2019/01/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城第8師団執務室」にノイアさんが現れました。
バルベリト > いや待て待て。このチラシ、よく見ると「ブレスでなぎ払う」とかとんでもない事書いてねぇかと真顔になった。
魔族の土地で流石にそんな真似をすれば、無用に刺激してしまう。
そもそも、争いや火種を撒き散らしに行くわけでもない事を忘れてはならない。

――それでも、魔族の土地を馬鹿正直に歩くなり、馬を走らせたり。
王国の翼竜を使う等に比べれば心配は少ない様には思う。文面を読む限り。
自分達の師団で扱う翼竜は、ブレスの類を吐けない――攻撃性の低い龍を扱っている。

――トゥルネソル商会、音には聞こえていたが接触を持とうとすると立場的に難しさがある事に気がつき、頭を抱えた。
更に問題。「アイツ」の、領主の方に事前に話を通しておかないと誤解を招くのではないかという心配。

領民を守ろうとするなら、ドラゴンが見えた瞬間迎撃準備するかもしれない。
いや、そんな敵・即・殺なヤツではないが、それでも無駄に寿命縮めたりさせるべきではないだろう。

となると、トゥルネルソン商会に最初に手紙を送って貰い。
次に自分を運んでもらい。
最後に自分を王国側の土地に下ろす。落すではなく、下ろす。
都合3回分の料金発生――かつ、竜にリスクを背負わせる事になる。

「……節約しとくか……。」

危険な場所だからこそ値下げ交渉はそれこそ困難だろう。
ほぼ相手の言い値で運んでもらうしかない。重い溜息一つ。

ノイア > 「……ここ、か」

灯も大部分が消え、薄暗くなった廊下でドアを見上げ
白の正装に身を包んだ小さな影が小さく呟く。
連日続いた祝賀会やら挨拶回りやらしょうもない行事に
数年ぶりに出席する羽目になりここに来るまで随分と時間がかかってしまった。
序列や格式、各隊のプライド等々慮る事は多く、
目的地まで随分と遠回りをさせられたが……
未だ幾分か綺麗なネームプレートを見上げ、そこに第八の文字を認めると
ノッカーに手を伸ばし……

「……!」

つま先立ちでそれを何度か鳴らす。
王宮は理解しがたい規則や習慣がいくつもあるが
このやたら高いドアノッカーの位置も此処に限らず多く見られる。
大人の男向けか知らないが貴方達は巨人でも迎えるつもりかと
相変わらずの鉄面皮の下で苦々しく思う。

バルベリト > 扉は比較的厚い材質の頑丈な木材だ。
それが鈍い音で打ち鳴らされる。ただ、何と無くだが音が不安定気味に聞こえたのは――打ち鳴らした相手の体勢が不十分だったため、かもしれない。
いや、見えた訳でもないが。

「――――ん?珍しいな、客人なんざ初めてだ。おーう、今開けるぞ。」

風のイタズラ、で鳴る様な軽いノッカーではない。確りとした材質の金属のノッカーなのだ。
明白に、珍しい客人の到来なのだ。手に持っていたチラシをテーブルの上に広げたままで置き、ソファから立ち上がる。

鳴らされてから数秒後、扉はあっけなく開かれるだろう。
扉を開いた主は紛れも無い8師団長であり、珍しく身なりは整えられている。
―――だがそれと反比例する様に、室内は雑然としており、地図や報告書。
或いは軍略書や過去の作戦書等が山積みされていたり、所々崩れて散乱している有様も見えるだろう。

扉を開いた先に居る相手に一礼。――それは客人を対等以上の立場の相手と見ての物。
自分の師団の人間ではないのだから、それが一番非礼に当たらないと判断しての物だった。

「いらっしゃい――――。と、マドモアゼル?」

いらっしゃい、の後の間は。失礼ながら視線を相手の目線に下ろすまでに有した時間と同じだった。
小柄な姿だが、騎士団の一部で使われている儀礼用の制服。
薔薇の飾りから所属は推測が付くが、個人としては初対面。
必然的に、小首を傾げて見せたのは――自分の師団や自分が、その該当する騎士団との接点に乏しいと言う事もあるからだった。

「って、客人を立たせたままでは失礼か。よけりゃ中に入らないか?外の寒風で部屋も冷えるし――
アンタ、失礼。貴女も身体を冷やすだろ?
お茶位は出せるぞ。質はまぁ、保証しかねるけどな。」

ノイア > 部屋の中から投げられる鷹揚な声と共に靴音。
少しの後にドアが僅かに開かれ身なりの整った男の姿が部屋の明かりを背負い浮かび上がる。
逆光で判断しづらいがこちらの姿を見て僅かに驚いたようだ。
無理もない。あまり交流がある部署でもなく、個人的に面識もない。
しかもこんな時間だ。部下が訪ねてきたとでも思っていたのだろう。

「第八師団執務室であっているだろうか」

態々名札を確認しているのだから間違っている訳はないのだが
これは部屋に入る前のお約束というものだ。
特に相手が初対面であれば尚更。

「――夜分遅く失礼する。
 グートシュタイン家の者。
 白薔薇騎士団所属に属している」

少し足をずらし、ドレスアーマの裾を広げるように片手で少し持ち上げた後僅かに頭を下げる
グートシュタイン家は一応王侯貴族の家系でもある為必要はないとされるが、一応軍属。
略式の礼をしたあとほぼ抑揚のない一本調子で告げるとゆっくりと視線を上げる。
見上げた師団長というよりは最前線の戦士と言った方がしっくりくる容姿の持ち主だった。

「少し聞きたい事があってこうして訪ねてきた」

そう告げると同時に促されたように部屋へと歩を進める。
一応軽くこの師団長の為人は聞いてきているが噂通りの人物……とはいかないようだ。
噂では傭兵上がりの粗野な人物だという話だった。
これだから貴族の噂というのはあてにならない。
まず……噂以上にでかい。肩幅や筋肉量も相まって身長以上の圧迫感がある。
とは言え此処まで挨拶して回った見栄最優先の貴族騎士や油を搾れそうな文官よりは話が通じそうだ。
此方としてもありがたい事。

「暖かい物は歓迎する」

部屋の中を見れば人となりが分かるというが
書類の山や積み上げられた書物が崩れている様を見ると僅かに眉を顰め
そのまま案内された席に着くと僅かに首を傾げた。
出来れば粗茶が良いとは口にしないが心ひそかに期待している。
貴族相手だと味が濃いものが多くて正直お腹いっぱいなのだ。
もっとも傍から見れば高慢な貴族が汚れた部屋の様子に気分を害したようにしか見えないかもしれないが。

バルベリト > 「あぁ、間違いなく。――第8師団長、バルベリト。気軽に呼び捨てて貰って構わない。
客人も珍しいが――それ以上に珍しい縁で出会えた物だ。」

室内は他の師団、騎士団長の部屋に比べれば手狭だろう。
それでも王城の中の一室。並みの屋敷の客間よりは広い造りになっている。
天井は高く、中央には魔力鋼で造られたランタンが吊り下げられ室内を薄曇りの日中くらいの明るさに保たせていた。

ソファへと誘導すると、こちらへ、と言うように頭を下げながら手を差し出し、ソファを示す。
――相手が座るのを待ってから地図の横、戸棚に向かうと相手の希望通りだろうか。
仄かに香る緑の茶の成分。――高級な其れではないが、安物とも言えない。
湯が注がれる音――何かが振られ、湯から茶葉の成分を抽出する後。

緑色の茶がカップに注がれて運ばれてくる。
ソーサーに取っ手付きのカップと言う辺り、文化圏や作法にはそれほど拘らない、無頓着さを示してもいる。
音が為らないように、巨躯を小さく縮める様にしながらテーブルの上に置かれるまで時間は掛からなかった。

「少し熱過ぎるかもしれない、その時は少し冷ましてから飲めば良い。
あ。あれか。一応どっちが呑みたい、とかあるか?」

カップを差し出してから、はたと気付く。
毒物や薬物など、余計なものがない事を示す為に相手の目の前で茶を入れるべきだったか、と。
2つのカップを相手の前に並べて、どちらでもどうぞ、という様に示した。
白い陶器のカップに緑の茶というのは異質なコントラストかもしれないが。

「それじゃ俺も失礼して、と。聞きたい事を夜にわざわざ聞きに来るんだ、それなりに緊急か――秘匿したい話でもあるのかね?」

自分は相手を誘導したソファの向かい。テーブルを挟んだ対面側に、座椅子を一つ持って来て腰を下ろす。
警戒心はこちらは抱いている様子もなく、夜中の来客に気分を害した様子も無い。
ただ純粋に珍しい来客に興味を抱いているような――。そんな無警戒振りだった。

ノイア > 「把握した」

部屋の中で一時立ち止まり、辺りを改めて見渡す。
地図、報告書……乱雑に積まれた書類や投げ捨てられたマント等々
最近の忙しさを示すような様子に再び僅かに首を傾げると
人形めいた動きで勧められるがままにソファに浅く腰掛けた。
そのまま腰に付けた儀礼剣をゆっくりと外し、ソファの横に降ろす。
此方もこちらで無防備極まりない。

「不要。
 ……ただ、冷めるのを待つことにする」

奸智術策飛び交う城内の事、薬を飲ませて弱みを握るだとかそんな話は嫌でも耳に入ってくる。
立場上はそういったものを仕掛けられることもなくはないが……
毒自体にかなりの耐性があるのだから心配するだけ今更である。
そもそもそこを怖がるのならば相手の部屋にこんな時間に来なければ良いだけの話。

「……まず先に話しておく。
 立場的には公式面会だけれど、内容までは記録義務はない。
 なので口調等は気にしなくていい。その方が私も話しやすい」

猫舌ゆえに直ぐに口に出来ない為、若干名残惜しそうにカップを眺めた後、相手が席に着くのを見て口火を切る。
無愛想なのは自覚しているが機嫌を損ねたいわけでもない。
それにこのお茶は中々好みに合う香りだ。
これを逃すのはもったいない。

「少なくとも私にとってはそれ程機密事項という訳でもない。
 ……先の戦争の話を聞きに来た」

バルベリト > 壁には地図。赤、緑、青――色わけされた線に鋲が突き立てられたりと、独自の使い方をしているかの様子。
相手も無防備ならばこちらも気にする事はない。
――そもそも敵意に反応する銀色の霧が反応していないのだから、その点では気にもしていなかった。

椅子に座ると相手の声。もう少し温めに入れておけば良かったかと思うが、後の祭り。
話が切り出され――公式面会、と言う堅苦しい単語が出てきたときには幾分眉が顰められる。
……が、だ。その後の記録義務の有無。並びに口調関連で気にしなくて良いという鷹揚な言葉が続けば眉もすぐに戻っていた。

相手とは異なり、己は猫舌ではないが――先に出した話通りに。
相手がどちらかのカップを取らない限り自分も手を伸ばす事はしないだろう。

「うん?先の戦争?――どっちだ。直近だと7師団が挑んだ遠征になるか?
俺は退路確保でタナールに引篭もってたが。
それか、もう1つだと自然地帯の奇妙な兵器…あ、いやあれは戦争じゃねぇか。
タナール防衛の方の話、であってるか?」

隠し立てする様な話でもない、首をかしげて相手の目的がそれで合っているか。
解答を待つように瞳の高さを併せる様にして意思確認をする。
あの件についてはもう報告書は纏めてあった――提出した筈だが。それでも何かしら引っ掛かりがあるのだろうか。
真意は判らないが、悪意は少なくとも無い、と信じたい。
白薔薇騎士団はそういえばあの戦争自体からは距離を置いていた。
戦争の空気等を聞きたいのだろうか、と。茫と考えながら返答を待っていた。

ノイア > 「表向き報告書では退路確保のためタナール砦にて防衛中、敵と遭遇。
 交戦にてこれを退け砦を死守とあった。
 戦功を随分と評価されたとも」

公式発表によれば王国軍は多大な被害を出しながら”辛勝”したとなっている。
今まで捕捉すら出来なかった相手の居場所をとらえ、強襲したのだ。
そこだけ見れば一つ大きな足掛かりを手に入れたといえるかもしれない。
――けれどそれは報告書通りであれば、の話。
壁に掛けられた地図のその場所へ視線をじっと向けながら
指先でカップを僅かに引き寄せ、淡々と続けた。

「我々薔薇騎士団は王都での警備任務を優先するとの判断から
 今回戦場には出ていない。
 だからこそ、報告書以上の事は伺い知る程度」

それをそのまま信じるのは愚か者のすることだ。
あれはある意味大規模な粛清でもあった。
王都では実しやかにささやかれていたのだ。
……掌握しかねる師団を敢えて送り出し、その力を削ぐと。
薔薇騎士団はそれに巻き込まれる事を避け、
敢えて首都近辺に留まったのだから、これはかなり信憑性のある情報であったと伺える。

「……けれど私はそれだけだとは聞いていない」

それ自体は別に不思議ではないが此処でひとつ疑問が浮かぶ。
――それにしてはタナール砦の死傷者はあまりにも少なすぎた事だ。

「これはありない事だと言われているけれど、
 現場で臨時の停戦協定が組まれたとの噂がある。
 ほかならぬ魔族と取引し、戦闘を行わなかった、と」

魔法灯の下、人形めいた光を映さない瞳が
ゆっくりとこの部屋にいるもう一人の人物を見据える。

「……ただの噂?」

感情の籠らない、静かな声と共に僅かに首が傾いだ。

バルベリト > 「―――分不相応な役職に着いたモンだとは思う。
やってるのって結局は敗北想定、積極的な成功の為の手伝いじゃねぇんだからな。」

実際過大評価も良い所だ。自分のやったことは。魔族全てを敵と見るではなしに――。
甘い甘い、少女ですら抱かないような思惑の元で動かなかっただけなのに。
粛清については肯定も否定もしない。
悪意を決め付けるのも。悪意を否定する裏づけの証拠もない。

ましてや前線に近い場所でもある。砦の中であればそれを調べる事も不可能。
推察は確たる証拠も無しに行なうには少し天秤に乗せるものが重過ぎる。
――故に成功した場合も。失敗した場合でも。
7師団が孤立、壊滅だけはしないように砦に居たのもある。

勝てば速やかに補給線を引き、負ければ撤退の道筋を描きやすくするために。
――と、いう表向き。

「――――。」

向けられた言葉には、間が挟まれた。不意に急所を突かれてる場合特有の、思考するための空白。
瞳が泳ぐ様な真似こそ無いが、言葉を頭の中で組み立てている様に見えてもなんら不思議ではない。

「真実だ。」

隠すか隠さないか――あっさり選んだのは後者だった。
――相手の事、停戦協定を結んだ相手は魔族の土地にいる。此方から危険が向かう事は少ないだろう。
どうせ隠し立てしたとて人の口に戸板は建てられない。
今まで表沙汰にならずに居た方が不思議でもあり、師団の仲間の義理堅さに感謝こそすれど漏らした、漏れた事への怨嗟は見えなかった。

「判断としちゃ間違ってたかね?」

問い返す。言葉は少ないが、刺すような威圧感や不機嫌さはなかった。
寧ろ他に被害を減らす手段はあったか。それを相手が示せるのであれば聞きたいという興味を抱いている様な。
それでいて、それを直接聞きに来る胆力や――下手をすれば口封じすらされかねない話題をしに来ている相手の、無防備さ。

敵意の無さに隠すつもりの無い解答を出す。
もう少し踏み込んだ事が聞きたいのだろうか?

ノイア > 「個人的な意見としては前線を知らない指揮官よりは余程適任と愚考する。
 最も私達は主に言われる事の方が多いけれど。
 特に負け戦は素人の手には負えない」

それ自体には特に疑問も異論もない。
知りたいのは囁かれている噂が事実であるか否か。
一瞬ひやりとした空気が暖かい光に照らされているはずの室内に満ちる。
魔族は敵。これは基本的に王国軍の基本スタンスであり、
それを肯定するのはある意味一種の自殺行為ですらある。
王侯貴族……主権力に近いとされるもの相手であれば尚更。
まるで詰問のような内容を口にしながらその瞳と口調は一切揺れることなく、
少しの間黙り込む相手の様をただじっと見つめ

「――そう」

小さな呟きと共にその圧力は霧散した。
注意深く眺めればほんのわずかに微笑んでいる事に気が付くかもしれない。
どこか面白そうな雰囲気すら漂わせ、机の上のカップに手を伸ばすと
お茶を口に含み……うん、おいしい。
何処か満足そうな空気を漂わせた。

「……その是非を問う立場に私はない。
 間違っているか否か、それは上層部と歴史が判断する事」

確かにそれが事実だとすれば責任を問う声もあがるだろう。
魔族と結託した裏切り者であるというのは実に聞こえの良い煽り文句だ。
……けれどそれはそれが事実であると”公式”に確定した時の話だ。

「今回に限れば少なくとも貴方の判断によって救われた命が
 多数あるという事だけは確かだと私は回答する。
 それを疎ましく思うものがいる事は確かではあるけれど」

そう、公式な場ではしらを切り続けるだけ
その胆力はこの師団長にはあるだろうと思う。

バルベリト > 「やめてくれ、ほんと過大評価し過ぎなんだからな?
俺は普通に酒を飲んで―――普通に友と話が出来て、美味い物を食べられれば十分なだけの愚物だっつぅの。」

こめかみを両手の親指で挟み込む仕草。
ぐっと指に圧力を掛けて自分の其処を圧迫したのは―――妙なむず痒さ由来の物。
基本スタンスであれど。――刃を交える意思が相手にないなら別なのだ、と。
友と言う言葉を拾い範疇で取るなら、協定を結んだ魔族にさえ適用されそうな――そんな幅広い範囲を含んでいた。

「なんだ、査問に来たのかとも思ったが――違ったか。」

相手が此方を見つめている間、視線を逃がさず相手と見詰め合う視線を交錯させて居る為に。
相手の口元が僅かに緩んだ。綻んだ蕾を思わせる、少し温かみのある色に見えたのは己の安心感もあった。
ふぅ、と吐息は一つ。茶を呑んでくれた相手の漂う雰囲気の最初との差で此方も――安堵したのだろうか。

茶に手を伸ばし、音はなく口に含む。
仄かに苦味を。けれど舌先を痺れさせるものではなく、香気を舌先や鼻腔にふくよかに広げる物。

「まぁ、後はアレだアレ。神のみぞ知るって奴な。
―――そういって貰えりゃ何よりだ。俺もアイツらも。命は一つ限りだ。
疎ましく思う連中もそりゃ居るだろうが――。」

公式な場になれば。
シラを切るのは勿論。【古い付き合いの有る】脛に傷を持つ貴族にも手回しをするなり、知人、友人に頼む位はするだろう。
個の能力という点では明らかに他師団長に劣る。
置物。お飾りとして置かれている様な物だと、自認はしている。

「茶が気に入ってくれたなら、もう少し話をしていくかい?
この部屋に来客なんざ――いや、初めてだったわ。うん。」

肩の力が抜け、穏やかな笑みを浮かべながら相手のカップに茶を注ぐか。
もう少し滞在する予定が有るならお代わりも必要だろうと声を向ける。

「あぁ、一応あれだ。他の連中には余り口外しないでくれりゃ嬉しいな。
俺が文句言われる分にゃいいが、ウチんとこの騎士が今より冷や飯食わされるのは避けたいからな。」

ノイア > 「その評価を自分に出来る者というだけでもそれが出来ない無能よりは良い」

無感情ではあるものの恐らく本心そのままなのだろうという調子で
その責を欲しがったであろう貴族とその他多数をバッサリ切り捨てるような発言をしつつも
そこに責める者特有の緊張は見えない。
勿論同じことを口にするような者であれば他にいるだろうけれど、
その中に本当の意味で謙遜でこの言葉を口に出来るものがどれだけの数いるというのだろう。

「このお茶は気に入っている。
 特に香りと控え目の渋みが良い。
 ……これがあるうちは口外するつもりはない。
 この会話はあくまで私個人の疑問解消に過ぎない。
 私の興味の為にも会話をつづける事に賛同する」

冗談じみた台詞と共にお代わりを受け取りソファに身を沈める。
相変わらず無表情過ぎて冗談が冗談に聞こえないのは困った所なのだが。
そう言って茶を口にする様は何だか満足したような雰囲気すら漂っているが……
降ろしたカップを手で包み込み、不意にぽつりと呟くように言葉を吐き出した。

「いうまでもなく、私達にとって魔族は敵。
 須らく、例外なく。
 故に敵の敵として手を組むことはあっても真の意味での友愛はあり得ない。
 ……私はそう聞いているし、そう教わってきた。
 軍部も、そして貴族も少なくとも建前上はそれを絶対原則としている」

実際はもっと無節操で、爛れたものだという事はとうの昔に理解している。
今や一部貴族の間では魔族はハンティングトロフィー扱いだ。
魔族を抑え込む”個人用”器具がひそかに出回っているような現状で
それを真面目に信じるのは無理がある。

「なぜ貴方はそれをおしてなお、その協定が可能だと踏んだ?
 敵は踏みにじり、蹂躙するもの。
 対等な交渉などありえない。
 それが”ヒト”の立ち位置だったはず」

敵の敵であったなら、そこで手を引く理由が無い。
魔族側からはむしろ追撃する事が利になる。
王国軍からすれば、是が比でも殲滅したい相手であったはずだ。
けれどこの結果はそれを否定している。
つまり……

「なぜ貴方は”魔族と対等な立場である”と考えた?
 相手は人ではなく、誅すべき仇なのに」


最早どうしようもない程欲と憎悪が交じり合い、
埋めようのない溝が刻み込まれた種族同士で何故そんな事が考えられたのか。
貴族として、騎士として、学者として、魔狩人として
……そして魔族とヒトのその何方でも居れない者として
その理由を知りたくて仕方が無かった。

バルベリト > 「お、それなら良かった。俺もこれは好きでな。
渋みが良いんだ、とか苦味が強い方が良いんだ、とかは判らないが。
飲みやすくて、なんとなしに心を落ち着かせてくれるからな。」

茶の好みは合いそうだ。その点が嬉しいのだろう。こめかみに当てていた指を解き、一度棚の方へ。
茶を漉す為の道具と、湯。茶葉をもって直ぐに戻って来る。
貿易商の名と原産地――東国の一つとされる地名が書かれている筒を見せていた。
湯は先ほどより幾分の熱を引かせ、飲むまでの時間は少なく済むだろう。

「んー?」

相手の言葉。続く言葉の羅列。歴史と憎悪、経緯に隠された悪辣な貴族の行い。
それは自分も知っている物も有るし知らない世界も含まれていたのだろう。
相手が言葉を紡ぎ続けている間は音を立てず、じっと耳を欹てるようにして相手の言葉を漏らさず聞き取る様に努めていた。

やがて言葉が途切れ、問いが向けられると間髪無く、言葉が向けられる。
考えたり、余計な雑念がない。いわば本心より零れ落ちる言葉。
心に、魂に。頭に刻まれているからこそ反射的に出た言葉とも取れる。

「言葉が通じて意思疎通が可能なら、先にそっち試すだろ。
人間も魔族も――命って概念から見りゃ同一の物で満たされてる。
そりゃ、相手が聞く耳持たねぇ!っていうならアプローチは違うんだが。」

あの場に居た魔族。軍を担っていた魔族はそうではなかった。
魔族の命を無為に散らせるのではなく、温存させる。
――此方が人間であろうと、言葉という交流の手段をとった。
―――力で言えば相手の方が優位だっただろう。犠牲を払えば砦の防衛は無理だっただろう。

それをしなかった魔族が居た事。
自分から見れば、理想に。夢想に。甘い理想世界に住む様な存在に見える魔族。
その存在。自分から見れば、高貴かつ。高潔な魂の魔族に出会えた幸運を語っていた。

魔族の「王」、魔族の「国」。
人間の「王」、人間の「国」。
姿かたちは違えど、それはいわば隣国とも言えなくは、ない。

「んー。誅すべき仇なのは、あくまで自分の意思で人間を殺し、嬲る存在だろ?
一部の魔族が人間を殺害して回り、自己の快楽の追及の為だけにそれを続けるなら――まぁ、敵だろうな。
けど、それを全部の魔族に当て嵌めるのは違うんじゃねぇの?」

個人が集い集団になり、集団が集まり国を興す。
国の中の一部が悪人なら国其の物が悪だと断じる訳ではないだろう。
事実、王国の内部の腐敗は目に余る物がある。見るものが見れば、王国こそ悪の巣窟であると断じられてもおかしくはない。

「力の差はあっても、力だけで片付く訳でもねぇだろ。
人間だって、下手すりゃ魔族真っ青の悪事を働く連中がいる。
人間が魔族に手を出し、惨たらしく扱う事だってあった筈だ。
――それに目を瞑って魔族は唾棄すべき悪である、なんていえねぇだろ。

まぁ、後は。戦場で剣を交わらせた結果の感覚。直感で話が通じる相手だって判ったのはある。」

ノイア > 「そう」

短い返答とは裏腹に、数秒の間考え込むかのように瞳を閉じる。
伝えられた言葉を咀嚼するかのように。

「……つまり惚れた?」

……一応チャームなどの方法も考えないでもないが、
保身に余念がない貴族連中がそれを見逃すとは思えない。
なのでこれは真実もしくは冗談だ。
思う所があったからこそ、それを悟られないよう
冗談を口にすることで誤魔化しただけ。

「……それはとても”正しい”ように聞こえる。
 人に近しい姿形の者ならば、分かり合えると」

その口調が冷たさを帯びる。
その冷たさは非難というよりも、
諦念に近い、疲れた様な冷たさだった。

「けれど、それは未だかつて叶ったことのない夢。
 現実問題、私達は分かり合う事が出来ず、終の見えない欲と怨念に塗れた戦いを続けている」

実際のところ、戦場に出た経験があればある程それを理想論と切り捨てる者は増えるだろう。
ヒト個人に対して魔族は異質であり、強力すぎる。
戦えば戦うほど、それが自身とは違うものであることを思い知らされる。

「恐怖を、侮蔑を飼いならせると言い続け、
 けれどそれは為されないままミレー族、ひいては同じヒト相手ですら同じことを繰り返している。
 ――だというのに」

けれど眼前の人物の先程の言葉に嘘はなかった。少なくとも本人はそれを強く信じている。
疑問にすら思わない。
そんな口調で放たれた言葉はとても優しい世界を確信した言葉。
そしてそれをいつか成すことができると信じている言葉だった。

「貴方はそれでも夢を信じているのね」

バルベリト > 咽た。惚れたかといわれればそれは正に死角からの一撃に等しい。
目の前の相手は暗殺者の資質でもあるのではなかろうか。
流石に相手の方に向けて咽る訳にはいあkないので、必死に横を向いて呼吸を落ち着かせるが。
まぁ、紅い。赤いではない、耳まで紅い。

「近いな。惚れたってよりも理想郷が見えたって方が近い。
んー、あー、好きか嫌いかなら好きだな、うん。
ただ、寿命の差はあるからな。俺はソイツに寄り添う事はできねぇ。
これは、他の惚れた女に言われた事の流用だが」

惚れっぽいクズ男でもある。が、伝えられた言葉や気付かされた言葉を無碍には出来ない。
続いた相手の言葉。幾分か冷えた声は、それこそがこの国の、この世界の概念としては正しいのだろう。
未だ嘗て叶う事のない夢。甘っちょろい理想論を振りかざすだけとも取れる自分の思いを聞いて尚。
相手は。目の前の王侯貴族は馬鹿にする事をしなかった。

だから相手の過去と現実を伝える言葉を真正面から受け止め。
未来を示す言葉には、頷いて返す。

「じゃぁ、タナールの一件は局地的、かつ瞬間的であろうと過去から切り離された事実。
解放された現実として残ってるって俺は言えるけどな。」

問題点は簡単だ。誰もが気付ける身近な問題。
それでいて解答の難易度という点では群を抜いて高い問題。
けれど、自分の理想とするならそれは解決する為の問題なのだから。

「やる事は山積みだけどな。そうだなぁ、例えば吸血鬼。
それが人の血を吸わずとも代替できる物なのかどうか。
人の血が美味いから吸うってんなら、人の血よりも美味い作物なり料理なりで満たすことは出来ないか。
人を食わねばならない、魂を奪わねばならない。本当か?
――【かく在るべき】が根底にありすぎて、誰も調べねぇし研究してねぇだけじゃねぇの?」

つまるところ。相互理解をする余裕の無い世界だからこその今の環境ではないか、とも思う。
自分には寿命がある。命は一つしかない。
そして人間をやめるつもりはない。これは――協定を交わした魔族との約束でもある。

アイツはアイツの世界から。
俺は俺の世界から。1人でも、1つでも。お互いの理想の世界に近づけよう、協力者を増やそうと約束をしたのだから。

「今すぐ、俺が生きている内にってのは難しいだろうけどなぁ。
それでも、出来るって信じてるぜ。俺より頭いい人間は沢山いる。
――最初の一歩が踏み出せたんだ。次の二歩目だって歩み出せるのが道理だろ?
って言うと何十年何百年。下手すりゃ何千年ですら届かねぇかもしれねぇが。
それでも、俺は夢を諦めるつもりはねぇさ。現実として、そういう同志と出会えたんだからな」

ノイア > 「……そう。参考になった」

変わらず希望と確信に満ちた言葉と共にカップの中身を飲み干し、
再びしばらくの間瞳を閉じ思案に暮れる。
まるで眠っているかのような時間の後
ゆっくりと立ち上がると儀礼剣を手に取り、扉へと向かう。
王侯貴族として、そして殲滅者として、
それを表立って認める事は決してない。
望む事すら禁忌に触れる事だといえる。
それを彼は、真正面から切り込もうとしているようだ。
多く力尽きていった先人のように。
……それを理解すれば、あとは聞くべきことはない。

「公式記録では私は師団長の就任祝いに来たと記録される。
 それ以上でも以下でもない。余計な会話は記録に残らない。
 故にここでの”其々の立場にとって適切な会話”以外は個々人の記憶にしか残らない
 私の立場上、貴方に出来る事は見なかった、聞かなかったことにするだけ
 だから、私に言える事は今はこれしかない」

扉の直前で僅かに振り返り、呟く。
その瞳は相変わらず光を映さず、その口調は一本調子のまま。
けれど、見つめる瞳にほんの一瞬だけ暖かい光が灯った。

「貴方の世界が幸福であることを願っている。
 そして願わくば、貴方の願いが叶う世界であらんことを。 
 心からそう願っている」

……それは一見突き放す様な、見下ろすような返しだった。
記録を読めば王侯貴族らしい傲慢な言葉。
けれど、実際に聞いたものには、聞いたものだけが
そんな優しい世界であれという願いを
彼女もまた願っている事を知ることができるような、そんな言葉。

「”では第八師団長様。どうか良い夜をお過ごしくださいますよう”」

陶磁人形めいた笑みを浮かべ、会釈を一つすると
そのまま振り返る事無く部屋を後にして。

バルベリト > 「そう言えるのは、俺には無い優しさと強さだよ。
俺ばっかり喋っていてすまないが、最後に一つ良いか?」

自分の世界の中に居るから。
だから己は理想論を語れる。だが外から見ればそれは何を夜迷いごとを、と鼻で笑っても。
見下しても。それは決して間違いではないのだから。
それをせず、相手の世界を見て、話を聴き。
その上でその言葉を残せる相手は、自分には無い優しさと強さを持っていると、賞賛出来た。

「名前を良けりゃ聞かせて欲しいな?どう呼べば良いかも判らねぇし。
―――茶と、茶菓子くらいは用意しとく。また話に来るなら歓迎するぜ?
……それと。ドアノッカーはもう少し低い場所につけとくからよ。」

意地悪な言葉を背中に向けていた。
もう1つの問いかけ。名前については相手の反応次第だろう。
語られたか、語られなかったかは相手の心一つで決まる事。

ノイア > 「……」

かけられた言葉に答える事は無かった。
投げかけられた言葉にどう思ったかは本人のみぞ知るところだろう。
ただ、その瞳には何処か諦めたようなひどく寂し気な光が宿っていて……

「王都にいる時間はそう長くはありませんのでご期待に添えるかはわかりませんが……
 その時を楽しみにしております」

問いかけと追うような声に暫し立ち止まる。
振り返った顔には仮面のような笑みが張り付いていて
ああ普段はこんな顔で貴族と接しているのだと判るかもしれない。
そうしてまたくるりと踵を返すとカツカツと靴音を響かせながら
暗い廊下へと消えていった。

ご案内:「王都マグメール 王城第8師団執務室」からノイアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城第8師団執務室」からバルベリトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 王国軍第七師団執務室」にサロメさんが現れました。
サロメ >  
「………」

王国軍第七師団の執務室
その机で、一人サロメは頭を抱えていた

「…落ち着け、まずは状況整理だ……」

自分に言い聞かせるようにしてそう呟く

目の前の報告書や王族貴族からの指示書の山に、ではない
もちろんそれにも目を通さなければいけないのだが…

サロメ >  
タナールの長期確保は難しい
魔族の国へ打って出るならば丁度よいタイミングを見計らわねばならない

王国貴族に対し一見従順であるように見られている新第七師団としては、
一度の好機でそれを見極め成し遂げる必要がある
幸い他の師団は協力的で、タナールに波状攻略を仕掛けてくれているのだが…

「…それ以前の問題だぞ」

"敵兵は、グール、スケルトン、アンデッドドッグ
レギオングール300は銃を武装

アンデッド軍団であり、翼ある獣の軍では無し。
アンデッド軍団の長は、故、オーギュスト・ゴダン。
キルフリートで戦死し、その遺体をロザリアにアンデッドとされた模様"

「………」

大きな溜息と共に、再び頭を抱える

「こんなものをどう報告しろというんだ…?」

果敢に戦い戦死したオーギュストを英雄視させようという王国貴族の動きは気に入らないが、
こんな話が出てくるぐらいならばそちらのほうがまだマシだ

サロメ >  
そもそも新第七師団が魔族の国へ打って出る理由は、
表向きは第七師団の対魔族特化戦力たる有用性を王国貴族達に証明するため
その裏にはオーギュストの行方を追う、というものがあった
遺体も戻ってこない彼を死んだとするには、第七師団の者達は自分を含め諦めの悪い者の集団だ

「(……こんな形で突きつけられるとは)」

彼の死を認めざるを得なくなる
そして、魔族側で利用されている可能性まで
……あれがそう簡単に利用されるタマだとは思えないが、
ネクロマンシーのようなもので蘇生させられているのなら既にその自我の有無は怪しい

「…さて、オーギュストが生きていたらどうするか…といつもなら考えるところだが」

自分が死んで敵に寝返ったら、なんて話は夢想にも程がある
……まぁ、彼のことだ、闘志と殺意を剥き出しにし、遠慮なくぶっ殺せと言うのだろうが