2016/08/02 のログ
ご案内:「王都平民地区 酒場」にセリオンさんが現れました。
■セリオン > 酒場、ラッククラック。
娼婦やら、娼婦紛いの踊り子やらを目当てに、金の無い男が集まる安酒場兼売春宿。
そのカウンターで女が、酒を片手に唸っていた。
基本的に悩みの無い生き方をしている女である。
日々の糧は他者から奪い、欲は他者を利用して満たす、身勝手な生物である。
が、今日ばかりは細めた目の上で、眉がへの字を描いていた。
「うーん……どれがどれでしたっけ」
女の目の前には、ずらりと並べられた小瓶が数種類。
元々これらには、ラベルが貼ってあった。
ところが、今日の昼、酷い雨が降った。それで気付いたら、ラベルのインクがすっかり滲んで読めなくなっていたのである。
「……こっちのピンク色のはたぶん媚薬で合ってると思うんですけどねぇ」
小瓶の中身は悉く、ろくでもない液体であるが。
ろくでもなさにも種類がある訳で、さて、どれが何やら。
■セリオン > 「……良し」
暫しの逡巡の後、女は音も無く立ち上がると、酒に酔う男の背後に忍び寄る。
その静けさたるや暗殺者もかくや。
男が壁際の娼婦に気を取られた瞬間、その手に持つグラスに――
それからまた暫しのこと。
独りの男が、壁際に転がされていた。
なんでも手足が急に、ぴんと伸びたまま動かなくなってしまったらしい。
意識は有る、舌は動くのだが、手足が動かぬ為に歩くこともできない。
が、周囲は酒のせいだろうと甘く見て、そこへ転がしておいたと、そういうことである。
「えーと、緑色の小瓶、痺れ薬、と……」
女は新しいラベルに、そう記入して、緑色の小瓶に貼り付けた。
ご案内:「王都平民地区 酒場」にアリュースさんが現れました。
■セリオン > 「次はこっちですかね……えーと、黄色、黄色」
さて、次の小瓶。酒場のことゆえ、酒は幾らでもある、混ぜるのも容易い。
何気なく歩いているように見せて、そっとテーブルに寄り、素早く混入させる0
今回のターゲットは、踊り子の、集団から離れた一人。
踊り、一休みと飲み物を取りに来る、その機を狙ったわけである。
それからまた暫しのこと。
踊り子が一人、衣服を全て脱ぎ捨てて踊っていた。
いや、もともと身を隠す部分の少ない衣服ではあるが、本当に一糸まとわぬ姿。
羞恥心を忘れたのかという姿だが、そうでもないのだろう。
踊り子の目は、明らかに異様な熱を帯びて、向けられる視線にぎらぎらと反応している。
「黄色の小瓶、羞恥行為への快楽を覚えるもの、と……」
女は新しいラベルに、そう記入して、黄色の小瓶に貼り付けた。
■アリュース > 「やれやれ… もう何件目か、わからなくなってきましたねえ」
連日人を探し続け、平民地区中を歩き続けたアリュース。
そろそろ地図もペケ印だらけになってきて、残る酒場ももう少なくなってきた。
貧民地区にはいきたくないなあ…と考えていながら、アリュースは歩を進める。
「…おや…」
次の酒場…地図に「ラッククラック」と書いてある店。
これまで行ったどの酒場よりも怪しいその場所から、異様な熱気が感じられる。
もしやと思いアリュースは戸を少しあけて、中の様子を確認する。
一糸纏わぬ踊り子が熱狂的に踊り狂っており、周りの男は視線をそちらに奪われている、異様な光景。
傍らにいるのは、やや癖のある金髪、修道服、そして斧とメイス…。
「あ、いた!」
アリュースは嬉々として、店に滑り込んでいく。
踊り子のおかげで、店主さえも来客には気づいていないようで。
「もし… ええと、セレーマ教の教祖様、ですよね?」
アリュースはやっと見つけた人物に声をかける…
■セリオン > 「次は……」
と、赤い液体の小瓶を手元に寄せた時、聞き慣れぬ形で、名を呼ばれた。
「………………」
誰とも知らぬ相手に呼ばれたその名は、決して間違いでは無い。
確かにこの女は、セレーマ教なる異端の、教祖を名乗る女ではある。
布教活動と称し、手に掛けた無垢な女の数も、数えることに飽きる程。
ではあるが、紛い無き狂人と言えど、気付いていることがある。
いわゆる世間一般に〝まとも〟とされる人間は、自分をただ修道女と呼ぶ、と。
「ええ、間違いありませんよ」
そう言って女は、来訪者へ向けて、眩しいばかりの笑顔を見せた。
然しその手は緑色の小瓶を引き寄せていた。
「何か、ご用件でも?」
カウンターに肘を着き、酔って動きが鈍っている風を装いながら。
また反対の手は、薬の小瓶の中から、特に毒々しい桃色の液体が入った一本を掴んでいた。
■アリュース > 「ああ、よかった ようやく会えました」
アリュースはセリオンの笑顔に負けないほどの笑顔を返して、
嬉しそうな声色で答える。
セリオンが薬瓶を引き寄せているのには、気づいていない。
アリュースはやや興奮した面持ちで、話を進める。
「あ、そうそう。ええと、まだ、名乗っていませんでしたね。私はアリュース・アルディネといいます にゅふふ。 お話があって、あなたを探していたんですよぉ~」
そういうとアリュースは、鞄から何枚かの書類を取り出す。
「失礼ですが、色々調べさせて頂きました。セレーマ教の事。
お弟子さんが嬉々として話して下さいましたよ。にゅふふ」
最も、口を割らせた事もいくつかあるようだが、ここは伏せておく。
「『快楽こそ真実、本能こそ正義』…でしたか。素敵な教義ですねぇ。私、共感してしまいました。 …もしよければ、貴方のお手伝いをさせて頂けないでしょうか?にゅふふ」
笑顔を崩さぬまま、アリュースは言った。
■セリオン > 「……店主。グラスを」
女――セリオンは、店主に、空のグラスを要求した。
そしてグラスを受け取ると、相手に見えるカウンターの上で、そのグラスに、黄色の小瓶の中身と、桃色の小瓶の中身を注ぐ。
意識を保たせつつ、手足を痺れさせる麻痺毒。
もう片方は、単純な、高純度の媚薬。
それを、さもカクテルか何か作っているかのように、分量を程良く注ぎ、グラスを傾けて混ぜ合わせた。
仕上げに、強めの葡萄酒を、これも店主に要求し、混ぜ合わせたものの上に一注ぎ。
痺れ媚毒の葡萄酒割、とでも言うべきカクテルが仕上がった。
「どうぞ」
それを、アリュースの手元へ、それ以上は何も言わずに差し出してから、
「……共感、ですか。失礼ながら、その教義のどういった所に、貴女は共感を見出したのです?
我が教え、天の教えは、理より快楽と共に身に刻む物。理で好み、近づく人というのは珍しいのですよ」
問いに問いを返すが、それが答えだった。
名は聞いたが、それでは不足。お前は何者なのだ、と問うている。
身勝手に生きるセリオンは敵も多い――御叮嚀に、自分から凌辱した相手に名乗る悪癖持ちでもあるし。
だからこそ、無条件に自分へ好意を寄せてくる存在が――疑わしいと、微笑みの裏で見積もっていた。
■アリュース > 「そうですねぇ……と、その前に…ノドが乾いて来た所なんですよ」
アリュースは何の疑いもない素振りで、手元に差し出された葡萄酒を手に取る。
笑顔を崩さぬまま、葡萄酒を眺めると…。
「どうも、いただきます」
セリオンに見えるように、一口飲んでみせる。
すっぱかったのか、少しだけ顔をしかめて。
「んんっ… ちょっと刺激的な味ですかね? にゅふふ」
手元にグラスを戻した。
「ええと…ああ、どこまで話ましたっけ?そうそう、教義についてでしたね。嘆かわしいことに、この世は憎しみに満ちてしまっています。この王都はまるでそのモデルケースのようなもので、貴族から貧民まで、皆例外なく、騙し、傷つけあっているのです。ですが…あなたの教義により快楽が広がることで、人々を侵す悪しき思考を溶かし、人々が本来持っていた慈悲の心を取り戻せるのです。それはとても素敵な事だと思いますよ… にゅふふふ」
心にもないことを笑顔を崩さす、身振り手振りを沿えて話していく。
その様子は、余計怪しく見えてしまうことだろうか。
「…おや… なんだか、手が痺れてましたね ふふふ…」
薬の効果が出てきたのか、痙攣を始める右手をセリオンに見せつけて。
その様子は、奇妙だがどこか嬉しげな様子だ。
■セリオン > 「ふむ……〝人々が本来持っていた慈悲の心〟と来ましたか」
相手がグラスに口を付けたこと、然し一口しか飲まずに居たこと。
それに加えて、薬の効力の低さ。
然し何より、セリオンの意を決めたのは、相手の口振りか、それとも気配か――
「協力を申し出る相手を、安く見積もるのはやめなさい」
狂人は、己の理を信じる。直感は、何にも勝る理である。
「人が慈悲を持って生まれたと信じるなら、幼子が虫を殺す理を何と説きますか。
人が悪心を持って生まれたと信じるなら、嬰児の哭声に胸を痛める理由を何と説きますか。
そも善も悪も、人が生まれ持つものを、社会の道理に合わせて切り分けた程度のもの。
悪に偏れば悪魔、善に偏れば天使。何れかに傾いても、人は異形と成り果てる。
故に、本能とは善悪双方を孕む正義。本能が追い求める快楽こそが、善悪双方が求める一つが、究極の真実。
天に選ばれた私に阿るとは、即ち真なる天への欺きも同じ。貴女はどうにも悪心に偏っているように感じるのですがね」
この狂人に関して言うならば、常識、道理を知らぬ訳では無い。
ただ、自分だけが全ての束縛から除外されると信じているのだ。
狂人の道理は、自らが絶対性を確約する、自らの為の論理。その息つく先は、保身であり、欲を満たすことである。
「つまり――何を企んでいるのか、と聞いているのですよ、私は」
手が、カウンター向こうに並ぶ酒瓶に伸びた。
特に度数の強い、透明の、味は良くないがとにかく焼ける程に強烈な酒の瓶だ。
その口の部分を、逆手に掴み、引き寄せていた。
■アリュース > 「にゅ…ふ、ふふふっふ…」
突然笑い出すアリュース。
その笑いに含まれている感情は、悦びだろうか。
「にゅふふふっ… なるほどなるほど やはり、貴方は『我々』が見込んだお人のようです ふふふ…」
アリュースから黒く、禍々しい魔力が立ち上り始める。
それは黒い霧となり酒場を覆っていき、狂った踊り子やそれに熱狂する男達、店主を包み込み…その意識を奪っていく。
どうやら気を失っているだけのようだ。
グラスの中に注がれた葡萄酒面した毒薬も、黒く変色したかと思うと、まるで何かに呑まれたかのように消失してしまう。
「ふふふ、それでは… 無駄なつつき合いはナシにして、本題に入りましょうか?」
闇に包まれたアリュースの姿が、変貌していく。扇情的なボンデージに身を包み、頭部からは禍々しい角、そして紋様の刻まれた翼。さらに豊満な臀部伸びる、先端がスペード状に尖った尾。
悪魔の正体を現したアリュースは、改めてセリオンに言う。
「ふふ、単刀直入に言いましょう。私たちは、この世界を堕落させたいのです。そのために、貴方に我が主の力を授けたいのですよ にゅふふ…」