2016/12/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > 王都の平民地区の一角。いつの間にか地歩を固めて出店した異国由来の商館があった。表通りの片隅にひっそりと、この館に作り変えられる前、その場に何が建っていたかを思い出すのに難儀しそうな、注目の的からは縁遠い立地。波風を立てぬよう、近隣の有力者やら組合やらには黄金でできた鼻薬を嗅がせ、波風を立てぬまま居座り始めたらしい。顧客は専ら富裕層が多かったが、一般の平民から仕入れられる情報の価値も馬鹿にできぬからと、態々取引相手の大貴族から土地を提供するとの申し出を蹴ってまで、この位置に拘った。外装は並びの家屋と似たり寄ったりで、悪目立ちしない事を至上の目的としたが如く没個性的。広さは、宿屋付きの酒場と同程度で、ショールームが如き取り扱い品を直に見て回れる一階フロアと、個別の商談に応じる為の応接室が一階と二階に分かれて幾つか。その二階の一番奥の隅に、御曹司とは名ばかりの経営者たる妖仙の執務室が存在している。
「全く、嗚呼全く。少しばかり目を離すと是じゃ。如何な儲け話でも、輸送量には幾許かの余裕を持たせろと言うておるのに。」
日がとっぷり暮れた後も、この小さな影が商館に留まっているのは珍しい。体のサイズに不釣合いな王国風の執務机に向かい、奉公人が取り纏めた発注書と、商品の輸送計画に目を通す。羽根ペンは使い慣れていない様子で、訂正なりメモ書きは全て小筆を走らせ、目に留まった点に一つ一つ手を加える。この手の仕事なら日が昇ってからでも差し支えないだろうに、態々実質的な決裁者が残っている理由は一つ。素性は明かせぬが、取り急ぎ且つ内密に商談の機会を持ちたいという不躾な連絡が耳に届いたから。怪訝に思いつつも興味を惹かれ、こうして執務室に居座っている。もし、その客人が現れたのなら、階下に控えた使用人が案内する手筈だが、内密を求める余り、別の方法で現れるやもしれぬ。
■ホウセン > 魔法仕掛けの照明を手に入れるのも難しい相談ではないが、己一人で時間を潰す間ぐらいは気侭にさせよと、王国風の家財道具には馴染み難い行灯が主たる光源。薄い和紙を通して、ゆらゆらと踊る蝋燭の光は柔らかく、一方で暗さを払拭するだけの力はない。一般用商談スペースの四倍、およそ三十二畳程の広さの室内には、件の執務机と書類棚、本棚、金庫と商家らしい家財道具があり、入り口と執務机の中間地点に革張りのソファと脚の短い机が応接セットとして据え付けられている。己の城ではあるが、宿泊用のスペースを確保していないのは、床面積との折り合いが付かなかったのもあるが、仕事場と寝食をする場所が同一であるという事を、この妖仙が殊更嫌がったという事情もある。
「く…あぁ。いかんな、聊か気が乱れておる。」
造形の良さのみを追い求めた人形のように整った目元。しかめっ面で書類と睨めっこをして疲れが出たのだろう。微かな衣擦れの音と共に左手を眉間に添えてムニムニと。筆を置くと、傍らの湯飲みに右手を伸ばす。そろそろ温かさの欠片さえも感じられるか怪しい緑茶を含み、コクリと喉仏が目立たぬ喉を鳴らして嚥下。両腕を頭上に伸ばし、先ずは左手で右手首を掴み、体幹を左側にぐいっと傾けて暫し固定。同じ動作を三度繰り返した後に、右手で左手首を掴み、今度は右側へ体を傾がせる。背筋の強張りを解し終え、背凭れに体を預け、両腕は肘掛に。椅子に座るというより、椅子に抱えられているかの如き不釣合い具合。
■ホウセン > ――果たして、その夜。妖仙に取引を持ちかけた相手が姿を見せたかは、今は未だ分からず。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からホウセンさんが去りました。