2017/06/01 のログ
■コーデル > 「本日は、未来ある聖職者に、素晴らしい方々の後見を得ることができ、心から感謝いたします。それでは、私はこれで」
貴族たちと談笑をしているうちに、パーティーも進んでいき、結果修道女たちはそれぞれの後見人を得ることができた。
こうして、青年と権力者へのつながりを強化していくことができ、
また彼女たちは神聖都市の教会へと送り込まれていき、青年の思う通りに人々を堕落させてくれることだろう。
権力者たちも疎らになり、去っていく者にはまたの機会に、と見送っていく。
そして、連れ立っていた修道女たちを、王城へと置いたまま、青年は一人王城の廊下を歩いていく。
「……さて、荒事は不得手ですが、どうしたものですかね」
窓から見上げる月は、欠けることのない満月ながら、禍々しい青さを湛えているように見える。
外で待っている馬車に乗り込みながら、青年は独りごとのように小さく呟く。
馬車に揺られながら自らの管理する教会に戻れば、また敬虔な信徒を騙り、
人を堕落させるための尖兵の養成に尽力することになるのだろう。
ご案内:「王都マグメール 王城」からコーデルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」にルークさんが現れました。
■ルーク > 初夏を迎えた庭園には、色鮮やかな花々が咲き乱れ蔦植物が昼には太陽の光に濃い緑の影を作り出す。
そんな庭園も、夜になれば静けさと月明かりに包まれる。
昼の汗ばむような暑さも、夜になれば少しだけひやりとした風が吹いていく。
庭園を望む回廊は、燭台の炎が揺らめいて足元を照らす。
そんな中を、石の硬い床の上でも足音もたてずにルークは歩いていた。
その腕には、金の細工の施された黒のトレイがあり、そのトレイには重ねられた羊皮紙とトレイと同じ装飾の施された文鎮が乗せられている。
それは先日、カルネテル王家とフェルザ家にて取り交わされた取引によって齎された九頭龍山脈の麓の集落にほど近い鉱山の正式な調査書だった。
「………。」
庭園を飾る見事な花や、月明かりに気を取られる事もなく琥珀の瞳はただ前を見て一定の速度で歩みを進める。
不意にほんの瞬乾の間だけ、琥珀の瞳が他人には感じ取れないほどの微かな感情の揺れを浮かべる。
微かな風に水面が揺らぐかのような変化は、すぐに消えて歩みの速度は変わることはない。
しかし、回廊を歩むルークの足がピタリと止まった。
そして、微かに回廊に響くのはカツン、カツンとゆっくりとしかししっかりとした足音。
まだ少し先から訪れる気配に、その姿を視認するまでもなくスっとルークは回廊の脇へと寄ると、深く礼をとる。
静けさの満ちる空間には、ある種の緊張感に包まれていく。
それはその人物の発する気配、威厳ともいえるものから生まれる空気。
カツン、カツンと次第に足音ははっきりと耳に届くようになりその姿が視認できるまでに近づいてくる。
その間もずっと、ルークは頭を下げて微動だにしない。
そこに姿を現したのは、二人ほどの従者を連れた人物。
ルーアッハ・グラウ・カルネテル。
先代の第零師団の長であり、祟り神として畏れを抱かれた存在。
今は、その長の座も祟り神としての名も養子であるルークの主へと引き継がれているが、他人に畏れを抱かせる気配には何一つ衰えはない。
「………。」
ルーアッハは、歩みも止めず、視線も動かさないままに頭を下げるルークの傍を通り過ぎていく。
まるでそこに、最初から何も存在しないかのように。
■ルーク > じっと瞳は、硬い石の床へとただ注がれ目の前を通り過ぎていく足音と気配を感じる。
じわり、と手に汗が滲むように感じるのは――錯覚だ。
畏怖というよりは、後ろめたさのような心地。
そして、モノとしてさえ存在していないかのように彼の瞳に映ることのない自身に感じるのは――…
彼が自分に興味を抱くことがないのは、仕えていた時から同じはずで、モノとしての、駒としての価値しかなかった。
そして、今は、モノとしても駒としても価値はない存在と、そう認識されているのだと理解する。
痛みはない、悲しさもない。
けれど、ルークにとって絶対的な創造主であった彼という存在は潜在意識に強く刻み込まれていて、存在を否定される事に息苦しさを感じてしまう。
それは、揺れる心というものを獲得したことによって生じる不安という感覚。
その感覚に自覚もなく、表面にそれが現れることもないが確かに胸へと刻まれる。
ご案内:「王都マグメール 王城」にイスカ・レナイトさんが現れました。
■イスカ・レナイト > 「おー、おー、大した強面だ。ありゃ人を殺せる顔だな、なるほど祟り神とは上手いこと言った」
という放言は、少なくとも当人に聞こえぬよう、十分に距離が開いてからの言葉であった。
ルーアッハが歩いて来たのと方向は同じ――タイミングとしては、何分か送れて。
いくらか声を抑えつつも、なんとも気楽な調子で述べながら歩いて来る女があった。
貴族のようには見えない――何せ鎧姿だ。戦場にある方が似合いの格好だが、事実、職業は傭兵のようなもの。
その女はまるで、日々の天気を語るような気安さで言った。
「な、ありゃ息が詰まるよな。あのおつき二人も大変なこった」
呼びかけもせず、親しい知己でもないながら、その女は、ルーアッハを見送った彼女へ声を掛けた。
「ああいう生き方してると早死にする気がするがねー、人生もっと楽しもうぜほんと」
などと言ってからからと笑いながら、馴れ馴れしく隣へ立とうとする女。
酒場などに行けばこういう人間はまま見られるが、少なくともこの女、酔っている様子は無い。
■ルーク > ルーアッハがルークの前を通り過ぎ、その背中が回廊の奥へと消えていって暫くした後もルークは礼をとったままの姿勢でいた。
その状態で、ルーアッハが来たのと同じ方向からくる人の気配。
そして、どこか声のトーンを落とすようにしながらも気楽な女性の声が聞こえてくる。
「………。」
すっと姿勢を戻すルークへと掛けられる声。視界の端に映るのは黒い鎧を身につけた姿だった。
貴族には見えず、王城の警備兵という風にも見えない傭兵の風情。
その姿に見覚えはない。
――というよりも、そもそもこんなふうに声をかけてくるような知り合いというものはルークにはいない。
「……口を慎まれますように。不敬です。」
回廊の端へと寄っているルークの隣へと近寄ってくる彼女を、ちらりと感情の篭らない琥珀の瞳が見据えると少しの間があったあと、同じく平坦な声がそう告げる。
酔っている風でもなく、このように声をかけられる事に対してどのように反応したものかと迷ったのが伺えてしまうかもしれない。
■イスカ・レナイト > 「不敬ねぇ。そうは言っても私の上役じゃあないし、私の恩人でもない。
あ、ひょっとしてお嬢さんの上役さんだったりする? だったらすまんね、悪意は無いんだ。
無いんだが、まあちょっと口が災いの元になりやすいだけでね」
さして悪びれる様子も無く、そして距離を取る様子も無い。
無遠慮に距離を詰めた女は、しかしその目だけは案外に静かに、真剣な色を帯びている。
ルークの顔へその視線が向けられた時間は短かったが、その間に何を見たものか――
「しかしお嬢さん、退屈そうだね。どうだい一晩ばかり私に付き合うってのは」
――その真剣な目で、吐き出す言葉はつまりナンパであった。
「いやなに、お仕事の最中だって言うならお手伝いくらいはするよ、なんと言っても戦は得意だ。
……あっ、書類仕事だったらごめん。字は読み書きできるが癖字が酷くてね。
なんにせよ退屈な時間は短いほうがいい、短い人生は楽しく生きた方がいいだろ?」
相手が多弁な性質ではない、と見たからか、女は些か饒舌になる。
初対面の相手へ対し、こうも情熱を抱けるというのは、遊び人に分類される人種であるのか。
だがどうも、気安い笑みとは裏腹に、やはり目だけは真剣なのである。
■ルーク > 「貴方が王族でないならば、身分制度のあるこの国において、身分による上下は存在し不敬となります。」
相手が王族である可能性も、微かながらに存在する。
王族という身分を持ちながら、冒険者や騎士といった立場にある者も数多く存在する。
しかし、たとえ王族であったとしても王族間のヒエラルキーというものは存在しており、去っていった彼に対等となる立場であれば、見覚えもあるだろう。
無遠慮に詰められる距離に、すっと横にずれながら距離をとりつつ悪びれない様子に、そう言葉を紡ぐ。
笑みを浮かべながらも、真剣な色を帯びる瞳。
そして、その真剣な目で告げられた言葉は――俗に言うナンパというものであった。
「………。」
数回の瞬乾の間の沈黙が流れる。
あまり人と関わった経験のないルークにとって、少々理解不能な相手のようだ。
「…退屈もしておりませんし、手伝いも必要としておりません。貴方にとって退屈な事でも、私にとっては大切な事柄です。そして、貴方にとって楽しい事柄でも私にとってはそうでないということもあります。」
饒舌に語る女性へと、やはりルークの表情に変化は見られない。
淡々と、しかし生真面目に女性の言葉に返答しながらもやはり対応に少々困ってしまう。
一体目の前の人物は何なのだろう、と自分に声をかける理由も動機も理解できずに。
■イスカ・レナイト > 「身分ね――その身分のおかげで、この国がさんざんなことになってるのは分かってるだろうに。
本当に国の為なんて思う人間がいるなら、悪いことは言わない、王族の首を全て落とせばいいのさ。
だいたいベッドに引きずり込めば、王族も市民もおんなじ体だよ、お嬢さん」
仮にも王城の中で吐くにしては、過激に過ぎる主義主張。
だがしかし、それを実行に移す類の生き物かと問えば――そういうことも無いのだろう。
この女はのんびりと、享楽のために構えている。
深夜の王城に居るのも、ただ娯楽の為。愉快な出会いを探す為なのだ。
「しかしお嬢さん、固いね。そんなノーノーばっかりじゃ肩が凝るよ。
少なくとも私には、廊下で頭を下げるのが大切とは思えない。
少しくらいおしゃべりに興じたって良いじゃないか、ね?」
だが――どうも今夜の出会いは、普段と勝手が違うようだった。
笑われるか嫌悪されるか侮蔑されるか、その類ならばまだ希望が持てる。しかし無関心はどうにもならぬ。
まるで自分が石ころになって道端に放り出されたような、そんな心地であった。
「そうかい分かった、難しいお姫様だ、じゃあこうしよう。
お嬢さんにとって〝楽しい事柄〟ってのはなんだい、それに向かって善処しようじゃないか」
言葉で問いながら、ぐいと首を突き出すように相手の顔を覗き見る。
あくまで距離感は近いが――これも拒絶されるなら、それ以上は近付くまい。
■ルーク > 「………。それでは、国としての機能に支障がでます。……不敬だと、言いました。三度目はありません。」
彼女の主義主張。
それは確かに一理あるのだろう。
だからこそ、ルークの主は国を維持するための楔となる道を選んだ。
しかし、続く言葉はそんな主を侮辱されたように感じたのだろう。
じわりと感情の篭らなかったルークの声に、ほんの微かに苛立ちが混じる。
「見ず知らずの相手の誘いに応じる筈もないでしょう。幼い子供でも理解のできることです。
先程も言ったとおり、私にとっては大切なことです。そして、大切な仕事の最中ですので、おしゃべりに興じる暇もありません。」
他人に興味をもつほど、芽生えたばかりの自我は外へは向いていないルークにとって、初対面の相手に興味を抱くのは難しかった。
相手が言う事も、理解できないというように言葉は撥ね付けるものとなってしまう。
「――………。」
ルークにとっての『楽しい事柄』を問われて、ぐいとのぞき見られる琥珀の瞳が数度瞬乾を繰り返す。
具体的に何かと問われれば、上手く浮かんでは来ない。
いや、浮かびはする。それは、唯一ルークが心を向ける主とのほんの些細な会話であったり、一緒に過ごす時間であったり。
しかし、それを上手く言葉にできない。
「主人にお仕えしている事です。」
言葉で表すなら、こうだろうかと覗き込む相手の顔をまっすぐに見返して楽しい事柄というものを口にする。