2021/05/07 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にシスター・シェリーさんが現れました。
シスター・シェリー > 「ひゃぁっ!?」

むにゅり、とお尻を掴まれて甲高い声をあげてしまうシスターの女性が一人。
褐色肌の女性は、振り向きざまに肘鉄をしかけて、ぐ、っと堪える。
もはや老人とも呼べるその男性が、悪戯とばかりに手を出すのは常のこと。

「………駄目ですよ?」

瞳に殺気を込めて、できるだけ優しく伝えながらも、そそくさとその場を離れる。
修道院周りであっても、シスターに対する世間の目はあまり良いものではない。

特に、お偉方への供物扱いが噂されるようになってからは露骨なものだ。

「……ちぇ、思いっきり掴みやがって。」

頬を少しだけ赤くしながら、大きな胸を抱きかかえる。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にベルナデッタさんが現れました。
シスター・シェリー > 今日は地域の清掃活動。
人の良いシスターはニコニコと。厳格なシスターは厳かに。
そして彼女はサボりながら、修道院周りを清掃していた。
まあ、そんな彼女は修道院から少し離れたところを担当することが多いのだが。

「………違いますからね?」

いくらだ? なんて下卑た言葉をかけられれば、ひくひくと怒りを我慢しながらほほほ、と笑う。
無理して笑いながらも、首を横に振って清掃に戻る。
バカには付き合ってられないな、なんて言葉は口には出さぬが、男を無視してぷい、と背を向け。

ベルナデッタ > その時、すぱぁん、と、小気味の良い音が辺りに響く。
そちらを見れば、先ほどシェリーの尻を掴んだ老人が腰を抜かしているのと、カソックを着た女性の姿が見えるだろうか。
はたかれたのか、老人は真っ赤になった頬を痛そうにさすっている。

「ダメですよ?彼女達は奉仕活動中なのですから」

その女は穏やかな顔でにこにことそう言うが、振るった手からは彼女が老人に容赦なく暴力を振るったのは容易にわかる。
老人は恐怖に目を見開いて、年寄と思えぬ速さで走り去った。

女はシスター達へと振り向くと、ぱん、と手を叩く。

「さぁ皆さん、神々への奉仕を続けましょう!」

そうして、傍らにあった箒を拾うと、自らも掃除をし始めた。
その途中、シェリーの隣を通ると、にこりと微笑んで彼女に話しかける。

「時にはガツンと怒ることも必要ですよ?」

シスター・シェリー > 「………ヤベーな。」

彼女は単なる箱入りお嬢様であったり、敬虔な世間知らずではない。
むしろ荒事の中に身を置いてきた女である。
殴る瞬間は見えずとも、倒れ方でだいたいの強さは分かるというものだ。

やばい、と言ったのは2つの意味がある。
1つ目は思い切りの良さ。
そしてもう1つは、それをしても咎められない立場の強さ。

「………いえいえ、気の迷いということもありましょう。
 ………こほん。」

相手の言葉に、丁寧な言葉を返して……一つ咳払い。

「困ってたから助かったよ。」

素の声に戻して、肩をすくめた上でウィンク一つ。

ベルナデッタ > 「ふふ、お優しいのですね、シスター。
ですが気の迷いというなら尚更悔い改めさせなくては。そうでしょう?」

穏やかな話し方を崩さずに、女はシェリーの隣で箒を動かしている。
しかし、話している内容からは大分暴力的な匂いがしていた。

「そもそも真っ当な信仰心を持っていれば教会のシスターに手を出したりなどしません。
つまり彼は信仰の敵です。遠慮は必要ないですよ?」

彼女の耳飾りには、教会に身を置く者ならどこかで聞いたことがあるかもしれないある組織を示す紋章が付いていた。
異端審問官。主教の中でもかなり過激な連中。

「おっと、申し遅れました。私はベルナデッタ・マルケッティ。
王都には別の用事で訪れたのですが、ここで奉仕活動を行っていると聞いて手伝いに参りました」

彼女…ベルナデッタは、軽く会釈した。

シスター・シェリー > 「………まだまだそれを正しく実行に移せるほどには。
 未だ道半ばですね。」

耳飾りの紋章を見て、ピクリ、と肩が揺れる。
元犯罪者である彼女からすれば、一番出会いたくない組織だ。
更生………更生したかどうかはともかく、今は犯罪に手を染めるつもりはないが、それでも過激派というやつらは何に口出しをしてくるかわからない。
背筋がちょっとばかり伸びるのを感じる。

「………シスター・シェリー。
 冒険者を兼任で行うように仰せつかっておりますが、シスターとしてはまだ成り立て。
 失礼があったら申し訳ありません。」

会釈には会釈を返す。
何とか育ちの悪さをごまかそうとしながら、は、ははは、と乾いた笑みを漏らす。

ベルナデッタ > 「私も貴女と同じ、まだ迷える子羊です。
私への礼節など気にする必要はありませんよ?」

彼女は穏やかに掃除を続けながら、時折他のシスターに下品な声をかける男の姿があれば、そちらに微笑みかける。
すると何かを感じ取ったのか、男達はすごすごと退散していく。
正面から顔を見なくとも、シェリーにも何か殺気のようなものが感じられるかもしれない。

「……う~ん、もしかしてこの耳飾りを見て気にしていますか?
確かに私は異端審問官ですが…ご安心を。専門は魔族とその崇拝者ですので」

己の耳飾りを触りながら、ベルナデッタは言う。
自分達がどう見られているかの自覚も、彼女にはあるようで。

「シスターが主教に紛れ込んだ魔族信者、もしくは魔族そのものでない限り何もしませんよ」

ベルナデッタはシェリーに微笑みかけた。

シスター・シェリー > 「………ホントー? ホントだな?」

おずおず、という言葉がぴったりなくらいに、少しずつ相手の顔色を見る。野良猫が様子を見るよう。
明らかに紋章を見られていることに気がついていながら、それをあけすけに話す姿に、ほ、っと一息。

「………そういうことはないかな。
 いやまあ、悪いことはしてたけど、いろいろあって足を洗ったからさ。」

微笑みかけられれば、少しばかり安堵した様子を見せて、へへへ、っと笑いかけ。

「シェリーでいいよ。後輩みたいなもんだからさ。
 悪いな、敬語苦手でさ。」

頬をぽりぽりとかきながら、少し気恥ずかしそうにしつつ。
箒をさっさと動かす。明らかに、仕事を怠けていいタイプではない。

「で、……えーっと、ベルナデッタ先輩はこの街にはなんの用で?」

ベルナデッタ > 「素晴らしいではないですか。信仰に目覚め正しい道を進まれたのですね。
ダイラスの聖トマスも元は泥棒であったと言います。また、殉教者聖エルリックも信仰に目覚める前は堕落した生活を送っていました。
過ちを犯さず生きる人などいません。大切なのはそれを自覚した時どうするか、ですよ?」

主教に伝わる聖人の名をいくつか挙げつつ、ベルナデッタはにこにこと笑みを見せて。
彼女の中では、シェリーは立派な人物ということになっていそうだった。
しかし、何故この町に来たのかと聞かれれば、その表情はきょとんとしたものに変わり。

「えーと、異端を撲滅するためです」

何を当たり前のことを聞くのか、といった態度で。

「具体的に言うのなら…あ、今朝も魔族と内通していた貴族の火刑を決定してきました。
明日には執行されるはずですよ」

恐ろしいことをさらりと。

シスター・シェリー > 「………まあ、その、殺されかけたところを助けられたってだけだから、あんまりいい話でもないんだけどな。
 流石にもう戻る気もしねーし、恩もあるし。
 そういうメンツに入るほど真面目でもなんでもねーよ。こっ恥ずかしい。」

頬を赤らめて、視線を反らす。
育ちの悪い小悪党だと自覚しているからこそ、真っ直ぐな目がちょっと眩しい。

「…………あー、まあ、そりゃ、そうだろうな。
 魔族と内通か………。
 いやまあ、私には縁の無い話だから安心だけどさ。」

ははは、と乾いた笑みを浮かべる。
目の前の女性は親しみやすそうで、底が知れない。
敵に回したくないタイプである、とはすぐに理解できた。本能的に逆らえないタイプだ。

ベルナデッタ > 「ふふ、そう自分を卑下せずとも。最終的な評価というものは他人が下すものです。
貴女の行動が模範と見られれば、そのうち称えられることでしょう」

そう言って、異端審問官はシスターをじっ、と見る。
何事かを考えて、何事かをはっ、と思いつく。

「確か…冒険者としても活動していると仰っていましたよね?
その様子だと、掃除よりはそちらの活動のほうが好きなのではありませんか?」

確かめるように、シェリーの顔を見据えながら、ベルナデッタは言う。
箒を手放して、シェリーの両手をさっ、と握る。

「割の良い依頼を色々と紹介できると思うのですが…どうです?
異端審問官代理、つまり私の助手として仕事を受けてみるつもりはありませんか?
勿論無料だったり安かったりはしませんよ。相応のお金は払います」

目をキラキラさせながら、つまりは異端審問庁の為に働いてほしいと、ベルナデッタは言う。

シスター・シェリー > 「ひぇっ!?」

ぎゅ、っと握られれば、びく、っと跳ねて。
赤い首輪のついた顔を赤らめる。

「………いやまあ、そりゃあ頼まれりゃ何だってやってはいるけど。
 ただ、あれだ。腕前は期待しないで欲しいけどな。
 もしもバリバリやれるなら、もっと積極的に出されてるだろうし。」

頬を少しばかり染めたまま、手を握られているので頬をかけずに。

「………まあ、そりゃあ。
 それがためになるもんで、やってほしいって言うなら。
 断る理由もなにもないっていうか。」

きらきらとした瞳で見られると、思わず視線をそらしたくなる。
トンデモナイ依頼がきそうで、頭のどこかで断って距離をおくべきだ、という声も響くが。
何故か逆らえない感覚にとらわれる自分がいることもまた事実。

ベルナデッタ > 「えぇ勿論。まずは簡単な依頼で経験を積んでもらいますよ。
誰とて最初は迷える子羊なのです。まずは経験あるのみです」

にこやかな顔で、そう伝える。
どうも、シェリーの出来る範囲で色々と仕事をくれるようだった。

「貴女がお望みでしたら私が色々と訓練も行いますよ。
シスターは体格が良いですから、鍛えれば優れた諜報員工作員になりそうですね…」

自分の顎に手を当てて、しげしげとシェリーの身体を眺めるベルナデッタ。
その表情は、何かとてもワクワクとしたものだった。

「さぁ、一緒に信仰を守りましょう!
今は苦難の時、やるべきことは沢山あるので飽きさせませんよ!」

ぱん、と手を叩き、満面の笑みで、ベルナデッタはシェリーを見た。

シスター・シェリー > 「………お、御手柔らかに頼むよ。
 私はすっかり最近は掃除だとかに寄ってるんだ。」

この前も薬の売人を追っ払った時に殴られちまって。と、情けなさそうな顔で頬をかいた。

「………諜報員とかは、その。
 駄目かもしんねーぞ。
 前回、それで失敗して、その。」

人扱いされない過去を思い出して、ははは、と遠い目をする。
犯され殴られ、死ぬと思ったところを救われたのは思い出したくはない。
つーても、今更それがトラウマで何かができない、とは言うつもりはないが。


「………わかったよ、わかった。
 先輩の言うとおりにするよ。 ……頼むよ、先輩。
 私はまだ新人みたいなもんだからさ。」

満面の笑みには敵わない。 ははは……と笑いながらも、頭を下げる。

ベルナデッタ > 「なるほどなるほど…ならばまずは殴られたら即座に相手の首を刎ねる練習からですね。
…………ふふ、冗談ですよ♪」

いたずら気に異端審問官は笑うが、彼女が触ってきたり声をかけてきたりする男達に何をしたのかを考えればまるで冗談に聞こえないかもしれない。
多分、今ではなくともいつかは教えられるだろうか。

「では、早速シスター・シェリーに依頼する仕事を考えてきます。
今日明日で頼むわけではないのでゆっくりと準備して貰って構いませんよ。
あ、箒、お返ししますね!」

手にしていた箒をシェリーに渡し、ベルナデッタはその場を離れていく。

「それではまた会いましょうね。
お掃除、頑張ってください」

異端審問官はぺこりと一礼すると、シスターのもとを後にした。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からベルナデッタさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からシスター・シェリーさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 商店街」にリスさんが現れました。
リス > わいわいがやがやと、人々が行きかう夕暮れではなく、今現時点では夜といって良い時間帯、こんなにも賑わうのは酒場だから。
 少女が今いる場所は商店街と言っても酒屋や酒場などが集中している、所謂飲み屋街と言った場所。
 様々な男女、冒険者や、仕事終わりの職人、兵士や家族連れが一日の疲れを癒すために酒場によって、酒を飲む。
 そんな場所である。

 この辺りの酒場にも、酒を卸していたりもするし、店主たちとの付き合いもある、余り気負うことなく来ることの出来る場所。
 そんな場所に立って、少女は少し複雑な表情を見せる。
 大したことの無い理由ではあるが、さてどうしたものかと考えながら、人込みの中を進むのだ。
 色々な店と付き合いがあり、店主たちとも仲が良い、だからこそ、何処に入ろうか悩む。
 酒の味などに関しては、卸している銘柄を思い出せば、後は違いとしてはカクテルぐらいか。
 料理の腕を考えて入るべきか、沢山買ってくれているから入るべきか。
 気にしないのが一番なのだけれども、矢張り、此処で、トゥルネソル商会の店長という肩書が付いて回るのだ。
 くぅ、とお腹が鳴るのでご飯は食べたい。
 どうしようかしら、と酒場を覗いたり、歩いたり、うろうろきょろきょろ。

リス > 「うーん……」

 どの店も大層に賑わっていて、楽しそうな声が聞こえる、おいしそうな匂いが周囲にまき散らされているようでもあって、食欲がそそられてしまう。
 くうう、とお腹が自己主張激しく鳴ってくる。早く食事を頂戴と言わんばかり。
 それは判るのだけれども、さて、何処に入るべきか、という悩みが強く持ち上げてくる。
 商人というのは義理人情の生き物でもあるし、地域との交流も大事だと思う。
 だから、何処の店にはいれば良いのか、なんて思ってしまう。

「うーん、こういう時、誰かいればなぁ。」

 美味しい店を知っている人が居るなら、その案内に沿うとかそう言うことも出来ようモノだけども。
 知り合いとか居ないかしら、平民地区なら知り合いが一人や二人や三人四人いそうなものだけども。
 いないのである、残念ながら視界に知り合いらしき存在は見つからない。

 お洒落な看板の酒場。
 武骨な看板の酒場。
 冒険者の酒場。

 いろいろあって、どれもこれもおいしそうな匂いが強く匂う。
 これは、という何かが欲しいもので、少女は看板をみたり、店内をひょい、ひょい、と眺めてみたり。

リス > そんな折に、少女の懐で懐中時計がブルりと震える。
 最近になって必要を感じて作ったものであり、時計を開いて中を見れば、あ、と小さくつぶやいた。

「そっか、そんな時間、なのね。」

 最近は、一番下の娘がコクマー・ラジエル学園に所属している。
 それは、もう一人の母であり、其処の関係者であるミリーディアの計らいで、勉強を其処で学んでいるのだった。
 ただ、まだまだ幼い少女で、この間は一人でいるところ友人に連れられて帰って来たのを思い出す。
 そこから迎えをすることにしていて、そろそろ、その時間になるのだ。

「仕方がないわね、うん、仕方がない。」

 お腹がすいている、というのは有るが、其れならば、娘と一緒に帰って食事もあるだろう。
 学校でも食事は出るらしいので、食事をとって居れば、その時はその時考えれば良いか、と気楽に。
 軽く指を慣らしてしまえば、馬車が運ばれてきて。
 少女は其れに乗って、コクマーラジエル学院のある場所へ。
 平民地区と富裕地区の境目と言うので、何気なくトゥルネソル商会と近い場所にある。
 そして、今現在いる所からも、馬車で行けば五分ほどで突くような直ぐ近くの場所だ。
 なので、少女は娘を迎えるために、馬車を走らせる。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 商店街」にプリシアさんが現れました。
プリシア > 王立コクマー・ラジエル学院。
色々と学びたいとの御願いで通わせて貰える様に為った場所だ。
家が近い事もあって都合が良いとの理由も勿論在るが。
其れでも、時間に依っては小さな子供が一人で行き交うには何か在るかもしれない。
つい先日も学院で知り合ったお姉さんに送って貰ったばかり。
そうした事が在って、時間が取れる時は母親が迎えに来てくれる事に為っていた。

今日は、そんなお迎えが来る日で。
学院でも食事は出るのだが、迎えに来る時間は丁度食事の時間。
出来れば一緒に食事をしたいな、何てささやかな期待を抱いてか、食事はとっていない。
学院の入り口で、大人しく待っていた。

ストラップの付いた鞄を背負い、キョロキョロと周囲を見渡す姿は、周りにどんな風に見えているだろうか。
小さな角は髪の中に隠れて見えないし、小さな翼も鞄に隠れて見えない。
パッと見は、まさかドラゴン娘なんて思わないだろう。

リス > コクマー・ラジエル学院トゥルネソルでも、例えば、竜胆やリス、ラファルにシロナクロナと、在学出来そうな娘は居ないわけではない。
 ここに入らない理由として―――第一に、人竜であり、人間ではないと言うのがある。
 こういう学び舎では、種族の違いというのは風当たりが強いのではないか、と思うのだ、特に一般的ではない異種族であればなおさら。
 なので、今までは遠慮をしていたと言うのがある、家族的に。
 ただ、末娘のプリシアに関しては、別の理由があり、入る事になった、其れに関しては、良いとは思うが。
 いじめられないと良いなという不安がある。学校を知らないので、特にそれが強くて。

 急ぎ、馬車を走らせていれば、学校の門の近くへと、徐々に速度を落としていけば、学園の門の所に、彼女はいた。
 一人で待っている姿、黒髪の彼女は、後ろから見れば東方の人間のようにも見えるが、顔立ちは、此方。
 空色と、蒼の瞳を受け継いだお人形さんみたいな美しさを持つ娘の前に、馬車は静かに止まる。

「お待たせ、プリシア。」

 扉を開けて、出てくるのは、娘とは姉妹といって良いだろう年齢の少女。
 ただ、ちゃんと母として、コクマーラジエル学園の入学の書類には記載されているし、実際に教員に挨拶も行っている。
 数時間ぶりに見る娘の顔に、表情を綻ばせ乍ら。
 母親は、そっと彼女に手を差し出した。

「学校では、どんな事を今日は学んだのかしら?
 ご飯は食べてる?お腹すいてない?」

 娘の様子を確認するように服を、背中を、チェック。
 未だ小さな髪の毛、そのうち、ベレー帽などの、大きめの帽子を買っておかないとだめね、と。呟いて。

プリシア > 深い理由は敢えて伏せておくも、竜で在り乍も学院に入る事を認められている。
片方の親の心配を余所に、もう片方の親は不安を微塵も感じさせていなかったのだが。
其処は御互いの性格も在るだろうし、何か其れなりの考えが在ったのかもしれない。
尤も、先日の出来事を考えれば其れなりには大丈夫だとは思われるかもしれないか。

待っていた入り口の前に、見覚えの在る馬車が停まる。
其の扉が開けば、矢張り見覚えの在る顔。
自然と表情が和らぐのが、出て来た相手には解る事だろう。

「おかーさんっ」

声を掛け乍、差し伸べる彼女の手をキュッと掴み。
其の侭、抱っこを強請る様に空いた手を伸ばす。
仕事中とか忙しそうな時には遠慮をするけれど。
今は迎えに来ているだけだからと、遠慮無しに甘えるのだ。

「あのねあのね、今日もね、えっとね、いっぱいお勉強したの。
字を書いたり、ご本を読んだり、いっぱい。
ご飯は、食べてないよ?お腹は、ちょっとだけ、すいてるけど」

見た目とは違い、今学んでいるのはそう難しくはない読み書き。
産まれてそう経ってはいないのだから、当然とも云えるものだろうが。
矢張り周囲から見れば遅れた子、みたいに思われている事は在るだろう。

食事の事は、其の理由迄はちゃんと説明出来ないものの、素直に答える。
色々とチェックをするのに目を通せば、機嫌良さそうに小さな翼と尻尾が揺れているのが見えるだろう。

リス > 入学できるのであれば、学ぶことが出来るのであれば、少女にとって、否やはない。
 実際の話、トゥルネソルにも、学ぶための場所はある、奴隷たちに教育を施すための私塾のような場所ではあるが、トゥルネソルの奴隷は、皆読み書きに礼儀作法などが出来る程度には教育している。
 しかし、王立学園のようなしっかりとしたものではないので、リスは、もう片親が此処に入れると言う事に関して。
 いじめとかの心配だけはしていたが、問題ないと諭されて、決意し、今に至る。

 自分の心配は、杞憂だったという事が証明をされている。
 娘は楽しく勉強をしているようで、そして、先日は友人も連れて来ていた。
 仲良く食事をして、彼女は帰っていったが、今日はいないらしい。

「もう、プリシアったら、甘えん坊なんだから。」

 自分を見るなり駆けよってくる幼女、おいで、と腕を伸ばして小さな手のひらが自分の手を掴んで。
 もう片方の腕が伸びて、甘えてくる娘を抱き上げる。
 未だ、幼女の娘は軽くて、ひょい、とリスでも持ち上げることが出来るので、確りと抱きあげて。
 彼女の頬に歩頬ずりをして、ちゅ、と優しくフレンチキッス。

「お勉強、楽しかった?
 ご飯は食べてないの、じゃあ、一緒に食べようか
 お母さんも、未だ、食べてないのよ。」

 トゥルネソルの娘の言動に関しては、母親は何も言わない。
 知恵が遅れて居るわけではないのだ、基本的にトゥルネソルの娘は知識などは精神年齢に依存する。
 彼女の姉たちだって、外見は違うが、年齢は最長で2歳。
 娘が知恵遅れという訳ではなくて、肉体の年齢に精神が引っ張られていると認識している。

「うーん、そのうち、これも考えないと、ね。」

 尻尾と翼。
 母親と同じく、竜のそれを持つ姿に、母は目を細める。
 リスの妹の様に、人竜であることを隠さないのも手段だが、日常生活を考えるなら隔した方が良い。
 それを決めるのは娘でも、それが出来るように、選択できるようには、しておきたいな、と。

「プリシアは、お外で食べるのと、お家で食べるの、どっちがいい?」

 せっかくだ、娘の好みも知りたいし、と、抱いて歩きながら、リスは笑いかける。

プリシア > 実の処を云えば、其の片親も最初はトゥルネソルに任せ様としていた。
だが、外の世界に興味を向けている彼女には学院の方が向いているだろうとの判断をしたのだ。
何を学ぶかに関しては、完全に彼女任せでは在るのだが。

「だってね、おかーさんと一緒なの、嬉しいから。
だからね、ぎゅーってしていたいの」

家で忙しそうにしている母の姿を何度も見て。
幼いながらにも、そんな時は甘える事を控えた方が良いと学んだから。
だから、忙しくない時間は其の分たっぷりと甘えるのだ。
抱き上げられれば自分からもギュッと抱き付いて。
頬にキスを受ければ、擽ったそうに小さく首を竦める。

「うんっ、お勉強、楽しかったの。
いっぱいね、プリシア、覚えたんだよ?

それじゃあね、おかーさんもご飯一緒なの」

母に甘える姉の姿を見た事もないし。
姉に甘える母の妹の姿も見た事がない。
其の年齢の低さは母以外をまだ見た事がない影響も在るかもしれないだろう。
勿論、其れは母への甘え方も含めてだ。
だから、本当の幼子の様な甘え方を見せる。

食事をとってない母の言葉に、ニコニコ笑顔の侭でそう伝えるのだ。
そうしていれば求められる選択肢。
コクンと首を傾げ乍少しだけ考えるも。

「そのね、プリシアね、お外で食べたいの。
おかーさん、お外で良い?」

そんな風に、伺う様に見上げ乍聞いてみる。
家で無く外にした理由は簡単だ。
家だと家の者の誰かに食事を作らせる事になるから。
そう云った処は、変に気を回してしまう様だ。

リス > 学びやだから、この、コクマー・ラジエルに入学するに当たり、カリキュラムに関しては一任してしまう。
 そういう物は、教えることのプロがやるべきだ、と考えたからだ。

「もう、プリシアったら。よし、よし。」

 彼女は、生まれてまだ間もない赤ん坊と同じぐらいしか生きていない、こういう事もまた、彼女の性格形成に必要なのだ。
 長女の様に淫蕩ではなく。次女の様に、活発でもなく、三女の様に、引っ込み思案ではない。
 彼女は、トゥルネソルの一族にしては、とても素直で可愛らしい。
 だから、その可愛らしさを無くさない様に、普通の子供として育てていきたい、母親としての願い。
 ぎゅ、と痛みを覚えない程度に抱き締めて、もう一度、彼女の頭をなでて見せる。

「今回は、特に、何を覚えて来たの?

 ええ、ええ。一緒に食べましょうね。
 何か食べたいものがある?お肉?お魚?お野菜?」

 一緒に食事を食べる、それはリスとしても嬉しく想い、しかし、彼女の好みも知りたい。
 色々なものを食べさせるのは、経験の一環だけども、その中での好悪は知りたいと思って居た。
 娘の色々なことが知りたい、娘と一緒に生きて居たいから。

「ふふふ、ええ、いいわ?
 では、何を食べましょうか、食べたいものがあるなら、連れて行くわ。」

 そう言いながら、少女は、娘を馬車へと案内する。
 本当を言えば、一緒に歩いて帰りたい所だけれども。
 残念ながら、未だ、母親には娘を守り切る実力がない。
 だから、馬車で安全に移動することにする。
 護衛の人とかを連れてくればよかったわ、とそんな、溜息。

プリシア > 言葉通りにギュッと母親に確りと抱き付いて。
頭を撫でられれば嬉しそうに、気持ち良さそうに、撫でられるのだった。
撫でられる事が好きなのもあるし、相手が母親で在る事もあるのか。
スリスリと頬擦りを。

「あのね、今日はね、いっぱい字を覚えたの。
ちゃんとね、読む事も出来るんだよ?
後でね、おかーさんに見せてあげるの。

えっとね、えっとね、何が良いかな…
朝はお魚だったから、お肉とか、お野菜が良いの。
後はね、そのね…甘くて美味しいのが食べたい、かな?」

馬車へと抱き上げられた侭案内され乍答えてはいるも。
自分から考えて答える事に為ると、其の答えが先ずは如何しても周りを考えたものが出てしまうらしい。
だけど、今の相手が母親だからこそか。
最後にポロッと思っていた事を云ってしまうのだ。

リス > 「ふふ、プリシアったら。嬉しいわ。」

 甘えてくれる、多分世間的に、一般的な家族、のような形なのだろう。
 四女で初めてこんな風な、甘えたりする関係が出来て、母親としては嬉しく思う。
 正直、皆育ち過ぎで、娘というよりも妹という感じが強かったりするので。

「うん、うん。じゃあ、後で、ちゃんと聞かせてね?
 プリシアの成長、沢山知りたいから。

 それなら……豪華に、お肉も、お野菜も。甘い物も、食べちゃおうか。
 ……甘い物は、お姉ちゃんたちには、内緒、ね?」

 本当にいい子だ、こんなに幼いのに、周囲の空気を読んだりしてくれているのが判る。
 優しい娘、優しすぎる、ドラゴンではなくて天使か。
 そんな娘の零れる本心。
 母親も、相当の甘味好きなのは知っているがその辺もしっかり備わっている。

 御者に、とある一軒の食事処に連れて行くように指示をしよう。
 直ぐにその場所にたどり着くだろう。
 お肉も、野菜もおいしくて、更にデザートの美味しいお店。

 馬車は、のんびりと進んでいく。

プリシア > 「おかーさん、嬉しい?嬉しいの?
それじゃね、それじゃね、もっとぎゅーってするの」

母の言葉にフニャリと表情を更に緩ませて。
頬擦りを続け乍、其の温もりをもっと味わおうとする様に身を擦り付けるのだった。
其の姿だけを見れば年齢相応の姿と見えるだろうか。

「うん、わかったの、おかーさん。

ほんと?ほんと?おかーさんっ。
え、えっと、えっと、おねーちゃんには、内緒…甘い物、内緒…」

其の言葉には確りと頷いて答えるも。
内緒にする話が挙がれば、其れにも頷くものの。
ちゃんと其れを覚えておこうとする様に呟くのだ。
果たして本当に秘密に出来るか如何か。
そんな事を考えさせられる姿かもしれない。

そんな遣り取りをしている間に。
母の指示で、馬車は其の場所へと向かうだろう。
其の間ずっと、母の温もりと抱擁を堪能するのであった。

リス > 「それは嬉しいわ?だって、プリシアがお勉強を楽しんでくれているのだもの。
 お勉強が嫌で悲しいってならないのは、嬉しい事だもの。
 いっぱい、経験をしてね。

 ぎゅーっとするのも、うれしいわ、ぎゅーっ。」

 娘が力いっぱい抱き着いてくれるので、母親も娘が痛みを覚えない程度にはしっかりと抱きしめて、頬を擦り付ける。
 小さな体は、だからこそか、少し体温が高くて気持ちいいし、良い匂いがする。
 娘の体温を感じ、母親の体温を優しく分け与えて、幸せな時間を堪能するのである。

 そんな風に、娘が頑張って秘密を認識している所、少女たちを乗せた馬車は移動をしていて、目的地に着く。
 そこは、お洒落な看板のあるお店で、女性の客を目的とした場所。
 食事もさほど多くはないし、お肉もお魚も、野菜も使っている料理が多く。
 何よりも、甘い物がたくさんあるお店だった。
 娘の手を引いて、店の中に入り、テーブルに腰を掛ける。

「さあ、プリシア、好きなのを、頼んでね?」

 メニューを差し出すのは、先程読めるようになった、というから。
 ちゃんと横から見て、読めないなら、読んであげる積りでもある。