2016/01/20 のログ
ロレンス > 木箱を吹き飛ばすと、飛び出した姿は女。
手にした短剣を、近づきざま心臓めがけて突き刺そうと、突撃を仕掛けてくる。
横にステップを取りながら刃を避けると、半身に構えながら掌を女へと向けていく。

「私から手を出したとはいえ、いきなりの挨拶だな。私に何か恨みでもあるのか?」

問いかける男の表情は変わらず、淡々と冷静に問いかける。
その姿に苛立ちを見せる彼女は、砦で死んだ恋人の敵だと切っ先を再び向けてきた。
なるほど、それはしつこく追い掛ける理由となると、彼は一人で納得していたが。

「だが、私が君の恋人やらを殺した証拠はあるのか?」

魔族故、人間の軍勢と戦うこともある。
無益な殺生は好まぬが、それでも殺した人間の数はとても数えきれない。
問いかけには、魔族はすべて敵だと女は喚き、嗚呼と男は理解のつぶやきをこぼす。

「すべての魔族が憎いか、ならば私も死んだ部下のために君らを憎むべきだろうか?」

そんな問いかけを掛ける中、女は再び短剣を突き刺そうとしてくる。
しかし、今度は刃は避けず、突き出されたそれを掌で包むようにして捕まえて、握力で封じ込めていく。
僅かに裂けた皮膚から血をにじませても、男の表情は全く変わらない。

「君の恋人は、君や愛したものを活かす為に散ったのだろう? ならば、この行為…恋人への冒涜ではないか?」

諭すように語りかけながら、青年は女の目をじっと見つめる。
人と通じ合うときは目を見よ、ありきたりながら真面目にそれに従い、問いかけの答えを待った。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区 人気のない場所」にヴァイルさんが現れました。
ヴァイル > 突如、夜気を切り裂いて紅の短剣が飛来する。
青年に対峙する女の背後からのそれは、防ぎさえされなければ
彼女の首筋に突き刺さり、簡単にその生命を奪うだろう。

「ずいぶんとお優しいことだ」

嘲るような響き。
短剣が飛んできた方に目をくれるならば、いつのまにかそこには新たな人影がある。
遠目には女性とも見紛う容貌の、白い肌の少年が、薄ら笑いを浮かべている。
人の形をしているが、それに漂う気配で、魔の者と看破することは容易だろう。

ロレンス > 「……っ!?」

風切る音、夜の闇を切り裂く赤い刃に気づけば、女を地面へと引き倒してしまう。
そして狙いを失った刃は青年の方に突き刺さり、鮮血がじわりじわりと滴り落ちていく。
驚く女を他所に、ちらりと少年の姿を一瞥すれば苦笑いを浮かべながら女の瞳を見つめる。

「……よく、考えることだ。あの同族が言う通り、私は稀らしい」

次、他の魔族を襲おうものなら死が待ち受けると宣告すると女を逃がそうとする。
追撃させぬように、自身の妹を女に向け、少年との間に立つように振り返れば刃を引き抜き、地面へ転がすだろう。

「君のような振る舞いのほうが私からすれば下膳だ、力を持つならば、相応の振る舞いを知るべきではないか?」

弱者の命を弄ぶ暴力、それは彼が忌み嫌う魔族の粗暴性。
戦うことも争うことも否定しないが、そうあるべきでないものにすら刃を向けるのは甚だ憤りを覚えるもので、声の音は少し尖っていた。
女の時と同じく、彼の目をじっと見やるが、その顔立ちは少々睨んでいるようにも見えるかもしれない。

ヴァイル > 短剣が引きぬかれて地面へと落とされれば、すぐに鋭さを失い、紅い水溜りと化す。
どうやらこれを投げた少年の血から造られたものであるらしい。

次なる刃を造り、放たんとしたが――男が女を庇い、逃がそうとするのを見、
それを止めてただ嘲笑を深くした。

「おれと同じ血を吸う悪鬼に道義を語られることほど、滑稽なものもないな。
 それとも飲まんのか? トマトの絞り汁を舐めて過ごしているのか? ん?」

若い少年の涼やかな相貌には似合わぬ粘ついた語り方。

「いくら潰しても湧いてくるような卑小な人間ごときに示す優しさなどはない。
 己に刃に向けた者には、情ではなく刃をもって報いるべきとは思わんか」

睨みつけるような視線にも馬鹿にしたような態度は崩さない。

ロレンス > 刃が血となって崩れていけば、同種の魔の者と察しがついた。
追撃を阻むことに成功すれば、後は女が無事に逃げおおせるのを祈るばかりだ。

「悪鬼か、確かに血を啜る鬼と揶揄されることも確かだがな。飲むさ、麗しの美女、若しくは無垢な少女の血をな。だが力で奪えば獣だ」

小馬鹿にした物言いにも真面目に青年は答えていく。
同族なればこそ、血のあり方を乱暴に語る少年にやはり不愉快な気持ちが込み上がっていき、怜悧な顔立ちにも僅かに浮かぶかもしれない。
人間を嘲笑う彼へ、青年は滑稽というように押し殺した笑い声を零し、視線を落とせば僅かに笑みが張り付いたまま口を開く。

「ならば、そんな卑小な人間ごときに躍起となって刃を振るう君は、もっと情けない存在だな。力に誇りを持って振る舞い、愚かな者を許すのも力を持つ者の務めだ」

胸に手を当て、誇り高らかに迷いなく語る。
それが魔族の長の一人として正しい振る舞いだと、自信に溢れた瞳で語ってみせた。

ヴァイル > 「力ずくでは奪わぬ、と来たか。
 ならきさまは愛を以って得るとでもいうのか」

バカバカしい、と言わんばかりに鼻を鳴らす。
まるで人間のようなことを言うな、と、少年の姿をした魔族は思った。

「わざわざ口に出すのもうんざりするが。
 魔に擦り寄る人間など、その多大なる力に平伏したものか、
 あるいはその恩恵に与ろうと思っている――その、どちらかだ」

吸血鬼と呼ばれる存在に同族にしてもらい、不死の力を得ようと
甘い願望を抱いて近づく人間は少なくはない。
この少年も、そんなものはいくらでも経験していた。

「今のが躍起になっているように見えたか。
 身の程も知らない愚かな蝿を叩き潰してやろうとしただけさ……
 こんなふうにね」

男によく見えるような仕草で手首を捻り、新たに生み出した血の刃を彼に向けて投射――
すると見せかけて、地に落ちていた短剣の成れの果てが再び形を取り戻し、
恐るべき速度で男を害さんとまっすぐに跳ね飛んだ。

ロレンス > 「時には愛を、時には力と誓約を、望むなら力と代価を。相手が何を求めるかなど、その時によって違う」

鼻で笑われようとも、彼はそれを自信に満ち溢れた声で語り返す。
そして、青年は少年のことを人が恐るる魔そのものの様だと対極的に感じていた。

「なるほど、君は魔の者以外を嫌っているのだな。だが、人間にも魔族にも卑屈なものはいる、その逆も然りだ」

種族が存在を作るのではなく、その振る舞いこそが存在なのだと彼が思う哲学を笑顔のまま雄弁に紡ぐ。
そして同時に僅かな同情を抱く、少年はろくな人間と出会えなかったのであろうと。

「あぁ、見えたさ。君は蟻を見つける度に踏み潰すのか? その程度のことで力を降ることを躍起と言わずなんという?」

そうして、再び攻撃の手を見せるのに反応すれば、血に戻した刃が襲いかかる。
僅かな驚きを浮かべながらも、足へと刃が当たるが…よく見れば柘榴色の魔力が刃を絡めとり、体へ到達させないようにしていた。

「……やれやれ、君は私が出会った魔族で一番の下賤だな。弱者に力を振るい、強者には卑屈にも不意を狙う」

それでも彼は戦闘態勢を取ろうとしなかった。
満面の笑みを浮かべながら、すっとマントの中から伸ばした手で彼を指差す。

「だが、そんなものに報復と力を振るうのも愚かなことだ。感謝するがいい」

今の攻撃は見逃してやろう。
暗に少年を見下すを含みのある言葉で答えると、ゆっくりと指を下ろしていく。

ヴァイル > 「…………ほう」

自身の刃がかすり傷の一つすら与えられなかったことを目にして、
微かに眉を動かす。

「お褒めにあずかり恐悦至極。
 そうさ、邪悪、卑劣、悪逆――われわれはそこから産まれた。
 われらのいる限り、この世に邪悪の火は消えん。
 男よ、きさまの過ぎたる力は何のために振るわれる?」

両腕を広げ、高らかに笑う。
自身を下賤と罵るこの男の感性は、少年には理解し難い。
蔓延る哀れな小虫どもを潰し、四肢を裂き、悲鳴に聴き入るために、
人を抱くには余りある力はあるのではないか?

「残念だが違うな。
 おれは『両方』嫌いなんだ」

絶えず浮かべていた薄笑いを消す。
男を害することをかなわなかった血の刃の形が解け――
魔力に阻まれようとも茨のように広がって男の動きを阻害するように包み込む。

「おれの名はヴァイル・グロット。グリム・グロットの子なり。
 男よ、我が挑戦を受けよ!」

叫び、突進する。
ヴァイルの手の中で、短剣から長剣へと変じた紅い凶器を、
逆袈裟に男に向けて斬りつけた。

ロレンス > 「それは君だけだ。魔の者は、漆黒の夜から生まれ、月夜を浴びて育ち、静寂と欲の境を歩む。そして人を、他を、その荘厳さで従え、全てを統べる。そして、立ち向かうもの、抗うものには、その勇気を讃えると共に力を振るう」

力も欲も否定はしないが、それが何であるかを知るべきだと男は答え返す。
力と欲に溺れた、彼が忌み嫌う魔、そのものがまさに少年から感じられれば、じわじわと嫌悪感も抱くほど。
不意に笑みが消えれば、先程の血が変化したのに気づく。
こちらの動きを封じながらの宣言に、刃を向けられながらも深い溜息をこぼした。

「挑戦と宣うなら、姑息な手は使わぬべきだがな……」

そういうと、左手の甲に赤い紋様が浮かんでいく。
瞬間、まとっていた柘榴色の魔力が一瞬、何かの形を生み出した。
雄々しく叫ぶ牛頭鬼の姿、それが浮かんだ瞬間、ズダン!と地面をへこませる程の脚力で地面を踏みつける。
魔力の迸りで茨を振り払い、脚力で後方へと高く飛びのき、青年は傍にあった建物の上へと着地する。

「ヴァイル・グロットといったな、私は魔族の長として戦場で戦うか、己が利がなければ戦うつもりはない。だが、名は教えよう」

月光を背に男はマントを揺らす、それは夜を羽ばたく蝙蝠の翼のように怪しく踊っていた。

「始祖たる吸血鬼の一つ。ベルクバイン家の当主、ロレンス・ベルクバインだ…ヴァイルよ、同族として君が誇りに目覚めることを切に願おう」

高らかに名を告げると、月光の様な淡い光で背後に魔法陣が広がる。
自信に満ち溢れた顔のまま、男はその光の中へと消えていき、彼の気配はすっと消え去っていった。

ヴァイル > 「高貴な『最初の一人』が、こんな卑しい場所を歩くかよ」

嘆息する。
紅い茨はあっけなく振りほどかれ千切られた。剣は空を斬る。
どうやらこの程度の小細工では始祖を名乗る男の力には無意味らしい。さほど期待もしていなかったが。
一連の動きを無感動に眺め、彼の跳び去った建物を見上げた。

「高いところからの文字通りのご高説、ありがとう。
 きさまの言う誇りは、おれの誇りとはそりが合わないらしい。
 おれが敬意を示すのは、したたる血の味と、従えられない力だけだ」

皮肉げに唇を歪める。
ロレンスの言葉に、いささかも心を動かされる様子はない。

ヴァイルは見下されるのは好きではなかった。
そして何よりも、誇りや敬いを説く魔族という、矛盾にしか思えない存在を、
誰よりも軽蔑していた。
誇りも勇気も穢し冒涜するためにある――それがヴァイルにとっての揺るぎない哲学であった。

「ならばおれはこう答えよう。
 我が誇りにかけて、ロレンス、いずれきさまに土を舐めさせよう――と」

嫌悪と屈辱を不敵な笑みで覆うと、消えゆくロレンスに背を向けて、彼も姿をくらます。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区 人気のない場所」からヴァイルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 人気のない場所」からロレンスさんが去りました。
ご案内:「貧民地区 汚水の川にかかる橋」にカースドさんが現れました。
カースド > 「はぁっ……はぁっ……。はぁ……はぁー……。」ボロ布を腋に抱えて、全裸の少女が走ってくる。その足取りはふらふらと安定せず、今にも転びそうだ。全身は痛々しい火傷跡や傷跡に覆われている。
「はぁ…………はぁ……。」橋の欄干に手をついて、息を整える。頭頂部の猫の耳が、忙しなく動いて、近づいてくる足音がないか探る。

「はぁ…………はぁ……ゲホッゲホッ……はぁ……。」夜風が汗に濡れた肌をなで、体温を急速に奪っていく。慌ててボロ布を体に巻きつけた。

「はぁー……。い、いい人だとお、おも、思ったのに、な……。」追ってくる足音はしない。安堵のため息とともに、失望の声を吐き出した。
優しそうな人を見つけて、自分を買うように持ちかけた。最近二人も連続して良い人が買ってくれた。三人目もそうかと思ったが、違った。
宿に連れ込まれ、服を脱いだ直後、思い切り腹を蹴り上げられた。たまらず倒れこむと、頭をグリグリと踏まれた。
今までだったら、諦めて終わるまで耐えていたが、今日は耐えられなかった。足が離れた隙を見て、着ていたボロ布を抱えて逃げ出した。そして、ここまで戻ってきたのである。

ご案内:「貧民地区 汚水の川にかかる橋」にタマモさんが現れました。
タマモ > 貧民地区、その路地を抜けたらそこは汚れた川だった。
そんな言葉を頭に浮かべながら、少女は汚水の流れる川を眺めていた。
いつも通りだ、目的なんて特にはなかった。

「水の流れる音に期待をしてみたんじゃが…うむ、見事に期待を裏切られたのぅ?」

その手には、すでに木の枝と己の髪、そして釣り針という簡易釣竿が握られていた。
うん、水音が聞こえただけで釣りの出来る川があるなんて早合点だ。
どう見ても魚なんて泳いでなさそうな川を、呆然と見詰めている。

カースド > 突然の声に、驚いて声の方向を向く。ピンと立った耳とたくさんの尻尾を持った自分よりも年上の女の人。走るのに精一杯で気付かなかったのだろうか。手には、糸の先に針がついた棒を持っている。川を見ているが、手に持ったもので何かを取るつもりなのだろうか。

警戒しながら、声をかける。
「だ、だ、誰…?そ、そのか、川、汚い、よ。な、流れるの、ゴミ、だけ……。」
神経を尖らせる。いつでも逃げられるように、攻撃の兆候を見逃さないように。知らず、全身の毛が逆立つ。

タマモ > 「………ん?」

はて?と、なにやら気配の動きが側に感じれば、かくん、と首を傾げてそちらへと顔を向ける。
こちらも同じく川に意識を取られて側にいた少女を見逃していたらしい。
…まぁ、敵意も害意も無いから余計に感じ難かったのかもしれないか?

向けられる警戒心、それは気にせずに視線はその少女の上から下へと向けられていた。
自分よりも若い、貧民地区をよく歩いていたりもするが、ここまで酷い格好をした相手は見た事がない。
こんな格好で外を歩かせるなんて、どんな親なんだろうか?と見当違いの思考を巡らせていた。

「相手に名を聞く時は、自分からまずは名乗るものじゃぞ?
まぁ、そうみたいじゃな…少なくとも、釣りの出来る川ではないのぅ…」

はふ、小さく溜息。手元の釣竿をぽんっと消した。
改めて体ごと少女に向け、向き合うような形になる。
言葉を掛けながら、その視線は少女から外さない。
いや、なんというか…好奇の視線はよく向けられるが、警戒心を向けてくる相手は珍しいからだ。
ちなみに、こちらは攻撃の気配どころか警戒心も向けてない。

カースド > 相手がこちらに顔を向ける動きにビクリと震える。ゆっくりと背を丸め、すぐに逃げられる体勢に移る。
「なま、名前、か、カースド。カースドが、名前。つ、つり……?か、カースド、つり…しら、し、知らない……。」名乗れ、と言われて、名乗った。呪われている、という意味の単語を。

「お、お、お姉さん、み、ミレー族…?」獣の耳と尻尾が生えた人種ということで、そう考えたらしい。
敵意を感じないので、少しずつ警戒が解けてきたその刹那、道具を消した時の音に驚き、飛び退いて、着地に失敗、転んだ。

タマモ > …うん、警戒心というか、怯えているっぽいか?
動きの一つ一つに反応し、小動物が逃げを打つ時のような姿勢をするのを見て首を捻る。
自分がこの少女にこんなに怯えるような事を何かしたっけか?と。

「ふむ…妾はタマモじゃ。覚えて得も損も無い、覚えるも忘れるもお主次第じゃ。
カースド…はて?どこかで聞いた事のある言葉じゃのぅ…まぁよいか。
………釣りを知らぬじゃと?それは珍しいものじゃな」

いつもの名乗り文句と、その名前の言葉に首をまた捻る。
どうやらその単語が呪われているとかいう意味に辿り着いてないらしい。

「ミレー族?残念ながら妾はミレー族とやらではないのじゃ。
………まさか…そうか、お主、ミレー族とやらじゃな?
っと、そんな吃驚するとは…悪かったのぅ、ほれ?」

よく聞かれる事だ、いつものように手をぱたぱた振って答える。
と、ふとよく少女を見てみた。…頭に耳、視線をひょいっと後ろへ向けると、尻尾が見えた。
そしてもう1度向き直ると、ぽんっと手を叩き、問う。
…と、釣竿を消した途端、それに驚いて転んだようだ。
うん、今のはどうやら自分が悪かったようか?
そう思うと、転んだ少女を起こしてやろうと手を伸ばした。

カースド > 伸ばされた手、最近その動作の意味を知った。掴まれということだが。
「い、いいよ。か、か、カースドの手、き、汚いから。」
埃や泥で汚れ、指の欠けた手で、橋の欄干に捕まって立ち上がった。
とりあえず、この相手はすぐに暴力を振るってくるわけではなさそうだ。距離を取るような真似はしないが、相変わらず目がどこか怯えていた。

「た、タマモ…タマモ、だね。わかった。つ、つ、釣りって、何。い、今の棒、使うの?」
奴隷として育ったどこぞの富豪の屋敷と、この貧民地区しか知らない少女の知識に、釣りや釣り竿といったものはない。純粋な疑問を投げかけた。

「うん、カースド、み、み、ミレー、族。た、タマモは、ち、違う、んだね。み、耳と尻尾が、ふ、普通の人と違う、から、そ、そうかと、思ったん、だけど……。
じゃ、じゃあ、タマモは、な、何、族なの?」自分の考えが外れて、少し残念。ならば何者なのか、湧きだした好奇心のままに、質問する。尻尾が、興味深げにゆらゆらと揺れている。

タマモ > 「ふむ、そうかそうか、汚いんじゃな?………てやっ」
伸ばした手を取る事もなく、自分の手でなんとか立ち上がる少女。
そうしている間、少女は何もせずただ見詰めているだけだったが…
立ち上がったのを確認すると、にこーっと笑みを浮かべたかと思えば、いきなりがばっと両手を広げ抱き付いた。
そして、抱き付きながら耳元でこう囁く。
「妾の手を取らず立ち上がるとは良い度胸じゃ、そんなカースドには嫌がろうがこうして抱き付いてやろう」

「うむ、タマモじゃ。………本当に知らぬのじゃな?
釣りというのは、さっきの釣竿…あー…さっきの棒を使って魚を取る事じゃ。
魚を釣るから、釣り、分かってくれるかのぅ?」
冗談だと思ったら本当の事だった。
こんな事も教えないとは、どんな家庭で育っているんだ。
相変わらず間違った方向に思考が飛んでいく、誰か軌道修正してあげてください。
とりあえず、問いにはちゃんと答えておいた。

「お、おぉ…聞いてはおったが、こうして実際に目の前にして話す事が出来るとはのぅ。
この前も会ったが、挨拶と案内程度だったのじゃ。
妾は妖怪じゃ、その中の九尾狐というが…まぁ、この辺りには居らんみたいじゃからな、分からんのは仕方ないじゃろう」
まじまじと耳と尻尾を見る、うん、自分とはやはり違う。
質問にはえっへんと胸を張って偉そうに答える。
この辺り、やはりいつも通りであった。
そして、こうしている間もずっと抱き付いている少女である。