2022/05/09 のログ
クラウソニア > 「う、ぐ……ふぐぅ………」

最初の狼狽に返すのは涙目の首振り。
続いて全てを察してくれたのだろう理解の顔には心底ほっとし、膨れた口元を押さえつけたままそろりと立つ。
『あー……』『まぁ、あれだけ飲めば、なぁ……』『天下に名高いソリチュードも人間ってことか……』
なんて生温かな感想に見送られつつ、ぷるぷるふらふら傍らの痩躯に寄り添ってもらいつつお手洗いへ。
バランスを崩しかけた女騎士の総重量は、女トロルが幻術でも使って化けているのではと思える程に異様な物。
なんと言っても軽々着こなしてはいるが総アダマン製のフルプレートだ。シャレになっていない。
それでも彼の必死の抵抗が女騎士の一拍遅れた踏ん張りまでの間を作り、辛うじてギルドの床で圧死するという珍妙な殺人事件を回避した。
そうして今―――――

「う゛ろ゛ろ゛ろ゛ろろろろろぉぉぉおお~~~っ」

乙女が出してはいけない音と共に、前のめりの背筋がモザイク処理の施されたキラキラを薄汚れた便器に注ぎ込んでいた。
おしっこするところを見られ、3日間処理していなかったお尻と秘所を見られ、そうして今度はコレである。何か呪いでも掛かっているのだろうかと真剣に考えてしまうような間の悪さだ。

「うぼろ゛ろ゛ろぉぉぉおお……っ、おゥ、げぇ……っ、げぅぅ……っ! へぁ……ひ、ぁあ………、はへ、……は、へぇ………」

腹の中の物をあらかた吐き出し終えたのか、聖騎士の発作が収まった。
丸めていた背筋をゆっくりと持ち上げ、震える桜唇から伝う涎糸もぬぐえぬその顔は、涙目を通り越した泣き顔である。
26歳聖処女の泣き顔など金を出しても早々に拝めぬ代物だ。
脂汗に濡れた額に金の前髪を張り付かせ、形良い細眉をそれはもう切なげに歪ませて、エメラルドを思わせる翠瞳を潤ませたそのべそは、退廃的なエロスすら感じさせるかも知れない感じろ! そしていい思い出に変換しろ!!
まぁ、ツンと酸っぱい吐瀉物の臭いの充満した薄汚いトイレの個室での出来事である。これをいい思い出に出来るのならば、そいつは本当に大した奴だろう。

ユージン > 「……クソ重たい鎧だった……」

 流石に装備品抜きであれば問題はなかった筈だ。
 しかしフル装備の女騎士ともなれば、その重量に苦悶しても失礼には当たらないはずだ。
 短時間ながらもその過負荷に耐えかねて微かに震える上腕や肩の筋肉の訴えを無視しながら、大きく溜息。
 なんとか無事にトイレの個室にまで女を誘導できた僥倖に安堵するのだ。

「…………慌てんなよ。無理やり吐こうとすると裂けたりするからな」

 別に排泄をする訳でもないし一時を争う窮地な訳で、個室の扉は開かれたまま。
 扉の傍らには乱暴に脱がした鎧が無造作に転がる。
 便器に顔を傾ける女の背をやんわりと気遣うように撫でながら、喉を転がすように漏れ出る異音……。
 その他えづきや異物混じりの液体をぶちまけるあれこれには全力で聞こえないフリを決め込んで。

「よーしよしよし……」

 トイレ特有の臭気に、新たに生々しい酸味が混じって、寧ろ塗りつぶしていくのにも気付かぬフリをした。
 そうするだけの情けはこの男にもあったのだ。便器の中に吐き出されたゴールデンななんちゃらにも視線を向ける事はない。
 ただ、ひとしきりの吐き気を解消し終えた26歳の疲れ切った顔をちらりと見れば。

「…………終わった、か」

 よく頑張ったな。
 そう言いたげに、その頭をくしゃくしゃと気遣わしげに撫でる。
 女としては決して他人に見せられぬ姿であっただろう、そう思う。
 尻の穴を見られたり、そのまま尻穴に肉竿を突っ込まれて汚物をこね回されるのとどちらが恥であっただろう。
 ……どっちもどっちだったかも知れない。そしてこちらはコンプリートしてしまった。
 
「……」

 見下ろす、うつむきがちの悄気げた顔は新鮮だ。

「まあ、元気出せよ。誰だってクソもするし、ゲロも吐くさ。
 おれも、あんたも、変わらねえ」

 言いながら緩やかに肩を叩き、自分の方を向くように促す。
 それに彼女が従ったならば、唾液と胃液の混じり合った粘液に濡れた唇を、男の唇が強引に塞いでいた。
 ちゅる、と小さく水音がして―― 一瞬だけ絡んだ舌はすぐに離れる。

「……まあまあいい顔してたぜ。ゲロと酒臭くても良いかなって思うくらいにはな」

 すぐに身体を離して、男は冗句めかして笑った。
 離れる間際、男のいたずらな指は女の胸元のふくらみを着衣越しに強かに撫でて、指の形に微かに歪ませる。

「案の定、ひでえ味だが…… 想像してたよりかは悪くない」

クラウソニア > クラウソニアの鎧が一人でも着脱可能な工夫の凝らされた逸品であった事は、このような状況においても役立った。
トイレにつくなり盛大な一発目を吐き出すその背筋をまさぐり金具を外し、ベルトを緩める鎧の除装はスムーズに進み、そのまま落ちれば床のタイルを破砕しただろう重量物は、丁度嘔吐の合間にあった女騎士が受け止め事なきを得た。
最初のうちは腹腔から這い上がる暴力的なまでの衝動を吐き出す事に精一杯で何かを考える余裕も無かったが、それが収まるにつれて情けないやら恥ずかしいやらの気持ちが沸き上がって来た。
同時に、今の状況をいつもの様に茶化したりせずにいてくれる優しさにじわりと涙が滲んだ。

「――――――…………えぅ」

ようやく全てを吐き出し終えて丸めた背筋を起こし始めた所で黄金の頭頂にぽむっと置かれる男の手。クラウのそれに比べて大きな手。
髪撫でる手つきに込められた気遣いにもぎゅっと瞑った目尻からぽろりと水滴が零れ落ちる。 ――――ぷいり。
顔を背け、懐から取り出したレース飾りも上品なハンカチでべちょべちょの顔を拭う行き遅れ。
どこまでも優しい言葉に再び涙が滲みそうになるのを、肩を叩く手つきにぐっとこらえてそちらを向けば

「――――――――――んんぅ…ッ!!?」

視界が塞がれた。
日に焼けた肌と黒髪のコントラスト。
吐瀉物の臭いの中にも感じる男の匂い。
唇に何かが押し付けられており―――ぞくぅ…っ♥
舌を舐られる感触は、背中の神経を直接弄ばれたかのような擽ったさで女騎士の肉付きの良い肢体を震わせた。

男の顔が離れる。
真ん丸に見開かれた翠瞳が言葉を発せぬままに『えっ? な……え? ふぇ??』といった困惑で固まっていた。
そんな硬直を解いたのは、どっ、どっ、と訳も分からず跳ねる鼓動を内に秘めたたわわな肉鞠への悪戯。

「―――みゃぁあッ!? ききききききき貴様ぁぁああっ、なんのつもりだぁぁああっっ!!」

完全なる不意打ちに仔猫の様な奇声で応えた聖騎士様は、彼の手指にはどこまでも指を沈ませるマシュマロの様な柔らかさとその奥でむにぅんっと力強く指先を押し返す弾力、そしてしっとりと汗ばんだ体温を捧げつつ、その対価として雷光の右ストレートを放っていた。
振り抜いた拳が彼の目元にくっきりと青タンをこさえる程度の被害しか残さなかったのは、常日頃からそうした事故を防ぐべく心がけてきた自制の賜物であり、彼に対する感謝でもあったはず。

「―――――かえるっ!!」

グォン。
軽々持ち上げる音すら物騒な超重量を片手で抱え上げ、見事にノックアウトした慮外者をトイレに置き去りギルドを立ち去る聖乙女。
聖騎士宿舎への帰り道、すっかり日も落ちた通りの中、足音も荒く歩く聖騎士様は、腹の中の物を吐き出し終えて蒼褪めていたはずの白皙を真っ赤に染めて、繊手に抑えた唇は「うあぁ……ふわぁぁ……っ」なんて微かな声音を漏らしていたのだとか―――。

ユージン > 「……あ、やべ」

 流石に調子ぶっこきすぎたか。そう気付いても既に手遅れというものだ。
 腕を引いた―― そう認識したときには既に拳は閃いている。
 視認することさえ叶わない電光石火の右ストレートが火を噴き、案の定というべきか。

「ごばッ……」

 男の身体は虚空を舞う。受け身など取れるはずもない。
 脳天で衝撃が弾けたと同時、意識は途切れる。
 数秒の間を挟み、微かに戻った意識が微かに薄目を開ければ、荒々しい足音と共に遠ざかっていく背中が見えた。
 
(……ははっ、ちゃんと元気じゃねえか)

 背中から壁に叩きつけられてそのままずるずると崩れ落ちていたのだろう。
 緩慢に身を起こせば壁のしっかりとした頼もしい感触に身体を預け、座り込んだ格好で天井を見遣る。
 耳鳴りはするし身体のあちこちが軋んでいるが、幸いな事に頭が弾けて飛び散ったりはしなかったらしい。
 一応、手加減はしてくれたらしい事は察する。本気で殴られたならこの程度で済む筈がないのだ。

「……さすがに嫌われちまったかな? だが、ちゃんと礼はもらったからな」

 どろり、と流れ落ちた鼻血を指で拭い、へへへと掠れた声で笑う。
 騒ぎを聞きつけてやってきた給仕たちに、大丈夫ひとりで立てると傍に寄ろうとするのを手で制し。

「……いってて……」

 ゆっくりと立ち上がり、軋む身体を引きずって自分のテーブルに辿り着く。
 そのまま手を伸ばせば、掴むものはまだ半分中身が残ったままのグラス。
 痛み止めのつもりか、一息に飲み干した。……イヤ違う。残すのが勿体ないというケチくさい根性だ。

「ゲフー。よぉし、ごっそさぁん……」

 口元を拭って不遜にげっぷを一つ溢せば、テーブルに空のグラスを残し。
 よろよろとした足取りのまま、建物の外へ。

 そんな彼の去りゆく姿を、同業者たちは恐る恐る見守る。
 そして、彼の背中が見えなくなれば、彼らは先までの出来事についてそれぞれの見解を述べては激論を交わすのだ。
 いずれにせよ、一致していた答えは。

『とにかく すごいものを 見てしまったぞ』

 そういったものである。

ご案内:「平民地区 冒険者ギルド」からクラウソニアさんが去りました。
ご案内:「平民地区 冒険者ギルド」からユージンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にニァさんが現れました。
ニァ > 「おっちゃん、おっちゃん。これほしいニャ。食べていいかニャ?
 お金はないニャ。食べていいかニャ?」

しゅと。
小躯が身軽に屋台のカウンターに飛び乗って、じゅうじゅう焼かれる
串肉を指さし店主に告げる。
店主はいきなり飛び乗ってきたチビに面食らう。
続いてそのあまりにあまりな肌色面積にもギョッとする。
最近暖かくなってきたとはいえ、小麦の日焼けも健康的なロリ肌の
ほとんどを晒すマイクロビキニは流石に驚く。
とはいえ、金がないと聞けば途端に顔をしかめてシッシッと手を振る。
世知辛い。
が、チビ猫は引かない。
物欲しそうな翠の猫目でじぃぃっと串肉を見て、半開きの唇から涎さえ
垂らす。すごく美味しそう。食べたい。お腹すいた。
ちらっ、ちらっと店主に上目遣い。チョロいやつは結構これで折れる。
―――――が、駄目。店主は頑なだ。狙いが外れて猫耳がしょげた。

ニァ > マイクロビキニでエジプト座りのチビ猫が、尻尾ふにゃふにゃ
カウンターの上でじぃっと串肉を見つめる新感覚屋台。
通行人はむっちゃ見てくる。ガン見、二度見は当たり前。
しかし、買っていかない。猫を見てくすくす笑って通り過ぎるばかり。
もう完全に営業妨害の体なのだけど、それでも暴力に訴えない店主は
根が優しいのだろう。
もしくはニァのロリ的魅力にめろめろか。
こういう時はしばらく待っていれば勝手に折れる事が多い。
急いては事を仕損じる。急がば回れ。猫に小判である。
ニァはこう見えて戦術にも詳しいインテリなのだ。
だから早く串肉よこせ。
オヤジは折れない。むっちゃ耐える。
頑なに視線を反らし、猫の存在など気付かぬふりをする。
ふん……無駄な足掻きニャ。

―――ぐぅ。
猫のお腹がなる。
意外な長期戦となった。

ニァ > 「おっちゃん、この肉もうすぐ焦げる。食べていいかニャ?
 こっちもヤバイ。食べていいかニャ?」

オヤジがついに長々とため息を吐いた。
億劫そうに太腕を伸ばし、火の通り過ぎた2,3本を纏めて取り上げ、
ほれ、とばかりに猫に差し出す。
少し眠たげだった半眼がぱぁっと開かれ、猫尾もむわぁっと持ち上がり

「おっちゃん、ありがとニャ!」

んちゅっ♡
感激のキスを店主の頬にくっつけて、早速むしゃむしゃうまうま食い
散らかす。
ニァは野良だが毛並みは良く、栄養も足りているのかプニ肌も艶やかだ。
顔立ちも可愛いとよく言われる。
そんな仔猫がそれはもう美味しそうに頬張る串肉。
目を止めた何人かが、ちょっと食ってみるかと思うのも不思議ではない。
あっという間に3本平らげ、屑箱に木串を捨てて尻尾ふりふり立ち去る
仔猫。
入れ替わりに店主に注文していく通りすがり。
良いことをすれば、良いことが返ってくるのだ。
訳知り顔の四つ足が、人ごみの足を縫って市場を後にする。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からニァさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にミンティさんが現れました。
ミンティ > 夜の繁華街からすこし離れた、大人向けのバーや小さなカジノが並ぶ通り。その中の一軒のお店の前でぽつんと佇む、このあたりの空気には不釣り合いな小柄が一人。
仕事の関係で譲られたチケットを、せっかく貰ったのだから利用しようと思って慣れないところまで足を運んできたものの、入り口で止められてしまった。
制限を受ける歳の子どもと間違われた、のではなく、二人一組での入店がルールとなっているらしい。
チケットは一枚で足りるようながら、いきなり連れを召喚できるような不思議な術は体得してない。

「誰か、ついてきてくれそうな人…いるかな…」

呟きながら小首をかしげる。しかし、夜中に遊びに誘うようなあてとなると、顔を思い浮かべるのも難しい。自分の狭い交友範囲を残念に思いながらも溜息。
とりあえずは出直そうかと、最後にもう一度だけお店の看板を見上げる。ミステリーハウスと題されたその施設がなにを行う場所なのかは、実はあまりわかっていない。
驚きに満ちた場所だというから、手品とか、トリックとか、そういったものを楽しむ場所なのだろうと予想していたけれど、今回は、謎は謎のままとなりそうで。