2018/10/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にジェネットさんが現れました。
■ジェネット > 「ついに入ったぞ、王都」
亜人の身、殊更に異形の体躯ならば、王都へ入るのは厳しい。
すわ魔族ではあるまいか。ミレーではあるまいか。人間とは己と違う形の生き物をやたらと警戒したがる。
「ので、この魔法の出番というわけなのだなあ」
どこぞの田舎村で怪しげな老魔術師に教わった人化の魔法。
馬の下半身はこれこのとおり、滑らかで引き締まったヒトの女の両足がついている。
完璧な仕上がりだ、これであればどこをどう歩こうが文句は言われまい。
上機嫌で鼻歌など歌いながら歩く女の頭上に、ぴょこんと立った馬の耳がくりくりと機嫌よく踊り、腰巻きの下で馬の尾がふさりふさりと揺れていることに、当の本人だけが気づいていない。
■ジェネット > とはいえ、随分と遅い時間だ。
日中であれば観光客や旅人相手の案内人なども居るのだろうが、この時間にやっているのは酒場か盛り場くらいだろう。
さて、何処から王都を回ってみようか、などと思案しながら夜道を歩く。
捨てずに取っておいたヒト用の脚甲が役に立ったが、
蹄ではなく足裏の肉で地面を踏みしめる感触はなんだか気持ちが悪くていやに内股でもじもじと歩いてしまう。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にリンハイとユエフォンさんが現れました。
■リンハイとユエフォン > 今日は出で立ちを変えて平民地区へとやってきた兄妹。
服装は靴やカバンを除けば、かなり際どいカットのショートパンツと腿の殆どまで覆うハイニーソックスのみ。
つまりはトップレスだ。
一応リンハイは乳首に母乳抑制のリングを付けているが二人とも胸は空いた手で隠している。
趣味でこんな格好をしているのではなく娼館の宣伝が目的だ。
「どうもこんにちはー。
マイヤー商会でーす。
当商会の娼館では男女ふたなりを含めて幅広く娼婦を取り揃えておりまーす」
元気よく周囲に呼びかけるのは妹のユエフォン。
よく声が響いて宣伝としては正解かもしれないが娼婦としては少し色気の足りない態度。
「そこの旅のお方も、いかがですか?
普段より大幅に割引されていて大変お得ですよ」
兄のリンハイが通りすがる旅人、ジェネットに向けてポーチから取り出した紙切れを差し出す。
娼館の割引チケットだ。
端にはちゃんと所在地も書かれている。
チケットを差し出しているため、豊かに実った乳房は片手では隠しきれていない。
誘惑するように、実際それが目的ではあるのだが、露わになっている巨乳がジェネットの眼の前で弾んでいる。
■ジェネット > 「む」
酒場で遅い夕飯がてら、宿でも探すか……というところでその双子に気づく。
下半身の衣服が際どいのは個々人の好き好きであろうが、上半身裸というのはただごとではあるまい。
それもこの往来で、だ。
果たしてこれは何事か、と気持ち二人の方へと歩いてゆく。心配半分、好奇心半分だ。
王都の最先端の文化、というやつかもしれないし、義侠心だけで変に手を出す前に状況を把握せねば。
「商会? 娼婦……?
ああ、うん。ありがとう」
二人が配っているチケットを受け取り、そちらの文字に目を走らせる。
王国の言葉は――話すことは出来るが、読み書きはちょっとムズカシイ。
双子の言う通り、某かの値引きを保証する金券のようなものなのだろう。
が、これで何が安くなるのか。そこが中々読み取れない。
立ち止まった鎧武者は、小首を傾げて双子に聞くことにする。
「あー、すまない。文字を読むのが苦手なんだ。これはつまり、何を値引きしてくれるんだ?」
と、目を上げて、少女の胸が視界に入り、慌てて視線を目に合わせる。
――危なかった。もし人化していなければ、馬体のほうが興奮して大変なことになっていたかもしれない。
それだけ、同じ雌から見ても少女の胸は形良く張りがありそうで美しかった。
■リンハイとユエフォン > 「ああ、すみません。
これは娼館の割引チケットでして……。
今日から3日以内にチケットを持ってくると娼婦が半額になります。
抽選で最大無料になる事もあるんですが、割引率が高い分期日は短めになっております」
一度チケットに目を落とすと微笑みながら穏やかな口調で、チケットの補足を入れるリンハイ。
格好が格好だけに羞恥心があるのか、少し顔は赤いがしっかりとジェネットを見据えている。
少し離れたところでは、妹のユエフォンも通行人を捕まえて解説、というよりも談笑に花を咲かせていた。
「いかがですか?
……あと、僕も当然割引の対象ですので」
これだけ大きければ嫌でも目を引くだろうが、明らかに胸を意識する素振りを見せていた事は見逃していなかった。
ジェネットに対し、少し距離を詰めていくリンハイ。
「興味がおありでしたら、見るだけ見てみても。
他にも良いコが揃っていますので」
少し胸を寄せあげて、アピールしながらチケットを一枚手渡そうと。
■ジェネット > 「半額とはまた剛毅だなぁ。なるほどチケットの仕組みはわかった、ありがとう」
微笑みに思わず胸が高鳴りそうになる。恥じらいを堪えて真っ直ぐに見つめ返してくる真摯さも愛らしい。
しかし、商品が娼婦と来た。
性に興味がないとか、娼婦のような仕事は良くないだとか、そういう訳ではない。
むしろ性への興味は強いほうだという自覚はあるし、
娼婦は――少なくともプロは、プロとして真摯に職に向き合っている姿は高貴だとすら思う。
が、まさか娼館といえど本来の姿を晒すのはリスキーだし、かと言って人化したままでは上から下まで一通り女だ。
「興味が無いではないし、君も実に魅力的に見えるんだが、その、うん。
こんな成りで何をと思うかもしれんが、私も女でな?
女の身で女を楽しむ術はまだ知らないんだ、うん……」
困ったように八の字の眉で肩を竦めて見せ、しかし手は半ば無意識にチケットを受け取って大切に懐に。
胸は努めて見ないように心がけた。寄せて上がった谷間に生唾を呑んだりは、断じてしていないと言えるだろう。
してない、してないからな!!
■リンハイとユエフォン > 胸を使った誘惑は、見たところそれなりに効果はあるようだ。
興味自体もないわけではないようだし、もう少し粘ってみよう。
「その点は男娼やふたなりの娼婦もいますのでご安心を。
向こうの元気な……、妹なんですがあの子もふたなりですから。
……まあ、少々大きめのサイズですのでお客様の嗜好次第ですけれど」
リンハイが目を向ける先には、尚も威勢よく宣伝をする妹ユエフォンの姿が。
「それにこちらの娼館では異種族も多く働いていますので……。
そういったお客様も気兼ねなくご利用できるかと」
今度はリンハイの視線はジェネットの頭のやや上。
隠れずぴょこんと立った耳に注がれている。
■ジェネット > 「そ、そうか……それなら問題はない、のか?」
どうなんだろう。そもそも、娼婦を悪く思わないとはいうものの、自分が買う立場になるなんて想像もしたことがない。
しかし、それを置いても少女は魅力的だし、彼女の双子の妹も可愛らしい。
自分が氏族の戦士の身分のままであったならば、
それこそ彼女らの勤め先に押し入って拐ってしまいたいほどに可愛いと思う。
「い、異種族、か。私はにンげんだからぜんぜんそういうのは分からんが、幅広いのはいイんじゃないかぁ?」
予想外にピンポイントな勧誘に声が裏返ってしまった。
私の人化の術は完璧なはずだ。教わったとき何度も鏡を見て確認したんだから、いまさら失敗など。
それとなく自分の足元を見る。人の足が生えているのでひとまず安堵。
馬の耳がくりくりと安心した風に蠢く。
「…………そ、その。参考までに、仮に君らを買うとして、この券を使って幾らなんだ?」
歩み寄って、耳元でこそりと。
安堵で好奇心と欲望を押さえる理性が、折れたような気がする。
■リンハイとユエフォン > 食らいついた手応えを感じたが、どうにも挙動不審だ。
というか耳を見れば獣人なのは明らかなのだが、人間と言い張る辺り隠しているつもりなのだろうか?
王国の風潮というものもあるし隠したい気持ちは分かるが、露見している事は教えてあげたほうがいいのかそっとしておくべきか。
リンハイが逡巡している内に妹のユエフォンもこちらへとやってきた。
「随分話し込んでるわねー兄さん。
そっちの獣人の人、その格好は傭兵か何か?
景気はどう?
稼いでるなら今丁度割引中だしさ、ぱーっと使ってかない?」
リンハイの逡巡を無駄にするような、身も蓋もない獣人という指摘をするユエフォン。
当のユエフォンは全く気にした様子もなくケラケラと機嫌が良さそうだ。
「そうそう、チケット私の方はあと一枚だけど、これもお姉さんにあげよっか。
私600ゴルドだからこれで半額の300ってことで。
兄さんはもっと高いけど」
空気を読まない妹に少し困った顔をしながら、リンハイも説明を続ける。
「えーと……。
とりあえず、僕は2000ゴルドなので、半額だと1000ゴルドですね。
チケットを持って期間中にお店に来て頂ければ抽選次第では更に割引があって、最大で無料になる可能性もありますが……」
つまり二人同時だと、半額になれば1300ゴルド。
抽選で運が良ければ更に割引もされるという事だ。
■ジェネット > 「あ、うむ、すまないな、君のお姉――うん?
うんん??」
兄さん? 女の子ではないのか? だってあんなにも大きな胸がある。
獣人? 完全に隠し通せているはずじゃ……?
頭の中が「?」でいっぱいになり、引きつった笑顔で冷や汗を滝のように流す。
いかんいかんいかん、変に慌てたり困惑しては逆に怪しい。堂々とすれば問題ないのだ、堂々とすれば。
「傭兵……未満だな。雇い相手はまだ見つからないから」
腕に自信はあるが、本当の姿――ケンタウロスというのがいやに足を引っ張るのだ。
本来の姿では雇ってくれる先もなく、隠していては本来の実力を出せずに失敗してしまうこともある。
とはいえ、街道警備の仕事ではそこそこ稼がせてもらった。
二人で1300。決して払えない額ではないし、払ったところで明日すぐに飢えることもない。
それにチケットを二枚も受け取っておきながら、支払いできる金を持っていながら、
はいさようなら、というのはあまりに不義理ではなかろうか。
決して姉? 兄? の色香に惑わされたとか、性欲に突き動かされているとかではなく、これはあくまで義理人情の話なのだ。
断じて、義理人情以外の感情はない。もちろん、対価を支払う上でそれに見合ったサービスを受け取ることに吝かではないが。
――理論武装完了。
耳と尾を丸出しにした人化の術ばりに穴だらけの理屈で身を固めて、ごくりと唾を飲み込み。
「そういうことなら、君達二人に会ったのもなにかの縁……というわけで、娼婦遊びを手ほどきしてくれない……かな?」
■リンハイとユエフォン > 苦笑いのリンハイ。
まあこう反応されるのはある意味当然ではある。
「えーと、一応男ですよ、僕は」
この見た目で男と言われれば、困惑するのも無理もない。
時々一目で看破される事もあるし、ある程度馴染みの相手なら承知の上なのだが普通はこんな反応になるだろう。
今回の場合、困惑の原因はそれだけではないようではあるが。
「あと、すみません……。
隠そうとされているのでしょうけど、耳が見えています」
相手の事情や心理も分からないではないが、隠しているつもりで丸出しになっているのは放っておいて良い事はないだろう。
「え?
隠してるつもりだったの?
もしかして黙ってた方がよかった?」
一方の妹、暴露した当人であるユエフォンはあっけらかんとしたものだ。
兄程の思慮がないというか、面倒事は大体兄に任せてしまっているせいだ。
「……とりあえず、その話しも道すがら。
妹がご案内いたしますので」
先導役は妹に任せ、リンハイはジェネットの横に並びユエフォンの後をついていく事に。
妹を先に歩かせているのは、今日は特に気の抜けている妹が無礼な事を言わないようにとの牽制の意味が大きい。
■ジェネット > 「そ、そうだったのか。すまない……」
男子を女と間違ったのだ、素直に頭を下げる。
と、同時に。彼女――彼が男であれば、なおさら問題はないな、という感情も確かに芽生えたのを自覚した。
それはそれとして、耳が見えている?
慌てて手を頭上に遣って、頭を撫でる。
――ある。
えっ、いつからだ。まさか最初から? そんなバカな。
もしそうなら、私はとんでもない間抜け、それこそ馬鹿じゃないか。
「…………いやいい、気付かせてくれてありがとう。
指摘してくれたのが君達で良かった、のだろうな、きっと」
これが悪徳官吏の類なら、あらぬ疑いで拘束されていたかも知れない。
人のいい兄妹が気づいてくれただけマシだ。次から気をつけよう。
正直に感謝して、妹にも苦笑いと共に頭を下げた。
「ああ、案内は頼む。
本当に始めてだから、支払いの仕組みとか受付とか、そういうのも教えてくれると嬉しい」
話している感じ、妹は歯に衣着せぬというか、正直にすぱすぱとモノを言う気性のようだ。
草原の民として、好ましく感じる気風である。氏族であれば非常にモテるだろうし、私も彼女は好ましく思う。
一方兄の方は細かいところまでよく気づき、気を回してくれる優しい子だと思う。
個人的に、主として言葉を交わしているのが彼だからというのもあるだろうが、結構ときめいてしまった。
つまり私は、二人にあっという間に籠絡されつつある、ということだ。
■リンハイとユエフォン > 「お任せください。
といってもそれほど難しい事もないのですけれど」
ついてからちゃんと教えるとしても、道すがら簡単に説明を済ませておく。
とりあえず名前さえ書ければ最低限問題はない。
あとは契約にないプレイで怪我をさせたりすると罰金が発生する可能性などを説明しているが大体は常識的な範囲の注意だ。
「特殊なプレイの場合、支払いや契約内容は少しややこしくなるのですが僕の場合はあまり問題にならないのでご安心を。
何かしてみたいプレイなどありましたら、今のうちに相談して頂ければ準備もしやすくなりますけれど」
溢れそうな胸を両手で抑えながら、ジェネットの隣で一通りの説明を済ませるリンハイ。
ここで事務的な口調を少し崩す。
「ところで……、お客様、もしかして女の子の方が良かったですか?
僕のおっぱい、すごく気にしてましたよね?」
少し声を潜め、距離を縮めてささやきかける。
声色は少し弾み、いたずらっぽい響きも含んでいる。
■ジェネット > 「ふんふん、なるほど……」
名前なら書けるぞ。最初に覚えたからな、と得意げに胸を張る。
暴力的なあれそれは、ヒトの形を維持できれば問題はないだろう。
あとは勢いで魔法を解いてしまわないようにだけ、気をつけないと。
隣を歩く兄をチラチラと見ながら、注意事項をしっかりと記憶していく。
思ったよりは難しくなさそうで安心するのと、だからこそハマってしまいそうで恐ろしいのと。
ヒトとして二人にこれだけ魅力を感じているのだ、これで「なんだ、思ったより難しくも怖くも無いじゃないか」
なんて思ってしまった日には、娼館通いで身持ちを崩してしまいそう。
「……いや、その、目の前で揺れていたらそれは女だって見てしまうだろ
…………わ、私は君が男でも女でもいいっていうか、君がいいっていうか」
距離を詰められ、まるで内緒話のようにいたずらっぽく囁かれた問いに、
まるで好きな子に告白する少年のようにしどろもどろになりながら答える。
■リンハイとユエフォン > 「ふふっ、ありがとうございます。
今後もご指名されるよう、今日は頑張りますね」
娼婦、男娼が頑張るというのはつまりはそういう事だ。
朗らかな口調だが口にしている内容は中々爛れているといえよう。
「ついたわよー。
ていうかさー、二人がいちゃいちゃしてるの全部聞こえてたからね?
一応兄さんの見つけたお客様だし黙って案内してたけどさー」
ちょっとは空気を読んで、黙々と案内を続けていたユエフォンが四階建ての建物の前で立ち止まる。
話し込んでいる間に結構歩いていて、既に富裕地区だ。
「ありがとうユエフォン。
それじゃあ僕は手続きをしてくるから、暫くお客様のお相手を頼んだよ」
到着した四階建ての建物。
ここが二人の勤める娼館だ。
早速中に入るとリンハイが先に受付に向かいある程度の話しをつけにいった。
「やった。
ねえねえ、お客様ってこういうお店初めて?
多分初めてよねあんまり慣れた感じしないし、さっきもそんな事話してたし。
何するかは知ってるわよね?」
屈託のない笑顔で、お客相手だというのに気安く話しかけてくるユエフォン。
兄とは随分性格が違うのが分かるだろう。
■ジェネット > こくりと頷いて、微笑み返す。
その言葉の奥に潜む熱を察して、下腹に甘い疼きを覚えた気がした。
「いちゃ……いちゃは、してない、と思うが……
その、案内ありがとう。ここが? 思ったより大きいんだな……」
四階建てというのも意外だし、回りの町並みも今までのものと違って豪奢な屋敷などがちらほらと。
自分がひどく場違いなようで、早歩きで娼館に入る。
受付を済ませてもらっている間、妹のほうが人懐っこく近づいてくれたので心細さはない。
「うん、こういう店は初めて、かな。行為自体は未経験ではないけど、店でお金を払って、というのはこれが最初だ。
何をするかって、それは……もちろん判るとも」
性交を娯楽として楽しむ、んだよな? と、やや自信なさげに。
普通は雄が雌を買いに来るものだと思っていたが、意外にも雌の客も多いようだ。その点でも安心した。
それにしても、妹も人懐こくて愛らしい。
距離感の近さも嫌ではないし、気がついたら懐の内側に入られていたような感じ。
もしかして武術家としてもいい線いくのではないかな、なんて場違いなことを考えながら、しばし雑談を楽しむ。
■リンハイとユエフォン > 「大体手続きが終わったので、最後にいくつかよろしいですか?」
ジェネットとユエフォンが雑談を楽しんでいると、リンハイが戻って来る。
「チケットの処理なんですけれど、少し趣向を凝らしたものにしてみようかと思いまして。
本来はクジによる抽選なのですが……。
特例で射的などいかがですか?
チャンスは一回、的を射抜ければ今回は二人分無料という事で」
そう言って、リンハイがユエフォンに艶々とした林檎を一つ手渡す。
これが的という事だろう。
そしてジェネットには木製の、それほど大きくはない弓を差し出し。
「受けるかどうかはお客様に委ねますが、その佇まい、弓の心得がおありかと思いまして。
いかがでしょう?」
言いながら、既に準備は始まっている。
スタッフに誘導されてユエフォンが林檎を頭に載せて壁際へ。
この位置から狙うと、ざっと15メートルといったところか。
「このぐらい?
どう?狙えそう?」
既に的になって待機しているユエフォンが、特に緊張した様子もなくジェネットに呼びかけている。
■ジェネット > 「ああ、ありがとう。……うん?」
戻ってきた兄に感謝の意を込めて軽く頭を下げれば、なにやら話があるという。
なんだなんだと目を丸くして耳を傾け――文字通り、馬の耳を傾けて。
「ふむ、射的か。弓矢でいいんだよな? しかし、金をケチるつもりはないが本当にそれで大丈夫なのか?
二人の報酬とか、ちゃんと支払われるのか?」
外すはずはない、と自信満々で、
当ててしまった場合に二人は損をしないか心配すらしながら、馬の背に括ってある愛用の大弓を――
ない。
そうだった。人化したとき、邪魔になるから街道沿いの宿に預けてから来たのだった。
となれば、得物は借りたこの小弓ということか。
壊れるほど雑な作りではなさそうだが、氏族の大弓と比べてしまえばまだ脆い。
もともとが遊戯用の弓ならばこんなところか。
何度か弓の具合を確かめ、それから参加の意を伝える。
中距離、得物は不慣れで脆い小弓。おまけに的の下側は意地でも矢を当ててはならない縛り付き。
「――だが、ケンタウロスの、それも戦士の氏族の出身ならばこの程度の余興は」
脚をゆったり開き、矢をつがえ、弦を引き絞る。
すぅ、はぁと数度の深呼吸。
「簡単だとも、すぐに当てるさ」
自信満々に頷き、矢を放つ。
果たして矢は、林檎を射抜いたかどうか。
目を瞑り、射撃後の息を整える自分にはわからないので、
「――どうだろう」
素直に、的を支えていた妹に聞いてみることにした。
今は瞼を押し上げる一瞬すら惜しい。
■リンハイとユエフォン > 「ばっちり、的中したよ!
いやあ即断だったしかっこいいねえ!」
矢が刺さり、汁まみれの林檎を掲げながらユエフォンが声を張り上げる。
それに続いて周囲から感嘆の声と拍手が起きていた。
ちなみに林檎を掲げている間、当然ユエフォンの胸は丸出しであるのだが、店内という事もありあんまり恥じらった様子がない。
「ああ、人馬族でしたか。
それなら、こんな余興は簡単すぎたかもしれませんね」
弓を受け取りながら何やら納得したように頷くリンハイ。
ただの獣人ではなく弓に通じた者が多いケンタウロスなら、この程度どうという事はないのだろう。
何はともあれ、約束通り今回の料金はチャラである。
この間もリンハイもやはり乳房が丸出しではあるが、店の外程は恥ずかしがってはいない。
とはいえある程度視線は気にしているのがユエフォンとの違いだ。
「では後は本人のサインと、残りの欄も埋めてしまいましょうか」
弓を仕舞い、ジェネットと共に受付へと向かうリンハイ。
受付用紙には名前が未だ空欄で、ここだけは基本的に本人のサインが必要なのである。
残りの空欄は、性別部分のチェックも残っていた。
見た目は女性だが、リンハイのように見た目では分かりづらい例があるため勝手に記入はしていない。
とりあえず必要な部分はそのぐらいだ。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からリンハイとユエフォンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からジェネットさんが去りました。