2017/02/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 貴族達の宴会場」にハルクラムさんが現れました。
ハルクラム > 月の末に開かれる貴族たちの宴会場、家の紋章を掲げて集うはプライド、財力、そして欲望を抱えた
多種多様の公爵、伯爵または婦人たちである。

「ふふふ…、今宵も肥えた人々がいっぱいいますの…」

メイプル家もこの王国に馴染んでこういった貴族達の集会に入れるようになった。美味しいワインを
交わし、政治的、経済的な議論も時には飛び交う。だが警備はしっかりしているため騒ぎに
なることはないだろう。

そして、この享楽的な貴族たちが求めているのは、場を沸かす見世物もそうだろう。
今月も各貴族たちが仕入れた奴隷達が、生まれ持ち得た、あるいは鍛え上げられた芸で
貴族達を楽しませている。いかに質のいい奴隷を所有しているかは、貴族としては一種の
ステイタスにもなるようだ。

ハルクラムも、貴族の子という名売りで、そして娼女としておいしそうな男を探している
だろう…。公然にいかがわしい行為はしてほしくないので、誘うなら個室に誘うところか

ハルクラム > 今日は特にめぼしい人もいないようなので、適当にあたりの話をききつつ、宴会を後にして、
今日の食事をまた探すことにしたようで。夜が更けない内、眠くならない内にと

ご案内:「王都マグメール 貴族達の宴会場」からハルクラムさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区・娼館通り」にシャーロットさんが現れました。
シャーロット >  
大通りからは一本外れた通り
富裕層の貴族向けを謳う高級娼館が並ぶ

まだ日の高いそんな往来を一台の小さな馬車がゆっくりと闊歩する

シャーロット >  
華美な装飾に覗き窓のついた幌、
一目で貴族が乗っているとわかるその中で……

『お嬢様、最近少々遊びが過ぎるのでは?』

皺枯れた声と、鈴のような声が交差する

「そう?私はいつも通りだけどー」

少女の声に、もう一つの声の主…総白髪の痩せこけた老人はやれやれと頭を垂れる

『いずれ庇い立てできぬ事件が起こらぬかと心配でございます』

小さく、しかし重く
老人は言葉を紡いでゆく

シャーロット >  
「──あっはは♡
 爺ってば心配性なのね」

一笑に伏す、とはまさにこの事

「庇う?面白ぉぃ。
 私は私自身の力で、自分を守っているのよ?
 "富"という絶対的な力でねぇ」

良い終えた少女は本当におかしい言葉を聞いた、というように嘲笑う

老人は帽子を目深くかぶり、俯いて溜息をつくことしかできなかった

シャーロット >  
『──せめて、我々の目の届かないところでの
 傍若無人な振る舞いは控えていただけますよう』

しばしの沈黙を破り、老人はそう切り出す
少女と言えばまるでお説教をされた子供のように頬を膨らませて──
…実際に似たようなものなのだが──馬車の外へと目を向ける

『…聞いておられますか?』

「うーるーさいーなー。
 平気よぉ、爺の言いつけどおり命を守る"魔道具"も身につけたでしょお?」

不気味な光を宿した宝石を胸元でちゃらちゃらと揺らす

『それは命を守る魔道具ではございません。
 他人の命を触媒にし身を守る、呪わしき装飾品でございます。
 そんなものを使うなど、病気のお父上が知られたら、どんな顔をされるか…』

シャーロット >  
「言ったじゃない。
 "私はこの国にとって大事な大事な命"なんだって、
 だから危険から身を守るようにしなさいって、言いつけどおりにしてるのに~」

くすくすと小馬鹿にしたような笑みを漏らす

『…ですから、蛮行を控えるようにと……。
 決して、そのような魔道具を用いて蛮行を続けてほしいというわけではございません』

「…はぁ、もーうるさい、止めて!」

騎手の座る椅子の背を蹴りつけるようにして、叫ぶ

『お嬢様!?』

止める間もなく、ひらりと止まった馬車から舞い降りて
それに続くように無言で従騎士二人が降りてゆく

シャーロット >  
「爺はお疲れみたい、お屋敷で休ませてあげて♡」

そう言いつけられた騎手は少々戸惑いながらも馬に鞭を振るう
蹄を鳴らし遠ざかる馬車を見ながら、やれやれと肩を竦め戯けるシャーロット

「うっさいジジイ、さっさとクタバレばいいのに。
 お父様もお父様でしぶといし、今日から食事に盛る毒の量をもう少し増やして頂戴。
 能無しにいつまでも口を出されちゃ台無しだわ」

言葉を受けた従騎士の一人が声もなく、小さく頷く

「マリアベル、マリアベルはいないの?」

誰ともなしに言葉を投げるが、その言葉に反応はない
懐刀として手懐けた半人半魔であるが、此処のところは命じ付けた仕事に追われ近くにいないことが多かった
それが、妙に苛立ちに拍車をかける

「行くわよ、娼館の視察にでもまわりましょう」

従騎士二人を引き連れ、まだ日の高い娼館通りを歩き始める

シャーロット >  
「(…ま、爺の言うとおり…ちょっと手駒を使いすぎたかもね)」

王城での近衛兵の射殺
ミレーの隠れ里での事件
ヤルダバオート地下での神官の殺傷

そのどれもを、自身の部下に罪を被せ逃れている
……そうすれば、彼らの家と家族に恒久の援助を約束する、という言葉の元に
元々がシャーロットの持つ圧倒的な財力を信仰する狂信者のような者達である
罪を肩代わりし、代理でそれを償うなどは仕事の一つに過ぎない
無論処刑台に立たせないよう手筈を整える、という条件も添えるのだが

手駒は有限である
特に、シャーロットの身を守るためには"特別な手駒"が必要不可欠だ
ひとたび戦場に出れば百人将となれるくらいの逸材を求めている
そんな人材は、そうそう見つかるものではない

シャーロット >  
──こうやって通りを歩くのも、普段ならば騎士を6人以上は引き連れる
6人警護は完全に死角を潰せるからである

しかし、今引き連れているのはたった二人

それでも強力な魔族程度とは渡り合うだろうが、
それはあくまでも戦力の話であり、シャーロットに働く防衛力とそのまま換算することはできない

「(無駄使いしちゃったかしらね)」

特に、あれがいけなかった
ミレー族の隠れ里の一つ、小さな集落
あそこに現れた得体の知れない少年相手に、無駄に消費してしまった

相手に背を向けて逃げるなんて、底辺の選ぶ選択だと
自尊心の元に正面からぶつかった結果であり、後悔まではしていないのだが

シャーロット >  
そう、そうだった
それで懐刀のマリアベルを闘技場に送り込み、使えそうな人間をサーチさせていたのだ
……ということを、今思い出した

日々享楽に生きている少女は手駒のことをふと忘れがちでもある
──それは、懐刀と認める者ですら、見下しているからにも他ならないのだが

シャーロット >  
いくつかの娼館の様子を見て回るも、最近は客足が悪いようだった
例の大火災以降、一部の貴族は警戒しこの辺りの娼館の利用を避けているという話だ

「アレって第七師団がやったんでしょ?
 よっぽど上の貴族の何かを掴んだのね、お咎めなしだなんて」

まぁ、私の店は燃えなかったからいいけど、と続け、一端その歩みを止める

「……此処に来てない、ってことは他の遊び場があるわねぇ…?
 お城の地下も今はそこまで賑わっていないようだし……平民の町へ流れたかしら?」

質は落ちるだろうが、気儘に豪遊はできる

「……そのうち、足でも伸ばしてみようかしら。
 平民の町なんて公務以外じゃ空気も吸いたくないけど」

シャーロット >  
娼館通りでは"顔"でもある
年端もいかぬ顔立ちにアンバランスなスタイル
どうあっても目を引くその瞳の色

同時に、そんじょそこらの貴族男などでは
手が届かない存在であることもわからせる雰囲気すら纏う

行く先々の娼館で
"最近は客足も…"という言葉を聞く

「(経営が傾くことはまずないけれど…)」

これでは貴族達へ与える影響力が減少する
娼館はただの金策施設ではない、娯楽に愉悦にと刺激を求める階級の人間
それらとの強力なパイプにもなる
シャーロットの貴族界隈での影響力そのものに繋がる重要なポイントでもある

気を引く目玉がほしい
そんなことを考える

ただ高級な施設で、高級な娼婦を抱くことが出来るだけではなく…
それを考えた時に浮かぶものは、やはり"意外性"だった

意外性は刺激へと直結するもの
貴族達が物珍しいものに心惹かれるのはそのためだ

自分達が簡単に思い通りにできないような存在を好きにできる場所、ならば
それは多くの貴族達の足を呼び込むだろう

事実、とある貶めた王族を密かに娼館に紛れ込ませたとある店は大いに成功を納めたと言える

「……んー、…やっぱり、魔族ね」

ぽつりと呟く
魔族、ひいては魔王でも良い
力さえ封じてしまえばあれらもただの愛玩具だ
貴族達はこぞって食いつくだろう

ご案内:「王都マグメール 富裕地区・娼館通り」にジェイコブさんが現れました。
ジェイコブ > (大仰な衛兵であることを誇示する甲冑は、歩くたびにチェインメイルの喧しい音を立てながら、決められた区画だけに問題が起きていないかを確認していく。
日も高い内から、大男が2名の衛兵を連れて娼館通りを歩いているのは決してさぼっているというわけではなく、ここの所治安の悪化が危ぶまれていることを受けて、正規の巡回ルートに組み込まれたためだった。)

「……これはフェルザ様、ごきげんよう。我ら王国騎士団にございます」

(大男が見ている範囲では、娼館通りは特に異常もなく今日は何事もなく巡回を終えられると安堵しかけたところで、まだ閑散とした通りで一際目を引く見目麗しい少女を見つけて、同僚を手で制止ながらすれ違わぬように止まらせて、大男は先んじて恭しい態度で礼を取って挨拶をしようとする。その様子と、何より大男が呼んだ家名にハッとなった同僚二人も、慌てて一泊遅れに礼を真似ていく。)

「今日はこのような場所に如何様なご用向きで?我々に手伝えることがございましたらなんなりと」

(騎士団内で肩書を持ちたくないだけで、貴族への敬意の表し方ぐらいなら心得ている大男は、当然目の前に立つ少女について、家名以上のことを知っていた。
その容姿と裏腹に苛烈な激情を持っており、機嫌を損ねないように気を遣って、自ら進んで助力を申し出る。もしそれが無用であるならば、大手を振って巡回に戻れるという算段であった。)

シャーロット >  
「あら、ご苦労様」

大男の衛兵のとった態度は正しく誠実
難癖をつけることが得意なシャーロットも文句のつけようがない

続く言葉に衛兵風情には関係のないことだと言いそうになるところすら、
助力の申し出が出た後では口にしにくいというものである

「──所有する娼館の視察よ。
 貴方達ももう少し上に取り入るなりして、お客としてこの通りに来なさいよね」

言い切るとくすりと笑みを浮かべる
手伝えることなどない、と歩き去ろうとした時、
側にいた従騎士の一人がシャーロットへと小さく耳打ちをする

「(──ふぅん…?)」

足を止めて、大男へと向き直る少女
フェイスヘルムで半分ほど覆われたその顔を覗き込むようにして見上げると

「貴方、お名前は?」

不意に問いかけの言葉を投げた
従騎士の一人がジェイコブの騎士としての評判を知っていて、
それを少女に耳打ちしたのだろう

ジェイコブ > (下手に通り過ぎようものなら、何か難癖をつけられていたのかもしれないと思っての行動は功を奏したと大男はまず安堵した。)

「左様でございましたか。
それは…公務中故に団長の目というものがございまして、公務を離れた暁には是非とも」

(そのあまりに騎士の誇りに傷をつける少女の言葉に、騎士として、という言葉を飲み込んだ大男は、努めておどけたような調子で返答していく。
後ろに立っている同僚も触らぬ神に祟りなしとばかりに、緊張した面持ちで黙してその場に立ち尽くしていて。)

「…!は、我が名はジェイコブと申します。家名はもはやありません、身寄りなき者です故」

(歩み去っていく背中に、さしもの大男も安堵の呼気を吐き出しそうになったところで、傍にいた従騎士に何事か耳打ちされた少女が立ち止まるとそれすら飲み込まざるを得ず。そして少し拍を置いてから、大男はフェイスヘルムのバイザーを持ち上げて顔を晒し、求められた以上誠実に名乗っていく。
一難去ったと露骨にため息を吐きかけていた同僚たちも、その様子に再び緊張した態度で身を強張らせており、バイザー越しにも心配そうな表情を浮かべていることが筒抜けであるだろう。)

シャーロット >  
「ふぅん……なかなか、腕が立つらしいじゃない?」

まじまじとその顔を見つめる
玉虫色の瞳はまるで色々なものを見透かすような、
それでいて値踏みするような…良い気分のしない視線を送る

「身寄りがないのなら、うちで雇ってあげてもいいわよ?
 王国の警備なんて退屈なんでしょ?」

最前線での武勲は耳打ちで知らされている
王城の警護に飽き飽きして前線に出ているとでもこの少女は思っているのだろう

ジェイコブ > 「魔族や敵兵と戦うことが、その証明であるならばそのお話も事実でしょう」

(不思議な色合いの目によって見つめられる大男は、まるでその色を湛える映る自分を見透かされているような心地になる。
どこか値踏みするような目つきに、大男は自分のそれを誇ろうとはせずに、表情を巌のようにして緊張を覆い隠す。)

「…いえ、私には騎士として、王国を護るための地位のみがあればよいのです。
せっかく精鋭が揃うと言われるフェルザ様の護衛にお誘いいただいたにも関わらず、申し訳ありません。
私のような者では、そのご期待に沿うこともできず、品位も落ちましょう」

(決まった肩書を持たないが、得られる機会になっても大男はそれを幾度となく辞している。それでいてたびたび最前線に身を投じている有様は、確かに警護に飽いた戦闘狂のように取られて仕方がないと内心のみで苦笑する。
腰に佩く二振の剣の内、魔剣を収める装飾こそないが巻き金まで使われた物々しい鞘を無意識に撫でながら、頭を下げた。)

シャーロット >  
こちらへの配慮を含む、丁寧な言葉選びでの明確な"NO"の意思

それを受けて少女は小さく肩を竦めた
そう、こういう『価値観が違いすぎる人種』は駄目なのだ
いくら金を積もうが靡かない
ましてや安泰を保証させてやる家すらもたないと来ている
富、財力を以って外掘りから蝕んでいくシャーロットのやり方が通じないことは、
実行を試みる前から明らかであった

「私の衛士が認めるような腕があるっていうのに、勿体無いわね。
 私には全然わかんないけど、もっと多くを欲しくなったりはしないものなの?」

地位があればそれで良いという、言い換えればそれだけの欲
人間の欲求に際限など存在しないことを少女は身に沁みて知っている
故に、その男、ジェイコブの在り方は文字通り住む世界が違うようにも思えたのだろう
一転して、その目の色は好奇心や興味といったものに変わる

ジェイコブ > 「身寄りも肩書もない私では、戦い以外ではただ足手まといとなりましょう、フェルザ様の御身を護る列に加わるに値しません」

(少女の評判は、大男の耳にも届いていた。その多くの財産を管理、運営をできる立場から、よくない噂も聞いていたが、立場や名声に執着しない大男はたまたまその手管から逃れることができていた。
返答を受けて、肩を竦める少女に、大男は密に安堵するように一度だけ目を伏せた。)

「…無論、私にも人並み、いやそれ以上の欲はありますが、それが立場や肩書に伸びぬものなのです。
人里離れた遺跡に眠る抱えきれない金塊よりも、目の前を埋め尽くす肉やパンを欲することは、それほど異なるものでしょうか?」

(どこか価値を見定めるようだった視線が、別種の色を持って自分に向けられてくるのを感じた大男は、少女の貪欲さは唯物的なものではなく、その精神的なものに由来しているように見えた。
大男はしばし少女の問いかけに、しばし考えてから、即物的であるととれるような言葉で返す。それは大男の考えも、少女の知る欲望の一種であると受け取ってもらえるかは、わからなかったが。)

シャーロット >  
ジェイコブの返しには、少しだけきょとんとした表情を見せる
悪意やその他の感情の混ざらないそれは少女が今まで見せた表情の中で唯一とも言えるほど、年齢相応のものだったかもしれない

──とはいえそれは一瞬のことで、
すぐに口元には笑みが戻り、眼もどこか他人を見下したそれに変わる

「立場も肩書も、名誉をが要らないのなら欲する価値がないのね」

シャーロットには理解が及ばない話だろう
即物的な物で、望んで手に入らなかったものなどこの少女には今まで一つもなかったのだから
故に、自分が欲し、手に入らないモノが存在すると意外そうな顔をする
大体の人の心すらも圧倒的な富では買えてしまうものだった
…目の前の男、ジェイコブのような者を除いて

従騎士が再び少女へと耳打ちをする
内容は、あまり立ち話が長引くとお帰りの時間が、ということだったのだろうか
少女は再びドレスを翻す

「お仕事の邪魔しちゃったわねぇ。
 ……でも、気が変わったらいつでも声をかけてねぇ?」

くすりと笑い背を向け、手をひらりひらりと振って歩き始める
一人の従騎士はその後を追い、残った一人は懐からじゃらりと音のする
小さな布袋を出しジェイコブへと手渡そうとする

『公務中に迷惑をかけたな、部下に食事でも振る舞ってやってくれ。
 …施しは要らないかもしれんが、こればかりは受け取らないと後が怖いぞ』

おそらくは少女の指示なのだろう
低く、小さな声を残し、その騎士もまた踵を返すのだった

ジェイコブ > 「……?…確かに、そうとも言えるかもしれません。名誉が要らないのでしょう」

(大男の言葉に、きょとんとした表情を浮かべている少女に、衛兵たちはおろか、目の前で相対していた大男でさえも、一瞬呆気にとられた表情を浮かべる。
大男にしてみれば、そんな反応が返ってくると思ってもみなかったために、内心焦燥しかけて、一泊も置かずにその表情がどこか人を馬鹿にしたような笑みに戻ったことに何故か安堵の気持ちさえ浮かんでしまう。そして、少女なりに自分の中で咀嚼した答えに、大男はどこか隔絶した価値観が見えたように曖昧に頷いていく。)

「わかりました、一帯は我ら王国騎士団の管轄内ですが、お気を付けください。
…その心遣いに感謝いたします」

(従騎士がまた耳打ちをすると、豪奢なドレスを翻す少女が手を振りながら去っていくと、再び胸に手を当てて一礼し、それに倣う同僚とその背中を見送っていこうとする。
去り際の言葉には、やはり少女の貪欲さが見えた気がして、少し言葉に詰まってから大男は曖昧に礼を返した。)

「まだ、何か…?これは…は、ありがたく頂戴する」

(そして、お付きであった従騎士の一人が未だこの場に残っていることに、大男は一抹の不安を覚えながら問いかけようとして、懐から取り出される袋を見つめてその真意を理解した。
従騎士に釘を刺されるまでもなくそれを受け取った大男は、その従騎士も去っていくのを見送ると、「遺失物だ、お前たちに管理を任せる」とそれを安堵のため息を吐く同僚たちに手渡して、再び公務の巡回に戻っていた。)

ご案内:「王都マグメール 富裕地区・娼館通り」からシャーロットさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区・娼館通り」からジェイコブさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にセリオンさんが現れました。
セリオン > 富裕地区の街並みを、奇妙なやり方で、女が歩いている。

目を閉じているのだ。
盲人という訳ではない。その証拠に、時折は立ち止まって目を開き、周囲を見渡したりもする。だが、再び歩き出す時には、また目を閉じている。
だと言うのに、誰かにぶつかるようなこともない。
このまま歩けば衝突するという状況になると、数歩の距離がある内に、先に身をかわしてしまうのだ。
するすると人の群れを抜けながら、女は歩いている。
肩や腰の高さをほとんど変えることなく、滑るような足取りで――

「ああ……数ヶ月ぶりの、人の街」

女は目を閉じたままで、空を仰ぎ、思い切り息を吸って、

「さて、まずは娼婦でも探しましょうか」

修道服にはまるで似合わない独り言に、通行人が一人、二人、思わずそちらを振り向いていた。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にセリオンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にセリオンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からセリオンさんが去りました。
セリオン > 「んー……人の街の匂い。人間の匂い。懐かしいものですねえ……」

目を閉じたまま、女は歩き続ける。よほど人里を離れていたのか、ただ歩くだけでも興を感じている様子である。
……ところが、それが急に、とある建物の前で立ち止まった。

「おっ?」

目を開く。
その建物は、どうやら、この地区にしては珍しい、さして高級とも言えない娼館であった。

セリオン > 「これは、これは、上々、上々」

女はそんなことを言いながら、娼館へ上がりこんで行った。
受付の男は、さすがに面喰らった様子であった。
客としてはあまりに場違いな格好であるし、かと言って働かせてくれと言い出しそうな風情でもない。
……そして往々にしてこの国では、明らかに場違いな存在とは、すなわち面倒ごとの種である。

「こちらで一番の美人を、貰い受けたいのですが」

買いたい、ではない。貰い受けたい。受付の男は、それを狂人の戯言と受け取る。そして答えは〝帰れ〟以外にない。
ところが女は引き下がらない。二度、三度、穏やかな微笑みを浮かべたまま、同じ主張を繰り返すのだ。
さすがに気味が悪いと思った受付が、用心棒を呼び、厄介な女を叩き出そうとした瞬間――

「よっ」

と、軽い声と共に女は、右足を床から離れさせていた。
ほぼ足が垂直に上がる、急な軌道の蹴りは、大柄な用心棒の男の、元々割れた顎を更に細かく砕いていた。

セリオン > 「はい、まずひとーり!」

顎を砕かれた男は、天井を仰いで動かない――首が折れてはいないので、おそらく死んではいないのだろうが。
だがしかし重症であるし、きっと完治もしないだろう。この男は残りの障害、砕けた顎で生きることになる。
それを、この女は躊躇わない。

「二人目ぇっ!」

次の犠牲者は、受付の男であった。
彼は、何か命乞いの言葉のようなものを吐こうとしたのだが、それが言葉になる前に、前歯から奥歯まで一通り、蹴りの一撃で砕かれた。
唇を折れた歯がつき破って、しくじったデッサン画よりまだ無残な顔ができあがった。

それからは、悲惨の一言。
三人目、四人目、五人目――雇われている用心棒やら、でっぷりと肥えた店主やら、ついでに偶然居合わせただけの客さえが、女の蹴りで破壊されていく。
女は、こだわりでもあるのか、決して手を動かさなかったが、両脚だけで十分、凶器を持つ手に勝っていた。
やがて、壊せる人間は壊し、それ以外が逃げ出してしまった頃に、ようやく女は満足したのか、額の汗を空の左袖で拭って、

「んー、強くなりましたねぇ、私。生物として向上することの、なんて楽しいことでしょうか」

また、なんとも穏やかに、微笑むのであった。
かくして狂人が一人、この街に返って来たのである。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からセリオンさんが去りました。