2018/10/01 のログ
■ヴィンセント > 「ユール、だな。わかった、そっちだな」
ユールと名乗る少女の先導に従い廊下を駆ける。
幸いにも兵士や野次馬に見つかることもなく、示されたのは城仕え、侍女たちの控え室。
ノックをして転がり込むように入れば直後聞こえるのは悲鳴か黄色い声か。
「俺は通りすがりの者だ。そこでお嬢さんを拾ってな、聞けばこの城で仕える者らしい、すまんが後を頼まれてくれないか?」
手近な侍女へ声をかけ身柄を引き渡す。
侍女が退き、姿を消し――少ししてジャケットが返される。
袖を通し、ユールへ振り返り。
「ありがとうな、お前さんがいなければどうなっていたことか。
おかげで俺も助かった」
軽く頭を下げて礼を述べる。
「さて、このままここに居続けるわけにもいかねぇな。
俺はここを出て城下町へ抜けるがユール、お前さんはどうする?」
次の行き先を考えつつ協力者に尋ねる。
残るならばこのまま退散し、着いて来るのならば手引きする。
と言外に含め。
■ユール > (廊下の向こう。突如飛び込んで来た大男の姿に、控える侍女達が声を上げた。
とはいえ、先程まで、心ない男達に犯されていた、と。そう解っている同僚が、運ばれてきてのだから。
彼女達も、ある程度は事情を察してくれるのだろう。
悲鳴は直ぐに収まり、お陰で、きっと兵達に聞き咎められる事はない。
良からぬ憂き目に遭った侍女に関しては。これで、同じ者達に任せる事が出来そうで…どうやら。自分が説明する必要も無さそうだった。
引き渡しが終わり、男が此方に振り返る。
これ以上は邪魔になってしまうだろうから、最低限侍女達の部屋からは離れるべきか、と考えながら。)
「 い ぇ。此方こそ。 …あの方の事 ありがとうござい ます。
ところで 今更なの です けれど。 …ヴィンセントさま は、此処には どうして…? 」
(そして、今更ながら、気にするべき部分に気が付いた。この人物は何者なのかと。
何せ城の者を有無を言わさず殴り飛ばしたのだから。もしかすると、彼等に対して…或いは、国に対して。
悪し様な感情を抱いているのかもしれないと……そもそも、ミレー族のようだから、在り得る話。
そうなれば、一応とは言え、同じく貴族に連なってしまう身としては。色々な意味で、申し訳がない。
男への問い掛けは、俯きながら、小さな声で。
…それでも。顔を上げざるを得なくなった。幾つか繰り返されてきた、男からの問い掛けだが。
今度のそれは、先程迄の物よりずっと、予想外だったから。)
「 え と …? ……わたし は、此処の人間で …いなくなったら もっと、 大騒ぎになるかと …
ぁの。 それとも。 …嘘 が ばれたら。 あなたさま を かばったと 知れたら。
……わたし も、 捕まって、しまうのです―――― か…? 」
(何だか、そんな気がしてきた。罪状名は、偽証だとか、逃亡幇助だとか、になるのだろうか。
取り敢えず、侵入者を見付けられなかった衛兵達が戻って来たら…怒られる位は確実だ。
本当に、どうしよう、と。…自分自身では、身の去就を決めかねてしまう辺り。世間を知らない、貴族娘らしさがありありと。)
■ヴィンセント > 「――・・・」
頭を掻く。薄々感ずいてはいたが、どうやら筋金入りの“お嬢さん”らしいと。
「そんじゃあ、取り敢えずはどこかでお茶を濁らすとしようか。
経緯は――そうだな、“悪いミレー族に脅されて攫われた”とでも言えばまあ安全だろう。失礼するぜ」
決めかねる少女の返答を待たずに背中と膝裏へ腕を伸ばし――抱き上げる。
所謂“お姫様抱っこ”の体勢に思わず周りから黄色い声が上がるが、聞こえない振り。
「そんじゃ、少しの間攫われてもらうぜユール」
先ほどとは違い囁くような声で、小さく合図を送り、脚で扉を開ければそのまま一気に駆け出す。
向かうは先ほどの廊下、その窓。
「口閉じてな、舌噛むぞ――せぇッ!」
跳躍、飛翔――落下。
少女を抱きかかえたまま窓から飛び降り、未だ朝日の昇らぬ街道へ走り抜ける。とりあえず向かうは勝手知ったるいつもの飲み屋か。
■ユール > 「 えぇ ぇぇっと はい … 」
(こくこく。言われるが侭に頷いた。
一応、以前にも一度、拐かしめいた事件に遭ったものの。
その際の、言葉すら交わせなかった相手には、本当に何事もなく、解放して貰ったから。
悪いミレー族だ、と言い切る男の言葉に、少し不安げな顔になるものの。
抱き上げられる行為自体には、何かを言う事はしなかった。
寧ろ周りの侍女達が、歓声にも似た声を上げるのだが。
此方も此方で、侍女とはいえ、少女と同じ…ある程度以上の家柄である事を必須とされた、
謂わば行儀見習の女性達、少女達が多いからだろう。
逆に、それだからこそ彼女達は。少なくとも、今夜如何なる事態が起きたかに関しては。
口裏を合わせて、秘密を守ってくれそうではあった。…後日少女自身だけは、質問攻めになりそうだが。)
「 そぅ ですか? 不束 ながら よろしく お願いいたし ま ………っす ぅ っっ !? 」
(色々ずれた返答の声が跳ね。抱かれた胸元から見上げる顔が、一瞬色を失ってしまう。
疾走、跳躍、そして…落下。
廊下を走って窓から飛び出す、急激な落下感と、全身を打つ風と。
堪らず、ぎゅ、と男にしがみついてしまいつつ…悲鳴を上げなかったのは。
言われた通り、律義に、必死で口を噤むから。
侍女達の黄色い声に見送られ、夜の街…きっと、少女が知らない、初めて見る場所へ。)
■ヴィンセント > 「そう言えば、俺が何故あそこにいたのかって聞いたな」
捜索の外。城門から下る道を歩きながら呟く。
深窓の令嬢を抱きかかえる傭兵然とした男はさぞ人目を引くのだろうが、幸い道往く者もなく。
「城の中に依頼主がいてな、完了報告と報酬の受け取りに向かっていたんだが――まぁブン殴ってしまったし白紙だろうな、多分」
まるで悪びれる様子もなくしれっと言ってのけ。
時折胸元の少女へと視線を落としながら話を続ける。
「しょうがないよな、あの状況で動かなかったなら男じゃねえよ。
それより、ユールはなんであんな時間に。よい子は寝てる時間だろうに」
咎める様子もなく、疑問半分に話す。
少し歩けば、徐々に明りが見え始める。
「よし、到着だ。腹減ってないか?ここの飯は旨いぞ」
疎らな明りのひとつ、赤提灯の店の前に着き少女を降ろす。
そのまま戸を引き軽い挨拶と共に店へ入り――顔を出して手招きする。
「珍しいことに貸切状態だ。ゆっくりするには丁度いい」
招きに応じて入れば、油と肉、そして酒のチープな匂いが草臥れた内観と共に少女を出迎えるだろう――
■ユール > 「 はい 其処の所、 気になり ます。 ……おしごと ですか? つまり。
…それは その。 何と 言いますか。 …ご迷惑 おかけ しました……… 」
(やがて、城の門よりずっと外。大概の場合、馬車で通り過ぎてしまう道程。
今も、自分の足で歩いている訳ではなく、男に抱かれ運ばれているものの。
それでも嘗てと違う視線、違う視界。跳躍に動転した意識が、少し落ち着いてきたのか。改めて言葉を交わす。
…取り敢えず、城の誰かとの間で、仕事が成立していたという事と。それが反故になってしまったのだろう事と。
男自身は、仕方ない、と言ってくれるものの。きっと、お金は大事、だろうから。
敢えてあの場で動いてくれた事に。有難いやら、申し訳ないやら。男と並んで立っていたなら、さぞ深々と、頭を下げていた事だろう。)
「 わたしは。 わたしも お城で。 おしごと してますので …?
今夜 は さる 侯爵 さま の。お付きでし た。 」
(先程、侍女達と同じだと言った通り。一応令嬢とされるとはいえ、より上の者達には、従うのが道理。
…もっとも。行儀見習、等といえる程、生易しくはなく。それこそ下級貴族の娘でしかなければ…
先程の女性のような、被害に遭う公算も大きいのだが。其処に関しては、深くは言わない侭。
言う側も、聞く側も。きっと面白くないだろうから。
それに。どうやら、男の目的地に到着した様子。寂れた…と言うと失礼だろう。鄙びた風情の、店舗らしい建物の前。
地面に下ろされ、ヒールの足元が少しふらつくものの、直ぐに姿勢を正して。
どうやら…飲食店であるらしい。男の言葉と。何より、鼻を擽る食べ物の匂いが。その事を教えてくれた。)
「 …ゆっくり? そぅ ですね ほとぼり 冷めないと …です。
お邪魔 いたします …めし ですか こういう 所ですと どんな … 」
(足を踏み入れる様はおっかなびっくり。店内を見回す仕草は興味津々。お登りさんも斯くやの表情。
…仕方がない、といえば仕方がない。この辺りの地区、こういった店。やって来るなど初めてだから。
店の人間からしても、ドレス姿の少女は、何とも場違いにしか見えないだろうから。
何が有って、この二人が連れ添って来たのかと。首を捻りそうではあるが。)
■ヴィンセント > 「ちょっと薄汚れてはいるが、まぁそこは趣ということでな」
興味津々と言った様子で見回す少女を生暖かい目で見守り。
なにか言いたげな店主に視線で会話する。
程なくして、二人の前に差し出されるは香ばしい汁に浸された野菜や卵。
――“おでん”と呼ばれる東の国の大衆料理らしい。と語る。
「ほれ、こっちはお前さんのだ。熱いから気をつけろよ。
箸が使いにくかったらフォークもあるぞ」
箸を手に、器用に食べ始める。
はふ、はふ、と口を開け息を吐く姿は滑稽に映る事だろう。
店主は何も言わず、黙々と手元を動かし。
静かな時間が過ぎていく。
■ユール > 「 いぇ。 人が暮らす 使い込まれる それ故だ と。 解りますので… 」
(経年劣化というのではなく。此処に人々が息づいている証としての汚れ方だと、理解出来る。
長年調理の煙に燻されてきたのだろう、木材の色合いや。
其処彼処に、万遍なく染み着いた料理の匂い。
それ等は、決して、悪い物だとは思えなかった。
首を振った…所に差し出される料理。勿論、見た事は無かったものの。
店の造りからすれば、シェンヤンの…それよりもずっと向こうの国の料理なのだろう。
素材の味が、出汁の中に染み渡っているのだろう、シンプルだが趣のある料理。
どうやって食べるのか、質問の前に。フォークも出して貰えた。
行き渡った気遣いも、長年この場所で、国を、客を問わずに営業されてきたからなのだろう。
無口な店主の、連れてきてくれた男の、確かな気遣いに。
しっかり頭を下げてから、いただきます、と。)
「 ………。 …これ、 …不思議で す。
美味しい… 勿論 美味しいのです けれど、 それだけでは なくて。
凄く 温まります し それに …… 」
(肌寒くなり始めた夜の中。実に、身体に染みる一品だった。
単純に熱いから、ではない。味が良いから、だけでもない。
きっと、そのどちらもが、絶妙のバランスで組み合わされ、提供されている。
味の染み具合を保証するように、しっかり色の変わった卵を。ちみちみ、囓りながら。
安堵のように零す吐息は、言葉通り、確かな温もりを宿されていた。)
■ヴィンセント > 「気に入ってくれたならなによりだ。
俺のお気に入りでな、こう少し寒いときにはうってつけなのさ」
ゆっくり、ゆっくりと食べる少女に満足げに頷く。
溜息じみた温もりを帯びた吐息は料理の温かさだけではなく、まるで心まで温められたかのよう。
釣られて吐く息も温かさを包む白。
「大将、おかわりを頼む」
あっという間に平らげればおかわりを要求し、再び盛られる様々な具。
一口大に切り分けた大根を噛み中から溢れ出る出汁に目を細める。
「こういうのは酒がよく合うらしいが、俺はさっぱりでな。
ユール、お前さんはどうだ?酒飲めるのか?」
珍しい、下戸であると明かしては少女に酒の程を尋ねる。
ご案内:「王都マグメール 王城」からユールさんが去りました。
■ヴィンセント > 【継続予定です】
ご案内:「王都マグメール 王城」からヴィンセントさんが去りました。