2017/06/02 のログ
イスカ・レナイト > 「そうか、そいつは失礼した。仕事の最中にすまなかったね、もう邪魔はしないよ」

これ以上は受け入れられないだろう――と判断したのか、女はルークの傍から離れ、普通に会話する際の距離を確保する。
よく動く舌の動きを止めて一言、言葉は軽いが深く頭を下げて言った。
やり込めたいのでも問い詰めたいのでもない、話したかった。だがそれが望まれていないのなら――相手に背を向けようとした時だった。

「……主人ってのは、今歩いていったあれかい? それとも別な、どこかの誰か?」

ルーアッハの去っていった方角を、顎で示しながら、改めて正面に向き直る。
感情の見えない相手の目を、これ以上見続けるのも辛いのか、少し視線を逸らしながら女は言った。

「……別に、深い意味は無いさ。どうもお嬢さんが、なんだか寂しげな雰囲気があったから声を掛けただけだ。
 楽しいってあんたが言うならきっとそうなんだろう。私がとやかく言うことでもないよ」

ルーク > 「………。」

近すぎる距離に近づけられていた顔が遠ざかり、普通に会話する距離になると素直に謝罪の言葉を紡がれるのに相手の行動の予測がつかずに困惑してしまう。
ただ、その表情の変化は小さすぎて他人に伝わるほど表面に現れづらい。

「いいえ、あのお方は以前私がお仕えしていた方です。今は別の方にお仕えしています。」

背を向けかけた彼女が、ルークの言葉に動きを止めてルーアッハが去っていった方を示すのに、首を振った。
モノですらなくなった、存在すらしていないかのように通り過ぎていくルーアッハの気配を思い出すと微かに生じた胸の中の不安が蘇ってくるような気がする。
けれど、それよりも心を与えてくれた今の主を思い出せば温かな気持ちが不安を覆い隠してくれる気がする。
彼女が視線を逸らすルークの表情が、ほんの微かに柔らかになるのは、その気持ちが表面に微かに滲み出たからで。

「寂しげな雰囲気ですか…。楽しい事柄というのが、具体的に何を言うのかわかりませんが、嬉しいが胸の内に溢れてくることは、きっと楽しいというのでしょう。ならば、主人にお仕えしている事が楽しい事柄なのだと、思います。」

寂しげに見えたと、そう言われるのに微かに首を傾げながら問い返す。
寂しいと思った自覚はないようで。
そして続くのは、不器用な言葉で相手が問うた楽しい事柄だと感じる根拠を告げる。

イスカ・レナイト > 「別か……まあ、そうだろうね。楽しい宮仕えって雰囲気にゃ見えないもんな、あの祟り神」

部下に頭を下げさせ一瞥もしない、そういう人間は気に食わない――つまるところ、この女の考えはそういうものだ。
相手の主人が別な人間であると分かれば、良い転職ができたものだと内心で祝いながら、また一歩、距離を開ける。
気付けば月の位置も随分と動いた。夜空を見て、随分な時間、相手の仕事を邪魔してしまっていたと気付く。

「悪かったね、次はせめて酒か何か持って来るさ。
 酔いが回ってりゃもう少し、こっちも気の利いたことを言えるだろうよ」

どうも今夜は、言葉の全てが空回りする。きっと素面でいるからだ。
ガラにもなく他人を心配するのでなく、はなから口説きにかかればよかった――などと反省しつつ、女は夜の王城に消えて行く。

ご案内:「王都マグメール 王城」からイスカ・レナイトさんが去りました。
ルーク > 「………。」

ルーアッハに仕えている時は、楽しい、楽しくないなど感じたこともないが敢えてそれを言う必要もないだろう。
一歩また距離をあけた彼女は、ルークに言葉を残しながら夜の王城へと消えていく。
その背中を暫く見送った後、微かに吐息を零す。

ルーク > そして再び回廊を歩き出せば、そこからルークもまた姿を消していく。
ご案内:「王都マグメール 王城」からルークさんが去りました。