2020/06/14 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にアントワーヌさんが現れました。
アントワーヌ > 爛れた宴の残滓が、未だ、其処此処に澱んでいるような朝。
夜会の場で思うさま羽目を外した王侯貴族たちに、
翌朝、早起きをするという習慣は無いと見えて、廊下にも階段にも人影は疎ら。
何処か遠くで、彼らの世話をする人々が立ち働く気配はするものの、
其の姿も今は見えなかった。

本来であれば泊まり込む気も無かった、己が今朝、客間のひとつで目覚めたのは、
昨晩、青年貴族たちの会話を聞くうち、余りのことに胸が悪くなった所為である。
虚実入り混じっている筈の其の会話の中身、地下で行われているという非道について、
さっさと忘れてしまうのが正解だとは思ったのだが――――

誰かに見咎められたなら、適当に誤魔化して退散すれば良いだろう。
幸か不幸か、何処かにあるという地下へ続く階段を、こっそり探し歩く己を、
此処まで、呼び止めてくる者も居なかった。
そして――――――今。

「………此れ、か?」

薄く開いていた扉をそっと押して覗き込んだ先、細く狭い急な階段が、
地下の暗がりへ続いているのを見つけた。
ぽつりぽつりと灯りは点っているようだし、歩いて行けないことも無さそうだが、
いざ、見つけてしまったら、其れ以上踏み出す勇気が少しばかり足りない。
半開きの扉をステッキで軽く押さえ、階段を凝視して、思案する間が、暫し。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にネメシスさんが現れました。
ネメシス > 好奇心は猫を殺すとも言うが。
この伯爵が踏み入ったタイミングが悪かったと言うべきか。
半開きの扉を供も連れずにやってきた礼服姿の誰かを、ドレス姿のネメシスが押さえつける。

右手は口元を押さえつけ、左手は相手の胴体へと。

「…見かけない顔だけど。
こんな所に何しに来たの?」

耳元で囁くのは、最近になってマクスウェル侯爵家の名跡を継ぐことになった成り上がり者。
名をネメシスと言う。

出自すら定かではないネメシスは、最近になって自らが所有する暴力性で瞬く間に侯爵の地位に上り詰めた。
貴族としての最低限のマナーすら知らないネメシスの存在をこの礼服姿の人物は知っているだろうか?

ちなみに昨夜、上層階で行われていたであろう宴にネメシスは参加していない。
侯爵の位を持ちながらも、貴族らしい集まりにはほとんどやってこないのだ。

但し、貴族関連の情報は部下たちが目となり耳となり普段から集めている。
もう数秒もあれば、今取り押さえた相手が何者か察することも容易だろう。

アントワーヌ > 最低限、護身術の類は習っていたが、普段は護衛を連れている身。
基本、不意打ちには弱く、時間帯的にも未だ、目覚め切っているとは言えなかった。
甚だ不名誉なことではあるが、然程年頃も身の丈も変わらぬ女性に、
あっさりと捕獲を許してしまうことに。

彼女の腕が腰回り辺りを捕らえるならば、見た目より随分細く感じられるであろうし、
口許を押さえた掌は、己の唇が存外柔らかく、微かに震えているのにも気付くかも知れず。
――――ともあれ、刹那、詰めていた息をそっと吐き出そうとしつつ。
奇跡的に握り締めた儘でいたステッキを軽く持ち上げ、己の口許を覆う彼女の手の甲を軽く突つき、
其の手を離して貰わなければ、先ず何も話せない、と伝えようか。
声の主へと辛うじて巡らせた視線に、怯えの色は見せず。
身体から意図して力を抜き、抵抗の意思が無いことも知らせる心算で。

ネメシス > (あら? なんだか線が細いと言うか、柔らかいわね。)

ネメシスは触れた唇や、腰回りの感触に瞬く。
貴族であればあまり肉体労働をしない者が居ても不思議ではないのだが。
目の前の相手はそんな感じではない。
何と言うか、女性のような雰囲気を感じる。

「あ~、はいはい。 抵抗したらダメよ。
ちなみに上にはうちの部下がいるからね。」

堅い金属が手の甲に触れると、ネメシスは口元を自由にさせる。
序でに腰回りからも手を離すが、牽制としての一言は忘れない。

「先に自己紹介しておくわ。
私はマクスウェル家の当主をしているネメシス。
で、貴方はだあれ?」

アントワーヌ > こつこつ、と軽く突ついた意図は、少なくとも伝わったらしい。
忠告というべきか、脅しというべきか、兎に角添えられた言葉に、
己は小さく何度か頷いてみせた。

彼女の手が口許から、腕が腰回りから解かれると、ほう、と改めてひとつ息を吐いて。
空いたもう一方の手で黒衣の襟元を正した後に、真っ直ぐ彼女へと向き直り、

「――――お初にお目に掛かります、マクスウェル卿。
 私はジェラード伯、アントワーヌと申します。
 以後、どうぞお見知りおきを」

口許に淡く笑みを刷いて、ゆるりとこうべを垂れる。
表情を変えぬ儘、ちらりと地下へ続く暗がりを見遣ってから、

「部下、と仰られますと、……此の下は、卿に任された領域ということでしょうか?」

彼女が武勲を上げて爵位を得た、という噂は聞き及んでいる。
なれば、此の地下で行われていることは、彼女の新しい任務であるのか、と。
伝え聞いていたような、悍ましい実験では無く――――
頭の中は忙しく回っていたが、さり気無く問う声に、揺らぎは見せない。

ネメシス > 「ああ、貴方がジェラード伯爵。
初めてお目にかかりますわ。」

スカートの端を掴み、カーテシーをするネメシス。
そして、アントワーヌの視線の先を明るい色の瞳が眺めて。

「私が直接任されているわけではないけど。
うちが正規の騎士団並みの"私兵"を率いているのはご存じ?
彼らは優秀だから、色んな情報を仕入れてくるのよ。

ただ、私は王城の世界においては末席の新参者だからね。
事情は知っていても、直接手を出せる程じゃあないわ。

…まあ、この先の光景を見せてあげることは可能だけど。
どうする? それなりのリスクを背負うことになるから対価が必要だし、
見た光景を口外しないようにして欲しいのだけど。」

凛としたジェラード伯に対し、怪しい笑みを浮かべるネメシス。
地下で行われていることは知っているが、直接関与しているわけではない様子。
ただ、自由に出入りできる程の立場ではある。

そして、今は得物を見る様な視線を向けている。
アントワーヌが対価やリスクを背負ってまで、この先の光景を見るかどうか。
ネメシスは相手がどんな選択をするのか、楽しそうに待ち続けている。

アントワーヌ > 聊か丈が短めではあるようだが、其の挙措は文句無く優雅に見える。
洩れ聞いた噂の数々から、漠然と想像していたよりも若く、
文句無しに美しい令嬢である、とは、思うのだが。

「ええ、……何しろ、マクスウェル卿と言えば時の人でございましょう。
 私のような若輩にも、貴殿と貴殿の騎士団の業績は、
 さまざま、聞こえてきておりますよ」

業績――――と呼ぶには聊か難のある噂も、幾つか記憶しているが、
本人の前で其れを態々口にすることもあるまい。
其れよりも今は、―――――其処でまた一度、そっと暗がりに目を細め。

「貴殿の御立場にも関わるのでしょうから、勿論、
 軽々しく見聞きしたことを明かす気はございませんが……、
 沈黙、以上の対価を、というのは、少々恐ろしゅうございますね」

秘密を守る、こととは別に、対価が要る、というのは。
気紛れな好奇心ひとつで、足を踏み入れて良いものかどうか。
――――何よりも、此方を見る彼女の表情が気になり始めていた。

「――――如何やら、私如き若輩の手に負えることでは無さそうですね。
 此処は大人しく退散致します、と申し上げたら、
 怯懦を笑われてしまいましょうか」

そっと小首を傾げる仕草に稚気を混ぜつつ、彼女の反応を窺う。
見逃してくれる気があるのか、其れとも―――――。

ネメシス > 「時の人…まあ、そうかもしれないけど。
まあ、人によっては野獣の集団と口にする方もいるけどね。」

貴方も聞いているでしょう? と言いたげな表情を浮かべ。
口元に浮かぶ笑みを手が覆い隠し。

「まあ、貴方も貴族ならここで何が行われているか耳に挟んでやってきたのよね?
ジェラード伯がどの程度の用心をされているのかは存じ上げないけど、
武力の備えがないのなら覗かないことをお勧めするわ。
…ま、ご想像通りの世界が広がっているのだけどね。」

ここまで足を踏み入れた勇気に対して、答えとも言うべき内容を口にする。
ただ、実際に足を踏み入れたわけではなく。
あくまでネメシスの戯言を耳にしただけである。
アントワーヌに類が及ぶことはないだろう。

「とんでもない。 立派な決断だわ。
だから、この話はこれでおしまい……。
ただ……ジェラード伯って女性だったのかしら?」

地下で行われている秘密についての話は早々に切り上げる。
但し、今度は先ほど触れた肌触りについて確かめる。

触れていた左手の指をこれ見よがしに動かしては、じっと双眸が捉える。

「ご存じだと思うけど、私ってすっごく淫蕩なの。
だから色んな女の子を触ってるんだけど。
貴女、どうみても男の身体じゃないわよねえ。」

アントワーヌ > 野獣、なぞという言い回しを聞けば、思わず小さく喉が鳴った。
緩く握った左手を口許へそっと宛がい、失礼、と呟く声にも笑みが滲み。

「戦場では、品の良さを競っても始まりますまい。
 貴殿の抱えておられる兵団が野獣の群れだとしたら、
 さしずめ、貴殿は優れた猛獣使い、ということだ。
 ……其れは、誇っても良いことだと思いますが」

少なくとも、日ごと夜ごと金に飽かせて、爛れた宴に興ずる者たちよりはずっと。
其れは己の本心であったので、表情からもほんの少し、
年相応の屈託の無さが覗いた、やも知れぬ。

其れは兎も角として、地下に関する噂はやはり、はっきりと確かめるべきものでは無いらしい。
ならばやはり、此の場は退くのが正解であろう、と、
儀礼的な微笑と共に会話を切り上げようかと思ったところへ。
――――先刻、己の腰に回された彼女の左腕から、意味有りげに此方を見据える眼差しへと、
ゆっくりと視線を流し、一度、二度、軽く瞬いてから、

「……可笑しなことを仰る、マクスウェル卿。
 貴殿の御趣味を如何こう申し上げる気はございませんが、
 ………貴女の目には、私が、貴殿の遊び相手になるように見える、と?」

ひらりと左手を体側へ開き、右手にしたステッキの頭部を己が胸元へ。
小首を傾げた仕草は其の儘に、口許を彩る笑みだけが僅かに深くなった。

ネメシス > 相手の喉元で笑みが浮かぶと、ふふっとこちらも口元が緩む。

「気持ちいいことを言ってもらえたけど。
一点だけ訂正させてもらうわね。
猛獣使いだから皆が従うのじゃなくて、
私が一番の猛獣だから従うの。」

一時的にとは言え、救国の英雄だのなんだのに入ったこともあるからか。
聖騎士を名乗るネメシスを堂々たる人物やホワイトナイトのように捉える人も出始めていた。
ネメシスはアントワーヌの言葉に気を良くするが、自身がそのような立派な物ではないことを
更に付け加える。

事実、今のネメシスの双眸は獲物を狙う獣である。
そこには騎士や貴族としての気品は感じられず。

「ええ、そう見えるわ。
違うと言うのなら、服を脱いで男だと言う証明をしてもらえると助かるわね。
それとも、ここで私と争ってみる?」

ネメシスの女狂いは都に居る者であれば耳にしていることであろう。
そのネメシスが胸元の高さで両手を広げ、アントワーヌの元へ近づく。
今は武器の類を所持していない。
上手く突き飛ばすなりすれば、階段を掛けあげることでひょっとしたら逃げおおせるかもしれない。

アントワーヌ > 「―――――嗚呼、其れは其れは」

猛獣使いでは無く、より強い獣、だと。
自らを称して憚らぬ小気味良さに、また小さく笑み声を洩らしたのも束の間。
己が其の獣の、獲物、と見做されているらしい現在、
流石に内心、笑ってばかりもいられなかった。

「……御気を悪くなさらないで頂きたい、のですが。
 私は、たとえどのような方でも、……己の身を明かす為だとしても、
 レディの前で不躾に肌を晒すような真似は致しかねます」

態と、彼女をレディであると定義づけて――――くるり、胸元へつけていたステッキの頭部を、
牽制の意味を込めて彼女の前へ素早く突きつけ。
其処で、此れまでで最も深く、鮮やかな笑みを浮かべてみせながら、

「……男が、美しい女性とくんずほぐれつの戦を展開するのは、
 ベッドの上、と相場が決まっております。
 けれど、其れにしても今朝は未だ……昨晩、少し酒を過ごしまして。
 何れまた、マクスウェル卿、―――――…今度は私が、素面の際に」

若干の二日酔いがあるのも事実だが、何よりも、彼女の部下とやらが現れる前に、
さっさと逃げてしまうのが得策であろう。
右手が操るステッキの分だけ、辛うじて距離を保ちつつ、
己は素早く身を翻し、其の場を離れた。

互いに名乗り、顔も知った者同士、仕切り直しの一幕があるかどうかは、
―――――神のみぞ知る、といったところか。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からアントワーヌさんが去りました。
ネメシス > 階段を駆け抜ける相手を追いかけるには、
この格好は聊か不便であった。

地上で抑止力となるはずだった護衛は他の誰かに足止めを喰らったのか、
どうやら役に立たなかった様子。

数は多くても、精鋭は少ないのがネメシスの私兵の特徴だ。

「やれやれ、逃げられちゃったわね。」

これもまた一興と、笑みを深める。
楽しいひと時を過ごせたと、鼻歌混じりに地上へと。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からネメシスさんが去りました。