2020/04/24 のログ
ご案内:「「聖バルバロ騎士団 拠点前」」にリムリアさんが現れました。
■リムリア > 王都の一画にある騎士団の拠点
とはいえ、目の前のそこは立派な建物があるわけでもなく、かといって頑強な城壁があるわけでもない。
見た目だけで言えば、平民地区にある宿を一回り大きくしたような、それくらいの建物だった。
違いがあるとするならば、建物の前は広い空き地になっていて、騎士と思われる男たちが屯していることだろう。
そんな場所には似つかわしくない小柄な少女が広場へと姿を見せれば、当然、男たちの視線を集めることになってしまう。
ギルドの制服を身に纏った少女が、いくら荒くれ共の相手に慣れているとは言っても、
ごつい身体の男たちに注目されてしまうと居心地悪そうにしてしまう。
「あの、申し訳ありません。冒険者ギルドからの使いです。
こちらの責任者の方に、この書類をお渡しいただきたいのですが…」
少女としても、用事がなければすぐにでも回れ右をしたいところ。
けれども、残念ながらここへやって来たのはお仕事の一環で。
勇気を振り絞って、一番近くにいた男へと声を掛け。
■ネメシス > 荒くれ者の見本とも言うべき騎士団の面々も、最近は色々あって少しは社交性を身に着けてきた。
といっても、服を着た野獣が多少躾けられた程度か。
今も少女の肢体を物欲しげに見ていた団員達であったが、ギルドの使いで責任者宛てとなれば
途端に大人しくなる。
「「ちょっと待ってろ。」」
いかつい団員の一人がノッシノッシと巨体を揺らしては奥へと引っ込む。
暫くして、白銀の鎧を纏ったネメシスが、数名の女団員達に囲まれやってくる。
「初めまして。 私は副団長のネメシスよ。
この辺りの責任者をしているかしら。
で、ご用件って何かしら?
その書類を受け取ればいいの? それとも、中でじっくりお話でもする?
おいしい紅茶もあるわよ。」
この日のネメシスは上機嫌であった。
可愛らしい少女の来訪に内心では小躍りしており、また丁度よく時間を持て余していたのである。
女団員達はネメシスをさり気なくガードしつつも、来訪者の少女に対しては温和な表情を見せている。
そして、団員の中にはミレーの特徴である獣耳を有する者もいた。
■リムリア > いくら騎士団とはいっても、その質はピンからキリまで。
正直、良くない噂も挙げれば数限りない。
そんな場所へと少女をひとりで遣いに出すマスターは、どうかと思う。
それはさておき、あちこちから視線は感じるものの、取り囲まれることもなく、
声を掛けた騎士というか兵士……ゴロツキは素直に奥へと人を呼びに行ってくれた。
愛想はないけれど、いい人なのかもしれない。
やや時間を置いてやって来たのが、年若い女性の一団だったのには、別の意味で驚いてしまう。
更には貴族絡みでは奴隷としてしか見ないミレー族の姿も目に留まると、その目を見開いて。
「はじめまして、冒険者ギルド所属のリムリアと申します。
この書類をこちらの責任者に渡すよう言付かってまいりました。
受け取りのサインをいただければ………」
騎士団の副団長ともなれば、その地位は平民の少女とは雲泥の差。
失礼のないように言葉を選びながら、こちらの用件を伝える。
封を開けて書類を開けば、中にはここ最近の王都周辺の治安情勢が記されているのがすぐに分かるだろう。
それは王宮からの調査依頼で、結果を各所に情報提供するまでがギルドに出された依頼内容だった。
少女としてはサインさえもらえれば、すぐにでもお暇するつもりだったのだけれど、機嫌の良さそうな相手に話と言われて、少し困惑気味。
説明を求められればするべき立場なのだろうけれど、少女も詳しい内容までは知らされていない。
そんなわけだから素直に、頭を下げることに。
「申し訳ありません。
私はただの遣いで、詳細までは詳しくないので、お話と言われてもお伝え出来ることが……」
■ネメシス > 団員達は副団長当ての客人と分かると、一斉に少女と距離を開けた。
後で叱責を受けることを恐れたのである。
とはいえ、興味はあるのか四方から視線が突き刺さったことだろう。
「へ~、貴女がリムリアさん。
お名前は聞いてたけど、直接顔を見るのは初めてね。
聴いてた話よりも実際の方が数倍可愛らしいわ。」
どうしても暇な時は偽名でギルドに出入りもしていたため、看板娘であるリムリアのことは
噂などで聞きかじっていた。
噂で予想していた以上の可愛らしさに、口元に笑みが浮かんで。
それを誤魔化すようにその場で書類を開けるネメシス。
ざっと一通り目を通した後、リムリアに視線を向けて。
「どうやら王都周辺の治安を気にしているようだけど、
ギルドの方では何か面白い話とかないの?
ほら、最近だと九頭龍山脈の中に物騒な連中が立て籠ってるそうじゃない。」
サインをして返すことは簡単だが、それでは面白くない。
折角だとばかりに、リムリアの見解を聞いてみたり。
■リムリア > 副団長を呼びつけてしまったのだから、こうして話している間も注目されてしまうのは当然のこと。
とはいえ、無遠慮な視線は居心地が悪いままではあるけれど。
それでも対応してくれているのが女性ばかりということには、やはり安心もある。
「え、えと……ありがとうございます。」
どこで騎士団の副団長様に名前を知られたのか、思わずきょとんとしてしまう。
後半のセリフはたぶん社交辞令という名前のお世辞というものだろう。
ただ緊張していて、気の利いた返しも出来ずに、お礼を述べるので精一杯。
「お、面白いかどうかは分かりませんが……
最近では特にそちら方面で野盗の類が多いそうです。
実際に見てきた冒険者さんの話では、かなりの規模にまで膨れ上がっているとか…」
詳しくないと断りを入れたはずなのに、質問してくる相手に冷や汗をかきながらどうにか受け応え。
確証の取れていない情報まで口にするのが良いのか分からないけれど、少なくとも人数だけで言えばかなりの規模。
不確かながら、いち早く討伐に赴いたパーティの姿を見たという情報も挙がっているわけで。
そんなことをつっかえながらも、説明し。
■ネメシス > 「こう見えて騎士団の副団長だからね、
情報は色々と入ってくるのよ。」
なんでこいつ知っているんだ?と言った表情のリムリアに対し、
涼しい表情でそれらしく口にしてみるネメシス。
お忍びで冒険者をしていることを教えても良いのだが、
これはこれで、このままの方が面白いような気がして。
「なるほどね…この国はあっちこっちに敵が出てきて大変よね。
で、冒険者ギルドとしては何か対策を打ったりする予定あるのかしら?
そうだ、こっちに何かして欲しいって話が出ているのなら協力するのも構わないわよ。」
1都市を支配するレベルの勢力が居る以上、相当な規模なのは間違いないだろう。
おまけに平時から不安材料だらけのこの国である。
振り分けることが出来る戦力に左程余裕があるようにも見えない。
となると、ギルドの腕利き冒険者達に協力要請が来ることもあり得る話で。
ネメシスは今日わざわざ、ここにギルドが看板娘を寄越してきた意図があるのか探ろうとしていた。
…もっとも、これは団員達のアドバイスである。
当の本人は何か面白い話でも出てこないかと興味本位と言った所。
■リムリア > 情報網と言えば、冒険者の荒くれ共か、ご近所のおばちゃんたちのネットワークしかない少女から見れば、
ただのギルドの小娘の情報まで網羅する騎士団の情報網は驚嘆に値する。
気さくなようでいて、やはり油断のならない相手だと思わされてしまう。
「世の中平和なのが一番なんですけれど……
ギルドとして申し上げるなら、対策というものはありません。
ご依頼があればどのような場所にでもいち早く駆けつけることに変わりはありませんから。」
冒険者という人種は、騎士団とは真逆の集まり。
勝手気まま、自由奔放。こうしろと命じたところで言うことを聞くはずがない。
心配することがあるとするなら、国が動こうものなら現地で要らぬ諍いが起こりかねないということだろうか。
ギルドのマスター的には、『お互い邪魔はしないでおこうや』といったところか。
その証拠に、書類の最後には今後何かあれば遣いのものを連絡窓口にと添えられている。
つまりは情報は渡すから、こっちの仕事にまでは介入するなというわけで。
当の少女は与り知らないのことではあるけれど。
「個人的な意見を申し上げるなら、旅人や行商の方が困られているので……
護衛でしたらこちらでも引き受けられるんですが、街道の警備を強化とかしていただけると。」
知らされていない少女からしても、集団行動に向きそうもない冒険者との協力なんて考えにくい。
それをそのまま告げただけではあまりに取り付く島がないので、あたふたしつつ個人的な意見をつけ足して。
■ネメシス > 種を明かせば、なんてことのない情報源であったが、
目の前の少女を驚かせるには効果的な様子。
実際、息のかかった店も多く、満更はったりでもないのだが。
「と言うことは、既に何件か依頼が来ているんでしょうね。
正面切っての討伐が出来ないからああやって居座ってるんでしょうから。
まずは冒険者を送っての威力偵察からかしら。
何か成果とかあったの?」
ネメシス自身、あそこの城塞都市には興味があるらしく。
気づけば1オクターブ程声を張り上げていた。
「街道の警備ねえ…正規の騎士団じゃなくって、
うちにそれを依頼するの?」
どちらかと言えば、略奪する側の聖バルバロ騎士団である。
最近はより実入りが良い仕事があるだけに控えているが、まさかの申し出に周囲の団員が一斉に目を丸くしていた。
副団長の客でなければ罵声の一つも飛んでいただろう。
「まあ、団員の一部を派遣してもいいんだけど。
うちに何か見返りとかありそう?」
と、ここまで言った所で、渡された書類の末の部分を指さしながらリムリアに見せつける。
「うちとの窓口担当になっているみたいだけど、
そちらのマスターは私がどんな性格か分かった上で貴女を指名してきたのかしら?」
温和な表情のネメシスだが、突然獲物を見る様な目を向ける。
目の前の少女が事情を全て承知しているとは流石に思えない為、どう出るか楽しんでいると言った様子。
■リムリア > 付け加えた意見はまさに蛇足
あからさまな周囲の空気の変化に、やってしまったと思うだけの余裕もない。
見返りと言われてしまうと、だらだらと嫌な汗をかいてしまって。
「………え?
えぇっ!? き、聞いてません! あのマスターってば何を勝手に……ッ!?」
対峙する副団長の視線に鋭く射抜かれる。
けれども、それよりも何よりも。
その指先が示した箇所の内容に驚きの声を上げてしまう。
いつか絶対に締める。
いや帰ったすぐに吊るすしかない。
そんな風に憤っていたけれど、自身に向けられる視線に気づき。
「し、失礼しました! 全く聞いてなかったものなので………
えっと、それで見返りの話……でしたよね。
うちのマスターがどこまで副団長様のことをご存知なのかは分かりませんけれど……
とにかくそういうことならもう少し情報を引っ張ってきます。
そのうえで、街道での警備――ではなく、ネズミ捕りではいかがですか?」
ネズミといっても、餌次第では大物を釣れるかもしれない。
こうなったら半ば自棄だとばかりに、自分が囮になるということまでは提示しよう。
見返りは野盗が溜め込んだ略奪品。
リスクばかりが高くて、見返りと言えるか微妙なラインではあるけれど。
はたして乗って来てくれるかどうか。
■ネメシス > 最近は手荒な活動は控えていたが、これこそが聖バルバロ騎士団の姿。
団員達はネメシスとリムリアの遣り取りを止めることもなく、成り行きを見ていた。
リムリアの顔に汗が浮かぶと、下卑た笑みを見せる者も出てくる。
「あ~、やっぱりそうなのね。
まあ、書いてる内容と貴女の口ぶりに相違があるからそうだとは思っていたけど。」
こんなことだろうと思っていただけに驚くこともなく。
実の所、からかっているだけに目論見は半ば成功で。
とは言え、もう少し押してみてもいいだろうと。
「まあ、別に無理して情報を持ってこなくてもいいし。
貴女が危ない真似をする必要もないわ。」
実の所、リムリアの提案する内容は騎士団がこの国に来て直ぐの頃ならば魅力的だったかもしれない。
しかし、この国にすっかり根を張りつつある現状ではどれも左程旨味が無く。
「そのかわり…。」
ネメシスがあえて良い淀む。
周囲の団員達はまたかと言いたげな顔をしていた。
まるでこれから言わんとすることを予想しているように。
「貴女が私を慰問してくれるのなら引き受けるけど、どう?」
酔狂極まりない提案であるが、ネメシスは既にこんな条件でとある組織と盟約を結んだことがある。
■リムリア > 必死になってどうにか見返りを提示してみたけれど、やはり付け焼刃ではどうにもならなかったらしい。
こちらの提案は相手の興味を惹くものではなかったらしい。
できれば、このまま有耶無耶になってくれないかなと淡い期待をしてみたのだけれど、そうは問屋が卸さなかった。
「えっと……騎士団への慰問、ではなくて、副団長様への慰問ですか?」
焦らすように一拍をおいてから告げられた内容に、首を傾げてしまう。
これが騎士団への慰問となるなら、とてもじゃないけれどひとりで務まるとは思えない。
先ほどよりも野次馬と化してい男たちの数も増えている気がする。
そんな人数を相手にするのは、ひとりで野盗のアジトにカチコミを掛けるのと変わりはしない。
けれど提案されたのは、肩透かしとも思えるような内容で。
何をさせられるのか分からないけれど、それでも危険度は雲泥の差だろう。
となれば、それで首を縦に振る以外にはなく。
「私でよろしければ、務めさせていただきますけれど……
そんな内容でホントに良いんでしょうか?
ただ私の方も、こちらにつきっきりというわけにはいかないので、その点はご配慮をお願いします。」
ギルドのマスターがこの展開を読んでいたのかどうか。
それは帰ってからしっかりと吐かせる必要があるけれど、それはまた別の話。
■ネメシス > 「ええ、そうよ。」
ネメシスは楽しそうににこにこと笑みを湛えて。
実際の所、騎士団は只の略奪団から脱却する時を迎えつつあった。
既に王国のあちこちに拠点を持っている状態であり、そろそろギルドとつながりを持つのも悪くないとの
考えもあり。
ただ、もともとは素行が悪い集団。
ギルドと協定を結んでも、取り調べと称して多少の悪さをすることは今後もあるだろうが。
「それほど難しいことはないわ。
手が空いてる時にうちに来て私の相手をするだけよ。
まあ、当然あっちの方の相手もしてもらう時もあるでしょうけど。
それでも相手は私一人だから。」
団員達は未だ事情が呑み込めていない様子の少女を遠巻きに眺め、
なんとも微妙な表情をしていた。
実の所、騎士団の中でもずば抜けた性欲の持ち主であるネメシスを満足させることは
下手すれば団員達を相手取ることよりもハードだったりするのだが。
気が変わらぬうちにと、ペンを取り出し軽やかにサインを済ませて。
「はい、今後ともよろしくね。」
署名を終えた書類をリムリアへと手渡す。
これで用が済んだのであれば、ネメシスは奥へと引っ込み、
リムリアは女性団員数名に丁重に護られながらギルドに戻ることになったであろうか。
ご案内:「「聖バルバロ騎士団 拠点前」」からリムリアさんが去りました。
ご案内:「「聖バルバロ騎士団 拠点前」」からネメシスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 エステ店」にモールドさんが現れました。
■モールド > 平民地区と富裕地区の境目に居を構える、エステ店「オブシーン」。
清潔感が見て取れる店構えと、利用者の声、そしてその値段設定から平民、貴族を問わずに評判の良い店だ。
この国としては珍しく、ミレー族に対しても偏見は無いともいわれている。
その実態は、優良店とは間違っても言い難いものであるけれど。
今日もまた、愛しの恋人や旦那の為、または自身の美を磨く為にとその身を嬲られる客が一人。
淫らで変態的な施術を受け、それでも認識上は「素晴らしいサービス」を受けて満足そうに店を後にする。
その胎には雄の種がたっぷりと仕込まれ、つい先ほどまでその証を魔導具に晒して記録していた事を知るのは今、店の主ただ一人だ。
店に一歩足を踏み入れれば、設置された魔導具の効果で認識に影響を受けてしまう。
エステの効果を宣伝するように店内へと飾られたパネル一つをとっても、それは美貌を喧伝するものではなく。
素肌を晒し、卑猥な落書きを施されて玩具を銜え込む姿であったり。
男のペニスを美味そうにしゃぶり、恍惚とした表情を浮かべているものであったり。
更には犬の様に首輪とリードをつけられて、屈辱的なポーズを取らされながらも矢張り蕩けた表情を浮かべるものであったりと様々だ。
女の、否、牝の美しさを象徴するという意味ではそれは一部で納得できる写真の数々であるかもしれない。
けれども、此処は表面上は普通のエステ。誰もが、それを見た途端に逃げ帰るだろう
――それも魔導具の効果で「ちょっと過激だが魅力的なスタイルを見せる女性」とでも変換されるのだろうが。
さて。今日は後一件、予約があるがそれまでにはまだ時間がある。
獲物となる客が来るか、それとも予約の時間まで暇を過ごすこととなるか。
のんびりと受付を続けながら、次なる客をどう料理しようかと、にやけているのであった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 エステ店」にゾーイさんが現れました。
■ゾーイ > 「Obscene(わいせつな)? 何だろう、この店」
平民地区を歩いていたミレー族の少女が、表通りには似つかわしくない店名に目を丸くした。
アダルトグッズを売る店か何かだろうか。それなら普通はもう少し目立たない場所に建てるものだが。
「こんなところに真っ昼間から……さては相当貴族に顔が効くとかそういうヤツ?
しこたま財産を貯め込んでいそうな気配がするなー」
エステなど生まれて一度も利用したことがないため、この店の評判については全く知らず。
少女はピコンと尻尾を立てて、口角を吊り上げた。彼女は泥棒なのだ。
その予想は概ね当たっている。概ねは。
「まーずーはー、間取りを調べるために普通に入店しよっと。お邪魔しまーす」
ガチャリ、と扉が開いた。別段、忍び込もうとしたわけではないので店主もすぐに気付くだろうか。
■モールド > 相手の推察は、当たっている。
正しく、貴族の肝いりの店であるのだ。
故に、もう少し慎重に行動すべきだった。
足を踏み入れればそこはもう、罠の中であるのだから。
――とは言え、相手自身に罠に嵌ったという自覚が芽生える可能性も低いのだが。
「いらっしゃいませ。
施術をご希望ですか?今なら丁度、直ぐに承れますよ。」
店に入って来た相手に対し、応対する態度は其処らにある普通の店、そのもの。
しかして普通であるのはその雰囲気だけで、店内の様相は相手が最初に店構えを見た時に覚えた物と相違ない。
壁を飾るパネルに映る、雌を虐げるに相応しい写真の数々。
女性であれば危機感を覚えるだろうその雰囲気に相手が違和感を覚えなければもう既に術中である証拠となる。
■ゾーイ > 特に何も買う気はないが、少しぐらいチップを渡せば冷やかしでも怒りはしないだろう。少女は軽くそう考えていたのだが。
「えーっとね……あれ。何でボク、エステの店なんかに入ったんだろ?」
認識阻害の術式の効果は覿面だった。
店主に話しかけられ、即座に自分の行動と行為の不一致に首を傾げる。
「予約もしてないし、そもそもエステなんかするお金も持ってないのに……あれー?」
周囲の卑猥極まりない写真や飾りにも違和感を全く覚えていない。
だが、行動と思考が矛盾しすぎているため、首を傾げて少しずつ違和感を覚えている。
急激な認識の書き換えにありがちなことで、放っておけば看破されてしまう可能性がある。
とは言え、何人もの女性を毒牙にかけてきた店主であれば、この状況から『施術』に引き込むための口八丁はお手の物だろうか。
■モールド > 見れば、相手はミレー族。
しかも珍しい事に瞳の色が左右で違うという希少性だ。
物好きな貴族が好むだろうと内心で算盤を弾きながらも、浮かべる表情は営業スマイル。
この界隈では”ミレー族にも差別をしない”と評判なのだから当然だ。
「どうかしましたか。
あぁ、もしかして興味があるけれど今一つ踏み切れず、といった所で?」
この店に足を踏み入れたことに対し、疑問を抱いている様な相手の態度。
大体の客がエステを目的に来るのだから、その態度は珍しい物と言えた。
そうと知れば、相手にこれ以上の疑問を抱かせぬ様に会話を続けるのが上策。
「何、ご心配には及びません。
であるならば、お安くするやり方も御座いますよ。少々、条件もありますがね。
失礼ですがミレー族の方ですと、中々体のお手入れをする機会も少ないでしょう。
これを機会に一度、心身をリフレッシュされてみては?」
つらつらと耳障りの良い台詞を並べ、そして最後に少しばかり苦笑い。
「正直申しますと、客が居なくて暇でしてね。お付き合い頂けるとありがたいのです。」等と。
茶目っ気を出す様な台詞と共に相手の背後に立つとその肩へと手を置いて。
やんわりと肩を解す様にマッサージを。
突然のボディタッチ等、警戒されて然るべきだろう。
けれどもそこに違和感を覚えるには、相当な集中力を要するのが、この店という空間なのだ。
■ゾーイ > 「あー……うん。そう、みたい?」
巧みに相手の弁舌に翻弄され、自分でも最初からその気であったかのように錯覚してしまう。
体に触れられても嫌悪感を覚えないどころか、それだけでツボを押されたかのような一種の快感があって。
「(この人、ミレー族が相手なのに嫌な顔一つしない…)」
実際に満面の笑みであるのだが、そこに好印象を抱いてしまい。
遂に、彼女は『施術』を受ける決心をしてしまうのであった。
「えーっと、うん、そうなんだ。ミレー族だといろいろとねー、アハハ。
初めてだし、値段とかサービスしてくれないかなー……なんちゃって」