2017/05/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にレタチテさんが現れました。
■レタチテ > かの国は乱れていると誰かが言った。
他国や魔族との戦乱に明け暮れ、国内は専横な王侯貴族が蔓延っていると。
それは結構な事だと誰かが言った。
ならば傭兵や用心棒のクチに困らず稼ぎ時ではないかと。
マグメール王国に向かう船の中で意気軒昂に語っていた屈強な男達は、さて望みの仕事にありつけたのだろうか──
「……うむ、まあ私が気にしても仕方の無い事だが。」
それでも名も知らぬ彼らの事を気にしてしまうのは、偏に掲示された無数の依頼の内容が内容だからである。
やれ犬の散歩だの、赤子の子守だの、妖しげな薬の治験だの、猫の捜索だの、パン屋の店員だのetcetc……。
尤も掲示されたものは未だ請け負う者が居ないからこそ掲示されているのであって、私の思考は杞憂な可能性も高い。
朝早く……昼前等に訪れれば期待するような仕事もあるやもしれなかった。
「やはり朝に来るのが一番か……流石に子守や薬の実験台は御免被りたいものだし。」
夕暮れ時のギルド内は明るい内に比べ人数はまばらで、その大半も仕事を片付けて来た冒険者達だ。
嘆息混じりに何気なくと一瞥をくれると、首尾の良かったもの、悪かったもの、悲喜交々の有様が見て取れた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にシラトリさんが現れました。
■シラトリ > 頼みごとをするときに、ふらりとギルドにやってくるメイド。
白い髪を揺らして水色の瞳を物憂げに。すらりとしたその女は明らかに依頼をする側。
彼女の依頼は多種多様。
変わった主人に仕えているからか、様々な依頼を持ち込むわけで。
随分とここに出入りすることも増えた。
「………お嬢さん、依頼をお探しかしら。」
だから、依頼が終わった人間か、探しに来た人間かは、すぐにわかる。
目ざとく女性を見つければ、背後から肩をつん、と突いて微笑みかけて。
「丁度依頼を出しに来たところだから、2つほど、如何?」
微笑みながらウィンク一つ。
■レタチテ > 「……とは言え、努あのようにはならぬようにせねばな。」
"あのように"とは首尾の良く無かった者の事だ。
何を請け負ったのかは知れない事だが、大怪我をしている者もあり、泣き腫らした顔の者もあり
リスクを考えれば王都内で完結する簡便な依頼もまた悪くない──と、思ってしまう。
旅から旅への渡り鳥の癖に安定志向かと、人が聞けば笑うやもしれなかったが、
渡り鳥とて虫ではないのだから好んで火に入る訳でも無いのだ。
「さて、そうなると……無難な所は犬の散歩か猫の捜索か。流石に私に売り子は……ん?」
視線を掲示板に戻そうとした所で肩をつつかれ振り向いて、柔和な笑顔に目を瞬く。
とは言え例え相手が屈強な大男であったり、穏やかな老人であっても目を瞬かせたに違いは無いのだが。
「お嬢さん……と呼ばれる程では無いが依頼は探している。しかし何故私に直接?
正規の依頼ならば受付に話を通せば済む話だし、私の名はまだ売れてはいないと思うのだが。」
高名な冒険者、凄腕の冒険者。彼、彼女に任せれば問題無い。
そういった名声の無い新参者からすれば当然だろう。
いくら仕事が欲しいとは言え即座に甘い顔等出来る訳も無く、私は訝しげに彼女を視た。
……とりあえず悪人には見えない、と思った。
■シラトリ > 「あら、……受付に話を通すと、人によっては「抜かれる」のです。
ですから、直接の話だとお互いにメリットがあるだけのこと。
それに、可愛らしいお嬢さんでしたから?」
なんてウィンク一つ。
冗談のような言い方をしながら、冗談とは口にせずに掌を上に向けて。
「とはいえ、こんな場所でそんな露骨な話も無粋です。
ぜひ私に手を引かせて頂けませんか?
二人きりで依頼の話ができる場所へ、ご案内致しますわ?」
なんて、優雅な礼。
■レタチテ > 何処からが冗談で何処までが冗談なのか、或いは全て本気なのかは杳として知れないのだが
少なくとも中抜き問題については納得する部分もある。何しろこの国は乱れている。
冒険者ギルドだけが清廉潔白である──と思う方がどうかしている。
「……一理あるが……にしてもお嬢さんは止めて頂きたい。いや男性扱いも困るのだが、
どうにも言われ慣れない呼称は背が痒くなっていかん。なので名前で呼んで頂きたい。」
名はレタチテと云う。そう名乗った所で掌を差し向けられて調子が狂う。
暢気で鷹揚な人柄なのだろうかと首を傾げかかって露骨に過ぎると思い直して。
でも手を取らないのは、少し気恥ずかしさもあってのこと。私はお嬢さんではない、大人なのだから。
「話が出来る場所……まあこの刻限なら何処の酒場も開いていよう。任せるゆえ参ろうか。」
咳払いを数度して声色を下げ、毅然とした態度を取ろう。頼り無さげに視られて得する事もないのだから。
■シラトリ > 「そうなのです? では、レタチテ様。
この場所のすぐそばで構いません。
何故なら、私の話を聞いてその依頼は難しいとなったならば、またここに戻って来なければいけませんわ?
レタチテ様のお時間をそのような形でいただくわけにも。」
手を取らないのなら、少し残念そうにするりと手を下ろし、では隣の酒場にでも、と誘いましょう。
ゆるりとギルドから出れば、振り向きながら微笑み。
「私、メイドのシラトリと申します。
今更口にすると怪しいどころではありませんが、怪しいものではありませんわ?」
なんて、するりと酒場に入れば、小さな角のテーブルに手をついて。
「何か、お飲みになります?」
■レタチテ > 「……ほ?」
ギルドの直ぐ傍の酒場へ入り際、雪のように白い従者の名前を聞いてつい、声が出た。
彼女の名前と容貌が一致しないと云うか、名前の系統に馴染みがあったからと云うか。
本名なのだろうか?と入口でぼんやりと思考を抱えていると後ろから邪魔だと言われてしまった。
一先ずは席に着こう。
「あー……えーと、丁寧な対応痛み入る。シラトリ殿を怪しいとは思わぬよ。飲み物は……」
彼方此方に乱雑に記されたメニューの数々はどれも手頃な値段と言え、
立地もあってか店内の喧騒の大本は首尾よく依頼を片付ける事の出来た冒険者達だ。
大声で歌うものあり、冒険譚のように成果を誇るものあり、はたまた追い出されない程度に言い争いをしているものもあり、
酷く煩いが、それだけに私達の話を聴く者もまたいない……と思われた。
「とりあえず酒は止しておこう。水で良い、何か食べるものは……」
給仕の男性を呼び止めながら店内を見回す、流石に私の好物は見当たらず諦めることとし、
私の注文を聞いた給仕は次にシラトリ殿へと顔を向ける、其方の注文は?と
■シラトリ > 「偽名ですわ。
己を捨てて主人のためだけに働くという意志の表れ……。
ということに致しましょうか。」
座った直後に、相手の視線に口で答える。
よくあることのようだ、自然と口が回るらしく。
「私は白ワインを。いつものあるでしょう。」
注文を聞かれれば、男性にウィンク一つ。
さあ、行きなさい、とばかりに手を揺らして追い払えば、向かい側に座っている相手を眺め。
「……依頼は単純ですわ。うちの主人はとても変わり者。
経験のないものや、他の方が違和感を覚えるようなものをを食べることを好まれるのです。
故に、あまり人が食べぬような動物などを狩ってきて頂く。
ないしは、この国の料理ではない料理を作って頂く。 そんなところでしょうか。」
■レタチテ > 「そのように言われるとまるで名うての暗殺者か何かのように聴こえる。
名前の響きからすればニンジャと言った所か……いや、白鳥には不釣合いか。」
慣れていると思しき言葉に態度、給仕をあしらう所作を視ていると目と目が遭って、
ついと逸らして与太が口から零れ出る。
「それで依頼は……おや、それはそれは。獣狩りなら御安心めされよ。
先日も珍しい猪を仕留めてみせた所だ。……しかし野趣こそ溢れても
シラトリ殿の口振りでは生半の獣では満足して頂けそうもないな……。」
閑話休題。ことが依頼に及べば視線は戻して話を聴いて、そして眉根を寄せて思案の図。
珍奇を求める食通なれば相手はおのずと魔物か怪異の類。相手にとって不足無く、臆する事も無いが
それらが食えるかどうかとなれば話は別だ。食あたりで済めばまだ良い方だろう。
「……ふむ、料理か。それでも良ければ此方は助かる。材料が手に入るかは別問題だが……おはぎ等は如何かな?」
故に別条件の提示は正直な所ありがたく、自然と表情も綻ぼうと言うもので、ついついと己の好物を提示したりもするのだ。
作れば多少は自分の分も用意できるだろうとか、そんな思惑も多分にあるがそれはそれ、
シラトリ殿がノって来るなら必要な材料であるとか、どういった料理であるとか熱の入った説明をしてごらんいれよう。
■シラトリ > 「だったらよかったのですが。私はあいにく純粋なメイドでして。」
微笑む。シラトリの意味が分かる人間にも、特に苦は無い。
見た目が白いからこういう時には都合がいい。 口元の笑みを穏やかな微笑に。
「………そうですわね、ですから時々、これだけは食べるのはお止め下さい、と普通の物を差し出すのです。
するとなぜか食べたがる。
これで数か月は誤魔化せるのですが………。」
ふう、とため息を一つつきながら首を横に振る。どうやら満足させられていないらしい。
「おはぎ、ですか。
侍女の服でもはぎ取って食らうという意味でしょうか。
まあそれでもよいですが。 どのようなものです?」
質問をして、熱の入った解説を聞くだろう、ふむふむ。
■レタチテ > 嘆息を落とす所作の一つを見ても主の対応に苦慮するシラトリ殿の姿がありありと浮かぶ。
彼女の主は中々愉快な御仁だと勝手に思って苦笑を浮かべてしまうのだが、それは御勘弁願おう。
程なくして給仕の男性が水と葡萄酒を持ってきてくれた事もあり、水に流したい所だ。
「……って違う!何故その様な破廉恥な振る舞いをせねばならぬ。
いや意味合い的には別の意味で食っているのだが……ではなく。」
危うく流した水が逆流しかかってむせた。
あっさりと許諾された気もするが一先ずとして、今はおはぎの作り方を語るとしよう。
「……以上が作り方だな。ちなみに名称は季節によって変わりもするそうだが、
生憎と他の名は知らぬ。此の地で材料が揃うかも判らぬゆえ、用意が叶わないようであれば
野獣狩りに精を出すとしよう。其の場合は食べた事のある獣の一覧などあれば助かる。」
■シラトリ > 「………」
慌てて言い募る相手を見やりながら、首をちょこん、とかしげる。
はれんちってなんです? って顔で見つめながら、内心肩を揺らす。
「意味合い的に合っているならばいいではありませんか。
ともかく、おおよそ作り方を理解致しました。
材料はさほど特別でもありませんから、準備はほどなくできるでしょう。
ただ、腐っても落ちぶれても我儘放題聞かん坊でも、貴族の端くれ。
流石に監視ではありませんが、作るところは見させていただきますし。
一応、そうですね。
一日メイドをしていただくような形でお願いできれば?
物珍しい物を食べるためだけに人を雇う、といった退廃的な行動に満足を覚えられる方なのです。」
如何です? とワインを口にしながら見つめて、微笑み。
どことなくねっとりとした視線、ふるまい、所作、空気。
■レタチテ > 「…………。」
餅米や小豆は異国の物だ。
それらを事もなげに特別では無いと言ってのける辺りに食事事情が窺える。
これは気合を入れて作らねば、ヘタを打てば屋敷から帰れなくなる自体もありえそうだなと俯瞰した思考を一つ。
「いや監視は当然のことだろう。私が実はシラトリ殿の主と敵対している者の間者である──
と言った可能性もあるゆえ。用心は努忘れてはならん。……疑われる側が言うのも妙な話だが。」
とは言え普通に作れば問題も無い事で、其の上で問題があるとすれば、その実おはぎを作った経験が余り無い事くらいだ。
……若干やらかした気がしなくもないが、笑って誤魔化そう。
その笑みも直ぐに止まる事になるが。
「……え"、メイドとはあれだろう。従者の事だろう。つまりシラトリ殿の事で……」
そういう服を着なければならぬのか?と表情が固まる。それくらいの知識はあるし、
そういった服が己に似合わないだろう事も判る。問いが多分、無駄な事も。
「……ま、まあまあそれらは追々として、今のが一つ目の依頼ならば二つ目は何だろうか?
屋敷の警護だろうか?それともお抱えの商隊の護衛だろうか?」
何処か熱のある眼差しに内心首を傾げつつも次の話を促そう。
■シラトリ > 「そうですわね、いえいえ、主人の前に出ろとは申しませんわ。
作って頂くまでがお仕事。つまりは、そういう格好であっても見るのは私だけ。」
ですから、大丈夫ですわ? なんて笑いながら、二つ目を問われれば苦笑を浮かべ。
「そうですわね、……屋敷の警護と言えば警護になるでしょうか。
私の個人的な警護ですわ?
ですから、メイドになって頂ければ近くに居ても不審ではありませんし、
良いと思ったのですけれど。」
どうでしょう? なんて、そっと手の甲に掌を重ねていこう。
■レタチテ > 「いや大丈夫ではないと思うのだが……まあ仕事なら是非も無し。
其方については誠心誠意務めさせて頂く。面倒な体型でも無い故、寸法の心配もないと思う。」
人生諦めが肝心と言う奴で、それならそれでと二つ目の話や報酬の話へと流れたい所で、
何やら奇妙な流れになっている事に目を瞬く。手を握られたら尚更で、きっと頓狂な声も出たやもしれぬ。
「……へ?警護は警護でもシラトリ殿の?いや勿論不服と言う訳では無いぞ。街中では得意の弓の出番は無いが、
このレタチテの投擲術は生半に遅れを取る事も無い。其方も恙無く務めさせて頂くが──……」
所々奇妙な声色になりつつも快諾し、一先ず請け負った所で私の目線がシラトリ殿の顔と手を交互に見遣る。
言外にこの手は一体?と説いたげであり、目聡く我々を視止めた酔漢が喧しく口笛を吹いて囃し立てもした。
■シラトリ > 「ああ、ありがとうございます。
不安なのです、最近夜も眠れず。
レタチテ様が朝昼晩、夜明けまで共にいて頂けるのなら、これほど心強いこともありません。」
………口笛にはふふふ、と微笑みながら、その手の甲にキスを落として。
「………当然、単なる上司と部下ではそうはならないので。
まあ、特別な関係であるということにしておきましょう。
……共に屋敷に向かいましょう、レタチテ様。」
ふ、っと手の甲に吐息をかけながら、その手を離してはくれそうにない。
白い邪悪が手をぎゅっと握りしめて、行きましょう? と誘ってくる。
■レタチテ > 「不眠症なのか……?いやその割には身の危険があるかのような物言いだが……
……いやいやいやちょっとまて。何か双方に行き違いがある気がしてきたぞ……!?」
昼夜を問わず護衛をするのは用心棒を生業としていたのだから解る。
だがシラトリ殿の言葉と態度が妙に一致しない事が判らず、さりとて手を振り払う程の悪辣な物は感じない。
当惑気味に手の甲にされる口付けを眺めるしかないのだが、流石に口にされたら理解もしよう。
私とて木の股より生まれた訳ではないのだから。
「いやっあの、シラトリ殿?特別な関係と言われても私も其方も女……あ、もしや実は殿方だとか?
いやいや、そうだとしてもそうではないとしても出会ったばかりでその様な──」
外聞が悪かろうと説得を試みた所で手を握り締められて誘われて、さてどうしたものかと思案をし、
そこで漸く"特別な関係"が何も閨を共にするような物だけではない事に気付いて言葉を失い赤面す。
いや、まったく私とした事が早とちりをした。そう乾いた笑いが店内の喧騒に混ざる。
「屋敷に向うのは吝かではないぞ。台所の様子もみたいしな。してシラトリ殿の警護は今晩からと言うことで……?」
笑いの後は、多分きっと店を出て、道すがらに報酬の話であるとか、期間であるとかを話す事にもなるのだろう。
私の拵えたおはぎの出来にシラトリ殿の主が納得したかしないかはまた別の話、なのであった。
■シラトリ > 「何も何も、行き違いなんてありはしませんわ。
………まあ、レタチテ様。可愛らしいお顔。」
くすくすと赤面をする相手を眺めて、首を傾げる。
お堅いお方、なんて舌を僅かに覗かせて唇を舐めるのだけれど。
「………では、参りましょうか。
ええ、ぜひに今宵から。 ひと時も離れずにいてくださいね?」
微笑みながら、夜には同じ部屋の同じベッドを見せつけて、きっと彼女の思考回路をもっとぶっ壊しにいくのだろう。
真っ白なメイドは純粋無垢っぽく微笑みながら、屋敷へと誘う。
……おはぎ? それはもう、私も話を聞いて習得しました故。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からレタチテさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からシラトリさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 路地裏」にクロエさんが現れました。
■クロエ > 夜の帳が下りた王都は表通りこそ明るいが、一本路地を入ってしまえば薄暗さに満ちている。
今日も又、サボり癖のある騎士のフォローで、残業の見回りを押し付けられた次第。
直属の上司たる禿頭の丸っこい髭男爵は、仕事を放り投げると早々に富裕地区のクラブに消えていった。
その隙に見回りなどする気のない騎士達は三々五々帰路につき、残ったのはやる気のある数人だったのがついさっき。
「――まぁ、仕事はたんまりだけど、嫌じゃないからね」
元々ワーカホリック気味な少女は、いつも通りに路地を抜ける。
怪しげな存在や迷い人、あるいは揉め事などがないかと目を光らせながら、軽やかな軍靴の音が響いた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 路地裏」にマクシミリアンさんが現れました。
■マクシミリアン > 平民地区の路地裏の人目につきにくい一角。
そこに数人の人影があり、その組み合わせは騎士が数人とフードマントで姿をほぼ隠した人物との組み合わせという奇怪なもので。
「今はそれで十分だ。またよろしく頼むぜ兄弟」
マント姿の男は軽い声で騎士に声を掛けそれなりな大きさの袋を手渡し、丸められた数枚の羊皮紙を受け取る。
お互いがそれを確認すれば同じ道ではなく分かれてその場を去る様に足を向け。
その様子はどう見ても真っ当な付き合いに見えるものではなく。
それは幸か不幸か少女の進む先で偶然に行われる出来事で。
■クロエ > 月明りと幾つかの篝火を頼りに進んだ先、十字路の路地を曲がろうとした時の事。
右方の路地の向こう、一本先の十字路に、いくつかの影が見える。
騎士が数人と怪しげな人物が一人。何やら取引をしている様子だ。
よくよく見れば、騎士の内の一人は件のさぼり癖のある騎士だ。
逃げるようにして早々に帰ったはずだが、このような場所に何の用があるのだろうか。
「……きな臭いなぁ、全く――応援、は望める訳がないよねぇ」
極限まで声を潜め、考えと状況を纏める為に呟く。
やがて、取引を終えた様子の集団は、それぞれが不自然でない程度に、別れて立ち去る。
幸運にもこちらに来る者はいない。向こうの十字路を三方に分かれたのだろう。
ならば、と少女は気配を、足音を殺し、怪しげな人影を尾行し始める。
体術を心得た少女の動きに無駄はなく、物陰を伝う動きは素早い。
それこそ不意打ちか罠でもなければ、少女は少しの後に追いついて、問いを投げることになるだろう。
■マクシミリアン > 騎士たちと別れてそれぞれ違う道へと入り込み。
別の意味で知り尽くした路地を歩き貧民地区へ抜け、その後王都を抜けようとする。
今渡された巡回ルートや王都から出る貴族の荷などの情報があればまだまだ奪えるとフードの奥で笑みを深くして。
尾行を注意して途中何度か振り返り、ルートを変えるなどして歩き、ある一角を曲がるときに捨てられたごみに混ぜた鏡に尾行者の影を見つける。
「面倒そうなのが来たな」
このまま巻いてもいいが次に網を張られても面倒と考え、罠を仕掛けた一角にワザと誘い込むように道を変え、見た目には袋小路の路地に入り込み足を止める。
■クロエ > 人影の足取りに迷いはなく、この路地裏を知り尽くしている事が窺える。
何より先ほど渡していた数枚の羊皮紙は、時折騎士団の詰め所から紛失している書類の類ではないだろうか。
騎士の巡回ルートや、騎士が護衛に赴く為の荷物の搬出入――それらが漏れているとなると、面倒なことこの上ない。
ならば、と追い続けるが、人影は少女を撒く為か、何度も道を曲がり、時には路地に曲がるふりをして戻る。
手慣れた様子に舌を巻きながら追い続け、ようやく辿り着くのは袋小路だ。
ここで声をかけるような真似はしない。音の魔術も存在すると、最近勉強したからだ。
追い詰めた、と思う反面、これほど慣れた者が自分から袋小路に入るか、という疑問もある。
さて、どうしたものか――と思考を巡らせた一瞬、それが少女の隙となる。
■マクシミリアン > 袋小路にまでたどり着けばこの辺りには何のわなを仕掛けていたのかと一瞬だけ思考を巡らせ。
尾行者も後ろについてきていると気配や僅かな音に確認して笑みを深め。
少女の一瞬の隙を付きいきなりに傍にあった廃材の様なゴミを蹴り倒す。
それと同時に仕掛けていた罠、袋小路一杯に黄色い粉、痺れ薬が広がり視界を埋め尽くす。
扱いなれた薬に抵抗のある自分はともかく尾行者には聞くだろうと口元だけを押さえて振り返り、この罠が聞いていなければ次の罠というつもりで確認をする。
■クロエ > 思案の隙を突いた人影は、勢い良く廃材を蹴り倒した。
同時に頭上から降り落ちてくるのは、黄色い粉末――月明かりに煌くそれは、しかし少女にとっては害悪だ。
本来ならば口元を抑えて吸わないようにするのだろうが、崩れてきた廃材を避けるべく急に体を動かしたからか。
体が本能として酸素を求めて、そして――。
「か、ふっ……げほっ、えふっ……な、なに、こ……れ――?」
一度二度、勢いよく吸ってしまうと、それだけで痺れの毒が体を巡る。
魔法や毒には耐性があるものの、痺れ薬への対策はない。
少しの後に少女は膝から崩れ落ち、麻痺の余波で震えながら倒れこむ。
同時に、少女の魔剣は紛失を避ける為に、空間に解けるようにして消えていく。
黄色い靄が吹き散らされた後、そこに残るのは指一本動かせない程に麻痺毒を取り込んだ、白銀の服をまとった少女だった。
■マクシミリアン > 「さて、度胸のある馬鹿の面でも拝むとするか」
廃材の倒れる音や舞ういかにも怪しい色の粉。
普通ならばこの辺りに住む者や巡回の騎士が飛んでくるほどのもの。
しかし買収し、仲間に引き入れたものが多い地区に誘い込んだだけに誰も出てくるはずもなく。
僅かに崩れた廃材の中に聞こえた声に女だという事だけは判り。
どうしてやるかと考え痺れ薬の靄が散ればそこに倒れる人影にと近づいていく。
「こいつは中々の上玉だな。嬢ちゃん、こんな時間に路地裏を歩いてると危ないぜ?」
動けないほどに痺れ薬を吸い込んだ白銀の服を纏う少女の傍らに立てばあざ笑うようにして見下ろし。
見た目が悪ければ捨てていくかと考えたがこれだけの上玉なら楽しむのも悪くはないと考えて。
■クロエ > 「 」
声を出そうとするが、痺れ薬に塗れた声帯は直ぐに治りそうにはない。
呼吸に混ざって咳き込むたびに、呼吸器の奥に大量に入り込んだ黄色が吐き出される。
崩落の大音量には、しかし何物も駆けつけてくる気配はない。
そもそも、見張りの騎士は自分なのだから、無理もない話である。
「――――げほ、ぇ、げふっ……それが、仕事、だもの」
大きく咳き込んだからか、かすれた弱々しい声が漏れる。
しかし体は当分動きそうになく、男に見下ろされても顔を逸らす事すらできない。
やがて目が合えば、強い意志の宿った眼差しが、男を刺すように向けられる。
もし仮に、男が騎士達の愚痴に付き合っていたならば、聞いたことがあるかもしれない。
真面目で実直な年若い女騎士が居るという話と――お陰で最近は心証が悪いという文句とを。
■マクシミリアン > 「よく効いてるみたいだな。嬢ちゃん、油断大敵だったな」
何かを言おうとしているのか声も出ない様子にしばらくは大丈夫そうだと見て取り。
せき込むたびに黄色い粉が宙を舞い溶け消えて。
ここには自分とこの少女しかいなく、他からは誰も来る事が無いと高をくくり余裕を見せて。
「真面目なのは良い事だな。けどな、そのせいでこれから大変な目に合うんだぜ」
弱弱しい声にあざ笑うように見くだ多様に告げては見下ろし。
視線が合えばこんな状況であっても強い意志を失わない眼差しに覚えを見せる所か口笛を吹く。
その姿や気丈さにふと買収した騎士たちに愚痴交じりに聞いた真面目な年若い騎士の事を思い出すし、こいつがそうなのかと。
「お前の事は色々聞いてるぜ。随分と煙たがられてるみたいだな。
ちょいとばかし出る杭は打っとくとするか」
身を屈めて直ぐ近くで見下ろせば告げ、伸ばした手は胸当てへ手を伸ばし、身に纏う衣服を引き剥がそうとかかる。
■クロエ > 「……油断しなくても、変わらなかったろうけどね」
少女が男を追うと決めたその瞬間に、こうなる事は決まっていたのだ。
そもそも騎士がさぼっていて役に立たない。男は地の利があって手慣れている。
そうなれば、応援が見込めない上で、男は好き勝手に罠を張れるのだ。逃げ場などない。
しかし、だからと言って見逃すのは、騎士の矜持と将来の真面目さが許さなかった。
結果として酷い目にあうことは理解できているものの、自身の信念を曲げるよりは辛くないのだ。
男の口ぶりだと、自身の存在はなぜか知れ渡っているらしい。
大方、サボりの騎士が吹聴しているのだろうと予想はつくが。
「……そう。ボクも随分、有名になったみたいだね。
っ……ボクを犯そうって魂胆?随分と在り来たりだよね」
軽蔑するよ、と掠れた声で睨みながら、されるがままに服を剥ぎ取られる。
銀の衣装の下には、淡い色の可愛らしい下着の上下。膨らみかけの胸元に華奢な肢体が露わになる。
傷一つない肌は滑々としており、少女の育ちと血筋の良さが窺えるものだった。