2017/09/12 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城」にミリーディアさんが現れました。
ミリーディア > 普段から、王城内は加護により魔族に対し強固な守りを持っている。
だが、なぜか今日に限っては、まるで誘うかのようにその場所だけは加護が弱まっていた。
そこは王城の中央に位置する、大きなホールだ。
にも関わらず、今この時は付近には何者の気配も無い…ただ一人の気配を除いては。

魔族からすれば、明らかに罠。
だが、最近の王城へと行われる幾多もの魔族の侵入。
それにより過信したか、哀れな犠牲者がホール内へと入り込んできていた。

「そう、君のように余りに調子に乗ってしまう者が居るから、つまらない小言が儂に来る。
すまないね、君には気安く王城に入る事の恐怖を教えてやろう。
それを魔族の連中に伝え、少しは遠慮してくれるように頼んでくれ給え」

気配は、その侵入者にそう声を掛けた。
ゆらりと薄暗い闇の中から現れたのは、闇に紛れるような黒のローブに身を包む少女。

ミリーディア > 月明かりのみの薄暗いホールで対峙する、魔族と少女。
何か妙なものを少女から感じ取ったか、魔族は警戒の色を強めた。
…だが、遅い。

次の瞬間、その魔族が発していたのは少女に対する強い恐怖心だった。
特に何かしたような気配はない、それなのに、だ。

「君は今の時点で、50回死んだ。
丁度良い数字だから止めてやったが、気持ちは決まったかね?」

変わらぬ調子で話しかける少女。
魔族の取った行動は…逃亡。
その姿は、少女の言葉が終わると同時に消え去っていた。

ご案内:「王都マグメール 王城」にムメイさんが現れました。
ミリーディア > 「良い選択だ、さすがに堪えたか。
後は、あの者が話を広めてくれると儂としては助かるな。
鬱陶しい小物は来なくなるだろう…逆に、興味を持って来る連中は居るかもしれないが」

ここで受けた恐怖が広まってくれる事、それが重要なのだ。
どうせ、起こった事の説明をしたところで、鼻で笑われるだけだろう。
何度も何度も何度も…同じ時間の流れの中で嬲り殺された、なんて。

ムメイ > 「……なんでこう、ツイてねぇのやら」

ぼやく様な言葉と共に首を回しつつ王城の一角を歩く
何の事は無く、護衛の依頼を受けて要人を送ったのだ
ついでに食事に誘われたが丁重に断――るのも面倒だったので適当に酒で酔い潰した

本当にこういう場所は似合わない、のだが……

「ほう……また何かやってんのか?」

少しばかり面白そうな気配があったので、そちらへ悠々と向かう
まるで罠でござい、と言わんばかりに意図的に加護が弱まっている
そちらへ向かう事にしたのは、こんな豪気な事をする奴の顔を見たいが故

暫く歩けば、大きなホールに歩いてくる不似合いな礼服の男が彼女の目からも見える筈である
魔族の気配は抑え込み、単純な興味で向かっている様で

ミリーディア > 「おかしいな、城内の連中には近付かないように言ってあったはずなのだが…」

少女は呟きを漏らす。
中央のホールでやりたい事があるから、近付かないようにと伝えてあったのだ。
なのに、近付いて来る気配がある。
外に出ていた者が戻り、たまたま来てしまったか…?そんな可能性も無い訳ではないか。
それ以外の可能性があるならば、新たな魔族が偶然やって来てしまった、そんなところだろう。

「さて、ここに来てしまった君に一つ質問をしよう。
ここに来たのは偶然かね?それとも…弱まった加護に引き寄せられたのかね?」

やって来たのは礼服の男、城内の者ならば顔を覚えているのだが…どうやら覚えのない者のようだ。
なので、その姿を一瞥すれば、そう問い掛けた。
別段気配を探ったりはしていない、今のところ、目の前の相手が人間か魔族かは関係ない。

ムメイ > 漏れた呟きが聞こえた様子は無い
ゆらゆらと揺れながら立ち止まったのは、奇しくも先の魔族が立ち止まった場所と同じ距離
単純に、声を掛けられた場所がそこだった訳だが

質問にふぅむ、と思案してから

「夕方位にここの偉い人をここまで送ったのは良いんだが、付き合わされて飲んでたんだわ」

言いながら彼女を見て――「遣える」奴だと判断した
普段なら一も二も無く挑戦する
武器も防具も出そうと思えば出せるが

「こっちから面白そうなものを感じたから、つい来ちまった
 お前さん――見た目以上に『遣う』みたいだが、話相手は要らないかね?」

頭をがりがりと掻きながらそう問いかける
いっそ無防備にしか見えない姿
そうして付け加える様にして、ああ、と声を出して

「……それとも、歯応えがある手合いがお望みかい?
 俺としちゃどっちでもお前さん相手なら歓迎なんだがな」

人を食ったような態度ではあるが、敬意はあるらしく
その先に踏み込まない

語らいか、戦いか
どちらの相手を望むのか、と言うようにも聞こえる言葉だった

ミリーディア > 男の答えを待ち、その答えを聞けば、一つ頷く。

「なるほど、元々は言伝が届いてなかったタイプだったか。
…が、どうやらそれだけではなかったようだ」

相当の力を持った人間か、影響を受けるべき魔族、何かを感じるならばその二種だ。
どちらにしても、先ほどの魔族のように調子に乗ってやってきた者とは違う、多分そうだろうと思う。
それならば、無駄に警戒をする必要は無くなった。
今この状況下で、他にそうしてやって来る者など居ないだろう。
そう考えれば、無防備な相手に対し…こちらも、普段の無防備な自然体の自分へと戻す。

「いや、そんな面倒な事は御免被る。
調子に乗った連中に、少しばかりお灸を据えてやっていただけだしな。
もう目的も達したのに、無駄に力なんて使いたくもない」

ちらりと視線を上に向ければ、弱まっていた加護の力がそう掛からずに元の力を取り戻した。
用も済んだのに力を使い続けるなんて、本当に無駄な事だ。
普段の姿、雰囲気を取り戻したホールの中、さてやってきた相手の姿はと歩み寄る。
もちろん、そうすれば相手に自分の姿もはっきりと見えてくるだろう。
まぁ、ここまで来て、どちらの選択を選んだかは言うまでもないか。

ムメイ > 「あー……あー、そういうことか
 確かに下手打って迷惑掛ける奴はそこそこいるからな
 何やってたか、っつーのは野暮ってもんか」

あいつら頭悪い訳じゃねぇはずなんだけどなぁ、そんなぼやきがひとつ聞こえる
相手が無防備になったのを見れば、どちらを選んだかはよく分かった
次いだ言葉には笑いを浮かべて

「粋がってる餓鬼は結構居るからな
 偶には痛い目に逢った方が良い薬だろ
 そういう意味では、俺はお前さんに礼を言うべきだな」

こういえば彼女の感じた方でどちらだったのかは判るだろう
近づいてくる彼女を見ながら、徐々にその首が下がっていく訳だ

「おっと、そういや名乗ってなかったか
 俺はムメイ、一応は傭兵だが……平たく言えば何でも屋みたいなもんだ」

よろしくな、と気後れした様子は欠片も無く声をかける
はっきり見える姿にも、驚いた様子は無く
自分からも歩み寄りながら、笑いかける

なんていうか、『すっげえ面白そうなもの見つけた』と言うのが
ありありと判る笑顔だった

ミリーディア > 「そういう事だ、一応は加護の管理の一部を任されているのに、そうされては堪らないだろう?
最近は特に頻繁にやってくれたんでな…まぁ、そんなところさ」

やるのなら、王城の外でやって欲しいものだ…そんな物言いを付け足した。
そこまで聞けば、やっている事自体は問題視していないのが分かるだろう。

「………そうか、君は…いや、礼には及ばない。
君自身には、何の非があると言う訳ではないしな」

続く言葉で判断したか、どこか納得した様子を見せる。
後数歩の距離で足を止めれば、見上げるような形になり、そう伝えた。

「ムメイ…と、君だけに名乗らせてはいけないな。
儂はミリーディアだ、適当に研究をさせて貰っている立場だ」

相手の名に、なにやら思い出すような仕草。
気を取り直し名乗り返すと、こちらこそよろしく、と返しておいた。
ただ、見上げた事で見える相手の表情に、別の意味で視線を逸らしたくなったが。

ムメイ > 「確かに、おおっぴらに来られても対処に困るわな
 しばらく前にやってた祭りの頃から、ちいと騒がしかったのは把握しちゃいたが……まぁ、何にせよ暫くはおとなしくなるだろ」

まさかそこまで馬鹿やってねえだろうと思ってた、と言うのは本音
ヘマ打ちそうなやつ見たら取り敢えずシバく……もとい、止めてやるか等と思案しつつ

「そう言ってくれるなら助かるね
 非の是非はともかく、意図しねえ上での問題はちょいとな
 知っての通り一枚岩とは程遠いし、纏める気も無いし」

見上げる彼女に対し、こちらは軽く屈んで目線を下げる
それくらいの気遣いが出来る程度には「人間」として生活していた
そうして、相手の名前を聞いて――口角の吊り上がり方がより強くなった

「それに安心しろ、俺自身は事を構える気は無いぜ?
 つか、まともな人型取れるっつーのは想定してないと思うが」

お礼代わりに右手を上げると、一瞬だけ白骨化させた
しかも魔族の気配は消したまま……そんな器用な真似が出来る不死系の魔族など、そうはいまい
魔法はからきしなので、「それくらい」しか出来ないのだが

「お前さんの場合それも事実だろうけど、相当『遣う』だろ
 いや、そういう相手でしかも良い女となりゃ、なぁ?
 そりゃこうなるよ」

――で、これである
頭を撫でようと左手を伸ばす
ここまで『遣える』相手なら交友を持ちたい
あわよくばそのうち戦いたいと言うのが口に出さずとも物凄く判る態度

「時間に余裕があるなら、是非話を含めてお相手になって欲しいもんだが」

どうよ、なんて気安く問いかけてみた

ミリーディア > 「そうあって欲しいものだ、本当にな」

本当にな、を軽く強調。
今までの言葉や態度から、主に面倒だから、なんて理由であるのは分かるかもしれない。
それを止めてくれるなら、なんともありがたい話である。

「その点は人間も変わらんさ。
面白くもあり、面倒なところだ」

そこまで言って、軽く溜息と、肩を竦めてみせる。
名乗りに対する男の反応に、僅かに面倒そうな表情を浮かべた。
その手の相手が、どういった相手なのか…何と無く想像出来たからだ。

「そうだな、儂の聞いていた話とは違う。
もっとも、聞いた話と違う点が多いというのは、よくある話だ。
そう驚くようなものでもないさ」

変化の様子を見詰めながらも、そう言葉を紡ぐ。
どの種が、どんな事を出来るのか、まだまだ全てを解明し切ってはいない。
だから、何事も想定外である事を含め、考えておかねばならないのは基本である。
…知りたいと考えてしまうのは、仕方の無い事だが。

「本当に、君達というのは…守備範囲の広さには感心させられる。
この儂をも良い女と見るのだからな、困ったものだ。
本物の子供であるならば良いだろうが、そうでないと分かっているならば、それは止めた方が良いぞ?」

ちらりと伸びる手を見遣り、腕を組む。
別に撫でられて嫌な事でもないが、まず向けられた行為がそれなのが、何とも言えない。
相手が望む通りになるかどうか…それは、かなり疑問である。

「やれやれ…良い趣味とは言えないな?
そう思われても良いなら、どこかに案内して貰いたいところだ。
こんな何もないところでってのも、つまらないだろう?
もっとも…その向かう先も場所が場所ならば、趣味を疑うが」

もう一度だけホールを見渡し、しっかりと下に戻っている事を確認する。
そうした後に向ける言葉は、何だかんだ言って好きにしろ、と言わんばかりのものだった。
もっとも、こちらに決めろと言われても面倒で断るだろうが。
後は相手がどうするか次第、二人だけが知る事となるのか、それとも…

ムメイ > 「ま、どの程度判ってくれるかかね
 ……そこまで馬鹿じゃねえと信じたいが」

強くなってくれる可能性があるから生きていて欲しい
こちらの理由は「その程度」で、逆に言えばそれが限界なら
容赦なく屠るだけとも言う……見かけたら止めてやるか、と割合本気で思いつつ

「その辺は知性がありゃ、どれも変わらんのだろう
 ……面倒っつーか、それもまた世の中の摂理っつーか
 如何ともし難い部分だぁな」

侭ならないとはこのことだろう
そう思えば、自然とそんな言葉が出た
尤も、だから面白い。 と思ってしまう辺り、大分ズレている自覚はある

「いや、だって……流石にそっちの姿でここ来たら、色々拙いだろう
 絶対どっちかが終わるまでやるだろうし」

目的としては比武やらなにやらで、討伐戦がしたい訳ではないのだ
だから、時々に応じて姿を変える
人間でいう服装と一緒、少なくともそういう感覚である

そうして相手の言葉に手を引っ込めて

「ああ、いや。 ついな――こう、なんか撫でたくなったと言うか
 割と相手問わないからな、俺
 後、良い女だとは思うぜ? ……でなけりゃそこまで至れんよ」

見目通りの年齢ではないことは百も承知
ただまぁ、ついこういう時にやってしまうのだ
魔族相手でもこういう事をやる辺り、かなりの悪癖だった

「んじゃ、さっき見つけた部屋にでも
 酒あったし大丈夫だろう」

流石にエスコートを望まれれば断る程に野暮ではない
腕を組む相手にこっちだ、と案内する
連れて行った先がどこなのかは、二人だけが知るだろう

ご案内:「王都マグメール 王城」からムメイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」からミリーディアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」にコンスタンスさんが現れました。
コンスタンス > (良い子の王子様、お姫様ならば、もう夢の中に居るであろう時刻。
怪我をして、然もとっぷり日も暮れ落ちてから帰還した為、
幼少期には乳母をつとめてくれていた女中頭の女性に、恐ろしく叱られた。

言われなくともそうする心算だったが、『良い子で早く御休みなさい!』
などと言われベッドへ押し込まれる、というのは、何年ぶりだろうか。
心配をかけたのは悪かったと思っているし、そう、したかったのだが―――)

―――少しぐらい、なら、……未だ、夜中という程でも無いし。

(喉が渇いた、けれど今宵は何故か、枕元に水差しが無かった。
右の足首にぐるぐると巻かれた包帯が気にはなるものの、
ほんの少し、誰かに頼んで水を貰う程度のことならば、と、
手燭を携えてベッドから抜け出し、室内履きの儘で扉へ向かう。

そろ、と扉を薄く開き、顔だけを覗かせて廊下の様子を窺い。
窓から降り注ぐ月明かりのみに照らされた、静まり返った廊下へ、
先ずは、そっと声を投げかけようと。)

アネット、―――アネット。
何処か、其の辺りに居る……?

(先刻、己をベッドへ押し込んでいった女中頭の名を呼んで、辺りの気配に耳を澄ませ)

ご案内:「王都マグメール 王城」にアダンさんが現れました。
アダン > まともな生活を送る人間ならば既に眠りについている時刻。
王城内もしんと静まり帰っている。
無論警備の衛兵などは見回りを行っているものの、その数も少なくなり始めている頃。
アダンは一人、王城の中を歩いていた。
彼は名門貴族の男である。そしてこの国に巣食う腐敗した貴族の一人でもある。

「今夜はなかなか面白いものが見えたな」

外から差し込む月明かりに照らされつつ、一人そう呟いた。
先ごろまで、王城地下での退廃的な宴に参加していたのである。
目的としては今後の陰謀策謀についての仲間内の相談といったところであった。
その宴での催しに満足した後、自らが懇意にしている王子の部屋に訪れ今後の相談をした。
そして今、王族の部屋があるフロアを歩いていた。そのまま何もなければ屋敷に戻る算段であったが――

「……おや、これは姫様。このような時刻に如何なされましたか。
 何か御用がありましたらお取次いたしますが」

不意に、少女の声が廊下に響いた。
そうすれば、アダンはわざと靴音を高く響かせつつ、その声の方へと向かった。
そして遭遇したのが、扉から顔を伺わせるカルネテル家の王女であった。
アダンは彼女に出会うと、恭しく一礼して見せた。
相手がこちらのことや、こちらの黒い噂のことを知っているかどうかは知らないが、アダンは王女のことを知っていた。
相手の顔と名前を知っているという程度のものではあったが。

コンスタンス > (―――如何やら女中頭の彼女もまた、今は自室に戻っているらしい。
代わりに己の声に応えたのは、馴染みの無い男の声であり。

程無く、月明かりの中に現れた人物を視認すると、恐らく己の眉間には、
微かな縦皺が浮かんだ筈。)

―――貴方は、確か……フェリサ家の。
貴方こそ、こんな時間にこんな所で、一体何をなさっているのかしら。

(異母兄様だか、叔父様だかと、また悪巧みでもしていたのでしょう。

―――そんな台詞は、流石に胸の奥へ飲み込んだが。

そも、挨拶程度の面識はあるが、己は此の男を苦手としていた。
幼い頃から、先ず母が此の男を嫌っていたから、というのが第一の理由。
そして、長じて色々な情報を聞きかじるに及べば―――
嫌悪交じりの警戒を抱くには充分過ぎる、悪名高き相手であった。)

……まあ、良いでしょう。
結構です、貴方をお使い立てなどしたら、きっと私が叱られてしまうわ。
もう休みます、……貴方も、早く戻られると良いわ。
此の辺りに長居しては、要らぬ誤解を生みますからね。

(水はもう、諦めた方が良いだろう。
此の男に何かを頼む、というのは如何考えても得策と思えず、
其れだけ言うと男の動向も見極めず、半開きの扉を閉ざしてしまおうとした。)

アダン > アダンを見た王女、コンスタンスの眉間に皺が寄る。
明らかに好かれていないという様子であった。無論、そんなことはアダンとしても百も承知というもの。
彼の噂を知る者ならば、彼を好くはずもないからだ。
しかし、そんな表情の彼女を見ても、アダンは涼しい顔をしていた。

「はい、アダン・フェリサでございます。王女殿下。お久しゅうございます。
 王城での宴いらいでしたでしょうか……。
 ええ、今宵は今後の国政について、ご兄弟の方々と少しお話をさせていただいておりまして。
 いつの間にやらこのような時間になっておりましてな」

このような時間に何を、と問われればペラペラと言葉を述べ立てる。
実際にカルネテル王家の者との会合であったため、述べたことは一応事実ではある。
その実態は、彼女が想像するように陰謀の類ではあったが。
カルネテル王家の彼女にも関係のないことではない、とそう言いたげな眼差しを向ける。

「……お待ち下さい、王女殿下。
 今日ここで再開したのも何かのご縁でしょう。ご用向きなら私が聞きます故。
 それに、王女殿下のお耳に入れたいこともございまして。殿下の今後に関わるお話です。
 今は人目もございません故、是非にと思うのですが」

王女はこちらの話も聞かないままにそのまま扉を閉じ、部屋へと戻ろうとしていた。
だが、閉じようとした扉をアダンの手が掴み、再び開こうとする。
これはかなり無礼な行動ではあるものの、アダンは気にした様子はない。
そして放ったのは、彼女の今後という意味深な言葉だ。
王族に対しての今後となれば、王位にも関わることとも取れるだろう。

コンスタンス > (もっと強かな王族であったなら、そもそも嫌悪を顔には出さないだろう。
己は未だ、そういう意味では修業不足、といったところか。

対して、立て板に水、と評すべきか、己から尋ねたとは言え、良く舌の回る男だった。
『お話』とやらがどうせ、碌でも無い話題なのは確実であったし、
此の男とは親しくする心算も無い己はは、さっさと部屋に引き上げようとしたのだが―――)

っ………!
貴方、何を……、

(閉じようとした扉に、男が素早く手を掛けた。
此の夜更けに、仮にも王女たる己の私室へ入り込もうというのか、
気色ばんで男を睨み据えたけれど、女の細腕では攻防にもならず、
扉は大きく、男が入り込むのも容易な幅まで開かれる。

一歩、無意識に後退りながら、下がれ、と言ってやる心算で開いた唇が、
男の言葉のある部分に反応して凍りつく。

『今後』―――己が女の身でありながら、身の程知らずな野心を抱いている、とは、
恐らく男の耳にも入っている情報だろう。
其れに関する話だと言われれば―――其れでも暫し、逡巡する間をあけてから)

―――――良いわ、どうぞ中へ。
でも話が終わったら、直ぐに出て行って頂戴。

(廊下で話し込めば、其れは如何しても人目につく。
苦肉の策として、男を部屋へ招じ入れることにしたのだが、
―――視線は常に、警戒を露わに男の動向を見張り続けている。
言葉で釘を刺すことも忘れず、部屋の一隅へ設えられた、
ささやかな応接セットへ、と視線で促すと、ほんの一瞬、
男に背を向けて、慎重に扉を閉ざし、改めて対峙しようか、と)

アダン > アダンの『今後』という言葉は、彼女の口から出るはずだった言葉を思いとどまらせたようだ。
カルネテル王家の王子の一人を背景にして、アダンはこれまで様々な陰謀を行ってきた。
それは王族に対しても例外ではない。彼らの陰謀のために凋落したもの、そして奴隷の身分にまで落とされたものすら存在する。
おそらくは、そのことも権力志向の強い王族や貴族なら容易に知りうることだ。

アダンが匂わせた『今後』というのは、彼女の野心についてである。
母親の身分もそう高くない彼女では、カルネテル王家といえど栄達の道からは遠い。
ある意味身の程知らずとも言われかねない野心は、アダンのような男に食いつかれればかなり面倒なことになるだろう。
アダンはそれを知っているぞというような、揺さぶりをかけた。

「お招きに感謝いたします、王女殿下。それでは失礼致します。
 ええ、勿論。ご用件が済みましたらばすぐにでも退散いたしましょう――」

その結果、アダンは王女の私室へと通されたのだった。
部屋に入る際の言葉は虚偽。すぐさま帰るつもりなどはなかった。
指し示された応接セットの方へとアダンは歩みを進める。
彼女が扉を閉めようとこちらに背を向ければ、アダンは下卑た嗤いを浮かべていた。

ひとまず椅子に腰掛け、アダンは再び口を開く。

「それではお話いたしましょう。
 近頃、我々の間で噂が立っておりましてな。
 ある王女が王位、あるいは栄達の道に向けて動き始めていると。
 ……コンスタンス王女殿下、率直にお尋ねいたしましょう。
 貴女は玉座に登らんとせられていらっしゃるのでしょうか。
 いえ、事実を私が把握しているわけではありません。ただそう言った噂がありましてな。
 王家の一部で動きがあるようでございます……私も、そのことで今日、ご兄弟から会合を持ちかけられたのです」

深刻な表情を作って見せながら、そんなことを彼女に述べる。
実際にそういった話が持ち上がっていたわけではないものの、アダンは虚偽をいかにも事実であるかのように語る。