2017/08/19 のログ
■リーノ > 歩みを止めた少年と視線を合わせるべく、ごく自然と身体を屈め。
見た目から判断したように、子どもを警戒させまいと、穏やかな笑みを浮かべたままではあったが、
「そう、夜の散策…。でも、小さい子が一人でというのは…。
それにね、ほら、ボク、ちゃんとしたところのご子息でしょう?
よかったら、馬車を手配するし、護衛を付けても………。
あら、あなたは…ええと、時折屋敷に出入りしていたお店の…」
少年は物おじせず、見知らぬ自分に声をかけられても、しっかり返事もする。聊か古風な物言いだが。
見目も麗しい美少年、という風体なのだから、この少年の身の安全を思うと少々危うい気さえする。
しかも、少年本人は、まったくその危うさに気付かぬ危機感のない様子だから放っておく気になれず、
言葉を重ねようとしたものの、ふと気づいたように言葉が続いた。
よくよく見れば、見覚えがある風貌。
孤児院の子供たちに時折異国の本などを取り寄せてもらったときに店を利用したし、
屋敷の主が存命中、非合法の薬物を購入していたこともあったから、何度か屋敷で見かけたことがあった。
ただ、取り次いだのはすべて執事であったし、こちらは見覚えがあっても、少年にあるかは解らないが。
■ホウセン > 流石に富裕地区といえども、夜の闇を完全に駆逐できるだけの街灯は有していない。
半瞬の驚きに眼を曇らせていた事と相まって、その女の風貌を観察するのが疎かになっていたのを否めない。
頭の中の顧客リストをパラパラと捲り、行き当たった頁は中々に突飛な事柄と結び付けられていた。
あの夫の下でよく捻くれず世話焼きな性根を保っていられたものだと、余計なお節介以外の何物でもない述懐は、その産物。
「うむ、”草荘庵”のホウセンじゃ。暫く無沙汰になってしもうて恐縮じゃよ。
…ファーレーン公のことは、残念じゃったな。
謹んでお悔やみ申し上げる。」
小さく黙礼する姿から、目の前の小童が、女の素性を知悉していると伺えるだろう。
だが、儀礼上は兎も角、故人たる公に対しては余り執着がない。
強欲である他は、取り立ててこの妖仙の感興をそそる点が無かったのが主な原因。
悪趣味な立ち回りに手を貸したこともあるが、その”駒”として妻を使っている所まで客人が明かしていたかは、今暫し記憶を遡らなければ思い出せない。
「それはそうと、お客人にそこまで労を負うて貰うのは気が引けてしまうのじゃよ。
安んじて見守ってもらえれば幸いじゃが… 嗚呼、その顔では無理な相談かのぅ?」
商人としての矜持でそこまで言うが、納得してもらうのは無理筋か。
無碍にできず、さりとて誰彼かを付き添わされてしまうと、不埒な遊びがし難くなると引けず。
八方塞の中で繰り返される思考は、奇妙な形に捻じ曲がる。
「なれば…のぅ、ご婦人よ。
もしもお主が寝るまでの無聊を持て余しておるというのなら、儂が話し相手になるのじゃ。
その対価として、儂は安全な屋敷の中で夜が明けるのを待つことができる。
これは商談じゃな。」
荒唐無稽で厚かましい取引の提案。
女の厚意を断ったくせに、彼女の家に迎え入れろというのだ。
■リーノ > お店の名前は…とこちらはこちらで思い出そうと、じーっと少年の風貌を眺めていたものの、
異国の名は、どうにも耳に新しく、すんなり入ってくるには至らなかったから、なかなか思い出せない。
だから、少年の口からその名を聞くと、
「あぁ、草荘庵のホウセン様…ええ、思い出しました。
申し遅れました、お見かけしては居ましたが、私、リーノと申します。
主人のことは…ええ、そうですね、本当に残念ではありましたが、
ご丁寧にそれは…ありがとうございます。
屋敷に主人は居りませんが…引き続き宜しくお願い致します」
漸く思い出した異国の響きのある名前に頷いて。
亡き夫に言及されると、微苦笑を浮かべる姿に、悲しみよりはどこか他人事のような響きもあった。
亡き夫が使う薬やら道具やら、異国のモノも数多くあったし、
その入手先が目の前の可憐な、と言える少年の店であったのは驚きだったが、
事実さまざまな品を購入する際、多少色を付けて妻たる女の扱いを自慢げに話していたことは、こちらは知らぬこと。
だから、今まで何十、何百と言いつのった言葉は貞淑な妻を装うように自然と口をついた。
やや目を伏せて、物憂げな表情をするのも、あの動乱後、何度としてきたことだったから、ごく自然にそういう表情もできた。
「それは…えぇ、屋敷から帰る際にホウセン様に何かあればと心配になりますわ。
よければ、屋敷から誰か呼んで参りましょう」
少なくとも今宵少年が取っている宿までは誰かに伴をさせよう、とは考えているようで、
視界にも入っている屋敷の方へと一度視線を馳せた。
屋敷はすでに灯りは少なく、使用人たちも眠りについているようではあったが、一人、二人、少年の護衛になる者はいるだろう。
だが、思わぬ提案に、あら、とばかりに視線が再び少年へと落ちる。
「ふふ、それは嬉しいです、あ、いえ、商談、でしたか。
ホウセン様を一人送るよりも、朝を待つ方が私も安心しますから」
穏やかに微笑んでは、商談と言う少年の言葉に快諾するように頷き落とす。
可愛らしい少年の、ともすれば厚かましい提案も、こちらにしてみれば微笑ましい提案であるし、むしろ都合もいい。
何しろ、夜更けに少年一人帰らせずに済むし、屋敷の人間を起こさずに済む。
「ホウセン様は、遠く異国から参られたと聞いていますが、どのようなところなのでしょう?」
夜伽の話の一端にと、少年に興味を持っているようで、そんな言葉を掛けては、ごく当たり前に手を差し出して。
手を繋ぎましょうね、などと言ってのける辺り、お母さん気取りで少年を見つめ。
■ホウセン > 女の浮かべた表情に、抑制された口上に、何かしかの違和感を覚えたのは、”駒”であったことを聞かされていたからというだけではない。
人の営みに長く関わっている妖仙であるが故に、明瞭な言語化はできぬまでの小さな小さな引っ掛かりを覚えたに過ぎない。
だが、それよりも今は、屋敷の使用人という”保護者”を付けられて、健全な行程で宿に帰らなければならぬという事態を回避できたことに意識が向く。
故に、子供扱い以外の何物でもない手を前にしても、臍を曲げることもない。
寧ろ、幼げな振る舞いをして甘い蜜を啜る手合いであるから、抵抗感が元々薄いのだけれど。
握り返す商人の手は、骨格からして華奢で、細く、小さい。
男になりきれていない角のない造形で、体温はやや高め。
「うむ…?辺鄙な所じゃぞ。
北方帝国の更に東の端故に、田舎も田舎。
自然ばかりは豊富じゃが、きっと人の頭数よりも牛馬の頭数の方が多い…そんなところじゃ。」
必要の無い嘘を並べ立てる趣味は持ち合わせず、出自を明かす。
繋いでいない左手で袖を摘んでヒラリと揺らすのは、身に着けている服が、出身地の辺りに伝わっている装束であることを告げるため。
屋敷の至近で拾い上げられたものだから、女子供の足取りでも、程無く屋敷の門扉に行き着くことだろう。
門を守る家人の一人や二人は常駐しているかもしれないが、女主人となった存在の顔を見間違える筈もなく、またその客人扱いらしい小さな存在にも、奇異の視線を向けなくはないけれど呼び止める事はせず。
「ふむ、邪魔するのじゃ。」
他愛もない会話をしながら、道と敷地の境目たる門扉を通り過ぎ、手入れの行き届いた庭園を横目に玄関へ。
建物の中に足を踏み入れるのに合わせ、小さな挨拶。
幾度か、幾十度か、この家には招かれたことがあり、大雑把な構造は記憶しているけれども、何処に連れて行かれるかは女の胸先三寸。
食堂やら書斎に連れて行かれるのか、客間を与えるのか。
それもと、踏み込み過ぎのきらいさえある距離感と違わず、無防備にも自身の寝室へ案内するのか。
子供相手とはいえ、こうもガードが甘いと妖仙の内側で蠢動するものがある。
――所謂、悪戯の虫という奴だ。
時間と場所、それに亡夫から聞かされている女の役割を加味すれば、それが如何な方向性の悪戯になるかは言わずもがな。
■リーノ > 差し伸べた手をとってもらえると、その子供らしい、柔らかで幼げな手をしっかりと握り返し、ふふ、と嬉しげに笑みを零す。
そして、大よそ世間の親子がそうであるかのように、軽く繋いだ手を前後にぷらん、ぷらんとさせながら、
少年らしい声で紡ぐ異国の話に相槌を打っている。
「いいところではありませんか。
私、王都からあまり出たことがありませんから、どういうところなのかとても興味があります。
それに、ホウセン様のお召し物、そちらの物でしょう?色合いも綺麗ですし」
嫁に来て以来ずっと鳥籠に入れられた鳥と同じで自由などほとんどない。
そのため、少年の言葉に、興味深そうに頷いては、みなさんそんな服装ですか、などと、思い描く異国の姿に頬を緩ませ。
屋敷までは、数分、という距離でもない。
ほぼ敷地の端あたりで声をかけたから、鉄門の前まで来るのはのんびりとした足取りでも時間はかからなかった。
門番の男は、今は主となった己が戻ってくると、恭しく頭を下げて門を開けたが、
さすがに連れていた少年を見ると訝しがるような視線を向ける。
それをやんわりとした、穏やかな表情と視線で制してから、客人であることを告げ。
昼間であれば、暑い盛りでも花をつけている庭が見えたであろうが、今は夜露に濡れて影が落ちている。
屋敷は広く、2階建ての豪奢な造りであったが、すでに使用人たちも眠りについているようで、静寂が包んでいる。
ただ、執事の初老の男は、相変わらず折り目正しく出迎えては、先ほど対応した少年がやってきたのを見ても、
礼儀としてか、驚く姿もなければ、恭しく客人を迎えた。
「ホウセン様、私の寝室でよろしいでしょうか?
もう使用人たちも休んでいますし、持て成せるのは私の部屋ぐらいしかありませんから」
何処の部屋へと連れて行くにしろ、使用人たちの手を借りねば茶も出せない。
一方、寝室であれば、一人で寛ぐスペースということもあり、あらかじめ茶の用意や、ともすれば夜食にと菓子も準備してあるだろう。
それに、手を繋いでいるのはまだまだ年端もいかない少年である、母親ごっこみたいな気分でいるから、
少年に対する警戒心もないし、むしろ微笑ましい気持ちの方が先立つ。
一応の承諾を得るように声をかけたあとで、ゆっくりと歩み、階上にある寝室へと向かう。
廊下も階段の踊り場も、随所に高価な家具や美術品などの調度品が存分に置かれていた。
勿論、寝室にも、天蓋付の大きな、おそらく大人3、4人が寝ても余りあるような清潔なベッドが置かれてあったが、
それを置いてもなお、鏡台やら何やらが置いてあり、十分な広さがあった。
■ホウセン > 女主人の提案に、否を返す理屈は無い。
商談の為に、或いは納品の為に。
そんな用向きで訪れるのが主であったから、こうして迎え入れられた女主人の寝室には、初めて足を踏み入れる。
値踏みする、というまでは露骨ではないけれど、方々にキョロキョロと彷徨わせている視線は、まだ知らぬ部屋の中を探る為のもの。
未知の場所に連れられて落ち着きを失くしているというような、子供らしい情動とは趣を異にする。
「ふむ、やはり屋敷に見合うて広い部屋じゃのぅ。
それこそ、うちの使用人用に宛ごうておる寮と照らし合わせると、三人か四人か…そのぐらいが過せそうじゃな。」
感心したように頷きを幾度か。
繋いでいた手は、振り解くでもなくスルリとすり抜けるように女主人の手から離れる。
そうして自由を得た妖仙が向かう先はといえば、取り立てて目につく寝台だ。
余り行儀のよろしくない子供がそうするように、広く上等なベッドという”遊び場”を見出したなら一目散。
辛うじて雪駄は脱ぎ落としてからになるけれど、ピョンっと軽量級の身体を宙に放り出し、後は重力に引かれて隙なく整えられたシーツの上に落下する。
それでも寝台の反発が強固で肺腑を押し潰されるでもなく、柔軟に受け止められる辺り、逸品であるに違いない。
「…ぬ。儂としたことが。
こうも広い褥を目にしてしまうと、身体が勝手に動いてしまうものでのぅ。
ご婦人も儂に付き合うて足路させてしもうたのじゃし、此方で一服しては如何かのぅ?」
寝台の上を縦横無尽に横回転で一通り転がり回り、漸く満足した様子。
匍匐前進で縁まで手が届く位置に進んで、ポフッとベッドを叩いて女主人も腰掛けるように、提案の形をしたおねだり。
そうして距離を縮めたのなら、後は膝枕を強請るなり、後背からハグをしてじゃれ付くなり思いのままだ。
純真そうな風体をした純朴ならざる存在が、朝を迎えるまでにどのような振る舞いをしたかは、当事者達のみが知る事情で――
■リーノ > 寝室へと案内すれば、ごゆっくり、と声をかけ、一旦鏡台傍に置かれているワゴンへと足を向ける。
少年が視線を彷徨わせる様は、実に「子どもらしい」と思える仕草であり、目を細めながら、
やはり使用人が支度をしてくれていたお茶の準備と共にあった菓子の乗った皿を手にやってくる。
「広いばかりで、寂しいものですよ。何しろ…私一人ですもの。
ホウセン様のような可愛らしい子でもいればよかったのですけれど。
はい、よろしかったら召し上がりませんか、甘いお菓子ですよ」
やっぱりお子様扱いだが、マカロンのような色とりどりの一口サイズの焼き菓子を勧め。
だだっ広いともいえる部屋を見渡して、少し苦く笑ったが、ゆると首を振って、ベッドへと飛び乗るその様に、あらあら、と口では言うが、のんびりと笑っており、諌める風でもない。
ベッドヘッドに菓子の乗った皿を預け、ゆるとベッドへと腰を掛け、少年の所作を見ては、
「ふふ、可愛らしいですね、ホウセン様ったら。あらあら、ふふっ、甘えたさんですねえ」
無邪気に遊ぶ姿は本当に子どもそのものであり、ほんわかする光景である。
それを眺めてから、一度座り直すと、どうぞ、と己の腿を叩く。
可愛らしい少年との戯れに暫し癒されながらの夜のひととき、陽光が照らし、少年が屋敷を出るまで、暫し二人の時間は流れていく………。
ご案内:「王都富裕地区」からリーノさんが去りました。
ご案内:「王都富裕地区」からホウセンさんが去りました。