2017/12/18 のログ
レナーテ > ちょっと聞いた程度だったという言葉に、成る程と納得した様子に小さく頷く。

「ちゃんと契約してますけど、王族や貴族からしたら、ミレー族が人らしくしてるなんて、嫌がることですからね。私……ですか?」

クォーターの自分でもミレー族にしか見えない様な姿であるのもあり、困ったように苦笑いを浮かべる。
しかし、自分が気になったと言われればキョトンとした様子で軽く首を傾けた。
勿論、あの時に胎内にかかえてしまったモノは、危険なモノだったが、彼女の力で事なきを得ている。
そんなに別れ際がフラフラだっただろうかと、少しズレた考えをしてしまうのも、真面目さ故か。

「ぇ、ぁ……そう、ですか。それはそうかも、ですが……お仕事がなくなって、困ったりしていないかと」

アフターケアというのも、響きから何をしているかは分からないが壊されたまま朽ちるよりは、ちゃんと綺麗にしてもらえるほうが良いかもしれないと思えば、言い淀みながらもそれ以上は踏み込めなかった。
彼女の察した通り、少し沈んだ声色で確かめる言葉を紡ぐと、向かいの席に座るときには、薄っすらと不安に顔色が曇ってしまう。

「……ふふっ、アンネさんって意外と人付き合い、上手じゃないんですね?」

明朗で思うがままに切り込んでくると言った一生とは裏腹に、情事からの繋がりだからと戸惑う様子にクスクスと微笑む。
魔族と聞いていたものの、人と違う分に付き合いが下手なのかもと思うと、妙な愛らしさを覚えて年相応な微笑みを浮かべつつ彼女を見つめた。
そして、紅茶でひと心地つく中、此方の笑みに調子が崩れているとは知る由もなく、コトンとカップを置く。

「……意外と、一緒に手を繋いでお出かけするだけでも、落ち着きなくなりそうです」

情事のない、ただ触れ合うだけのゆったりとした時間。
それが不慣れなら、そんな在り来りの想像を煽るようにぼそっと一言呟く。

アンネリーゼ > 「ん、そうねぇ。彼らからすれば、ミレーは質の良い奴隷種族、って感じだものねぇ。
 ――貴女は奴隷じゃないけど、私が一度手を出したんだから、気にするのは当然よ。職業病ね」

そうは言いつつも、少女の耳はほんのりと赤い。職業病――などと言うのは照れ隠しだ。
単に、自分が仕事を捨ててもいいと思える程度に好いた彼女が、どうしているか知りたかった。
ただそれだけの話なのだが、そこは何となくプライドやら羞恥心やらが言葉にするのを阻んでいた。

「あら……そうねぇ、収入面では困ってないわ。元より調教師も道楽や趣味でやってたようなものだから。
 他に困ったことはあるけれど……貴女に頼るのはちょっと憚られるわねぇ、うん」

仕事を辞めたから、性行為を楽しめない。なんて真面目な彼女にはまず言えない。
とは言えこのままの流れで行くと、問いを投げられてしまう気もして、微妙に進退窮まれりだ。
少女からすれば、困ったなぁ、ですむことを真面目に悩むのだから、全く彼女は可愛らしい。

「うぐっ……仕事が間に入ればそつなくこなせるんだけど、そうじゃないのは中々、ね。
 それに、長らく生きると先立たれることが多くなるから、普通は思慕なんか向けなくなるんだけど」

何でかしらねぇ、と内心で独り言ちながら、彼女の様子を眺める。
どうにも、彼女と会話すると調子を崩される。それでいて、嫌じゃないから困ってしまう。
今もそうだ。彼女が不意打ち気味に呟いた言葉にどきりとして、想像して――。

「そ、それは、その……大いにありえそうなのよねぇ、ベッドの上でなら平気なのに。
 ただ、前は貴女に巣くってた触手を追い出すって名目があったから平常心でいられたけども、むぅ」

純粋に求められて交わることになったら、その時は困惑してしまいそうな気がする。
無論、困惑した上で彼女を求め、したい事をするつもりなのだが、それはそれ、これはこれである。

レナーテ > 獣らしい特徴があるかどうか、それぐらいしか見た目には変化はないだろう。
中身だって大差ないし、こうして自分のように血が混じった存在もいる。
あるなしに否定する城の住人に、困ったものですと苦笑いを浮かべていた。

「……ありがとうございます。身体に後遺症みたいのも無かったですし、今も事務仕事も戦いも出来ています」

職業病だと誤魔化す言葉とは裏腹に、耳元にまで赤色が浮かぶ恥じらいは、照れ隠しのようにも見える。
自分のことを気に入ってくれたのは、あの勢いのままというわけではない…ということか。
そんな事を考えながらも、脳裏に蘇る記憶は同時に最悪の答えも思い出す。
瞳を伏せて、一呼吸の後、改めて彼女を見つめた。

「あの時……多分、アンネさんが来なかったら、自ら命を断ってたかもしれません。他の娘にあんなのが取り付いたら……嫌ですから。だから、ありがとうございました」

強引に抑え込んでいたのも限界であり、理性を奪うほどに此方の心を支配したなら……他の少女達も毒牙にかけていた可能性がある。
今、ここに自分があるのは彼女のおかげだと思えば、深々と頭を下げてお礼を言う辺り、変わらぬ真面目具合だった。

「困ったこと…そんなに何か大変なことでも?」

自分に言うには難しいと濁す様子に、眉尻を下げて問い返す。
余程切羽詰ったことなのだろうかと思いつつも、続く彼女の身の上話に、何となく察しがついていく。
自分の上司にあたる組合長も、人の枠を超えた時に奥方とすら距離に困ったと聞いたことがあった。
種族柄、生きる時間が違うと大変なのだろうと思えば、色々とすごかった彼女に、少しずつ愛着のようなものを感じる。
それを示すように立ち上がれば、彼女の隣へと移動して腰を下ろす。
ソファーが淡く沈み、間近になった彼女に変わらぬ微笑みで、そちらを見やる。

「普通は逆なのに…アンネさん、ちょっと変わってます。だけど…私で良ければ、そういうのも一緒にどうですか? その、そういうことばかりより、こういうゆったりとしたことも大切ですから」

ここで少し噛み合いがズレていくのは、親愛として手を繋いだり、じゃれ合ったりする一瞬を浮かべているというもの。
とはいえ、求められれば断りきれず流されることになるだろうが、そんな事を考えることもない。

アンネリーゼ > 少女からすれば、ミレーも人間も魔族も何ら変わりはなかった。
雄と雌がいて、依頼されれば調教して売り渡す相手――だったはず。
そんな生業を散々営んでおきながら、今は目の前の彼女一人に白旗を上げている。
彼女とは全く違う理由で、困ったものだと笑みが浮かんだ。

「それは重畳。私の施術もコンディションが完璧だった訳じゃなかったし、ちょっと心配してたのよね。
 後遺症はなくても味わった発情や快楽がなくなる訳じゃないから、色に狂わないか、とかもあったし」

大丈夫ならば何より、と心の底から安堵する。
長らく見かけなかったものだから、と内心に閊えてたものが取れた気がして。
生真面目な彼女の礼には、目を細めて慈しむかのように見つめながら。

「まぁ、貴女はそういう子よねぇ。だから、助けられてよかったわ。
 真面目で、いつも一生懸命で、危なっかしいんだから……それじゃ、どういたしまして、ね」

お礼を受け取らなければ、いつまでも礼を言われ続けそうな気がする。
だから素直に受け止めて、サクッと話題を切り替える。
困ったこと、についてはもごもごと口を動かしつつ。

「……その、大丈夫、大変なことじゃないわ。ただちょっとお預け気味なだけだし」

何がお預けなのかは、少女の仕事と結び付ければ分かるかもしれないこと。
だが、実際に理解できるかは彼女次第だし、少女から言葉にすることはない――否、出来ない。
言葉にしてしまえば、責任感や罪悪感を盾に彼女の体を要求してるのと変わらなくなるのだから。
誤解してくれるならばそれでいい、と会話の成り行きに任せていたのだが、彼女が隣にやってくると状況が変わる。
心音が弾み、加速し、視線を合わせるのに努力が必要になる。動揺を顔に出さないのが精いっぱいだ。
しかし彼女は変わらぬ微笑みを浮かべて、こちらへと踏み込んでくる。それは、何よりも魅力的な、美酒だ。

「うぐ……良いのかしら。私は、貴女が嫌う様な過去を持ってて、しかも魔族だから普通は相容れない存在よ?
 気持ちは凄く嬉しいけれど、本来は、私に手を伸ばすべきではなく、その銃でこの胸を撃つべきなのだけど」

それでも、いいの?と問いかける。瞳に浮かぶのは一抹の不安だ。
言葉にはしていても、好きな相手に拒絶されれば、それは辛い。
ただ、それでも問わざるを得なかった。真に彼女を想う為に。
しかし、もし彼女が受け入れてくれるならば、少女はきっともう、遠慮はしないことだろう。
彼女と自分で、その行く先の認識が若干ずれている様子だが、それに気づける少女ではなかった。

ご案内:「王都マグメール 王城 ドラゴンフィート派出所」からアンネリーゼさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 ドラゴンフィート派出所」からレナーテさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」にノーガルトさんが現れました。
ノーガルト > 「…………。」

(ひいきにしてもらっている商人の護衛のためとはいえ、まさか王城にまでやってくることになるとは。
もう少しちゃんとした服装で来るべきだったと、周りを見ながらため息をついた。

気にしなくてもいい、とは商人に言われている。
しかし、やはり感じるのは場違い感と奇異な目で見る視線。
同然だ、いくら護衛だとは言えノーガルトはただの一般人である。
そんな自分が、普段の格好でこんなきらびやかな場所にいるのだから…気が重くなるのも無理はない。)

『…復帰後の最初の依頼がこれとは……判断を誤ったな、ノル。』
「………五月蠅い。」

(この場にいる中で、ノーガルトにしか聞こえないダインの声。
励ましというよりも、皮肉めいたその言葉に、気づかれず溜息を吐いた。
このまま何もなければ、あと30分もすればお開きになるはず。
それまでの辛抱だ…と、ノーガルトは自分に言い聞かせた。)

ノーガルト > 『…にしても、きっひっひ……。人間ってなぁ、何処までも浅はかで…クック…。』
「…フィングも少し黙ってろ……集中できない。」

(最近、ようやく声が聞こえるようになった最後の魔剣。
ダインいわく、今まで声が聞こえなかったのはノーガルトの体力が戻っていなかったこと。
そして、しばらく剣を触れていなかったことによる鈍り、からだと。
それがなくなったからこそ、フィングの声がきっちりと聞こえるようになった…らしい。

だが、その性格は非常に破たんしていた。
口を開けば、おもしろそうにするのはいい…のだが。
その視線の先は、ノーガルトのはるか向こうで行われている、ミレー族の公開輪姦。
それを、浅はかだというのはノーガルトも言いたい、のだが。
それを、愉快そうに言うものだから…最後の魔剣、ティルフィングは一番の問題児だ。
頭を抱えたくなる気持ちを抑えながら、ノーガルトは接客に励んでいる商人の後方で待機していた。)

「……。(さっさと終わらんものかな…、居心地が悪すぎる…。)」

(家に帰ったら、胃薬でも出してもらおうか。
さっきからキリキリと痛む胃を摩りながら、ノーガルトは水を一杯飲んだ。)

ノーガルト > (そろそろ、このマーケットも終わりのようだ。
身支度を整え、帰り支度を始めている者がちらほらと見受けられるようになる。

ようやく終わりか、とノーガルトは息を吐いた。
この奇異なものを見る目は、どうあっても慣れるものじゃない。
できる限り、貴族関係の仕事は引き受けないようにしよう…。
胃に悪すぎる、とノーガルトはため息をついながら、片づけを始めた商人を手伝った。

その時間も、そこまでかかることもなく…。)

「ええ…それじゃあ、売り上げなどは帰ってから…ですね。…いえ、俺も何事もなくてよかったです。」

(本当に、何事もなくてよかった。
苦笑など漏らしながら、ノーガルトは片づけ終わった商人の代わりに荷物を持つ。
売り上げは…まあそこそこ、というところだろうか。
その分から報酬を支払ってもらい、ギルドに報告に行く。

あとは、赤い猛牛亭に行き、報告をして仕事は終わりだ。

…やっと帰れるか。
その呟きを、誰も聞くことはなかった…。)

ご案内:「王都マグメール 王城」からノーガルトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 ドラゴンフィート派出所」にレナーテさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 王城 ドラゴンフィート派出所」にアンネリーゼさんが現れました。
レナーテ > 「ご心配おかけしました。……後遺症ですか?」

色に狂わないかと心配したと言われれば、先日のことが脳裏をよぎる。
考えてみれば、あの日から少しずつズレ始めたような…気もしてくるのだ。
その言葉に考え込みながら視線が徐々に下がっていくと、音と表情も沈んでいく。
それに気付けるかどうかは彼女次第といったところで、御礼の言葉に安堵したように微笑み、誤魔化そうとする。

「お預け気味? お預け……ぁ」

仕事と結びつけるなら、彼女はどちらかと言えば嗜虐趣味なのはあの日の交わりでよく覚えている。
首を傾げながら暫し思考を巡らせ、天井を見上げていくとカチリとその答えに重なっていく。
消えるような声の後、見る見るうちに頬が赤く染まっていけば、落ち着きなく視線を左右に散らしながら再びうつむいたりと落ち着きがない。
しかし、此方から誘いかけた言葉に更に予想よりも不安な音が聞こえれば、顔をあげると同時に何度か瞳を瞬かせる。
国を脅かす魔族の一人、だからこそと言うが、どちらかと言えば人付き合いが苦手な結果の壁とも見えた。
一間あけてから、クスクスと静かに微笑みを浮かべると胸元に掌を重ねる。
ふわっと周囲に広がる白っぽい火の粉を思わせるような羽根が舞い、胸元に赤色を帯びた鳥を思わせる紋様が浮かぶ。
旧神の力を宿しているものの、羽も光も、彼女を傷つけることはなく、変わらぬ白い手が彼女に触れれば心地よい暖かさが伝わるはず。

「ユーレック、私とお友達になりたいって手を伸ばす命の恩人さんは悪い魔族さんですか?」
『我らの敵は我らが土地を脅かす魔のみ、そうでないなら神炎を以って焼き払う必要など無い』

触れた手から思念が音となって彼女にも伝たわるはず。
遠くはなれたところにいる相棒たる鳥の声を彼女に聞かせれば、花咲くような笑みを見せた。
問題ないそうです と、彼女が建てようとした壁をゆっくりととかそうとしていく。

アンネリーゼ > 「何も無いなら良かったわ。啖呵は切ったけど結構ギリギリだったからねぇ」

いやはや、良かった良かったと安堵しながら、過日を思い返す。
目の前の彼女は何やら表情が暗く沈んでいくが、それほどあの思いが嫌だったのだろうか。
確かに、得体のしれない存在に寄生されて雄を求める、というのは彼女のような娘には考えられない所業か。
それ以外の理由もありそうだが、そこに踏み込むにはまだ、少女にも度胸が足りない。

「えぇ、お預け気味……あれから本当に、全くしてないのよ。
 だから、こう……あんまり無防備に誘われると、困るわ」

彼女を傷つけたくないから、正確に意味を口にする。
そうせずに押し倒せば流されてくれるだろうが、それは誠実ではない。
勇気がないゆえに壁を作り、余裕がないゆえに距離をとる。
会いたかったけれど、会ってみたら何もできない。それが、少女の正体だ。
そんな少女の手元に増えるのは暖かな物。それが彼女の手だと分かると、急激に顔が熱くなる。

「あ、ぅ……その、こ、こういうの、本当に耐性ないんだけどっ……!」

呼び出された何者か、恐らくは彼女の守護獣なのだろう存在の声も聞こえるが、それを指摘する余裕はない。
目の前の花咲くような笑みに、暖かな彼女の体温に、少女の理性がぐらつくのだ。
普段は英知に長けた脳味噌も、今この時は何もできない。完全に沸騰しきっていた。

レナーテ > 大丈夫ですと苦笑いを浮かべるが、心の奥にはひっそりと目覚めてしまった嗜虐性が渦巻く。
彼女が踏み込まないのは、暖かな空間にとっては幸いかもしれない。
性的に、そして種族の違い。
触れ合いに不慣れな彼女へ手を差し伸ばすのは、あの日の恩だけではなく、自分を尊重して抱いてくれたからこその安堵もある。
今度は自分が、彼女に何か与えられたなら嬉しいと微笑むわけだが…想定外の言葉にピンと帽子に隠れた耳が少しだけ伸びていく。

「ぅ、ぇ、えっと…そういうつもりは…無かったんですけども。アンネさんのお友達とかになれたら、それだけでもいろいろ…変わる、というか…私も、嬉しいですし」

性的な思惑はなく、ただ彼女と語らい合う今が楽しかった。
しどろもどろに答えながらも、手に触れただけでも、彼女の声が崩れていくなら、どうしたものかと思いながらあわあわと手をゆっくりと離していく。
手と手だと、直接過ぎて良くないのだろうか。
考えすぎた結果が少しズレているとは気付かず、そのまま宙をさまよっていた掌を、彼女の太腿の上へ重ねていく。

「じゃあ慣れそうな範囲から…ということで、こうやってここに触れるぐらいなら、手よりも落ち着きます……よね?」

身体に触れる程度ならとスカートの上から太腿に手のひらを重ねていく。
それ以上、何処を触るというわけでもなく、ただ重なった場所から少しずつ体温を彼女へ伝えていくだけ。
その合間、どうでしょうか? と言いたげに、眉尻を下げて苦笑いを浮かべれば、彼女の顔を覗き込む。

アンネリーゼ > 元々奴隷の機微を見抜く観察眼が、彼女の変化をも目ざとく見つける。
それでもなお、手をこまねいているのは嫌われたくないが故だ。
何度目かはわからないが、随分と抱いていなかった他者への好意。
遠い昔に忘れた甘酸っぱさは、少女の胸の中をじくじくと疼かせた。

「えぇ、そうだと思ったから、押し倒すのを我慢したわ。
 友達、ね……ふふ、私はそれより先の関係でも――な、なんでもないわよ?」

一瞬願望を吐露しそうになって、慌てて取り繕う。
彼女の思惑通り、少女の壁は徐々に溶かされてしまいつつある。
こうも自分のペースを崩されて、なお不愉快な感情を抱かないのは久しぶりだ。
やがて彼女の暖かな掌が、己の太腿に降りていく。するり、と肌を擦る刺激に。

「んぅっ……♪そ、そこは、手より落ち着かない、かもっ……♪」

触れられただけで心地よくなってしまい、思わず甘い声が漏れる。
彼女の体温だと理解するだけで体が高ぶり、蕩けてしまって。
苦笑を浮かべる彼女に応待しようとして、しかし思考が上手くまとまらない。
完全に調子を崩された少女は、珍しく受け身の弱弱しさを見せながら、ふるふると真っ赤になっていた。

レナーテ > 「ぇっと、ありがとう…ございます」

我慢したという言葉に、苦笑いを浮かべて謝罪するも続いた言葉の先までは想像できず、疑問符が浮かびそうな顔をしていた。
意識して同性に感情を向けるまでは、まだそちら側へ深まっていないからで。
そして、太腿にぴとりと触れた掌は、それぐらいのタッチならと遠慮したものだったが、思っていたより彼女を煽ってしまったらしい。
上ずったような甘めの声があふれれば、ぱっとすぐに掌をあげてしまう。

「ご、ごめんなさい……」

思っていたことが空回り、俯き気味に視線を落としながら表情が陰る。
そちらの様子を確かめるように見やれば、以前とは異なる恥じらいが交じるような可愛らしい仕草。
僅かに高鳴る心音は、自分が変わってしまったと完全に思った夜を彷彿とさせる。

「……さっき、後遺症っていいましたよね。あの日から…少しだけ、自分が変わり始めたような…気がします」

そう切り出しつつ、今度は彼女の手へと掌を重ねて、優しく握り込んでいく。
指を絡めるように、白い指先が彼女の指の合間を通り抜けて、手の甲に指の腹が重なっていった。

「お城に住んでる、女の子みたいな男の子がいたんです。なし崩しに、一度肌を重ねて……二度目は彼が弄ばれるのを和らげるために、私が悪い人を演じたんです」

語りながら、指を解けば、今度は彼女の手の甲へ指を這わせていく。
つぅっとこそばゆい刺激を与えるような、フェザータッチは、その片鱗を伺わせるような被虐を煽るための触り方とも言えるか。
擽ったいと気持ちいいの境界線を、曖昧にするように。

「最初は演技でしたけど……気付いたら、彼を男の人として駄目にしちゃうほど、していました。あの日、滅茶苦茶にされて、ひっそりと壊れてしまったのかなと…今は思うんです」

そう告げながら掌が離れると、先程まで彼女を撫でていた指先を反対の手で包み込む。
垣間閉ざされた瞳、暗闇に感じる鼓動と記憶に小さく溜息を零すと、瞼は開かれた。
憂いというよりは、戸惑うような、そんな不安定な色を宿した瞳で、彼女を見やりながら困ったように笑ってみせる。

「可愛いじゃなくて、危ない子にかわってしまったかもしれないですよ?」

警告なのか、それとも断りなのか。
どうとも取れるような言葉を投げかけた。

アンネリーゼ > 「お礼を言われるほどの事でもないけれど、その、貴女を押し倒したい程度には好きなのよ?」

最早どうにでもなれ、とでも言わんばかりに好意の丈を言葉にしてみる。
これだけでもどうってことないようなふりをして、なけなしの勇気を振り絞っているのは秘密だ。
彼女の振れる太腿は、甘く淡い痺れを帯びる。それはきっと、彼女が触れるなら全身どこでも同じだ。
爪先だろうと指先だろうと、髪の毛だろうときっと、ぞくぞくと背筋が震えてしびれてしまう。
手が離れていくのを見ると、寂しそうな表情を浮かべてしまいながら。

「へ、変な声出してごめんなさい。その、レナに触られると、どきどきしてしまって」

やばい、やばい。これ以上は。彼女を押し倒すどころか、こちらが流されてしまいそうだ。
普段滅多に受けに回らない少女だが、彼女相手にはそれを良しとしてしまいそう。
彼女にならば首輪をつけられれても構わないと、心の底から思ってしまえるから、まずい。
重なる手の平。それは恋人が繋ぐような。相手を捕まえて、離さない為の――逃がさない為の物。
捕えられた。そう思う間もなく告げられる言葉。その内容は、まるで彼女が己の様で。

「そ、そうなの?……それは、えぇと……少しだけ、嫉妬しちゃいそうなのだけど――」

いいなぁ、と見たこともない男の子に思いをはせながら、むず痒い刺激を必死にこらえる。
このまま流されたら、本気で自分が彼女から逃げられなくなる。彼女なしで過ごせなくなる。
そんな予感がするのに、逃げられない。離れられない。与えられる刺激に翻弄されるしかない。

「……目覚めちゃったのかしら、ねぇ。え、えぇと、レナ?その、くすぐったいの、だけ、ど――」

眼差しが交わる。不安と戸惑いを宿したかのような瞳。それは、自分を映す鏡の様で。
――もう少しだけ勇気を出そう。その上で彼女がどちらを選ぶかはわからないけれど。

「……構わないわよ。私だって散々同じ事をしてきたんだから、私も危ない子だし。
 それに……えぇ、素直になるわね。私、レナになら、良いわ。根こそぎ全部上げても」

警告だろうとなんでもいい。彼女が不安な視線を向けるなら、それを受け止めるのが自分の役目だ。
その結果、自分がどうなろうと、彼女の笑顔を見られるならそれでいい。――それが、少女の精一杯の決断だった。

レナーテ > 「……っ、あの、同性でそういう感情を向けられることがある…というのは、知ってますが…」

自分に可愛いを教えてくれた人と同じように、彼女も同性に感情を向けるのだとここで再度理解させられる。
言葉に詰まり、瞳を丸くすると、戸惑うように視線を反らしてぼそぼそと呟く。
否定も肯定もしないのは、まだ自分の気持ちもよく分かっていないからだろうか。
彼女の心に与える変化に気付かぬまま、自分の中にある嗜虐性の欠片を覗かせていく。
何処と無く、落ち着きない彼女をちらりと見やりながら、相も変わらぬ苦笑いを見せる。

「……駄目ですよ? アンネさんは、もっと普通な…暖かな繋がり方を覚えないと。それに、アンネさんの気持ちに応えられるかだって、分からないんです。私自身……自分がどうなってしまったか…分からないんですから」

魔族、悠久の命、それらが彼女を普遍から遠ざけた。
自分に伸びた普遍への一歩を欲望に変えてしまってはいけないと、戒める様に語りかける音は、年頃の少女というよりは、随分と背伸びした落ち着いた大人な音に聞こえるかもしれない。
ゆっくりと目を細めながら苦笑いをし、囁きかけると、掌を彼女へと向けて指の間を広げていく。

「そんな勝手な私の…危ない部分に触れたいなら、触れてください。でも…望み未来かは、全く約束できないですよ?」

どんな関係になるかなんて、明らかに言えない。
そんな不安定なものでも触れたいのだろうかと、問いかけながら優しく語りかける。
触れたなら、優等生の裏に抑え込まれていた嗜虐性が彼女を蝕むだろう。

アンネリーゼ > 「……ん、普通じゃないのは分かっているわよ。長い年月で学んだもの。
 女性と男性がつがいになるべきで、女性が女性に恋慕してはいけない。
 そんなの、子供でも知ってる常識よね――だれでもわかる、みんな知ってる。
 でも、だからと言って、なかったことにはなってくれないのだけど」

どうしようか、と彼女に苦笑を向ける。
元より、仕事を捨てた時から彼女に絆されっぱなしなのだ。
その後だめだ、と制止されて、続く言葉には思わず息が漏れた。

「――昔は知っていて、今は忘れてしまったことよ。それを、はしたなくも貴女に求めてしまう。
 私の気持ちに応えよう、なんて思わなくていいわ。私が欲しいのは、責任感じゃないんだから」

変わってしまった、という彼女。だがそれは少女も一緒だ。
彼女に会わなければきっと今も、少女は奴隷を生み出しては売り払い、不幸を作り出していただろう。
そうしなくなったのは、そうできなくなったのは、彼女のせいで彼女のお陰なのだ。
彼女はきっと、自分よりも長くは生きない。だから彼女は、自分よりも大人な気がした。

「……そう。それなら、私が受け止める。私が包む。レナがいつものレナになれるように。
 だから、触れるわ。私が望むのは未来じゃなくて、貴女の側にいる今だもの――好きよ、レナ。
 とってもとっても。私が、今までの生業を捨てて、甘い恋を抱いてしまうほどに。だから、ね?」

遠慮や容赦などしなくていい。貴女の好きに振舞ってほしい。
それが自分の望みで幸せだから。そう示すように、彼女の掌に手を重ねる。
先程と同じ恋人の様な繋ぎ方。逃げられないし逃がさない。そんな意思表示を兼ねた結束。
最後の最後、覚悟を決めてしまえば言葉もするりと出てくるもので、思いの丈をぶつけると、にこやかに笑みを浮かべて見せる。
長らく誰にも見せていなかった、少女らしい満面の笑み――これからもきっと他には見せない、ただ一つの表情だった。