2018/06/24 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城内研究施設」にミリーディアさんが現れました。
ミリーディア > 此処は王城内に在る研究施設、其の入り口付近に位置する室長室の中。
何時もの柔らかな椅子に身体を沈め寛ぎ乍、少女は考えに耽っていた。

「来るべき夏に向けて、矢張りあの扉に部屋を追加すべきだろうか…」

其れは今まさに少女が呟いたものであった。
此の研究施設、室長室の側に在る扉が様々な施設への入り口と為っている。
其れは少女が扉に掛けた異空間との繋ぎの力を流用したもの。
少女を鍵として意図する空間室内への入り口としているのだ。
勿論今呟いた様な事も可能である。

だが、只部屋を作るだけで終わりではない。
部屋を作ったとして、何を如何設置するか等を考える必要が在るのだ。
尤も、少女からすれば其れを作るのも考えるのも面倒なのである。

ご案内:「王都マグメール 王城内研究施設」にバルベリトさんが現れました。
バルベリト > タナール砦の無人化に伴う報告書を出せとの命令が降りてきたのは夕刻過ぎの事。
一旦砦への援軍は最寄の駐屯所に駐留させ、空城ならぬ空砦にして帰城したのが先程の事だった。
報告書だけ投げ渡し、格好について文句を言われる前にさっさと退散。

その帰り道に、ふと思い出したように此方の研究室に足を向けようと言う気になり――研究施設でも最も訪れやすい位置にある、少女の研究室の扉の前に立つ。
そのまま、分厚い拳で軽いノックを1,2度。

「おーい、ミリーディアいるか?」

声はなんとも気楽な物だった。

ミリーディア > 確かに作らなければ為らないものを考えるのは面倒だ。
然し、完成した部屋を堪能する自分を想像するのは自由である。
そんな一時の妄想を打ち破るかの様なノック。
そして聞き覚えの在る声。

「何だバルベリト君か…構わない、入って来給え」

其の身を起こす事もしない横着振りだが、扉の向こうに声を掛けた。

バルベリト > 扉を潜る許可を貰い、少しだけ頭を屈める様にして扉を潜り抜けた先に広がっていたのは――何というか何時もの少女のスタイル。
身体を起こそうとしない辺りも何時も通りでもある。

不変の環境というのはある種、精神に安定感を齎してくれる。
面倒な状況、不穏な情勢に潰されそうな心には程好い癒しを齎してもくれるだろう。

「たまたま近くを通りかかったんでな。ついでにこっちに寄ってみた。元気っていうより、なんつーか何時も通りなようで何より何より。」

手に持っていた紙袋からは――甘い香り。チョコレートをゆっくりと溶かしたときに漂うような嫌味や癖のない香りを漂わせていた。その紙袋を少女の近くにおいたのは、手土産のつもりなのだろう。
そのまま――最初に面通しをした時の様に、近くにある椅子を借りて少女の目の前に腰を下ろす。
――僅かにだが。表情は明るいが瞳の挙動は落ち着きが無い様子を見せていた。

ミリーディア > 扉を開き姿を現わす男性、少女は何時も通りの姿を見せる。
其れが彼にとっていか程の影響を与えるのかは解りはしないが。

「そうか、手土産持参で偶々通り掛るとは、何と云う偶然…とでも言っておこうか。
儂としては有り難い事だが…で、何か在ったのかね?」

漂う匂いで紙袋の中身に対しての大体の理解は出来るか。
椅子から上体を起こせば、デスクの隅に置いてあるティーセットに手を伸ばす。
彼の分も必要かを確かめる様に、カツンとカップを爪先で小突いた。

バルベリト > 「やー、タナール砦周りやら何やら。不穏が不安を呼んでおじさん、夜も寝れないんでね。ちょっとこーして癒しの時間を貰いに来たんだが。」

2度目のタナールでの不穏な事件。殺害されたと思っていた兵士は転送されて無傷だった。それは良い。
それは良いが、最大の問題はそれだけの力を持つ相手を最近の――王国側が刺激しているのが不安でならない。
王国側から状況についての説明を追加で要求されるなら、ほぼ確実に魔族の国側からの手出し。
他国からの妨害ではないと踏める状況証拠だけは揃っている。

「っていう事件があったんだが、もー1個不安の種もあってな。…ミリーディアの知識の中でいいんだが、人間が魔族の国に潜入して。1年間生存出来るもんなのかねって。その意見も聞いてみたくて。」

カップから奏でられた音には首を縦に振った。
紅茶でも呑んで心を落ち着かせながら話をしたいのもあるが――どことなく、茶の香りも人の心を落ち着かせるものだから。

「そんな訳で悪いおじさんはミリーディアの髪の毛を櫛で梳きながら話を聞きたくってな。」

冗談のつもりだろう。だが微妙に声が強張るのは不安感を押しつぶすような、感情のうつろいを露にはしていた。

ミリーディア > 「タナール砦で色々と在るのは昔から変わらない。
其れを差し置いても何か在ったのなら、原因は人間側に在る可能性は否定出来ない。
魔族の国の連中は良い意味でも悪い意味でも何も無く大きく変わる事はないからね」

其の内の一つは間違いなく自分が従える者達の手に因るものであろう事は理解している。
だが、其れもまた人間側からのやり方の問題から起こった事だ。
自業自得では在るが、砦に駐屯する者達からすれば迷惑な話だろう。

「逆に魔族で在っても此の人間の国に長く居る者達も居るからね。
まあ、可能性的に考えれば可能だろう」

そう答え乍二人分の紅茶をカップに注ぐ、今日はレモンティーの様だ。
其れに添えようと紙袋の中身を取り出そうと。

「其の程度で少しでも気持ちが落ち着くなら好きにすれば良いだろう。
儂との話の内容は落ち着ける様なものかは分からないがね」

其れに対し少女は変わらない普段通りの様子を見せる。
テーブルに肘を立てて手を組み、其の上に顎を添えて。

バルベリト > 「あんまし、人間側から刺激したくないんだがねぇ……。ってよりも、魔族が憎い!魔族は悪!だから倒しても良いんだって論調認めるなら、それこそなんだっけ。星…猫なんとか。あれを否定なんて出来なくなる筈なんだが。
何よりも、魔族同士が手を組んで、敵意をこっちに向けられるとか冗談でもぞっとしねぇ。」

その件の当事者が居る事は知らない、と言うより判っていない。
魔族の国側からの襲撃ルートだろうというのは扉の破壊痕からも判る。
だが目の前の少女は明らかに人間に見える上に、なんら不信点を感じさせない以上、この件の正解に辿り着くことは無いだろう。

レモンの香りは夜に翼竜に跨った疲労感を、頭の重さを振り払ってくれる。紅茶の香りは鼻腔を擽り、そして――少女からの返答を聞きながら。懐から一つの櫛を取り出した。
香木を切り、その端材で作られた香りつきの櫛。

「――んー。魔族も人もどっかでライン引いて休戦でもできないもんかねー。こう、外交的な何かで。良い意味で変わらない、温厚派、穏健派の魔族とかさー。無理かー。今の王国の行動からは無理かー。」

もはや自問自答にも等しい。紙袋の中から出てくるのはふんわりとまだ暖かさを残しているフォンダンショコラ。
紅茶好きの彼女の部屋には必ずあるだろうスプーンでも簡単に割開ける生地の柔らかさ。
練りこまれたカカオの仄かな苦味に、中で蕩けたチョコレートが絡み合う事で、ただの甘さをもう少しだけ舌先に強く訴える。
中には4つ入っていた。

「うーん、そっかー、生存可能性あるかー。……んじゃやっぱ本物なのかねー……。」

本来なら生存の可能性がある、といわれれば喜ぶ場面だろう。
だが逆に苦渋の表情が浮かぶ――のは一瞬だった。
何故なら少女の愛らしい顔がテーブルの上にあり。そしてその銀髪に櫛を通し始めたことによる、喜び。安堵感。
櫛を通しながらゆっくりその髪を前に。或いは横に流すように。
櫛自体の香りは紅茶の香りを僅かに損ねてしまうかもしれない。そう考えると香木の櫛は失敗だったかもしれない。
櫛の先が時折少女の頭皮を掠めるようにしながら、ゆっくりと何物にも変えがたい一時を満喫していく。
普段通りの少女の様子が、宝石よりも高貴に思えるその蒼い色がどれほどの安堵感を齎してくれるものか。

「いや、自分1人で悩みとか抱え続けるもんじゃないのは、この間ミリーディアから教わったからな。弱音なんつーもんも溜め込まずに吐き出した方がいいなーって思うもんで。」

ミリーディア > 「まあ、頭の硬いお偉いさん達には難しい相談だろうか。
何が在ろうと、自分達の悪さは認めないんだろうしさ。
其れに、何か在れば他の連中に如何にかさせれば良い、とね」

結局は皺寄せは下っ端に向けられてしまう。
困ったものだと、其れを伝え乍に肩を竦めてみせて。

彼の言葉を聞き、考える様な仕草を見せる。

「一部では相談も出来ようが、結局は他が大人しくせずに休戦の話なんて直ぐ消えてしまうだろう。
其れに関しては人間や魔族を関係無しに云えるだろうね。
人間同士だってそんな処は在るんだ、そこに他の種が混じれば…当然とも云えるか」

別の小皿を取り出し、ショコラを食べ易く切り分ける。
そうして二人分に分ければ、早速と口を付けて。

何故そんな質問をしたのかは流石に解らない。
其の反応も疑問に感じるものでは在るが、其れは彼のみぞ知る事である。
深く突っ込んだりはしない侭で大人しく髪を梳かれ。

「なるほどね…まあ、其れが解決出来る訳でも無いが、少しは気持ちも晴れるものだろう?」

洋菓子を、紅茶を、其の味を楽しみ乍に答えて。

バルベリト > 「こー、のんびり出来る時間ってのが大切だってのも上層部には知って欲しいもんだ。後トカゲの尻尾だって限りがあるんだぞーってな。」

矢張り無理だろう、貴族のスタンスも様々だ。
戦争で潤う一部の職業もある。人間という弱さを自覚していて今の国の様では、とてもではないが統一しての外交など望めないだろう。
わざと、意見を集約させない様に様々な方面でトラブルを引き起こしてるようにも見えてしまうのが困った物だが。

紅茶を音を立てない様に口に。その後でフォンダンショコラを二つに割、皿の上に蕩け出たチョコレートをたっぷりと生地に吸わせて口に運んでいた。
紅茶は爽やかな酸味と。そして口に入れたフォンダンショコラの甘さを柔らげてくれる。

「なーんで戦争したがるのやら。おじさんの身には厳しいご時勢って奴だな。……刺激して、戦争になって。美味いもんも何もかもなくなる、暴騰したらどーなるかなんて自明なんだろうけどなー…。人間ってのも面倒な生き物だわ。」

櫛を通しても嫌がろうとしない少女。
外見と自分の言葉にきちんと向き合うその姿はとても愛らしい。
こうして髪を1つ梳くだけで少しずつでも不安は紛れていく。
甘い物を食べ、お茶を楽しめる当たり前の幸福と言うのは――戦争となれば望めなくもなるだろう。嫌なものである。
だから今を大切にする様に、櫛は幸せをかみ締めるかのようなゆっくりとした手つきで少女の髪の毛――寝癖があるかは定かではないが、その銀髪をゆっくりとゆっくりと整えていく。

「晴れるね。どんなに不真面目な上司だろうと、いや、あれか。不真面目な上司が不安そうにしてりゃ、その不安は他に絶対伝播していくもんだしな。どっかで吐き出しておかねーと。……あ、そうそう。1つ厄介事頼まれてもらっていい?」

ミリーディア > 「いや、のんびり出来る時間なんて幾らでも在るだろうさ、其の上層部にはね?
其れを下の者にも与えるか如何か、其処に在るだろう。
蜥蜴の尻尾の限りが訪れた時、初めて慌てるのさ、其の手の連中は」

人間の出来た者はそうでも無いが、其れこそ少数だろう。
王位の空いている今だからこそ尚更だ。
そういった人間で在る程に陥れられる世の中だけに困ったものである。

「勝てば其れによる利益を一番に得られ、負ければ敗北した連中を責め立てれば良い。
自分達は戦いに関して我関せずだから気楽なものだ。
徹底して自分達に悪い方向へ傾けず生きる、ある種大したものだよ…そう思えないかい?」

その結果周囲からの恨みや批判を買えど、平然と生き続ける。
己の道を只管に進み続ける姿は、ある意味一番人間らしいとも云えよう。
其れをはっきりと伝える事は出来やしないが。

交わす言葉が流れるだけで、他は静かな時の流れを刻む。
今此の瞬間は緩やかな時間の流れを感じさせる様に。
彼の好きな様にやらせてゆけば、残っていた寝癖も整えられてゆくのだろう。

「其れが上に立つ者の影響力の一つとも云えるか。
……面倒事も事と次第による、聞くだけは聞こう」

バルベリト > 「多分、ソッチの連中ののんびりしてる時間ってのは俺らののんびりと違った意味なんだろうなって思う。良い事なのかどうかはさておき、だが」


戦争についての印象と感想、思考については少女とは若干のズレはある。但し、人間論としては真っ当な範疇どころか正に俯瞰する視点からすれば正論とも言える。
少女の言葉に常に重みを感じるのは。正論だと思えるのは、この俯瞰できる視点を保有して、此方に伝わるようにしっかり噛み砕き。
言語化をして届けてくれるからだろう。
若干の認識のズレは寧ろ、自分が歪だからとも素直に受け止められる。

「―――俺ならそこまで面倒な計算無理だなぁ。勝っても負けても、残された傷跡を修復するのに掛かる時間とか考えたくねーし。
確かにある意味、上の連中は大したモノなのかもな。…あんまし、見習いたくはないモノだが。」

大体銀色の髪の毛を丁寧に整えた。元より目を惹く少女の銀髪をゆっくり整え終えた上で、櫛を懐へ。そうしてから、自分の幅広く分厚い掌で少女の頭を、赤子を、子供をあやす時の様に一つ撫でて見せていた。

「んーと、大砲の概念って奴を学びたい。……文字とか読むの苦手なんで、できりゃ子供でもわかる大砲の基礎知識を学びたい。
ちと、ラボラスとかって奴対策にな。
大砲を直接使うんじゃなくて、俺の古代城壁を生み出すヤツで周囲をぐるりと囲って、更に城壁をもう一枚下から打ち出したら。巨体を吹飛ばす様な真似できねーかなって思って。ミリーディアが手取り足取り教えてくれるなら最高なんだが、そこまで暇じゃねぇだろ?」

求めるのは殺傷能力ではなく、強制的に戦線から弾き飛ばすやり方。
魔族の国とて一枚岩ではない。TOPがどこの誰の領地か判らない場所に吹飛ばされて目視出来なくなれば。
――一旦建て直しの為に軍全体が引く可能性を見ての物だった。

ミリーディア > 「ああ、なるほど…本当に言葉とは難しいものだ。
だが、ゆとりが生まれれば、連中は又ろくでもない事を考え始めるだろう。
結局は下が苦労するのは変わらない……あくまでも予想だがね」

彼にはそう伝えてはいるが、間違いなくそう為るだろう。
そう云った確信に近い考えは在った。
長い歴史の中、其の繰り返しを何度も見ているからだ。

「そうまでするからこそ、大したものなのさ。
徹底して保守的なのさ、其の為の努力を惜しまないし、手段も問わない。
尤も、其れが出来るものを元々手元に持っているからこそなのだろうが…」

持つ者と持たざる者の違い、其れに因る違いは非常に大きい。
何が在ろうとも、彼の云う傷跡が残ろうとも、其処に回されるのは結局持たざる者なのだから。
ある種の運命とも云うべきものなのかもしれない。

其の後に続く彼の言葉を聞けば、考え込む様な仕草を取った。
確かに大砲の概念は熟知している、其れを教える事も可能だ。
そして彼の考えている手法も理解出来る。
然し、其れを向けようと考えている相手が悪過ぎた。
ラボラス、先日に戻った魔族の国の大図書館の資料で目にした名だ。
だが、其れを知っているのだと伝える事は出来ない。

「……分かった、教えてやろう。
だが君の能力を使う上での吹き飛ばす事を想定した手法だ。
其れは多分大砲とは異なるものだろう。
効果が現れるかは別として考案自体は面白い。
時間を合わせ、ある程度の形が出来るまでは付き合おう…其れで良いかね?」

だから別の提案をする。
後は、其れで受けるかどうかだ。

バルベリト > 「できりゃー化け物とは遣りあいたくないんだけどね。悪いおじさんは、化け物連中と渡り合える様には出来てないんで。
ん、大砲と違ってもいいぜ。なんにしろ有り難い。……時間取れるときで良いし、研究所でも色々考える事あるだろ?ほんとに手すきのときでいいからな。
なんか、いっつも手助けしてもらってばかりで悪ぃな。」

少女の言葉に頷く――提案を受けた上で少女が代案を出してくれるなら乗らない手はない。自分が考える手法には拘らず、求める結果が合致するのであれば良いのだから。
そしてお茶会は終わりを告げる――又一つ借りが出来る以上、次の手土産は何にするのかを考えながら――この場は幕を下ろすのだった。

ご案内:「王都マグメール 王城内研究施設」からバルベリトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城内研究施設」からミリーディアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城第七師団兵舎」にゼロさんが現れました。
ゼロ > 第七師団の兵舎の一室、ゼロに宛てがわれた部屋の中。
 そこは特に物がなく、ただただ休息に宛てがわれるだけの簡素な部屋であった。
 そして、珍しくそこの部屋の主は、テーブルに腰をかけて、1枚の書状を手にしていた。

 その中身とは。


宛 第七師団兵ゼロ

貴殿をタナール砦駐留偵察兵に任ず。砦及び近辺の基地に駐留し、魔族の師団【翼ある獣】について調査せよ

発 第七師団長オーギュスト・ゴダン

 と、しっかりと書き込まれていた。
 翼ある獣とは何か、タナール砦に駐留して調べなければならないらしい。
 少年は、ふむ、とひとつうなづいて、その書状を丁寧にたたむ。
 そして、少ない荷物をかき集め始める。
 辞令が出たのだから、任務が与えられたのだから。

 それを行うために、タナール砦に行かねばならぬ。
 そして、そのための準備を始めよう。

ゼロ > 少ない荷物をバックパックに詰め込むだけの作業、粛々とそれは進んでいく。
 仮面の下で、少年は口元を引いて笑みを作り上げる。
 漸く、訓練兵という肩書きがなくなったと言う喜び、任務を与えられるという充足感。
 魔族の国に、軍があったというのも驚きだが、更に師団というものまであるのだという。
 そこまで考えて少年は、手を止める。

「偵察……威力偵察も含む、のかな?」

 遭遇してしまえば戦うしかなかろう。
 とはいえ、自分から挑んで確認する必要もあるだろうか。

 ――――答えは是だろう。

 調査というのだ、データは、情報は大いに越したことはない。
 ただ、持ち帰る必要もあるだろうから、無理はしない範囲にしておこう。
 保存食をカバンに突っ込みながら少年は一人納得する。

ゼロ > 荷物はすぐにバックパックに入ってしまう。
 少年の性格もあるのだが、持ち物は少なく、下着と保存食と、武器防具の手入れの道具ぐらいだ。
 後必要なものがあればその時その時に手に入れればいいのだ。
 あとは、鍵を手にして入口の受付に渡せばいい。

「――――」

 バックパックを背負い、少年は扉を開いて、自分の部屋から出る。
 さて、最初の目的地のタナール砦だ。
 あそこに行って、着任の挨拶と、部屋割りを貰い、拠点にしなければならないだろう。

 少年は、そう考えて兵舎を出て、砦の方へと去っていく。

ご案内:「王都マグメール 王城第七師団兵舎」からゼロさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 大会議室」にオーギュストさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 王城 大会議室」からオーギュストさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 大会議室」にオーギュストさんが現れました。
オーギュスト > 王城、大会議室。
オーギュストはその場で宣言した。

「第七師団は3日後に王都を進発し、魔族の国へ攻め入る」

ざわざわと喧騒が会議室を支配する。
あの噂は本当だったのか、本気でやるつもりなのか、と。

「詳細は軍機につき伏せるが、この行動は第七師団の戦略目的である対魔族戦線の安定に欠かせないものだ」

反対意見の機先を制するようにオーギュストは言う。
続いて参謀からの報告。
第七師団のほぼ全ての兵を率いて、タナールを中継基地として魔族の国へ攻め入る事が説明される。

オーギュスト > この遠征は過去に例を見ないものとなる。
そもそも魔族の国の情報は少なく、どのような障害があるか不明だ。
しかも防衛線であるタナールを超えて師団規模の軍を動かすなど、前代未聞である。

『だ、誰の許可を得て――』

「じゃあ、誰が不許可だと言うんだ、あ?」

発言する貴族に向かい、ドスの効いた声で言い、睨みつけ黙らせる。

騎士団の統帥権を有するは、ただ王のみ。
そして玉座は現在空位である。
このオーギュストの遠征を止められる『権利』を持つ者は居ない。

オーギュスト > 『……勝算は?』

「んなもんが対魔族戦線であったためしは一度もねぇよ」

恐る恐るたずねる文官に対し、吐き捨てるように言うオーギュスト。
対魔族戦線は何が起きてもおかしくはない。明日魔王の気まぐれで王都が急襲されないとも限らないのだ。
勝算などは無い。たとえタナールを防衛するだけでも無い。
明日、この場に居る誰が生きて、誰が死ぬのか。
魔族との戦いが続く限り、常にその恐怖と戦わなくてはいけないのだ。

「この二百年、王国は魔族からの理不尽な侵攻に晒され続けた。この戦いを終わらせ、王国の安寧を取り戻すには、どうしても魔族の国を征服する必要がある」

ご案内:「王都マグメール 王城 大会議室」にマリアージュさんが現れました。
マリアージュ >  
とてとてとてっ。
中庭でのんびりしておりましたにゃんこさんをお供に抱きかかえまして。
今日も真摯に、王城の探検です。
めんどくさそうに『にゃぁ~』と啼く猫を抱きかかえていますと。
扉の前で武器を持っている方が居られる部屋。
興味津々に目を大きくしまして、ぱたぱたと扉の前。
堂々としているせいで扉を守る方が戸惑う中。
聞こえてくるささやかな声、聞き覚えがある声。

少し焦ってしまいます。
わたわたと、猫を抱えなおしまして扉を片手で押し開けるのです。

「ダメですわっ!」

小鳥の様な鈴音の声で、扉の先に他に誰が居るかも考えずに
きっぱりとした声をひびかせてしまいます。

オーギュスト > ――なにやら威勢を削がれる声。
入ってきたのは、見覚えのある騎士見習い。
番兵が慌てて彼女に対し、最後列の見学席に座るように促す。

やれやれと嘆息するが、そんな事では止まらない。
居並ぶ貴族・騎士達を前に、オーギュストは続ける。

「王国民の魔族に対する恐怖、そして王国に対する信頼は最早限界の所まで来ている! このまま王の不在と魔族の被害が増え続ければ、国の土台を揺るがす事態となるぞ!」

ドン、と机を叩き、大きな音が会議室へと響く。
オーギュストは壁の地図の一点、タナールに拳を叩き付ける。

「第七師団は常に対魔族の最前線に居た。その俺から言ってやる。
奴らは無謬の神でも不死身の存在でもない! 俺らよりもあらゆる面で優れた、種として人間を脅かす存在だ!
ここでその存在全てを根絶やしにしなけりゃ、俺達人間は近い将来、必ず奴らの奴隷としてしか生きられなくなる!」

マリアージュ >  
「にゃぁ?
 え?
 こちらでよろしいのですの?」

ぶにゃーっと面倒臭そうに小さく啼く、眠りかけの猫と共に。
最後列の席に案内されます。
「んしょ」と、少し高い椅子に呑気な声で、膝を揃えて楚々と姿勢よく座りますと。
膝の上にあおむけでだらしなく眠ろうとする猫なのです。
そのお腹を優し気な視線で撫でてますと。
どんっ、という音にびくっ!。
慌てて顔を前に向けます。

「えっ? そうなのですの?
 でも、仲良しさんになれる方もおられると思いますの」

え?え?ときょろきょろとしてしまいます。
そして、手をはーいと上げますと。

「オーギュスト様のココアとケーキ、わたくしは必要だと思いますの!」

と、「あったた『めし』は一度も『ない』」という言葉を
扉超しに耳にしましたマリアージュは真摯に主張するのです。

オーギュスト > また聞こえる呑気な声。
オーギュストは気が抜けそうになるのを必死に我慢する。
少女の周りの席の騎士たちが慌ててシーッとジェスチャー。

「――ここに報告書がある。現在タナール近辺で活動していると思われる魔族の軍団――通称『翼ある獣』と呼ばれる師団についての情報だ」

オーギュストは説明する。
戦術的には荒削りだが、強大な力を持ったデーモンを中心とする軍団。
一糸乱れぬ統率と強力な根拠地を持ち、王国に『戦争』を仕掛けてくる存在。

「魔族は意思を持たぬ獣でもただ人を襲うだけのモンスターでもねぇ。
奴らは成長する。人間の戦い方を、技術を、知恵を取り入れる思考と柔軟さを持っている。
あいつらが軍団を整え王国に進撃を開始してみろ、被害はどれ程になるか分からねぇぞ」

脅すように言うと、貴族達が震え上がる。
当然だ。王城の結界の存在など、ほとんどの人間は知らない。オーギュストだってついこの前まで知らなかったくらいだ。
彼らにとって、魔族の軍団が列を成して王国を侵攻してくるというのは悪夢に違いない。

「だからこそ、まだ奴らの戦術が未熟なうちに機先を制す!
この遠征で魔族の国に対する侵攻のノウハウが確立すれば、続けて各師団で魔族の国へ攻め入り、奴らの内政を破壊する!
あいつらだって無限に生まれてくるわけじゃねぇ、まだ力の弱い連中を丁寧に殺していけば、絶滅させる事は可能な筈だ!」

マリアージュ >  
周りに、シーっとジェスチャーされますと。
慌てまして、唇の前で華奢な指をばってん。
こくこくっと頷くのですが・・・。

「――あーっ!。
 そうですの、コッコさんたち、時々タナの上に泥だらけな足で登りますのよっ!。
 タナから追い出そうとしますと、こけーっ、って。
 すっごく怖いのですわ。
 ねーっ?」

うとうとし始めている猫に同意を求めるように、
顎の下をこしょこしょとして。
気持ちよさそうな「ふみ”ゃ~」という猫の声です。
その猫の口元に、「しーっ」とガラス細工の様な指先を当てますが、
よっぽどマリアージュの小鳥の声の方が響いてしまいます。

オーギュスト様の説明に、うんうん、と頷きまして。
お隣の騎士様に「そうですの。どんどんいたずらっ子になりますのよ?」
と、暴れん坊な鶏に話を呑気にするのです。

「――!?
 絶滅しましたら、卵を頂けませんわ!?。
 そうしましたら、ケーキもオムレツも・・・!」

世の終りの様な、悲壮な細い悲鳴を上げてしまうのです・・・。
周囲の騎士には、鶏が荒ぶる姿が頭に浮かんでしまうかもしれませんけれど。

オーギュスト > 「――――」

流石にオーギュストも一度言葉を止める。
さて、しかしここで怒るだけというのも芸がない。
と、なると――

「――騎士見習いケイン・コンラート! 前に出ろ!」

オーギュストが会議室中に響く声で一喝する。
ついに将軍の怒りが臨界に達したかと、騎士たちは首を竦め下を向く。

『お、お待ちください! 彼は、その、まだ幼く、なにとぞお許しを――!』

学院の教官である騎士が慌ててオーギュストにとりなそうとするが、オーギュストは聞く耳を持たない。
マリアージュがオーギュストの前、会議室の中心へ来るのを待ち。

マリアージュ >  
「朝食に卵があったら元気になりますものね・・・?」

泣きそうな顔で、周囲の騎士に同意を求めるように尋ねるのですけれど。
オーギュスト様が名前を呼びます声。
おっとりときょろきょろっとしましてから。
んしょ、と猫さんを抱えながら椅子をおりまして。
スカートに皺がないかと確かめましてから、
のんきにとてとてと、卵は大事だと主張するために前に進むのです。

「オーギュスト様は、片面焼きが好きですかしら?
 それとも、両面焼きがいいですかしら・・・?
 わたくしは、実は甘くしましたスクランブルエッグのほうが
 パンに合うと思いますの」

と、きらきらと煌く、澄んだ菫色の瞳。
頬を少し桜色にしまして、卵が美味しいことを伝えようと
猫を抱いた姿で頑張るのです。
猫はうとうとと、半分夢の中に居るのでした。

オーギュスト > 『け、ケイン君! 将軍閣下は、大事な話を――は、はやく謝るんだ!』

教官騎士が泣きそうな声で言うのを遮り、オーギュストはマリアへと向く。
普段とは違う、戦場での雰囲気を纏った彼は、執務室での姿とは別の人間に見えるだろう。

「ケイン・コンラート。ひとつたずねる」

ガチャンッ!
オーギュストは持っている大剣で会議室の床を打つ。
両手でそれを杖代わりにしたまま、威圧する声でマリアへと尋ねる。

「お前は学院に入学した時に、仮の騎士の誓いをしたはずだな?
王と国の為にその身を捧げ、一人の騎士として忠節を全うすると」

一瞬シン、となる会議室の中で。
オーギュストは続ける。

「その誓いを守れるか。 国と民の為に、その命を捧げる覚悟はあるか!?」

マリアージュ >  
「――?
 はい、大事ですわ。
 お茶会ができなくなりますものっ」

そんな教官騎士様に、判っておりますわ、と。
安心させるように、春の花が咲くような笑顔を向けるのです。
でも、オーギュスト様の方を見ますと、なんかちょっと怒っているご様子。
ちょっと上目遣いでオーギュスト様を見てしまいます。
――『邪眼の騎士』である父親を見て育ったマリアージュには、
その威圧も『ちょっと怒っている』としか感じていないのでした。
そして、そんなマリアージュと触れている猫は、その他者強化の力で。
百戦錬磨の騎士並みに豪胆な心に強化されて、ふわぁ、とあくびをみせるのでした。

「は、はい。
 オーギュスト様はオムレツの方が好きですかしら・・・?
 ――え?、あ、はい。
 そうですわ?」

タマゴの話ではなかったので、何のお話、と。
首を傾げさせてしまいます。
けれど、最後の言葉、それはコンラート家の言葉です。
目を細めまして、嬉しそうに声が綴られます。

「『国の為に、市井の為に。
  この眼は過去を知り、
  この眼は今を知り
  そしてこの眼は未来を掴むために使いましょう。
  たとえこの魂が擦り切れ、心が疲れ果てても。
  この眼は、楽園の為に殉じましょう』」

と、古い古い神代の言葉で、歌うようにオーギュスト様に伝えるのでした。

オーギュスト > 相変わらずふわふわしたヤツだ。
だが、その天然ボケを利用させてもらおう。

「――よく言った」

そしてハラハラしている騎士・貴族達に向かって、オーギュストは告げる。

「こんな、まだ世間も知らないような騎士見習いですら、国の為に命を捨てる覚悟をしてる」

ぽん、と軽くマリアの頭をなでる。
大男のオーギュストに比べれば、まるで小人だ。

「俺達が前へ進まず、魔族との戦いで防戦を選ぶ、ってのはな。
将来、こいつと、自分の子供を、魔族との戦いに送り出す、って事だ」

はっとして騎士達が顔を上げる。
騎士の中でも多くの者には子供がいる。そうでなくとも、あどけないマリアの顔を見て、己が何者かを問い直さない者はいないだろう。

「――それでいいのか」

少しずつ、騎士達が立ち上がる。
オーギュストは彼らの心に火を点ける事に成功した。

「王国騎士たちよ! この国の守護者達よ!
こいつみたいな子供を、死地に送り込む事を良しとする奴が、この中に居るか!?」

『『『否!!!!!』』』

オーギュストは大剣を抜き、高々と掲げる。

「ならば俺は、貴様らの先頭に立ち、未来を切り開こう!
人間が安寧に暮らせる世の為に! 王国の勝利の為に!」

『『『『『『王国に勝利を! 王国に勝利を!!!』』』』』』

マリアージュ >  
「『アイオーン、アイオーン
  父なるアイオーン
  母なるアイオーン
  我が眼は人の世を見つめ続けましょう
  我が眼は人の喜びも、怒りも、憎しみも、悲しみも見ることでしょう。
  されど、常に永久に、人の幸せをこの眼は見ることでしょう。
  アイオーン、アイオーン・・・』」

ゆっくりと目を閉じまして、歌うように、そして祈るような旋律。
猫の前で両手を祈るように合わせますと、聖属性な魔力の波動が広がっていきます。

――けど、頭を撫でられますと、ふと、目を開けまして。
ふにゃふにゃとくすぐたっそうな嬉しそうな表情を見せます。

「オーギュスト様は、スパニッシュオムレツとかでしたらどうですかしら・・・?
 ――わたくし、コドモではありませんわっ。
 あの、わたくし、オトナのオトコノコの騎士ですのっ!」

子供と言われまして、慌てて否定の言葉ですけれど。
皆様の声に、その細い小鳥の声は届きません。
にゃんこさんの背中に顔下半分を隠しまして、上目遣いにオーギュスト様に、
涙目な視線を向けるのでした。

オーギュスト > 会議は決した。
第七師団の遠征に意を唱える者は、表向きは居なくなった。
所詮パフォーマンスだが、やっておかねばならぬ事である。

「第七師団は予定通り3日後に王都を進発、予定通りタナールへ進軍する。
街道沿いの集積基地と各町役場への連絡を忘れるなよ! 今回はいつもと規模がちげぇからな!」

補給・連絡将校に激を飛ばしながら、オーギュストは会議室を後にする。


扉を出ると、ふっと後ろを振り返り、マリアの姿を一度確認する。

「――アイオーン?」

剣呑な疑問を抱きながらも、オーギュストは作戦の為に師団駐屯地へと向かう。

なお、感激した騎士の一部が、マリアに寄って来ては激励の言葉を述べたり彼女を守る誓いを立てたり、それは大人気になる事だろう。

ご案内:「王都マグメール 王城 大会議室」からオーギュストさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 大会議室」からマリアージュさんが去りました。