2022/05/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からエイガー・クロードさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からテンタさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にミンティさんが現れました。
ミンティ > 遠い国から渡ってきた行商の一団が市を開いていると聞いて、大通り沿いの公園までやってきた。時間はまだお昼前だったけれど、それでもすでに多くの買い物客が行き来していたから、出遅れてしまったらしい。
煌びやかな織物や装飾品を扱っているお店なんかは特に人気のようで、気になりはしたものの遠巻きに見るだけで済ませ、すこしでも人の少ない方へ。
しばらくうろうろ歩いていると、冷気の魔術で新鮮なまま運ばれてきた果物や、異国の草花を鉢植えにして売っている露店に辿り着く。
自分のお店に並べている植木鉢の中もそろそろ入れ替えようと思っていたころだったから、ちょうどいいかと思って、そちらへ向かい。

「…きれい……」

この国では見る事もすくない珍しい花に見惚れて、思わず呟いていた。
つい衝動買いしてしまいそうだけれど、珍しいものとなると自分でも育てられるかが不安になる。買って帰って、すぐに枯らしてしまうのはあんまりだからと、鉢植えのそばに置かれた説明書きに目を通してみる。
その間にも、果物を扱っている露店からの甘い香りに、ちらちらと視線が動いてしまったり。

ミンティ > しばらく悩んでから、自分でも世話ができそうな花をいくつか見繕う。まだ花をつける前の若い株を持ち運びやすい小さい鉢に入れてもらった。それで手が塞がってしまったから、他の買い物はしづらくなったけれど、もう十分満足したから上機嫌な顔。あとは座って食べられそうな屋台でも探して一休みしようと、公園のどこかへ、またとろとろと歩いていって…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からミンティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にキキョウさんが現れました。
キキョウ > 晴天下の王都平民地区。
都市中心部の広場からそこに繋がる大通りは無数の店が連なりマーケットの様相を呈していた。

観光に勤しむ者から買い物に駆け回る者まで多くの人が行き交い賑わいを見せるそこへ、キキョウは大きな布袋を背負ったすがたで現れた。
護衛の依頼で船でダイラスまで渡った後、陸路で王都に戻りながらついでとばかりにいくつかのダンジョンを潜る。布袋には旅での戦利品が詰め込まれていた。

「さて…着くのが大分遅くなったけどどうするかしら……」

本来は朝には王都へと帰ってくるつもりであったが、街道で馬車が魔物に遭遇したりと複数のトラブルが重なったため既に既時刻は昼を回っていた。広場の中には粗方物を売り終え、店を畳む準備を始めている出店もチラホラ見える。
それまでになるべく高く成果物を買ってくれる店を見つけねば、と肩越しに袋を担ぎ直すとまずは目についた店へ向かってあるき始める。

キキョウ > 「これ?ゾス村西にあるダンジョンで見つけたわ、鑑定はして無いけど魔力は籠もってるし悪くないはずよ?」

マグメールに来て日も浅く、冒険者でも無いキキョウにとって懇意にしている店は決して多い訳ではなく、発掘した物によっては取り扱ってくれる店を見つけて自ら交渉する必要があった。しかし――

「え?偽物な訳ないでしょう、この魔法石に籠もってる魔力が見えないのかしら?……分かったわ。ありがとう、お邪魔したわね」

ギルドに所属してる訳でもなく明らかに異国からの旅人であるが故に交渉が進まない事も多く、時に口から零れ出そうになる罵倒を抑えながら広場中を周り、袋の中を粗方売る頃には既に日は落ち始めていた。


「はぁ…慣れないことはするものじゃないわね……」

時間的には既に宿へ戻っても良い頃合いだがせっかく纏まった金を得たのだ、少しくらい遊んで行こうという考えが頭を過る。
広場では武器や防具、日用品を売っていた店に変わって美味しそうな匂いを漂わせる出店が旗を上げ始めている、そこでこの溜まったストレスを解消していくのも良さそうだ。
再び店を値踏みするかのように広場の中を回り始めたキキョウの頭の中はすっかりと何を食べるかと言う事に支配されていた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にルルーエンさんが現れました。
ルルーエン > 平民地区の市場のあまり人目に付かない場所。目深にフードを被った男が背の高いつり上がった目付きの
男に金を渡している。背の高い男は3人の娘を携え、娘を引き渡す手順を整えていた。

「本当にここしかなかったのですかな?」

白髪の男はアタリを見回す。人目が付きにくい場所ではあるが、有事の時には逃げずらいだろうと
おせっかいながらフード男の身を案じているようだった。娘たちはうつむいたまま下を向いている。
フード男はいわゆるカルトであった。奴隷として売るならまだしも、コレから儀式の為に消費されるのが
いまこの3人の娘だった。
男の心配はよそにフードのカルト男は道は良く知っていて逃げ慣れているから問題ないと
楽観的に捉えている。ふと日が悪い様に感じた白髪の男だったが、特に思い入れも無い相手が
そう言うのであれば、特にそれ以上言及するつもりも無く。

震える娘たちを促し、カルトに引き渡していた。

キキョウ > 突如空気を切り裂く音と共にフードの男の背後、漆喰と煉瓦によって作られた壁に数本の小刀が突き刺さった。散らして数本投擲されたであろうそれは柄に紋様が刻まれており、紋様同士が共鳴すると魔力で出来た壁を作り出し男らの背後を塞ぐ。


「いやぁ、日も落ちきらないうちに随分と興味深い物を売ってるみたいね。私も品揃えを見せて貰ってもいいかしら」

広場に向かう際、微かに感じた匂い。日常生活や魔法薬精製においてはあまり使われず、どちらかといえば呪術的な用途で使われる薬草や道具特有のそれは数多くの人が行き交う王都でも滅多に嗅ぐことの無いものであった。
気に掛かりそれを追いかけた結果、小路で何かをやり取りする集団を発見して

「ねぇ、まさか見せられない物を売買してるわけじゃないでしょう?お金ならあるわよ?」

ルルーエン > 狼狽えるフード男。狭い通路に作られる壁、カルトの男と娘らは状況が理解できなかったようで
今自分らの周囲で何が起こっているのかを判断しきらず、白髪の男だけが動じていないようだった。

「だから言ったのに…」

カルトは金を受け取っている為、まず一番最初にその場から離れる為に一目散に逃げたのはカルトだった。
娘3人の手を引き、帝国製らしい札を持っていた男は、術の影響下に無い廃屋の壁を吹き飛ばすと
器用にすり抜け逃げようとする。白髪だけはただ立って、その様子を目だけで追っており。
その視界の端には新しく現れた多分女性、がいる。

「それも【よく知った道】なのですかね…」
白髪としてはただ金を持って行かれただけなのに静かに立ち尽くし眺めていた。

キキョウ > 明らかに魔力によって道を塞がれた時の対応や経験に精通している動き。フードの男はこの手のトラブルに慣れた人間である事を判断すると同時に自力で壁を破壊する力を持っておらず、そんな人間が女の子3人を連れ逃げ隠れする事は極めて難しいだろう、そう結論付たキキョウは足を止めた。
現場には同様に立ち尽くす白髪の男。
キキョウのセンサーが大きく反応したのは寧ろこちらの男であった。


「それで……貴方はどうするのかしら?」

フードが壊していった壁を見つめる男に対してそう問いかける。
こちらの乱入にも取り乱さない精神、そして全身から匂い立つ様な異形の魔力。目の前の存在が普通の人間で無いのはキキョウにとって明白であった。

ルルーエン > 「これでは、王国も流石にやってくるでしょうなぁ…廃屋とはいえ壁まで壊してしまって」

こう話している間には恐らく確保されたという所だろう。男は中指の背で、瓦礫を撫でると
ゆっくりと壊れた壁が修復され穴の開いていない元の廃屋の壁へと戻った。

「私は何も無ければ帰って、また知っている娘の売り手と貰い手を訪ねます。」
「この王国で不幸な娘を助けるとは珍しいですな。王国の方ではないとお見受けする。」

男は逃げるでもなく、ゆっくりと女性の方に近づいてくる。
上から下まで、見えるならば顔立ち、衣装、そして随分と豊満な身体を見る。

「帝国よりさらに東…退魔術の文化圏?」

キキョウ > 「あら、博識ね。シェンヤンと仲の悪いこの国じゃそれより東の国について知ってる人自体珍しいのに」

じっと全身を見つめながら距離を縮める男に対してジリジリと下がりながら拳を構える。人間らしさが欠如した振る舞いや言動に男に対する警戒心は限界まで張り詰めていた。

「この国の人でも悪事を見て見ぬ振りしたたまじゃお酒は不味いでしょう?とりあえず、この場を引いてさっきのフードを捕まえる邪魔をしないなら今日は見なかった事にしてあげてもいいわよ?」

半身になり腰の高さに据えた右拳。それに装備された手甲は先程の魔力壁と同様の光を帯びていて、それは言葉が偽りで無いことを示していた。

ルルーエン > 「彼を捕まえるのは困ります。彼は私達の故郷にある宗教思想を広める為に非常に有用な存在」
「アナタの正義が今回限りの事でないと、私も動かざるを得ないのです。」

男は物凄い小さくなる瞳孔の目で女性を見つめる。そして静かに、しかし素早く両手を広げた。

「それに、アナタからは極東圏の霊力以外の匂いがする」

広げた腕から軟体動物のヒレのような竜の皮膜のような黒く薄い物質が広がると
素早く女性を包み込み、男もろとも通路の石畳の中に沈み込み
人目の可能性がある市場の裏よりもさらに静かな場所に連れ込む

キキョウ > 「ッチ……!」

人外の様相を呈し、覆いかぶさる様(広がった男。逃れようとするも狭い路地では逃げ場もなく、舌打ちと共にキキョウは腕に溜めた魔力を自らに纏う様に拡散させた。

バリアを貼ったキキョウを男の膜が覆い、それが地面に溶ける様に消えれば、すっかり暗くなった裏路地には静寂だけが残っていた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からルルーエンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からキキョウさんが去りました。
ご案内:「平民地区 冒険者ギルド」にクラウソニアさんが現れました。
クラウソニア > ざわ……っ。

入口のスイングドアを開き夕日を背にしてギルド内に入ってきた人影に、冒険者たちがざわついた。
白地に施された金装飾も美しい、それでいて実戦使用にも十分に耐えるだろう武骨な鎧と、人目で業物と分かる両手剣。
新人や中堅どころを主としたこのギルド内においては明らかに異質な風体だ。
その上それを纏うのがKカップの魔乳とそれにも見劣らぬむっちむちの尻に太腿という男好きのするボディラインと、どこか稚気すら感じさせる楚々たる美貌の金髪美人ともなれば、無数の注視と囁きが向けられるのはおかしな事でもないだろう。

四方八方から浴びせられるそれらを気にするでもなく、グリーヴの足音を響かせ目指すのは、仕事を終えて戻って来た冒険者と受付嬢のやり取りが行われるカウンターから離れた壁際。
そこで足を止めた女騎士は生真面目そうな美貌をふわりと綻ばせ

「――――うむ、ここは変わりないな。懐かしい」

なんて呟きを桜色の唇から零れさせる。
まだ騎士としてそれほどの功績を上げていなかった頃は、クラウソニアもこのギルドを利用した物である。
時に兼業の冒険者として、時には任務遂行の助力を願う依頼主として。
無論、こうして来たのだから、有望そうな新人や、かつて共に依頼をこなした顔見知り、かつては憧れの目を向けていたベテランなどの姿を見つけたならば声をかけ、食事でも奢りながら最近のギルド事情など聴いてみようとも思っている。

ご案内:「平民地区 冒険者ギルド」にユージンさんが現れました。
ユージン >  壁際の更に隅っこ。荒くれ冒険者たちの談笑やら武勇伝の賑わいから少し遠ざかったテーブルに男がひとりふんぞり返っていた。行儀悪くテーブルに脚を投げ出しながら束ねられた手配書を一枚一枚気まぐれに動かす指が捲っていく。賞金首、尋ね人、その他諸々の依頼を纏めたものである。

「はぁー、マジでシケてるわー」

 適当に捲り上げた一枚。そこに記されているのは珍妙なご面相の中年男の頭に、身体は極彩色で飾られた大蛇。
 未知の珍獣の生け捕り依頼である。

「……これはないわ、パスパス」

 溜息と共に手配書の束を無造作にテーブルの上に放り投げた。
 入れ替わりに、既にだいぶ氷の溶けて結露だらけのぐしょ濡れグラスを持ち上げ、だいぶ味の薄くなった安酒をケチ臭く啜る。

「昨日の臨時収入もさっき全部使っちまったしなー……。やれやれ、このままじゃ明日のメシも食えやしねえ」

 そうボヤいていたところで不意に店内の冒険者たちがざわついている。
 一体何だとグラスの安酒を啜りながら視線をそちらに向ければ、何やら見覚えのある高そうな鎧を身に着けた金髪女がひとりいた。
 ちょうど彼女が「うむ、ここは変わりないな。懐かしい」とか、凛々しい声音で呟いているところだ。

「…………うーん?」

 しかし本当に見覚えがあるものか。
 あんないかにも正統派女騎士といった金持ちそうな知り合いの心当たりはない。
 似たような見た目で思い当たるのは、つい先日遺跡で同じ部屋に閉じ込められて食料をたらふく食っていった獰猛な女オークの姿。

「…………げっ!」

 まさか同一人物だったか。不味い、視線を合わせないようにしよう。
 またメシをタカられては困る。こちらはもう殆ど小銭しか持ち合わせていないのだ。
 慌てて手配書の束を再び持ち上げれば、一心不乱に賞金首たちとにらめっこをしている風を装い書類を食い入るように覗く、そぶり。

クラウソニア > 駆け出しの頃、未だ少女であった自分の姿を見るかの優しげな翠眼がゆるりとした動きで店内を眺める。
あぁ、あのテーブルで初めての討伐依頼を見事にこなしたお祝いを、ベテランもベテランな初老の冒険者にしてもらったっけ………。

「―――――ん?」

いきなりグイっと通り過ぎていた翠眼が巻き戻る。
急な挙動が目に付いたという事もあるだろうが、それ以上にうだつの上がらぬ風体というか、滲む雰囲気というか、そういった物に無視できぬ何かを感じたからこその二度見である。
知っている。
知っているぞ、あの顔。
絶対に何か失礼な事を考えているとぼけた表情。

壁につけていた背を離し、グリーヴの足音も厳めしく、美貌に浮かべた淑やかな笑みとは裏腹に思わず通りがかった冒険者が『―――ひぃッ!?』とかいって慌てて道を空ける迫力を醸し出しつつ近付くのは

「―――――意外な場所で会う物だな。冒険者。………いや、意外と言う訳でもないか。ふふっ、もしかしたら私は、お前に会いに来たのかも知れぬな。なぁ、どう思うユージン殿?」

つい先日前、3日間に渡って密室に閉じ込められ、色々とあったもやし男の座すテーブル席。

ユージン >  ごくり、と生唾を飲み込んだ喉の立てた音がやけにハッキリと響いたものだ。
 否が応でも高まる緊張。息を殺して、近づいてくる殺人熊が……否、女騎士が通り過ぎるのを静かに待つ。
 鋼鉄製の具足が床板を噛む足音が、まるで死刑開始の時を告げる時計の針めいて次第に大きさを増していく。
 足音が、止まった。周囲の冒険者達が息を呑み、巻き込まれまいと距離を取って次々席を離れていく気配が分かる。
 目を合わせずとも、理解できてしまう。
 猛獣は、こちらの傍を通り過ぎては居ない……。寧ろこれは、すぐ間近……!

(……だめだッ! 此処はなりふり構わず逃げねば……!)

 顔を隠していた手配書をテーブルに置いてバネ仕掛けの人形宜しく勢い良く立ち上がったならば脱兎の勢いで逃げようとする。
 ……だが逃げ場などない巧みな歩法がそれを許さない。
 自然に逃げ場を封じて壁際へと追い詰める位置取り、流石に聖騎士殿は戦い慣れておられるものだ。

「……クソッ……!!」

 冷や汗が頬の辺りをぬるりと流れ落ちる。
 もう一度、緊張の余りに思わず唾を飲んでしまった喉がイヤな音を立てた。

「そ、そりゃあ……ごほん。わたしも一介の冒険者である以上、こんな場所にいる事もありましょう。
 ……騎士どのは本日もご壮健であられるご様子。まこと何よりなことで御座います」

 飛び出しかけたオークだのなんだの、そんな諸々の言葉を無理やり押し込める。
 その代わりに辛うじて紡ぐのは死んだ目のまま、歯の浮くような勿体振った挨拶だった。

「……なんだ、今日はおまえに食わせるメシなんてないぞ」

 その後で小さく続ける、間近にいる彼女にしか聞こえないように潜めた囁き声。

「なにせ今のおれは素寒貧なんだからな……」

クラウソニア > 「ハハ、どうしたどうしたユージン殿、その物言いはどうしたことだ? 以前にまみえた時には、まだ少し気安い風情だったと思うのだが?」

青年のあまりなビビりっぷりが、クラウソニアの己すら知らぬ意地の悪い気持ちを疼かせる。
本日ここに訪れたのはあくまでもただの偶然。
たまたま近くに寄る用事があり、その帰り際に視界にはいった冒険者ギルドの懐かしい佇まいに何となく足を向けただけの事。
こうして彼の近くに脚を運んだことも、別に彼を玩弄するつもりでも、先日の口封じをするつもりでもなく、ただ単に『こやつ、また牝オークだのなんだと考えているな……』という直感が働いただけの事。
弱り切った彼の様子に、なにやらじくじくと奇妙な愉悦を感じていれば、ぼそりと零れる悪態の言葉。いらっ☆
が、続いて発せられた言葉を聞けば

「―――――何? ………ん、む、………そうか、うむ。よし分かった。お前には先日世話になった"礼"もしたいと思っていたのだ。なんでも好きな物を頼むがいい。奢らせて貰おう。そこの君。注文を頼む。………そうだな。肉が良い。オーク肉のいい所と、グレートボアのハラミ、ミノタウロスは……そうか、無いか。まあ、高い肉を多めに頼む。さあ、遠慮するなユージン殿。おま……ンッ、き、貴殿も好きに頼むといい」

どっかと男の対面に巨尻を落とせば給仕娘を呼びつけて、ブルジョワに特有の大雑把な注文をつらつらと並べる。続けて翠瞳を男に向けて、彼にも注文を促そう。
ついつい"礼"と曰くありげに強調してしまったが、それはある種の照れ隠しだ。事実、まぁ、色々とあったが、あの場に彼が居なければ飢えて死んでいたかも知れないし、そもそも今とてあの小部屋に居たかも知れない。
彼の糧食を食い散らかしたという負い目もあるし、素寒貧という彼にここで恩を返す事はクラウソニアにとってもごく自然な事と言えた。

ユージン > (……やっぱ見間違いじゃなかったかァ……)

 なんてこったい、と嘆きながらも表面上は眠たげな眼差しのまま慇懃な態度を崩さない。
 周囲、遠巻きに見守る同業者たちは、ケチで貧乏くさいうだつの上がらぬ男と如何にも高位にありそうな女騎士。
 このちぐはぐな両者の間にどういう接点があったのか不思議がってもいたのだが、関わり合いになるのは避けているようだ。

「下々の者にまで気さくに話しかけて下さる事、有難く存じますが……周囲への示しというものは必要でありましょう」

 内心では心臓をバクバク言わせながらも、そこまで慇懃に告げたところでちらりと周囲を見渡し様子を窺う。
 案の定、他の冒険者達には距離を取られ、我らが席の周辺と言えばこれまた見事な空白地帯となっている。
 必要以上に謙るのもここまでだ。そう判断すれば、わざとらしく咳払いをひとつ。
 それに続ける声は相変わらず調子を潜めたまま。

「礼、ねえ……。好きなもん、なんでもいいのかよ。遠慮はしねえぞ……?
 ……ありがたがったりもしねえからな」

 念を押すように問うが、その合間に給仕の娘に次々と告げられる注文。
 その大雑把さに半分気圧され、半分呆れながらも大きく溜息を溢し。

「…………なに、そんなんまで食うのあんた」

 オークに大蛇に牛頭人、そのラインナップに戦慄する。
 やっぱこいつは女オークだったわ。しかも共食いか。そう突っ込んでしまいそうになるのは堪える。

「まあいいや、気前よく食わせてもらえるならマジで遠慮しねえからな。
 おれは一番高い酒だ! それと牛の一番高いところの肉! 火の通り加減はレアね」

 開き直り、先に言った通りに遠慮なしに注文を始める。
 万が一ここで生命を落とすのだとしても、それまでに悔いを残さないくらいに飲み食いしまくってやるつもりであった。

クラウソニア > 『くそっ、なんであんな案山子野郎に』『俺ならもっと楽しませてやるってぇのに』『ばぁか、テメェなんざが相手にされるかよ。相手はあの戦侯姫だぞ』『あぁ、なんだそりゃ』

周囲から漏れ聞こえてくる囁きと、妙な遠慮を見せるもやし男。
クラウソニアと眼前の、冒険者としても大した位階にはいないのだろう男の取り合わせは、彼が面倒な因縁をつける原因ともなるだろうが……くく。
それはそれで"礼"となると言えなくもない。
よりによもって乙女に対する"牝オーク"などという暴言を吐いたのだ。
袋にされてしかるべきだろう。
ちなみに、クラウソニア自体が貧民との付き合いは相応しくないなどと言われる事については全くもって気にしてはいない。
モードレット侯爵家は相手がミレーであろうと奴隷だろうと、武力が全てという野生の如き価値観を根底に持つ家なのだ。
………まぁ、眼前のもやし男に認めるに足る武など感じられないのだけれども。

「ハハ、ああ、気にする事はない。何せこれは先日の"礼"なのだ。これでおま……ンンッ、貴殿の軽い口も少しは慎みという物を知るだろうと考えれば、どうという事もない」

聖女の笑みが全く笑っていない翠瞳で言う。
『これであれこれ喋ったらお前分かっているな……?』と。
これも素直に謝罪と礼の言えぬ乙女心の照れ隠しなのだが、まぁ、あんな事をしでかした相手に素直に礼を言うというのは、聖女だろうと難しいのだと分かっていただきたい。

「フン、分かっていないな。魔物喰いは近年、貴族間でも評価が見直されているのだぞ。一度食ってみれば分かる。あの味わい深さは家畜では到底出せぬとな。……っく、ミノタウロスがあれば、ただの牛などとのはっきりとした違いを分からせてやれたものを……!」

そんな会話を続けるうち、次々運ばれてくる料理皿。
骨付き肉を豪快に炙った物。シチューに入れてほろほろになるまで煮込んだ物。他所の店から取り寄せているのだというソースをふんだんにかけたステーキなどは、この店にそんなクオリティはいらんだろうと思われる高級品である。
料理のみならず酒まで高い物をばんばん頼み、高潔な騎士様とは到底思えぬ飲みっぷりで幾度も彼と杯を重ねる。
その健啖ぶりは聖女とも良家の子女とも思えぬまさに冒険者のそれであり、気付けば二人に向けられていた物珍し気な視線も随分緩んでいた。

ユージン > 「……おかげでしばらく変なのに絡まれそうだな。ちゃんと面倒見てくれるかい、聖騎士どの。
 おれは自慢じゃねえが、とても弱っちいんだ。そりゃあもう、野良犬にだってイジメられるくらいにな」

 周囲から聞こえる、やっかみ半分の囁きにげんなりしたように肩を竦めるがすぐに気を取り直す。
 運ばれてきた瓶入りの高級酒の封を切り、これまたこの店では最上等のグラスになみなみと満たせば一息に呷る。
 強いアルコール度数を帯びる琥珀色の液体が喉を焼いていく感触に唸り、呻き、悶えるように味わった。
 今までの人生の中では数えるくらいにしか飲んだことのない、間違いなく高い酒だ。

「……さて、どうだかな。おれの舌も尻もすごく軽いぜ。生命とおんなじくらいにな。
 確かにコイツはうめえが……ング、これくらいで恩義に思うとか、むぐ……そいつは甘い考えだおかわり」

 喋る合間に運ばれてきた肉を切り分け、咀嚼し、飲み込み、挙げ句おかわりを要求する。
 血の滴るくらいに生々しい、表面だけ焼かれた牛肉。
 滅多に食えぬ御馳走の滋味に舌を打ち、後悔しないよう食えるだけ食っておこうという意地汚さを発揮する。
 向けられる、全く笑っていない剣呑な視線には敢えて気付かないふりをする。
 きっと直視したらメシが食えなくなる。食ったものを胃の中で石のように感じてしまうに違いない。

「いいかい、貴族の道楽ってやつは矢鱈カネがかかるんだよ。
 もっともカネがかかる上にそんなおっかねえもんをわざわざ食うぐらいならおれはフツーの牛で十分御馳走だわ」

 喋りながら食い、食う合間にまた喋り、酒を飲む。
 それ自体はまことマナーが悪いのだが、フォークやナイフを流暢に使いこなす手付きだけは一応の教養を感じさせる。
 続いて運ばれてくる、湯気立つようなシチューの芳醇な香りに興味深げに鼻先をひくりと震わせながら。

「……ふふん。よくよく見ればなかなか見事な喰いっぷりじゃねえか、騎士さまよ。
 ダンジョンの中では悪夢だったが、こうしてサシで普通に食ってるのを見るぶんにはユカイなもんだ」

クラウソニア > この場を切り取って見るのなら、互いの事を然程知りもしない男と二人きり、一つのテーブルについて飲み食いを交わすというある種デートの様な光景である。
その上彼とはまぁ、一応は肌を重ねた関係と言えるだろう。
それどころか、本来ならば恋人にも見せる事など無いだろう排泄姿まで晒し合い、その香りさえ嗅ぎ合った仲―――などと言えばとんでもなく変態的に思えるが、事実、そうした経験を共有した仲なのだ。
異性とまともに手繋ぎした経験―――いや、まあ、それくらいは騎士団の男達としょっちゅうしているが、ともあれ、交際経験などという物は皆無の行き遅れ聖処女にとっては緊張してしかるべき場面である。
にもかかわらず、不思議とこの男に対してはそうした緊張が湧いて来ない。
ヘタをすれば騎士団の同僚以上に気安く杯を重ねていた。

「……………………」

何とも妙な男だと思う。
酒精の影響で熱帯びた頬を片肘付いた手に乗せて、よくよく見れば意外な整いを見せる顔をぼんやり眺める。
するりと相手の懐に潜り込む会話の妙は、剣でも拳でも変わる事のない避け得ぬ攻撃を最小限のダメージで押さえるやり方にも似て機を読んだ物。
薄汚れた身なりはこの場にいる連中の中でも底辺近いと見えるのに、食器の扱いはこの場の誰よりも品よく見える。令嬢教育を適当にほっぽりだしたクラウソニア以上というのがまた腹立たしい。
本当に妙な男だ。

「愉快とはなんだ愉快とは。乙女の食事風景に対する感想ではないぞ、それは。全く仕様のない奴め」

くすくすと忍び笑う表情は、やんちゃな弟を見守る姉の様なそれ。
無精ひげの伸びた成人済の男に向ける物ではなかろうが、これまで彼が見て来たどんな表情よりも自然な物に思えるだろう。
そんな表情が零れたのは無論、理由というのもがあって―――

「―――――ォう…ッぷ」

柔らかく細められていた翠瞳がいきなり大きく広げられ竦めた肩に寄せられた魔乳が異様な動きでどりゅんっと動く。
そのうねりは聖騎士の白喉にまで伝播して、柔らかそうな頬までもを食いしん坊のリスの如く膨らませ慌てた繊手が口元をバッと押さえつけた。
ぷるぷる震える翠の涙目が、塞がれた唇の代わりにもやし男に告げる『た……たしゅけて……』と。

ユージン >  男にとっても、デートなどという色気のある行為とはなかなか縁が遠いものだ。
 かつてはそうでもなかったが、無頼まがいの生き方に堕したとき、一気に遠ざかった気がする。
 今のそれが、そんな情景の再来めいていたなどとは気付く由もない。
 だが、何よりも濃厚な3日の経験を経て近づいた距離というものは確かにあるのかも知れない。
 普段であれば見ることも困難な美酒、美食に囲まれていればそうでなくとも気は緩む。
 それに互いに、親にさえ見せたこともなかろう痴態を見せ合った仲と言えなくもない。
 憎まれ口を叩く男でさえ、向かいに座る女に対しての気安さや親しみは無意識にでも感じていたらしかった。

「……ふん。一応誉めてるんだぜ。美味いものを美味そうに食えるのはそれだけで美徳だ」

 こうして間近でじっくりと見れば、確かに顔立ちは整っている。
 気品さえ感じる佇まい。洗練された戦士としての強さに両立する、芸術品めいた造形美。
 極限状況に追い込まれた密室内での痴態を知らねば、素直に見惚れていただろう。
 ……そして、身に付けた武具から感じる底知れない怖気。
 体得した技と合わされば、大概の相手は一触のもとに斬り捨ててしまう異次元めいた武威を確信する。
 本来、邂逅することさえ奇跡めいた格上の存在に感じてしまう不思議な気安さ。
 気まぐれで拳を振るえば、こちらの頭は一瞬の内に地べたに投げたトマトよりも細かく飛び散ってしまう筈なのに。

「……ん?」

 そこまで考えていた所で、それ以上の思考は中断された。

「お、おい! どうしたッ!」

 不意に眼の前で起こる異変。その身動ぎに、もしや毒でも盛られたか。
 そう考えかけるも、同じ料理を、酒を取り分け飲み食いする自身が無事であるのも妙な話。
 一拍置いてその涙目に、何事があったかをなんとなく悟る。

「あー……。よし、お手洗いまで行こうな。……ゆっくり立て、ちゃんとそば付いててやるから……」

 席を立ち、彼女の後ろからそっとその身体を丁寧に引き起こそうとする。
 もやしめいた印象の男であるが、案外に腕力はあるのかもしれない。無理やりではないが、力強く。
 込み上げる吐き気に苦悶する女の身体を無難に支えながら、彼女が少しでも意地を見せるならば。

「ほら、がんばれ。……大丈夫、急かさないからゆっくり行くぞ」

 その歩みを補佐しながら店の隅にあるトイレルームへと誘導するのだ。