2016/10/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城 練兵小隊執務室」にクラーラさんが現れました。
■クラーラ > 「―――その為、次回探索は南方へ向かう予定、と」
自分だけしかいない執務室の中、羽ペンを羊皮紙の上で走らせていくと、最後に自身の名前を書き入れる。
伝記になぞらえる様にして歩き回った結果、お目当ての魔剣を見つけることが出来た。
物見遊山と罵られたものだけど、こうして結果を出した以上、他のお硬い者達も、文句は言えない筈と思うと、思わず笑みが溢れる。
封筒に入れ、封蝋で閉じると部屋の中にある小箱へと入れた。
明日には係りの者が書類を回収し、上層部へと持っていくことだろう。
再び椅子に腰を下ろすと、手持ち無沙汰となり、静まり返った室内には自分のみ。
軽くあたりを見渡すと、机の一番下の段から、真新しい本を取り出した。
「……」
あまり表情の変化がない女にしては珍しく、嬉しそうに微笑んでいた。
手に取ったのは、最近人気のある喫茶店を纏めたレビュー本といったところか。
喫茶店巡りも最近出来ていないのもあり、新しいお店の情報は間接的な方法に頼るしかない。
本当は出向きたい、明日は休みだから絶対に行こうと思いつつ、ページを捲って明日の外出先を決め始める。
ご案内:「王都マグメール 王城 練兵小隊執務室」にフォークさんが現れました。
■フォーク > コンコココンコン、スッコンコン!
リズミカルに執務室の扉をノックするのは、傭兵の男だった。兵の調練を頼まれたのだ。
なぜ一介の傭兵に調練を頼むのかと、思うかもしれない。しかし兵には、様々な強さがある。
純粋な戦闘能力としての『強さ』。これは正規の隊長や将軍が仕込めばいい。
しかし、後方進軍……すなわち撤退する際、いかに的確に行軍できるかは、勝ち戦の多い正規の部隊長には不慣れになる。
負け戦こそ手柄の山とばかりに戦場を転々とする傭兵は、撤退のスペシャリストである。
今度、撤退行動を含む模擬戦を行うため、部隊を預かる指揮官と打ち合わせをするためにやってきたのである。
「すいませーん。入ってよろしいでしょうかー?」
なんとも緊張感のない声で扉の向こうにいる人物に呼びかけて。
■クラーラ > 「……?」
何処に行こうかなと本に見入っていると、現実に引き戻すノックの音が聞こえる。
誰だろうかと思いながらも本を閉じると、下段の棚に戻していく。
「……どうぞ、鍵は開いてますから」
何処かの部隊か、若しくは上層部から来た誰かだろう。
そんなことを考えながら、ドアの方へと視線を向ける。
扉と彼女が座っている場所は丁度真向かいにあり、入ってくればすぐにお互いの姿が見えるだろう。
それにしても…何だか脳天気な声、なんて思いつつ、顔には出さず、落ち着いた様子でじぃっとドアの方を見つめた。
■フォーク > 「失礼いたしまーす!」
扉を開けば、ぬっと大きな顔を出す。
王城ではまずお目にかかれない、古ぼけた鎧を着た刀も帯びていない中年の巨漢だ。
正規の隊長である少女は、どういう印象を持っただろうか。
「今回『後方進軍』の調練のために参りましたフォーク・ルースと申します」
正規の部隊長に対して軽いコンプレックスがあるからか妙に下手に出てしまう。
自ら「軍を扱わせれば、正規の将軍にだって引けはとらん!」と鼓舞して、背筋を伸ばした。
「よければ、打ち合わせをしたいのですが……お邪魔でした?」
ん、と部屋の中を見回して。
(それにしても綺麗な人だね。一度個人的にお相手したいくらいだ)
などと考えてしまうのだ。
■クラーラ > 「……」
元気よく返事を返し、ドアの向こうから現れたのは自分よりもかなり大きな中年の男。
正規軍が纏うような鎧姿でもないし、武器を携行している様子もない。
雇われの兵士だろうかと思いながらも、そんな男が何で練兵小隊に顔を見せたのだろうかと考えると、表情は変わらぬ澄まし顔のまま、ぴくりと思考のゆらぎを示すかのように眉が動いた。
「後方進軍……ぁ、撤退の訓練の」
自分は魔法剣術ばかりなので、軍勢の戦略には疎く、専ら部下の軍師役が請け負っていた。
なんかそんなことをやると聞かされていたのを思い出し、ハッとしたような表情が僅かに浮かびながら、頷く。
「…ごめんなさい、担当の部下が出ているので…そのうち返ってくると思うけど」
部屋の中は王城にある割には簡素で、飾り気のない事務所のような内装。
師団とは異なり、小さな存在というのもあって、部屋にかけられる金も少ない様子。
ただ、彼女の私物にあふれている薪ストーブのある給湯室代わりの一角は、可愛らしい茶器や色んな紅茶の缶が多い。
「いえ……お留守番みたいなものだから」
気にしなくて大丈夫と言いたげに軽く頭を振ると、さらりと金髪が揺れ、揺れのない水面のように落ち着いた瞳が見つめ返す。
■フォーク > 「ああ、いいすいいす。待たせてもらいますから」
担当の軍人と打ち合わせができなかったのは残念だが、美人と逢えたことで上機嫌になる。
所作の一つ一つが美しい。戦場を騎馬で駆ける様は、さぞや絵になるであろう。
(正規軍の仕事はどうにも堅苦しいが、こんないい縁もあるもんだねえ)
余っている椅子を借りて、少女の視界の邪魔にならない所に座る。
部屋を見回せば、紅茶の缶が多く見受けられた。
「ほぉ、紅茶が好きなんですかい。随分と珍しい紅茶まで……私も紅茶には少し心得がありましてねえ」
男は傭兵稼業で様々な地方へ出向いている。一時期、貿易商人の真似事をしていたので、
王都ではなかなか手に入らないものを家に隠し持っていた。たしかシェンヤンの紅茶缶もあったはずだ。
それでこの女隊長と仲を深める、いい機会となるかもしれない。
「シェンヤンで飲んだ紅茶は旨かった。コクと深みがね、そんじょそこらのとは違いますよ」
と、当時の味を思い出すように首を振るのであった。
■クラーラ > 「いいの…? ありがとう」
気前よく待つと言ってくれる彼に、少しばかり悪い気がして苦笑いを零すも、お礼とともに受け止める。
立ち上がり、どうぞと手近な椅子に座るように勧めれば、ストーブの方へと近づいていく。
今は本格的に火を入れてしまうと暑くなってしまうので、中に魔法を発生させるカードを入れ、天板に貼り付けてから、蓋を閉める。
貼り付けた部分にだけ熱がたまり、その上においたポットが中の水を加熱していく。
「……はい、本当はお店を回るのが好きだけど…仕事で行けないときもあるから。それは、何処だったかな…海を渡った先の国の紅茶」
遠い国にも紅茶はあり、土地や国が違うと、小さな差異の重なりで、全く違うものが出来上がる。
その変化が楽しくて、紅茶の話をすると、大人っぽい表情が少しばかり崩れ、笑みがこぼれた。
彼の意外な言葉に、そうなの? と言いたげにゆっくりと首を傾けると、流れるように金髪が揺れる。
「そうなんだ…? シェンヤンのは飲んだことないから、初めて聞いたわ。 今度、取り寄せてみようかな…」
敵対するシェンヤンにも存在するとは聞いていたが、何となく仕事柄で頼みづらいところはあった。
しかし、良い物だというのなら、それは別。
何度か小さく頷きながら、どうやって取り寄せようかなんて考えつつ、お茶の準備を進める。
好きだというだけあって、しっかりと陶器を温めてから丁寧に淹れていく。
どうぞと彼へと差し出した紅茶からは、心地よい香りが広がる。
■フォーク > 「隊長さんの仕事ってのは、大変なんでしょうなあ」
軍人というだけで少し堅苦しさを感じていたが、いざ会話をしてみれば、この女隊長は話しやすい人だった。
正規軍の指揮官独特の、フリーランスの傭兵を見下すような傲慢さがない。
待たせていることを申し訳ないと思ったのだろう、紅茶まで煎れてくれた。かたじけない、と頭を下げる。
温かい紅茶を一口啜った。花のような香りが口の中に広がり、体の芯が熱くなる。
「いい紅茶です。淹れ方もいい」
この女隊長は、よほど紅茶にこだわりを持っているようだ。
「実は私、遠征でシェンヤンに行ったことがありましてね。そこで紅茶をいくつか仕入れてきたのですよ」
何という名前の紅茶かは思い出せない。シェンヤンの文字は男にはすべてが四角い紋様みたいに見えていた。
「よろしければ、顔つなぎの印として隊長さんにお譲りしたいと思うのですが、どうでしょうか?」
ここで気をつけなければいけないのは、あまり恩着せがましくないように、しかしおもねる風でもなく。
上下関係を作らぬ対等になるような間柄にならなければいけない……と男は心がける。
■クラーラ > 「そんなことは……隊長といっても、少し仕事が多いぐらいだから」
雑務や別件の仕事が入る事を除くなら、やることはそれほど変わらない。
緩やかに頭を振って答えていく。
軍人の家系とはいえ、末っ子のお嬢様扱いで育ったところもあり、声の細さとたどたどしい喋り方を除くなら、人当たりはいいはず。
「良かった…気に入ってくれて」
普通の紅茶と違い、少しだけローズレッドを混ぜてある。
他の茶葉と喧嘩しないように割合を考えた、好きだからこその出来栄え…かもしれない。
見た目からガサツかもと失礼なことを考えていたけれど、思いの外、話の接点のある彼に、表情が少しずつ柔らかになる。
「シェンヤンに…?」
自分ではあまり出向かないような場所での出来事、それに耳を傾ける。
そこで仕入れたとなれば、ここらでは中々お目にかかれない品だろうと、想像に容易くて、興味津々といった様子。
「――ぇ、嬉しいけど…そんな高価なのを…」
嗜好品としては結構価値が出てきてしまう品物と知っているのもあって、彼の申し出に直ぐには頷けずにいた。
好意とは言え、ちょっと悪い気がしてしまうと、少しばかり戸惑うように視線が泳いでしまう。
■フォーク > (なるほど、随分と控えめな方のようだ)
王城には何度も出入りをしている。勝手に侵入したこともある。
様々な部屋を斥候していたのだが、一度だけ彼女らしき人物が兵士に剣術を指導している姿を見たことがある。
随分と細やかな指導をしていた記憶がある。指導にも性格が出るものなのだろう。
「いえいえ、俺が持っていても宝の持ち腐れ。あんたのような紅茶好きが持ってこそ……ですよ」
口調に少しだけ自が出てしまう。交渉も傭兵の仕事の内なのだ。
物置部屋には諸国からかき集めたものがいっぱいある。少しでも吐き出しておかなければ、
床が抜け落ちてしまうかもしれない。それにもともとは誰かに売りつけるつもりで買ったものなのだ。
「どうしても隊長さんが申し訳ない……と思うのなら、取引をしませんか?」
と、体を前に倒すのである。
■クラーラ > 最初の頃は自分ができたとおりに教えて中々理解してもらえず苦労したものの、今は細かに教えて、誰にでも伝わるようにと口下手ながらに努力している。
…その度によぎるのは、自分の教え子で恋人だった彼の死。
死んでほしくないから、そんな思いがきっと、丁寧にさせてくれたのかもしれない。
「とはいっても……」
あんたと呼ばれたのは気づいたものの、多分彼の本来の口調なのだろうと思っていた。
場所が場所で、自分に合わせた口調になってくれたというのも加わると、すんなりとは受け取りづらい。
どうしようかな なんて思っていると、不意に彼が持ち出した言葉に首を傾ける。
「取引……? 私、師団長とかじゃないから…そんなに凄いこととか出来ないよ?」
報酬の上乗せやら、待遇の上昇やら、それらの権限は内に等しい。
彼の満足する取引ができる材料が見当たらず、何が目当てなのやらとキョトンとしてしまう。
■フォーク > 「なに簡単ですよ。俺とコレで勝負してもらえませんかね?」
男が懐から取り出したのは、軍では模擬戦に使われるボードゲームだ。軍人のみでなく民衆にも普及している。
お互い駒を一手ずつ進めていき、相手の大将の駒を取った方が勝利というシンプルなゲームだ。
男はこのボードゲームには自信があった。堅牢な布陣を敷いて、敵の綻びを衝く。実にいやらしい戦法を使う。
「俺が負けたら、シェンヤンの紅茶缶を差し上げましょう。あんたが負けたら……」
と、ここで男は条件を出さない。テーブルに紙の盤と木の駒を並べていく。
「いや、戦の前に負けたことを口にするのは不吉。勝敗が決した時にいいましょう」
つまり男が勝利した場合、後でなんとでも条件を付けられる形に仕立て上げようというわけである。
相手が軍人なら、勝負を挑まれて逃げることはなかろう。そう踏んでのことだ。
■クラーラ > 「……それ?」
彼が取り出したのは、ここでならよく目にするボードゲームだった。
魔法と剣術が主体の自分は、嗜む程度のレベルでしか触れたことがなく、大局をみて戦うには向かないのは少し悲しくなるぐらいに理解している。
彼の条件というのは、これでの勝敗を意味するらしい。
それなら、と思ったものの……意味深に伏せられてしまった、自分の代価に少しばかり眉をひそめる。
「わかった……でも、負けてから出来ないこと言っても断るからね?」
彼の出す条件、それが分からないものの、先に釘を差すように出来ることしかしない事を告げる。
彼がそれに頷くなら、向かいの席へと移動し、腰を下ろすだろう。
■フォーク > 「そこは御自由に」
少女とは逆に、男は魔法も使えず剣にも自信が無い。肉弾戦に関しては傭兵稼業で培った喧嘩殺法のみだ。
しかし三千兵までの用兵ならば、そんじょそこらの将軍にも負けるとは思わない。
かくして盤を挟んで向かい合い、ゲームを開始する。
「大将さんは、ここ。衛兵はここ。騎兵はここだ」
男は最初の布陣からほとんど王駒を動かさない。
このボードゲームは、最初の布陣が一番強いのである。むやみやたらに駒を動かすと、陣に歪みが生まれる。
その歪みを突くのが、男の戦法だ。戦場でも似たようなことをする。
「それにしても……隊長さんは、よほど剣に自信があるみたいですな。いい剣を持っている」
男は駒を動かしながら、少女の剣について訊いた。
どのような曰くでこの剣が少女の腰についているのかはわからない。しかしまだ若い少女が持つには、
いささか勿体ないような輝きを見せている。男は商人の真似事もしていたので、少し目利きができるのである
■クラーラ > 「…それなら、いいよ」
断るかもしれないし、断られないかもしれない。
そんなお願いをするための口実…とも見えるものの、断れるのならそれほど怖く感じず、彼の勝負を受けることにした。
盤面の説明を受けつつも、頭の中に思い出すのは一通り習った戦い方というものだ。
ただ、定石の様な手段しか取れないため、選ぶ作戦は慎重に…と考える。
「――ぇ、あ……剣術と魔法は自信あるよ。…これね、いい剣というか、危ない剣。ケラウノスって魔剣で、気に入った人以外、消し炭にするから…」
恐れなき騎士だけが手にすることを許されるという、御伽噺に聞く魔剣。
剣術と魔法に強い自信を持ち、研鑽を忘れずにいたからこそ認められた…と思う。
噂には聞いたことがあるかもしれない剣の名を答えつつ、選んだ作戦は攻撃力特化の陣。
中央から切り開くか、方位殲滅するかの二択を迫れる布陣を組み立てる動きは、お手本通りといった不慣れさが見えるかもしれない。
■フォーク > 「はは、伝説の魔剣ケラウノスか。俺もガキの頃、義父(オヤジ)から聞かされたもんさ」
男は笑いながら駒を動かす。御伽噺を信じるほど純粋でもないのである。
実際に本物があるなど、思いもよらないのだ。
「おっと……こりゃなかなか」
少女は攻めの手を緩めずに駒を進めてくる。打ち方は定石といってもいいが、
駒を動かす手順と進め方に「将」の才を感じた。面白い、と男は考える。
男の斥候の駒が、跳ねるように少女の王駒に迫る。
「ここで登場するのが、斥候ってわけさ……戦場じゃ汚い手を使う奴がいるからね、俺みたいに」
男の取った手は、いわゆる奇策だった。定石とかけ離れたものだ。
少女に僅かだけ、自分の用兵術を見せたくなったのだ。この勝負で何かを学んでもらえれば、
自分のことを少女は少しは気にかけてくれるだろう。ひいては何かしら自分にもメリットが帰ってくると考えてのことだ。
■クラーラ > 「うん…それと同じ剣だって言われてる。そうなんだ…夢物語が本当にあるって、何だか不思議だよね?」
彼の笑みに釣られるように、ほんの少しだけ微笑みを浮かべながら、駒を操る。
教本にあるような動かし方を、習ったとおりに進める。
こういう大局を動かすのが下手だと知っている分、習ったとおりの基礎に忠実な動きは、自分で思っていたより厄介らしい。
しかし、知っているのは基本となる部分、所謂アクシデントには弱い。
「えっと……これは、困った…」
斥候が手薄なラインをつき、偵察から切り込む動きに変わると、手の動きが鈍る。
どうするべきか、考えた挙句に取ったのは、王将の側に戻せそうな駒を幾つかだけ戻し、最低限の守りを敷いて攻撃の続行だった。
僅かな守りが壊されるのが先か、戦力が少し弱まった攻撃隊が王将を倒すのが先か。
丁度いい塩梅の割り振りというよりは、賭けに近く、とても不安定で危うい動きを用い、彼の奇襲に応じようとしていく。