2016/05/27 のログ
ご案内:「王都マグメール富裕地区/路地裏」にヘレボルスさんが現れました。
ヘレボルス > 「くそ……くそ、畜生。くそ。くそったれ」

打ち捨てられた木箱の上に寝そべって、スリットから伸びる白い足を地面に投げ出している姿がある。
苛立たしげに煙草を吸う顔は疲弊に満ちて、目の下の隈は化粧を施されてなお濃い。
太腿から垂れ落ちた精液は夜気に晒され、冷えて乾きつつあった。

「死ね、あのクソジジイ、死ねッ、冗談じゃねえ。死ね、死ね……!」

ぶつぶつと恨み言を繰り返すヘレボルスの腹は、見れば緩やかな膨らみを帯びていた。
主人の魔法使い曰く、己の子宮に精を食らう魔物の仔を植え付けるという。
その仔を育てるために、一月のあいだ、誰でもいいから番ってこい、というのがこの頃の仕事だった。

謝礼は弾む、ということだったし、断れば痛め付けられるのは目に見えていた。
母胎に都合のよい疼きばかりが身を襲い、否応なしに盛る下腹部はいかにも魔物の苗床らしい。

「だああ!もう!」

腹の中で魔物の仔がぎゅるりと動いて、背に無理やり性器を弄られたような震えが走る。

妊婦相手の物珍しさで金を出す男は少なくなかった。
だが半月も経った今、腹は重いわ絶頂するたび失神の回数が増えるわで、母胎にとっては堪ったものではない。

短くなった煙草を壁に押し付け、放り捨てる。
片手に握り締めたくしゃくしゃの紙幣を、デコルテも露わなドレスの胸元に押し込んだ。
貰えるものは貰っておかねば、割に合わないのだ。

ヘレボルス > 元から月の満ち欠けと共に僅かばかり膨らみを増す身ではあったが、
この頃は腰が常に丸みを帯びて、女性の輪郭そのものを形づくっていた。
萎んだ男性器は陰核のように内股に引っ込んでしまったし、
人並みの大きさまで膨れた胸は邪魔臭い。

じくじくと熱を持つ内股を、ヒールが脱げるのも構わずに身を捩らせて擦り合わせる。
徐に身を起こして木箱に座り直すと、乱れた髪がぱらぱらと顔に落ちた。

「あーーくそ……」

頭を乱暴に掻いていると、頭上で黒猫がにゃあと鳴いた。

「うるせえ!どうとでも言え!」

その一喝は、黒猫が魔法使いの従者が変じたものと思い込んでのことだったのだが、
実際のところ何の変哲もないただの野良猫である。

黒猫は壁の上を走り、すぐさま街中へ姿を消した。

後ろの壁に背を凭れ、後頭部をごつりと預ける。
宵闇に白い髪と四肢が浮かび上がって、さながら婦女が暴行を受けたあとのような有様だった。

ご案内:「王都マグメール富裕地区/路地裏」にテルヴェさんが現れました。
ヘレボルス > 不意に通りの向こうへ目をやる。
街灯に照らされた道に、見るからに気の弱そうな若い貴族の姿があった。

しばらくその様子をじっと見てから、徐に立ち上がる。
煙草臭くて、ドレスや髪は乱れ放題で、覇気のない顔はどう見たって薬物中毒者だった。
肌に絡んだ汗や愛液だけが人を蕩かせる魔性の匂いを漂わせて、
未だ離れた位置に立つ青年を睨め付ける。

「僕の金になってもらう」

舌なめずりして、ピンヒールが地面を足早に叩く。
追剥ぎみたいに忍び寄って、青年へと手を伸ばす。

襲ってでも組み敷く心算だった。

テルヴェ > 籍をおく冒険者の宿を通じて、富裕地区のとある商店へと荷物を配達する任務を受けていたテルヴェ。
相変わらず最近はこの手の「比較的安全な」仕事しか受けていないようだ。もっとも王都内とて100%安全な場所などないのだが。

「……うー、すっかり暗くなっちゃったよぉ」

富裕地区は不慣れなテルヴェ。目的の店の建物を見つけるのに数時間を余計に要し、配達の遅れを咎められ、帰途についた頃にはすっかり日も暮れて。
それでもそこかしこで街灯が明るく灯っているのはさすがは富裕層の住まう場所か。同じ都市なのに、貧民街とは安心感が雲泥の差である。
しかし宿の主を待たせていることには変わらない。テルヴェは小走りで通りを駆け、平民地区の棲家へと急ぐ。

通りにぼんやりと佇む、気の弱そうな貴族。
テルヴェはハッハッと息を切らしながら脚を蹴り、小さな身体の向かうベクトルを逸らしてその青年を避けようとする。
……同じ青年を襲おうと裏路地から現れる妊婦の姿には気づかない。ぶつかりそうだ!

ヘレボルス > 青年の肩を掴み掛らんとする、その刹那。

「ぬおッ……」

女性らしからぬ悲鳴を上げて、走り込んできたテルヴェを避ける。
事もあろうに、その拍子に青年がヘレボルスに気付いてしまった。

いわば凄絶極まりない痴女の様相をしたヘレボルスを相手に、
ぬるま湯育ちのボンボンが平然としているはずがなかった。
小さく頼りなげな悲鳴を上げて、そそくさと逃げてゆく。

空の両手が、わなわなと打ち震えた。

「……てめ……」

地を蹴り、足を踏み出す。

「こンの――クソガキ!」

とっさにテルヴェの細い腕を引っ掴んで、路地裏に引っ張り込まんとする。
人並み外れて造りの良い面立ちを不摂生で荒らした顔で、テルヴェを睨み付ける。

「僕の邪魔しやがってコラッ!」

完全に一方的な恫喝である。
魔物を宿したマタニティブルーは、深海のように深かった。

テルヴェ > 「うわっ……あっ!」

路地裏から飛び出てくる女性の姿に気づいたのは、もはや衝突する0コンマ数秒前。
半ば転ぶようにその人影をも避けようとするが、実際に衝突を免れたのは相手側の身のこなしがあったゆえだろう。

「っ痛た……ご、ごめんなさい……急いでて……っあ!?」

キレイに敷き詰められた石畳の上で身を正し、衝突しそうになった双方へと謝罪の言葉を発しようとする少年。
しかし、貴族っぽい青年のほうはすでにその場を離れつつあった。
そしてもう一人の女性の方は……と視線を移さんとした刹那、とてつもない力で二の腕を捕まれ、宙に浮く感覚を覚える。
テルヴェの身体は幼い見た目相応に軽い。為す術もなく路地裏へと拉致されてしまう。

「ひっ……!!ご、ごめんなさいっ!!僕っ……そんな、邪魔しようだなんてそんなつもりじゃ……!」

ドスの聞いたセリフにテルヴェは萎縮しきっていた。すでに半泣きの震え声になりながら、細い手足をぱたぱたともがいて弁明の言葉を並べる。
自らを威圧的な瞳で見下ろし恫喝する女性を、テルヴェは潤んだ瞳で見上げ……そして、訝しむ。

―なぜ妊婦がこんなところに? なんでこんな娼婦めいた格好で?
―なぜ、こんな身重の女性が、こともあろうに青年に襲いかかろうとするような素振りをしてたのか? 邪魔とは?
―なぜ、こんな細いシルエットの女性が、僕をこうも軽々と投げ飛ばしたのか?

「………あ、あなた……何者……」
混乱する思考が、失礼にも聞こえる質問を紡ぎだす。

ヘレボルス > 上から目線でテルヴェを見下ろしながら、乱れた髪を雑に掻き上げる。
テルヴェの腕を離したヘレボルスの腕は、色は白くともしなやかに引き締まっていることが見て取れるだろう。
取り逃した青年貴族よりもずっと気弱そうな様子は、ヘレボルスの額にびきびきと血管を浮かせた。

「あのなあ……こういうカッコして路地に立ってりゃ、いくらガキだって僕が何してるか判るだろ?
 立ちんぼだよ立ちんぼ。ここで野郎を引っ掛けて、一発致すのが僕の仕事なの。オーケイ?」

誰が見ても身重と判る姿をしていながら、身も蓋もない説明だった。
さらに言えば売春は本業でも何でもないのだが、ややこしい事情は省いてしまった。

「ったく、折角のカモが逃げちまったじゃねーか……。
 ……よくよく見ればお前、イイとこのガキでもなさそうだしよお!」

テルヴェの質素な身なりに、大げさなまでに落胆の溜め息を吐く。
早口で、文法は至って粗野で、この荒々しい妊婦が身分の高い出自でないことは一目瞭然だった。
相手の姿を頭のてっぺんから足先まで、ついでに股間を経由して、じろじりと無遠慮に見定める。

「ちッ、お前の父ちゃんでも脅してやろうかと思ったが、とんだ大損だ。
 ほら……見逃してやるから、とっとと帰れよ」

テルヴェ > 解放された自らの二の腕をさするテルヴェ。服の上から握られたというのに、妙に痛い。
目の前の女性が只者でないことを示唆する、数々の要素。とはいえここは冒険者の集う地、この程度鍛えている婦女子方も大勢いよう。
粗野で乱暴な身振り手振りと口調は、自分が今までに何人も見かけてきた冒険者のアーキタイプそのもの。
そして、ここはそのような人種が居るにはそぐわない地区であることも知っている。

「……野郎を引っ掛けて、一発致す……え、えと……その体で、ですか?」

相手のセリフをオウム返しにしながら理解しようとするテルヴェ。
その発言の意図することはニブチンのテルヴェでも分かる。しかし、にわかには理解しがたかった。

「……な、なに考えてるんですか、お姉さん!
 そんなにお腹を大きくしてるのに、そ……その、しょ……しょう……えと………え、えっちなことをしようだなんて!
 中の子に悪いですっ! 身体をいたわるべきです!」

威圧と恐怖に声を震わせ、途中顔を赤らめ言葉を濁しながらも、テルヴェは怪力の女性に対し食ってかかる。
普段から気弱なテルヴェ、逃がしてくれると言われた手前は一にも二にもまず逃走を図るところであったが、自らの倫理観と現状の不条理との拮抗が勝った。
妊婦に対し、正論といえるセリフを吐く。そしてやや遅れて、余計なことを口走ってしまったという予感が心の隅に湧き始め、後悔の涙が浮かぶ。