2022/09/05 のログ
マーシュ > 数はないですが、個室になっているから大丈夫ですよ、と先んじる様につげる。
馬車だまりに馬車もなかったところを見ると今は利用者もいないだろう。

それ以外の杞憂については、それとなく聞こえてくるものはあるのだが、実際に目にしたわけではない。ただ、神殿騎士、とされる彼らは王城にもかなりの数所属しているのは事実なため、彼が王城に近寄らないのはそれなりに理由があるのだろうと思ってはいる。

「格好悪い、ですか……?」
意外そうに首を傾けた。
傷の深さなど人それぞれだ、要する時間もまた各々変わるものではないだろうか、と思うままに言葉を重ね。
少しだけ軽くするような物言いに、口元を軽く笑ませたか。

「痛みや、傷と向き合うことは格好悪くは思いませんね」

入口の扉を開く、小さなエントランスを抜けた先に簡素な木床の狭い廊下、片側の壁に並ぶ扉。言葉通りに、一応個室の体を成しているが、扉の数はそう多くはない。
空室を示す様に扉は薄く開いていて、お好きなところに、と案内した。

室内は広くはないがテーブルと椅子。お茶の用意が軽くできる程度の設備が供えられていた

「なくはないのはご存じでしょう?……ただ、そうですね、迷ってはいます」

ほっと息を吐いた相手を椅子なりソファなりに促して、お茶の用意に棚の茶器を確認するために先に立ち。

ヴァン > 貴族は家の争いなどがあるから、個室はその配慮か。己もその階級にいながらすっかり縁遠く感じる。

「うーん、そうだな。顔で笑って心で泣いて、というか。いい大人は本当に親しい人間以外には内面を見せないものさ。
いや、ならさっきのも問題ないか……?
俺は結構痛みを避けて生きてきててね。攻撃は盾で受けるか避けるかしてるんだ。舐めれば治る程度の傷しか負ったことがない」

途中で独り言のように。マーシュに伝えたことを言っているようだ。
掌で己の腕や胸、脚を軽くはたく。傷一つないとでも言いたいのだろう。
そういう意味じゃない、ということは笑った顔から理解しているようだ。一方で、男はその分心の痛みに弱いのかもしれない。

入口から一番近い扉に入ると、椅子の一つに腰かける。窓の外を見遣ると、もう日没が近いようなのを見て取った。
やや街の中心から離れた場所にある。道は決して明るくはない。
迷っている、の言葉に対しては続きを促すように。

マーシュ > とかく家格や、立場、体面を気にする彼らのために、個室にしてしまったほうが問題が少ない。宗教施設ということで、体裁を整えたところで結局は彼等の満足するものではないだろうが。

妙な方向に転がって言った言葉に、小さく笑う。
当然そのミスリードはわかっているからこそなされたものだろうが。
──それが己の弱さを理解し、隠す類の言葉であれば、彼の面子を保つためには今はみてみぬふりをすべきなのかもしれない。
ただ、その過去を耳にしたら十分、痛みに耐えているのではないかとも思う。


個室の一つで腰を落ち着ける相手を横目にお茶の用意をする。
お茶が名産の彼の地元を思えば己が用意するのはおこがましい気もするが、まさか彼にそれをさせるわけにもいかないだろう。

簡易の調理台で湯を沸かす。そういったことが可能なのは熱源が魔石など、魔導的処理を成された道具が用意されているあたりは手が込んでいる。

己の言葉を促すように沈黙が続けられると、やや重たい唇を開く。

「……出向が決まった際にいただいた言葉を、どう受け止めていいのか、を考えあぐねております」

当時は額面通り受け取った。けれど今は、うがった見方にもなってしまう。
問いただすにも、まだ己はきちんと己として立ててはいないのだ、とも。

言葉の合間に、茶器を温め、茶葉を蒸らす。
仄かに香るお茶の香りが室内に揺蕩うのを感じながら。

茶葉が開いたところで温めたカップにお茶を注ぐ。
多少花の香りがするのは、香草が混ぜ入れられたブレンドだからだ。

どうぞ、とカップを差し出して。

「ヴァン様のようにはいきませんが──」

ヴァン > お、と何かに気付いたのか、にこりと笑う。

「おや……さっきも思ったが、マーシュさんが笑うとは珍しい。うん、いい笑顔だ」

穏やかな彼女が笑う姿を、知り合ってからあまり見た記憶がない。
男が意図的に発言して引き出した感情表現は恥じらいや不信感、驚きなどくらいか。
振り返れば彼女にとって笑みが出るような内容ではなかったのだから、当然かもしれない。

お茶ができるのを待ちつつ、口が開くのを待った。

「そうだな……院長は具体的には、なんと?
いや、俺も飲むのが好きなだけで、淹れるのが上手い訳では……」

一般的にはどうとでもとれる内容だろうと推察する。
出発前の彼女と今の彼女は大きく違う。後で言われても言い訳ができるような曖昧な言葉だろうと。
興味本位なだけではなく、力になれるかもと思い助力を口にする。
カップを受け取ると軽く息を吹きかけてから飲む。鼻に抜ける香りを愉しむようにゆっくりと息をした。

マーシュ > 「…………珍しい、ですか」
そういわれてしまうと困ったように己の頬を撫でた。
あまりそういったつもりはないのだが───そういえばそうだったのかもしれない、と思案する。

「……さほど変わったことではございません。送る言葉としては至極普通の……」

だからこそ、己が揺らいでいては正しくその意図は組めないでしょう?と続けたのちに

「……『すべては神の思し召し』と。すべて、とは何を意味するのか、どのような環境の変化を意味していたのか、と今はそう考えてしまいます」


ため息交じりに。
院長が、知らなかったとは思わない。選出されたあいまいな理由も今なら理解はできようものだが。
いったいどんな立場からの言葉だったのか、は今は見えない。

カップを受け取った彼が、軽く冷ますようにしながら香りを楽しむのを眺めつつ、ポットウォーマーでポットの保温。
立ったままでいるのも他人行儀な気がしたのか、こちらも対面の椅子に腰を下ろして。
夕暮れの日の陰りを窓越しに眺めやる。

ヴァン > 「マーシュさんは生真面目だからなぁ。
ただ、俺は君の笑顔が見れてよかった。なんか、自分だけが知っているみたいな優越感にも浸れるし。
……なるほどな。一般的な言葉だが、「何が起こっても知らねーぞ」ととれるし、状況にも合致する。
一方で、君と院長の関係がどれだけ良好だったかわからないが、今回の出向の危険性を忠告したともとれる。
出向について院長はトップとして判断したのか、あるいは何者からの影響を受けて中間管理職のような立場だったのか。
今はわかりようがないか」

それこそ直接問いただすのが一番なのだろう。男の場合、暴力という短絡的な手段が頭の中にあるのが良くないところだ。
何度かに分けて紅茶を飲み干すと、カップを置いた。かつん、と硬質な音が響く。

「ごちそうさま。そろそろ帰るとするよ。
とはいえすぐに暗くなる。マーシュさん、王城へ帰るなら送っていこう。
俺も一人で自室に帰るよりは、回り道でも友人と話しながらの方がいいからさ」

今の関係を友人と呼ぶのは男の中で一瞬ためらったが、あえて口に出した。

マーシュ > 「……」

向けられた言葉にはわずかに沈黙する。
無言のまま己の頬肉をつまんで、表情を動かす、児戯のような仕草を見せたが、続く言葉にそれをやめて。

無言のまま彼の言葉に頷いた。
問うてもはぐらかされるだけかもしれないのは織り込み済み。
相手のような直接的な手段は今のところ女にはなかったが。

「他の孤児がそうであるように、親がわりではありましたから、あまり過激なことはしたくはないですね」

他愛もない、というには少し重いような軽いような、けれど他ではできない言葉を交わすうちに、カップの中身も尽きたのなら、それを潮にして。

相手の申し出に、窓の外を見やり、穏やかな時間と言えども流れてゆくのを感じた。


「────」

友、と呼ばれたことに対しては、少々意外そうに、けれど存外居心地は悪くなかったのか目を細めた。
その言葉が正しく今の関係性を示すかどうかは置いておいて、純粋な嬉しさを伝える様に。

「ええ、ではお願いいたします」

ヴァン > 児戯のような仕草には穏やかな笑みを浮かべたままだが、肩が若干震わせ、笑うのをこらえる。

「恩はある、か?長男のスペア代わりの三男坊としては同意しかねるが」

育てたことにすら意図がないかとの言葉を紡ぐ。
申し出が受け入れられたならば、善は急げ。自分が飲んだカップを炊事場の方へと持っていく。
女が王城に戻るまでに必要な片づけを手伝いつつ。

「じゃあ行こう。悪い連中は暗い所に引きずり込もうとするからね。
マーシュさんが一人で歩くには、まだこの街は危ない」

道案内というか、街を安全に歩くコツを教えつつ霊園から去っていく。

マーシュ > ……なぜ肩が震えているのか、を無言のまま見やったが、追及することはなく。
ただ、どこか皮肉気な言葉には首を横に振る。

「でなければここでこうして言葉を交わしている私はいなかった、とそういうことにも通じますから」

意図があったとして、それでも生きてはいる。それは事実だった。
相手の厚意に甘えることにして、使用した茶器などを洗い、片づけて。

「……───私は子供ではないのですが───」

まるで街歩きを始めたばかりの子供に対するような気遣いには若干の抗議の声を上げつつも、その帰路において安全な歩き方を教授してもらうことには素直に従ったのだとか───

ご案内:「王都マグメール 富裕地区/墓地」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/墓地」からマーシュさんが去りました。