2021/02/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にロブームさんが現れました。
ロブーム > 金色の蝶が、ひらひらと舞っている。
平民地区のごみごみとした空気にはそぐわぬそれを、時折子供がじゃれるように捕まえようとするが、その度にひらひらと避けてしまう。
幾ら試しても避けてしまうので、子供達はその内去ってしまうが……

「……」

その蝶を通して、一人の男が街中を見ている。
その男の名はロブーム。
美しき心を持つ女性を堕とす事を趣味とする、悪魔だ。
彼はこの蝶を通して、獲物を探している。見つければ即座に、蝶と自らの位置を入れ替え、攫ってしまう為に。
尤も、別に遊んでいるだけではなく、彼が王都の中に潜入するための足がかりを探してもいるが……どちらかというとそれはついでだ。

「(さて、さて、さて……)」

居城の自室にて優雅に紅茶を飲みながら。
平民地区のごみごみとした通りを睥睨する。
獲物はどこにいるのか、と。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からロブームさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にエレイさんが現れました。
エレイ > 「~♪」

ピーヒョロロとヘタクソな口笛を奏でながら、悠然と冒険者ギルドに足を踏み入れる金髪の男が一人。
賑やかな様子のロビーを軽く見渡せば、あちこちでパーティらしき数人の集団が話し合っている姿が見える。
そんな活気のある光景に目を細めて小さく笑みを浮かべながら、そのままのんびりと掲示板の方へと
向かってゆく。その掲示板には依頼書や、パーティ募集の要項などが雑多に貼り出されていて。

「──今日もいっぱい来てますなぁ。さて、なんか面白そうなのはあるかにゃ?」

親指と人差指で摘むように自らの顎をさすりながら、依頼を探す他の冒険者らに混じって掲示板の前に立ち、
自分の興味を惹くものがないかとのんびり眺め回し。

エレイ > 特にこれと言ったものも見つけられなければフンス、と鼻を鳴らしつつ掲示板を離れ、ギルドをあとにして──
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からエレイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル > 「っきゃああぁぁぁああぁー!」


 ――路地裏に声が響く。
 冷たい夜気を割くような悲鳴。その後は恐怖に満ち満ちた泣き声。
 繁華街から外れた一本の人気のない裏道の途中。聞こえてくるのは、酷く怯えたようなすすり泣きの――……、

「っぅ、ぅ……無理、無理……無理だからぁ……」

 普段の威勢の良さはすっかり鳴りを顰め。まるでか弱い町娘のごとく弱弱しい声を出している、ゴリラと謳われる、要らん時に無駄にアタックしちゃうようなヒーラー。

 薄暗く冷たい路地に腰を抜かしてへたり込む、その胸元に埋まっているのは、

 っはっはっは……わんっ

 尻尾をぶんぶん振り回してどうした訳か無駄に懐いている一頭の犬。
 別に咬まれている訳でも吠えたてられている訳でもない、むしろその逆。非情に稀なことだが、ご機嫌ですり寄られている。
 大の犬嫌い、を通り越して恐怖症に達した女は路地を歩く途中、不意に進行方向からやってきた見知らぬ茶色の中型犬に胸に飛び込んでこられ、恐怖の余り悲鳴を上げて腰を抜かし今に至る。

 じゃれついている犬はというと、よっぽど勘の悪いヤツなのか嫌がられて怯えられていることを全く意に介していない。分かっていてやっているのか、判っていないのかは不明だが、とにかく目に一杯溜めた涙をぼろぼろ零して気絶しそうなくらい恐怖に支配された女に、わんわんご機嫌に吠えながら顔をべろりと舐め。
 そうすると、即座怖気だってぞわわわ、と戦慄し、

「ひっ、やあぁぁぁぁー!! いや! いやいやいやー! やーめーてえぇー!!」

 強姦現場のような悲鳴が響き渡っているが……ちょっと覗いてみようものなら、このザマである。

ティアフェル > 「どっか行って、どっか行って、どっか行ってえぇぇー…!
 お願い、お願いだからぁ…!」

 面白いように怯えて恐れおののいてさらに泣き出すさまがオモロイのか、どこのどいつか知らないが、お犬さんは決して犬恐怖症の云うことに耳を貸さない。

 怖い、死ぬ、怖い、死ぬ、死ぬー!

 恐慌状態に陥って目をぐるぐる渦巻き状にして、そこからぼろ泣きしながら、子どものようにえぐえぐしゃくりあげ。

「ぃいやあぁ~……、怖いよぉ、やめてよぉ……もう許してぇぇ……」

 普段の跳ねっ返り振りを知っている者から見れば、こいつ誰だ、何者だというくらいの落差。弱弱しい声を出して咽び泣く、などと暴漢に襲われたってまずしなかろうに。
 たった一頭の犬相手にこの有様。
 それにしても、縁もゆかりもないこの中型犬はなんでまた、こんなにやたら懐いて来るのか。飼い主とかかわいがってくれる人間にそっくりだったりするのだろうか。死ぬ程迷惑だ。むしろ死にそう。

「っふ、っふ……ぁ……ぅ……」

 がたがた震えて、顔面蒼白にして今にも白目を剥きそうだ。たかが犬に大敗を喫する冒険者。

「助けて……助けて……」

 もはや無意識。譫言のように力ない声が路地裏から細く微かに夜の街へと響き渡っていた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > そろそろ、この少女の悲鳴に全く何の感慨もわかなくなった男だが。
しかし、そうは言っても、今回はあの少女が全力で許しを請うているという、ある意味で馬車に跳ねられた以上の異常事態。
チンピラを相手にしても、決して怯まず、寧ろ暴力と去勢で応戦する少女が、いかなるピンチに見舞われたのかと、駆けつけた男が見たものは――

「……えぇ」

確かに、毎回出会う度に何かしらピンチになっている少女ではあるが。
しかし、今回のピンチは質が違った。劣化方面で。
この娘は、何故ただの犬一匹に敗北しているのだろうか。
否、敗北どころか、そもそも勝負になっていない。
野良犬側は勝負の意思などなく、ただただ少女を蹂躙しているだけだ。
――上に乗ってるだけとも言うが。

「……あの。これはもし俺が勘違いしていた場合、君の名誉に多大なる傷が付くことを恐れての質問なので、決して皮肉と捉えないでほしいんだけど……もしかして、今ピンチ?」

額に手を当てて天を仰ぎつつ、そう切り出す男。
もう半ば答えは決まっている様なものだが、しかし幾ら犬嫌いだからといって、何ら敵意も有さない犬に此処まで恐怖する彼女の姿が、どうしても信じられなかった。

ティアフェル >  普段、魔物に襲われようが暴漢に出くわそうが、いちいち泣いてられるか、そんな暇があったら一発でもカマす!と鼻息の荒い女が――滅茶苦茶ボロ泣きなう。
 顔をくしゃくしゃにして、大粒の雫を後から後から零し――親が死んだのか、というくらい号泣している。
 もとから持ってないようなか弱さという属性なのに、どっから持ってきたのか現在では過剰搭載、まさに満載である。
 
「っぅ……?」

 そんな頃合い、こちらに向かって来る足音と惨状を目の当たりにしてかけられた声。歯の根をがちがちと鳴らし顔面蒼白にして、目元と鼻の頭だけを真っ赤にして止め処なく零れる涙に濡れた相貌でそちらを仰ぎ見て。

「ピンチ~……怖いよ、死んじゃうよ……こ、これ、どかして……向こうへやって……怖いぃぃ~……」

 どっから連れて来たこの脆弱な娘は、ってほどに通常まったく見慣れない声と表情で悲壮感を漂わせて訴えかけた。
 犬はというと、座り込む女の両肩に前脚をのせて後ろ足立ちになり、尻尾を振ってわんっ、と上機嫌に吠えていた。

クレス・ローベルク > 「これは重症だな……」

いつもの彼女なら、「え、確かにちょっとヤバいけど、今クレスさん来たし。助けてくれるよね?」ぐらいの事は平気で言うだろうに。
ま、何時も危険な事ばっかりだとこっちの心臓も持たないし良いかと思い、犬を抱き上げようとして――

「む?」

抱き上げようとして、何か抵抗がある事に気づく男。
見れば、犬が彼女の胸元の赤いリボンを噛んで踏ん張っている。
余程男に抱き上げられるのが嫌なのか。そうだよな、嫌だよな……と、少し共感を得てしまうが、しかし共感だけでは人は救えないのだ。

「こりゃ相当懐かれてるのか、単に赤いリボンが気に入ったのか……。
餌になるものを投げて、気を散らせるって手はあるけど、そのためには一旦此処を離れて餌を買わないとだしなあ……」

いや、多分それで何ら問題ないのだが、この状態で彼女を一人にして良いものか。
この様子では次に戻った時は泣虫少女から失禁少女や気絶少女に進化している可能性すらある。
そう考えると、無闇に離れるのも考えものだ。

「まあ、もう少し頑張ってみるか。ぬ、ぬぬぬ……!」

と力を入れて引っ張ってみる男。
本音を言えば、それこそ殴り倒してしまえばそれでおしまいなのだが、流石にこの無邪気にじゃれる犬に暴力を行使するのも憚られた。
男とて、多少は犬は可愛いのである。彼女はそう思ってないようだが。

ティアフェル > 「お願いだから、こいつをどうにかしてえぇ~……もう、限界……」

 例えば毛虫嫌いが数匹の毛虫に群がられているかのようなものだ。犬という愛玩動物なので、まったく周囲に理解されないのが犬恐怖症の辛いところ。恐怖症にとっては犬だろうが毛虫だろうがマンティコアだろうが一緒である。
 通常ではまずないような泣き濡れた情けない表情で助けを求め。
 髪にはつけているが胸元にリボンなんかつけていないが……緋石のループタイならつけている。それをしっかり咥え込んで抵抗している模様。
 何故にそんなにこだわっているのか、犬の考えることは判らない。

「リボンじゃないよ……ループタイだよ……石が気に入ったのか……早く助けてぇー……いやだよぅ、怖いよぅ、死ぬぅぅ……」

 もう気絶寸前である。本当に息の根が止まりそうな程に目に涙を溜めた切実な声と表情で必死に訴え。

「……お父さん、お母さん先立つ不孝をお許し下さい……」

 引っぺがそうとしてくれているがなかなか離れてくれないわんこ。とうとう瀬戸際らしく、早まったことを口走り始めた。どんどん白目になっていっている。

 犬はと云えば、なんで邪魔するの?とでも云わんばかりに不服そうな眼を向けて、うる…と小さく唸っていた。邪魔しないでよ、とでも云っているのだろうか。

クレス・ローベルク > 「お、おう……。大分辛そうだし、何とか頑張ってみるから早まらないでねお嬢さん。……って言ってもなあ……」

何かもう、人生を儚んだ薄幸少女みたいな事を言いだした少女に、流石に余裕ぶってもいられなくなった男。
とはいえ、これで犬を殴っても、それはそれで後味が悪い。
……と、考えた所で、ふと。彼女の鞄が目に入った。
もしかして、と呟いて、顎に手を当て何かを思案し、

「悪いね、ちょっと漁らせてもらうよ」

一旦、犬から手を離し、彼女の鞄を漁る。
一度漁ったからか、もはや勝手知ったると言った所だが、その中から消毒液やら傷薬やらの匂いを勝手に嗅ぎつつ、それを自分のポケットに垂らしていく。
やってる事はある種の調合と言えるだろう。ただ、それは傷を治す為のものではなくて、

「ほら、これ。こっちの方が良い匂いだよ」

と言って、犬の鼻先に、薬品を染み込ませたハンカチをぶら下げると、犬はさっきまでの執着が嘘のように、そっちにぐるんと顔を向ける。
お、と男は自分の予想が当たった事に、笑みを浮かべると、

「ほーれほれ。こっちこっち」

と、少しずつティアフェルから離れていく。
途中、犬がハンカチを噛もうとするのを、巧みに避けつつ、1m程離れた所で、ハンカチを丸め。

「ほらっ!」

と、そこから更に離れた場所に投げ捨てる。
犬は一目散にハンカチを追いかけていき、その布に夢中になって戯れている――

ティアフェル > 「……もう精神的に、限界です……ものの数秒で発狂しそうです……」

 辛い、生きているのが辛い。断頭台に上げられた人みたいな目に光のないコバルトブルーの顔でふるふると震え。声も掠れていてひどく力なく。今にも世を儚んでしまいそうな勢いだ。

「っへ……? なに……?」

 死にかけた自分のウェストバッグを急に漁り始められると、それを制しする力も余裕もなく、何を始めたというのか、相変わらず枯れない泪に濡れた眼で茫然と眺めていたが。

「………?」

 放心状態の間に、首尾よく薬品を調合して、それで犬の気を引き始めた。何か匂いを発するハンカチを餌に誘き寄せて―――そこでようやく、犬の気が反れ。ついに――、

「ぁ……ぅ……」

 さっきからどうしても離れなかった茶色の犬が、己の身体から離れてハンカチへ向かって突進していき、そのままこちらに興味を失ったかのように夢中だ。
 恐怖で強張っていた身体からへなへなと力が抜けていき、すでに腰を抜かしているが、さらに脱力して、道端で目を回してばたり、と倒れてしまった。

クレス・ローベルク > 犬が物を噛む理由は二つ。一つは、それに愛着を持った時。そしてもう一つは、その匂いが気に入った時、である。
どちらの可能性もあったが、しかし犬は視覚よりも嗅覚を頼りにする生き物だ。
そして、彼女のアクセサリや衣服に染み付きそうな匂いといえば、

「まず考えられるのは薬品の匂いってね。
尤も、犬は人工的な匂いは嫌うから、それを避けて薬草由来の薬品だけを混ぜて嗅がせたら、そっちを気に入ると思ったんだけど……」

上手く行ってよかったと思い、彼女の方に振り向くと、既に彼女は倒れていた。
ものの見事に目まで回している。本当に怖かったらしい。
よっこいしょ、と彼女に肩を貸して。

「さて……どうするかな。
取り敢えず、あそこのベンチに寝かせるか……」

このまま放置するわけにも行かないし。
すっかりお決まりになった、ピンチを助ける→どっかに移動させるの流れであるが。

「……うーむ、ちょっと気まずい感じ」

と、何故か何時になくその表情は渋いのだった。

ティアフェル >  運悪く犬の関心を引いてしまった今夜。本気で死ぬと思った。
 むしろなんかもう死んだような気もしたが――首尾よく追っ払ってもらえれば、辛うじて生き残った。

「ぇ。あ……そ、そっか。そっかぁ……一発薬をキメちゃってくれたのね……ありがとう……賢い、偉い、天才……」

 半ば程解説は耳に入っていなかったが、道に倒れながら、ぱちぱちぱち、と力ないながら拍手。今までいろんなことがあったが――実は今が一番九死に一生だ。
 傍から見ればもっと崖っぷちのライン散々あったよね、って感じだが。
 だらりと力の入らない肩を支えてもらうようにしてずりずりと足を引きずるように。

 ベンチに横たわらせてもらうと、チーン……、と胸の上で手を組み合わせて、魂が頭の上からひょろ出てやっぱり死んでいるような態だったが。

「………? ごめん、なに……? ぁ……、も、大丈夫、だから……」

 渋面を作る様子に気づいて、ぼんやりした目線を向けると、全然大丈夫でもなさそうな蒼白具合だったが、こんな所で足止めされてる場合じゃないのかも知れないと察して、全然もう、行ってくれて大丈夫ですからと…ようやく少し気を回す余裕も出てきた。