2023/06/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/練兵場」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城2【イベント開催中】」にエリシエールさんが現れました。
エリシエール > 深夜の王城―――
珍しい話ではないが、直近ではまたしても近隣領主の不正や暗躍の証拠を握りしめた王都が
軍を派遣し、芋づる式に癒着のあった貴族たちが処分された。

近頃は王都に蔓延る膿の除去に手一杯とも言える実情。
「血の旅団」をはじめ、脅威は山積みなのに足を引っ張る輩が後を絶たない。
もともと仕事を満足にしている訳ではなかった悪徳貴族の穴埋めを、別な存在が埋めざるを得ない。

ヴァエルフィード王家の一派から距離を置いてふらふらとしていた王女は、放っておくこともできたが
主君の背信行為によってとばっちりを喰らった者を見かねて、指揮命令および承認作業を引き取っていた。

軍部への諸連絡や財政に絡んだ幾多の承認業務……王女の位を持つエリシエールは単なる調印係に過ぎないが
直属の臣下ではない者達を、専門ではないにもかかわらずその場で対応しうる限りの範囲で
適宜指示を行いながら、夜遅くまで王宮内部の庶務を文官たちと共に消化していた。

もちろん、終わるはずがない。
臣下たちも膨大な仕事に士気の低下が目に見えて表れていたので、今日のところは切り上げさせた。


「…………まったく、今頃は入浴を終えて寝床についている時間ですのに。
 肌によくないですね。……淑女がここまで汗を流すなどあってはならぬことです」

静まり返った王城内をコツコツと、ヒールのついた靴を鳴らして歩く一人の王女。
ハンカチで額や首元の汗をそっと拭い、微笑こそ浮かべているがご機嫌 と呼ぶにはどこか堅い表情で。

ご案内:「王都マグメール 王城2【イベント開催中】」にタムリンさんが現れました。
タムリン > とある、王国において歴史のある派閥を率いる騎士がいる。
その騎士は役割を帯びている。血縁とは関わりなく、まるで代替わりするように役割と地盤を連綿と引き継いできた。
表向きは、城詰めの一騎士だが、その役割とは、端的に言うと、王家の地盤を陰ながら守護すること。
この場合の王家とは傍流も含め……要するに王家が王家以外の要因で害されたり、思想を操られたり、といった外因を排除することにある。
したがって、王家の血筋を引く者同士が相争うことに関与しないが、外患は断固排除するという一団。
王家という伏魔伝の前庭の番人と言ったところか。
その普段の役割は、陰ながら王家に連なる者たちを護ることにあるが、情勢がキナ臭い場合はあえて姿を見せ、王族のそばをついてまわることもある。

今夜のように。

王家の人間にも宗家や分家と呼ぶべき関係性があるが、その王国兵の正装である外套に描かれた印章の仕掛けを知る者は宗家も分家も関係がない。
よくみると印章のデザインが一か所だけ通常のものと異なる。それが王家の前庭の番人の証。
それ自体が高い地位を保証するわけでもなく、むしろ公的には兵士と変わらない。
しかも、方針として、長期か短期かはともかく人員を外部協力者から募ることも珍しくない。少年がまさしくその立場だった。

少年は彼女の目につく場所に立っており、目礼をひとつ。その外套の印章を見て意味がわかるなら、情勢のキナ臭さに応じて周囲をけん制する番犬を用意された、とわかるだろう。
しかし、と少年は内心思う。魔法を扱うから分かることだが、純粋な意味での護衛はこの女性に必要はないだろうな、と。ただ、件の騎士は年齢を超えた友人でもあり、あえて姿を晒すという仕事はせねば、と内心拳を作る。

エリシエール > 深夜の王城を、王侯貴族の身分……まして、女の身となれば襲ってくれと言わんばかりの無防備さ。
彼女を主君として戴く者がいれば、そのような隙だらけの振舞いを許さぬのが忠実な臣下の在り様だろう。
王位継承に関心を示さぬ王族は決して少なくはない。王女エリシエールもまたその一人である。

しかし、当人の意志に依らず時には都合のよい者を担ぎ上げて王位を狙い、甘い汁を啜らんとする者もいれば
単なる脅威として排除しようとする輩は無数にいる。

命の危険の絶えない王城を生き延びる処世術は様々であるが、そのような脅威から王族を護らんとする
忠臣たちも未だ根強く存在する。

ちょうど、王女が程なくして視界に留める少年もまたその一人であり―――

白銀の神々しいドレス姿の王女は歩みを止め、ちらと少年を一瞥した。
外套にあしらわれた王国の印章は、王城内のあらゆる場所でも目にするそれとそっくり。
……”完全に”同一ではないのだが。
印章が表すものの意味に感づいた王女は、ふふ と微笑を浮かべて声をかけた。

「夜分遅くまで大儀であります。
 ……今宵は月の灯りも薄暗いものでして、何かと”物騒”でございますから」

衛兵にしては随分と幼い体格に見える。だが、小柄ながらも勇名を轟かせた者は大勢いる。
王国がいかに人手不足とはいえ素人を何も考えず迎え入れる程敷居の低い職ではないだろうと、
敢えて言及などしなかった。彼らは”プロ”として職務を全うしている、その前提のもとに。

タムリン > 少年は、相手のことを知っている。とはいえ、自分が誰の身辺をいつ警護することになるかは分からないし、
あくまで外様からの協力者という分別のもとに多くを知らされているわけでもない。
基本的に今、この仕事の全権を司っている騎士は粛然という言葉が似合う男だ。情報をみだりに与えることもないし、みだりに与えることが不敬だとも理解している。
ゆえに少年は相手のことを知っているが、それは城内の人間の少なからずが知っている程度の知識に留まる。

優秀さと破天荒さが奇跡的なバランスで釣り合っているという評価だが……
沈黙から目線の動き、それから言葉を発するタイミング、言葉選びで、風評の少なくとも一旦は正鵠を射ていると知れる。

まあ、実際そのすぐそばに立つと、いわゆる身辺警護はあまり必要なさそうだとも分かってしまうわけだが。
肝要なのは、自分たちが動いていることを、影から王女の動向を窺う者たちに伝えるために、かたわらを固めることだ。
決して陰から出て来ない、油断ならぬ者であればあるほどよい。王家が相争うのは王家の権限だが、それに王家以外が干渉することは許さないという意思表示のために、ここに在ればよい。

「そうっす──そうですね、最近は兎角“物騒”だそうで。どこに錆びた釘が落ちているかもわかりませんから」

思わず普段の口調で喋りかけて慌てて口を噤んで、すぐに言い直す。錆びた釘とは、諧謔であり皮肉でもある。このご時世、誰もが王家の威光に預かりたがるし奇譚のない言い方をすれば、利用したがる。
その思想は人を凶行に駆り立てるし、昔から権力につき纏うしがらみだ。錆びついているとはそういう皮肉。
と、少年は自然に王女のすぐ斜め後ろに立ち位置を変える。行くところに共に行く、という意思表示だ。

エリシエール > 派閥を作る事を好まない王女は直属の臣下というものは殆ど居ない。
一定の支持者がいるのは肌で感じているが、それに報いる程の表立った事も特にしていない。
並みの手腕であれば既に消されているか、何者かの手に堕ちていただろう。

少年およびその命令者である騎士の見立て通り、優秀さと……それを上回る破天荒さによって
周囲を怯ませていると評判の、狂った王女。
優雅で、気品に溢れ淑女としての振舞いを欠かさぬ王女の何が狂っているのかなど、
外聞で理解するのは難しいだろう。

……騎士は生真面目であったかもしれないが、その性分ゆえに口にするのも憚られたのかもしれない。
その選択が、少年を思わぬ災難へと巻き込む結果になるかもしれないとは露知らずか。

「釘……ふっ……ふふふ。なかなか、趣のある喩えでございますね。
 このようなドレスでは、足元の確認もままなりません故……卿の存在はとても心強いものとなりましょう」

一瞬、言い直す少年には特に咎める様子もなく。
若いが面白く、教養もある者だ。これから王女が目指す先までの御供としては申し分ない。

少年が斜め後ろに立てば、コツコツと靴音を立てながら何処かを目指していく。

「ちょうど、卿のように忠実な守番が傍にいるのは僥倖……。
 行かなくてはならぬ場所が」

それがどこであるのかは明言しなかった。
少年が職務を全うすべく王女に付き従ってそのまま進んで行けば、やって来たのは王侯貴族御用達の浴場―――

王女エリシエールが未だ入浴を済ませていなかった故に目指した場所だ。
彼女が”普通の”女であれば少年は浴室前に張り込んで待っているだけでよかったかもしれない。

だが、よりによって少年が身を護らんと付き添ったのは……”狂王女”とも噂される破天荒な女だ。
何事もなく終わるはずなどなく……

タムリン > 一民草としての生活を送っていても、この国に対する感謝はある。
魔族と絶えず抗争が行われていようが、人ならざるものによる脅威があろうが、
民の生活の営まれているだけでそれはひとつの奇跡と言っても過言ではない。
比喩でもなんでもなく、有史以来滅びた国の数を考えれば、国が運営されている状態というのは、思う以上に貴重なことでもある。
不要論を唱える者もいるが、その貴重な国体を維持──その一端を担っているのは、王家の人間である。
政というのはプロのテリトリーであり王家はそのプロであり、国が運営されていることが能力の証明。
……平たく言うと、少年は同じ年頃の子供たちより複雑な理由で、王家を重んじている。
結局のところケジメとして働きぶんの金は受け取るが、それが今回のつとめを引き受けた理由の根底。

さて、王家に対する大人びた考え方はあるが、そこに属する人間に対する感情はというと、純粋に相手次第だ。
意外とと言うべきか、戯曲に登場するいかにも悪徳為政者というべき人間には出会ったことがない。
意外と皆……普通だ。普通に日々書類仕事や儀礼・祭典に参加して仕事をしている。
しかし、この王女はどこか雰囲気が違う。禍々しさは感じないが、どこか浮世離れしているというか──

と、そこまで考えて、彼女の言う行くべき場所に辿り着く。
どことも明言はされなかったし、まさか馬で遠乗りというわけでもあるまいし、まあついて行けば分かる事かと、辺りに神経を研ぎ澄ませながらついて行ったわけだが……

「…………あー」

そこは、それなりの階級を持つ者たち専用の浴場だった。
まあ、どこかへ行くところに自分から姿を見せたのだから、こういう展開もありうる。
別におかしくない。しかし、困った。
ここまでの粛々とつとめを果たします、という表情に悩ましい色がよぎる。
人が一番無防備になる場所のひとつが、まあ、ここだ。
少年は一番妥当と思われる言葉を発した。

「えーと、自分はどちらに控えていましょうか」

少年には王家の風呂の構造も創造がつかない。黄金の浴槽でもあるのだろうか。
とりあえず、当人のリクエストに応える形が一番カドが立つまい。

エリシエール > 道中は少年がすぐ傍に護衛として離れずいるおかげで何事もなくやって来れた。
途中、幾度か険しい表情の文官や貴族らしい男女が二人の姿を見れば直立し頭を下げていく。

中には政敵である兄、そしてヴァエルフィード王家を敵視する者の傘下にある者もいたが、
流石に武装した護衛が居るとなれば手出しは出来なかったのだろう。
……万が一、襲ってきたとしても王女も無防備で手にかかる器ではないのだが。

「……卿が居なければ、私は何事もなく此処へは辿り着けなかった事でしょう。
 黒ひげを蓄えた恰幅のよい殿方にはご注意くださいませ。……まあ、卿たちなら既に
 存じているかもしれませんが。ふふふ……」

特に厄介な存在とされる者の身体的特徴を挙げれば、自らの護衛を務めた少年に
そっと忠告し。その表情は一瞬、余裕綽々の微笑から一転して真剣な眼差しとなるが、
すぐに口角を上げてにっこりと笑う。

「…………」

王女が無言になる。にっこりと少年を見つめたまま。
そのまま見つめあっても察しないと判断したのか、少年には首を小さく傾けながら微笑んで

「……ごほん。卿は、騎士としてお勤めですのでご存知ないのも無理はありませんね。
 控えるなど、とんでもございません。……湯浴みなど、否応なく無防備な姿を曝すというもの……。
 当然、王女たる私の身に危険が迫らぬよう……」

そっと、少年に歩み寄ると片腕を掴みにかかり、ようやく王女の狂った一面を明らかにする
衝撃の一言を続けて言い放つだろう。

「……”目を離さぬ場所”で……最後まで、お守りいただかなくては。
 勿論……王侯貴族の手を煩わせない……当然の礼節でありましょう?ふふふ……」

どこか妖しい笑みを浮かべながら、抵抗されなければ自らのドレスの胸元のボタンへ手を添わせ。
この女は、少年をも浴場の”中”まで引きずり込む算段なのだ。

タムリン > 少年たち、というより自分の上司にあたる騎士から与えられた事前情報について王女に暗に示唆される。
身辺警護にとってその情報が既知かどうかより、当人が自覚しているかどうかが大事だ。
この業界常に自分より力量が上の存在が敵にまわる可能性を考慮せねばならない。それは摂理にも似ている。
最後に護衛対象の明暗をわけるのは、その自覚になるかもしれないのだ。
思った以上に“周囲”に聡い人物──

だ、とは思ったが。

「…………ええ?」

あくまで優雅に片腕を掴まれ、言われた言葉に少年は半ば呆然とした声を漏らさざるを得なかった。
風評の一端を聴き及んではいたが、正直、ここまでその片鱗を覗かせてはいなかったため、余計面食らう。
しかし、言うことは正論でもある。
実際、護衛を浴場にまで伴う権力保持者というのは聞かない話でもないが、異性を伴って、という話は聴いた試しがない。
しかし、リクエストを聴くという形式を振ったのは少年でもあるし、断れる話ではない。当人からこう言われてしまっては。

「ちょ、ちょっ……」

しかし、幾らなんでも目の前でドレスに手をかけるのを見ると、ぎょっとして素早く首を横に向ける。
首が折れるのではないかというくらい大げさに、自分は見ていません何も見ていませんというアピール。
これはもう、ついていくしかない。一度身辺についたら目を離すな、というのが不文律でもある。
下手にごねてこの現場を事情を知らない者に見られたら、ひと悶着起きるのは間違いないわけでもあるし。