2018/05/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にミンティさんが現れました。
■ミンティ > 朝の混雑が解消されつつある時間。商人たちが昼に向けた準備に忙しくしている中を、買い物袋を抱えて歩く。
今日はお買い得な商品によくあたり、そのせいで少々買い込みすぎてしまったかもしれない。まっすぐ帰るよりも、どこかに立ち寄って休憩しようかと考えながらの足取りは危なっかしいものだった。
他の通行人とぶつかりそうになっては相手から避けてもらって、そのたびにぺこぺこと頭を下げる。その繰り返し。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にヴィクトールさんが現れました。
■ヴィクトール > 「くぁ……」
深夜にまで及んだ捕物劇の結果、若干寝不足気味に宿を後にする。
眠たげに大あくびをしながら、首を左右に傾けて小気味いい音を響かせ、通りをだらだらと歩いていく。
伝令の組合員も伝書鳩も来ないとなれば、今日は非番。
何処へ行こうか、そんな事を考えながら上の空で歩いていると、店並びの賑わう通りへと差し掛かった。
物思いに耽りつつの足取りは、若干前方不注意であり、小柄な彼女が視野の真下で頭を下げているとは気付かずにいる。
(「別にこっちに用事ってあんまねぇんだよな、どうするか……することねぇなら集落戻って、酒飲むなりアイツと……」)
真っ直ぐに前を向いたまま、そんなこの先を考えていたときだった。
そして、ドンッと硬い体が彼女の腰辺りを背後から重たく小突いてしまえば、結構な衝撃で前へ突き飛ばされそうになるだろう。
■ミンティ > この時間の市場通りを歩いている間は、周囲をあまり警戒もしない。商人たちの目がいくつもあるし、買い物客で混雑してもいないから見通しもきいている。
わざわざこんな場所で物盗りしようと考える悪者もいないだろうと考えるのが普通だった。
だから後方から人が歩いてくる気配に気がついていても進路を変えたりはしない。さらに距離が縮まりそうなら端に避けるつもりではあった。
「…?!」
しかし思っていたよりも早く人の気配が迫ってくる。まさかこちらの姿が見えていないとは思わず、相手の歩幅が予想よりも広かったのは予想外だった。
運よく転倒は免れたけど抱えていた買い物袋を落としてしまう。雑貨や果物を地面に散らばっていく。
■ヴィクトール > 背丈がある分に歩幅も大きいといったところか、併せて前をよく見ずに歩いていれば、彼女が避けようと思ってもままならないのは必然だったのかもしれない。
「ん……?」
彼女に強い衝撃をぶつけてしまったこちらは、小さな衝撃を小柄な身体から受け止める。
身体はブレること無く、そのまま前へと踏み出してしまうが、流石に歩みは止まり、はてといった様子で衝撃を感じた方へと振り返った。
桜色の髪が揺れ、弾き飛ばされた彼女が手にしていた買い物袋から林檎やら、紙に包まれた雑貨やらがこぼれ落ちる。
不規則に地面を転がる音に、珍しく金色の瞳を見開くとわりぃと告げながら、転がる林檎を追いかけ、しゃがみこんで手を伸ばし捕まえていく。
「っと……踏み潰されなくてよかったわ、わりぃな、よそ見してた」
そちらへと振り返ると、悪い人相の顔立ちに苦笑いを浮かべていた。
誤魔化すような子供っぽい笑い方をしつつ、散らばっていく雑貨やら果物を拾い集める。
黒尽くめの大柄な男がウロウロすると、流石に人の流れも変わっていく。
まるで川の流れを切り裂く岩の様に人が避けていき、結果として何一つ踏まれること無く拾い終え、ほいよと告げながら買い物袋へと収めていった。
「悪かったな、まぁ俺は……ちょいとだけ、運がよかったな今日は」
ニヤッと笑みを浮かべると、どうにも少し悪どい微笑みになってしまう。
獣のような金色の瞳が少し鋭く細められていき、彼女を見つめる。
■ミンティ > 最初はなにが起こったのかもわからず困惑していた。いきなり背後から衝撃を受けて乱れた鼓動をおさえようと、胸に手を当てるのが精一杯。動くのもままならず棒立ちしている間に、大きな影が視野に入り込んだ。
「あっ……」
地面に散らばる荷物が自分のものだと思い出して拾い集めようとする。しかし先に行動を起こした男性にぶつからないようにするのがやっとで、新しいペンとスパイスの小瓶くらいしか拾い上げられない。
おろおろしている間に一通りの荷物を集められてしまって、ぽかんとしたまま買い物袋を受け取った。
「……す、すみません。わたしの方こそ…ぼーっとしていて」
ぶつかられた側ではあるけど、自分がのろのろ歩いていたのは確かだから頭を下げて謝罪する。
袋の中に自分が拾ったものを入れながら、運がよかったと言う彼を不思議そうに見上げた。
道端で人とぶつかったのに、なにが幸運だったのかと小首をかしげる。
■ヴィクトール > 身体の大きさがある割には素早く、身体も柔らかいらしく、少し離れたところへ転がった果物も腕を伸ばしながら身体を沈めていく。
踏み潰される前に足の下から掠め取ると、つま先の力だけで慣性を押し殺して身体を起こす。
あっという間に集めた荷物を袋の中へ収めると、想定外の言葉に怪訝そうな顔を一瞬見せたが、直ぐにクツクツと喉の奥で押し殺すように笑う。
「何いってんだよ、ここらでそんなこと男にいったら、じゃあ迷惑料貰おうかって掻っ攫われるぞ?」
比較的まだ安全と言えるかもしれない平民地区ではあるが、欲望渦巻く金持ちの領域と、貪食な者たちが巣食う荒れた場所との合間。
裏路地一つ挟めば、女の悲鳴など簡単に消せるのだからと……そこまでは言わないが、遠回しに気をつけろというような言葉をかけて笑っていた。
運がいい、その言葉に不思議そうに小首をかしげるなら、苦笑いのまま、軽く頬を掻きながら言葉を切り出す。
「あ~……今日、寝起きわりぃ朝だけどよ。可愛い女の顔が拝めんのはいい気分だぜ?」
大きめでまんまるな碧眼と、それを甘く仕上げる童顔な作り。
長めの桜色の髪と白い肌のコントラストも鮮やかで、可愛らしい。
そんな要所要所に目を惹かれていくわけだが、何処がどうとはいえず、カラカラと笑いながら翡翠色を見つめ返す。
■ミンティ > 背が低い自分だと大体の男性と話す場面で見上げる姿勢になるけど、目の前にいる相手は殊更に長身だから、仰け反るような姿勢になりかけて後ずさる。自然な姿勢で見上げられるように距離を開いて、ようやく落ち着いて相手の身なりを観察できた。
大きな剣を背負った姿から冒険者や兵士のような職の人かと想像し、じっと見つめていると危機感の薄さを指摘されてしまう。
たしかに言われたとおりだったから、口をぱくぱくさせながら返す言葉に迷った。
「え…、えっと……でも、…そういう人は…わざわざ荷物を…拾ってくれたりしないかと」
油断していた理由を自分でも納得できる言葉で口にする。
最初だけ優しい顔をする悪者がいないとは言えないから、自信なさそうに声は小さくなっていく。最後にはほとんど聞こえないような小声で、気をつけますと呟いた。
「え……?…っ…」
こちらに向けて話しているのは理解していても、違う誰かを相手に言っているのかと思って周囲を見回す。
容姿を褒められた実感がわくのが遅くなって、自分に対して言ったのだと知ると、じわじわ頬が赤くなる。
どう返事をしていいかも思い浮かばなくて、視線をそらしてしまった。
■ヴィクトール > 高さが35cmも異なれば、まるで大人と子供のような差。
見上げる彼女の首の角度が窮屈そうだと思えば、一歩下がろうかと思うものの、向こうから距離を取ればそのままに。
黒い上下に肩には千切れた首輪と鎖を象った紋が金糸で刺繍されており、荒くれ者が似た職種なら誰だか分からるようになっていた。
背にした剣も見た目の割に剣脊が狭めで、少々細めの作り。
見た目よりも、彼女の魔眼には、眼鏡越しでも剣の異様性が映り込むだろうか?
黒い魔力を溜め込み、まるで人のような意志を宿した剣が呼吸するように力を緩くうねらせている事に。
「かもな? そう思わせて……ちょいとお願い事つって、攫って裸に剥いて、薬漬けにしたら奴隷市場の仕入れ商品の出来上がりだぜ?」
自信なさげな言葉に確かにと頷くが、そのオドオドした仕草に少しだけ嗜虐心を煽られる。
少し怖がらせてしまうような裏の現実を垣間見せると、おどけるように、なんてな? と苦笑いで言葉を締めくくる。
気を付けますと呟く声には、そうしてくれと言うように小さく頷いていた。
「ん? ……ぁー、わりぃ、何かナンパみたいになった……いや、それでいいか」
自分に向けられた言葉とは信じられず、辺りを見渡すなら、クツクツと笑いながら彼女を指差す。
お前のことだと言わんばかりに笑みで示せば、一間遅れて頬が紅潮する様が可愛らしい。
丁度、今日はどうしようかと考えていた今だと思えば、流れに乗るのが正しいと口角を上げていく。
「今日仕事無くてよ、暇だったんだ。暇あるなら一日付き合ってくれや……それと、後出しでズルいって言われたくねぇから言っとくけど、することできそうな、俺はしちまうからな?」
しれっとさも当たり前の様に、その言葉をナンパへと繋げていった。
ニカッと明朗に笑い飛ばしつつも、遠慮のない本音も打ち明けてしまう。
それだけ可愛いと言った相手に手を出さずに終わるかと言えば、ゼロとは言えないと。
ただ、無理矢理にでもと言わないのは、その顔が怯える様は見たくない。
どうする? というように軽く首を傾けながら、碧眼を見つめ続けた。
■ミンティ > 悲惨な結末を例えとして口にされると、具体的に想像できてはいなくても眉がハの字に垂れた。そんな事件に遭遇する可能性も完全には否定しきれないと知っているから反論もできず、口数のすくなさに輪をかけて、もごもごと声にならない呟きを繰り返すしかできなくなった。
おどけた態度で冗談めかしてもらうと、強張りつつあった表情をなんとか和らげて、ほっと息をこぼす。
「へ……?」
ナンパみたいだと言う彼に、そうですねと答えるように頷こうとした。そのまま動きが固まって、きょとんとした顔であらためて相手を見上げる。
ほんのり色づく程度だった頬が、さらに赤くなっていく。
「いえ、えっと…、あの、おしゃべりも…うまくないし。
わたしじゃ……きっと……退屈させてしまいます」
こんな道端で誘いかけられるとは思いもしなかった。
虚をつかれたせいで、その誘いを受けたいか受けたくないかを考える余裕もなかった。そんな状態だったから、するとかしないとかの宣言がなにを示したものかも気がつかない。
拒みきれずにおろおろしているうちに、頬は真っ赤になっていた。
■ヴィクトール > この辺に住んでいる娘にしては、警戒心が薄いような……そう思うものの、それだけ周辺の治安がいいことかと思うことに。
安堵する様子にこちらも笑みを浮かべながら言葉を重ねていくと、はっきりとしたナンパで茹で上がるように真っ赤になる姿に笑みは止まらない。
「そうか? そういうウブっぽいところも、見てていい感じだぜ? それに、嫌だって言わねぇなら適当に何処か連れてっちまうぞ」
オロオロしながら真っ赤になる彼女へ掌を伸ばしていくと、首筋へと触れようとする。
届いたなら、そのままそこを少しザラついた浅黒い掌でなでおろしていき、肩へと重ねていく。
買い物袋を抱えた彼女の掌を握りたいところだが、今はここで我慢というところか。
優柔不断な彼女を遠慮なく引っ張るように言葉を重ね、薄っすらと笑みを浮かべていた。
■ミンティ > 「えっ…、あのっ……、わ、わたし……っ」
嫌だと言った方がいいのか迷っていると、こちらに向かって伸びてくる手が見えた。反射的に竦んでしまい、首筋に触れられるとくすぐったそうに身震いをした。
強引に連れていかれそうになると足がもつれてしまう。逞しい腕の中は転ぶ心配がないかわりに逃げ出す隙もない。
あわてふためき、うろたえて、どう拒んだらいいかも思い浮かばないまま、誘導する相手には負担をかけない同行となったかもしれない…
■ヴィクトール > 「そんなにオドオドしてると、マジで悪いやつに攫われちまうぞ?」
首筋に触れようと伸ばした掌に、何処か怯える様子が見えると苦笑いを浮かべたまま撫でていく。
傷つけぬように、戦いに傷の多い掌が優しく撫でていけば、苦笑いを浮かべつつ肩へと滑らせた。
痛くしない程度、ぐっとその身体を引き寄せていくと、肩を抱いたまま歩き出す。
とはいえ、やはり何処か怯え気味なのであれば乱暴はしない。
雰囲気の良さそうな喫茶店に連れて行っては、彼女の仕事やら買い物の中身など、当たり障りない話を交わし。
話の中から好みそうな場所を一緒に歩いて、彼女の好きなことに耳を傾ける。
ガサツで勝手だが、多少なりは女の扱い方ぐらいは知っているつもり。
疲れさせない程度、彼女を知ったところで今日はその肩から手を離すだろう。
「ありがとな、んじゃな?」
送り狼と思われないように、彼女に確かめながら家に近いところまで送ると、あっさりと手を降って見送った。
背中を向け、集落へと戻る道中、今更ながらのことを思い出して、嗚呼と残念がるように顔をしかめていく。
名前ぐらい聞いときゃ良かったと、間抜けを一つ残しながら、今日の出会いを思い出に変えるのだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からヴィクトールさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からミンティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にミンティさんが現れました。
■ミンティ > お客が少なかった日。お店を早めに閉めて生き抜きに出かけたけれど、遊び慣れてないせいでどうしたらいいか思い浮かばなかった。
しばらく散歩をして、図書館で読書をして、立ち寄った公園のベンチに腰かける。
膝の上に広げた包み紙に小さなパンを置き、ちょっとずつちぎって食べる。ときどき飛んでくる鳥にお裾分けをしながら、冷たい飲み物で喉を潤して、ほっと息を吐く。
夜はどうしよう。外食ですませようか。ぼーっと考えている間に時間が過ぎていく。
■ミンティ > ちょっと狭く感じる広場からは子どもたちの元気な声が聞こえてくる。ぼろ布を丸めて作ったボールを蹴って楽しそうに遊んでいる様子を眺めていると、孤児院にいたころを思い出して懐かしくなった。
仕事もあって顔を見せていなかったけど、たまには帰ってみてもいいかなと思った。
「おみやげ…どうしよう」
前に帰った時は一番助かるだろうと考えて古着をたくさん買っていったけれど、子どもたちはあまり喜ばなかった。
自分がお世話になっていたころは、なにが嬉しかっただろう。新しい本が入った時は、自分に順番が回ってくるのが待ち遠しかったのを憶えている。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にルシアンさんが現れました。
■ルシアン > 子供たちの賑やかな声を聴いていたのは、少女だけでは無くて。
手に大きな紙袋を抱え、市街地から街の外れへとのんびりした足取りで歩いてくる青年が一人。
買い物の帰りなのだろう。通りがかった広場から聞こえてきた、賑やかで元気な声に引き寄せられたのかもしれない。
「ふふ…どこでも子供ってのは元気だね。 …っと」
何やらじじくさい言葉を吐き、ふと自分はまだそんな年でもないと思い返し。
ふむ、と少し考えるよう肩をすくめる。そのはずみ。
ころりと転げたのは、紙袋の中のリンゴが一つ。そのままころころと転がって…。
「……あ」
転がった先は公園のベンチ。誰かが腰かける其処へ、軽くぶつかって止まってしまう。
「…あー…すまない。それ、拾ってもらえないだろうか?」
申し訳なさそうに声を投げかけつつ、其方へと速足で近寄っていく。
■ミンティ > 小さなおやつを鳥と分けあうように食べ終えて、手についたパン粉を包み紙の上に落とす。包み紙も几帳面に畳んでいく。
残り少ない飲み物に口をつけていると、どこからかボールのように転がってきたりんごが足に当たった。きょとんとしてから拾い上げ、畳んだ包み紙で拭きながら周囲を見回す。そんなに遠くから転がってくるはずもないから、落とし主がいるはずだと探していると、すぐに声がかかった。
「あ。…はい。どうぞ……」
こちらに早足で近づく男性の姿を見つけて腰を上げた。
きれいに拭いたりんごを手渡そうとしたけど、両手が塞がっているのを見て、どうしようと首をかしげた。袋の中に入れていいかと尋ねるように、ちらりと相手の顔をうかがう。
■ルシアン > 「すまない。ああ、そのままここに入れてくれれば」
少女の近くまで来れば、目配せする様子を察して頷き、軽く身をかがめて袋の口に少女が座ったまま届くように。
ぺこんと一つお辞儀の礼をして、顔を上げるとその少女を改めて見る。
…ん?と、僅かに思案気な顔となり。
「あれ…君、は。……どこかで…?」
軽く首を傾げる。
―――この地の孤児院に世話になっている身。その関係の店や、あるいは別の院にも少し関わりがある。
そんな所ですれ違ったか、あるいは少女が任されている店の客になったことがあるか。
何処かしら、見覚えがあるような気がして。勿論、少女の方がどうかは分からないけれど。
■ミンティ > こくんと頷く。自分より背の高い男性が抱える荷物に手を伸ばすだけでは足りなくて、軽く背伸びをした。また転がってしまわないように、りんごを乗せる位置を慎重に確かめて、無事に返し終えて一歩ひく。
そのまま一礼してベンチに戻ろうとしたけど、なにかに気づいたような男性の様子に、またきょとんとした顔。
「えっと…お会い…しましたか?
お店のお客様でしたら……たぶん、忘れないと思うのですが」
こちらを知っている様子の相手をじっと見つめてしまう。
今もそうだけど、昔の方が積極的に人に寄っていかなかったから、顔をあわせていたら多分その時くらいだろうと思う。
孤児院にいたころは隅でじっとしていた方だから、彼の方でも見覚えがなんとなくなのは仕方ないかもしれない。
「あの、いつごろか、憶えていますか?」
■ルシアン > 「お店……ああ、やっぱり。もしかして」
袋に林檎を入れてもらいつつ、少女の言葉をもう一度反芻して。
確かにこの少女の店に行ったことがあった。だけど、それはお客でという訳では無くて。
客であれば忘れない、という少女にも納得がいく。のんびりした笑顔を浮かべてみて。
「冬の終わりころ、かな?君の古物店にお邪魔したことがあるんだ。
でも僕がお客になったわけじゃ無くて…10歳くらいの子が数人で、ね。
社会見学の一環みたいな感じで、孤児院から出た人のお仕事を見に行くって奴。覚えてないかな?」
要は引率の先生である。そして少女の事も、孤児院のネットワークで知った事。
子供数人がお小遣いを持って、お店に押しかけたような記憶くらいは残っているかもしれない。
■ミンティ > 本当に初対面でないなら思い出せないのは失礼にあたる。今まで出会った人の顔を一人ずつ思い浮かべている間に、むむと眉の間を狭くしていた。
先に答えを出してもらえなかったから頭が少し痛くなっていたかもしれない。笑顔とともに確認されて、あっと小さく声をこぼした。
「はい、……おぼえています。お店を任されて、少ししたころ…でした。
すみません。まだ…あまり慣れていないころ、だったので」
仕事に慣れきらないうちに小さな子どもたちに振り回されて、めまいがしそうな忙しさだったのを憶えている。
もちろん引率していた男性とも話をしたはずだけど、社会見学が終わるころにはへとへとになってしまって記憶があやふやだった。
すぐに思い出せなかったのを詫びるために、頭を深く下げる。
「ごぶさた…しています。
あの時は…もうちょっと上手に、見学させてあげられたらよかったのですが」