2021/10/13 のログ
ミシェル > 見るからに動揺するロイスの姿を見て、ミシェルは軽く笑う。
別に冒険者でも珍しくもなかろうに。

「はは、君の歳の男にそんな新鮮な反応をされるのは面白いな。
知り合いに一人二人はいないのか?女性専門の女」

にやにやと笑いながらからかうミシェル。
男性に恋愛感情が全く無い分、友人にするような接し方だ。

しかし、家名を名乗ると表情を変え、書き終えた依頼書を真剣に読む男の姿を見て、
ミシェルはため息をついた。

「別に騙すような事は書いてないよ。そもそも次の調査には僕自身も同行するんだ。
これまでだって一緒に同行したし、まぁ…死人は出してないだろう?」

トラップも魔物も段違いに多い遺跡の深部、無傷で到達できるはずもないが、
それでも死者だけは出していない。多額の報酬と合わせ、割の良い部類のはずなのだが。

「ああそれと、これも何かの縁だ。君の名前を調査隊名簿の最初に書いておこう。
ついでと言っては何だが冒険者仲間も紹介してくれると嬉しいね。
手練れの戦士、知識ある魔術師。出来れば口説き甲斐のある美女で」

つまりは、有無を言わさぬ参加要請。ミシェルが取り出した何かのメモに、魔導ペンがロイスの名を書き込む。

「この国の、いや世界の魔術の未来を変えるかもしれない新しい発見を、
僕と一緒に真っ先に目にできるんだ。光栄だろう?励んでほしい」

キラキラした瞳はそれが本心から言っている言葉であることをロイスに悟らせるだろうか。

ロイス > 「いや、男女共に同性愛者はいないでもないけどね。
ただ、その……何だ。俺の個人的な慣れの問題として、"そういう"話題が得意ではないというか……」

いや、冒険者の話題としてシモネタは決して忌避される話題ではないんだけどともごもごと口を濁す男。
頭を掻いて視線を反らす辺り、本当に"得意ではない"事は伺い知れるだろうか。

さておき、彼女に言われて、依頼の実績書を参照する。
確かに、怪我人は出ているものの、死者はゼロだ。
報酬関連のトラブルも――ロイスが見る限り、エタンダル家に非がある形では発生していない。

そして今回の内容は――遺跡深部であるので、不確定情報は多いものの、それは依頼の性質上仕方がないとも言えて。
寧ろ、正直に遺跡"深部"と明記されている分、良心的とも言えるだろう。リスクは高いが、"自己責任"の範疇で片付くものであると言わざるを得ない。

そこまで理解すると、カウンターの引き出しから認印を取り出して。

「うん。君の言う通り、依頼内容は至ってクリーンだ。
此処で処理しても問題ないだろうけど――あっ、こら!なんてことするんだ君は!?」

何気なく押印しようとした隙を突く形で自分の名前を書かれたので、印鑑を止める暇さえなかった。
損耗率八割(ただし死者ゼロ)という地獄そのものな依頼への強制参加。

押印してしまった以上、取り消しはできないが一言文句を言おうと顔を上げると、彼女は悪意どころか善意100%の――まさか断られるなど全く思っても見ないような瞳でこちらを見つめており。

「……この場合、『美人は得』っていうより、『薄汚れた大人は損』って言った方が正しいよな、多分」

と、呟く。
何せ、あちらは同性愛者。美人であっても触れられる筈もない相手なわけで下心の打算など発生しようがない。
それでも、何も言えなくなるのは、相手が純粋にこちらを誘っているのが解るからだろう。
だから、男は、今日一番の溜息をついて、

「OK、解った。信頼できる相手を見繕っておこう。
――最後の条件は、可能だったらってとこだけど」

気分的にはむくつけき男を紹介してくれようかといった気分だが。
こんな事でスポンサーに臍を曲げられても困る。
此処まで理不尽な事をされても仕返しできないと考えると、ギルド職員って大変なんだなと、妙な感慨に耽る男であった。

ミシェル > 「おや、これは失敬。では君の前ではそういう話題は慎むとしよう。
人間、まぐわう事ばかりが人生じゃないんだ。そういうのに興味のない者もいるんだろうな」

得意でないと言われれば強要する人間でもないらしく、女男爵はあっさりと言う。
猥談を楽しむ相手にしても女性が良いのだろう。

「はははは!何、心配はいらないよ?僕は王城務めの宮廷魔術師でもあるんだ。
君の手や足や首の二本や三本飛ぼうとその場で繋ぎ直すぐらいの回復魔法は使えるさ。
大船に乗ったつもりでいるといい」

並の男性よりイケメンに見える、キラキラした笑顔と芝居がかった仕草で語るミシェル。

「それに、冒険者ならやっぱり歴史に名前を残したいんじゃないかと思うんだ。
働き次第で、君の名前は魔術史に残るだろう」

光栄だろ?と言わんばかりに。
そして、依頼書を目立つ場所に貼るよう言い残すと、女男爵は軽やかな足取りで冒険者ギルドを後にした。




……後日、実施された遺跡の発掘調査では、ロイスの人選や働きが良かったのか、
冒険者の負傷率は五割ほどに抑えられたと言う。

その結果次回以降の参加も打診されまくることになるのはまた別の話…。

ロイス > 「ありがとう。……冷静に考えると、得意じゃないって言って、そういう話題を慎んでくれたの、君ぐらいかもしれないなあ……」

別に冒険者が気遣いができないとまで言うつもりはないが。
仕事上押しが強くなくてはやってられないのか、からかわれたり、そうでなくても詳しく事情を聞かれたりする事が多い気もする。

やっぱり、同じ業種以外の人と話すって大事なんだなあ、としみじみ思うが。

「待って、手や足や首が飛ぶ事が想定される現場なのか!?
いや確かにロマンはあるがこの年齢で追い求めていい質のロマンじゃ、待って、行かないで、おおーい!?」

男の言うロマンとは、絶景を見たり時折人に自慢できる程度の冒険譚が得られる事であり、歴史に名を残すレベルのロマンまでは望んではいない。
だが、とはいえそんな現場にまさか仲間だけを送り込む様な事はできず、結果として彼もついていく事になるのだろう。

その後、時折エタンダル家の発掘調査には、「どうしてこんな事に……?」と呟きながら参加する、男の姿が見られるようになったと言う。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2 冒険者ギルド 受付」からロイスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2 冒険者ギルド 受付」からミシェルさんが去りました。
ご案内:「ヴァルケス武器防具店」にイーヴィアさんが現れました。
イーヴィア > (――――――先刻、ダンタリオの家名に宛てて、出した手紙。
今頃は、伝令役が運んで居る最中だろうかと、そんな事を思いながらカウンターに座った
少々待たせて仕舞った仕事の件、漸く完成の報告を掛けて、今は一息だ
店内も時間が時間、閉店間際で、流石に客の姿も無い
店員も、既に殆どは帰っており、後は閉店作業の担当だけが残って居た。)

「―――――食い扶持に困らないのは有難いこったね。」

(此処最近は、特に。 己が鍛冶仕事に集中出来る環境が、漸く整いつつある
今でも、時折必要な素材の採集や採掘に自ら出かける時は在るが
この店を立ち上げた時の様に、何から何までを全部ひとりで、何て状況と比べれば雲泥の差だ
店員も増えた、腕を買ってくれる者も居る。 ――それでも、まだまだ満足には程遠いが。)

「……ほどほどで良いぜ、偶にゃあきっちり、時間で帰んな。」

(――後は遣って置くから、と。 そう声を掛けつつ。
此処から先、駆け込み客があるか、或いは何らかのトラブルでもあるかは判らないが
何れにしても、今夜くらいは、店主らしい事をしておこう、と、そんな気分だった)。

イーヴィア > (注文書の山から、既に終わった依頼と、まだ作業中の物とをより分けていく。
既に終わった注文書も、暫くの間は保管する。
商品に対する責任も有るし、後々、何等か言い掛かりを付けられると言った事態も
これまでに幾度か、決して少なくは無い数あったからだ。
おかげで注文書の保管場所、と言う物を態々作る羽目になったが、商売上の必要経費

今では、自分以外にも、もっと商売の知識が在る者が働いて居る故に
こういった書類仕事も、普段は任せられる様になって居る。
勿論、それでも、時折は自分の眼でも確認するが。)

「……この辺りは、其の内にまた来るかも知れんなぁ…。」

(一枚、目に留めた依頼に、そんな呟きを。
つい先日、別の貴族から受けた依頼で、内容は剣の作成。
護身用の物を、と求められたのだが、お世辞にも剣術に優れた相手とは言えなかった。
己が作品が、そう簡単に使い潰されるとは思わないが、腕に覚えが無い者は
えてして、何かの責任を、モノに押し付けたがるものだったりする。

もし、そんな事になったらば、其の時は出入り禁止にしてやろう、なぞと思いつつ
保管用の束へと紙を移して)。

ご案内:「ヴァルケス武器防具店」にコルボさんが現れました。
コルボ > レザーアーマーを身にまとった、バンダナを巻いた男が一人、ふらりとやってくる。

ただ、街中を歩く時の軽装ではなく、持ち得ている装備を全て持参した上で。

「ちわーっす。ここっすかね、”怪力令嬢”にとんでもないもんこさえた噂の工房ってな。

 仕事の依頼やら、相談事があるんスけど……、忙しいッスかね」

 軽率な口調で、工房の扉を開いてからノックして見せて、
 無遠慮に足を踏み込む男は、しかし、ごろつきにありがちな職人を鉄火場に出ない臆病者とみるようなそぶりでもなく、
 言葉を紡ぐ間も工房の仕事に視線を巡らせ、つぶさに観察し、
 しかし、言葉尻が弱まっていく。

 ……想定以上に、ここの工房は”金ではなく満足できる仕事かどうか”を重視している場所だと悟ったように。

(あー、やべえな。言葉間違えたら、死ぬか……?)

イーヴィア > (がらこん、扉が開く。
店主の視線と店員の視線が、同時に入口へと向けられ、其処に立つ男を認めるか
態度其の物は慇懃無礼だが、生憎ながら、冒険者や傭兵の多くはそんなものだ
礼が為って居る相手なぞ、日用品の金物を買う一般客や、余程"出来た"貴族位で

ひらり、片掌をカウンターの内から掲げて見せては、手にしていた書類を一度置いた。)

「いんや、構わないさ、いらっしゃい。
もう一寸して閉店札にしちまったら、又の御越しをって言う所だったんだがな?」

(ふ、と、冗句めいてそんな事を言いつつ、来客の男を手招こう。
これで、慇懃無礼さがちっとも変わらない様なら少々考え物であったが
初めて見る顔、次いで、店内を見回し、何か察する物があったかに
多少態度が大人しくなったのを見れば、判る男では在るのだろう、と。)

「依頼と相談は別か? 数在るんなら、順番に頼む。
こっちでも書き留めておくんでね。 嗚呼、長くなりそうなら、奥に案内するが。」

(カウンターでは男を立たせたままになる。
店の奥、座って話せる席も有ると、其方を示せば。
一度店員へ、矢張り残りの作業を頼むと、一言だけ託けてから
相手の望む場で、話を聞こうとするだろう)。

コルボ > 「ああ。まー、メインの相談は得物のことでね。
 ……目盛が消えにくいフセットって作れるかなって」

スティレットの一種。距離を測る上で目印を刻まれたそれの名前を出しつつ。

「後は、そうさな……、ワイヤー作れるか? 出来るだけ量が多いといい。
 芯線は材料を問わず出来るだけ丈夫で柔軟なものを追求してほしい。
 ……できりゃあ英雄サマとか、神でさえ簡単に断ち切れない、ぐらいは追求してくれるとありがたいがね。」

聞いてみれば荒唐無稽な依頼。しかし軽率な、礼儀の成ってない男の視線によどみはなく。

「報酬は言い値でいい。俺か、ウィラクィスって貴族にぶちこんでくれていいよ。
 ……コルボって名前を出してくれりゃ、俺が払えなくてもあの家の旦那にどこまでも追われっからな。

 と、フセットのほうは出来るだけ軽くて丈夫な、くらいのオーダーでお願いしたいんだがね。
 後は、マインゴーシュも同じ素材で。
 なんせ俺ぁこの通りチンピラでな、逃げる準備に余念があっちゃあ命がいくつあっても足りないのよ」

 ある程度、長い依頼を以て、奥を一瞥して

「少なくとも、あんたがたの高名を聞きつけたクソ貴族のクソみたいなクソ依頼よりかは、
 面白い依頼を持ち込めるとは思ってるがね」

イーヴィア > 「へぇ、フセットか。 何だ、受け流してる内に、目盛りが削れて見えなくなったか?
―――……そうだな、上を見りゃあきりが無いが、方法はある。
アンタの持ってる其れは、普通の代物かい?」

(どの辺りまでの品質を望むのか、其れによって提案も変わって来る
加えて、今相手が持っていると言う其れが、どの程度の品質なのかも関わるだろう
軽い事が条件に加わるなら、成程な、と羊皮紙に記載を進めつつ。
その下に、同じ条件で、マインゴーシュの項目も併記して。)

「鋼糸か、造れと言われりゃあ造る、が。
……また、随分な条件じゃねぇか。 魔神でも暗殺しに行く心算か、アンタ。」

(――討伐、とは違う。 退治、とも違う。
相手の携える獲物は其の殆どが、俗に言う"暗器"と呼ばれる物ばかり。
ならば、暗殺、と評した方が最も適当だろう。 少しばかり、怪訝な表情で相手を見るが
――僅かに間を置いて考えた後、其の荒唐無稽さに対して、突っぱねるでもなく。)

「―――――……鋼鉄製の糸に限定か。
其れとも、糸状で、代わりになるモノなら何でも良いのか。
そうだな、例えば…、……魔物の髪や髭、みたいなモノとかな。」

(あくまで、例では在る、が。 鋼糸代わりに使う事も在る素材だ。
細かい要望を聞くために一度立ち上がり、奥の部屋まで相手を案内すれば
テーブルを前にして、相手を椅子へ座るよう促し。

そして、相手の顔を見て、ふ、と笑った。
確かに、言う事は最もだ。 相手の言う貴族とやらが、何時の誰を指す物かは。
特段追求しないで置く事としても。)

「骨のある依頼は歓迎だぜ、身の丈に合わなけりゃ突っぱねるがな。
件の令嬢は、そう言う意味じゃあ、此処最近で一番の"判る"相手だったさ。」

コルボ > 「ああ、現物みてもらったほうがいいか?」

 そういうと鋼製の、目盛が擦り切れたというより、戦場で幾多もの打ち合いの末に
すり減ったフセットとマインゴーシュを取り出して貴方に差し出し。

 それが、彼の言う通り撤退戦に絞ってついた傷だとしたら、
 不意打ちや待ち伏せと幾度も直面した、無数の修羅場を潜り抜けてきたもので。

「ん? ああ良く分かったな。そういう依頼最近多いのか?
 昔からやってるライフワークでな。
 時代に名を遺す英雄だの、禁術だのに頼ってたら、いつまでたっても神代から抜け出せないみたいで気持ち悪くてな。

 ……人の手で、人の技術で、人の物量だけで魔神を、それか魔神を殺せるだけの英雄を仕留められる構図を描けないか
ずっと模索してんのよ。

 それが出来ないなら、世の中いつまでたっても英雄サマがいなきゃ成立しない、
他は生きてても死んでても関係ない時代になっちまって面白くないだろ?」

 飄々とした振舞いで、しかし、しっかりと”今の時代が気に食わないから考え続けている”と。
 どこかの国の言葉で烏を意味する名の男は貴方に告げて。

「……いや、ちょっと前までは金属に絞ってたが、ね。
 最近はなんだっていいっていうか、工房の職人が提示する素材なら色々試したいと思ってる。
 ……ちょっとこの間、工房持ってる友達にすごいもの作ってもらってから、
 そういう風に思えるようになっちまってな。

 魔物の素材に関しちゃ、言ってくれりゃこっちでも都合つけるぜ。
 なんだったら、報酬にそういうのを指定してくれるなら用立てるよ。

 あの”お嬢様”は分かり過ぎてる度合いがダンチなんだよ。
 遠目に見てたが自分に馴染むように依頼出したのか、自分が得物に馴染むように最適化してんのかわかりゃしねえ。

 ……あんなのをただの狂人で片付けてる貴族は大体能無しのアンポンだな。
 あれこそ、掛け値なしのこの国に残った最後の懐刀だろうよ。」

 案内されながら、椅子に腰かけて、貴方の言葉に一つ一つ応えていく。

「俺ぁ、特別でもなければ御大層な生い立ちもねえチンピラだからな。
 ツテを探して無理言って、無理やり積んで拝み倒してようやくなのさ」

イーヴィア > (取り出された二振りの短剣を、受け取り、鑑定する。
形状、材質、品質。 そして、持ち手から剣先に至るまでの摩耗の度合いと、其の傾向
材質は何ら変哲も無い鋼製だが、決して悪い代物ではない。
にも拘わらず、既に目盛りが削れて判読処か、計測器としては既に狂って居る。
どんな扱いをしたらこうなるモノか。 僅かに双眸細め、其れから、暫しの長考
鋼でこれなのだ、己が鍛冶技術に、更に加える要素は要るだろう。
其処に過信も妥協も、する心算は無かった。)

「―――魔法を使うなら、ミスリルの方が馴染みが良いだろうな。
純粋に硬さを求めるならアダマンタイトだが、ちょいと重い。
硬さは少し落ちるが、軽さがマシになるのはオリハルコンか。
其処までは、って話になるなら、純粋な鋼じゃなく、他の金属を混ぜて合金にする。
硬度は当然上三つにゃ適わないが、値段は当然抑えられるぜ。 何より――誰にでも、手が出せる。」

(希少金属の例を、惜しむことなく初めから提示する。
それぞれの特徴と、凡その推測完成図を言葉で説明しては
特例として、魔剣や聖剣に該当する装備の話をちらりとするが

――恐らく、相手が望むのは、そう言う事では無いのだろうと、勝手に思う。

一度、紙とペン、そして相手から預かった短剣を置いて、奥の倉庫に入る。
再び出て来た時には、其の手に携えられた、一本の細い、糸状のもの。
其れを、テーブルの上へと一度広げれば、確かめるように相手へと促し。)

「前に、研究で造った糸だ。 強度は度外視で、細さに重点を置いてるがな。
――――引っ張ってみな。」

(一度、促す。 木綿糸の様な細さの其れを、引っ張り、強度を確かめろと。
其れこそ、簡単に千切れて仕舞いそうな細さの其れだが、男がもし引けば
糸の軋む音を響かせて、ぎ、と、糸が踏み止まるのが感じられる筈だ。

無理に引っ張れば、指の肉に食い込みそうであり。)

「……そりゃあ、何の変哲も無い鋼の糸だがよ。
構造次第で、頑丈さは上げられるもんだ。 ……まぁ、面倒過ぎて誰も遣らないんだが」

(―――されど、もし男が望むなら。 其の程度の手間など惜しむまい。
件の令嬢が、己に対して齎した、騎士としての気の座り様があればこそ
己もまた、全力で張り合ったのと同じ。
この男が、口にした全ての状況を、覆さないつもりなら
苦労など、大した問題でも無いのだ)。

コルボ > 「オリハルコン、な……。神代の金属も良く出回るようになってきたな。
 あれってさ、どこかに鉱脈とかあるもんなのか?

 ただ、でもそうだな。金は出せるけど、軽いならミスリルか、合金で頼めないか?」

 比較的厚みがあるからこそ計測器としての目盛が刻まれたスティレットの派生型。
 それが狂うほどの”傷”には”いなそうとした角度に、より深く食い込んだ形跡”……、
 それこそ神の金属とも呼べるものとやりあって生きながらえた痕跡も散見して。

「つうか、合金の類でいっそ試したいもんがあればたたき台にしてくれても構わねえよ。
 今以上の強度と軽度が望めるなら、現場で使ってレポートぐらいは書くからよ。」

 人の時代を望む、それを言外に告げる男は、その矢面に立つのだと。
 その男は、提示された糸を手に取ると、指に絡ませ、食い込ませる。

 何度かその仕草をしたのちに、より深く、強く、きつく食い込ませて。
 ……しばしその間、貴方のことが意識から逸れてるとでも言うように、
 目の前で、食い込んだ指から血が滴り落ちると、ニタァと、唇が歪む。

 ……件の令嬢とは別の方向性、押し隠した狂気。律された衝動。

「……っ。……と、面倒すぎるっていうけどよ、これ300作ってくれって言われたら
 あんたならどのぐらいの報酬にする?」

 垣間見えた衝動が鳴りを潜めて貴方を見据え、しかし、その目は
対価を用立てることに僅か程でも迷いもなく。

 まるで、神を殺すことに執念を燃やすのではなく、人が神を殺すことが当たり前で、
 それが出来るのが当然で、その準備に必要な必要経費なのだというように。