

セリオン > 「へぇ……人を赦す赦さぬは、貴女の宗派では、人が決めるのですか。
 しかしこの人は、どうしてそこまで嫌われたものでしょう。
 仮にも、信仰に生きる者の姿をした貴女が、蟲を見るような目で見下すほどに――」」

女は、満足気に頷く――何故か。少女の答えが、我欲に満ちたものであるからだ。
人の赦しを神に問わず、己の一存で決める――そういう傲慢さこそ、女には好ましい。

「そーれっ」

突然の、女童が遊ぶような、快活な掛け声。
女は両足で跳躍し、のたうつ男の右膝の上に着地したのだ。
ばきん。
膝の皿が砕け、関節が圧し折れる音。
苦痛の呻きが、路地の壁に反響する。

「別に、貴女が救わないのは構いませんが――」

再び、跳躍。次は左膝だった。
関節は、完全に破壊されてしまえば、例え治癒したとて、完全な形では元に戻らない。
恐らくこの男は、この先、腕の良い医者に掛かったとしても、両足に何らかの不具を生じるだろう。
尤も、それは――

「貴女が何もしなければ、この人、ここで死にますよ?」

――この場を生きて帰れたら、という条件が付くが。
少女が酷く憎んでいるらしい男の命を、お前は見捨てるのかと、女は笑いながら問うのである。

アナスタシア > 「わたくし―――、」

如何して。
何故に此の男を許せないと思ったのか、憎いと思っているのか。
此れほどまでに凍てつく憤りを抱えてしまうのか、彼女に指摘されて初めて、
ふと疑問に思う有り様。
きっと信仰には反している、己は慈悲を与えるべきだ。
けれど、―――けれど。

逡巡する間に、彼女がやけに朗らかな声を響かせる。
はっとして俯いていた視線を上げれば、ちょうど彼女が、這い回る男の膝上へ、
容赦の無い追撃を与えた処だった。
ひとの骨が砕かれ、関節が圧し潰される音。
断末魔の如き苦鳴が罅割れ乍ら、路地裏に反響する。

そうして、もう一度。
思わず眼を閉じ、顔を背けてしまったのは、決して男に対する慈悲からでは無く。

「―――― わ、た……くし、……」

見捨てるのか。見殺しにするのか。
躊躇い乍ら唇を開いて、己は何と答える心算だったのか。
けれど次の瞬間、血塗れの歪な眸で己を捕らえた男が、絞り出すような声で喚いた。

『此の、穢れた悪魔憑きが―――!』

――― 一瞬にして、思考は固まる。
白い衣の裾を捌いて男の許へ歩み寄り、髪を留めていた銀色のヘアピンを毟り取ると、
鋭い先端で己の掌へ、深く切り裂く傷をつける。
滴る紅い血を、男の口許へ、掌ごと押し当ててやり乍ら。

「悪魔憑きの、穢れた血よ、……とっくり、味わったら良いわ……!」

振り解こうとしたのか、顔を背けようとしたのか、何れも許さずに押しつけて。
―――程無くして、しゅうしゅうと白い湯気を放ち乍ら。
あれほど手酷く扱われた男の傷が、跡形も無く癒えてゆく。
其れを赤紫に染まる双眸で見据える儘、己は低く、掠れた声で。

「……此れが、わたくしの答え、ですわ。御満足、頂けたかしら。」

セリオン > 迷え、迷え。迷う人間は弱くなる。
そうして弱った人間こそ、餌食とするには容易くなる。
女は、少女の葛藤を楽しんでいた。
然し――耳にした言葉。

「悪魔憑き……?」

今の世には、幾らでも見つかる存在――悪魔憑き。然し、目の前の少女がそうであるとは思っても居なかった。
そういう類の生き物は、聖なる存在の姿を取るのは、あまり好まないのでは、と。
好色を表に出し、男女問わず誘惑する姿こそ、悪魔憑き――魔族に魅入られた者の姿である、という印象。
故に女は、珍しい言葉を聞いた、と思った。
だが、それ以上に、珍しいものを見ることとなる。

「……おおっ?」

自らの手に傷を付け、流れる血を、男の口へ押し付ける少女。
すると、男に刻み込んだ傷が、忽ちに消え失せて行くのである。
これは――何だ?
竜の血には、そういう力があると聞く。悪魔の体液なら、人に毒である。
ならこの少女は竜だとでも言うのか――そうでなくとも、常人とは思えない。

然し、その心の内はどうか。

「成程、成程、見事なものです。救ってしまえる力を、持って生まれてしまったという訳だ。
 満足したかと聞かれますと、また悩むところではありますが――」

女は、メイスを、腰のベルトに戻した。
代わりに引き抜いたのは、斧。安物の、刃も所々欠けた、愛着など持たれずに使い潰される凶器。
それを、男の、たったいま完治したばかりの膝へと振り落とした。
ざぐん。
先よりも、音は小さい。打突でなく、斬撃だからだ。
然し噴き出す血の量は、比較にならぬ程――だくだくと、ごうごうと、男の膝の切断面から血が流れる。

「もう一度、救いますか? 何度でも? 何十度でも?」

女は、少女の心根を試し、弄ぼうと企む。
『穢れた悪魔憑き』とまで少女を罵ったこの男を、少女は、二度救うのだろうか。
いや――何度でも、救うのだろうか。
既に少女には分かっているだろう。この女は、少女が男を癒す限り、何度でも男を破壊する。
だがそれは、世の形、そのものである。

「いかなる善を自称するものが、人に赦しを与え、施しを為そうとも。
 あらゆる悪を体現するものが、人に痛みを与え、一切を奪い取る。
 いったいにして神を信じる者というのは、無限に無益の善行を積めるのか――それを、私は知りたいのです」

アナスタシア > ―――其れは今までにも、幾度と無く浴びせかけられてきた言葉だった。
幼くして悪魔に魂を売った娘、本当は家族よりも真っ先に、
煉獄へ堕ちて焼かれるべき娘だ、と。
けれど――――

己が憤れば憤るだけ、冷えてゆく胸の内とは裏腹。
朱の色を滲ませる肌からは、蠱惑に満ちた甘い香りが立ち上る。
男に血を分け与えるべく、切り裂いた傷も容易く薄れて消えてしまう。
どれひとつとっても、聖女どころか、真っ当な人間のモチモノでは、無い。
けれど其れでも――――

「……救った、心算など、―――」

そうでは無い、そうでは無くて。
刹那、もどかしげに噛み締めた唇から、次の言葉を紡ぎ出すよりも早く。
彼女が取り出した斧が唸りを上げて、男の脚を膝から分断する。
一拍の間を空けて、口から泡さえ吹き乍ら喚き始めた男の口許へ、此度は傷もつけぬ儘、
白い掌を押し当ててやれば―――男は自ら黄色い歯を立てて、己の皮膚を食い破る。
溢れ出す紅、喉を鳴らして其れを貪る男の様子を、苦痛すら忘れたかのごとき無表情で見つめ乍ら。

「わたくし、此の男がずっと前から嫌いでした。
 大して賢くも無い癖に、大口ばかり叩いて―――綺麗な格好をしていても、
 なんて醜い人だろうと思っていましたの。
 ―――今でも、わたくし、此の男は大嫌い。

 だから、より醜くしてやったのです。
 悪魔憑き、だなんて、…ひとを、散々罵っておいて。
 其の、悪魔憑きの血を…自ら貪ってまで、生き残ろうとする、なんて。
 なんて、……醜い。」

ふつり、其処で言葉を途切れさせて、美しい彼女を振り仰ぎ。

「貴女が何度でも、此の男の命を玩ぶの、なら。
 わたくしも何度でも、…此の男を醜く堕として、笑ってやれますわ。
 助ける、だなんて、……慈悲、だなんて。」

とんでもない、と呟いたと同時、眦から透明な雫が転がり落ちて頬を伝う。
怒りに任せて醜く私怨をぶちまける言葉を裏切るように、清らかな涙が、ひと筋、ふた筋と。

セリオン > 「……成程、とんだ聖女様でいらっしゃる」

愉快が喉からせり上がり、抑えきれずに女は声を上げて笑いだす。
さて、目の前の少女はどうか。
男が嫌いだと、醜いと、幾らでもその行為を繰り返せば良いと嘯きながら、泣いているではないか。
何が悲しい。
自分の醜い感情が分かってしまって悲しいというのか。

「貴女は、素晴らしいひとですね」

女にしてみれば、その感情こそが美しいのだ。
建て前、虚飾を剥ぎ取った、好きなものは好きと、嫌いなものは嫌いだと。
好ましいものへと全力で向かい、忌まわしいものから遠ざかる、本能に任せた生き方こそ至上であると。

メイスを、斧を、路上へ投げ捨てた。
女は、涙を流す少女へと迫り――

「醜いものを、忌まわしきものを、世から消し去りたいと望むのは、正しいことです」

両腕で、少女を抱き締めようとする。
それが叶えば少女の頬に口付け、流れる涙を啜ろうとするだろう。
その行為にさえ、『この涙にも癒しの力はあるのか』と、一種の打算が込められているが――

「何故、世は醜いのか。それは、人が、人を愛そうとしないから――と、ありきたりの言葉を良く聞きます。
 然し、その教えも半ばは正しい。愛するに値する美しい者で世が満たされているなら、人は互いに愛し合えるに決まっています。
 そうならない理由は――ひとえに、人が、愛されるに値しないから。
 そういう人間を貴女は、きっと、幾らでも知っているのでしょうね――」

陶酔と共に発する言葉には、一種の狂気さえも孕みながら、女の声は酷く理知的だった。
知性と狂気が、共に備わっている。

「――だから、貴女の口から聞きたい。
 貴女自身は、人に愛されるに値するものなのか――貴女自身は、人に愛されたいと望む者なのか」

その答えが何れであろうが。
女の腕は鋼の枷の如く、少女を捕え続けようとするだろう。