2016/10/20 のログ
クラーラ > 「……そういうの、好きな人にだけに言うべきだよ?」

少々キザったらしい言葉ではあるものの、彼を好いた人ならば喜ぶ一言だろう。
クスッと微笑みながら、もっと相応しい人にと勧めたものの、肩を抱き寄せようとされると、大丈夫と呟いてその手を振りほどいてしまう。
かなり近い距離感、そして、男性が近くなることで思い出す過去と、心の痛みが広がっていき、苦笑いも少し陰りが見えるかもしれない。

「……そういって、女の子を連れ帰るの?」

差し出された酒瓶、ありきたりな話で言うなら一口飲めば一気に酔いつぶれかねない強い酒が入っているのだろう。
手慣れた様子に距離を詰めてくる彼に、少し釘を差すような言い方にはなってしまうものの、瓶は受け取った。
蓋を開け、少しだけ中身を口に含むと……思っていたより濃い味がしたらしく、けほけほと咳をしてむせる。

「強いじゃないか、やっぱり……」

フォーク > 少女の物言いは、やはり可愛らしかった。牽制をしているところがまた良い。
少女を狙っていないといえば嘘になるが、あまり性急に迫るのは好まない。
戦の攻め方と同じだ。ゆるり、と相手の隙を崩すように攻めていこう。
男女のやり取りは最も身近で、最も深い戦だと男は考える。

「どれだけ俺が策を弄しても、相手にその気がなければ全てが終わりさ」

だから連れて帰ろうとしても、対象が隙を見せてくれなければ難しいのである。
酒を含んだ少女が、小さく咳き込んだ。

「……なんだか、済まなかったな。無理やり連れ出しちまって……迷惑だったか?」

少女の顔に、先程とは違う陰りが浮かんでいた。やはり失礼すぎたのか、と訊ねて。

クラーラ > 「ふふっ、そうかもね……でも、相手に気があれば…罠って分かってても掛かるのが女の子だよ?」

気のある相手になら、何時もは固い守りも綻んで、口実になる何かがあればそれに触れて負けてしまう。
彼の言葉に、ぽつりと女心の裏側を呟いて楽しげに微笑んでいた。

「……うぅん、暇だったから、そんなことは」

酒は飲めなかったけれど と、言葉を重ねて瓶を彼へと返す。
そんなに嫌がったつもりはなかったのだけれど、彼にそんな想いをさせていたとすれば…浮かぶのはやはり、死別した恋人との思い出だった。

「……昔、成人して間もないぐらいかな。魔法剣術を教えた若い軍人さんがいて…初めて恋愛したの。でも、戦争に行ってすぐ……矢に当たって死んじゃった」

これを言わないと、自分が見せる反応の理由が伝わらない。
そんな昔話をさらりと語ると、苦笑いで彼を見つめる。

「だからかな……あまり、男の人との距離が近くなると、胸が痛くなる。 それに、貴方は……戦う仕事の人だから、余計に、ね?」

恋人を思い出し、目の前の彼が好意を向けてくる度に、淡い嬉しさと共にジクリと広がるような痛みを覚える。
彼が悪いわけではない、自分が勝手に痛がっているだけ。
だから俯きながら、ごめんね と小さく謝罪を紡いだ。

フォーク > 「本気にしちまうぜ?」

そんなことを言われると、罠に掛けたくなる。相手が憎からず思っているならば、尚更だ。

男は少女の過去を無言で聞いていた。予想していた以上に、重たいものを少女は背負っていた。
恋人を戦で失ったのなら、少女が戦況に対して強い関心を持っているのも納得ができる。
戦況が悪化すれば、戦死者が増える。優勢だって戦死者は生まれるのだ。自分のような人を増やしたくないのだろう。

「……なあ、クラーラ。力になれるかどうかわからねえが、一つだけいいかい?」

と断ってから話そう。

「死んだ奴に逢いたい時はな、そいつのことを丸ごと心で抱えちまうことなんだ。何が好きで何が嫌いか。
どんな良い所があって、どんな悪い所があったか……。細かい所までできるだけ思い出すんだ。
心の中にそいつが居れば、そいつは死んでないって俺は思うんだな」

恋人ではないが、男も戦友たちと哀しい別れをしてきた。その度に死んだ戦友を心に抱えた。
男は少女に向き直り、しっかりとした口調で伝える。

「本当の『死』は、誰の記憶からもいなくなることだと俺は考えている。
クラーラ、お前さんが覚えている限り、あんたの恋人は死んでいないぞ。
だって、そいつはこんなに羨ましい所で生きているんだからな」

少女の豊かな胸に視線をうつしながら、男は微笑んだ。
少なくとも男はそう割り切ることにしている。少女にその理屈が通じるかはわからない。
しかし、少しでも彼女の痛みが消えれば、男は嬉しいのだ。

クラーラ > 「別に…私が、そういう気があるわけってことじゃ……」

出会ってまだ二日しか経っていない相手に、早急な気持ちが生まれることはないものの、彼が踏み込もうとする度に、痛みとほんの少しの嬉しさが混じりあう。
彼の言葉に、何? と言いたげに軽く首を傾けると、彼の思う死と別れが語られる。
思い出し、ずっと触れていることが大切なのだと語る彼の言葉は、ずっと痛みとして焼き付いた恋人の思い出が正しかったのだと肯定されたような気がした。

「……ありがとう、それならきっと…この痛いのは私が忘れたくないって思ってるからなのかもね。あっという間に…私の前から消えちゃったのに」

困った人だよねと呟きながら苦笑いを浮かべるも、先程よりは随分と明るくなっていた。
自分の中に居続けるからこその痛みなのだと考えれば、苦しさは和らぎ、安堵の吐息が零れる。

「…私だけじゃない、戦う人は…大体、何処かでこんな思いをしてるんだね」

やはり早く戦争なんて終わってほしい、心から思えばこそそんなつぶやきも零れた。

フォーク > 「……………………えっ!?」

驚きの声を上げる男。どうやら彼女に脈があるわけでは、まだないようだ。
空回りをしてしまい、思わず右肩が下る。しかし、彼女の恋人の話になれば、体勢を戻し、

「忘れるなんて無理だもんな。なら全力で思い出してやれよ。
困ったことがあれば相談し、言いたいことがあれば心の中で叫べばいい。
しかしな、縛られちゃいけねえ。お前さんの心が縛られるのは、きっとあんたの恋人も望んじゃいねえよ」

死者は無敵だ。ミスをしないので一番理想的な姿でしか心に宿らない。
その理想に縛られると、一生を棒に振ることになる。折り合いをつけることだ。

「これだけ世界では戦が起きてるんだ。誰しも一人くらい親しい人を戦で失ってるんじゃねえかな……」

御時世なのだ。

「どうしても戦を終わらせたいのなら、偉くなるしかないな。
偉くなれば、政治にも口を出せる。外交官や指揮官の人事にもだ」

それが一番早い近道だと男は考えた。

「へへ、まったくムードがないねえ」

夜の公園で健全な男女がする話題ではない。思わず笑ってしまう。

クラーラ > 「ぅ……ごめん、勘違いさせてた、かな」

ゼロとは言わないものの、そこまで心が揺り動いているわけではなく。
何か思わせぶりなことをしてしまっただろうかと、本人はあまり自覚がなく、眉尻を下げながらゆっくりと頭を下げる。

「そうする……ずっと、痛いことばかりするから、文句も言う。 そうだね、ちゃんと…また誰かを好きにならないと、ね?」

過去の文句は彼に、現実から見る未来は、自分と未来の恋人に。
そんな気持ちを固めながら微笑みつつ頷けば、痛みは消えないにしても、小さな踏ん切りはついた気がした。

「そっか…やっぱ、早く終わってほしいね。 ぅ…政治とか、そういうのは難しい…かな。でも、良い人がいれば、その人を応援したいと思う」

自分にはそんな大役は務まらないものの、何時か、その器に鳴るべき人が現れるかもしれない。
そんな未来を夢見つつ、彼の言葉に少しぽかんとするも、周りを見渡せば甘くいちゃつくカップルばかり。
クスッと沸き立つような微笑みを見せれば、こくこくと小さく頷いた。

「そうだね、凄く暗くて固かったね…」

今度はもっと楽しい話がしたい、そう思っていると、結構な時間が過ぎていたことに気づく。
ゆっくりとベンチから立ち上がると、城の方を見やった。

「そろそろ戻らないと…帰るって、ちゃんと言っとかないと、後で面倒になるから」

貴方はどうする?と首を傾けた。

フォーク > 「これからだよな、これからっ!」

少女の肩を掴んで、ゆさゆさと揺さぶる。今はまだ勘違いでいい。全ては、これからだ。

「それがいい。いっぱい文句言ってやんな」

少しでも彼女の心が軽くなったのなら、それでいい。女を心から笑顔にする。これが男前の仕事であり義務なのだ。

「パーティ会場をな、じっくりと回ってみると良い。必ず人材はいるものさ」

政治の世界は清濁併せ呑む。淀みがあれば、澄んだ水も必ずある。

「なあ、今度マジで紅茶飲みにいこうぜ。な、クラーラ」

少女が戻るという。自分は勿論、退散する。
顔は見られていないが、かなりダーティなことをしてきたからだ。
パーティ会場の前まで送っていくことにした。

クラーラ > 「わかったから……そんなに揺らさないで」

身体を揺さぶられると、体格差もあって簡単に大きく揺れてしまい、酔ってしまいそうな振動に軽く目を回してしまう。
息を整えながら頷き、パーティにいるかもしれない清水を求めて、お開きの一幕を探索してみようと思えば、再度その言葉に頷いた。

「分かった……余暇が重なったらね?」

クスクスと微笑みながら、彼とともに広間の傍まで送ってもらうと、また今度と彼に手を降って見送る。
その後、気絶させられた貴族が怒鳴り声を上げて姿を現すと、先程の彼の姿を思い出し、やはり破天荒な人だと心の中で微笑みながら今宵に幕を下ろすのだろう。

ご案内:「王都マグメール 王城」からフォークさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」からクラーラさんが去りました。