2017/08/28 のログ
シノ > ふわりとドレスの裾を靡かせ、一人の少女が富裕地区のある豪邸の門から姿を現わす。
肩までの長さの髪を左右に結わえ、紫を主体としたドレスに包まれている、そんな姿。
本日は商談で本人の来訪を求める声に応え、やってきたのだ。
商談は成立、これで王都内に自らが出す商品が出回り易くなっただろう。
生活をする中で関わりの深いものであろう、衣食住の中の、衣。
少女が生み出すのは、それである。
耐火性に優れ、汚れ難く丈夫、他にも色々と用途はあるだろうが、まずはそこから手を伸ばしていた。
もっとも…そう簡単にいかぬだろうに簡単に事が進んだのは、少女自身の持つ力もあってこそ、だが。

「これで、邸宅の皆さんも喜んでくれる事ですわね~。
最近は不用意に忍び込んでくれる方々も増えて…本当に、嬉しい限りですわ~」

ころころと楽しげに笑いながら、少女は帰路に付く。
自分の生み出した繊維による衣服が出回れば、それだけ状況の把握も楽になる。
まぁ、実際にしっかりとした衣服の提供も兼ねているのだから、人の側にとっても悪い話ではないだろう。
…そんな事実を知る事があるのならば、ではあるが。
それに、それなりに前の宴に何度か参加をしたからか、目を付ける一部の者が邸宅へと忍び込んでいた。
そういった可哀想な犠牲者達を美味しく頂き、精を、蜜を得て、何事もないと記憶を植え付けて帰す。
まさに、蜘蛛の糸に掛かる哀れな餌そのもの。

そういった事を思い出し、また楽しそうに笑うのだ。

シノ > 日も沈み、街灯が灯り、そんな大通りを行き交う人々の中を歩む。
今日は進めていた商談も終わり、その成果もあって気分は良い…そんな気がする。
他の者達と比べて感情というものをはっきりと持たぬ少女には、その程度にしか理解出来ない。
帰りの途中、邸宅で住まう子達にお土産でも買うのが良いだろうと、考える。
それも、そんな気分的なものというよりは、こうした方が後々の活力となるだろうとの思惑あっての事だ。

邸宅に住まう子達…様々な理由で拾ってきた、ミレー族の子供達。
その子達には、どんなお土産であろうと、余程変な物でなければ喜ぶものだろう。
なのだが、どうしても利害優先で考える少女には、特に喜ばれる物であるのが良いのだと、考えてしまう。

一度歩みを止めて、思案する。
何がどこで売っているのかは、この王都内すべてを理解している。
何を買おうか決まれば、それのある場所へとすぐ向かえるだろう。
大通りのど真ん中で立ち止まる少女、普通に考えれば誰かしらの邪魔になる。
それなのに、誰からも何の文句も出ずに行き交う人々は少女を避けて進んで行く。
これもまた、少女の力の一部であった。

シノ > 思案する時さえも、少女の表情は笑みが浮かべられている。
良し悪しはあるものの、総合的に考えて一番良いと判断したものだから…ゆえに、少女は常に笑顔であった。
そう、それは例え、獲物を前にした時であってさえも変わらない。
記憶には残ってないが、それは経験をした盗人が誰しも恐怖を感じたものだ。

ふと、何かを思い付いたのだろう。
思案するのを止め、その足の先をくるりと路地へと向ける。
その道が、それを求めるのに一番の近道。
少女はそのまま歩みを再開し、路地の中へと消えて行くのであった。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からシノさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にロザリアさんが現れました。
ロザリア > 夜も更け始めた頃
浮遊地区の一角にひらひらと黄金色の蝙蝠が舞い降りる

──蝙蝠は地面より少し高い位置をふわりふわりと羽ばたきながら、
やがて大きな黄金色の光に包まれ、少女の姿へと変わる

「──この街も、変わらぬな」

鈴の鳴るような少女の声
小さな体躯にどこか妙な艷やかさを湛えた少女はそう呟き、
カツカツと石畳を踏み鳴らし、ゆっくりと街の中を歩き始める

ロザリア >  
滅多と魔族の国の奥深く──水晶の谷に在る自らの居城から出ることもないのだが、
此処最近は上質な血に飢えている

冒険者や盗掘屋などが城に侵入することこそあれど、
所詮は一山いくらの、普通の人間の血でしかない

気品在る、良質な食事をとっている者となれば、
この国の中では王城か、この街に住む貴族達くらいだろう

「さて、生娘の血など飲めれば重畳ではあるが…?」

ロザリア >  
夜の王城に踏み入り、王族の血を飲めればそれが最高の成果だろう
しかし王城にはあの第七師団をはじめ、魔族がおいそれとは入れぬ結界を敷いて守りを固めていると聞く
──そんなことをお構いなしに侵入したり、人間に化けて入り込んでいる魔族や魔王もいるようだが
人間嫌いであるロザリアは人間に化けるくらいであれば、正面から結界を破って入るだろう
それもひとつ面倒、ということで貴族の街へと降りたったのだったが

「ふむ」

すん、と小さく鼻を鳴らす

いくつもの峰が見える貴族達の館はランプの光が煌々と窓辺を照らしている
芳しい生娘の血、馳走の香りは吸血姫の鼻孔を擽り芳醇に香る

「選り取り見取り、というものだな──」

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にセイン=ディバンさんが現れました。
セイン=ディバン > 富裕地区を歩く一人の少女。表情は明るくないものの、足取りは軽い。
時折立ち止まっては、頭を掻く。

「……星の巡りが濁ってる気がするわねぇ」

ここ数日の自身の経験を、とりあえず星とか、神様とか運命とか。
そういうもののせいにしつつも。少女は家路を急ぐ。が。

「……!?」

瞬間。身体に刃物を無数に突き入れられたかの様な感覚。
少女の保有する生存本能スキルが、過去最大級の警鐘を鳴らす。
今までに出会った、大妖。魔王。古龍。
そのどれらよりも強く強大な存在が、近くにいる。そう感じ取った。

(……え、えぇ? ここ、一応王都よね……。
 なんで!? なんでこんな、純粋に生粋なマジヤバの厄ネタが王都に!?
 どこ……どこにいるの? とりあえず、急いで家に帰らないと……)

懐には、ただの銃と、ナイフが数本。そんなもの、この相手には通用しない。
まだ姿も見えていないのに、少女はそう断定した。そのまま、少女は周りの人間に怪しまれぬよう、少しだけ足早に移動を始める。

ロザリア >  
「さて…… ──む」

どの屋敷の娘にしようか…と選び始めた矢先に…
其の中に混じる別の匂いを感じとる

「ほう…貴族の街中に、混ざり者……か?」

感じ取った"ソレ"へと向けて、ゆっくりと歩みを進める

かつん かつん

夜の帳が降りはじめた街の中
少しずつ人の密度は薄まってゆく

やがて、早足で歩く少女の元へと、甲高い足音は近づいてゆくだろうか──
ゆっくりとした足取りが、まるで得物をどこからともなく追い詰めるようなプレッシャーを発して……

セイン=ディバン > 少女とて歴戦の冒険者。とりあえず経験だけは豊富だ。
ドラゴンの討伐経験だってあるし、魔王の知り合いだって増えている。
だからこそ。判ってしまう。この相手には敵わない。いや、戦うことすら無謀を通り越して滑稽な冗談だ。

「ちょ、すいません。失礼します……!」

帰宅する人の群れを掻き分け、少しでも前へと足を進める。
捕まれば死ぬ。いや、捕まらなくても。捕捉されただけでもヤバい。
急いで逃げなくては。しかして、逃げていると感づかれてはいけない。少女は焦り、焦り、とにかく前へ。

「……!!」

ようやっと人の海を抜けたとき。後ろから確かに聞こえた。

かつん。かつん。

それは死刑執行人の足音か。あるいは、断罪の鐘の音か。
まだ。未だに姿は見ていないのに。追い詰められている気がする。
追われている気がする。少女は、いよいよなりふり構わず走り出した。
全力疾走+身体強化魔術。風もかくや、という速さで走り、路地裏に入り、一度大きく跳躍。
家を超え、別の路地裏へと着地する。

「……これで、撒いた……かしら」

袋小路の路地裏に身を潜め、息を殺す。いきなりの全速力加速だ。
相手が本当に追いかけてきていない限り……逃げられてもおかしくないが。まったくもって安心できないのは何故だろう。

ロザリア >  
「なぜ逃げる?」

少女の逃げ込んだ路地裏へ、高い音色のような声が響く
やがてその声を追いかけるように

かつん。かつん。

逃げ場のないそこへと足音が迫る
僅かに開けた黒雲、そこから覗く月の光が一筋、薄暗い路地へと差し込んだ

プラチナのような髪を夜風揺らし、吸血姫の少女は翠の瞳を少女へと向けている

「ミレー…ではないようだな。
 妙な香りを漂わせているが…ふむ…?」

不可思議な血の香り、とともに、自らが知っているものも同時に感じ、
吸血姫の少女は怪訝そうに、セインを見ていた

セイン=ディバン > 「~~~~~~!?!?」

距離にして、区画一つ分。人間の限界を超えた跳躍だったはずなのに。
相手は、自身を見失うどころか。追いついてきていた。
もはや、少女の混乱と恐怖は最高潮だ。不幸にも、袋小路に逃げ込んでしまった以上、逃げ場は無い。

「……はっ……はぁ……」

乱れる呼吸を、なんとか整えようとする。だが、まったく整わない。
そうして、足音と共に月の光が路地裏を照らし。
そこに現れたのは……幼くも美しい、追跡者の姿であった。

「……あ……ぁ……」

その眼に囚われた時、少女は死を覚悟した。
その姿を見た時、少女は恐怖で動けなくなった。
その声を聞いた時、少女は戦闘も逃亡も、する気力を失った。

その追跡者は、美しく、そして、明らかなる強さと気品を具えていた。
少女は、その美しさに心を奪われた現実を、恐ろしいと思っていた。

ロザリア >  
「──…この血の匂いは…成程。
 しかしなぜ人間の街に……?」

小さく呟くようにして言葉を零す、そして──

「貴様、ベルフェゴールの手の者か…?
 魔族ではないようだが、何故人の街にいる…何者だ?」

動けず、狼狽する少女を冷たい光を宿す瞳が見下ろす

「──答えよ。吾が聞いておるのだぞ」

セイン=ディバン > 「……?」

目の前の追跡者は、何かを呟いている。この隙に逃げられないだろうか。
……考えはすれど、実行する勇気はなかった。恐らく、実行したその瞬間には死んでいる確率の方が高いからだ。
だが、次に問いかけられれば。

「……え? ……ベルやんのこと、知ってる……?」

聞きなれた。最愛の人の名前。なぜ、目の前の相手が。
そう思っていれば強く、そして冷たく問われ。
少女は、一度大きく息を飲んだ。答えなくては、どうなるか。

「わ、私は、魔王ベルフェゴールの夫の、セイン=ディバンです。
 その、今は呪いでこの様な身体ではありますが。はい。
 貴女様のおっしゃっているベルフェゴールが、怠惰の魔王のベルフェゴールであるのならば。それは、私の、妻です」

背筋をピン、と伸ばし。速やかに答える少女。
まるで、学院で教師が見習い魔術師に質問したときのような様子というか。
とにもかくにも、少女は端的に簡潔に自己紹介を終えた。無論、ここで相手のことを尋ねるような無礼はしない。

ロザリア >  
「……ベルやん?」

怪訝そうな顔が更に怪訝そうな、ジト目になった
心なしか、張り詰めた空気が一気に和んだ気がする

「いや、なれの言う魔王ベルフェゴールのことで合っておるが…ベルやん…?」

しかも夫と名乗った
驚きはそれに留まらず、である

「怠惰の魔王の番いであったか。
 通りで血の香りに覚えがあるというものよ。
 思わず興を惹かれやってきてみたが…呪い?随分と可愛らしい呪いを受けているものだな」

やれやれ、とその細い肩を小さくあげて

「人の身なれど、魔王の番いが人の街で何をしているのだ?
 大人しく怠惰の魔王の身元におったほうが安全であるぞ。
 ──この街、ひいては国も、魔族は殺し合うべき敵であるのだからな」

セイン=ディバン > 「あ、いえ。違うんです」

何がだ。と問われそうだが。少女はとりあえず何かが違うということを主張した。
少女は、結婚して以来妻をちゃんと呼ばなくなった。
何故かと問われれば、まぁ気恥ずかしさのせいなのだが。

「さ、左様でございましたか……。いえ、その。それは忘れて下さい」

自身の言葉を繰り返し口にする追跡者。
流石に恥ずかしさがこみ上げてきたので、頭を深く下げてお願いしておいた。

「えぇ、はい。……血の、香り? それはどういう……。
 あ、はぁ。その。別の魔王様から、きっちりかっきり呪われまして……」

血の香り、という言葉に引っかかるものを覚え、尋ねてみようとするが。
呪いについて指摘され、思わず会話を引き戻されてしまう。
そのまま呆れたような様子の相手を見るが、とりあえず会話が成立しているので僅かに安心、であった。

「いえ、その。この街に住んでいるので……。
 と、いいますか。妻も今はこの街に一緒に暮らしていますし……。
 ……それは。如何様な、意味でございましょうか」

何か。飛び切りに。物騒な言葉が聞こえた気がした。

ロザリア >  
「別段隠すこともないが、
 吾は吾へとちょっかいをかけてきた魔王数名から血を飲んでいる。
 ベルフェゴールもその一人だ。あれとは敵対したわけではないがな」

血の香り、に対して反応したのは、
今は姿を変えられているといえど、大事に思う妻だからこそなのであろうと

「…ベルフェゴールまでもがこの街に…?
 ……呆れてものも言えんぞ。身を守る力くらいはいくらもあるのであろうが、
 ──如何様な意味も何も、そのままの意味であるぞ」

いつのまにかロザリアは黄金色の蝙蝠が集まってできた小さな空中の椅子へと座っていた
立ち話などは性に合わないということなのだろうけれど

「今も王城やその近辺では魔族の国へ攻め入るための話は進んでいるのであろう?
 貴様やベルフェゴールのような例外は数あれど、大局的な人の考えは変わるまい」

「人と魔族は争うものだ」

一度言葉をきり、はっきりとそう伝えて

「……別に其方らの在り方を否定するつもりはないがな。
 家に戻ったなら、吸血鬼ロザリアが祝福していたと伝えるがよい」

セイン=ディバン > 「……は。……え?
 ……それは……えっと、困りました。
 こういう場合、どう反応したらいいんでしょうね?」

血を飲む。つまりは吸血鬼。ヴァンパイア。そういう存在なのだろうか。
でも、敵対したわけではない。だけど、妻の血を飲んでいる。
少女の混乱は増大するばかりで。

「えぇ、その。なんだかいきなり、一緒に暮らす、と。
 ははははは。私も困惑しているのですけれども。まぁ、妻の希望ですし。
 ……そのままの意味、ですか」

いつの間にやら。椅子へと優雅に座る相手に。しかし少女は驚き馳せず。
むしろ、その振る舞いが似合っているものだから溜息すら出た。

「……らしい、ですねぇ。困ったことに。
 ……そうですね。それは確かにその通りです。えぇ。

 ……ですけれども。私は、それを変えたく思います」

相手の言葉は、正論であり。その情報も、少女自身も掴んでいる物であった。
つまり。人間と魔族の決戦が近づいているということ。
しかし、少女は相手の目を真っ直ぐ見て。ハッキリと。その未来を変えたいと口にした。

「とはいえ。ご忠告痛み入ります。そして改めてお詫びを。
 逃げるような真似をして申し訳ございません。
 ロザリア様。麗しきそのお名前。我が耳に入れられる幸福を嬉しく思います」

そのまま、少女は恭しく一礼をして見せた。本来の肉体である、男の時にするような。
まるで、騎士が姫に捧げるような一礼だ。

ロザリア >  
「頭は下げなくともよい。
 吾を煙たがる魔王どもと違いあれは友人と呼んでも良い希少な魔王であるからな。
 夫婦であるのならば貴様も同格であろう──名を聞いておこうか」

あの吸血行為が合意の上だったと言っても理解は遠かろう、と口にはせず

言葉を終えればゆっくりと地へと足をつけた
椅子となっていた黄金色の蝙蝠達は散り散りに消えてゆく

「無理だと断ずることは容易いがな。
 吾も魔術師あがり故、不可を可とする道は吝かではない。
 ……吾は人血を喰いものにする化物ゆえ、貴様に賛同はできぬが」

そもそも、この街へと降りたのも人の血を飲むためである
──しかし、貴族の娘が突然死んだ、消えたとなれば、騒ぎになるだろう
街に入り込んだ魔族の仕業か、それとも人食いの魔が街にひそんでいるのか、と
潜んだ魔族を炙り出すような騒ぎに発展しないとは言えない
目の前のこの少女と、あの魔王は意にも介さないかもしれないが……

「……吾も"散歩"は此処までとしよう。
 月に照り映える人々の街並みを眺めるのもたまには良いものだ」

翠の瞳を伏せ、くるりと踵を返しながら、そう呟いた

セイン=ディバン > 「はぁ……。左様でございますか。
 ……ふふふ。我が妻が聞けば、喜ぶと思いますわ。
 同格、ではないのですけれども。セインです。セイン=ディバン。
 本名は……捨てましたわ」

妻とこの麗しき追跡者が並ぶ姿を想像し、思わず笑いそうになる。
それは、とても似合ってもいそうだし。似合わなさそうでもあったから。

地に下りる相手の姿。改めて観察するが。やはり、力の差は凄まじい。
いや、力の差を感じるレベルどころではない。言葉通り。桁が違いすぎる。

「……お心遣いに、感謝いたします。
 魔術師……あぁ、いえ。無用な詮索でございました。
 ……? いえ、ロザリア様は化物ではないでしょう?
 無用な殺戮と、吸血鬼の吸血行為は明確に別物。一括りにして良い物ではありませんし」

どこか。優しくも聞こえる言葉に、再度頭を下げる少女。
しかし、最後の言葉にははっきりと反論をした。
貴女は。化物ではない、と。それは少女の本心であり、本音であった。

「……散歩、でございましたか。
 フフフ。もしもお気が向きましたらば。我が家へ訪れて下さいまし。
 妻の友人ともなれば、精一杯の歓迎をさせていただきますゆえ」

追跡者。蓋を開ければ、妻の知り合いでした。正に奇縁と言えよう。
少女は、背を向ける相手に、深々と一礼をしたままであった。
育ちは雑だが、礼節はそれなりにあるらしい。

ロザリア >  
本名を捨てた、というセインに深くは追求せず
暗がりの中でもよく見える、エメラルドのような瞳を向け直して
 
「…優しい言葉を向けるのだな?セイン。
 我ら吸血種にとっては食事であっても人から見ればそれは殺戮と何ら変わりはあるまい。
 人と魔の間に立ちたいと思うのであれば、魔に入れ込んだ考えは禁忌であるぞ。
 人も、魔も、どちらも臆病であるからな」

思わぬ反論に、視線だけをそちらへと向けたままクスリと笑う
人の血を吸う、ひいては命を喰らう
だからこそ人は吸血"鬼"と呼ぶのだ

「次の機会にはそうさせてもらうとしよう───ではな」

ドレスの裾を翻し、夜闇へと歩き消えてゆく

「(ううむ、しかし困った。どこで血を飲めば良いのだ?)」

内心そんなことを思いつつ、きゅう、と可愛らしく鳴るお腹を軽く抑えながら───

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からロザリアさんが去りました。
セイン=ディバン > その深い緑の瞳に見据えられれば、やはり肝は冷える。
うっかり相手の機嫌を損ねでもしたら。何が起こるか判らないのだ。

「……別に。優しいわけでは。
 それこそ、立場の違いでありましょう?
 ……はぁ。努々忘れぬように致しますわ」

その言葉は、教えの様でもあり。あるいは忠告そのものであり。
どこか。酷く悲しくも聞こえるものですらあった。

「はい。お待ちしておりますわ。
 ……良い夜をお過ごしくださいませ」

静かに歩き、やがて姿消す吸血鬼。少女はしばし路地裏に居たが。
数分の後、大きく息を吐き。命があることに感謝しつつ、路地裏を後にした。
……さて。妻にはなんと尋ねようか。そう考えながら……。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からセイン=ディバンさんが去りました。