2016/01/21 のログ
■カースド > 「そ、そう。き、汚いよ。お、お風呂入って…ッ!」警戒していたのに、逃げる間もなく抱きつかれた。
そのまま締めるのか、あるいは投げ飛ばされるのか。ギュッと目を閉じて、自分の不運を嘆きながら襲い掛かってくるであろう痛みに備える。
だが、何も来なかった。代わりに微かに伝わってくる体温と、囁き声に、ゆっくりと目を開く。本当にただ抱きしめただけらしい。
「だ、ダメだよ。よご、れ、ちゃう……!」身をよじって抜けだそうとするが、その力は弱々しい。
「さ、さ、さかな、取るの?つ、つりは、つり竿、でさかな、とること、なんだね。さ、さかなは、川に、いるの…?か、カースド、さかな、見たこと、ない。
よ、よ、ようかい、って何?魔族、とは、ちが、ち、違うの?お、教えて…か、カースド、し、し、知りたい。」
新しい知識を欲して、次々と質問を浴びせる。腕から逃れるのも忘れて、目を知識欲に輝かせている。
■タマモ > 「そうじゃな、汚れるじゃろうな?
汚れたら風呂に入れば良い、それだけじゃろう?」
逃げようとする少女だが、その抵抗は弱いものだ。
ぎゅーっとしっかりと抱き付いてやる、逃す気はない。
汚れるという言葉には、さらりと返してやる。
「うむ、魚を取るのじゃ。煮てよし、焼いてよし、刺身にしても美味しいのじゃ。
川に居るものもあれば、海に居るものもあるぞ?
そうじゃのぅ…人間で言うところの、魔物に近いやもしれん。
妖や物の怪、そういったものじゃが…なんにせよ、人間から良い目で見られる存在ではないのぅ?
だからといって、人間如きにどうこうされるものでもないんじゃが」
魚に関しては聞かれるままに答えてやるが、妖怪に関しては…何とも答え難い。
目の前に居ただけでこれだけ怯えていた少女だ、正体を知ればより怯えるかもしれない。
とはいえ、嘘を付いたり適当に言い誤魔化したりするのもちょっと癪だ。
なので、細かい説明はさすがに面倒だから簡単な説明だけしておいた。
■カースド > 「で、で、でも、か、カースド、み、ミレー族だし、しょ、しょうふ、だから、よ、良くない、よ。
い、いやしくて、け、け、けがらわしい、ってお、おきゃくさんが、言ってた…。に、逃げない、から、は、は、離し、て…。」
相手は、変わっているが優しい人らしい。だからこそ、自分に触れて汚れるのが、悪いことのように思えた。どこか懇願するような声で、頼んだ。
「さ、さかな、そうなんだ。か、川は、知ってる、けど、う、海は、見たこと、ない、な。お、お、大きくて、あお、青いって、き、聞いたこと、ある。
た、た、タマモは、ま、まものに、ち、近いのに、良い人、だね。か、か、カースド、い、いじめない。いい、ひと。」
至近距離から見れば、少女がどのような境遇で生きてきたかを垣間見ることが出来るだろう。顔は右半分が大きく焼け爛れ、目も片方が白濁して見えている様子はない。
ボロ布から伸びた手足は折れそうなほど細く、火傷跡や傷跡で覆われていた。
■タマモ > 「ほほぅ…?ミレー族であって娼婦だと、抱き付いてはいかんのかのぅ?
そんな他人から言われた事を理由にしようとも、はいそうですか、なんぞ納得はせんぞ?
ほれ、もっと妾をちゃんと納得させるような理由を言うてみるのじゃ」
ミレー族の扱いについては聞いているし、娼婦というものも知らない訳じゃない。
…あれ?というか、こんな小さな子が娼婦ってどういう事?
それはさて置き、少女がどう思おうが、この腕を解くつもりはない。
その理由が、他人から言われた事を気にしてであるならば、尚更だ。
そういうものは、どうも好かない。
「そうじゃぞ?機会があれば行ってみると良い、酷く汚れておらん川とかならば居るじゃろうからのぅ?
海も見た事がないとは…えぇい、お主の親は一体何をやっておるのじゃ!?
ふふんっ、妾はちゃんと相手を選ぶのじゃ。
妾を良い者だと思うならば、お主も良い者であるからじゃろう。
それだけの事なのじゃ」
改めてこうして間近で見ると、本当にどうしてここまで酷い事になっているのだろうと思う。
あれだろうか、たまに聞く家庭内暴力というものだろうか?
いや、それにしても度が過ぎている。
抱き付いているには変わらないが、少しだけ腕の力を弱めた。
■カースド > 「あぅ……。」納得しない、と言われて困り果ててしまう。少女は他者からの評価を取捨選択するようなことはしたことがない。
誰かにそう言われた、というだけで少女には十分な理由だったのだ。それを否定されてしまっては、もう言葉が出てこない。
何度か口を開くが、何も言えず、閉じる。
「う、うん。み、見て、みたい、な。か、カースド、こ、この街から、出たこと、ない、んだ。
か、カースド、お、親、居ない、よ。ど、ど、奴隷だった、から。に、にげ、逃げて、来た、けど。」
親、という言葉にはきょとんとした顔で答える。物心ついた時には奴隷として飼われていた少女は、自分に親が居るということを知らない。自分はある日いきなり奴隷として発生したとでも考えている。
「か、か、カースドは、良い人、じゃ、ない、よ。だ、だ、誰にも、や、優しく、したこと、ない、し。お、お金も、誰にも、あげない、から。」
今まで出会ってきた数少ない、良い人から共通項を探る。だが、それに自分が該当するとは思えない。不思議そうに、否定する。
腕の力が弱まれば、また身をよじって抜けだそうとする。相手は腕を解いてくれるだろうか。
■タマモ > 「ふふ…勝負あったようじゃのぅ?
さて、あんまり困らせても悪いじゃろう…これくらいで許してやるのじゃ」
何の勝負かは知らないが、そう呟けば腕が解かれ、やっと離れる事が出来るだろう。
「………なるほどのぅ。
よし分かった、見てみたいのであれば妾が連れていってやろうか?」
ようやっと少女の事が理解出来た。
つまりは、物心付く頃からすでにそういった立場だった、という事だ。
そういう事ならば、と、少女が望むようであれば連れて行ってやろうと考え、問うてみた。
自分の知っている、釣りの出来る川はそう遠くは無い。
「ふむ…何をもって優しいのか、優しくないのか、難しいところじゃがのぅ?」
そんなに深く考えて物を言った訳でもないが、こう否定されると…段々とそうだと納得させたくなってくる。
まぁ、そんな事を無理にやっても仕方ない訳だが。
とりあえず、今は腕を解いて自由にさせたところで、どんな返答が返って来るのかを待っていた。
■カースド > 「う、うん…。か、カースド、負けちゃっ、た…?」いつ勝負が始まって、どうすれば勝ちなのかはわからないが。相手が勝ったというなら、自分の負けなのだろう。解放されて、一歩離れる。
「い、い、良いの?み、み、見たい、けど。か、か、カースド、へいみんちく、行くと、お、怒られる、よ。」少女の知る世界は狭い。貧民地区の一部と、平民地区のごく一部だけだ。他の場所があることは知識の上では知っているが、そこは自分と関わりのない世界で、そこに行くとはあまり考えたことはない。
「や、や、優しい、はね、えと……。」定義を尋ねられて、そんなことを気にせず使っていたので、説明のために考えこむ。
「優しいは、えと…ご、ご飯とか服を、くれて、お、お金もくれて…えと、か、カースドは、か、可愛いって、生きてていいって、言ってくれること、だよ。そ、そうすると、か、カースド、幸せに、なるんだ。」
理論だったものではなく、自分が受けた具体的な対応を並べる。どれもささやかなものだったが、少女にとっては考えられないほど幸せな気分になることだった。
■タマモ > 「あー…いや、あんまり勝ち負けは気にせんで良いからのぅ?」
自分で言っておきながら、自分が負けたという呟きをする少女に手をひらひら振って言葉をかける。
なら最初から勝負云々といわなければ良い、と突っ込まれそうだが…ツッコミ役は今は居ない。
「カースドが行きたいならば、それで良い。
平民地区ではないぞ?この王都の外じゃ。
ゆえに、お主一人では無理じゃろうが…妾が居れば大丈夫じゃ」
この少女の世界は狭いだろう、それは予想がすぐにつく。
その言葉から、この貧民地区と、平民地区…くらいしか知らないのかもしれない、と考える。
ならば教えてやれば良い…まぁ、他の場所というのはあるが、それは少女一人では行けない事だけは伝えておいてやる。
「それで…カースドとしては、行きたい、で良いのじゃな?」
そう改めて聞いてみる。そうだ、という答えが得られるならば、連れて行ってやろうと。
「うん、まぁ、あれじゃ…それは確かに優しくはあるが、お主から見た感想みたいなものじゃのぅ?
惜しいが、ちと違うのじゃ。
お主はお主、他は他じゃ、相手によって変わるものじゃろう。
相手によってはお主が優しいと感じる事が、そうでなく感じる場合もある…難しいものじゃ」
いざ少女に問うて、答えを聞いてはみたものの…いざ己がそれを問われたらどう答えるだろう?
多分、自分も自分を考えた上での優しさを答えると思う。
うん、結局はこれといったちゃんとした答えなんて無い気がした。
■カースド > 「そ、そう、なの?じゃ、じゃあ、カースド、き、気に、しない。」
やり取りの意味を上手くつかめず、じぃっと相手を見つめる。きっと頭上には疑問符が浮いていることだろう。
「い、行きたい。けど…そ、外……。か、かか、カースド、外、出たこと、無い、よ…?そ、外は、こ、こわいどうぶつ、とか、まものが、出るって……。」
全くの未知の世界である、都の外。そう聞いて、尻尾は足の間を通って腹にぴたりとくっつき、耳もへにゃりと垂れた。明らかに怯えている。
しかし、行く意志を確認されると、恐怖と好奇心がせめぎ合いを始めた。
「た、タマモと一緒、なら、だい、大丈夫…なの?だ、だったら、か、カースド……い、行って…みたい…。」
勝ったのは好奇心と、タマモへの信頼。後半は消え入りそうな小さな声でだが、はっきりと自分の意志を示した。
「……?か、カースド、よく、わから、ない…。で、でも、多分、た、タマモは、良い人、だよ。か、カースドは、タマモが、優しいって、お、おも、った、から。」
少女の世界観に、視点によって物事が変わるという概念は複雑すぎた。理解しきれないことに残念そうな様子だが、笑い慣れていない、ぎこちない笑顔を作って、そう言った。
「い、い、今から、川、い、行くの…?よ、夜にも、さ、魚、居るかな。ね、眠って、るんじゃ、ない?」
夜はどんな生物も寝るもの。そんな単純な方程式から出た疑問。
■タマモ > 「うむ、それで良いのじゃ」
見詰める少女の頭にぽんっと手を乗せ撫でてやる、このやり取りはやはり少女には難しかっただろう。
もうちょっと色々と知ってから改めてやろう、そう考えるのであった。
「普通はそうじゃろうな?一人で出てしもうたら、美味しく頂かれてしまうじゃろう」
それは多分、間違いないだろう。
王都の外は、この王都以上に危険な場所ばかりである。
…村や街の中は別として。
「ふふ…そうか、妾とならば行っても良いのじゃな?
よし分かった、ならばせっかくの機会じゃ、行くとするかのぅ」
その答えを聞ければ、満足そうにうむ、と頷く。
伸びる手が再び少女へと触れようとする、それが出来たならば、ひょいっと抱き上げるだろう。
「今度は嫌がるでないぞ?この方が早く着けるからのぅ?」
軽々と抱き上げているようだが、実際には力を使っているのは秘密だ。
もっとも、嫌がっても抱き上げたまま移動するつもりではあるのだけど。
「………うむ、妾にも難しいのじゃ。お主が妾を優しいと思うならば、そうなのじゃろう。
同じ様に、妾がお主が優しいと思うならば、そうなのだと思えば良い」
結局はそうなのだと思ったらそうなのだ、程度のものだった。
色々と細かな説明をして理解させるより、簡単だろう。
「夜釣りというものがあると聞いた事があるのじゃ。…多分、大丈夫ではないかのぅ?
そうでないならば、ゆっくり休んで日が昇ってから釣れば良いじゃろう。
カースドはそれでも大丈夫かのぅ?何か予定とかあるならば、早めに切り上げて戻っても良いが…」
少女はすでに行く気満々だ。抱き上げたまま、歩みを始めている。
実際に行ってみたらどうなのか…それは、着いたら分かるものだろう。
ご案内:「貧民地区 汚水の川にかかる橋」からタマモさんが去りました。
■カースド > 「う、うん。」髪も埃や土で汚れているが、今更言ってもやめてくれないだろう。それに、暖かい手で撫でられるのは、気持ちよかった。
「た、タマモが、つれ、つ…つ、連れて行って、くれる、なら、か、カースドも、あ、安心。」
伸びてくる手には、もう抵抗はしない。抵抗する理由はすっかりなくしてしまっていた。
少女の体重は哀れなほど軽いことだろう。少しでも持ち上げるのを助けようと、相手の首に手をかけた。
「こ、これなら、楽ちん、だね。か、カースド、歩くの、へ、下手、だから、この方が、い、いいと思う。」
「そ、そう、なんだ。や、優しいって、む、難しいようで、た、単純、かな…?」
少女にどこまで理解できているかは不明だが、納得がいった、という風に、ぎこちなくも笑った。
「よるも、さ、さかな、釣れる、の?よ、よふかしさん、だねぇ。ひ、昼も夜も起きてて、い、い、いつ、寝るんだろ。
か、カースドはね、よ、夜は寝ないん、だよ。よ、夜寝ると、つ、冷たくなったまま、う、動かなく、なって、し、死んじゃう、から、ひ、昼、あた、暖かくして、寝るの。
よ、予定もない、から、大丈夫。た、タマモが居たいだけ、い、居て、いい、よ。」
初めての外、にワクワクした顔で、進行方向を見ている。歩かなくても進む上に、いつもより視点が高い、それだけで少女には楽しくてたまらなかった。
旅路の間、タマモは少女の質問攻めを受けることだろう。
ご案内:「貧民地区 汚水の川にかかる橋」からカースドさんが去りました。