2016/10/19 のログ
■フォーク > 「とはいえ……伝説や御伽噺には何かしらの元ネタがあるものだからな。
その剣が元ネタっていうのなら、ありえない話じゃねえ」
あながち少女の言うことも正しいのではないか。今までの会話からあまり冗談をいう性格には思えないからだ。
「そういえばガキの頃、シェンヤンの東にある小さな島で熊と取っ組み合いをしたことがあるんだよ。
大人になってまた行ってみたら、なぜかその土地の伝承になってしまってなあ」
ふと、そんなことを思い出した。魔剣ケラウノスの伝説は、それのビッグスケール版なのかもしれない。
「戦場で博打はダメだよ、隊長さん」
少女の駒の動きから、どのような戦術を用いようとしているか見抜いた。
男は奇策は用いるが、戦場で危ない橋は渡らない。外せば数多くの将兵が死ぬからだ。
この男は『誰よりも戦場で死者を出さない』指揮官なのだ。
この一戦、少女にはたっぷりと悩み、迷ってもらう。その葛藤や苦悩が優秀な将を育てるのだ。
そのために、わざわざ執拗に少女に陣の綻びを削り取るように駒を進めていく。
少女の王駒が丸裸になるまで、進軍は続いた。
■クラーラ > 「そうだね…。ぇ、熊と……? あはっ、それは伝説にもなるかも。 素手でなら…普通はしないし、出来ないから」
どう考えても、普通なら素手で熊と渡り合うなんて不可能に近い。
自分とて魔法が使えても、剣術と合わさってこそなので倒せども無傷とは行かないだろう。
それを幼い頃にやったというのなら、尚の事凄いことだ。
おかしそうにクスクスと笑いながらも、手は動き続ける。
「とはいっても……っ」
自分であれば、斥候ぐらい一瞬で始末できてしまう。
それが出来ない戦術という盤面のもどかしさに、不慣れさは更に露呈していく。
立て直そうとすれば、要を突かれ、陣を変えても弱いところを突っつかれる。
教本通りの綺麗な動きをしながらも、じわじわと追い詰められていき、チェックメイトされれば、苦笑いと共に無念さのある小さなため息を零す。
「……強いね、負けた」
自分にはここまで振り回す戦術はなく、素直に負けを認めた。
■フォーク > 「山で見つけた洞穴で金塊を発見してな。そこに住んでいた熊と取っ組み合いよ。
素っ裸になるくらいの激闘よ。でもその後、熊と通じ合ってな。乗馬の稽古とかさせてもらって……」
土地の伝承では、大人になった自分はえらい軍人の部下になり悪い妖魔を成敗したそうだ。
フリーランスの傭兵にとっては、実にうらやましい話である。
「お前さん、きっとタイマンだったら俺が足下に及ばないくらい強いんだろうねえ……」
軍人が用兵に馴れていない理由はいくつかある。一番多い理由は一つは実戦経験が少ないこと。
そして一番ありえない理由は本人が戦況を一変させる程に強いので兵を用いる必要がないことである。
魔剣が本物なら、彼女は後者ということだ。
少女が敗北を認めた。それでも最後は王駒を貰う。それがルールだからだ。
「なんとか、俺の勝ちさ」
そして机に両手をついて、大きく前のめりになって少女の顔を覗きこもう。
「町に美味い紅茶を飲ませるカフェがあるんだ。今度、一緒に飲みにいこうぜ?」
それが男が買った場合の『条件』だそうだ。
■クラーラ > 自分とは異なり、まるで野生に生きるような物語に楽しげに微笑んでいた。
幼い頃に自由がなかったわけではないけれど、そんな破天荒が出来た彼が少しだけ羨ましく思うほど、自分は家という檻であり、揺り籠のなかで育ったと思わされる。
「最近になってからはそれなりに…」
実際は冴え渡る剣術と、焼き付く雷光の魔術の二本刀を備えた優秀な魔法剣士といったところだが、謙遜するのは傲り知らずだから。
魔剣に認められるであろう気質を見せつつ戦うも、最後は王将が奪われるのを見る他なかった。
彼がこちらへと顔を近づけて顔を覗き込めば、少しビクッとして身を後ろに引いてしまう。
「……それ、貴方に…メリットが有るの?」
そんなことでいいのだろうかとすら、思うほど甘い条件。
自分は嬉しいことだが、彼がわざわざ自分を吊れて喫茶店に来たがる理由が分からず、キョトンとしたまま軽く首を傾げた。
■フォーク > 少女は実に楽しそうに笑う。そんなに男の昔話が気に入ったのだろうか。
その手の逸話は山ほどあるので、今度また教えてやろうと思った。
男はいろんなことをしてきたのだ。良いことも、悪いことも。
「もし、あんたとタイマンしなくちゃいけない時は、喧嘩の前に決着を付けることにするよ」
男は笑いながら、駒を片付け始めた。
まともにやって勝てないなら、まともじゃない方法を使う。
弱みに握る、病気にする、喧嘩の場に出られないありとあらゆる手段を用いる。
勝つために、軽蔑されるような戦術まで用いる。これが名誉にこだわらない傭兵の戦術だ。
「メリットは大ありさ……一番のメリットは、あんた綺麗だからさ。男ならデートしたいじゃん?」
にやり、と男は白い歯を見せる。
少女は自分の魅力に気づいていないのかもしれない。ならば教えてやるのが世の情けだ。
と、その前にだ。
「いつまでもお前さんを隊長さんと呼ぶのもな……なんて呼べばいい?」
■クラーラ > 「喧嘩の前に……? ぁ、喧嘩しなくていいようにするとか」
少しばかり考える様子を見せて口にしたのは、少しだけ違う答え。
彼が考えるような、悪どい手段は浮かばないが、元になっている誰かを倒してしまうとか、そもそも戦わなくていいようにしてしまうとか、回避する方法のことは浮かぶらしい。
そして、メリットの答えが紡がれれば…変わらぬ澄まし顔だったのが、数秒ほど遅れてから一気に頬が赤く染まる。
高鳴る心音と共に脳内は軽くパニックに陥り、言葉を紡げぬ唇が、震えるように開閉を繰り返してしまう。
更に、そんなことないと言いたげに頭を振って、視線をそらしていく。
同時に一瞬だけ過る死別した恋人の記憶が、ギリギリと心を締め付けて痛みが走っていた。
「……クラーラ、だよ」
彼の問いに、頬の赤みが引かぬままチラリと瞳だけ向けて見やり、それからすぐに反らしてしまう。
■フォーク > 「ま、そういうことだな」
男は少女に頷く。とある高名な軍人がこんなことを言っていた。
最強の戦術は、自分を殺しに来た相手と友になることだ、と。
男にはなかった発想だし、おそらくできないだろう。その域に達するには、男はまだ若すぎる。
(かわいいところ、あるじゃないの)
顔を赤らめる少女を見て、男は満足げに上半身を引いた。
厳粛な王城の一室でナンパをする。これぞ奇想天外の奇策であった。
「よーし、クラーラ。絶対だからな?」
忘れるなよ、と念を押せば男は椅子から立ち上がった。
「じゃ、そろそろ戻るは。後方進軍の件に関しては、担当の人とまた今度話すことにするよ」
今日はいい日だった。嬉しそうに笑う男である。
■クラーラ > 「なるほど…それは、ちょっとむずかしい」
根っこから立つというのは、言い得て難しいこと。
見た目とは裏腹に、繊細だったり、緻密な作戦が取れるタイプなのかなと彼を見ながら、人は見た目によらないなんて思いつつ、感慨深く頷く。
「ぅ……うん、わかった」
忘れないでおくと、小さく頷く合間も真っ赤なまま。
ここまで面と向かってナンパされたことはなく、嬉しい半面心も痛む複雑な心境。
それでも、悪い人ではないと思うからこそ、彼の申し出に答えることにした。
「わかった……担当の人に伝えておくね。こちらこそ、戦術のこと、教えてくれてありがとう」
あんな奇策は中々知ることはない情報で、お礼を告げる。
立ち上がった彼を笑みのまま、軽く手を降って見送ると、部屋の中には紅茶の心地よい香りが残っていた。
ご案内:「王都マグメール 王城 練兵小隊執務室」からフォークさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 練兵小隊執務室」からクラーラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」にクラーラさんが現れました。
■クラーラ > この国は少し緊張感があったほうがいいと思う。
そんなことを思いながら、誘われたパーティーから抜け出し、冷たくなった風の吹き込むバルコニーで黄昏れていた。
第7師団は壊滅状態、砦の情勢は変わらず不安定。
一歩間違えれば戦争がすぐそこにあるというのに…おまけにシェンヤンも嫌な動きを見せる。
自分はただ兵士を育てるだけだけれど、ここまで脳天気にいられるほどではない。
「……名があるからって、ね」
雷鳴と二つ名を授かって数年経つものの、名前だけで敵は倒れてくれない。
呼び出した貴族だか王族に連れられ、有望な騎士がいれば安泰だの、問題ないだの宣う彼等は、一度砦を見てくればいい。
憤慨しそうになるのをぐっとこらえて、気分が悪いからと夜風に当たりに逃げたのが今のこと。
久しぶりに王都に戻れば、貴族やら王族やらのくだらない騒ぎに巻き込まれ、溜まるフラストレーションに、呆れた深い溜息を零し、手すりに肘をつき、顎を乗せて夜空を眺めていた。
ご案内:「王都マグメール 王城」にフォークさんが現れました。
■フォーク > 「浮かない顔してどうしたい? 月はこんなに綺麗なのによ」
バルコニーの影から少女に呼びかける。
少女が振り向けば、ゆっくりと姿を現そう。
いつぞやと違って、今日の男は着ているものが違う。まるで貴族の子弟がきているような立派な服だ。
なぜ、この男がこんな立派な服を着てパーティ会場にいるのか。それは後で明らかになる!!
「よう、クラーラ。この前ぶりだな」
ひょいっと手を挙げて、少女に近づいていく。少女と並ぶようにバルコニーに肘を置こう。
無精髭もそって、髪も整えている。こうすれば多少は男前も上がるというものである。
■クラーラ > 「……?」
ふと掛けられた言葉に振り返ると、そこには以前執務室を訪れた大男の姿があった。
何時もと違う貴族やらが好みそうな服装に、髭もなく、整った髪型と綺麗になった姿を確かめると、唐突な変化に瞳を瞬かせ、無言のまま少し驚いている。
「この間ぶりだね、そっちこそ……何でこんなところに?」
破天荒な生活を続ける彼が、こんな貴族や王族のくだらない騒ぎに顔を出すとは思えず、想定外の遭遇となった。
その理由を問いかけながら彼が傍に来ると少しだけ、身体が強張る。
男性との距離が近いだけでも、やはり過去の記憶が過るもので、視線は自然と月夜に向かった。
■フォーク > ここで1時間前からのフォークくんの行動を箇条書きで説明しよう。
・パーティが行われるというのでタダ飯狙いで参加しようとしたけど招待状がないので門前払いを食らう。
・仕方がないので会場の広い庭に忍び込み、自分と同じくらいの体格の貴族を探す。
・獲物を気絶させて草むらに隠し、服と招待状を頂戴して改めて正式にパーティに参加をする。
・パーティの食事をもりもり食べていたら、少女を発見したので、ちょっとカッコイイ登場の仕方を演出してみた。
「……ま、俺も顔が広い方なんでね」
いけしゃあしゃあとクールに微笑むのであった。
月を見上げる少女の横顔をじっと眺め、
「退屈そうだな」
と、訊いてみよう。
たしかにパーティの内容は少女にとってあまり愉しい場ではないだろうな、と思った。
政治の匂いがプンプンとする。男は嫌いではないが、純粋な軍人にはあまり好ましい場ではなかろう。
■クラーラ > 彼がここに現れた理由、単純にタダ飯を食うためとは言え……ここらの貴族に躊躇いなく暴力を振るうという答えに至った思考になんて気づくこともない。
顔が広いと言われれば、そうなんだと思いつつ、どこかの貴族の護衛にくっつけられたのだろうかなんて考える。
「退屈……というより、ちゃんと現状がわかってるのかなって。第7師団は壊滅状態、他の師団があるとは言え、あそこは魔族専門だったらしいから…タナールは辛うじて取り合いだけど、ちょっとでも均衡が崩れたら、ここだってティルヒアみたいになるのに」
それなのにこんな酒と食事にうつつを抜かして騒ぐのは、最前線で頑張る教え子たちに失礼だとすら思う。
ほんの少し、こんな輩のために働くことがくだらなく思えるほど。
小さくため息を零すと、再び彼へと視線を戻す。
「貴方だって……仕事でなければこんなところ、こないでしょ?」
彼もここでゆっくり出来るような質ではないと思い、苦笑いを浮かべて問い返す。
■フォーク > この男、目的のためなら手段を選ばない気質を持っている。たまに手段のために目的を忘れることもあった。
「わかっている人もいる……とは思うが、たとえ一つの師団が潰れても現状は優勢だ。
本当に連中の尻に火がつくのは、この城が落城寸前まで陥るまでだろうさ」
この会場にいる輩の中で、戦場の薫りを嗅いだことがある者がどれだけいるだろう。
武と智を極限にまで振り絞り、命を奪い合う。一度の衝突で数多の命が消えていく。それが戦だ。
一度でも戦場に立ったことがあるならば、歯を見せてパーティ会場をうろつけるわけがない。
「はは、それもそうだな……」
月の高さで、現在の時間を推し量る。
そろそろ、草むらに隠した貴族が目を覚まして騒ぎが起こる頃合いだ。
「なあ、クラーラ。この会場を抜け出して、すぐそこの王立公園でも歩いてみないか?」
少女もつまらなそうな顔をしている。ならば救ってやるのが男前の仕事だ。
会場からも逃げ出せるし、一石二鳥だった。
■クラーラ > 「……酷い話」
全てが全てはないにしろ、大半は首元に刃が迫るまでわからない。
呆れた様子でぼそりと呟きながらも、それが王都の現実なのだと心が虚しくなる。
「……ここを?」
不意に掛けられた誘いの言葉に少し間が空いたのは、招待されて来た身故に、勝手に抜け出すのはどうかと思ってしまう真面目さから。
けれど、広間の方を見る限り、自分がいないことは誰も気づいていない。
呼び出した貴族も忘れているか、酔いつぶれているかもしれない。
それなら…と思えば、彼の言葉に小さく頷いた。
「でも、そんなに長くはいられない…かな」
いつ気づかれるか、何時目覚めるかわからないからと、ほんの少しの合間だけと彼に答える。
■フォーク > (そういう連中がいるから、俺の懐も温まるんだけどね)
男は内心、呟いた。
優勢でも気を抜かず、的確な戦略と人選を行えば戦はあっという間に終わる。
しかし、そうなると男は食いっぱぐれてしまう。ぽんこつ冒険者か、犯罪者になるかのどちらかだろう。
「よし。それじゃ一番高級な馬車と同じ速度で脱出するとするか!」
少女が許すなら、少女をお姫様抱っこをしてバルコニーから飛び降りようとする。一番の近道だからだ。
拒否するなら、正式な方法で城から出ていこう。ちゃんと門番に「これで美味しいものでも食べ給え」と、
キッチンから失敬してきたナイフとフォークを渡しながらだ。
王立公園は貴族や王族が利用するため、とても綺麗に整備されている。
夜でも女神像の噴水からは、水が豊かに湧き出ていた。
二人きりというわけではない。ちらほらと、カップルの姿も見える。
■クラーラ > 戦が終われば、経済はもっと潤滑に回って、世界はもっと潤う。
その時に、どれだけ人が残っていられるかは大切なこと。
だから残っていられる人を作るためと、少女なりに努力している現実がひっくり返るような、そんな感覚に、むなしくなるばかりだった。
「どういうこと……? きゃっ!?」
どうするのだろうかと彼を見ていれば、あっという間に身体が抱え上げられ、浮き上がる心地を覚える。
こんな抱き方をされたのは、恋人にされて以来で、驚きのまま頬を真っ赤にして顔を隠すように俯いてしまう。
まさかバルコニーから飛び降りとは思わなかったので、悲鳴の一つも溢れ、ひしっと彼の腕にしがみついていた。
「……人が」
綺麗に整備された公園は、月に照らされ、少しだけ神秘的な世界のように見える。
カップルの姿が見えると、自分達と違い、仲睦まじい様子ばかりで、気恥ずかしさから視線は下へと沈んでいく。
■フォーク > 「色んな財宝を手に入れてきたけど、今ほど緊張するお宝はないぜ!」
少女を抱えてバルコニーから飛び降りる。木の枝と枝の間を渡って城の外へ出た。
おそらく二人が外に出たことは、誰にも気づかれなかったことだろう。
「……うん、いい感触だ」
少女がしっかりと腕にしがみついてくる。ぎゅっと抱きしめているので、少女の胸の感触も伝わってきていた。
王立公園を歩く。夜の公園は昼間よりもぐっと神秘的でロマンチックな雰囲気がある。
少女とともに、公園を歩く。男は恥ずかしげに下を向く少女の腰に軽く手を回し、
「座ろうか?」
と、手近にあるベンチを指した。
秋の風は涼しく、外で話すにはもってこいの季節なのだ。
■クラーラ > 「せめてお宝っていうなら……普通に…っ」
こんな無茶苦茶な降り方なんて初めてで、腕の中で小さく抗議の言葉を溢しながら空中散歩を堪能させられる。
木々の合間を飛び越えるたび、一度足を滑らせたら大怪我間違い無しの浮遊を繰り返し、腕の中で一層強く彼の腕にしがみつく。
マイクロビーズの様にふにゃりと小さな丘が腕にあたって拉げているのに、気づく余裕もなく、彼の言葉も高鳴る恐怖の心音で掻き消されてしまう。
公園にたどり着き、暫くは周囲に気を配る余裕もなかったが、落ち着きを取り戻せば、今まで感じたことのない甘い空気にそわそわと視線が彷徨う。
「……」
腰に手を回されると、びくりと驚いて腰を引いてしまうものの、促されるがままベンチへと腰を下ろす。
冷えた風が緩やかに吹き抜ける公園、遠くに見える人影を見やりながら、彼へと視線を戻す。
「……死ぬかと思ったよ」
何を言えばいいか浮かばず、とりあえずは先程の移動について文句を言っておくことにし、薄っすらと苦笑いを見せる。
■フォーク > 二人でベンチに腰掛ける。
「何があっても、お前さんは守るよ。もちろん、俺も死なないけどね」
男は傭兵だ。傭兵の資本は己の命だ。命の持ち帰りこそ、何よりの手柄なのだ。
目的を果たしながら、己の命も守る。これが傭兵の辛いところなのだ。
「寒くないかい?」
などと言いながら、少女の肩を抱き寄せようとする。
カップルの熱気にあてられたか、うぶな反応を見せる少女が妙に可愛らしく感じた。
「……どうだい、一口」
男は懐から、小さな酒瓶を取り出す。
それは男が安く酔うための、強い酒だ。なぜ少女に薦めるのかというと、
少女の心に鬱屈した思いが溜まっているように伺えたからだ。
酒は心の澱を散らす。いっときでもうさが晴れれば、少女の負担も減るだろうと考えたからだ。