2017/08/29 のログ
ご案内:「王都マグメール 子爵邸」にエルバートさんが現れました。
エルバート > 闇に染まった空とは裏腹に、子爵邸の大広間は目も眩むほど明るい。
磨き抜かれた大理石の床に、ダイヤモンドを散りばめたような煌びやかなシャンデリア。
そんな豪奢な調度品に負けじと派手に飾り立てた人々の群れが、奏者の奏でる音色に合わせて優雅にステップを踏んでいる。
皆、一様に刺しゅうの施されたマスクをつけて。

男は広間の隅で隠れるように壁に背を預け、小さく息を吐いた。
堅苦しい貴族家からほとんど家出のような形で飛び出した男にとって、こうした舞踏会は進んで足を運びたいものではなかったが、
自分を気に入り、こうして招待までしてくれた子爵の厚意を無下にするのは上策ではないだろう。

「申し訳ありません。少し酔いを覚まして参ります」

パーティーのホストである子爵に対し感情の見えない微笑を浮かべて断りを入れると、男はひとりバルコニーへと風を受けに向かった。

エルバート > 小さなバルコニーに先客はいなかった。人の熱気にあてられた頬に冷たい夜風が心地よく、男は長い息を吐く。
欄干に肘をついて階下の中庭を見下ろせば、明かりの少ない木陰でもぞもぞと蠢く黒い影が見えた。
目を凝らさずともその正体が何なのか、男には容易に想像できる。

「これはこれは……。随分とお楽しみのようですね」

どれほど身分の違いがあったとしても皆、今夜ばかりはそれを仮面の中に押しこめている。
一夜限りの逢瀬を楽しみ、衝動に任せて身体を重ねているのか、
或いは好奇心に突き動かされてやって来た世間知らずの令嬢や貴婦人に、その身をもって世間の厳しさを叩き込んでいるのかもしれない。

「ふふっ……。どちらにせよ、退屈なダンスよりよほど有意義でしょうね」

男は薄く笑みを浮かべ、ぽつりと独り言を零した。

エルバート > 不意に広間から現れた貴婦人に声を掛けられ、男は振り返る。
以前会ったことがある相手だろうか、正体は知れずとも、女のマスクの奥の瞳には明らかに妖しげな期待の色が灯っていた。
バラ色の唇から甘く請われたダンスの誘いに、男は血のように赤い瞳をそっと細め、挑発的な声音で囁き返す。

「相手が欲しいのはダンスですか? それとも――」

彼女がくすくすと愛らしい笑みを零したのをいいことに、その細い手を取り恭しく口づける。
そのまま互いの胸の内を探るようにいくらか言葉を交わすと、男は彼女の手を自分の腕に添えさせ、共に連れ立ちその場を後にした。

ご案内:「王都マグメール 子爵邸」からエルバートさんが去りました。