2019/09/10 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場/隠れ湯」に紅月さんが現れました。
■紅月 > ーーーリリリ、リリ…リーンリーンリーン……
まだ仲秋を迎えたばかりで暑さと涼しさが揺れる、半端な季節の…誰そ彼を越えるか越えないかの、これまた半端な時間。
辺りには水音の合間に鈴虫や蟋蟀の歌声が響き、夜の訪れを告げている。
…そんな、中。
入口から離れた場所にてひっそりと。
寝湯にて揺蕩う、紅の糸。
きらきらと煌めくそれは、手拭いを軽くかけただけの豊かな曲線を包むように、流れに逆らうことなくゆらゆらと。
「…落ち着くー……やっぱり、お風呂は安心して浸かれなきゃあね~…」
ほぅ、と、一息。
瞳を閉じたままに、誰にともなく呟いて。
ゆらゆら…ただただお湯に身を任せ、秋の足音に耳を傾ける。
ご案内:「九頭龍の水浴び場/隠れ湯」にヴィルアさんが現れました。
■ヴィルア > ゆったりと、女が紅の糸を湯に揺蕩わせていると、ぺたぺたと、穴場に入ってくる誰かの足音。
秋の虫たちの音楽を遮り。
腰に手ぬぐいを巻いた若い男がこの穴場の湯に入ってきて。
「……珍しい。」
入ってきた男はぽつりと、彼もまた自分しか知らないと思っていた穴場に居る紅の姿に驚いた様子で呟く。
仕事に疲れた日は、こうして湯場を秘密裏に訪れることが彼にとってのリフレッシュとなっている。
その中でもここは…人目も気にせず、自分だけの時間を過ごせる場所だったのだが。
ただ、ここは公共の場所の一部。そういうこともあるだろうと考えて…ここまで来たら帰るのも不自然だ。
特に恥ずかしがることもなく、女に近寄っていく。
「失礼。隣、よろしいでしょうか?」
一人で寝湯を満喫している女に少し申し訳なく思いつつ。
にこりと笑いながら、共に湯に浸かっていいか、丁寧に尋ねてみる。
■紅月 > 静寂、後、水気を伴う足音。
聞こえた声は低く…また、その内容から彼もまた此処の常連らしいと伺える。
ふるり、紅の睫毛が揺れて…ゆっくり開かれたその中に現れるのは紫の瞳。
「……ん、ぅ?
あぁ、どうぞどうぞ。
…ふふっ、やっぱり此処、気付く人は気付くんだなぁ」
ぱちぱちと数度瞬かせた後に男を見遣れば、穏やかに微笑みかけ…数拍後に起き上がりながら悪戯な笑みを浮かべつつ、しみじみと呟く。
「こんなトコ気付くの、私くらいかと思ってました。
お兄さんも温泉全制覇したクチです?」
次いで胸元を押さえながら紡ぐのは、男へ向けた言葉だ。
きっと、それはもう楽しげな笑みを向けながらに。
■ヴィルア > 此処を知っているということは、彼女もまた気づいた人だということ。
思いがけない出会いに、彼もまた表情には出さないが驚いていて。
「では…」
どうぞ、と言われれば一先ず隣に体を沈める。
浅い寝湯に体を浸し、ふぅ、と一息吐いて。
「…全制覇、というわけでは。…あまり、人に見られると厄介なことになりそうでして。
人目に付かないところを探していたところに…以前に見つけたのが、ここです。」
彼もまた笑みを見せながら。
ぱしゃりと、自分の顔に湯を軽くかける
「お兄さんも、ということは…貴女は、全制覇したのですね。
…今夜、私は幸運だったようだ。…穴場に人がいるのは驚きましたが、貴女のような美人と共に入るなら悪くない」
息を吐くようにむず痒い言葉をかけつつ。
再び始まった虫の音と、柔らかな湯の音に耳を傾けて。
■紅月 > いまだ熱帯夜も多くあるものの、今夜はそれなりに涼しい。
隣に腰掛ける男を警戒するでもなく、のんびり眺めて。
『人目に付きたくない』と聞けば、不思議そうに首を傾げはするものの…荒っぽさのない所作や丁寧な振舞いから貴族か豪商だろうかとアタリをつける。
見られたがらぬとはいえ、少なくとも咎人ではないだろう…魔の者ということも無さそうだ。
「…ま、風呂は裸の付き合いですしー?」
裸の付き合いに立場も何もない。
変に探ったりしないよ、といった意味も込め緩く相槌をうつ。
「えぇ!
美肌の湯から変わり種まで…と言っても、九頭龍はちょくちょく変な浴場増えたり減ったりしているので、もしかしたらまた新しいの増えてるかも?」
相手の言葉に上機嫌に…言いかけるが、途中から首を傾げて。
しかし、続いた相手の言葉に目をぱちくりと開き。
「…っな、っ、そ……び、美人だなんて…!
格好いいお兄さんに言われちゃうと、なんだか恐れ多いというか…えへへ」
はくはくと唇を戦慄かせたかと思えば、頬を薄紅に染めて…遠慮がちにするわりには嬉しさが笑みとして零れ溢れ落ちていて。
■ヴィルア > 細身の体には傷や焼き印などもなく。
日焼けの跡などもない…育ちのよさそうな体だ。
漏れ出る魔力もなく、紛れもなく人間だ。
「…こういった場で、人を疑っていても仕方がない、か」
相手の言葉にはこく、と頷き。ぽつりと呟く。
相手が特に詮索してこないのはありがたい。
のんびりと緩く相槌を打ってくれる相手に警戒の毒気を抜かれ。
「ああ…、騒がしいところはとても騒がしい。…私は、ここで十分だけど」
少しだけ口調が柔らかく。
湯の心地よさと、相手の雰囲気に、気を張らなくていいと判断し始めたようだ。
「ふー……、ふふ、ありがとう。…私は、仕事以外…お世辞は言わないよ。
…それと、要らない世話かもしれないが、女性は…少し気を付けた方がいいかもしれない」
この場所はそうそう賑わいを見せないだろうけれど。
女性が狙われて、淫らな場に無理矢理連れ出されることもあると聞く。
浴場をほぼ全制覇した相手には、わかりきっていることかもしれないが
お礼を言い、心地よさそうな吐息をまた吐きながら、一応忠告を。
「…そういえば、言われないのかい?美人だって。街を歩いていたらそういう声をかけられそうなものだが」
今度は少し…綺麗だというのは本当だが、からかうような口調で。
初心なのか、自分にとっては自然に出る誉め言葉に照れる姿に…くすり、と小さな笑い声。
■紅月 > 「そうそう、仕方なぁ~い。
おっかないのはアレコレとカッチリ着込んでる時だけで充分よ」
矜持だとか武装だとか、色々と引っ括めて。
…否、紅月の場合は裸でなくとも緩いままなのであるが。
誰がどう見ても陰謀やら退廃やらとは縁遠そうな、のんきな笑顔である。
「入口辺りの大浴場とか、違った意味のヨクジョウだらけだもんねぇ?
…ふふっ、私これでも結構強いから、何かあっても温泉にドボンさせてやるわよ」
のんびりした声のまま、けれども少しばかりゲンナリした雰囲気を感じるやもしれない。
しかし、にっ、と笑みを浮かべればウインクひとつ。
「そ、りゃあ…無いことは無いけど、故郷が遠い国でね?
国民性とでも言うのかしら…どうにも、いまだに此方の文化に馴れなくて」
気恥ずかしさを誤魔化しがてら、寝湯の中にころりと寝転んで手拭いを整える。
油断すると流されかねないので、きちんと胸や股が隠れるように体に乗せて。
…微かな笑い声に、顔の熱が増した気がする。
■ヴィルア > まったくだ、と同意を示し。
今は堅苦しい貴族服ではなく、手ぬぐい一つきりしか着ていないのだから…
激務の合間に、のんびりした相手に合わせて楽しむのもいいと。
未だ少し、力が抜け切れていないが、彼も笑う。
「知っていて当然か。…強いのは、うらやましい限りだよ。私はこの通り普通でね。
…一応剣術などは習っているが、護衛がついていないと街も歩きにくい」
お互いに愚痴を言い合うような口調だが、それがまた心地いい。
軽く笑いながら腕を上げ、体を見せる。
薄く筋肉はついているが、どう見ても切った張ったが得意そうには見えない体だ。
「ああ…、この国は今、荒れているからね。
シェンヤンの文化も入ってきている上に、王族も内部でごたごただ。
さて、どうなるか…」
気を抜くと、彼の場合は仕事のことに気が行ってしまう。
目の端で、女性が手ぬぐいを直す姿を見つけ、ふ、と笑い。
「奥ゆかしい女性というのも、今のこの国では少し珍しい。
…恥じらいというのは、男にとってはとても魅力的だ。
私は、ヴィルア。良ければ、君の名を聞かせてほしいな」
少し視線を…手ぬぐいに隠された体のラインにやってから。
軽く頭を振り、仕事のことを考えないようにするため、話題を少し変える。
最早隠す必要もないだろうと名前を告げて。
男に、下劣な視線や態度はなく、本心から…相手のことを褒めている。
■紅月 > 「あらやだ、闘わないでいいのが普通なのよ…本来ならね。
私はいわゆる"単独冒険者"だから…ある程度、強くなきゃね?
腕っぷしが商売道具なんだもの」
相手の言葉に「そうねぇ~」なんて、間延びした相槌。
往来の気質も穏やかであるが…お風呂の魔力とでも言うべきか、輪をかけて緩い。
横を見ればながら健康的な一般男性らしい腕が見える。
…随分と肌質がいい、護衛も必要だと言うならやはり彼は貴族なんだろう。
「帝国文化の流入はまぁ、衣類も食も文化交流は素敵だと思うし…けど、そうねぇ。
…ここだけの話、私もお上の不和は心配ではあるのよね。
冒険者って、依頼次第であちこち駆け回るから」
いつだって振り回されるのは末端、つまり市民や冒険者なのである。
月を眺めつつ小さくぼやく…立場は違えど、互いに悩みは尽きないらしい。
「苦労するねぇ」
なんて困ったように笑いかけて。
「この国…その、奔放だもんねぇ…?
…ふふっ、私はコウゲツ。
東の果てにては"紅の月"と書きまする。
普段は"愚者の旅路"っていう、ちょっと変わり者の多い冒険者ギルドから依頼を請け負ってるの…改めて、宜しく!」
向けられた視線にチラリと目を遣れば、下心のない純粋な誉め言葉。
自身の恥じらいに関しては、こう、ちょっぴりまろやかな表現で同意をしてはみるが。
続けて名乗れば彼に手を差し出す…自己紹介に軽く営業を挟むのは御愛嬌というやつだ。
■ヴィルア > 「私のような者は、冒険者や護衛などによって生かされているようなものだからね。
憧憬くらいは抱くさ」
見た限りでは、自分とさして変わらないような体だが
それほど自信たっぷりに言うということは、何か特殊な技能を持っているのかあるいは…
などと思ったが…無粋だな、と考えを打ち切る。
意見の交換も非常に有意義であり。
仕事以外で…冒険者の実感が聞ける機会はそうそうない。
どうやら自分が平民でないことは気づかれているだろうが。
彼女も、苦労しているのだろう。
深くは掘り下げずに視線を相手の顔に向けて、紫の瞳と見つめあう。
「だからこそ、君のような女性が珍しいのだけどね。
紅の月…コウゲツ、か。」
咀嚼するように何度か、自分になじみのない発音の、女の名前を呟いて覚え。
「あまり耳には馴染んでいないが、響きがいい。
…愚者の旅路。それも覚えておこう。私からも依頼を出すかもしれないね。
…ギルドを教えてくれるのなら、私だけ所属を明かさないのは不平等だな…」
差し出された手を握り、握手を交わして。
何度か小さく、上下に振ってから。
「私は、リルアール家…、王都の食品などの流通に浅く広く関わっている者だ。
何か入用なものがあれば…裸のつきあいのよしみだ。できるだけ融通しよう。」
こちらも売り込みを返し。
貴族の礼として…微笑みながら、女の指先に軽く唇を落とそうとする。
■紅月 > 「もー、守られる側がムキムキゴリゴリだったら私ら立場ないからね!
…ふふっ、ヴィルさんはそのまま格好いいおにーさんで居てください」
鍛えても見た目に反映されない体質の己としては、中々に切実な問題。
拗ねるような口調でたしなめてみたものの…すぐに、何だかおかしくなってきて笑いながらのオネダリを。
「うふふっ、光栄に御座い…ん?
いや、冒険者や傭兵の場合はギルドがあちこちにある関係で、ギルド名まで名乗らないと意味が…」
目の前の御仁の整ったお顔が名前を珍しげに反芻する様子に大いに和みながら、所属についての重要性に訂正を加えようとするものの。
「……、…り、リルアール。
あれっ、リルアール家って、領……思ってたよりかなり、だいぶ、すんごい人…?」
大きな掌に己が手を乗せたまま、数拍固まる。
驚きついでに語彙力も何処かに飛んでいってしまったらしい…そんな状態だから、貴族式の女性への挨拶が何かなんて頭に残っている筈もなく。
ぽか~んと間抜け面を晒したまま、やはり逃げる事もなく。
きっと唇が触れてから我に返り、盛大に照れる事となる筈で。
■ヴィルア > 「うれしいね。…両親から受け継いだものだが、役立っているようでなによりだ。」
自分の顔にぺたりと触れて笑う。
爽やかな笑みは、この国の貴族らしからぬ、屈託のないもので。
相手のつぶやきは少し無視し、軽く、触れるだけのキスを女性の手元に落とす。
きゅ、と少し…その手を握って。
「ああ、リルアール。…コウゲツが知っていたとは、頑張った甲斐がある。
…私が、次期当主の、ヴィルア・リルアール。…ヴィルさん、で構わないさ」
恥ずかしがって逃げようとしても、その手は緩く握られており。
少し力を入れれば引き抜けるのは確実だが…ダンスに誘う直前のように、丁寧に礼を尽くす。
こんな場であったのだから、かしこまられても逆に困る…と、気楽な呼び名でいいと告げて。
「今は貴族の証もつけていないし、ただのヴィルアだ。
親しく呼ぶのが嫌なら、この国の貴族らしく…他を見下した言葉遣いをするが。
コウゲツは、どっちがいいかな」
などと笑いながら。半ば答えがわかっている問いを投げかけて。
ぽたりと湯を髪から滴らせながら…握手した拍子に、少し男の手ぬぐいが外れかけているのには、まだ気づいていない
どうせ誰もいないだろうと緩く結んだのが仇になったようだ。
■紅月 > 彼は随分と話しやすい…害意がないからか、はたまた偉ぶらないからか。
何にせよ"珍しい人種"と認識するには充分で…もっと話してみたいと思うにも、また、充分であって。
面白い御仁だと心底思うのだ。
しかし次の瞬間…ふに、と、指先に柔らかい感触。
湯の潤いなのか元々柔らかいのかはわからないが…そっと優しく、また、そのまま手を握られれば逃げられようはずもなく。
「しかも、時期当主殿……うわ、うわぁぁ…」
きっと紅月の表情は"またやらかした"といったもので。
こういった、ドジ、というべきなのだろうか…一度では無いんだろうなと相手に悟られそうな程度には恥じらう様な、はたまたおろおろと恐縮してしまいそうな。
何とか胸元の手拭いを押さえる事だけは忘れずにいるものの…もはや、感情が迷子になってしまっていて。
「…ううぅ~……じゃあ、ヴィルさん、で…?
こわぁいお貴族様より友だちの方が私も嬉しいや」
ついに、開き直った。
否、踏ん切りがついたのやも知れない。
…視線はずっと彼の目へ、隣に腰掛けているのだから見えても精々腹筋まで。
相手の腰元に目をやるわけもなく。
■ヴィルア > 話しやすい印象を与えるのも、商売を主とするものとしては重要な素質なのだが。
この安らげる場であるということも大きい。
相手の手を優しく握ったまま、微笑む。
そこには、軽い呼び方をされた怒りなど感じられず。
「公的な場だったら、怒っていたかもしれないね」
狼狽する相手に、笑いかける。
ほんの少し、邸宅地下に居るときのような安心感。
狼狽する姿がとてもいじらしく、もっと見てみたいと思うあたり、自分もこの国の出身なのだな、と思う。
「ああ。私も、冒険者というと役立つかどうかで判断してしまうから…
友人だと、うれしいな」
ようやく手を離せば、おっと、と声をあげて。
手ぬぐいが外れかけていることに気づいたらしい。
ゆったりとそれを結び始める。
「良ければ、また私の家に招待しよう。富裕地区で私の名前を聞けば、場所はわかるはずだ。
…だから、今夜はこのくらいで。コウゲツ。また話そう」
彼としても、面白い…というよりは魅力的な女性に出会えたことがとてもいい時間になったと思っていて。
軽い水音を立てながら立ち上がり。のぼせるなどという情けない姿を晒す前に、少し上気した顔で笑いながら、浴場を出ていこうと。
■紅月 > "公的な場なら"という言葉に、ようやっと我に返り…コクコクと頷いて。
「そういった場では是非、ヴィルア様かリルアール様と呼ばせて頂ければと…」
相手の爵位を知らぬ為、とりあえず無難に"様"を付けて呼んでみる。
…何せ外ツ国の出身、軍人相手ならともかく貴き方々との正しい接し方なんぞわかるはずもない。
そしてきっと、その辺りの拙さも相手にはバレバレだろう…夜会等々でうっかり会ってしまったら面白がられてしまう予感がする。
…不意に、彼の手が離れる。
つられて視線を向ければ、危うくポロリな状況にバッと顔を背けて。
先程からの醜態やら恥じらいやらで赤くなった顔を片手で覆う。
本当は両手で覆いたいが…それをすれば、今度は此方がポロリだ。
「…あぁ、もう……ヴィルさんったら心臓に悪い…!」
なんて若干嘆き混じりのぼやき声が溢れ落ちた。
「うん、また…
ゆっくりお茶でもしながら秘密の愚痴大会開きましょ」
辺りはすっかり夜の帷が降りきって、月が煌々と輝いている。
立ち上がった彼を視線で追いながら緩く手を振って…見送った、後。
バチャンと寝湯に沈み、今度こそ気の済むまで悶絶したのだった。
ご案内:「九頭龍の水浴び場/隠れ湯」からヴィルアさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場/隠れ湯」から紅月さんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にミゲルさんが現れました。
■ミゲル > 「ふぅ………」
利用客が今のところいなく独り占め状態の露天風呂。
人の姿がなければ普段隠している耳も尻尾もさらけ出してのリラックス。
湯けむりが漂う場なら誰かくれば隠す時間もあるだろうという考えもあったりとして。
縁に背を預けるようにして半身を湯に沈めて大きく伸ばす足の間からは尻尾が頭をのぞかせ。
頭にも髪から生えた耳が時折に震えるように跳ね動いて。
「今日は………いい日……」
依頼の荷物を運んで報酬を受け取り、しかも一日無料で宿泊できるのだから破額の扱い。
温泉を出たらどうしょうか、そんな事を気の抜けた頭で考えて暖かなお湯を堪能する。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からミゲルさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にエレイさんが現れました。
■エレイ > 「──ウェーイ……」
夜。
湯煙立ち込める露天風呂で、熱い湯に身を浸しながら変な声を漏らしつつ寛ぐ金髪の男が一人。
湯船を縁取る岩の一つにぐでりと背を預け、満悦そうな表情を中空へと向けていて。
「んんーむ……いつもながら見事な湯加減だと感心するがどこもおかしくはないな。
──って毎回言ってる気がするが……まああそれだけクオリティが高いという証拠だろうな」
なんて独りごちて小さく笑いながら、頭に載せたタオルを手にして軽く顔を拭うと、ぷぅー……と息を吐きだし。
改めて夜空を仰げば、そこには雲で朧にされることもなく輪郭も明瞭な月の姿がある。
そこから降り注ぐ、柔らかい光に目を細め。
「今夜は月も見事な感。あとは、ご一緒してくれる誰かがいればなお良いのだが……」
などと詮無い願望を呟きながら、ちら、と出入り口の方にささやかな期待を込めた視線をやってみたりして。