2021/10/12 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2 冒険者ギルド 受付」にロイスさんが現れました。
ロイス > ロイスは、冒険者ギルドの受付で、入口をぼんやり眺めていた。
入口を。言い換えるなら、彼は冒険者ギルドのカウンターから入口を見ているわけで――つまりそれは、彼の座っている場所が『客側』ではなく『職員側』であるという証だった。

「……何で?」

いや、原因はわかっている。
小さなギルドでは、会合などの関係で時折職員の数が足りなくなる事があり、その穴埋めを頼まれたのである。
とはいえ、ロイスとしては、てっきり書類の管理などを任されるのだと思っていたのだが――ギルド長に問答無用で座らされたのは、まさかまさかの受付カウンター。

「……まあ、丁度お昼過ぎで、人が居ないからまだ良いけど……これ、俺の裁量で仕事して良いんかな……」

他に人が居ない以上、何かあったら男がどうにかするしかないのだが。
その辺は何も聞かされていない。
或いは、"敢えて"何も聞かさなかったのかもしれないが

ご案内:「王都マグメール 平民地区2 冒険者ギルド 受付」にミシェルさんが現れました。
ミシェル > そんな時、ギルドの入口がぎい、と開く。

「やぁミーナ!この前のプレゼントは…何だい君は?」

現れたのは貴族らしい男装をした麗人。
彼女はにこやかな笑みを浮かべながら入ってきたが、
ロイスの事を視認した瞬間真顔になる。
ちなみに、ミーナとは本来なら今日受付に座っているはずの女性職員であった。

「えーと…君何者だい?新人?先週ここに座っていた職員は?」

受付カウンターにずかずかと近寄ってきて、矢継ぎ早に質問する。
長年の冒険者の経験から、ロイスには彼女が冒険者ではなく、
むしろ依頼をする側だということがわかるだろうか。
あるいは…、

「んー…君、見覚えあるな?冒険者に居なかったか君みたいな顔の」

彼女から依頼を受けて何かしら仕事をしたこともあるかもしれない。

ロイス > 受付業務といっても、この時間帯では滅多に仕事など無い。
採取品の鑑定は専用の資格がないとできないし、依頼の受発注もこの時間だと殆ど起きない。
欠伸を噛み殺しつつ、入口の扉をぼんやり見ていると、そこから若い女性が一人入ってきた。
冒険者――ではない。とすると、依頼人かと思い、居住まいを正す。

「いらっしゃい。ご用件は……へ?」

突如、満面の笑みで知らない女性の名前を呼ばれ、かと思えば"本来の"職員は何処に行ったかと問われ、一瞬呆気に取られた。

が、冷静に考えれば、その職員でしか対応できない案件があるのかもしれない可能性を考え、男は取り敢えず職員としての説明をする事にする。

「ああ、ごめん。俺は急遽入った代理なんだ。
ミーナさんは、ええと。
富裕地区のギルドホールで行われる意見交換会に、ギルド長と一緒に参加してるね」

ギルド職員のシフト表を引っ張り出した上で、説明する。
緊急性があるなら、そちらに向かうことだろうし、特に問題はないだろう――と思った束の間。
何故か、今度は彼女はこちらを誰何してきた。

「ええと……確かに俺は冒険者だけど。
君は――ん、待てよ。そういや、魔導機械の部品納入依頼で、ちょっとだけ顔合わせをしたような。
名前は確か――ミシェルさん、だったっけ?」

会ったのは一瞬のことだったので、あまり覚えてはいなかったが。
言われてみれば、男装の翠髪という特徴を思い出す。

「あの時はどうも。
魔導機械の部品なんて、遺跡潜りしても捨てちゃうことが多いから、思わぬ臨時収入になったよ」

言って、にこやかにお辞儀する。
最初に会った時は驚いたが、丁度いい仕事を依頼してくれた人である。
悪い印象など抱きようもなく、寧ろ少しばかり好印象を抱いていた。

ミシェル > 「なるほど、ね。残念だな…せっかくだから今夜食事にでも誘おうと思ったのに」

ロイスの言葉を聞き、心底残念そうにため息をつく女男爵。
特に何かその職員にしか出来ない用事があるというわけでもないようだ。

「あぁ、あの依頼で会ったか。確か名前はロイス君だったか。
いやぁ失敬。女の子なら全員覚えてるんだが男の冒険者は殆ど記憶してなくてね…」

少々失礼なことを言いつつ、手慣れた動作で杖を取り出すと、
ロイスの背後の棚目掛けて振る。
すると、引き出しが開き紙が一枚ひらひらと飛んでくる。
ミシェルの前に着地したそれは依頼の発注書類だった。

「部品を捨ててる?なんてもったいない事を…。
集めて渡してくれればいくらか買い取ったろうに。
勿論取得した日時、場所はメモしてくれたまえよ?」

次に彼女は懐からペンを取り出すと、それを宙に放り投げる。
それはペン先を下に依頼書の上に着地し、猛烈な勢いで文字を書き記し始めた。

ロイス > 「ああ、個人的な知り合いだったのか。
良かったら、後で君が来たことは伝えておこうか?
トラブルがない限り、日の入りまでには帰ってくるみたいだから」

一応、貴族の人間にも伝手はあるものの、流石に全ての貴族の情報を知っている訳もない。
だから、彼女がまさか、『女性に対して恋多き人物』である事など、想像の外で。

「まあ、女性だったらそれが普通だと思うよ。
男性の冒険者と話す機会なんて、同じ冒険者じゃないとあるもんじゃないし。
寧ろ、女性限定とはいえ会った冒険者全員把握してるのは凄いと思うけど」

と、少々ズレた感じに受け流していたが。
彼女が杖を振って、魔法で書類棚から紙を引っ張ってくると、ほう、と瞠目する。
起きた効果自体は大したこと無いが、発動動作が手慣れていた。
冒険者でも、あそこまで『何気なく』魔法を使える者はそうは居るまい。

「基本金属だからね。重いし嵩張るし、何より他と違って安定的な卸先もないのが……って、うわ、自動書記もできるのか」

何気に、冒険者の魔術師に覚えられる事の少ない魔術である。
実際は、マジックアイテムの効果なのだが、魔術の使えない男にはその辺りの区別はつかない。
魔術師と組んだ経験から、魔術師がどの様な魔術を覚えることが多いかはわかるが、目の前の魔術が何なのかはわからないのである。

「君、もしかして結構凄い魔術師?
そういえば、見たところ服の仕立ても良いような……」

てっきり、商家のご令嬢ぐらいかと思っていたが。
もしかしたら、偉い人なのかもしれないとちょっと怪訝な顔に。

ミシェル > 「ん?いや、いいさ。自分で口説くのが楽しいんだ」

いないならいないで、別に急くことはない。
彼女にとって依頼を出すのが本来の目的であって、
受付嬢を口説くのはついでの事であった。

「そりゃあ全員抱いたからね。君も抱いた相手の顔は忘れないだろう?」

そして、女性冒険者を全員把握していることを言及されれば、そうさらりと返す。

「はぁ、ならせめて元の場所に戻しておいてくれ。そこら辺に捨てられたんじゃたまんない。
自動書記?あぁ、君も受付するなら覚えておいたほうがいいと思うね」

専用の魔導ペンを作成するのは自動書記魔法の応用のようなものなので、差は少ない。
そんなこんなで受け答えをしていると、依頼書を書き終えたようで、ペンの動きが停止する。
そこには、”第26次遺跡発掘調査隊募集のお知らせ。30名ほど”と題名が記されていた。

「おや、知らなかったかな?僕は今のエタンダル男爵家の当主だよ。
遺跡発掘調査の依頼をギルドには長年出していたと思うけど…」

エタンダル男爵家の発掘調査といえば、ロイスにはそれが遺跡の最深部にまで潜る、
毎回八割ほどの冒険者が病院送りにされる過酷なものであるとの知識があるかもしれない。
そして今回の発掘調査の依頼書が、今しがた出来上がった紙なのだろう。

ロイス > 「口説……抱くっ……!?
いや、すまない。思いも寄らないことを言われたから動揺した。
そうか、君はそういうタイプか……」

一応、この国の冒険者として、"そういう"話題には耐性がある方だが、急に言われれば流石に少し動揺する。
とはいえ、ここまで別の世界の住民なら、逆に話しやすいのも事実ではある。
一度ため息のような深呼吸をして、

「まあ、それぐらいなら気をつけるよ。他の冒険者にも言っておこう。
いや、俺はあくまで臨時の職員であって、これを職にするつもりはないんだ。

というか、押し付けられただけで、本来は一度たりとも此処に座る人生設計はなかったんだけど……」

言って聞くかは別として、とは付け加えないが。
冒険者は、概して粗雑であるからして。
ロイスはその例外ではあるが――例外であるからこそ、こういう仕事を押し付けられることを考えると、それが誇れる性質かはちょっと怪しいところだった。

「まあ、調査依頼の筆記には使えるかもしれないけど――って。
エタンダル男爵家、って冒険者の間じゃ有名な家じゃないか。
そこの人だったのか……そうか、そこの人かぁ……」

と、家柄を名乗られると、男は複雑な表情になる。
エタンダルの発掘調査と言えば、ハイリスクハイリターンな、ある意味冒険者の職名に相応しい依頼を飛ばしてくる家門だ。
男は普段、進んでその依頼を請ける事はないが、一度人数合わせで依頼を請けさせられた時には、酷い目に遭った事は覚えている。

「(しょうがない。正直、貧乏くじだとは思うけど――)」

そう思いつつ、依頼書をじっくり読む。
本来なら、ざっと目を通して問題がなければ通すのだが、例年、規模と危険度が段違いの依頼を出す家だ。
多少、不興を買う事になっても、冒険者たちの最低限の安全のために、厳しく依頼の内容を精査しようと