2021/05/16 のログ
■エリア > 「普通……かと思いますけれど……?」
王都とは言えこの世情の悪さで娘を放逐すると言うのは放任とはまた違うだろう。治安の良い富裕地区ならばギリギリだが。
道端で強姦が罷り通る様な区画にお共もつけずには歩かせられないという考えは珍しくはない。
小首を傾げながら疑問符混じりに語尾を上げ。
「そちらもわたくしにとっては充分珍しい所ですが……如何せん用事がありませんわね」
馴染みの場所に連れて行ってもらおうかとも思ったが、どうもお門違いらしい。
腕の良いシェフの作る洗練された料理は微塵も求めていない。
どちらかと言えば粗野で荒っぽいガッツリしたものをお求めな変わり者。
よく行く店……舌の肥えた貴族御用達でなければいいなと思いながら頷いて、
「ええ、お願いしますわ。――ニンニクの利いたお料理なんかもありますかしら。
普段中々口に出来ませんので……」
口臭などさせていては社交界は疎か来客すらも迎えられない。
屋敷ではまず出されない物が食べたくてそんな事を尋ねながら向かおう。
■ミシェル > 「そういうものかな…?」
無法者に襲われてもミシェルは自力で何とかできるために放任されているだけだし、
冒険ギルドに出入りするような宮廷魔術師に何かする暴漢もいないだけなのだが、
ミシェルは言うほど治安も悪いだろうかと思っていて。
「十分楽しいと思うんだけどな。魔法を学んだら。
ま、趣味に合わないなら仕方ない…」
少々残念そうにミシェルは言う。
魔術師が目を輝かせる魔法薬の店も、素人が見れば怪しい薬を売る店でしかない。
そして、彼女が求めるのは学問ではなく食事なのだ。
「ニンニク、ニンニクねぇ…あ、そういえば。
シェンヤンの料理を出す店が近くにあったな。
ニンニクたっぷりのたしか…ギョーザとか言ったかな、そんな料理が出る」
平民地区には交易商人も来るだけに、その手のエキゾチックなレストランも結構あるのだ。
いくつか候補を頭の中に浮かべつつ、しかしはっとしたミシェルは苦い顔で聞いた。
「その…かなり臭うけど、食べて大丈夫かい?バレない?」
■エリア > 「マグメールは他国に比べて治安が良くないそうですよ。
比べて見る事が無ければ判らないかも知れませんわね。
この広場ですら、時々捕虜や貴族がさらし者になってなっておりますし、衛兵ですら無法者の味方をする事もありますでしょう?
そんな事は他国では通常ないそうです」
この国で生まれ育ち治安に慣れきっていたら、ここが余所と比べて物騒だという頭もないのかも知れない。
けれど、平民地区の案内にはそんな文言を添えられたりする。
か弱く世間知らずの貴族の娘を野放図にしておいて孕まれでもしたら事である。
「自分が愉しい事と人が愉しい事はそれぞれ異なりますからね……」
中々そこは難しい物だ、と残念そうな口調に微苦笑気味に肩を竦め。
自分にとっては色気より食い気さらに言えば学問は色気よりももっと地位が下である。
「シェンヤン料理…っ。まあ、ギョーザ…?シェンヤン料理はたまに口にしますが……それは食べた事がありませんわ」
それはぜひとも食べてみたい、と不意に目が輝く。シェンヤン料理に馴染みがない訳ではないが、どれもこれも口に出来るのはニンニクもスパイスも控えめな、マグメール流にアレンジした上品な高級料理であるし、それも滅多には供されない。
「喉を傷めた事にして喋らない事にしますわっ」
それで対処しようという考えは無茶だが、根性は据わった令嬢であるからして、ニンニクは絶対食べて帰る気で。
■ミシェル > 「…やー、そこまでとはねぇ…。
王様が決まらない間に、そんなにまでなるなんてねぇ」
ミシェルにとっては誰が王になるかなどあまり興味はなく、
出来れば研究予算をたっぷりくれるタイプならいいなと思うぐらいではあるが、
この王都ですらそこまで乱れているならはやく決めたほうがいいのかもしれないなと思い直す。
「食べたことが無い?ならよかった。行くのはそっちにしよう。
アレは熱々の焼きたてが美味しいらしいよ」
普段は持って帰るので冷えてしまっているのだが、
そう思えばミシェルも焼きたてを食べてみたくなった。
こっちこっち、と広場の出口へ歩き出す。
「…あー、うん。何で喉痛めたのか絶対聞かれるね。
うーん…臭いが抜けるまでどっかに泊まるかい?」
外泊しても怪しまれる気はするのだが、
そこは自分も何かもっともらしい理由を口添えしようかとも考えて。
■エリア > 「――だから、一人歩きは厳禁、とは言われているんですけれども、ねえ……」
それをあっさり破って、従者さえお払い箱にしてふらふらほっつき歩くのは立派な不良令嬢である。
けれど、それはそれ、と居直り。何ならお付きの代わりにお連れをゲットしたのでそれで相殺とすら思っている。
「まーっ、楽しみですわ。ニンニクたっぷりでアツアツなんて……聴いただけでも美味しそうです」
屋敷でも出来立ての暖かい料理はでるが……舌を火傷しないように少しは冷まされてしまうので、焼き立て熱々と言うだけで嬉しくなってしまい声を弾ませた。
促されるままにゆったりと歩き出し。
「風邪でいいですわ。でも、しばらく部屋に閉じ込められるのも嫌ですわね……。
そうできると良いのですが……それは流石に連絡をしませんと難しいですかしら……」
それならいっそニンニク臭い口で帰った方が叱られない気はする。若干本末転倒な気もして悩まし気に首を捻り。
何かいい案はないか模索する。
■ミシェル > 「うーん、そう聞くと僕も君のことが心配になってきたな、色々と」
自分には魔法があるがこの女性には何か身を守る術があるのだろうか?
彼女の親の気持ちもわかる気がする。
「他にも色々シェンヤン料理を出してくれるらしい。
まぁ…僕もあまり食べたことは無いのだけど」
作法なんかもあまり知らないが、まぁ平民地区の店なので大丈夫だろう。
歩幅を合わせて、彼女の隣でゆっくり歩く。
どうせすぐにつくのだから。
「勿論平民地区の宿になんか泊まれないだろうし、富裕地区のホテルでも難しいだろうけど…。
貴族の友人とかはいないのかい?」
同じ貴族の友人であれば泊まるのも怪しまれないだろう。
無論、向こうが彼女の平民地区行きやニンニクの臭いを秘密にしてくれるような友人である必要はあるが。
■エリア > 「あら、ありがとうございます。
それでは、わたくし達お友達になりましょう。そうすれば堂々と心配して頂けますもの」
非常に妙な理屈では有るが一つの真理かも知れない。軽く両手の指先を合せるようにして笑って提案した。
「わたくし、シェンヤン料理でしたら、噂に聞く拉麺と言う物を食べてみたいんですの。
大衆料理ですから食べさせてもらえないのですが……とても美味しいと使用人達が話しておりましたのよ。シェンヤンのパスタなのでしょう?」
貴族同士で拉麺や餃子を食べに行くなんて珍しすぎる光景だが、当人は目を輝かせて楽しそうにそわそわと浮ついて、まだかしら、遠いわ、等と大して歩いていないしすぐにつかないのはこの牛歩の如き遅足のせいだが。
待ちきれないように呟いていた。
「それに、急に外泊する理由もありませんしね……。
いない事もありませんが……今日、泊めて頂くのも厳しいですわねぇ……」
何分急すぎる。それに同じ貴族の屋敷へニンニク臭をさせて向かえばやっぱりそれもまた本末転倒になってしまう。
■ミシェル > 「おや、僕らもう友達のつもりだったんだけどな。
そういうことなら改めて、これからもよろしくね、エリア」
少々キザに笑ってみせる。白い歯がちらりと見えた。
「拉麺、拉麺か…確か一緒に売ってたな。
ハリガネみたいに硬いらしいね、アレ」
茹で具合をそう例えているだけなのだが、ミシェルも食べたことは無く。
すたすた歩けばすぐつくものを、ひたすら彼女の歩みに合わせてゆっくり行く。
まぁ、それでももうすぐつくだろう。
「んー、目の前に女性を泊めるならいつでもウェルカムな貴族がいるけど、どうだろうかな?」
そう言って自分の胸をぽん、と叩く。
まぁ、彼女の親がミシェル・エタンダルの家に自分の娘が泊まることを許すかどうかはわからないが。
■エリア > 「はい、こちらこそですわ。
これで存分にご心配頂けますわね。お友達ですもの」
何を目的にしているのかさっぱり判らないような事をおどけながら口にして肩を揺らし。
「まぁ、そんなに硬いものなんですの?
嚙み切れますかしら……、わたくしの見聞によるとアルデンテくらいかと……」
怪しい知識を吹き込まれて難しい顔になり、そんなに硬い麺が果たして美味しいのだろうかと唸っていた。
そんな事を考えながらの貴族令嬢特有の牛歩だったがやがては店に着き。
外からでもたっぷり香るニンニクの香りに吸い寄せられて行った。
この店だ、と言われなくても判った様で、ここですわね?と振り返り。
「あらっ、宜しいのですか? わたくし達お友達になりましたし、ミシェルでしたらこれから一緒にニンニク臭くなるのですし、願ったり叶ったりですわね」
胸を叩く彼女を見て、少し目を丸くしたが。相手さえよければそれは名案かも知れない、と頷いた。
旧家の爵位持ちであれば家の方もとやかく言わないだろう。女性同士であれば孕まされる事もないし、そもそも嫁に出さない構えの娘でもある。
■ミシェル > 「まぁ食べられないものを売るわけがないとは思うけど…どうなんだろうね?
お、そうそうここだよここ」
見えたのは周りとは一際違ってみえる、シェンヤン風の建物。
ニンニクやら何やら、エキゾチックな香りが漂っている。
ミシェルは苦笑しながら、吸い寄せられるように先に行くエリアの後をついていく。
「まぁ別に魔法薬やら魔導機械の油やらで臭うことはあるからね。
ニンニクぐらいどうでもないよ、僕の家は」
一般的な貴族らしい部屋だけでなく、研究室もあるのだ。
そんなことを言いつつ、店に入る。
「二名で。今日は店で食べるよ」
初めて来るわけではないが、いつもは持ち帰りばかり頼む貴族の言葉に、
シェンヤン人移民の店員は目を丸くしながらも席に案内する。
■エリア > 「でしたら、ハリガネの様な、と言うのは比喩表現ですわね。
絹の様に滑らか、と言う風に言いますし。
如何にもですわね。楽しみですわ」
ニンニクやショウガ、八角や醤油紹興酒、そんな香ばしくも刺激的な匂いが店外にも零れていてオリエンタルな料理の匂いに頬を緩ませ。
「あら、ではニンニクの代わりにお薬や油の匂いを頂いてしまうかしら」
くす、と小さく笑って軽口を零し。研究室をわざわざ見せてもらわない限りは大丈夫とは承知だが。
御免下さいませ、と挨拶をしながら彼女に続いて入店し。
案内された席に着くと、注文が決まったら呼ぶ様に告げる店員に、
「ギョーザと、拉麺はありますか? それと、それと……」
壁に貼りだされた品書きを見ながら、あれはどうなのだろうこれはどうなのだろうとあれこれ悩み始め。
ピータンやら焼売やら春巻きやら食べた事のない物をあれこれチョイスして。
一度にそんなには、と引き気味の店員に取り敢えずそれで、と一旦〆た。
■ミシェル > 「け、健啖家だね…」
あれもこれもと山のように注文する彼女に、少々唖然としながら笑う。
食べられるのだろうか?大丈夫なのだろうか?
そんなことを心配してしまう。
「ぼ、僕はとりあえず拉麺で」
自分は一品だけ注文する。噂に聞くハリガネにした。
そもそもそんなに食べるタイプでもないし、
彼女が山のように注文したのを食べきれなかったら大変だし。
そうして、しばらく待てば、いかにも食欲をそそる香りを漂わせ、
まずは拉麺が運ばれてくるだろう。
豚骨味の拉麺らしい。
「ふーむ…見た目は鉄ってわけじゃなさそうだね」
有難いことに、スプーンと組み合わせたような独特なフォークも用意されていたので、
それを使って食することにする。
幾分場に似合わぬ上品さで、麺を口に運んだ。
■エリア > 「お腹空かせて来ましたし」
そんな一言で済む様な量ではないが。
幸い繁盛期を過ぎて店内に客は殆どいなかった為、注文拒否はされなかった。
にこにこしながら、テーブルの調味料の蓋を開けて確認したり、品書きを隅から隅から隅まで眺めたりわくわくしながら料理を待ちわび。
「ふふ、本当にハリガネだったら食べられませんわよ」
鉄、と言い出す様子に肩を揺らしながらこちらも運ばれてきた拉麺(大盛り)をチョップスティック……箸を選んで手にし、シェンヤン料理の際使い方を教え込まれたのか、存外器用に扱うが。レンゲを使ってスープは音を立てず、麺を啜らず、とそれは自国のマナーを守って静かに食べ始めた。
スープを味わっては、思ったよりもニンニクでもなく感心したように麺を箸で掬い。
「美味しいですわ……、スープパスタ、という感じですね。
でも麺が独特の風味でパスタとは全然違います。
餃子と食べると本当に合うんですのね」
拉麺に続いてすぐに運ばれてきた餃子。食べ方を知らないのでそのままタレもつけずに熱々を頬張っては熱さに眼を白黒させたが、口許を抑えながら熱を逃がしつつ咀嚼して目を細め。ニンニク…とうっとりしていた。
醤油も何もつけなかったが薄味に慣れている為余り違和感は覚えなかった様で。
■ミシェル > 自分も拉麺を味わいながら、エリアが器用に箸を使う様を関心した目で見る。
「やぁ、箸を使えるんだね。僕はまだ上手く使えないや」
自分もシェンヤン料理を食べるのは初めてでは無いのだが、
何分食事のマナーより魔法の一つでも覚えろというお家柄で。
ちょくちょく練習してみるも、思ったより使い慣れず難しい。
「どうも食感も独特だね。この薄い豚肉も初めての味だ。
あとこの茶色いのとか、渦巻きが描いてあるのとか」
様々な具が盛られているが、不思議と調和は取れている。
あれやこれやと感想を言いながら、拉麺を食していく。
「あ、それソースにつけると美味しいよ。ほら、そこの瓶の」
そう言って小皿にタレをとって差し出す。
餃子だけは、持ち帰って食べているので食べ方は知っている。
そうしているうちにも、どんどん注文した食べ物が運ばれてきて、
テーブルも狭くなり、匂いもどんどん籠っていく。
■エリア > 「ええ、慣れれば中々便利なカトラリですわ。――一見ただの棒ですから、軽んじる方もいらっしゃいますけど……」
東洋文化を下に見がちな貴族もいて余り浸透はしていないかも知れない。
食べる事となったら本気になりがちな性分。その文化圏の食器を使用する事にしていて。最初は苦戦したが今はスープに沈んだ食べにくい麺料理も難なく。
「パスタには使用されていない物が入っていますわね……。
そうそう、パスタ、ではなくヌードルが正解でしたか……。
ソース……これですの? なるほど……確かにそのままでは薄味だと思っていました」
シェンヤンでは水餃子が一般的らしく、餃子と言えばそれが出て来るが、茹でただけの餃子では味がかなり薄い。拉麺と一緒だから行けたが、単体では物足りないと思っていた所に、ソースと差し出されたそれに少しつけて見て頬張ると、成る程ちょうどいい感じで。
「美味しい……麺と同じで皮がもちもちしていますのね」
気に入った様子でぱくぱくと旺盛な食欲でテーブルに並んだ料理を平らげて行き、一人で優に三人前は食べた所で、
「デザートもありますのね」
亀ゼリー、杏仁豆腐に眼をつけ早めに注文した。
■ミシェル > 「僕なんかはフォークで刺したり巻いたりするほうが合理的だと思っていたけど…、
細かいものを食べる時にはいいのかな、それ」
合理性でいえば食器は簡単に使えるほうがよく、
むしろ食器などなく手で食べられる物のほうが研究の合間に食べるには適している。
そんなことを考えるミシェルなので、使うのが難しい食器にはいまいち理解が及ばない。
「や、気に入ってもらえて嬉しいよ。
ちょっと予想外に食べて貰えてるけど…」
自らはゆっくり拉麺を食しながら、テーブルの上所狭しと並んでいた料理が、
次々に消えていくのを眺めている。
あの身体のどこにそれだけ入るのか、まるでわからない。
そして食し終えて、デザートまで頼んだところで、驚愕に目を見開いた。
「あ、はは、デザートね…あぁ、僕はお茶を」
王国で一般的な紅茶とはまた違う、シェンヤンティーを注文しつつ、
食べ終えた拉麺の皿を脇にどけた。
■エリア > 「利点は、切る事には向いていませんが、差す、巻く、裂く、摘まむ、挟む、と多岐な使い方がこれだけで出来るので、フォーク、ナイフと両手で二種使用するよりはコンパクトで理に適っているかとも思われますわ。軽くて銀食器と違って音がしにくいのもいいですわね」
放って置けば次にナイフとフォークの利点も語りだしそうな勢いだったが、その前に料理を冷めない内に食べる事を優先して。
音を立てず大口を開けず、口いっぱいに頬張らず、とマナーはきっちり守ってそれなりの品位を保ったまま食していると言うのに異常に食べるし異様に速い。
「どれもとっても美味しいですわ。
お店の場所を覚えておかねばなりませんわ。
ミシェルはテイクアウトしていると仰ってましたわね」
これだけ食べたにも関わらず、持って帰ってさらに食べる気なのか。今日は人のお家に泊めて頂くのをいい事にテイクアウトしていいかしら、という気配を醸し出し始めた。
「こってりしたお食事の後に丁度いいさっぱりしたデザート……これもとても美味ですわ……」
とろりと柔らかな杏仁豆腐を掬っては美味しそうに喉を滑らせていき、ほう、と心地よさげな溜息を吐き出した。
心ゆくまで食べた後はお茶を飲んで落ち着き。お腹だけ少々目立つようになるのをゆったりしたドレスとストールでカバーしていた。
■ミシェル > 「な、なるほどね…」
食器に関してここまですらすらと語る人間は初めてなので、少々面食らう。
少し…というよりかなり、食に情熱を向けているのかもしれない。
正直、食べられれば割と何でもいいミシェルとは大違いだ。
「あ、あぁ。そうだね、夜も食べるもんね…。
好きな物を持って帰るといいよ…頼んだら対応してくれるよ」
はたして、彼女をこれから家に招いて満足いく夕食を出せるかどうか。
今更ながら心配になってくる。
ミシェルは彼女が食べ終えるまでゆっくりとお茶を飲んでいた。
「満足してもらったみたいだね。
さて、この後はどうするかい?」
他のレストランにも行く、と言い出したらどうしようかと内心思いつつ、
ミシェルはエリアに聞いてみる。
■エリア > 「ミシェルは器用そうですからすぐに使えるようになると思いますけれど」
食事をさっと済ませたいタイプであれば猶更使いこなせれば食事の時間が短く終われる事もあるだろうと踏んで、そんな大食のお勧め。
「構いませんか?
でしたら、テイクアウトできるメニューは……
そうだ、荷物になりますからミシェルのお屋敷へ届けていただこうかしら」
またしてもあれこれと大量に注文し始めた。
持てる量、と思い当たっては余分に支払いをして屋敷へ配達してもらえるかどうか確認。普段は余程近隣へしか応じてない事らしいが貴族相手となれば早々断る事も出来ず、特例として了承を得た。
「ご馳走様でした。お陰様でとても満足しましたわ。
そうですわね……最近流行の小物を手に入れるのもいいですかしら」
富裕地区とはまた違う平民地区での流行の品。勿論大っぴらに身に着けたり持ち歩いたりは中々難しいけれど、気に入った物を一つ二つ手元に置くくらいならと思いついて。
■ミシェル > 「まぁエリア嬢がそう勧めるなら練習してみようかな…」
正直、一人で食べる時は手で放り込めば済むものや飲めば済むものばかり食べているのであまり恩恵は受けないだろうが、
女の子を誘ってシェンヤン料理を食べる時に役立つだろうかと思い直し。
「は、はは…すまないね」
またしても山のように注文し、その全てを自分の家に送ると聞いて、
引きつった笑いを浮かべながら、店員に謝った。
彼女がそれを食べきれなかったらどうしようという心配は、無用だとは思うが。
「流行の小物…買う当てはあるのかい?」
平民の女の子をデートに誘う時のために、流行なんかも把握してはいるが、
一応彼女自身に行きたい店や買いたい物があるのかどうか聞いてみる。
■エリア > 勧めに応じる台詞ににっこりと頷いて、ぜひそうなさいませと声を掛け。
屋敷に料理を届ける算段が付けば、そうだ、と思い当たって。
「大変お手数ですが、エタンダル家の方からファンケットの方へお使いを出して頂けますか? 事前に知らせておかないと失踪扱いになってしまいますので……」
自分の方からの一方では本当に彼女の所へ泊るのか証明にならない。
申し訳なさそうに依頼しては、自分の方も今回途中までついて来ていた従者の方へ事情を伝えておかねばと思慮し。
高々気のすむまでニンニクを食べたい、と言うだけで一苦労だなと内心で失笑し。
「これ、と言うのはないのですが……人気のあるもので気に入った物が見つかれば購入しようと思います」
やはりここも場当たり的であった。人気の店も適当に人が入っている所を覗いてみようと言ったような考えで。
■ミシェル > 「ん、そうだね。丁度このテイクアウトのことも伝えておかなきゃならないし」
そう言いながらミシェルは懐から、手のひらサイズの水晶玉を取り出すと、
そこに向け一言二言呪文を唱え始める。
すると、その透明な球に、人影が映り始める。それはメイドの服装をしていた。
ミシェルが水晶に向け要件を話し始めれば、水晶からも声が聞こえてくる。
遠い距離でも会話するための魔法である。
「今伝えておいたよ。すぐに君の家にも伝言が届くはずだ」
そう言って水晶玉をしまうと、席を立つ。
「人気の店…うーん、多分そうだろうというのはいくつか知っているけれど…。
まぁ、そこに行ってみようか」
あまり計画を立てずに買い物に行くのは、自分とは真逆のタイプだなぁと思いつつ、
ミシェルはこれから行く店の候補をいくつか伝えた。
■エリア > 「ありがとうございます、これで一安心ですわね」
水晶玉での遠距離会話という技、どちらかと言えば魔術師と言うよりも魔女と言う方がしっくり来るなと感じながら、屋敷の方へ伝言していてもらえば、これで心置きなく遊べると言う物で。
安堵したように微笑み。
食事を終え、配達分と合わせて支払いを済ますと店員にも愛想よく挨拶をして店を出て。
「あら、心当たりがおありですの? それでしたらお願いします。
わたくし、この地区の店にはとんと疎くて」
ノープラン無計画。平民地区に来れる機会は少なく知っている店も殆どない為、いつも一人の時は冒険だ。
けれど今日は心強いナビゲーターがいる。シェンヤン料理も美味しかったしありがたい連れで。
「ミシェルは平民地区にも詳しいんですのね?」
■ミシェル > 「言うほど詳しくはないけど人気の店ぐらいは知ってるかな…。
君よりは行く機会もあるし」
ミシェルも貴族であり、ここで生まれ育ったわけではない。
なので、事前に調べてわかる範囲の知識がせいぜいである。
「さて、目的の小物店はそっちだ。ここから結構すぐだよ。
商店街の一角にあるらしいし、君には満足なんじゃないかな?」
商店街に行けば、彼女が興味を惹かれる店も沢山あるだろうか。
ミシェルは目的地に向け歩き出した。
■エリア > 「わたくしからすれば、充分詳しいですわ。
わたくしもこれから馴染みのお店が増えればいいのですけど」
立場上難しいし、その度に従者を上手くあしらわなくてはならないが、平民地区で自由に遊ぶ事自体がゲーム感覚で。
今日の様にとんとん拍子に事が運べば非常に満足。
「余り遠くなくて安堵しましたわ。
平民地区は小さなお店が沢山立ち並んでいて愉しいですわね」
富裕地区の様に広い敷地に余裕をもって建てられた店舗でもなく雑多に立ち並ぶ感じが返って面白い。
店に依っては呼び込みがあるのもならではな感じで新鮮だ。
目当ての店に向かう途中で気になった店を覗いて行きながらの道中。
いちいち興味を持つもので、気づけば押し売りに当たる始末である。
「ミシェルどうしましょう、抜群によく落ちるタワシですって」
そんな物は自分で掃除などしない立場ではどう考えても必要ないしどこから見ても普通のタワシであるが、売りつけられそうになっていた。
■ミシェル > 「馴染みのお店ってのは増やそうとして増えるものでもない気がするけどね…。
あまり離れすぎないでおくれよ?君に何かあったら僕が君の親御さんに殺されるし」
冗談半分に言いながら、ちょこまかとあちこち動き回るエリアを見ている。
見る物全てが興味深いのだろうか、ミシェルは遺跡に行くときの自分を見ているような感じがした。
「あー、流石に掃除用具は富裕地区に売ってるもののほうが性能は良いと思うし、
そもそも君は掃除をするのかい?」
召使に買ってあげればそれはそれで喜ぶと思うが、平民地区より富裕地区で買ってあげたほうが喜ぶのはミシェルにもわかる。
そもそも大体魔法で何とかするミシェルはタワシなんて使ったことも無い。
「…まぁ、君がどうしても欲しいと思うなら何も言えないのだけどさ」
結局のところ、彼女にとっては平民地区を散策できればそれで良いようなので、
ミシェルはエリアに大まかな目的地を与えつつも好きなようにさせた。
彼女が満足すれば、それで構わない。
■エリア > 「わたくしにとっては、自然に増えると言う事は多分ありませんから。
――承知しましたわ、心がけます」
と、返事をしながらも早速押し売りに捕まって安物のタワシを高値で売りつけようとされている。
「精々掃除が行き届いているか確認するくらいですわ。
でも、とっても良く落ちると……ひと擦りで頑固な水垢も……水垢? ……見た事ありませんわね……」
水垢なんて付着する前に拭き取られている様な掃除の行き届いた屋敷では押し売りのセールストークも力を失っていく。
そもそもタワシをまじまじと見る事自体初めてだったりするので善し悪しなど端から判った物でもなくて。
結局――
「とてもいい品かも知れませんけど……持ち歩くのに邪魔になりますので結構ですわ」
今日は気に入った物だけ買う事にしているのである。タワシはそもそもお呼びではないし、第一邪魔。
押し売りをその気にさせておいて購入しなかったものだから、路上の押し売りに悪態を吐かれていて。
それを見て笑顔のまま、
「ミシェル、あれは棒打ちに処すのが妥当ですかしら?」
にこにこしながら処刑の算段をする辺りは貴族脳なのか。
■ミシェル > 「あぁ、うん…まぁそうだろうね…」
見るからに世間知らずな貴族なら売りつけられると思ったのかは知らないが、
貴族がタワシなんて必要ないだろう。『珍獣の卵です』とか言えば売りつけられたかもしれないが。
「いやいや、君は本当はここにはいないし、あの無礼な押し売りには出会ってないはずだろう?
どうやって罰するのさ」
そう言って笑いながらも、腰のホルスターから杖を取り出し、
押し売りにこっそり向けて軽く振る。
すると、押し売りはびくりと震えたかと思うと、笑いながら全身をかきむしり始めた。
「ま、日が暮れるまでそうしてて貰おうか」
全身を痒くする魔法、本来は拷問用だ。
あまり派手な制裁を行って騒ぎになるのも困るし、これで十分だろう。
押し売りの笑いに周囲の注目が集まり始めれば、そっとエリアの手を引いて離れさせ。
幸い、魔法をかけているところは見られていないらしくこちらを見る人間は少ない。
■エリア > 「通りすがりのご親切な方に声を掛けまして幾らかお支払いすれば代行して下さるかなと思いました」
ご親切なお方と言うが受けてくれるのは通りすがりのアウトローだろうが。
泰然とした笑みを保ったまま、金で解決しようとする点はやっぱりどっぷりアレな側の人間であった。
私刑、と人は言う。
そんな私刑を執行に移す前に――
「あらっ……」
執行役は変わって連れのお友達が代行してくれた。
急に笑いながら苦し気に身体を掻き毟り始めた押し売りの手から何の変哲もないタワシが散らばる。そのタワシで疼痛に耐えられず掻き回すので、周りから何事かと注目が集まり。
「ミシェルったら……棒打ちより残酷ではなくて?」
その場から手を引かれ充分離れた所でこっそりと耳打ちしてくすくすと笑い。
それで一応留飲が下がった様でまた、散策が再開された。ようやく目当ての店にもついて、先ほどの事はすっかり忘れた様に楽し気に商品を眺めていた。
■ミシェル > 「そんな危ない通りすがり、まず声掛けちゃダメだろう。
あぁ、僕がやっておいて良かったね…」
とんでもない案を実行に移される前になんとか出来たことに、若干安堵した。
「別に後遺症も無いし、時間が経てば完全回復するし問題ないよ」
精神的にはつらいだろうが、痒みもそこまで強力ではなく。
実際には棒打ちよりもマシだろう。
反省して貰えればそれで十分なのだ。
その後目当ての店につき、あれやこれやと眺めて買っているうちに、
太陽はすっかりと傾いていた。
「ん、そろそろ帰るとしよう。暗くなると流石に危ないからね。
泊まるんだろう?僕の家に」
そう言って、エスコートせんと手を差し伸べる。
■エリア > 「では、篭絡しやすそうな衛兵の方に……」
結局金を握らせてやらせる気。腹黒い発想を抱いた訳ではあるが、阻止されてそれ以上大きなトラブルはなく済んだ。
「痒みは痛みを上回るとも聞きますけどね……流石ですわ」
流石と言うのは流石、貴族脳という感心でもある。
つまりは、痛みも痒みも良く知らないのだからしれっと出来る事で。
それは右に同じくなのだけれど。貴族同士、やはり同じ側の人間。
判り合える友人でもあった。
そして、店で小さな装身具や細工物を購入して満足した所で普段甘やかされた足が怠く痛くなってきて。
「はい、満足しましたし疲れましたわ。
ふふ、まだニンニクの匂い、しますものね。お世話になります。
――馬車を呼びませんこと? もう歩けませんの」
差し伸べられた手を取って頷くと、歩くのはもう沢山だと柔な発言で。
帰宅に関しては応じて一晩お世話になる事だろう。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からエリアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からミシェルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にミンティさんが現れました。
■ミンティ > 休みの日の朝は散歩に出るのがお決まりになっていた。特にどこかへ行こうと決めているわけではないから、大体いくつかのコースから、その日なんとなく気が向いた方へと進んで、お店に帰るくらいの事しかしていない。
たまにはどこかに立ち寄ろうかとも思うものの、人通りがすくない時間を選んでいるせいもあって、開いているお店は多くない。朝食メニューを出しているおしゃれな雰囲気のカフェなんかが目についたりするはするけれど、そういったお店には、自分なんかが足を踏み入れていいものかと気後れしてしまうのだった。
毎回近所をぐるぐる歩きまわるだけなのもどうなんだろうと思い、今日はこのまま、図書館が開いている時間まで歩いてみようかと考えたりもして。
「ふあ…」
そんな考え事も、小さい欠伸一つで途切れてしまう。外出の仕度をきちんと済ませられるくらいには早起きしていたから、まだ頭がすこしぼーっとしている。
こんな状態でふらふら歩いていると、変なトラブルに巻きこまれかねない気がして、目元を擦って、ぺちぺちと頬を軽く叩き、眠気を追い払おうとした。
■ミンティ > 眠気をさましたところで、のろのろした足取りはあまり変わらない。こんな朝早くでも先を急ぐ人はすくなくないから、せめて邪魔にならないように、道の端の方を通るように心がけて。
そのまましばらく気ままな散歩を楽しんでいたけれど、急な違和感に足をとめた。ふくらはぎのあたりに、やけにくすぐったいものが触れてきて、びくっと身震い。
「ふわっ…?」
あわてて足を見下ろすと、もふもふした茶色いものが目についた。ぱたぱた揺れているものが尻尾だと気がついて、ようやく野良犬にじゃれつかれているのだと認識する。
いつの間にすり寄ってきていたのか、触れられるまで気がつきもしなかったから、やっぱりまだぼーっとしているのかもしれない。
長いスカートの裾に頭を突っこまれている状況は、それ以上まくりあげられないとしても落ち着かず、なんとか離れてもらおうとたたらを踏んだ。
乱暴に蹴り飛ばすわけにもいかないから、もたもたした攻防はしばらく続いて。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にグラムヴァルトさんが現れました。
■グラムヴァルト > 早朝の通りの一郭で行われる少女と仔犬のじゃれ合い。
通りがかる街人達が微笑ましく見守るその光景に、不意に影が被さった。
「おぅ、チビ。てめぇ、人の番に手ぇ出してンじゃねぇぞ、こら」
低く掠れた声音に視線を上げれば、そこにはブレーのポケットに両手を突っ込み腰を曲げ、剥き出しの犬歯も凶悪に仔犬を威嚇するゴロツキの姿。
ピンク色の頭部が胸元にも届かぬ長躯は細身に見えても、広い肩幅とヘンリーネックから覗く胸筋の逞しさが暴力の気配を色濃く漂わせる。数人の街人が慌てて屋内に避難する無法の塊のような存在感。
そんなゴロツキからナイトよろしく少女を守ろうとでもしているのか、鼻先に皴を寄せてキャンキャン吠える茶色の毛玉を無造作に伸ばした剛腕でつかみ上げ
「よぉ、ミンティ。久しぶりだってぇのに……相変わらずちっちぇなぁ、てめぇは」
ニヤリと口角を吊り上げて形作る笑みは、子供が見れば泣いて逃げ出すだろう代物ではあったが、それなりに付き合いのある少女には機嫌の良い時に浮かぶ笑顔だと分かるはず。
■ミンティ > 下ばかり見ていたから、今度は周囲の様相が変化するのにも気がつかない。臆病なわりに大事なところで警戒心が足らなかったりするのは、悪い癖だと認識しているものの、なかなか治らないままでいた。
そんなだから、大きな影が被さって、ようやく誰かが近くにいる事にきがついた様子。スカートの中に潜りこんでいる犬も放ってはおけないけれど、反射的に振り返ろうとして。
「…」
ぽかんと口を開けたまま、しばし凶悪そうな面構えと見つめあう。その間に、じゃれついていた厄介者を拾い上げてもらえたけれど。
はっとしたあと、彼の手から摘まみ上げられた犬を奪い取った。見上げるような長身の相手と比べると小犬のように見えても、自分では両腕で抱えるのがやっと。あまり犬を抱き慣れていないせいで、少々不安定な姿勢にもなってしまう。
「…………、…怖かったですね。…だめですよ、あんな人に近づいちゃあ」
じとりと彼を睨んだあとに、視線は抱えた犬へと落ちる。露骨に態度を変えて、静かな声で語りかけた。
犬の方から近づいていったわけではないけれど、たしなめるような物言い。あんな人、というところで、もう一度長身の彼を睨みつけて。
普段は感情表現をおろそかにしがちな小娘ながら、今は誰の目にもわかるくらい、不貞腐れている、という態度をはっきりと表していた。
■グラムヴァルト > 「―――おぉっ? ……まさかそいつがてめぇの新しい男だってぇんじゃねぇだろうな? 最近じゃあこんなチビにまで手ぇ出してんのかよ。節操ねぇなぁ……」
飛び上がる様にして男の手から仔犬を救い出した少女に向けるのは、ニヤニヤ笑いの戯言。対する少女は気弱気な顔立ちと、無力その物の小躯とは裏腹に反抗的な態度。
遠巻きに見守る者の方が心臓に悪いといった蒼褪めた表情を見せる光景。
「おいおい、久方ぶりに顔を出した恋人に、随分な言いようじゃねぇか。ほれ、いっつもみてぇに『グラムさん!』とか言って、じゃれつきに来い。可愛がってやっから」
恋人をほったらかしてあちこちふらふらしていたチンピラが、悪びれもせずに言う。鋼束をより合わせて作ったような両腕を広げてみせたのは、その胸に飛び込んで来いとでも言っているのか。
どこまでも憎ったらしい態度であった。
■ミンティ > すこし睨みつけたくらいで怯んでくれるなどとは思っていなかったけれど、周囲の視線も気にせずにはしたない事を言いだす態度には、さすがに眉が寄る。
反射的に取り返した犬の方は、どうやら野良犬だったようで、なんだか埃っぽいし、多少の反省を期待した相手には真逆の態度を取られるしで、一人だけ曇り顔を晒す事になってしまっているから、ますます胸のあたりがむかむかする。
「……なにかようですか」
このまま知らないふりを続けていても、同じような態度で挑発されつづけるだけだろう。そう判断して溜息をこぼすと、他人行儀な嫌味で返す。生まれてはじめて出すような低い声が出たものだから、そんな自分の声に驚いて、ぎゅっと野良犬を抱き締める。
そんなやりとりをしている間にも、周囲からの不安そうな視線が注がれたままで、不機嫌そうに寄せていた眉が、居心地悪さにすこしずつ下がりはじめて。
■グラムヴァルト > 少女の不機嫌は外見だけの物ではないのだろう。
眼鏡の奥の翠瞳が眉根を寄せ、桜色の唇がむすりと引き結ばれる。
普段から表情に乏しい少女の、初見では気付かずに見逃してしまいかねない小さな変化。
それが分かっていながらも、ゴロツキの内心に浮かぶのは可愛い奴め。などという感想ばかり。罪悪感が全くないとは言わぬが、久しぶりに目にした彼女がかつてと変わらぬ鈍臭さで、元気そうにしている事が何よりも嬉しかった。
そんな内心を言葉として相手に伝えるなんて素直さを持ち合わせぬ天邪鬼は
「―――ッく……」
胸の痛みを覚えて呻いたのではない。
バチンと音を立てて口元を抑え、彫り深い凶相をバッと横向けた長躯が震えるのは、必死で笑いをこらえているのだ。
機嫌の悪さを隠しもしない、しかし妙に舌っ足らずで子供っぽい赤の他人のフリがツボに入ったのである。
―――が、仔犬を抱いた小躯がじりじりと後退り始めるのを見れば、流石にいくらか慌てたのだろう。
思わずと言った調子で伸びた長腕が、彼女の二の腕を掴もうとしていた。
華奢な少女にとっては痛みを感じ、ともすれば胸に抱いた仔犬を取り落としてしまいかねない挙動。
■ミンティ > 大きくて乱暴そうな男性を前にしても危機感が働かないのか、抱えた野良犬も楽しそうに尻尾を振っている。あるいは、自分に抱えられているのが安全だと理解しているのかもしれないけれど。
大きい狼みたいな男性も、人懐っこくて埃っぽい野良犬も、どちらも楽しそうにしている中で、自分だけ不機嫌そうな顔。先ほどまでの、休みの朝特有の爽やかな空気も、今はなんだかおいしく感じられない。
だから、もういっそ知らないふりを決めこんだまま、この場から立ち去ってやろうかと思った。どうせなんだかんだと追いかけてきてくれるだろうから、という恋人への信頼あってこその行為だったけれど。
「…ッ、…急に、そんな風に掴まないでください。
……もう、わかりましたから。…許したわけじゃあ、ないですけど。…おかえりなさい」
半歩下がろうとしたところで、動きを読まれたように片腕を掴まれる。もう一方の腕だけでは野良犬を抱えているのもつらい状態。けれど、野良だからといって、乱暴に放り捨てるのも気が引けてしまう。
両腕が塞がった不自由な状態ではどうにもならず、諦めたように溜息を吐いて。まだ不貞腐れた雰囲気は残したままながら、ようやく、他人のふりをやめにした。
■グラムヴァルト > 「っ、………………」
ほっとした。
ほっとしてしまった。
思わず伸ばした腕を避けるでもなく、振り払おうと暴れるでもなく、不機嫌の尾を引きつつも『おかえりなさい』の言葉を投げてくれた事に、狂狼の心がガラにもない安堵を覚えて緩んでしまった。
そんな自分の内面に狼狽したのが、飲み込んだ呼気と、それに続く沈黙に現れるも
「―――おう。変わりなさそうだな、ミンティ」
痣が残る程に強くつかんでいた手を解き、持ち上げたそれで桃色髪をわしゃわしゃと雑に撫でる。ニッと口角を持ち上げた笑みは、鋭い犬歯の覗く肉食獣の威嚇にも似た表情を形作るも、少年めいて邪気の無い物だった。
「ハハッ、クハハハハ…ッ。ミンティ、ミンティ。相変わらずちいせぇなぁ。ちゃんと飯食ってンのか?」
そのまま小躯を抱きしめて、膝を折った長躯が灰の蓬髪を桃色髪に擦りつける様に顔を寄せ、高い鼻梁がブラウスから覗く細首の匂いを吸い込む。
少女の淡乳と長躯の鉄板めいた胸筋に挟まれた仔犬がじたばたと短い四肢を暴れさせる。
再会と許しによって持ち上がったテンションは、頭撫でと抱擁のみに留まらず、更に膝を折って幼子と目線を合わせるかのような姿勢を作った長躯は、そのままくるりと小柄な少女を回転させて―――ズボッと後ろからスカートに頭を突っ込み立ち上がろうとする。
少女が慌てて逃げ出さぬのなら、股に潜り込んだ灰色の頭部を支点としてふわりと小躯が持ち上がり、かつてこの男に無理矢理乗せられた馬上を思い出す高みへと連れ去られる事となろう。
いわゆる肩車の姿勢だ。
■ミンティ > 不貞腐れて、不機嫌だったのは演技でないけれど、許すつもりがないくらい怒っていたわけでもない。結局反省の弁を聞けないままだったけれど、自分の一挙一動に対して、大きな身体には不釣り合いなくらいの動揺を見せられてと、嫌味を言いたい気持ちも萎んでしまう。
気持ちに折り合いをつけるために、深く呼吸をして。首が疲れてしまいそうなくらい身長差のある彼を、ゆっくりと見上げる。
「……おかげさまで。…食べるのに苦労するほど、困った暮らしはしていません。
…グラムさんは、どうでしたか。…きちんと、ごはん……っ」
お店の近所の人たちや、商人仲間の人たちとも、それなりに交流をはかれている。人見知りする自分が今のところどうにかやれているのも、彼と接する間に、すこしはコミュニケーション慣れしたところが大きいかもしれない。
その実情を考えてみれば、おかげさま、の言い方に小さい棘が含まれていたかもしれないけれど。
そんな返事をし終えるより先に、急に担ぎ上げられたから、舌を噛まないのは運がよかったかもしれない。とたんに高くなった目線に、身体が縮こまる。
太腿で首を締め上げるような形になってしまったけれど、彼ならだいじょうぶだろうという考えが無意識に働いているから、心配する事もなく。
「……どこかへ、連れていってくれるんですか?」
急になにをするのか、とか文句を言っても仕方がないのは学習している。だから、どういった意図で担ぎ上げられたのかだけを尋ねるくらいには、突拍子のない行動に慣らされてしまっていた。
彼が万一にも自分を振り落としてしまう事はないだろうと考えているから、最初だけ強張った身体からも力が抜けて。なりゆきで抱えたままの野良犬をどうしようかと思うものの、この高さから放すわけにもいかないから、しっかりと両腕を絡めておいた。
■グラムヴァルト > 「アァ? 戻ったばっかりでまたすぐどこぞに行くか。 帰んだよ。てめぇのみすぼらし……っと、あの家に。 んでヤるんだよ。 てめぇを抱くのも久方ぶりだからな。朝までたっぷり可愛がってやっからな」
こうして持ち上げてしまえば、彼女は子供にしか思えない。
事実、シルエットだけで言えば父と娘。よく言っても年の離れた兄と妹の様に見えるだろう。
しかし、周囲に聞こえぬ様に声を潜めるなどというデリカシーを持ち合わせぬ長躯が機嫌よさげに発した言葉は、そうした想像を完全に破壊する猥褻な物だった。
未だ仔犬を抱きかかえたまま、スカートから覗く細脚でぎゅっと長躯の首筋にしがみつく愛らしさにはまるで結びつかぬ男と女の夜の営み。
男の口ぶりからすれば、既に二人は幾度となく肌を合わせていると分かるだろう。
不安げに少女の幾末を見守っていた街人達がギョッとその目を丸くして、思わずまじまじと彼女の小躯と愛らしい顔を見つめてしまう。
そんな周囲の反応など知らぬげに、仔犬と少女を肩に乗せた長躯は走り出す。
馬上よりも上下動の少ない滑る様な移動は、馬上と変わらぬ勢いで早朝の風で少女の髪を弄ぶ。
二人の姿が通りの向こうに消えた後
『―――え……? ヤってんの? あの子が……? あんなチンピラと……??』
誰かの漏らした呟きが、周囲の街人の困惑を示していた。
■ミンティ > 肩車されていると、長いスカートも足をほとんど隠してくれなくなる。膝上あたりまで肌を覗かせた状態は、普段なら軽くあわててしまったに違いない。
けれど彼と一緒だとすこしだけ臆病さやアガリ症な部分が薄れるからか、やけに目立ってしまう状況には、文句を言う事もなかった。言ったところで下ろしてもらえないだろうという諦めもあったけれど。
「……預けてもらっているお店なんです。悪く言わないでください。
あと、声がすこしおおき…っ…、……あんまり余計な事を言うようでしたら、触らせてあげません」
孤児だった自分にとって、一人暮らしできる建物を貸してもらえているだけでも信じられないくらい幸運な話。そんなお店をなにかにつけて貧しい扱いにしようとする彼には、またすこし声が低くなりかけた。
けれど、その先の物言いにはさすがにあわてて、これ以上おかしな事を言いふらさないように注意をしようとした。それより先に周囲のどよめきが伝わってくると、いくら普段より気が大きくなっていようと、さすがに恥ずかしさで頬を赤くして。
「……素敵なお宿の一つくらい、とってくれたらいいのに、……ねえ」
周囲に顔をおぼえられないように、俯きがちになりながら、抱えていた野良犬に愚痴をこぼすように言うのがやっと。
それでも生活圏内だから、いくら顔を隠したところで、髪色や体格で気がつかれてしまうのは想像がつく。
再開してからの短い時間で、何度目かも忘れてしまった溜息をこぼし。早く行ってくださいと言いたげに、小さく足を揺らすくらいの抗議をするのがやっとで…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からグラムヴァルトさんが去りました。
■ミンティ > 抗議の意図は伝わったのかどうか。どちらにしても、一度恥ずかしさを意識してしまうと落ち着くのも難しく、ついさっきまで平気だったはずの肩車をされた状態まで気になって。連れ帰られる間は居心地の悪さを味わう事になったのかもしれない…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からミンティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にセルマさんが現れました。
■セルマ > 日も暮れ始めた時間帯の商店が並ぶ通り。
冒険者としての仕事にも慣れ始め、本日は少数のパーティーを組み害獣の駆除の仕事を終わらせることに成功もした。
その後はお酒のない簡単な打ち上げを終えて別れ、向かったのは商店が並んだ通り。
「少し奮発して回復剤を買うべきでしょうか。それとも武器の手入れを優先するか…悩みます」
少々値段を吹っ掛けられ買った愛剣での損失は大分賄うことができ、本日の稼ぎで蓄えは殆ど元通り。
なら次は大怪我をした時の為に薬を買うか、それともまだ問題はないとは思うが武器の手入れを優先すべきか。
その事に悩みを持ちながら安い回復薬か手頃な価格で武器の手入れを行ってくれる鍛冶屋でもないかと探すように歩いて。
■セルマ > 「やっぱりいい値段がしますね。これだとちょっと……」
何軒かの冒険者用品店や道具、雑貨屋を覗くも求める物はやはり値が張り。
安い物は理由を聞けば混ざり物があるや効果が今一という物ばかり。
流石にそういうものをに緊急時に命を預ける事はできる訳がなく購入は現状断念。
そうなると次に探すのは…。
「鍛冶屋はよく判らないんですよね。武具屋かギルドで聞いてくるべきでした…」
共に組んだ冒険者に修復、手入れなら武具屋よりも鍛冶屋に直接の方が安いと聞いていたのでそうしようと思っていたのだが、
よくよく考えればその辺りは全くの無知、何処が良いのか全く判らないままにそれっぽい店を探してきた道を戻り始めて。
■セルマ > 戻って探し始めたはよいがそもそもにこの通りに鍛冶屋があるのかが不透明。
店を眺めて歩くも一度立ち寄った商店か武具店しか目に入らず。
流石にそういう店に入り尋ねるというのも気が引けて自分の足で探して歩き。
「判りません……明日にもう一度出直す方が…」
それが一番確実なのかもしれない、そう考えては通りから一軒の店の近くに近づき壁に背を預け。
通りの往復は冒険者といえ疲れるもの。
少し休んだか今日は引き上げようと考えて。
■セルマ > 「……さて」
それなりに休むことが出来れば壁から背中を離して歩きだす。
向かうのは今部屋を借りている宿へと。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からセルマさんが去りました。