2020/07/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にフォティアさんが現れました。
■フォティア > 街の石畳に、硬質な靴音が響く。
夜ともなれば静けさに包まれる富裕地区。
居を構える平民地区からまだ猥雑な賑わいが聞こえてくる時間帯だが、この辺りはそういう場所ではないらしい。
時折、警備兵らしき姿が通り過ぎる。
その通りの一角を、聊か物慣れない様子にて歩く少女の姿が一つ。
夜に溶け込みそうな黒いワンピースに、それとは対照的な夜からはくっきりと浮き上がる銀の髪。
長い胸には布包みを大切そうに抱いている。
「──……ええと。たしか、この辺りのはず…」
手の中の小さな紙片へと何度も視線を落としながら、街路の名前を確認する。
依頼の品──本の修理を頼まれ、それを届けに来たのだが、どうやら迷ってしまったらしい。
困ったように、街角で足を止め、僅かに首を傾げて高級そうな住宅の並ぶ通りを見渡した。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にヴィルアさんが現れました。
■ヴィルア > 「――――ふぅ……」
商談を一つ終え、たまには歩いてみるかと…
女性の護衛を二人連れて富裕地区を歩く貴族。
歩いている最中でも思案を巡らせるため、敢えて静かな道を選んでいく。
この富裕地区でも、夜だとしてもある程度騒がしい通りはあるにはあるがそこに行く気分ではない。
そして、その途中
「……ん?……、珍しいな。何処かで見た気はするが…」
月光を反射する綺麗な銀の髪。
装飾や服装のランクから見て恐らく平民地区の住民だろう。
しかし、少女が一人ここを歩いているのは目を引く。
商売事関係でちらりと記憶を掠める程度で名前も知らないが…その容姿はうっすらと男の記憶の中にあった。
これがただの貴族なら無視して通り過ぎるところだが、商売人に近い彼としては気になったことは突き詰めたい。
「…やあ、こんばんは。レディ。何か探し物かな」
商売人としての笑顔。丁寧なお辞儀。
相手を警戒させないためのそれらを見せて、街角で足を止める少女に声をかけよう。
■フォティア > まだ祖父が営んでいた貸本屋を継いでから、幾ばくも無い。
ゆえに、そうそう富裕地区の得意先へと出向く機会もなく、地理には明るくなかった。
一軒一軒が余裕をもって並ぶ豪邸を息を呑むようにして見上げていても、当然此処の通りの名など知れるはずもなく──聊か諦めたような吐息を一つ。
こうなっては、先ほど通り過ぎた警備兵へと声をかけずに通り過ぎたのが後悔の種となる。
どうしても長身とは言えない、小柄な少女が声をかけるには躊躇いを覚える厳つさだったせいもある。
「………………え?」
一度大通りにでて案内を乞うか、それとも……と、途方に暮れて遠い目をしていたところに、耳に届く複数の足音。
それに釣られるようにして、視線を向けようと振り返ったところに声をかけられて、目を見開くことになる。
瞬きを幾度か。
僅かに首を傾げるような角度のままに、かけられた言葉と品良い礼儀に、しばし戸惑いつつも、小さく頭を下げた。銀の髪の狭間から、僅かに尖った耳朶が覗く。
仕立ての良い上物の衣服と、そつのない振舞いにこの地区の住人と見てか。
「……こんばんは、貴族様。はい、届け物に赴いたのですが、道がわからなくなってしまって」
嘘を吐く必要はない。ゆえに、素直に正直に答えた。
こういう場合、下手に誤魔化すと不審者扱いとなることも少なくない。
礼のために下げた視線を上げて、少し、不思議そうに相手を見遣る。
■ヴィルア > 街を守ることを主とする警備兵とは違い。
貴族はここでは守られる側だ。
個人差はあるだろうが、だからこそ厳つさとは無縁の者が多い。
一応身体は鍛えているものの、貴族の青年もそんな一人だ。
「ああ。不敬は気にしなくて構わない。君が私を殺しに来た刺客でもない限り、護衛は特に何も言わないから。
私のことは…ヴィルア、と呼んでくれ。…ふむ、なるほど。道か……」
敬称を付けるかは任せつつ、相変わらず優しそうな笑みを浮かべ。
話を聞いて、少し視線を合わせるように膝を曲げる。
「ここは入り組んだ道も多い。まあ、ある貴族が好き勝手やった結果なのだが…
いや、それはいい。…その届け物の宛先、名前は誰かわかるかな?」
雑談を投げかけながらも、青年は少女を自然に観察する。
頭を下げた時に見えた尖った耳朶は…魔族である証か。
後ろ手に護衛に指示を出して…態度は変えないまま、警戒はするようにと伝え。
「名前がわかるなら…私は見ての通り貴族でね。丁度、後は屋敷に帰るだけだった。
私がわかる範囲で良ければ、案内するが…どうかな」
無理に相手の素性を明かそうとはせず。危害を加える気が無い事を示すように、両手は膝に付いたまま返事を待つ。