2016/12/09 のログ
オーギュスト > 「あぁ、そうだな」

それは分かっている。
本質的に、オーギュストのしている事は、腐敗貴族と変わらない。
無辜の民を犠牲にし、己の目的を達する。
そこに違いなどない。

「だから、まぁ俺もいつかは死ぬだろう。俺がやってきたような、惨たらしい様でな
――その日が来るまで、走り続けるだけだ」

天命が追いつくのが先か
己が望むものを手に入れるのが先か

それまで、とまる気は無かった。

テイア > 「まったく、自覚している阿呆ほど厄介なものはないな。」

ポンとコルクが抜けると、赤いワインを持ってきたグラスへと注いでいく。
自覚しながらも、止まる気のない者は何を言っても無駄だ。
考え方はともかく、この男のことは嫌いではない。
志があるならば、その半ばで死に絶えるようなこともしてほしくはないが、覚悟しているというのならこれ以上は何も言う必要はないだろう。

「…で、サロメの具合はどうなんだ」

注いだグラスをもって寝台へと歩みよると、一つをオーギュストへと渡して。

オーギュスト > 「違いない」

否定せずに、グラスを受け取る。
気付け代わりにいっぱい、あっという間に飲み干し。

「――厳しいな、元に戻らんかもしれん」

そこだけは、酷く落ち込んだ雰囲気で言う。
流石の男も、サロメのあの様は堪えたようだ。

「すまんが、頼めるなら――あれを治す方法を、探ってくれるか?」

テイア > 「…そうか…。」


あっという間に飲み干されるグラスに、新たなワインを注ぎながら、それでもこれだけはと苦言を重ねる。

「これは私の感情の混ざった言葉だ。余計なことは百も承知している。
 そんな状態のサロメのそばにいてやれない原因を作り、こんなところに軟禁されるそなたは馬鹿者だ。」

女にとっては少しの昔、騎士に憧れキラキラとした瞳をしていた少女を思い出せば、どうしても個人的思い入れが強くなってしまう。
男も男なりに、彼女を大切に想っているのも分かっている。
それ故に怒りを収められなかったのだろうとも予測できる。
それでも、女は女で抑えられない感情を乗せて男をそう一言非難した。

「…治す方法な。精神的なものなら、本人が持ち直すしかないだろうが、それ以外にも何か要因があるのか?
 今の状況では、第七師団も騒がしいだろう。
 サロメが静かな環境を望むのなら、森で療養をするのもいいと思うが。」

例えば呪術的なものならば、解呪の方法を探ることもできる。
非難した声は影もみせずに、普段の冷静な声が問いかけを投げる。
静かな環境を提供できることも申し出て。
けれど、それはサロメ次第。慣れ親しんだ第七師団の者達といることを望むのならば無理に勧めるつもりはなく。

オーギュスト > 「――返す言葉もねぇな」

この事態を招いたのは己。
それは間違いが無い。
彼女にも、己のように屹立して欲しかった。
何者にも、それこそオーギュストにも縛られる事なく、この腐った王国で、己自身を貫いて欲しかった。
だが……結果が、これだ。

「打たれた薬は解毒した。体力も、回復しつつはある。だが――
心が、戻らん。何をやっても」

かなり高位の神官に大枚をはたいて頼んだのだが、結果は効果なし。

「どうも、な――精神世界に、何者かの干渉を受けた。神官はその可能性が高いと言ってる。
こちとら第七師団、魔族に恨みは買うだけ買ってるからな……」

サロメのあの様を見たオーギュストとしては、そう判断するしかない。
いくらなんでも、外部からの何かしらの干渉無しに、あのサロメがそこまで堕ちるとは考えたくなかった。

テイア > 「………。」

はぁ、と吐息を零すともう一つのグラスにワインを注ぎ一息に仰ぐ。
女が言ったことは、男が一番分かっているだろう。
以前、大人になった彼女に再会したときに守るべきものを見失い迷った時期があったが、乗り越えたと話していた。
今回のことも乗り越えることができるか…それは彼女次第だ。

「心か…。具体的にどういった状態なんだ?人形のように反応しないとか?」

精神世界に外部からの干渉。
そうなると、干渉の影響は精神のかなり奥のほうまで侵食していると考えたほうがよさそうだ。
実際にサロメを目にしていない故に、想像することしかできないが、状況はかなり厳しそうだ

オーギュスト > ――どのような、と聞かれれば。
苦虫を噛み潰したような顔になる。
あまり、言いたくはない事、だが……

「――男を求めてやまない。娼婦でもあそこまでひどくねぇ。
今は、師団の女達が必死に止めながら、ずっと沈静化の魔法をかけて眠らせてる」

はぁ、とため息をつく。
いくらなんでも、あれは異常だ。根っからの男好きでも、あそこまで四六時中男を求めたりはしない。
まったく、一体何がどうなったらあのようになるのか。
それこそ、何かの呪いかと思ったのだが……

「呪いかと思ったが、そういうアイテムを身に着けてもいなかった。
さっぱり、分からん――」

テイア > 苦虫を噛み潰したような顔に微かに察する。
人形のように反応をしない、それよりも尚悪い状態なのだと。

「…眠らせるしか、対応の方法がないということか…。」

話の内容に、痛ましげに視線を伏せる。
もし、心が戻ったとしてもそんな状態に自分があったことに耐えられるだろうか。

「…目に見えぬ呪いというものも存在すると思うが…。森の大婆様にお伺いをたててみよう。何か良い知恵をお借りできるかもしれない。」

永きを生きるエルフの知恵者。
彼女に問えばあるいは――。

オーギュスト > 「今はな。師団の連中が死ぬ気で守ってる。
もしそれでもダメなようなら、その時は森へ頼む」

もっとも、そのような事態になれば。
第七師団は、反逆者として王国の歴史に名を刻む事になるだろう。

「頼む、流石に呪いやなにやらは専門外だ。タナールの魔族は、戦闘狂いばっかりだからな」

こういう調査は第九師団の役割なのだが。
あの気まぐれ竜が何処に居るのか、それを探すのは余計厄介だ。

「それと――例の娼館にあったものだ。こいつも追ってくれると助かる」

それは、サロメが居た部屋にあった手紙。
その手紙に書かれた紋章を持つ貴族――アダン・フェリサという名前をオーギュストが知るのは、もう少し後の事になる。

テイア > 「ああ、いつでも受け入れよう。」

今回の事件、サロメへも追求の手が伸びるだろう。
一時的に隠す場合でも受け入れると告げて。
騎士団長のときであればいざしらず、今は第七師団そのものをどうにかするほどの力はない。
けれど、女ひとりくらい守る力はあるつもりだ。

「大婆様がお会いになってくだされば、すぐに知らせを送ろう。
 ただ、騎士になると森を出たときに絶縁されているから時間がかかるかもしれない。」

実際にサロメをみせなければ状態も分からないから、一時的に預かることになるかもしれないことなどを告げて、手紙を受け取る。

「……紋章官に問合せをしておこう。」

手紙に記された紋章。どこかで見たことがあるように思うが、貴族は無数に存在し似たような紋章も多い。
それを専門とする職の者に問い合わせて、結果を送ることを約束して。

オーギュスト > 「頼む――こいつを見せれば、師団の兵営はフリーパスだ」

テイアに、身に着けていた竜の紋章を渡す。
ミスリル銀で出来た特別製だ。取り上げられなくて幸いだった。

「まぁ、どうせ俺はここから動けん。しばらくは、な――」

暫くが永遠になるかは、男にも分からない。
だが、今は彼女に賭けるしかないだろう。

「もし、サロメがこんな事になる元凶だったら」

生かしてはおかない。
いかなる手段を用いても、ブチ殺す。

ご案内:「王都マグメール 王城 尖塔の一室」にハイドリアさんが現れました。
テイア > 「分かった。そなたがここから出るまで預かっておく。」

ちゃりっと女の手に竜の紋章が載せられる。
ひやりとしたその感覚と、光沢は普通の銀にはないものだ。
男が尖塔から出されれば、師団にこれをみせる必要もなくなるため、そう言って大切にポケットに仕舞う。

「そうだろうな。貴族たちも、そなたと第七師団の存在を扱いかねているようだ。永久に幽閉し、必要なときだけ出すということもありえるだろうな」

まさに飼い殺し。
必要な時に、といってもこの男が素直に従うとは思えない。
だからこそ頭を悩ませているのだろう。

「…紋章官への問い合わせは数日で分かるだろう。手紙の件を追うのも引き受けるが、そちらは時間がかかるだろうな」

相手によっては慎重に動かなければならない。
そのあいだにある程度頭を冷やしておけとだけ告げて。

オーギュスト > 「頼んだぞ……ん、うめぇな」

つまみを食べながら一言。
辛気臭いのは苦手だ、少しは明るく振舞わねば。

「んだよ、まるっきり傭兵だな――とっとと俺の首でも落として、自分達が戦場に行きゃぁいいものをよ」

くくっと笑う。
辛らつに言ってはいるが、それも相手がそんな事が出来ないとたかとくくっているからだ。

「まぁ、こっちはじっくりでいい。
本当に原因がそいつだったら、ゆっくり料理してやるさ」

逸る気持ちはあるが、いくらなんでもこの状況で復讐を優先したりはしない

テイア > 「ああ。差し入れと合わせて貸し三つにしておく」

男が明るく振舞うように切り替えると、女も冗談めかしてそう告げる。
暗く考えていても事態は好転しない。
まずは冷静に元凶を捜すことが先決だ。
サロメに精神干渉をしたであろう者に会えれば、一番いいのだが。

「それをしたくないから、そなたたちが今まで好き勝手にやってこれたのだろう?」

辺境の守護にしたってそうだと肩を竦めて返し。

「ああ、急いて証拠をもみ消されても厄介だからな。慎重にやるさ。」

可能なら、サロメの状態が好転してからのほうが男の頭も冷えるだろうと考えて。

オーギュスト > 「やれやれ、借金生活だな」

ここから出たら、ノシをつけて返すとしよう。

「まったく、どこも人手不足だな」

対魔戦線でさえこうなのだ。
他の戦線ではどうなっている事やら。

「あぁ、まったく俺らはこういう調査は苦手だ」

テイア > 「借りは少なく、貸しは多いに越したことはないからな。
 こちらが必要になったときに返してくれればいい。」

早く出ないと首が回らなくなるかもな、だなんて冗談を交えて。

「人手不足だな。この間も18師団の将軍代理が部屋中書類の海になっているのに遭遇したが。」

どこの組織も人手不足でぎりぎりのなか人員を回している。
困ったものだを零して。

「とはいえ私も個人で動くからな。少しずつしか情報は集められないだろう」

情報屋などを使い地道に調べていくしかない。
ツテはそれなりに持っているから、時間が掛かるだけで不可能ではないわけで。

オーギュスト > 「やれやれ、散々こき使われそうだ」

苦笑しながらチーズをひとかけら、口に放り込む。
こっちの世界の食事にも、また大分慣れてきた。
欲を言えば肉が欲しい所だが。

「まぁ、全部少しずつやるしかないだろ、少しずつ、な」

テイア > 「人手不足だからな。仕方がないのだよ」

こき使われそうというのを全く否定せずに、男のグラスへとワインを継ぎ足す。
異世界の味を知っていれば、こちらの食事は味気なく感じるかもしれない。
けれど、良い素材の味というものはどこの世界でも良いものだろう。

「そうだな。少しずつ確実に…。」

そして少しずついい方向へと運べればいい。
さて、大方の話しもついた。そろそろ兵士に怪しまれる頃だろうと扉の方をちらりと見やり。
長くなったとしても、この男のことだからベッドに引きずり込んだと思ってくれそうだが…。

ハイドリア > その頃……静まり返る尖塔の中、ゆっくりと階段に足を進める影が一つあった。
その全身は顔すら隠れるローブに覆われ、
明かりを掲げすらせず滑るように歩く様はヒール音がしなければ
まるで影が歩いているようにも見えるだろう。
それは白昼の野を進むが如く粛々と歩を進めていた。

「たまには普通に歩くのも悪くないわねぇ
 人間というのはどうして高い場所に閉じ込めたがるのかしらぁ
 ……まぁこれで少しは落ち着いてお話出来るのだから構わないけれどぉ」

一人間延びした声で呟き満足げに笑みを浮かべる。
城内の執務室というのは意外と聞き耳をたてられているものだ。
反面貴人用の幽閉施設…自分達が入るかもしれない場所にそんなものを仕掛けられるほど豪胆な者もそう居ない。
他にも色々理由はあれど城内よりは幾分かましだろう。

(まぁ聞かれたところで問題ないのだけれどねぇ)

人払いには十分握らせ、根回しもしてある。
彼が金額を確かめた時の表情はなかなか見ものだった。
人間というのはお金というものに期待しすぎではないかと思うのだけれど、今はそんな事はどうでも良い。
ふと立ち止まり、こめかみに手を当てぱちぱちと少し小さな音を響かせる。
今の私はただのお人よしの王侯貴族…よし、問題ない。
ある程度は対応できる自信はあるけれど用心はするに越したことはない。

「さてぇ…どの辺りにいるのかしらねぇ」

いくつかある感触の中にお目当ての人物らしきものを見つけ
くすくすと子供のような笑みを浮かべ手元で煌めく結晶を眺めた。
このお土産を見たとき彼はどんな反応を返してくれるだろうか。
ああ楽しみだ。その意味を理解してくれるだろうか。
まぁ今は逸る必要はない。少なくとも私は。

「……そう、私は、ねぇ」

彼が幽閉されている場所は大まかにつかんでいる。
道中の見張りの記憶でも読んでいけば迷う事もないだろう。
その影はまた笑みを浮かべゆっくりゆっくりと歩き始める。
そうして程なく目当ての場所に辿り着き、

「あらあらぁ、これは少々意外な方が、いぇ、順当といえるかしらぁ」

その場にいた二人を眺め小さくつぶやき頬を緩めた。

オーギュスト > 「ん、あとは女さえいれば、こんなとこでも文句はねぇんだがな」

と、気付いてみれば、女と二人。
とはいえあれだ、流石に目の前の女を引っ張り込むわけにもいかない。
まぁ、寂しく一人寝か、と思っていた所……

「……あん?」

視線を、感じた

テイア > 「嘘だな。そのうち戦いたくてうずうずするだろう?」

こんな狭い鳥かごで飼える男ではない。
女がいたとしても、きっともうひとつの欲が疼きだすだろうと問い。
ふと、こちらが女であることに気付いたような視線に肩を竦める。
その気はないと。

「……。」

声が聞こえていなければ、男と差し入れを持ってきた人間の侍女が、彼に酌をしているように見えることだろう。
簡単な変装魔術なので、力が強いものには見破ることも可能だろうが。
産毛がちりちりするような感覚を覚え、男とほぼ同時期に扉の方へと視線をやり。

ハイドリア > 影から湧いて出てくるようにその姿を現す。
とはいえ些細な切っ掛けに過ぎないためそう深い意味はないのだけれど、武人二人……深読みはされるかもしれない。
気配を探られたところで今この化身は完全に人と同じ構造にしてあるのだからかまわないのだけれど。

「第七師団長と……元王国聖騎士団長
 ある意味納得の組み合わせだけれどロケーションがいまいちねぇ」

ゆっくりと笑いを含ませながらフードを流す。
宮廷内で噂の多い二人に対してこちらはあまり噂の多いほうではない。
知らなくても可笑しくはないだろうと考えながら、それでも面白そうに二人を眺めて。

オーギュスト > 「――面倒なのが入ってこないように、王城の警戒は厳重にしろとサロメに……っていねぇじゃねぇか」

ちっと舌打ちする。
王城内の魔族対策はサロメに一任していたのだが、責任者が居ないのではしょうがない。
まったく……

「男と女の密会を邪魔するたぁ、無粋だな。
何の用だ?」

それでも減らず口を叩く。
この男の、もはや病気のようなものだ。

テイア > 「サロメに頼りすぎるなということだろう。」

彼女一人が抜けただけで、警戒網に大きな穴があくなんて欠陥もいいところだと、舌打ちをする男に言う。

「こうも簡単に見破られたのでは、変装の意味もないな。
 …どのようなロケーションなら納得してもらえたのだろうな。」

フードを流せば、朱色の髪がこぼれ落ちる。
その容姿に見覚えはなかった。
男が減らず口とともに問いかけを投げたのに、入ってきた女の返答を待つ。

ハイドリア > 「あらぁ、ごめんなさいねぇ?
 一応伝えておくと私も意外ではあったのよぉ?
 それにしても思っていた以上に余裕があるみたいで安心したわぁ?」

間延びした声でのんびりと一礼してみせる。
焦る必要はないのだから、のんびりと進めていこう。
……そう。私は。

「わたくし勘が鋭いとよく言われていますの」

記憶や思考を読むのだから勘が鋭いどころの騒ぎではないけれど。
そんな様子はみじんも見せずに言葉を連ねる。

「まぁ……お邪魔だったらまた日を改めたほうがよかったかしらぁ
 まさかこんな殺風景な場所で、ねぇ?
 口説くときにはもう少し風情がある場所が素敵でしょう?」

そう言いながらゆっくりと首をかしげる。
実際目の前で絡み合っていたとしても気にしなかっただろう。

「ああ、ごめんなさいねぇ?
 わたくしラヴィア・エーテリウスですわぁ
 名前程度はご存知かとぉ?そうでなくても構いませんがぁ」

あくまでマイぺースに話を進めながら再び一礼して見せた。

オーギュスト > 「貴族の名前なんぞいちいち覚えてねぇよ……
だが、魔族の名前なら、覚えるとするか」

相手の軽口を適当に流しつつ。
どうやらかなりの力を持つ何からしい、が。

「で、何の用だ。俺の首が欲しいんなら、とっととそう言え」

もちろん、簡単にくれてやるつもりもない、が。
生憎ここには武器が無い

テイア > 「勘…ね。」

簡単な魔術とはいえ、勘で見破られるほど稚拙ではない。
言葉に納得はしていないが、深く追求する気もない。

「風情が大切だそうだぞ、オーギュスト。」

あまりこの男が気にしなさそうな言葉が、女性から出てきたためそう男に振って。

「エーテリウス…ああ、王族にも名を連ねる家だったか。」

名を聞いて少し記憶を探るように、視線を動かした。
ミステリアスな女性ということで、男性貴族の噂に時折あがる名だったように記憶している。

ハイドリア > 二人の言葉にくつくつと声を漏らす。

「あら酷いわぁ。ここには正規な方法で入ってきたのよぉ?
 魔族だなんて人聞きの悪い……。
 そうそう、私はただの王侯貴族に過ぎないわぁ」

貴族的な意味で正式な方法…だけれど。
笑みを大きくしながら扇子を取り出し口元を覆う。
たとえ見えなくとも笑みを浮かべているとは感覚でわかるだろう。
そのまま切り出していく。

「首なんかいらないわよぉ。むしろ貴方には期待しているのだからぁ」

そう、少なくとも彼にはとても期待している。
だからこそこうして足を運んだのだから。

「先日の火事での顛末を耳にしたのよぉ
 師団副団長、サロメ=D=アクアリア…
 あの壊れた子を取り返すためにずいぶんと犠牲を払ったものじゃなぁぃ」

それは面白がっているような口ぶり。
けれどその目だけは笑っているというよりも冷静に二人を眺めていた。

オーギュスト > 「こんなとこまで来る阿呆はな。
こういうお節介か、さもなきゃ魔族って相場が決まってる」

魔族の精神構造の一端だ。
あまりの強さゆえに、それを誰かに見せびらかさないと気がすまない。
こういう所に顔を出すあたり、まさにそれだ。

「――で、それがどうした。
王侯貴族サンとやらに関係のある事じゃねぇだろう」

多少、雰囲気は剣呑になったか。

テイア > 「ただの王侯貴族が、鍵の掛かった扉を影のように擦りぬけるのには無理があると思うが。」

男のように攻撃的な口調ではないものの、女も警戒は怠らずにすぐに対応できるよう女性の一挙一動をつぶさに観察して。
こういうお節介と指され、まあその通りなのだがと肩を軽く竦め。

「………。」

わざわざここで、サロメのことを話題に出されれば警戒の色は強くなる。
男の問いかけに女性が答えるのを、邪魔しないよう女は黙って待ち。

ハイドリア > 「酷いわぁ、一応ちゃんとした理由があって来ているに決まってるじゃなぁぃ」

小さく首をかしげる。
確かにお節介かもしれないが……

「それが意外とあるのよぉ。しかも切実な…ねぇ
 感謝してほしいわぁ?これは公開されるような内容ではないのだからぁ」

手に持った記録結晶を差し出す。
暗に確認しろと目で告げ、自分は数歩後ろに下がっていく。
その中に収められていたのは…とある副団長の痴態。
玩具のように扱われ、罵倒されながら淫らな声を上げる映像。
それだけなら、心を抉るだけで済んだだろう。

「問題はこの後なのよねぇ」

その直前にポツリとこぼす。
さんざん罵倒し、彼女を嬲っていた男の姿が急に変わり
魔族然とした姿に変わる。そのまま近くにいた兵士に嘲るような声を上げ……映像はそこで終わる。

「その映像が今出回りつつあるのよぉ
 どういう意味かぁ……判るでしょぉ?」

対魔族戦線の副団長がこのような扱いを受けている…
それだけでもその団体への信頼度は激減するだろう。
最も、最大の問題点はそんなことではないけれど。

オーギュスト > 「……へぇ」

なるほど、確かにスキャンダルではある。
第七師団副将軍の痴態、それも魔族によって。
が、しかし、だ。

「魔族がねぇ……ふむ……」

オーギュストはしばし考え込む。
魔族にしては迂遠な方法だ。
それこそ、オーギュストを呼び出すなりなんなりして殺すか。
あるいは、サロメを公開陵辱でもして徹底的に壊すのが魔族の常道だろう。
それが、今回は随分と面倒な方法を取っている。
まぁ、どこぞの魔王の気まぐれだったりする場合もあるのだが。

「で、その映像がどうした?
んなもので解体されてんなら、第七師団なんぞとうの昔にお払い箱だぞ」

サロメ個人のスキャンダルではあるのだが。
まぁ、これが出回ったら、ほとぼりが冷めるまで森で匿ってもらうとしよう。

テイア > 「…………」

記録水晶がぽわりと光、やがてそこに記録された映像を映し出す。
男達に玩具のように扱われ、尊厳を踏みにじられ喘ぐサロメの姿がそこにあった。
それを見る女から表情が消える。
不快感に吐き気すら覚える胸の内に反比例するように、表に出る感情は消えて冷たいとすら感じさせる瞳が水晶へと向けられる。
水晶の音声に混じった呟きを拾い問いかける間もなく、水晶の中の男の姿が魔族へと変貌する。
こんなものが出回れば、サロメがもとに戻ったあと復帰が難しくなる。
それに、また彼女が深く傷つけられることになる。

「出回りつつある、ということはまだ出回ってはいないんだろう?何故貴女がこんなものをお持ちなのか伺いたいな。」

オーギュストは意外にも冷静に対応している。
それに少し安堵しつつ、女性へと問いかけを投げる。

ハイドリア > 二人の顔を見比べながら淡々と並べていく。
この会話が始まった時点で大方詰んでいることに気が付いただろうか?

「大方どこかのお馬鹿さんがぁ
 後で楽しもうと記録していた内容だと思うけれどねぇ
 入手に関しては後で説明してあげるわぁ。そのうち分かると思うからぁ
 とにかく、今現在これが証拠のうち一つとして出回ろうとしてるのよぉ
 これがあれば責任は免れた挙句、うまく行けば強力な私兵が手に入るのだものぉ
 まぁ当然よねぇ」

しっぽ切りの対象にならないよう、それぞれ必死だろう。
こぞってこれを持ち出し、責任転嫁と糾弾に躍起になる姿は想像に難くない。
その切っ先がどこに向かうかも。

「第七師団の存在意義は対魔族としての戦力であって、
 それこそが今まで手を付けられなかった理由の一つだわぁ
 貴方達は強い力を持っていた。それは確かだものぉ」

だからこそ手を出せない者が多かったのだ。
それに良くも悪くも噂の第七師団。
今更スキャンダルが起きようがそんな事は今に始まったことではない。
けれど……

「これが正式に証拠として受理されれば
 それは公式に第七師団への能力に対する疑問符となる
 普段ならともかく、今それが提示されるとどうなるか分かるかしらぁ?」

優しげな笑みを浮かべて二人の顔を見比べていく。

オーギュスト > 「まぁ、そうだな。
貴族どもは大喜びで俺と第七師団を糾弾するだろうよ」

まぁ、何を勘違いしているのかは知らんが。
喜んでいるなら、別にかまわない。

「そうだな、第七師団はこんな魔族程度に副将軍が屈服するような、そんな連中だったのか、と
で、第七師団解体の話が出るわけだ」

くっくっとオーギュストは笑う。
それがどうした、とばかりに。

「で、それでどうする?
師団を解体するならいいが、対魔族戦線に、他のどの将軍と、どの師団を宛がう?」

まさにそれこそが、第七師団の存在意義。
替えが効かない、というよりも。
誰も替えをしたがらないのだ。

当然だろう。
魔族退治というのは、戦争よりも猛獣退治に近い。
ノウハウが無ければ、悪戯に死人が増えるだけだ。

テイア > 「余計なものを…。」

全く余計なものを残してくれた。
こちら側が欲しい情報、サロメを陥れた者の証拠となるようなものは何一つなく、不利になるものばかり。
関係した貴族が保身に躍起になるのも、容易に想像できるだけに出回るのは時間の問題だろう。
女性の言う通り、普段であれば何の問題もない映像だ。
魔族と人間ではその能力差があり、敗北して陵辱される場面というのは、第七師団の副長であっても違和感はない。
けれど、今は第七師団を陥れる隙を虎視眈々と狙われている最中だ。
糾弾されるのは必至。
うまくことが運んだとしても、サロメの副長という立場はかなり危ぶまれる。

「………。」

今は師団長であるオーギュストの言葉を遮らないように、黙って話を聞くに徹する。

ハイドリア > 「わからないかしらぁ……
 貴方達が先日焼き払った対象は
 "魔族の恩恵を受けた人間"しかも装備が整った私兵。
 それに対して貴方達は徹底的に抗戦した。
 十分な…十分すぎる戦力と"技術"でねぇ?」

暗に何を使ったか、何を開発していたか思い出させる。

「貴方達は同時に証明してしまったのよぉ
 貴方達の持つ技術がいかに"人間"に作用するか。
 人間相手にどれだけの力を振るえる技術があるか……広告してしまったのよぉ」

楽しそうで何より。
少なくともこの状況を楽しむだけの胆力があるというのは好ましい。
ただ…貴族連中が今冷静に判断できると考えるあたり政治には向いていないかもしれない。
過ぎた技術は過信を生む。彼らにとってわかりやすく垂涎の餌。
これさえあれば戦えるのではないかと。

「だからこそ貴方は幽閉され、今や王城での議論は誰が主犯か…より
 誰が第七師団を解体した後自身の傘下に置くかという水面下の攻防が
 主な議題になりつつあるわぁ
 これが決着がつけば武器工房、生産工場、そういったものが
 そっくりそのまま勝者の手に落ち……
 戦線の後続はその後編成され、奪われた部隊に押し付けられるでしょうねぇ」

彼らがほしいのは武力に繋がる技術であって、第七師団そのものではなくなったのだから、
それを押し付ける攻防がいま王城では繰り広げられている。

「理解してもらえたかしらぁ?
 今風前の灯火なのは誰、いいえ、誰と誰なのかぁ。
 その力を手に入れるためなら
 それこそ第七師団が皆殺しになってもおかしくないということが
 理解してもらえたかしらぁ?」

そして目前の彼はそれに耐えられるだろうか。

オーギュスト > 「なるほど、技術ね」

そういえば、ナルラが大層宣伝してくれていたし、自分も大工廠で随分と実験もした。
あれを持ち逃げして後は野となれ山となれ……という貴族なら、確かに居るだろう。

「で、それがどうした?
第七師団と俺が大ピンチだぞ、と、ありがたくご忠告に?」

今度こそオーギュストは笑う。
呵呵大笑と。

「わりぃな、俺は困ったときに『お前は大ピンチだぞ』と言う奴の事は信用しなくてなぁ。
分かりやすくて助かるが、で、どうした?」

テイア > そういえば、異世界から戻った将軍が持ち帰った技術により第七師団は飛躍的にその力を向上したという噂も耳に入っていた。
今回の件で、それに目を付けられたわけか。

「目先の欲に取り憑かれた人間は、先を見通す力を失うからな。
 それが愚かしい選択だということに、当然のように気づかないわけか。」

戦力と技術さえあれば戦えるなら、こんなに苦労することはない…。
そう考えるのは現場に立つものだけだ。
ただ、その技術を根こそぎ奪って後続の部隊に戦線を押し付けたところで、魔族に対抗するには弱い。
それすらも見えない愚か者ばかりか、と呆れて言葉もでない。

「それで、教えることが目的でここにわざわざ?」

それでもオーギュストは笑って意に介さない。
笑っているが、第七師団も組織に組み込まれた駒の一つだ。
彼がどういおうと、上層部が解体を決定すればどうしようもない。
人材が残っていれば、再起もできよう。けれど、彼女のいうように人材すらも残されなければ、どうなる…。
オーギュストほど楽観視はできず、彼女にここにきた目的を問う。

ハイドリア > 「…私はねぇ?力は力あるものの手元にあるべきと考えているのよぉ
 愚か者の手に渡った力は活用されることなく消えていく。
 それではあまりにも勿体ないわぁ」

力は効率よく使われてこそ意味がある。
道具だけあれば敵を倒せるなんて戦線に立ったことのない馬鹿な貴族の考えだ。

「だから私は第七師団に解体されては困るのよぉ
 近くの椅子取り合戦しか手中にないお馬鹿さん立ちよりよっぽど役に立つものぉ
 だからぁ…貴方に此処で全てを失ってもらうのは困るのよぉ」

そう、魔族と戦える団体は第七師団を除けばそう多くはない。
一方的な戦況などすぐに収着してしまう。それでは意味がない。

「信用?しなくていいわよぉ?
 私は信用されに来たんじゃないものぉ
 これは私の欲で、貴方が私を利用できるよう
 私もあなたを利用する提案をしに来たのだからぁ」

小首をかしげ、二人に目を向ける。
信用で支えられた関係などあの日から信じてなどいない。
この二人なら冷徹に実利を計算できると踏んだからこそこうして話しているのだから。

「私は貴方とあの副官…二人を引き取れる立場と理由があるわぁ
 ここで座して死を待つより、信用できない私を利用した方が
 賢いと思わないかしらぁ?」

決して相手にとっては悪い話ではない。
むしろ双方に+になる提案だ。
……だからこそ断られるかもしれないけれど。
そのどちらでも彼女は構わなかった。

オーギュスト > 「断る」

ドきっぱりと、拒絶する。
確かに、とりあえずここから出る手段としては悪くない。
王侯に連なる家系というのだから、それくらいの手立ては用意出来るのだろう。

だが。

「お前が魔族で、その助けで出てみろ。『第七師団は魔族と裏取引があった』ってカードを逆に与えてる。
ついでに、今日あったばかりの奴に貸しを作るのもぞっとしねぇな」

流石に、相手の素性が不明すぎる。
王侯やら貴族やら、血筋というものをオーギュストは一切信用しない。

テイア > オーギュストは断るだろうな、と女性の話を聞きながら考える。
彼女の言うことは、確かに潰されかかっている第七師団にとっては救いの手に見える。
聞きようによっては、この国を憂い、対魔族戦線を維持しようとしているようにも聞こえるが…

――得体がしれない。

それが、女が彼女に抱いた印象だ。

「…例えば、将軍がそれを受けて、貴女が第七師団を手元に置いたとする。
 …しかし、先日の事で副長のサロメはいま呪いによって動ける状態ではない。
 荒くれ者の師団と暴走しがちな師団長を抑えるのに、彼女ほどの適任者はいないだろう。
 貴女に彼女を救う手立てはあるのだろうか?」

少しカマをかけるようにそう問いかけた。
オーギュストはやはり、きっぱりと断ったがさて、彼女はどう答えるだろうか。

ハイドリア > 「……付け加えるならあのサロメっていう子
 例の貴族の手元に行く前に私の手元にいたのよねぇ
 少なくともその時の状態を私はよく知っているわぁ?
 私が保護したのだものぉ」

クスリと笑って付け足した。
同時に大事な物を助ける術があった事を仄めかす。
毒にあてられたその効果を確信している。
あの手のものはよりその状況について
そういった反応を返していたか知っていればいるほど治癒に対する難易度が下がる。

「拾ったあの子の傷を手間暇かけて癒した後
 人様の庭先に勝手に潜り込んで持って帰って
 挙句あんな状態にするぅ?
 どう考えても私に喧嘩を売っているわよねぇ?」

その目に揺らめく炎のような感情が宿る。
どんな状況でも、彼女の庭からソレを奪った。
その事実だけは変わりないのだから。

「そんなお馬鹿さんの思い通りになった挙句
 国をあげての自殺に巻き込まれる?冗談じゃないわぁ
 絶対に……絶対にツケは払わせる。そうでしょぉ?」

実にプライドの高い貴族らしい発言。
ある意味彼女らしい言葉を笑いながら、けれど荒々しく投げかけていく。

「あら、そのカードはすでに交渉テーブルに上がってるわぁ?
 体よく師団だけ押し付ける口実にねぇ?
 よく考えてほしいわぁ。この映像の後もあの子は貴族の手元にあったのよぉ?
 言い訳と逃げ道を考えることだけは一流の彼らだものぉ
 いまさらそんな事を言い出したところで大勢は変わらないわぁ?
 それにこれは交渉であって貸し借りではないわよぉ
 私は権力と鬱憤を、あなたは足と武力をそれぞれ支払うだけ。簡単でしょぉ?
 その後は好きに動けばいいのよぉ。
 私はあなたを管理下に置くつもりなんかないもの
 私が提案しているのは今なら第七師団の仲間と権力を
 掌握するチャンス、取り戻すチャンスがあるからそれをしろっていうだけよぉ。
 双方納得すればぁ数日前の形に戻る。それだけ」

面白そうに一応提案してみる。

オーギュスト > 「――そういう事を後出しするから信用されねぇんだよ、お前みたいな奴は」

はぁ、とため息を吐く。
オーギュストがもっとも欲しい情報を、交渉の後出しのベットにしてきた。
これで信用しろという方が無理だろうに。

「俺が好きに動いた方が都合が良いってんなら、勝手に出せるように手回しでもしろ。
俺は少なくとも、お前のような奴とつるむリスクは取らん。
お嬢様が好きそうな、社交界のカードゲームならいざ知らず、戦場では、どんな時でも信頼の置ける奴を隣に置く」

ワインをグラスに注ぎ、一気に飲み干す。

「それが俺の流儀だ。
分かったら帰りな」

テイア > サロメが彼女の手元にいた。
では何故、保護した彼女を第七師団に送り届けなかったのか。
彼女はああいっているが、先ほどの記録水晶の件といい、その後サロメが貴族に渡ったことといい、疑念が深まる。

「…いいのか、オーギュスト。サロメを治す近道が見つかるかもしれんぞ。」

確かに後出しだ。
だが、彼がいま最も欲しいと思っている情報だ。
ひそりと彼女に聞こえないように確認をとるが、そのカードをとるリスクは女にも分かっている。
分かっているから、彼女を突っぱねる彼を責める気持ちは微塵も抱かなかった。

ハイドリア > 「あらあら、だってその部分はあなたの個人的な感傷部分じゃなぁぃ
 ビジネスにおいては優先すべきではないわぁ?
 結局のところあなたの大事なものを守るために何処まで出来るか……という話だものぉ」

くすくすと笑い声を響かせる。
やはりそういった反応を返してくるか。
ある意味期待通り。

「まぁ、これ以上の言葉は要らないわねぇ
 聞きたいことはいくつもあるようだけれど…
 とはいえしっかりと考えたうえでの結論だと思うものぉ
 私は選択を尊重するわぁ」

二人の顔を見比べた後やれやれと肩を竦める。
けれど……

(これでいいのよぉ)

少なくとも彼は選択した。
その結果何が得られず、何が失われるとしても。

「ざぁんねん。振られてしまったわねぇ……
 ならあの子を手元に置くことは難しそうだものぉ
 サービスでここで伝えておくわねぇ?」

ゆっくりと踵を返した後ふと足を止める。

「あの子の命、もう一か月も持たないわよぉ。
 私の見たところ、だけどぉ……
 保護した時ですらそんな状態だったのに、あんな目にあってはねぇ」

思い出したようにつぶやくとクスリとほほ笑んだ。

「大事なもの、ちゃぁんと取り返す時間は思っている以上に少ないわぁ
 まにあうと いいわね?」

自身が情報を集める手段すらないと知っていても、それが彼の選択だもの。
にこりと微笑みそのまま歩を進めようとする。

オーギュスト > 「ビジネスならなおさらだな。信用商売ってやつを勉強してくるんだな、お嬢ちゃん」

手を軽く振って追い出そうとする。
が。

「……あん?」

最後の最後でとんだサービスが出たものだ。
まったく、だからこの手の輩は信用できない。
だが。

「――ひとつだけ、訂正してけ」

男は、静かに呟く。

「俺の大切な物は、俺自身と、俺の野心のみだ。
あいつは大切の範疇に入ってねぇよ」

それだけ言うと、もう彼女を止めようとはしない。

テイア > 「………。」

オーギュストの話しでは、彼女は精神以外は回復しているとの話だったが、あとひと月のタイムリミットを宣告する女性。
どちらが本当なのか、実際にサロメを見ていない女には判断できない。
ちらりとオーギュストの反応をみて。
女性がそのまま去るならその背中を、女も引き止めずに見送るだろう。

ハイドリア > 「貴族に信用を求めるなんて政治家に向いてないわよぉ?」

投げられた言葉に笑って返す。
蒙昧共のいったい何を信用しろというのか。
けれどそれに続いた言葉にまるで凍り付いたかのように歩みを止める。

「……そぅそれが貴方の今の答えなのね。
 判ったわ、お馬鹿さん。
 失くしてからでは……遅いのに」

初めて感情を表情に乗せて間延びしない声で小さくつぶやいた。
それはどこか寂しそうで……同時に悲しみに満ちた表情。
けれどそれは一瞬のこと。
彼女はまた笑みを顔に張り付けると
フードをかぶり直し靴音を響かせながら
ゆっくりと尖塔の闇の中に戻っていった。

オーギュスト > 「……ふん」

それが答えだ。
答えの、筈だ。

「――1ヶ月、か」

戯れの言葉ではある、が。
あの手の輩は、こういう不吉な予言で嘘は言わない。
つまり……

「……最初に言えってんだ」

最初からそれを聞いていれば、どんな手段でも取ったろうに。
まったく、面倒な話だ。

オーギュストは急に真剣な面持ちになり、考え込む

テイア > オーギュストの反応をみて、女性に感情の色が見える。
どこか悲しげに見えたのは、女の見間違いだっただろうか。
闇へと消えたあとを、暫く見つめたあとオーギュストの呟きに視線をそちらへと向ける。

「…阿呆の上に鈍感では、取り返しがつかなくなるぞ」

あれが本音であれば、それは彼自身がそのことに気づいていないか、目を背けているだけだと確信している。
そうでなければ、怒りに染まり娼館を焼きつくし、今もまた彼女を救う手立てと女へと頼む、なんてことはしない。

「なるべく早く大婆様に面会してみる。」

考え込むオーギュストの頭を、子供にするようにぽんぽんと、優しくなでるとそう伝えて。

オーギュスト > 「――ガキ扱いかよ」

ぶすっとして言うが、抵抗はしない。
我ながら子供っぽいとは自覚しているのだ。

「頼む」

短く、それだけ言う。
1ヶ月。それがリミットなら。

全力で、足掻く。
それだけだ。

テイア > 「大きな子供だよ、そなたは。」

抵抗しないのに、くしゃくしゃと髪を乱して撫でながら、ふっと笑う。
最初に出会ったときから、男に抱いた印象は大きな子供だった。やはり、それは今も変わらない。
恐らく男を子供だなんて扱うのは、女くらいだろう。

「ああ…。」

人の命は長命種からみれば、ひどく短い。
けれど、たった三十に満たずというのは短すぎる。
彼女の中の何かが、命を蝕んでいるならそれを取り除けば――あるいは…。

オーギュスト > 「――そろそろ行け、看守が怪しむ」

流石に限界だろう。
それに、一刻もはやく動いてもらわないと……

「にしても――」

こういう戦いは、苦手だ。
やはり、自分には戦場が似合っている。
あらためて、男はそう思う。

テイア > 「そうだな…。怪しまれたらそなたにベッドに連れ込まれたと言っておく」

随分と長居をしたものだ。
最後にぽんぽんと二回軽く頭を叩くと手を話して、キャップを目深に被りなおす。

「いずれにせよ、なにかしら動きがあれば連絡を入れる。ではな。」

慰めは無意味だ。
ならば、時間を無駄にせずに動くしかない。
扉の外へと、外に出たい旨を侍女らしい口調で伝えれば鍵があけられ、扉が開かれる。
女は振り返ることなく、扉の外へと出て行くか。

ハイドリア > 一足先に尖塔を出、宙に呪を描く。
先ほどの会話を思い出して小さく笑みを零した。
これはこれで予想できたのだからもちろん次の一手は用意してある。
細かく指示を出しながら先ほどの二人との会話を反芻する。
さて、どれだけ抗ってくれるだろう?

「あら、貴方も気になるのぉ?
 ええ、恐らく個人的な伝手になるわねぇ……。
 おそらくエルフ関係じゃなぁぃ?
 他に方法があったら今頃終わってるわよぉ。
 あれに対処?出来るわけないじゃなぃ。
 あれは例えるなら水彩画に別の色を足すようなものよぉ。
 絵画についた絵の具を落とすには剥がすか水で薄めるかしかないわぁ?
 何度も全てを薄める治療で壊れた希薄な精神と命を焼く衝動のどちらが残るかなんて
 わかりきったことでしょぅ?それも一か月でぇ。
 剥がす行為も元の状態もわからないのにどうするっていうのぉ?
 そんな事ができるのは与えた私だけよぉ」

冷たく笑いながら残酷な事実を告げていく。
今の彼女は馬車を固定したままひたすら馬を鞭打つような状態なのだから
そう遠からず馬の脚は折れ、地に付しその命を散らすだろう。

「それが選択するということでしょぉ?
 選ぶというのはそういうことよぉ。人に許された権利だものぉ
 私はそれを選ぶ機会をあげただけよぉ」

我ながら甘いと思うけれど。
ふと苦笑しながら彼女を思い出してしまった。
途端にその表情は氷のように冷たくなっていく。

「…ええ、わかっているわぁ」

冷たく呟き、門を作る。
それを通り抜けるソレの目は極寒の冷たさを湛えていて…
数秒後その場所には彼女がいた痕跡すら何一つ残っていなかった。

ご案内:「王都マグメール 王城 尖塔の一室」からオーギュストさんが去りました。
テイア > かつん、かつん、と階段に足音が響く。
それは上がってきたときよりも早足の音で。

あの記録水晶で記録したのは彼女自身だったのではないか…
ならば、サロメになにかしらの術を彼女が施したのではないか。
そう疑念を抱いたが、確証はない。
カマをかけても、けっきょくうまくかからなかった。
手がかりはない…。
強引にでも、大婆様に面会しなければ。女は急ぎ足で尖塔を去ると屋敷へと、そして森へと帰っていく。

ご案内:「王都マグメール 王城 尖塔の一室」からハイドリアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 尖塔の一室」からテイアさんが去りました。