2019/07/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にエレイさんが現れました。
エレイ > 夜更けでも人通りの少なくない表通り。
そこに面した酒場の入り口から、突如として2つの人影が転がり出てきた。

その人影──体格のいい男二人は赤ら顔で、酒に酔っていることが容易に想像できる。
そんな二人が揃って睨みつける店の入口から、二人を追うようにしてぬっと姿を表したのは、
至極面倒そうな表情を浮かべた金髪の男だった。

「──全く手間を掛けさせてくれるなという顔になる。ホレ、もう店じまいの時間なのだから
酔っ払って暴れだすような恥知らずはとっとと帰るべきそうするべき」

しっし、と追い払うような仕草をしながらそんな言葉を酔っぱらい二人に投げかける。
男は、冒険者としてこの店の用心棒の依頼を受けていて、今まさにその役目を果たしている最中であった。

『ち、ちくしょう……覚えてやがれ……!』

非常にお約束くさいセリフを吐き捨てながら、男たちはフラフラとやや千鳥足気味の不安定な足取りで去ってゆく。
それを見送って男はフンス、と鼻を鳴らして。

「俺的にはむしろそっちの記憶のほうが心配なんじゃが……まあいい」

あんな酔っ払った頭では、むしろ向こうのほうが覚えていられるかどうか怪しいところだ。
そんなふうに思って大げさに肩をすくめる。

エレイ > やがて男は、店内へと戻っていって──
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からエレイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にナータさんが現れました。
ナータ > 夕方まで降っていた雨は上がり
けれど空気は重く湿っていて。

今日の仕事を終えた少女、定宿となっている安宿までの道を
少し疲れた面持ちで歩いていた。

今日の仕事は遠方までの手紙の配達。
身体はくたくたに近い。

だというのに、まっすぐ宿に向かう気にもならない。
なんとなく、頭の中、心の中にもやもやした何がを感じる。
それが一体何なのか、少女自身も分かってはいなかった。

「はふ……なんだろう。お腹は……空いてるけど。そうじゃなくて……」

少女は一度立ち止まり、厚い雲が大嘘らを見上げてポツリ、呟いた。

ナータ > 「風邪じゃない……よね……」

何となく気だるいような症状は、気候の変動による風邪かと思わせた。
そう言えば、何となく気だるいような、熱っぽいような。
額に手を当てて体温を診てみる。

然程平熱と変化はないように思えた。
そんな中でも「モヤモヤ」はゆっくりと、けれど確実に広がっていくかのようで。

「は、ふ……」

少女はどこかトロン、とした表情で吐息を零す。
少女の中に広がるもの。
それは少女自身の中に潜む「淫欲」であった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にパンドラさんが現れました。
パンドラ > 灰色の曇天の一角に、瞬くように光る何か。
それは緑色のドレスを着た妖精だった。
頭上に冠の如く頂く光輪と、鱗粉のような光を撒き散らす半透明の翅が、キラキラと煌めいている。

「…………。」

妖精にしてはかなりサイズの大きなそれは、自分と同じ程の背丈の少女を見下ろすと。
音もなく、気配もなく、ふわ、と重さも感じさせない動きで、その後ろへ降り立った。

「……。あなた。」

そして、後ろから唐突に声をかける。
死角から突然声をかけるのは、この妖精の好む他愛ない悪戯の一つであって。

ナータ > 内から込み上げる熱のせいか、気だるさのせいか、はたまた。
少女はその瞬間まで、現れた気配に気づくことはなかった。

傍から見れば、少女の背後に何かが降り立ったように見えた。
曇り空の夜にあって、そこだけがまるで光源のように煌めいていたというのに。

「ひゃう……?ひゃ、ひゃい?!」

少女は心臓が止まるかと思うほど驚き、一瞬その身が跳ねたかもしれない。
意識していなかった背後からの声掛けに、素っ頓狂な声を上げ
漸く、恐る恐ると言った風に背後を振り向いた。

「え、あ、う……?こ、こん、ばんは……?

少女はそのまま不思議そうに相手を見つめ、少し訝し気に挨拶を向けて。
自分と同じほどの背丈の、けれどどこかキラキラした少女に。

パンドラ > 妖精はまるで、最初からそこにいたとでも言うようにそこにいた。
萌える草木のような緑色のドレス、稲穂に揺れる金髪、空のように青い瞳。
輝く光輪と翅がなければ、どこかのお嬢様のように見えるかもしれない。

「……。こんばんは。あなた、心ここにあらずといった雰囲気。
 私は妖精だから、そういった人には良く声をかけるの。悪戯に引っかかってくれやすいから。」

腰に手を当てて、少しだけふんぞり返る。

「……。わたしはパンドラ。この街に住むごくありふれた妖精。あなたは?」

どこがごくありふれているのかわからないが、もしかしたら噂は聞いたことがあるかもしれない。
この街には珍しい、人型サイズの妖精がうろうろしている、などと。

ナータ > 足音も、気配もなく。
まるでずっとそこにいたかのように、自然に。
夜の闇の中にあって、相手―――少女だけがキラキラと浮かび上がるかのようで。
少なくとも、貧民地区に近いこの区画には相応しくない様子であった。

「心……ん、お仕事の後だから、疲れていたのかもしれないけど……」

少女自身はその理由に気付いていない。
体調が悪いのか、疲労か、その程度と認識していた。

「悪戯、って……妖精……?ありふれ―――た……」

少女がこの街に来てから、様々な人種と出会うことがあった。
ミレー族はもとより人外の種族でさえも。
けれど、相手が口にしたその存在には初めて―――

「え、ええっと……妖精さん、だぁ……ええと、ナータ……人間、です……」

少女が人間であろうことなど見ればわかるだろうに
名前と共に種族迄名乗られれば律儀に自分も返していた。

そんな妖精が、何で声を掛けたかもわからずに。
勿論びっくりさせる悪戯の為、だけなのかもしれないけれど。

パンドラ > 「…………。」

疲れていたのかもしれない、と聞いて、ずい、と顔を乗り出す。
密着しそうなほどに顔を近づけ、じぃ、と覗き込むように見つめて。
彼女の纏う花のような芳香や、息遣いの気配まで、感じようと思えば感じられるだろう。

「……。体の異常はないように見える。問題があるとすれば、多分、心、心。
 ……。心の中に、何か澱(おり)のようなものが溜まっているのかもしれない。」

鬱積した不満、とでも言うべきものか。
妖精はふわふわ浮きながら、密着しそうなほどに近い距離のままくるくると周囲を旋回するように揺蕩う。

「……。人間。人間は妖精に、歌と踊りと悪戯が好きで、世話を焼くのも好きという印象を抱く。
 わたしに限って言えば、その印象は概ね合っている。あなたの心の問題を解決できるのは、あなただけ。
 ……。けれども、助けが必要であるならば助力は惜しまないの。あなた、自分では何か、心当たりはある?」

鈴を転がしたようなソプラノボイスが、耳元で囁かれる。
どうやら、童話や御伽噺に現れる、困っている人を助けようとするタイプの妖精らしく。
積極的に、人間の少女の問題へと踏み込もうとしていた。

ナータ > 「へ……?」

少女は目を丸くした。
養成を名乗る少女の顔がすぐ間近にあったから。

見つめあったままじっと覗き込むような相手の少女は
少しするとその身を離す。
ふわり、少女からの甘い香りが鼻を擽った気がした。

「体は―――心?心の……澱……」

身を離した相手が、ふわり浮いたまま自分の周囲を回り始める。
首を回しその様子を追いかけながらも、相手が向けた言葉が気になる。
自分の心、心の中。

「悪戯と、世話を……私の心の、問題……私の……」

言葉を反芻する。
相手はそれ以上自分からどうするつもりはないのかもしれない。
言葉の通り、その先は自分自身。
少女自身が望めば、その手助けを。


ドクン……ドクン……

心臓の音が高鳴ったように感じた。

そうだ、自分は……私は―――

「あのね、パンドラさん、妖精さん……私……」

パンドラ > 「……。…………。……………………。」

こちらの言葉を反芻するようにオウム返しする人間の少女。
その様子を、妖精は黙って見つめていた。
道の一つを指し示したのは確かだが、結論を出すのは相手だ。

「……。うん、どうしたの?
 困ったことがあるなら、相談に乗る。」

そして、少女の口がゆっくり開かれ──。

ナータ > 「私、あのね、私―――」

少女が何を言ったのか、少女と、妖精の少女だけにその言葉は届いた。

そして少女と妖精はふわり、と浮くと何処かへ―――

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からパンドラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からナータさんが去りました。