2023/01/15 のログ
ヴィルア > 富裕地区の一角にあるリルアール邸宅
蔦に囲まれた男の紋章が特徴的な、貴族の屋敷
今日はそこに、客人が来る予定である

なんでも、学院に居ながら高級ポーションを難なく生成して見せるという逸材
しかもまだ年若いため、これからの躍進が期待される相手だ
そんな相手となれば、ここの次期当主が放っておくはずもなく
早速学院側に打診し、その少女を屋敷に連れてくるように【お願い】をした

積んだ金の甲斐もあってか、何事も無ければ馬車に送迎されて少女は屋敷にたどり着ける
少女には、【君の力を見込んで頼み事がある】と連絡が入っているはずだ

まず馬車から降り…広大な庭を通って重い扉を開ければ、赤を基調とした煌びやかなエントランスとそこで働くメイド、執事などが見える
そして執事の一人が恭しくお辞儀をして、少女を2階へと案内するだろう

『こちらへどうぞ』

途中、メイドが紅茶を乗せたトレイを持って合流し、器用に主の部屋をノック
中から返ってくるのは、まだ青年の色を残した若い声だ

「ああ、待っていたよ。どうぞ入って座ってくれ」

メイドが扉を開ければ、そこは次期当主の部屋
入って奥には執務机があり、いくつかの羊皮紙が積まれている
左右には彼のコレクションか、酒が並べられた棚があり…左奥には寝室へ続く扉

入ってすぐ正面には高価なガラスで作られた机があり、その両脇に革張りのソファが置かれている
当主自体は、優し気な金髪青目の青年だ
特に威張り散らすこともなく、少女に対してもレディを扱う仕草でソファを指して座るように促そう

少女が座れば、体面にゆったりと腰を下ろし…まずはじ、と少女を見つめるだろう

ティリエ > その日は、いつものように学院で授業という名の実験に明け暮れていた。
と、そこへ職員がやや慌てたように入ってくる。
教授から伝え聞いたところによると、何でも貴族様から名指しで呼び出しを受けているらしく。

「わ、私……何も悪い事なんてしてませんっ!」

必死に弁明する少女を、むしろ光栄なことだからと職員が宥めすかしたのが一刻ほど前のこと。
あれよあれよという間に、豪華な場所に乗せられて、貴族様の屋敷まで来る羽目になってしまった。
錬金術にはお金が掛かるから、貴族の覚えが良いことは決して悪いことではないと頭では理解できるのだけど。
ガチガチに緊張した少女にとってみれば、そんな未来のことを考える余裕はなく。

「し、失礼、します。その、お呼びにより、まかりこしました。
 王立コクマー・ラジエル学院、錬金学科所属のティリエ=ルーミルと申しましゅ……」

促されるままにソファに座ると、まるで身体が沈み込むかのようで。
じっと見つめられる中で、慣れない言葉遣いで必死に挨拶を口にした結果―――
最後の最後で嚙んだ。それはもうはっきりと。誤魔化しようがないくらい。
やってしまった、とたちまち真っ赤になる顔。
もしかしたら貴族様はもちろんのこと、執事の方やメイドさんにも笑われているからもしれない。

ヴィルア > そう、何も悪いことなどしていない
屋敷の中の雰囲気はよそ者に対するものではなく、客人に対しての丁寧なものだ
当然、少女の挨拶を聞いても応接室で笑うものはいない

とは言っても、和ませるために当主だけは柔らかい笑みを浮かべているが。

「ああ、名前は聞いているよ、ティリエ嬢
どうか楽にしてくれ。今紅茶と菓子を用意させるから」

くすりと…馬鹿にするような笑みではない表情を見せてから、彼もソファに深く沈み込む
すぐにメイドが透き通るような赤の紅茶を淹れ、さくさくと舌触りの良い焼き菓子と共に少女の前に差し出す

「好きに食べてくれていいからね。学院から聞いているとは思うが…今日、君を呼んだのは他でもない
学院生でありながら、卓越した技術を持つ君に早めに声をかけておきたくてね。言うなれば、先行投資したいと思っている」

まだ混乱しているだろうから、少し間を置いて
怒ったり馬鹿にするような雰囲気は微塵も出さず、用件を言って少女の反応を見ている

ティリエ > 緊張はすっ飛んだけれど、代わりに羞恥に苛まれる。
穴があったら入りたいとはこのことで。
あいにくと貴族様の執務室に隠れられるような場所はなく、ふるふると羞恥に耐え忍ぶばかりだったけど。

出された紅茶やお菓子にしても、手を付けていいものなのかと思い悩む。
何せこちらは度が付く田舎の村出身。
礼儀作法なんて、昔王都に住んでいたという師匠から教えて貰っただけの平民でしかなく。
しばらく悩んだ末に、爽やかな香りの立ち昇る紅茶におずおずと手を伸ばして、そっと口をつけ。

「そ、その………もったいない、おことば、です。
 でも、どうして……私に、お声掛けを……?」

確かに下ろしているポーションはギルドでも評判が良いとは聞いている。
先行投資の話は素直に嬉しいけれども、他にももっと有望な生徒はいるはずで。
失礼にならないようにと気を遣いながらも、一番気になる部分だけは聞いておかなければと。

ヴィルア > 「ふむ。説明しようか。まずは年齢だ。
その歳で上級ポーションまで作成できるとなると、遅かれ早かれ他の商家や貴族から声がかかっていただろう
君が成長していけば、更に良いものを今後作れる可能性が高い、というのが1つ」

落ち着いた声で言いつつ、一本指を立てて説明
そしてもう一本指を立てて

「そして、君に投資していれば…君が成長した時、その成果を私の家が受け取りやすくなるだろうというのが2つ目
…あの時、君を支援しただろう?とね。
契約には、もちろんその辺りも含まれているが君にとって悪い話ではないことは確かだ

更に言えば、ポーションというのは一定の需要が見込める
冒険者といういい卸先があるからね。その販路を大きくできるのはいいことだろう。

簡単に言えば…。私が欲しいものを君が持っている、と思ってくれればいいよ。自覚は無いかもしれないけれどね」

つまりは将来性を見込んで、というのと…ポーションが実用的な商品だから、という理由だと
他にも有望な者は居るだろうが、生憎と今は魔法や武力の才能は追加で欲しくは無い
できるだけかみ砕いて伝えつつ、メイドに合図を送り…執務机で書類をいくつか用意させておく

「それで、今のところ君の気持としてはどうかな?
私の家を手伝ってくれれば、研究資金はもちろん、追加で給金も出そう」

ポーションの効能についてはギルドが実証しているため疑う余地もない
だからこそ、この条件にどう食いついてくるかを見ていて

ティリエ > 滔々と説明される内容は、ともすれば右から左へと流れていきそう。
それをどうにか必死に嚙み砕いて理解する。
貴族様が先行投資したい理由は分かるけれど、やはり何故自分なのかという疑問は尽きない。
他のお手付きになる前にということではあるようだけれど。

「そ、その……とてもありがたいお話なので、びっくりしています……
 でも、お給金をいただける……というのは……どんなお仕事なんでしょうか。」

今の気持ちはと聞かれて、素直に驚きを口にする。
パトロンとして研究資金をいただけるというのも魅力的ではある。
今はまだ学院で学ぶ身だから、素材調達はさほど苦労していない。
けれど今後、入手が難しい素材を扱うようになれば、研究資金は必須となるわけで。
ただそれはあくまで近い将来の話。
今日明日の話としては、日々の生活費を賄えるというだけで学業に専念できる。

美味い話には気をつけろと両親に口酸っぱく言われていたことを思い出しながらも、
そこには食い付かざるを得ない。
貴族様に問いかけることさえ失礼に当たるかもしれないと、内心では戦々恐々。
誰か助けて、と思いはすれど、その貴族様の屋敷の中で助けてくれる人がいるはずもなく。

ヴィルア > 「ああ、それはそうだ。いきなり仕事の内容の話もせずまくし立ててしまった」

すまなかったね、と逆に謝りつつ
少し考えてから口を開く

「まずは上級ポーションの卸先にリルアール家を入れて欲しい
ああ、ギルドの邪魔をするつもりは無いから安心したまえ

後は、指定する薬の製造
材料その他必要なものがあればこちらで揃えるから、指定した薬を一定量精製、検品後、納品してほしい

後は…そうだね。
君自身の生い立ちにも興味があるからたまに呼び出すので、こうして話に付き合うことぐらいか

もちろん、薬については期日さえ守ってもらえれば学院に通っても良いし、自由だ」

紅茶が無くなれば執事が丁寧に足してくれるだろう
クッキーを零したとしても、咎める様子もない
そんな中、淡々と仕事内容について説明をする当主

「他に質問はあるかな?」

と、あくまで優し気に首を緩く傾げて聞いてみる

ティリエ > 仕事内容を聞いても、ごくごく普通に錬金術師に依頼すれば事足りるような内容
わざわざお抱えにするほどでもないような気がする。
それだけに、他に何かあるのではと疑ってしまう。
とはいえ、こんなチャンスは滅多にどころか、今後は絶対に巡って来ないだろうと思うと答えは出せず。

「えと、上級ポーションは問題ないです。
 薬の方も、ご依頼があればお作りしますけれど……まだ見習いの身なので、ご期待添えるかどうかは……」

質問した以上は、きちんと答えないといけない。
ギルドもまさか貴族様相手にギルドを通せなどとは言わないだろう。
だとすればひとつ目は問題ないとして。
ふたつ目のほうは、お店で扱われている一般的な薬ならひと通りは作れるものの、
病気の治療薬などはそれぞれに専用のレシピがある。
その部分には少し不安そうにして。

「その、お話って……私なんかの生い立ちを聞いても面白くは……」

今でも緊張で胃に穴が開きそうなのに、定期的に呼び出されるとなると、それが一番の難関かもしれない。
お茶とお菓子は美味しいけれど、だからと言って頻繁に来たいかと言われるとそうではない。
もちろん貴族の庇護を受けるなら、慣れないといけないのだけれど。
思わず相手の言葉を否定しかけて、失礼に当たると慌てて口を噤む。
おずおずと相手の様子を窺うようにしてから。

「いえ、大丈夫です。その、私でよろしければ……よろしくお願いします。」

最初から、断るという選択肢はあって無きもの。
これ以上質問を重ねても、相手の不興を買うだけだろうと素直に頭を下げて。

ヴィルア > 「薬の作成については無理強いするつもりはないさ
ただ、今後も錬金術師を続けていくなら練習機会は多いほうがいいだろう?
できうる限りのサポートは約束するから、勉強がてらやってみてほしい」

失敗しても、その分の報酬が減るだけでそれ以上ペナルティは無いと説明する
難易度が高いものも混ざるだろうが、それはそれで練習として使えと

「ああ、よろしく
…まだ怪訝そうな顔だね。…何、普通に大人の錬金術師を雇うより安くつくのさ
慈善事業というわけではないからね。君の才能を利用させてもらうだけだ」

また微笑みを浮かべて理由を付け加える
必ずしも少女だけにいい話ではないのだと
そして、メイドに合図すれば執務机で書類を纏めていたメイドが羊皮紙を一枚持ってくる

ずらりと、細かく諸注意や免責事項等々が書かれた契約書だ
下部には署名をする欄があり、書いた名前が消えにくいようになっている

「では早速これにサインを
後、よければこの後…言った通り、このまま君の話を聞かせてくれ
君がその歳でどうやってそれほどの知識を得たのか、非常に興味があってね」

早速仕事だ、と軽い調子で笑いながらぐ、と近寄る
早く慣れて欲しいという思惑があるように思えるが…

その実、契約書にさらりと書かれている『会話の際はティリエ嬢個人で叶えられる限りの依頼を聞くこと』という条項を意識させないように
わざと圧迫感を与えることで相手を動揺させる狙い
しかも貴族との契約を破れば、貴族から学院に悪評が届くことに他ならない…という罠だ

ティリエ > 「それは……その、そのとおりです。
 ありがとうございます、がんばってみます。」

依頼されたものを納品できなければ、普通はペナルティが付くもの。
ギルであっても、見習いであっても、それは言い訳の埒外である。
それが単に報酬が減るだけとなればハードルはずいぶんと下がる。
懸念がまたひとつ減ったとなると、少しは落ち着いてきて。

「そういうものなんですね。
 こちらとしてはありがたいお話でしかないです。」

学院を卒業した一流の錬金術師を雇うよりも、学生を雇った方が安くつくのは確かだろう。
羽振りの良さそうな貴族様でも、そういう節約はするんだなぁ…と変なところで感心してしまい。
メイドさんが持ってきた契約書を軽い気持ちで見ると、ずらずらと細かい字が並んでいる。

「う……」

これ全部読まなきゃいけないのかと思うと頭が痛くなる。
身を乗り出してくる貴族様を待たせることになると思うと、少し収まった胃の痛みがぶり返す。
ざっと流し読んだ限りは、言われたことに反するような内容や、こちらの不利益はないように思えて。
契約書に書かれた文字とは違って、流麗とは言い難い筆跡でサインする。
これで貴族様のお抱え。生活の心配はしなくて済むと思うとひと安心だけれど、同時にどんな依頼があるかと不安も入り混じり。

「これからよろしくお願い致します。何とお呼びすれば、よろしいでしょうか。」

サインした羊皮紙をメイドさんにお渡しして。改めて目の前に座る雇用主に頭を下げる。
早速、話を聞きたいということだけれど、それよりも先に失礼にならない呼び方を当の本人に訊ね。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からティリエさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からヴィルアさんが去りました。