2016/01/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/裏通り」にヴァイルさんが現れました。
ヴァイル > 腐敗せし王都マグメール。その夕暮れの平民地区。
治安が良いというのはあくまで貧民地区に比べての話。
表通りから少し外れて裏通りに行けば、そこには背徳が広がっている。
表通りでさえ奴隷の虐待が公然と行われているぐらいだ。
所狭しとひしめく酒場、娼館、賭場。
合法なものから違法なものまで数々の歓楽施設が並ぶ。
もっとも、今やこの国の法がどれだけ正しく民を律せているかはわからない。

針のようなヒールを鳴らしながら、魔族の少年は立ち並ぶ店々を観察し歩き回っていた。
別に今宵の無聊を慰める場所を探しているわけではないというのは、
少年のつまらなさそうな顔を見れば察することはできるだろう。

ヴァイル > あちこちから、人の群れをすり抜けて鼠がヴァイルへと集まってくる。
脚を伝い彼の身体によじ登ると、その手の中で手品のように消える。
羊皮紙とペンを取り出して、何やら書き込んでいく。

「あそことあそことあそこ……と」

それは、魔族が経営している娼館のリストであった。
こうしたいかがわしい店はマグメールに巣食う魔族の連中の財源となっていることが多い。

「今すぐ焼き尽くされないことをありがたく思えよ……」

チェックを増やし、歩きながら独りごちる。
別段大口を叩いているというつもりもなく、
その気になれば店を丸ごと皆殺しにすることはそう難しくはない。
ただ、そうするのは待つ必要があった。

客引きがしつこく声をかけてくる。
うるさい。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/裏通り」にレイシーさんが現れました。
レイシー > 王都マグメールの夜は危険だ。
いくら平民地区であっても、様々な人々…いや、人ならざる者たちが集う此処では平和で安全な場所などもう残ってはいないのかもしれない。
至る所に店を構える娼館の間をいかにも楽しそうな笑顔を浮かべて、もうそんな笑顔を浮かべている時点でおかしな女であるがそれも仕方ない。
とにかく酒場に入るわけでも、娼館に入るわけでも、賭場に入るわけでもなくただこの路地を楽しげに、まるで散歩をするようにして滑走している。

「やっぱり楽しいな、此処は。欲で溢れかえってる。」

にやりと口元を緩ませて辺りの様子を見渡してみる。
此処では様々な欲が垣間見えるから退屈しない、そんな中に1人の少女…にも見えなくない少年を目に留めた。
客引きに声を掛けられているが、周りと少々異なっているような…そんな不思議な感覚に眉を潜めたのも束の間、面白い少年を見つけたと先程よりもさらに口角を吊り上げて少年と客引きの元へと2人の会話に耳を傾けながら足を向ける。

ヴァイル > ――ね、ね。お坊ちゃん。安くしておきますから。ミレーのかわいい子入ってますよ。珍しい狼種の……

「その呼び名は嫌いなんだ」

商魂たくましいのかなんなのか、こっちの線が細いから油断しているのか。
振り払っても振り払ってもすがりついてくる客引きの男の腕に、ヴァイルの石英を思わせる手が重なる。
そうすると、彼の腕は一瞬にしてタコの触手に置換される。
異変に気づいた何人かがざわめいて散った。

タコ人間として自分に関わりのないところで面白おかしい余生を送って欲しい、とヴァイルは思った。

(…………)

世の煩いごとにも興味なさそうな顔で書き込んでいた羊皮紙を
ふいにしまいこんで、より人気の少ない路地へと足を向ける。
追わないのであればすぐに見失ってしまうだろう。

レイシー > 「ぷはっ…」

2人のやり取りを人混みに紛れながら密かに見守っていれば、少年により客引きの腕は一瞬にしてタコの触手へと置き換えられてしまう。
わっと悲鳴があがり、叫ぶタコ腕の客引きとは正反対に思わず吹き出してしまった女は口元を手で覆い覆いながら退屈を癒してくれた楽しい少年の背中を目で追う。

「ねぇねぇ、君面白いね。
さっきのあれはさ、もう傑作だったよ。
笑わせてくれてありがとう。」

人気の無いさらに裏の路地へと消えていくその背中を思わず追ってしまうのは、面白いものを求める女の性である。
気配を殆ど消したままスッと少年の背後まで迫っていこうか、相当の者でなければきっと急に掛けた言葉に驚くのかもしれない。
そして、にこにこしながら少年には全く関係の無い感謝の言葉を述べてみる。

ヴァイル > 「おまえを愉しませるためにやったわけじゃないがね」

突然の声に驚く様子もなく振り返る。
油断なく、声の主とは一定の距離を保つ。

「無音で尾けてくるからおれの命を狙う刺客かと思ったがそうではないらしいな。
 身構えて損した」

小馬鹿にするような薄笑いには、言うような緊張は見て取れない。

「気持ちは受け取っておくが、おれは芸事には疎い。
 退屈を紛らわすなら専門の連中にあたりな」

少女の背後、先程までいた人で賑わう裏通りを指差す。