2020/05/08 のログ
■涼華 > 「……さて、貴方が何処から入ってきたのか、教えて頂けると嬉しいのですが……」
柔らかな微笑のまま猫に問うて見る。
猫の存在を認めた時点で貸家の何処かに、抜け道たる破損がある事は決定事項。
だが猫は相変わらず手に頭を擦り付けてゴロゴロ喉を鳴らしている。
仕方ありませんねぇ、と呟き漏らすも顔は微笑のまま。
気ままな猫が自分から外へ出るまで、こうしているのもやや辛い。
主に屈んだ体勢の、腰と膝辺りが。
静かに屈めていた身体を伸ばし、猫にひらりと手を一振り。
家の玄関へと戻ろうと、足を動かせば何だか着いて来る猫。
……もしやと思い、猫の行く先を見定めようと足を止めれば。
猫もぴたりと歩みを止める。
……暫しそのやり取りを繰り返しては、根負けした。
玄関の扉を開き、足元からするりと抜け出し気ままに何処かへと去る猫を見送り。
「……うん、まぁ……お気をつけて」
顔は微笑のままだが、若干遠い目をした。
出来れば貴方が入って来た場所からお帰り頂きたかった、そうすれば修復箇所が判明したのに。
なんて思うのは男、既にこの貸家を借りる事を心に決めたからなのか。
猫の姿が見えなくなって暫時、男もまたひらりと歩を進め、何処かへ歩み去る。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から涼華さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にタピオカさんが現れました。
■タピオカ > 王都の夜。多くの酒場では大半の客がお勘定と言いながら席を立つか、つっぷして寝るか、深酒にのめり込むために空のジョッキをウエイトレスに向かって気だるそうに振るうか。そんな時間帯。
人影も少なくなってくる噴水広場。帰路の人々からおひねりを貰おうと芸を奮っていた大道芸人たちは去り、周辺にあるスタンドや屋台も明かりを落とした。
そんな閑散とした場所をみつけると、小さな人影が噴水の縁に腰掛ける。
横笛を吹き始める。
通りかかる人もそう居ないのに演奏を始めるのは、人の注目やコインが欲しいからではなく。
単になんとなく機嫌が良いからだ。
ほんのり南からの潮風めいた香りがする夜風はもう寒くなく、羊を餌場に連れていく時のような、のんきな笛の音が平民地区の片隅で流れ。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にゾーイさんが現れました。
■ゾーイ > 闇の中に居てこそ見えるものも、聞こえる音もある。
しかしこの笛の音は宵闇に消えながらも、聴く者の心に太陽のような光をもたらす音色。
そんな澄んだ音に誘われて、闇の住人の一人が姿を現した。
「…………」
気配を察知する手段に長けていなければ、突然噴水の前に人影が姿を現したかのように見えるかもしれない。
その人影には、猫のような耳と尻尾があった……ミレー族だ。
本来なら、人通りの多い場所では息を潜めるのが常であったが、珍しい音が聞こえたために、らしくないことをしてしまった。
ミレー族の少女は、ただ一人の聴衆となって笛の音に耳を傾けている。
■タピオカ > ずっと自然の中で過ごしてきた。
遊牧生活は高原の野原から野原へとずっと続く旅。野外には慣れ親しんでいる。自分のまわりで動物の気配が加われば、例えば岩の裏にうさぎが居ても気づく。
でも今は依頼をこなした後という安堵感と、いつに増して調子の良い笛の音への集中で、左右で違う目の色をたたえるミレー族の少女の接近に気づかなかった。
一曲の半分ほど吹き終えた時に相手の姿が目の前にあり。
一瞬驚いて目を何度も瞬きするものの、その愛らしい黒猫の耳が自分の旋律へ向けられている事に気づくとふっと目元で微笑み。
そのまま、一曲吹き終える。
「こんばんは、隣人さん!
僕の笛、聞いてくれてありがと。
……今日は、笛も僕も機嫌が良いんだー。
一曲聞いてくれたお礼に、隣人さんのリクエストを聞いてあげたいな。……何か、聞いてみたい曲はある?
それとも、してほしい事があれば叶えてあげたいな」
腰かけたまま、両手を膝に置いてぺこりとお辞儀。
名前の知らない人への親しい呼びかけとして、隣人さんと呼ぶのは遊牧民の風習だ。
ご清聴の返礼にと、彼女の要望を聞けたら嬉しい。
にこやかに問いかけ。
■ゾーイ > 「こんばんは、そして初めまして! ボクはゾーイだよ、よろしくね。
ボクの予想が当たっていればキミはノーマッド(遊牧の民)の子だと思うんだけど、どうかな?」
浅黒い肌、聴き慣れないエキゾチックな音色の楽器。
もし予想通りなら、ミレー族相手であっても邪険に扱うことはないだろうと思って姿を現したので、この時点で半ば確信は持っていた。
「いやいやそんな、お礼をするのはボクの方だよ!
あー、でも、おひねりとか出せるほど懐に余裕が……えっとね、えっとね、キミの方こそ何かして欲しいこととかない?」
大道芸、というわけではなかったらしい。
リクエストやアンコールはともかく、して欲しいこと、なんて言われて面食らった。
少しの間、うんうん唸っていたが、やがてストンと自分と同い年程度であろう少女の横に腰を下ろし。
「えーっと、その。もし、それでもキミがして欲しいことを聞いてくれるっていうなら。
頭、撫でてくれると嬉しいな。ボク、頭を撫でられるの好き!」
そう言って、はにかんだような笑みを浮かべた。
■タピオカ > 「うん、正解!
このあたりじゃ、単に肌が黒いだけってとられるんだけど……。物知りなんだね!
僕は、タピオカ。王都のずっと北の高原出身で、今は冒険者してるんだ。よろしくね!ゾーイ!」
ぱっと表情を輝かせたのは、彼女の名前を知れたから。
うんうんと頷いて相手の予想が的を得ていたものだと伝えると、嬉しそうに自分の名前を名乗り返す。弾む声音。
「あは、そう言ってもらえたら嬉しいな……!
この子の声、気に入ってくれたのかな。
小さい時から趣味で吹いてるんだ。もともと、家畜を追い立てるために使ってた笛なんだー。
僕のしてほしいことかー。……うーん」
冒険者の副業として、路銀集めの片手間吟遊詩人……というわけでもなく。純粋に自分を満たすための演奏だったと告げて。自分がして欲しいこと、となると同じように悩み。
相手と同じようにうんうん、唸って。
「ん!
じゃあゾーイのことをなでなでしてあげよう!
――なでなで、なでなで……」
こく!と勢いよく頷くと、はにかむ少女へと伸びる手。
手先で優しくおでこの少し上のところ、指の腹で柔らかく触れて。甘やかすようにして撫でて。
■ゾーイ > 「やっぱり! 何となくシェンヤンの楽器と音色が似てたから、そうかなって。
笛を吹いてなかったらわからなかったよ。うん、タピオカだね、覚えたよー!」
流石に肌の色と衣装だけでは判断材料が少なすぎたが、異国情緒溢れる笛の音が決め手だった。
正(まさ)しく、笛が仔猫を呼び、彼女達の絆の縁(よすが)となったと言えよう。
「ボク、綺麗な音がするものは好きだよ!
ボクは耳がいいから、普段は不必要なものまで色々聞こえちゃってさ。
だから、綺麗な音を聴くと、気分がスーッとするんだ!」
して欲しいこと、と言われて悩む様子にクスリと笑う。
先ほどまでの自分とそっくりだったからだ。
「えへへ、ありがと。ボクはミレー族だから、気味悪がって触ろうとしない人も多いんだけど、タピオカは優しいね」
優しく、優しく撫でられると、るるるるるると喉を鳴らして、顔をとろんとさせた。
尻尾をゆーっくり横に動かして、気持ち良さそうに。
もしタピオカが抵抗しないなら、そのまま彼女にもたれかかってしまうだろう。
■タピオカ > 「ゾーイは良い耳を持ってるんだね。
……きっとキレイな音で気分がよくなるのは、ゾーイの心がキレイなんだと思うよ。
共鳴するんだと思う。
それに……。ほんとに可愛い、ぬいぐるみみたいな耳!」
形の良い頭に指先滑らせながらそう告げて。撫でる手付きを少しずつ広げていく。時々、灰色の和毛が見える猫の耳の根本にそっと触れたりもして、目を細め。
「ミレーも人もかわらないと思うんだ。耳と尻尾があるか無いかってだけで。僕からしたら羨ましいなー。
……っと。ふふ。
夜も遅くなって、寒くなってきたかも。ゾーイが風邪ひいちゃわないように……。ぎゅ!ってね!あはは!」
可愛らしい鳴き声も表情にもつられて頬を緩ませる。
自分へと身体が傾けられると、小さな体温を感じて笑み。
如何にもそれっぽい理屈を戯れめいた口調でこねて。
笛を腰に仕舞い込むと、ぎゅ。両腕を伸ばして横抱きして笑いかける。
「ね。ゾーイ。ゾーイにしてほしいこと決まったよ。
僕の友達になってほしいなー!」
そのまま、オッドアイを覗き込むようにして願い。
■ゾーイ > 「えへへー、そんな風に言われると照れちゃうよ。でも嬉しい!
耳も、そんな風に言われたの、初めてかも!」
耳は優しく触れれば、くるくると円を描くように動く。
毛並みの肌触りはまるで絹のようで、ずっと触れていたくなるかもしれない。
「皆がタピオカみたいな人ばかりなら、ボクたちも人間も、仲良く暮らせるのにね。
ボクは、タピオカのハートが羨ましいな。初めて会った人のいいところをどんどん見つけられる、優しいハート!」
ギュッと抱きしめられると、こちらからも手を回してぎゅーっと抱き返す。
二人の体温と鼓動が、薄着越しに感じ合えるか。
「お友達? 喜んで!
困ったことがあったら何でも言ってね、タピオカ!
それじゃあ、お友達の誓いのハグ! は、もうしたから……次はキス!」
そう言って当たり前のように、ごく自然な動作で唇を重ね合わせようとする。