2021/05/12 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にエレイさんが現れました。
■エレイ > 「~♪」
夜。
ピーヒョロロと下手っぴな口笛を吹きながら、館内の廊下を一人のんびりと歩く浴衣姿の金髪の男が一人。
着込んだ浴衣は客室に備え付けのものであるが、男の着こなしは何故か妙に様になっていた。
それはそれとして、男は現在旅籠内を探検という名の散歩中である。
この旅籠は知らないうちに道が変わっていたり施設や仕掛けが増えていたりするので
男にとっては適当に歩き回るだけでもなかなかいい暇潰しになるものだった。
知り合いの従業員に聞いたところによると、その妙な特性のおかげで主に女性が迷ってしまう確率が高いらしいが……。
それはさておき、やがてT字路に差し掛かると、男は一旦足を止めて。
「──さて……どっちに行くべきですかねぇ」
右か左か。
廊下の中央で仁王立ちしながら、男は顎に手を当てうぬぅ、と唸りながら思案し始め。
「んんーむ……よし左だな、左へ行くべきと俺の中の何かが囁いている──おおっと!」
しばらく悩んだ後、男はおもむろに左側の通路へと踏み出し──その途端に、
ちょうど通りかかった誰かと出くわし、思わず足を止めて上肢をのけぞらせた。
■エレイ > 出くわしたのは一般の男性客。互いに軽く謝り合うと、男は再び歩き出し、何処かへと──
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からエレイさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にフローレンスさんが現れました。
■フローレンス > からだの調子がおかしいと訴えたところ、湯治を侍女に勧められた。
まがりなりにも王族の一員である身、そうそう遠出は出来ないけれど、
二、三日、王都のこの旅籠ならば、お忍びでならば、と、
段取りを整えてくれた彼女たちには、もちろん、感謝しかないのだが。
「なんだか、……ここのお湯に浸かるたび、酷くなる、気が」
脱衣所には侍女が控えているはずだから、ひとり、のびのび風呂を楽しむ、
それ自体に不安など無い、が、しかし。
鼻腔を擽る甘い香り、とろみのある薄桃色の湯に肩まで浸かっていると、
なんだか、ぼうっとしてくるのだ。
湯あたり――――とは違うだろう、思考が鈍るのは似ているけれど、
火照りを覚えるのは肌の表面よりも、お腹のあたり、もっと奥あたり。
濁り湯のなか、無意識に、両手でお腹のあたりを押さえ、
目を伏せて俯くと、じわり、と、不埒な記憶が蘇るようで。
「……忘れなきゃ、……あんなこと、覚えていちゃだめ」
そう、言い聞かせれば言い聞かせるだけ、記憶は鮮明になる。
そこから先へ―――――未知のあれこれに妄想の翼が飛び立つには、
絶対的に、知識も経験も不足しているのだけれど。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にゲーゲン・アングリフさんが現れました。
■ゲーゲン・アングリフ > 「……?」
馴染みの宿のなじみの風呂。
今宵も体の疲れを癒そうと訪れた男であったが。
脱衣所にて違和感を覚え、首を傾げる。
どう見ても無人のはずの脱衣所。しかし、なんだか。
ついさっきまで人がいたような気配、雰囲気。
「……清掃の人でも入っていたんでしょうかね」
う~ん? などと首を傾げ続けるまま。
とりあえずは浴場へと入る男。
そのまま、体をサッと洗い、今日はどの湯に浸かろうか、と。
そう考えつつ、静かに歩いていたのだが……。
「……あっ……」
そこで男は声をあげることになる。
目の前、湯気の向こうから現れたのは。
湯に浸かる、美しい女性の姿。
男自身、宿の黒い噂は聞いてはいたのだが。
実際大浴場で、異性に出会うのは初めてであり。
その噂が本当であった、と理解すると同時に。
どうしたものか、と。判断に困ってしまう。
■フローレンス > 他人の気配に耳聡く気づく、というスキルには、残念ながら恵まれていない。
だから、その人の存在に気がついたのは、短く、小さく、明らかに侍女のものではない声が、
湯煙の向こうから聞こえた瞬間だ。
「え、――――――――」
振り仰いだ双眸が、これもまた、明らかに、侍女ではない―――――
おとなの男の人の裸身を認め、こぼれ落ちそうなほど見開かれる。
肩まで浸かった濁り湯が、身体のディテールを隠してくれてはいるだろうが、
反射的に右手で胸元を、左手で下肢の中心あたりをかばいながら、
「あ、あのっ、……ど、どうし、て、―――――……」
侍女が居たはずではなかったか、それとも何か、とんでもない手違いがあったのか。
顔どころか耳朶も、首筋までも真っ赤に染めて、相手を見つめる眼差しも、
かける声音も、強張り、怯え切っていた。
■ゲーゲン・アングリフ > 目の前で、入浴している先客が振り返り、言葉を失う。
当然、男も状況が飲み込めていないので。
相手がするように、体を隠すことになる。
……といっても、男の場合、股間を両手で隠す形だが。
隠さないでいるのも、失礼だろうとの判断であった。
「え、えっと。それはこちらもたずねたい、と言いますか……。
清掃中の札も無かったですし、脱衣所にも誰もいなかったもので……!」
あわてて釈明する男だが。そこで閃き。
男は、相手の浸かっている湯へと……。
相手と距離を取りながら入る。
これなら、少なくとも注視しない限りは。
自分の股間が丸見えになることは無いだろう、という考えだが。
男は、入った湯が、なにやらおかしい、ということに気づく。
しかし、暖かさは本物なので、このままリラックスしたい、という思いも強まってしまう。
「……あの、もしかして。
貴女は位の高い女性で、脱衣所に、誰かを待たせていたりしなかったですか?」
脱衣所で感じた違和感について、思いつくことがあった男は。
相手と距離を取りつつ、そうたずねていく。
その間に、体の中で、なにやら熱が高まっていく感覚があるが。
まず男にとっては、相手の誤解とかをなんとかしなくては、という思いのほうが強い。
■フローレンス > ―――――相手の気遣いは有り難いが、はっきり言えば手遅れだった。
視力は決して悪くないので、湯煙の補正ありとは言え、
はっきりくっきり、淑女がみだりに見るべきではないものが、
もう、目を瞑っても網膜に焼き付いている有り様だ。
けれども、どうやら、悪いひとではなさそうだ。
なさそうだ、がしかし、――――――びくん、と水面で双肩が震える。
「だ、……誰、も…………?
そんな、……そんなはず、――――――――あ、あの」
それより何より、どうして同じ湯船に入ってくるのか。
さざ波だった湯が肌を擽り、こちらもぞくりと身体の芯がざわめいてしまう。
同じ湯船に、男の人と二人きり、というだけで、頭がくらくらしそうで、
もう、とても、まともに会話なんか出来そうになく。
「あ、……は、はい、あの、実は、……その、
居た、はずなのです、……わたしが、出るまで、
ちゃんと、待っていてくれるはず……で」
息が続かない、言葉が途切れがちになる。
逆上せているからか、緊張しているからか、それとも。
とにかく、ひどく呼吸が、鼓動が乱れ始めていた。
とろりと滑らかな、薄桃色の湯。
この旅籠の悪評とやらを、もちろん、世間知らずの『王女』は知らない。
■ゲーゲン・アングリフ > 男自身は、なんとか見られる前に隠すことが出来た、と思っている。
こういうとき、男性というのは『見られる』とか『視線』に疎いものである。
往々にして、見る側であることが多いからこそ、といったところか。
「いえ、確かに……。
もしも居たのでしたら、自分はここに入って来れなかったでしょうし」
驚く相手の言葉を聞きつつ、男は再度、誰も居なかった、と主張する。
そこで男は思案し、一つの結論へとたどり着き。
相手の身分について、ある程度の推理をした。
「……やはり、ですか。
その、脱衣所なのですが。誰も居なかったのですが……。
ついさっきまで、人が居たような気配が残っていまして。
……っ。その、大丈夫ですか……!?」
男の推理としては、宿の従業員が。
女性が入浴していると知った上で、脱衣所にいた人間をその場から引き離した、というものであった。
この宿の従業員なら、それくらいはやりかねない。
なにせ、『そういったこと』が売りになっているくらいなのだから。
そこで、相手の様子がおかしいことに気づいた男は、相手にゆっくり近づきつつ問いかける。
この湯……入浴している湯が、香りか。あるいは成分的なものか。
それにより、客の体に変化を及ぼすものではないか、と考え。
男は、相手の肩に向かって手を伸ばす。
もちろん、下心などなく、純粋に心配してのことだが。
男自身も湯の影響を受け……自覚していないが、すでに股間が、硬く張り詰めていた。
■フローレンス > 自身の下半身にも、ソレ、らしきものはあるけれど。
ほんの一瞬、見てしまったものは、とても、同種のものとは思えなかった。
思い出してはいけない、考えてはいけないと思うほどに、
不自然なまでに顔が、身体が熱くなる。
隠すために置いた掌の下、ずきずきと疼くような感覚は、
刻一刻と酷くなって―――――、
「あ、……ごめん、なさい、あの、
あなたを、疑っている、わけ、では、……そうでは、なくて、
――――――どうして、」
相手の言葉を疑うつもりは無いけれど、それにしても、何故。
己、一人では着替えすらままならないと知っている侍女が、
どうして、見張り役を放棄したのか。
薄桃色の水面を見つめたまま、ぐらぐらと頭が揺れ始めている。
具合が悪い、と判断して、手を伸ばしてきた相手は、決して悪くない。
けれども伸ばされた掌が、細い肩に触れた刹那―――――、
「ひ、ぁ………っ!?」
高く掠れた甘い声が、紅く火照ったくちびるをついて出た。
びくん、と大きく震え、反射的に己が身を抱き締めるように腕を回して。
心なし、先刻よりもずっと潤んだ眼差しが、こわごわと相手を見つめ、
「あ、だ、……大丈夫、です、………ごめ、……ごめんな、さ………あの、
――――――――わたし、もう、」
失礼します、と言おうとして、気づく、躊躇う。
湯から上がるということは、相手にこの身を晒すということだ。
いびつで、不完全で、そのくせ浅ましく昂りかけている、この身体を。
■ゲーゲン・アングリフ > 逆に、男は相手の体は良く見えてはいなかった。
当然、相手が入浴中だったのもあるし、湯気が邪魔してくれたのもあった。
結果として、相手の体が見えなかったことにより、男は下手な反応を見せなくて済んだのだが……。
あわてた結果、体を隠す為に同じ湯に入ったのは、冷静に考えるに失策だったといわざるを得ない。
「……恐らくですが。この宿の従業員が。
何らかの手段で、貴女の連れの方を脱衣所から遠ざけたのでしょう。
……この宿では、その。男性客が、女性客を襲う、というのが。
普通に横行しているそうでして……」
この宿の黒い噂について説明したところで、男はしまった、という表情になる。
これでは、自分もそういった客である、と取られかねないからだ。
更に焦燥は増し、なんとか釈明しようとするも。
相手の様子がおかしいことに気づき、手を伸ばしてしまうのが先となってしまい。
「……っ……!?」
相手に触れた瞬間。甘い声が漏れ、男も驚いてしまう。
咄嗟に手を引き、相手を見るも。
瞳潤み、体を抱きしめている相手の様子は。
おびえている様でもあり、発情しているようでもあり。
男は、自身がこういった時、相手の体を蝕む湯について詳しくないことを歯噛みして悔しがるが。
「その……お気持ちはわかりますし。
今、貴女の体が、この宿の湯によって、変調きたしているのもわかりますが。
このまま湯に浸かっているよりは、上がったほうがよろしいかと。
その、極力見ないようにしますので。お手伝いさせてはいただけませんか?」
そう言う男も、そこでようやっと、自身の股間が高ぶっていることに気づいた。
だが、事は一刻を争う。このままだと、相手の様子は悪化する一方であろうと判断。
男は、再度両手を伸ばし、相手にそう問いかける。
痛いほどに張った股間は、湯のせいでそうなったのか。
目の前の美女を見てそうなったのか。男自身、判断できず。
男もまた、頭がくらくらとするのに気づき始めていた。
■フローレンス > 異国情緒に溢れる、とても良いお湯に浸かれる場所。
己が教えられたのは、せいぜい、その程度の知識だった。
どこか言い難そうに告げられた言葉の中身を、
温室育ちの頭が理解するのに、少しばかり間が空く。
一拍、二拍、三拍ほど、―――――それから一気に、頬の赤みが増し。
「そ、……そんな、わたし、……そんなこと、全く、知らなかっ、たもの、で、
―――――――あ、あの、でもっ、……わたし、わたし、」
このひとはとても親切だ、と心から思う。
ビクビク反応してしまう己を、申し訳なく感じてしまうほど。
けれど、純粋な親切心だとしても、というより、そうだと思えからこそ、
受け容れられないこともある。
このままこの湯に浸かり続けていたら、まず、逆上せてしまうだろうし、
この湯が普通の湯ではなかったら、それ以上に悪い事態を引き起こしかねない。
けれど――――――
「わたし、……あの、ごめんなさ、い、
……へいき、です、一人で、あがれます、か、ら、
あの、―――――――目を、閉じていて、くだされ、ば」
眩暈がする、目の前が湯煙のせいばかりでなく、白く翳み始めている。
しかし、相手の手を借りれば、気づかれてしまうかも知れない。
せめて、『女性』だと、思われたままで居たかったので。
お手伝い、は固辞して、代わりに目を閉じていてもらおうと。
あとは、一人で立ち上がって、湯船から出る―――――普通の状態であれば、
決して難しくないことのはず、だが、さて。
■ゲーゲン・アングリフ > 「あぁ、いえ。落ち着いてください。
なにも、この宿の利用者が全員そういうわけでもないですし。
常に、そういったことが起きているわけでもないんです」
相手の反応は、至極当然と言えた。
なので、男は、一度身を引き、両手を挙げてそう説明を重ねる。
なによりも、男はまず相手に落ち着いてもらうことを第一と考えた。
その為には、相手に必要以上に警戒されてはいけない、と。
「……そう、ですか?
……わかりました。では、そのようにしますが。
もしも、貴女に何かあった、そんな気配を感じたら。
やはり、お手伝いさせていただきます。それでよろしいですか?」
相手の言葉に、男は一瞬考え込み、両手を引く。
相手の言い分や、気持ちもわかるので。
ここは、ムリに手伝うべきではない、と判断したのである。
なにせ、男も勃起してしまっているので。
手伝うイコール、それを晒す、ということだったので。
正直、迷っていた部分もあるのだ。
「あぁ、それと。もしも、ムリそうなら仰ってください。
もしも貴女に何かあったら、それこそ。
私も、寝つきが悪くなってしまいますから」
ははは、と冗談めかして言いつつ。
男は、相手に背を向け、目を閉じる。
しかし、意識は集中させ。相手に何らかの異変や。
危機が迫らないか、という部分だけは、聞き逃さないように、とする。
……内心、相手の裸身を見たい、という思いはあったが。
そこは、グッ、と我慢であった。
■フローレンス > 落ち着いて、と言われて小さく頷いたが、既に諸々手遅れだった。
目の前の相手が警戒の対象と、いうわけでなくとも、
意識した時点で、もう、いろいろと。
―――――掌の下には、ささやかながらも確かに隆起した感触まである。
「あの、ええ、わたし、……あなたを、疑ったり、してませ、ん、
……ごめんなさい、あの、その、―――――――」
信じられないのは、どちらかと言えば己自身のほうだった。
そんな場合ではないのに、相手はこんなにも親切に接してくれているのに、
本当に、もう、申し訳なくて。
それでも、相手が背を向けたのを確認してから、そろり、と腰を上げたのだが。
「―――――――― ぁ、」
湯船の中で立ち上がった、その瞬間に、酷い眩暈が襲う。
普通の体調不良とは、明らかに違う感覚だった。
まるで、背骨がすっぽり抜き取られてしまったような、
腰も、膝も、身体を支えきれなくて――――――
短い声を洩らした、次には、派手な水音が響く。
ざばん、と前のめりに倒れ込んだ矮躯は、相手が気づいてくれなければ、
容易く溺死出来そうな勢いで―――――意識が、ふっと途切れる。
相手が言葉の通り、異変に気づいて、手を差し伸べてくれたなら。
もちろん、最悪の事態は避けられるだろうけれど、
―――――どこもかしこも赤く火照って、小刻みに震える、華奢な身体。
その下半身のいびつさにも、気づかれてしまうに違いない。
■ゲーゲン・アングリフ > このような状況で、落ち着け、と言われても。
相手が落ち着けないであろうことは男にもわかっていた。
だが、少しでも相手の緊張や警戒を解せるのなら、と。
男は、あえて距離を取り、正直な言葉を吐いたわけだが。
「あぁ、いえ。いいんですよ。
というか、普通なら警戒したり疑ったりして当然ですので」
むしろ、ここで警戒されないと。
それはそれで、相手が自分を罠にかけようとしているのではないか、と。
そう考えなくてはいけない状態なので。
男は、気にしていない、と言い、背を向けるのだが。
「……っ!」
背後で聞こえた、小さな声。
そして、水音に、男は瞬時に振り返り、相手の体を支える。
そのまま、即座に相手の体を抱き上げ、湯船から上がり。
浴場の床に相手を横たえ、声を掛ける。
「大丈夫ですか! もし聞こえているのなら、呼吸をゆっくりと!
……っ。これは……」
そこで、男も相手の肉体について気がついた。
美しい裸身。そして、そこにないはずのものが。
相手の下腹部にあるということに気づき。そこで、男は小さく舌打ちする。
「……これでは辛いはずですよ。
大丈夫ですか。意識はハッキリしていますか?
立ち上がれなさそうなら……私に、任せていただきたいのですが」
男は考える。もしも浸かっていた湯が、発情促すものであったのなら。
相手は、男性としての発情と、女性としての発情。
その両方に襲われており、純粋な男性・女性よりも、倍近く苦しいのではないか、と。
相手の意識を確かめるように声を掛け続ける男だが。
もしも相手が男のほうを見たのであれば。
逞しき肉の槍が勃起し、びくびくと震えているのが見えてしまうかもしれない。
……男自身は、自分の性器の状態など、気にも留められないほど焦っているわけだが。
■フローレンス > 襲うのが目的だったら、こんなにものろまな己の意志表示を、
いちいち待っていてくれるとは思えない。
だから、己のほうはもう完全に、相手の善意を信じていた。
見ないでほしいとお願いしたのも、迷惑をかけたくない、不快な思いをさせたくない、
そんな気持ちの発露でもあるので。
なのに、ほんの少しの距離だったのに、あえなく沈没寸前となった身体を、
結局は、相手の腕に委ねる結果になってしまう。
ぐったりと脱力した身体は華奢で、平均的な男性の膂力があれば、
比較的、簡単に引き上げられるだろうが。
濡れた床に仰向けに横たえられて、けほけほと咳き込んで、
―――――そうしている間に、何もかもが露見する。
ごくごく淡い胸の膨らみと、細く小さな肉茎が、同時に存在する肢体。
今は胸の先端も紅く尖り、肉茎もふくりと勃ち上がって、
いびつさはより際立ってみえるだろう。
呼吸を取り戻して、意識を辛うじて繋ぎ止めて、―――――――こちらを見ている相手の顔を、
ぼんやり見つめ返した、次の瞬間。
ああ、と絶望に満ちた喘ぎが、白い喉を震わせた。
「ご、……ごめん、なさ、……ごめんなさ、い、わたし、わたし、
こんな、気持ち悪い、もの、……お見せ、して、本当に、
いえ、あの、もう、どうか、――――――――」
どうか放っておいてください、と、啜り泣くような声で訴えかけ、
うなだれるように視線を俯かせた拍子。
己を助け起こしてくれた、相手の下半身が、先刻よりもずっと生々しく、
猛々しく、かたちを変えているのに気付く。
「――――――――ぁ、………」
こくん、と、知らず喉が鳴った。
細い腕が揺蕩うように伸びて、白い指先が、掌が、相手の下半身へ向かう。
そろり、触れて、その熱さを、硬さを、確かめようとしながら。
「………あなた、の、これ、は……これ、も、
お辛いの、では、ありません、か……?」
きっと、ここの湯は普通ではない。
こんなのは全部、そのせいだと思う。
でなければ、見ず知らずの男の人に、こんなはしたない真似をするような、
そんな人間では、ない、はずなのだ。
■ゲーゲン・アングリフ > 男もまた、相手のことは信頼していた。
それに、普通なら、見ず知らずの相手に体を見られて。
嬉しい、などと思う女性はいないだろう、と。
そう考えることも出来た。
だからこそ、相手が倒れそうになった時も。
男は、ただ相手を心配し、助けようとしか思えなかった。
男がもう少し若ければ、思わぬ幸運に喜ぶこともあったかもしれないが。
少なくとも、男はそういった獣性を発露するには。
少しばかり、歳をとり過ぎていた。
「……何を謝ることがあるんですか。
気持ち悪いなどと。……こう言うのはアレですが。
私にとっては、『見慣れたモノ』ですし」
そう言って、相手を慰めようとしつつ。
口から出た冗談は、あまり趣味の良いものではなかったな、と。
男は内心反省する。
そうして、どうしたものか、と考えていれば。
自身の勃起について気づかれ、男は困ったような、薄い笑みを浮かべる。
「……いや、お恥ずかしい。私も、湯にやられたか……。
貴女のような美しい方と、湯を共にしたことで興奮したか。
はっきりとはわからないのですが。えぇ、まぁ。
でも、貴女よりは、辛かったり苦しかったりはしませんよ」
相手の言葉や様子を見て、どうやら、意識が混濁していたり。
生命の危機に関わる状態ではないようだ、と安堵する男。
相手が、手を伸ばすのなら、それは拒まず。
受け入れたまま、自身もまた、相手の下腹部……。
へその、すぐ下辺りをゆるり、と撫でる。
「……もしも。お嫌でないのなら。
一度、楽にしたほうが、いいのではないか、と」
そう言う男の表情は。ある種の苦悶に満ちていた。
これでは、騙して肉体を貪る。下郎どもと変わらないよなぁ、という。
自己嫌悪が生じていた。
■フローレンス > 無遠慮に触れてくるでもなく、顔を歪めて揶揄するでもなく。
相手の反応は、己が想像し得る、どんなものとも違っていて、
安堵すると同時、だからこそ、なおさら申し訳ない気持ちになる。
「で、も、……でも、こんなのは、変、でしょう、わたし、
………男のひと、でも、女のひと、でも、ないん、です……、
そんなのは、普通じゃ、ないから、……だから、――――――あ、あ、でも、っ、」
慰めかたとして、器用、とは言えない台詞だ。
けれどそれも、目の前のこの人が善人である証拠のように思えて、
あたふたと言葉を繋ぎながらも、この人のために、なにか、
出来ることがないだろうか、と、茹だった頭で考えてしまう。
おずおずと触れて、あまりの熱さにぴく、と指先を跳ねさせて。
もう一度、そうっと指を添わせて、絡ませて、とても握り込めはしないけれど。
大きな掌に触れられた肉茎が、ひくん、と頭を更に擡げ、
湯とは異なる、粘つきを伴う透明なものが、その掌に纏いつく。
そんな反応を恥じ入るように、視線を己の身体から、意図的に相手のほうへと逃がしながら、
「………いや、では、ありません……でも、
わたしばかり、お手間を、おかけするのは、嫌、です……。
あの、……わたし、よく、わからないの、です、でも、
―――――どう、すれば、よろしい、のか……教えて、いただけません、か……?」
子供じみた対抗心、だと、笑われるだろうか。
しかし、己はしごく真面目に、相手にも『楽に』なってほしい、と思っていた。
ゆるり、ゆるりと、細い指が、小さな掌が、相手の屹立をなぞる。
それ以上、どうすれば良いかわからないのだ。
だから、――――――こちらから、そっと、身体を寄せて。
触れてほしい、という意思表示とともに、濡れた眼差しで相手を見つめる。
■ゲーゲン・アングリフ > 【中断となります】
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からゲーゲン・アングリフさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からフローレンスさんが去りました。